説明

α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物および成形体

【課題】耐衝撃性に優れたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を提供する。
【解決手段】α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなり、金属イオン濃度が0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲にある重合体けん化物(B)と、を含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体は、一般に「COC」(Cyclo Olefin Copolymer)とも呼ばれ、光学特性(透明性など)や耐熱性に優れることから、主に、光学メモリディスク、光学ファイバー、光学レンズ、表示装置(液晶表示装置等)等における光学部材の用途に用いられている。
【0003】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体やその製造方法については、これまでに種々の検討がなされてきた。
例えば、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体を含む光学フィルムの機械強度や耐熱性を向上させるために、該光学フィルムに、オレフィンの二元又は三元共重合体を特定量含有させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、高屈折率・低アッベ数を有するα−オレフィン・環状オレフィン共重合体及びその製造方法や、該共重合体を含む光学部品についての検討がなされている(例えば、特許文献2参照)。
また、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体の製造方法に関し、特定の重合触媒を用い、高い重合活性で環状オレフィンを効率よく取り込む製造方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、環状オレフィンを溶液重合法等により開環メタセシス重合させるにあたり、反応原液を不活性ガス雰囲気下に調製する方法も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−233533号公報
【特許文献2】特開2010−241932号公報
【特許文献3】特許4472409号公報
【特許文献4】国際公開第01/032739号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、(例えば、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体を新たな用途に用いる場合に、)α−オレフィン・環状オレフィン共重合体やその成形体の耐衝撃性を向上させることが求められることがある。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、耐衝撃性に優れたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物及びその成形体を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなり、金属イオン濃度が0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲にある重合体けん化物(B)と、を含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
【0007】
<2> 前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が99質量%〜51質量%であり、前記重合体けん化物(B)の含有量が1質量%〜49質量%である<1>に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記重合体けん化物(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
<3> 更に、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方を含む<1>又は<2>に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<4> 前記けん化がアルカリけん化であり、前記金属イオン濃度がアルカリ金属イオン濃度である<1>〜<3>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<5> 前記けん化がカリウムけん化であり、前記金属イオン濃度がカリウムイオン濃度である<1>〜<4>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
【0008】
<6> 前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が98質量%〜70質量%であり、前記重合体けん化物(B)の含有量が2質量%〜30質量%である<1>〜<5>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記重合体けん化物(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【0009】
<7> 前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体がエチレン・アクリル酸エステル共重合体である<1>〜<6>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<8> 前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有率が、5質量%〜50質量%の範囲にある<1>〜<7>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<9> 前記重合体けん化物(B)の金属イオン濃度が1モル/kg〜3モル/kgの範囲である<1>〜<8>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<10> 前記重合体けん化物(B)のけん化度が10%〜90%の範囲である<1>〜<9>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<11> 前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)が、エチレン・環状オレフィン共重合体である<1>〜<10>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物である。
<12> <1>〜<11>のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いてなる成形体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐衝撃性に優れたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物及びその成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物≫
本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなり、金属イオン濃度が0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲にある重合体けん化物(B)と、を含む。
本発明において、数値範囲における「〜」は、「〜」の前後の数値を含むことを意味し、例えば、0.1モル/kg〜5.8モル/kgは金属イオン濃度が「0.1モル/kg以上5.8モル/kg以下」であることを示す。
以下、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を「A成分」とも称する。また、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなり、金属イオン濃度が0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲にある重合体けん化物(B)を、単に「重合体けん化物(B)」または「B成分」とも称する。
【0012】
<α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)>
本発明の組成物は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を少なくとも1種含む。
本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)としては、一般に「COC」(Cyclo Olefin Copolymer)とも呼ばれる公知のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体を特に制限なく用いることができる。公知のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体としては、例えば、特許第4472409号公報、特開2010−241932号公報、特開2008−233533号公報、国際公開第01/032739号パンフレットに記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体を用いることができる。
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の製造方法についても公知の製造方法を用いることができ、例えば、上述の公報に記載の製造方法を用いることができる。
【0013】
中でも、本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)としては、下記一般式(I)で表される構造単位と下記一般式(II)で表される構造単位とを含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体が好ましい。
以下、下記一般式(I)表される構造単位と下記一般式(II)で表される構造単位とを含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体を、「特定環状オレフィン共重合体」ともいう。
【0014】
【化1】

【0015】
一般式(I)で表される構造単位は、環状オレフィンに由来する構造単位である。
一般式(I)中、Rは、置換基Qを有していてもよい炭素数1〜20の2価の炭化水素基を表し、Rは、炭素数2〜10の4価の炭化水素基を表す。ここで、該2価の炭化水素基及び該4価の炭化水素基は、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)によって置換されていてもよい。
一般式(I)では、少なくともRが環状構造を有するか、又は、R及びRによって環状構造が形成されている。
一般式(I)中、Qは、COOR(Rは水素原子又は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表す。Qが複数ある場合はそれぞれが同一でも異なってもよい。)で表される基を表す。
一般式(I)中、nは、0〜20の整数を表す。
【0016】
【化2】

【0017】
一般式(II)で表される構造単位は、α−オレフィンに由来する構造単位である。
一般式(II)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。
【0018】
前記特定環状オレフィン共重合体中における一般式(I)で表される構造単位の含有量(モル%)は、一般式(I)で表される構造単位の含有量と一般式(II)で表される構造単位の含有量との合計を100モル%としたとき、5モル%以上100モル%未満が好ましい。更に、前記一般式(I)で表される構造単位の含有量(モル%)は、5モル%以上85モル%以下がより好ましく、5モル%以上50モル%以下が更に好ましく、10モル%以上40モル%以下が特に好ましい。
【0019】
前記一般式(I)中、Rは、少なくとも1つの環構造を有することが好ましい。
前記一般式(I)中、Rは、水素原子又はメチル基が好ましい。
前記一般式(I)中、nは、0であることが好ましい。
【0020】
一般式(II)中、Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが更に好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましく、水素原子であることが最も好ましい。
が水素原子である場合の特定環状オレフィン共重合体は、エチレン・環状オレフィン共重合体である。
【0021】
前記一般式(I)で表される構造単位は、下記一般式(Ia)で表される構造単位、下記一般式(Ib)で表される構造単位、又は下記一般式(Ic)で表される構造単位であることが好ましい。
前記一般式(I)で表される構造単位としては、下記一般式(Ia)で表される構造単位であることが特に好ましい。
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
前記一般式(Ia)、前記一般式(Ib)、及び前記一般式(Ic)において、Rは、一般式(I)におけるRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記一般式(Ia)において、R11、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。
前記一般式(Ib)において、R21、R22、R23、R24、R25、及びR26は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。
前記一般式(Ic)において、R31、R32、R33、及びR34は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。
【0026】
また、前記一般式(I)、前記一般式(Ia)、前記一般式(Ib)、及び前記一般式(Ic)において、Rは、下記一般式(r1)で表される基であることが特に好ましい。
【0027】
【化6】

【0028】
前記一般式(r1)において、pは、0〜2の整数である。
該pは、1であることが特に好ましい。
前記一般式(r1)において、R41、R42、R43、R44、R45、R46、R47、及びR48は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基(好ましくは炭素数1〜6の1価の炭化水素基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)を表す。R45及びR46の少なくとも一方、並びに、R47及びR48の少なくとも一方が炭化水素基であるときは、炭化水素基であるR45及びR46のいずれか一方と炭化水素基であるR47及びR48のいずれか一方とが互いに結合し、環を形成していてもよい。また、R41、R42、R43、及びR44が複数存在する場合には、複数のR41、R42、R43、及びR44は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0029】
以下、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)における環状オレフィンに由来する構造単位(例えば一般式(I)で表される構造単位)を形成するための、環状オレフィン(モノマー)の具体例を示す。但し、本発明は以下の具体例に限定されることはない。
【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)において、共重合の形態には特に限定はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等、公知の共重合の形態が挙げられる。中でも、重合のし易さや工業的な入手のし易さの観点等からは、ランダム共重合体が好ましい。
【0034】
また、前記特定環状オレフィン共重合体の中でも特に好ましい形態は、前記一般式(Ia)で表される構造単位と前記一般式(II)で表される構造単位とを含み、該一般式(Ia)におけるRが前記一般式(r1)で表される基であり、前記Rが水素原子である形態である。
かかる形態の中でも、エチレンに由来する構造単位とテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンに由来する構造単位とを含む共重合体である形態が最も好ましい。
【0035】
特定環状オレフィン共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記一般式(I)で表される構造単位及び前記一般式(II)で表される構造単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。
但し、耐衝撃性の観点からは、その他の構造単位の含有量は、一般式(I)で表される構造単位の含有量と一般式(II)で表される構造単位の含有量との合計を100モル%としたとき、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましく、1モル%以下であることが更に好ましく、0モル%であること(即ち、特定環状オレフィン共重合体がその他の構造単位を含まないこと)が最も好ましい。
【0036】
本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)のメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう)(260℃、荷重2160g)には特に限定はないが、0.01〜150g/10分であることが好ましく、0.1〜100g/10分であることがより好ましく、0.5〜70g/10分であることが特に好ましい。
MFRが0.01g/10分以上であると成形性がより向上し、MFRが150g/10分以下であると、靭性などの機械物性がより向上する。
【0037】
本発明においてメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210−1999に準拠して測定されたメルトフローレート(MFR)を指す。
【0038】
また、本発明におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)のガラス転移温度(T)には特に限定はないが、60〜200℃の範囲であることが好ましく、100〜200℃の範囲であることがより好ましい。
ガラス転移温度が60℃以上であれば、耐熱性がより向上する。また、ガラス転移温度200℃以下であれば成形性がより向上する。
【0039】
上記のようなα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)は、例えば日本ゼオン株式会社より商品名「ZEONEX」或いは商品名「ZEONOR」、JSR株式会社より商品名「ARTON」、ポリプラスチックス株式会社またはTopas Advanced Polymers GmbHより商品名「TOPAS」、三井化学株式会社より商品名「APEL」として、工業的に入手可能である。
【0040】
また、本発明の組成物中におけるα−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)(A成分)の含有量(A成分の含有量とB成分の含有量との合計を100質量%としたときのA成分の含有量。以下同じ。)は、A成分の改質という観点では、A成分が主成分であることが好ましく、原理的には100質量%未満、50質量%以上が好ましいが、実用的には99質量%〜51質量%であることがより好ましい。
前記A成分の含有量が99質量%以下であると、耐衝撃性がより向上する。
前記A成分の含有量が51質量%以上であると、A成分(α−オレフィン・環状オレフィン共重合体)の性能(例えば、耐熱性等)がより効果的に維持される。
前記A成分の含有量は、98質量%〜70質量%が更に好ましく、98質量%〜80質量%が更に好ましく、98質量%〜90質量%が特に好ましい。
【0041】
<重合体けん化物(B)>
本発明の組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなり、金属イオン濃度が0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲にある重合体けん化物(B)を少なくとも1種含む。
前記重合体けん化物(B)は、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)との相溶性(混和性)に優れている。このため、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を含む組成物又は成形体に、前記重合体けん化物(B)を含有させることにより、前記組成物又は成形体の耐衝撃性を顕著に向上させることができる。また、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)を含む組成物又は成形体に、前記重合体けん化物(B)を含有させることにより、前記組成物又は成形体の帯電防止性も向上させることができる。
【0042】
前記重合体けん化物(B)に類似する物質として、エチレン・不飽和カルボン酸のアイオノマーがある。かかるアイオノマーは、ベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸を金属イオンで中和してなるものである。
前記アイオノマーと前記重合体けん化物(B)の違いは以下の点である。
即ち、前記アイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を中和してなるものであるため、その構造中にカルボキシル基を有している。
これに対し前記重合体けん化物(B)は、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなるものであるため、その構造中にカルボキシル基を有しない。
本発明の組成物において、重合体けん化物(B)を前記アイオノマーに置き換えた場合には、耐衝撃性向上の効果は得られず、寧ろ、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体を単独で用いた場合と比較して耐衝撃性が低下する。この理由は、前記アイオノマーは重合体けん化物(B)と比較して、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体との相溶性(混和性)が悪いためと考えられる。
【0043】
前記重合体けん化物(B)中における金属イオン濃度は、0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲である。
前記金属イオン濃度が0.1モル/kg以上であると、組成物又は該組成物の成形体の耐衝撃性が向上する。
また、前記金属イオン濃度が5.8モル/kg以下であると、溶融粘度が高くなりすぎることがなく、成形性、加工性が良好である。前記金属イオン濃度は、より好ましくは1モル/kg〜3モル/kgの範囲である。
【0044】
重合体けん化物(B)の素材樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体としては、エチレンと、不飽和カルボン酸のアルキルエステル(例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、エタクリル酸アルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル、無水マレイン酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル及び無水イタコン酸アルキルエステル)と、からなる共重合体を例示することができる。
【0045】
アルキルエステルのアルキル部位としては、炭素数1〜12のものを挙げることができ、より具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、セカンダリーブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基を例示することができる。
本発明では、不飽和カルボン酸エステルとして、特にアクリル酸又はメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ノルマルブチルエステル、イソブチルエステルが好ましい。
本発明において、特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体であり、更に好ましくはエチレン・アクリル酸エステル共重合体であり、とりわけ、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ノルマルブチル共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸ノルマルブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸イソブチル共重合体が好ましい。
【0046】
前記けん化前のエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有率は、5質量%〜50質量%が好ましく、20質量%〜35質量%がより好ましい。即ち、不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有率がこの範囲にあると、耐衝撃性、帯電防止性、柔軟性、他樹脂との混和性のバランスに優れる。
また、前記けん化前のエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の190℃、2160g加重荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、1g/10分〜1300g/10分の範囲にあることが好ましい。
また、前記けん化前のエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は2種以上を混合しても用いてもよい。
【0047】
なお、本発明では、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体を構成する不飽和カルボン酸エステル共重合体が、アクリル酸メチルである場合における「不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有率」を、『MA含量』とも称する。
また、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体を構成する不飽和カルボン酸エステル共重合体が、アクリル酸エチルである場合における「不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有率」を、『EA含量』とも称する。
【0048】
このようなエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体は、例えばそれ自体公知の高圧ラジカル共重合により製造される。
【0049】
本発明では、前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化する。
けん化に用いる金属イオン種としては、アルカリ金属や、多価金属(アルカリ土類金属を含む)が挙げられる。
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)が挙げられる。
多価金属(アルカリ土類金属を含む)としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、チタン(Ti)等を例示することができる。
けん化に用いる金属イオン種としてアルカリ金属(長周期型周期表で水素を除く1族、すなわちリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)、特に原子半径の大きなカリウム、ルビジウム、セシウムを用いた場合には、耐衝撃性に加え、帯電防止性をも顕著に向上させることができる。
【0050】
重合体けん化物(B)は、成形性、加工性の面から230℃、10kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01g/10分〜100g/10分、特に0.1g/10分〜50g/10分のものが好適である。
【0051】
本発明においては、重合体けん化物(B)のうち、けん化されるべきエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体中の全不飽和カルボン酸エステル基単位のモル量に対し、けん化後、カルボン酸塩として存在する金属イオン量のモル量の割合が0.1〜0.9の範囲にあるもの、即ち、けん化度が10%〜90%の範囲にあるものが好ましい。これにより、耐衝撃性、及び、A成分との混和性がより向上する。
前記けん化度は、好ましくは20%〜80%、更に好ましくは30%〜70%である。
【0052】
因みに、本発明において、重合体けん化物(B)を構成する共重合体中のエステル成分は、けん化反応により、部分的に金属塩成分に変化する。このため、重合体けん化物(B)は、エチレン単位、不飽和カルボン酸エステル単位、及び不飽和カルボン酸金属塩単位を含有する共重合体となり、遊離のカルボキシル基単位は含有しない。
【0053】
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化は、苛性アルカリ等によりそれ自体公知の方法で行えばよい。
例えば、アルカリけん化(例えば原料が工業的規模で安定して入手でき、前述のように帯電防止性の改善にも顕著な効果を示すカリウムけん化)の方法は、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体と所定量の苛性アルカリ(例えば水酸化カリウム)とを押出機、ニーダー、バンバリーミキサ等の混練装置中で、例えば100℃〜250℃の温度下で溶融混合するか、あるいはエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体を上記混練装置で溶融均質化し、その後、所定量の苛性アルカリ(例えば水酸化カリウム)を加えることにより、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のエステル部分と苛性アルカリ(例えば水酸化カリウム)を反応させてけん化物とする方法を例示することができる。
【0054】
また、本発明の組成物中における重合体けん化物(B)(B成分)の含有量(A成分の含有量とB成分の含有量との合計を100質量%としたときのB成分の含有量。以下同じ)は、(A)成分の改質目的から原理的には0質量%超、50質量%以下が好ましいが、実用性の観点からは1質量%〜49質量%であることがより好ましい。
ここで、前記B成分の含有量が1質量%以上であることは、組成物がB成分を積極的に含むことを示しており、これにより、組成物又は成形体の耐衝撃性がより向上する。
前記B成分の含有量が49質量%以下であると、A成分(α−オレフィン・環状オレフィン共重合体)の性能(例えば、耐熱性等)がより好適に維持される。
前記B成分の含有量は、2質量%〜30質量%が更に好ましく、5質量%〜20質量%が更に好ましく、5質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0055】
<ダイマー酸、ダイマー酸金属塩>
本発明の組成物は、耐衝撃性をより高める観点から、さらに、ダイマー酸およびダイマー酸金属塩の少なくとも一方を含むことが好ましい。
ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の2分子又はそれ以上の分子が重合反応して得られる多価カルボン酸であって、通常2種類以上の混合物として得られ、混合物として各種の用途に供されている。
また、ダイマー酸は、炭素原子数8〜22の直鎖状又は分岐状の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、その誘導体も含まれる。ダイマー酸の誘導体としては、水素添加物などを挙げることができる。具体的には、前記ダイマー酸に水添して、含有される不飽和結合を還元した水添ダイマー酸などが使用できる。
ダイマー酸およびダイマー酸金属塩の少なくとも一方を重合体けん化物(B)とともに含有することにより、重合体けん化物(B)の流動性が向上する。
【0056】
ダイマー酸は、例えば、3−オクテン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、リノール酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、リノレン酸、あるいはこれらの2種以上の混合物等を、あるいは工業的に入手可能なこれら不飽和カルボン酸の混合物であるトール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、パーム油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸などを原料としたものであってもよい。これらダイマー酸としては、モノマー酸やトリマー酸を少量含有するものであってもよい。
【0057】
従来から、ダイマー酸は通常、モンモリロナイト系白土を触媒として用い、トール油脂肪酸などの不飽和脂肪酸を高温下で二量化して製造することができる。
【0058】
ダイマー酸の例として、下記式(1)で表される鎖状ダイマー酸が挙げられる。
【0059】
【化10】

【0060】
前記式(1)で表される鎖状ダイマー酸のほかに、下記式(2)又は(3)で表される環状ダイマー酸を含む混合物などが得られる。
【0061】
【化11】

【0062】
【化12】

【0063】
工業的に入手可能なダイマー酸としては、例えば、ハリダイマー200、300〔ハリマ化成(株)製〕、ツノダイム205、395〔築野食品工業(株)製〕、エンポール1026、1028、1061、1062〔コグニス(株)製〕、水素添加ダイマー酸として例えば、エンポール1008、1012〔コグニス(株)製〕などが挙げられる。
【0064】
本発明の組成物は、前記のように重合体けん化物(B)〔B成分〕を含むものである。当該樹脂組成物を製造する際に、B成分とダイマー酸成分とを溶融混合する場合には、B成分中の金属(例えばアルカリ金属)とダイマー酸成分中のカルボキシ基の一部または全部とが反応してダイマー酸の金属塩の構造となり得る。このため、本発明の組成物中にダイマー酸を含有する態様として、ダイマー酸金属塩の形でダイマー酸を配合する態様を含むことができる。ダイマー酸金属塩としては、ダイマー酸リチウム塩(部分塩を含む)、ダイマー酸ナトリウム塩(部分塩を含む)、ダイマー酸カリウム塩(部分塩を含む)、ダイマー酸ルビジウム塩(部分塩を含む)、ダイマー酸セシウム塩(部分塩を含む)を例示できるが、好ましくはダイマー酸カリウム塩(部分塩を含む)である。
【0065】
本発明の組成物おいて、重合体けん化物(B)の総質量とダイマー酸およびダイマー酸金属塩の総質量との合計質量に対するダイマー酸およびダイマー酸金属塩の総質量(以下、単に「ダイマー酸およびダイマー酸金属塩の含有率」ともいう)は、1質量%〜50質量%であることが好ましい。
前記「ダイマー酸およびダイマー酸金属塩の含有率」が1質量%以上であることで、本発明の組成物中の重合体けん化物(B)の均一分散性を向上することができ、また、樹脂組成物として良好な溶融流動性を付与できる。
前記「ダイマー酸およびダイマー酸金属塩の含有率」が50質量%以下であることで、重合体けん化物(B)の溶融流動性を成形加工に適切な範囲とすることができる。前記「ダイマー酸およびダイマー酸金属塩の含有率」は、2質量%〜30質量%、特に3質量%〜15質量%であることがより好ましい。
【0066】
<α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物の金属イオン濃度>
本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、金属イオン濃度(好ましくはアルカリ金属イオン濃度、より好ましくはカリウムイオン濃度)が0.03モル/kg〜2.8モル/kgであることが好ましい。
既述のA成分とB成分とを含む組成物とする上で、より優れた耐衝撃性を得るため、組成物の金属イオン濃度を上記範囲とすることが好ましい。
ここで、例えばカリウムイオン濃度として0.03モル/kg〜2.8モル/kgとする場合、カリウムイオン濃度が前記範囲である限り、A成分とB成分とは、既述の範囲で自由に構成することができ、例えば、B成分として、アルキルけん化がナトリウムけん化である重合体けん化物(B)を含んでいてもよい。
【0067】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物のカリウムイオン濃度を上記範囲とする方法は、B成分としてカリウムけん化された重合体けん化物(B)を用いない場合は、別途、水酸化カリウム、塩化カリウム等のカリウム化合物を用意し、A成分及びB成分の含有量に応じてカリウム化合物の含有量を調整しつつ、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物に含めればよい。
一方、B成分としてカリウムけん化された重合体けん化物(B)を用いる場合は、重合体けん化物(B)を構成するエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体のけん化度を10%〜90%の範囲とした重合体けん化物(B)をα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物に含めればよい。
【0068】
本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、更に、フィラーの少なくとも1種を含有してもよい。該フィラーとしては、有機フィラーでも無機フィラーでもよく、具体的には、強化繊維(ガラス繊維、カーボン繊維など)、ガラスフレーク、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0069】
また、本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、更に、本発明の目的を損なわない範囲で各種添加剤を含むことができる。
このような添加剤の例としては、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、粘着剤、顔料、染料、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤などを挙げることができる。また、少量であれば、通常の帯電防止剤を配合することもできる。
【0070】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を得る方法としては、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、予め調製された重合体けん化物(B)と、ダイマー酸等の必要に応じて含有すべき成分とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサ、ニーダー等で溶融加熱混合する方法等を例示できる。
【0071】
≪成形体≫
本発明の成形体は、本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いて構成される。
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物の成形方法としては、押出成形(溶融押出成形)、射出成形、ブロー成形、延伸成形等、種々の方法が挙げられる。
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を成形する際の成形温度には特に限定はないが、220℃以上が好ましく、230℃〜330℃がより好ましく、250℃〜300℃が特に好ましい。
【0072】
既述のように、本発明のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物は、耐衝撃性に優れていることから、該組成物を成形して得られた成形体は、天井材、床材等の建築、土木材料;自動車部品;OA機器;電気・電子部品、家電製品部品、またはそれらの保管・収納ケース;文具;日用品などの用途に広く用いることができる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。また、メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210−1999に準拠して測定した。
また、「環状オレフィン含量」、「エチレン含量」、及び「EA含量」は、それぞれ、環状オレフィンに由来する構造単位の含有量、エチレンに由来する構造単位の含有量、エチルアクリレートに由来する構造単位の含有量を指す。
【0074】
〔実施例1〜3〕
≪α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物の作製≫
下記b−1(90質量部)とダイマー酸(商品名ツノダイム395:築野食品工業社製)(10質量部)とを溶融混合し、溶融混合物を得た。
得られた溶融混合物と下記a−1とを、質量比〔a−1/b−1〕が表1に示す値となる比率で溶融混合し、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を得た。
【0075】
・a−1 … 三井化学株式会社製、商品名APEL(アペル)6011T(T=105℃、MFR=26g/10分(260℃、荷重2160g))
ここで、アペル6011Tは、エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン二元共重合体である。環状オレフィン含量(共重合体の全量を100モル%としたときの、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンに由来する構造単位の含有量)は20〜30モル%と推定される。
【0076】
・b−1 … エチレン・エチルアクリレート共重合体(エチレン含量66質量%、EA含量34質量%、MFR=25g/10分(190℃、2160g荷重))の50%カリウムけん化物〔MFR=2g/10分(230℃、荷重10kg)、カリウムイオン濃度1.7モル/kg〕
【0077】
≪成形体の作製及び評価≫
上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用い、下記の成形体の作製及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0078】
<アイゾット衝撃試験>
上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を下記射出成形機に投与し、下記条件にて射出成形し、12.7mm×64mm×厚み3.2mmの試験片1(成形体)を得た。
別途、上記で得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を下記射出成形機に投与し、下記条件にて射出成形し、12.7mm×64mm×厚み6.4mmの試験片2(成形体)を得た。
−射出成形機および射出成形条件−
・射出成形機:東芝機械社製、IS−220F
・成形温度:260℃
・金型温度:50℃
【0079】
上記試験片1及び試験片2のそれぞれについて、株式会社オリエンテック社製、恒温槽付自動化アイゾット衝撃試験機(MODEL CIB-80 I−AT)を用い、試験片のサイズ(長さ、幅、及び厚み)以外はJIS K 7110−1999に準拠し、23℃におけるアイゾット衝撃強度(単位kJ/m)を測定した。
【0080】
〔比較例1〕
実施例1において、b−1及びダイマー酸を用いず、a−1のみを用いて成形体を作製したこと以外は実施例1と同様にして成形体の作製及び評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0081】
〔比較例2〕
実施例1において、b−1及びダイマー酸の溶融混合物に代えて下記b−2を用い、a−1及びb−2を表1に示す質量比で溶融混合して得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして成形体の作製及び評価を行った。
評価結果を表1に示す。
・b−2 … エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量85質量%、メタクリル酸含量15質量%、MFR=290g/10分(190℃、2160g荷重))のカリウムアイオノマー〔MFR=1g/10分(190℃、2160g荷重)、中和度85%〕
【0082】
〔比較例3〕
実施例1において、b−1及びダイマー酸の溶融混合物に代えて下記b−3を用い、a−1及びb−3を表1に示す質量比で溶融混合して得られたα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして成形体の作製及び評価を行った。
評価結果を表1に示す。
・b−3 … エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量85質量%、メタクリル酸含量15質量%、MFR=60g/10分(190℃、2160g荷重))の亜鉛アイオノマー〔MFR=1g/10分(190℃、2160g荷重)、中和度60%〕
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(a−1)のみを用いた比較例1の成形体に対し、特定の重合体けん化物(b−1)を含有させた実施例1〜3の成形体では、アイゾット衝撃強度が向上した。
一方、重合体けん化物ではなく、アイオノマー(b−2、b−3)を含有させた比較例2及び3の成形体では、α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(a−1)のみを用いた比較例1の成形体に対し、アイゾット衝撃強度が寧ろ低下した。
また、比較例2及び3から、アイオノマーにおける金属種の違いは耐衝撃性には影響を与えないことがわかる。この結果より、実施例1〜3において、b−1(カリウムけん化物)に代えて、カリウム以外のけん化物(例えばナトリウムけん化物)を用いても実施例1〜3と同様の結果が得られることが示唆される。
【0085】
次に、実施例3、比較例1、及び比較例2における各成形体について、それぞれ、以下のようにして表面抵抗(Ω/sq.)を測定した。
即ち、各成形体を、恒温恒湿(23℃、50%RH)下で、24時間エージングした後、下記電気抵抗測定器を用いて、印加電圧500V、印加時間10秒の条件で表面抵抗〔Ω/sq.〕を測定した。この電気抵抗測定器の測定限界(測定上限値)は、1.0×1014Ω/sq.であった。
なお、表面抵抗は、1つの成形体あたり3回測定し、3回の測定値の平均値をその成形体の表面抵抗とした。表面抵抗は、数値が小さいほど非帯電性(帯電防止性)に優れていることを示す。
−電気抵抗測定条件−
・測定使用機器:三菱化学社製、Hiresta-UP MCP-HT450、MCP-JB03
・測定モード:表面抵抗(Surface Resistivity)
・プローブ:JIS/ASTM (JボックスUタイプ)
【0086】
測定の結果、実施例3における成形体の表面抵抗(Ω/sq.)は8.0×10Ω/sq.であり、比較例1における成形体の表面抵抗(Ω/sq.)は測定限界である1.0×1014Ω/sq.を超えており、比較例2における成形体の表面抵抗(Ω/sq.)は5.0×1011Ω/sq.であった。
この結果より、エチレン・環状オレフィン共重合体(a−1)に対し、カリウムけん化物である重合体けん化物(b−1)を添加することにより、非帯電性(帯電防止性)を顕著に向上できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)と、
エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体をけん化してなり、金属イオン濃度が0.1モル/kg〜5.8モル/kgの範囲にある重合体けん化物(B)と、
を含むα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項2】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が99質量%〜51質量%であり、前記重合体けん化物(B)の含有量が1質量%〜49質量%である請求項1に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記重合体けん化物(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【請求項3】
更に、ダイマー酸及びダイマー酸金属塩の少なくとも一方を含む請求項1又は請求項2に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項4】
前記けん化がアルカリけん化であり、前記金属イオン濃度がアルカリ金属イオン濃度である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項5】
前記けん化がカリウムけん化であり、前記金属イオン濃度がカリウムイオン濃度である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項6】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量が98質量%〜70質量%であり、前記重合体けん化物(B)の含有量が2質量%〜30質量%である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物(但し、前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)の含有量と前記重合体けん化物(B)の含有量との合計を100質量%とする)。
【請求項7】
前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体がエチレン・アクリル酸エステル共重合体である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項8】
前記エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体における不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有率が、5質量%〜50質量%の範囲にある請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項9】
前記重合体けん化物(B)の金属イオン濃度が1モル/kg〜3モル/kgの範囲である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項10】
前記重合体けん化物(B)のけん化度が10%〜90%の範囲である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項11】
前記α−オレフィン・環状オレフィン共重合体(A)が、エチレン・環状オレフィン共重合体である請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のα−オレフィン・環状オレフィン共重合体組成物を用いてなる成形体。

【公開番号】特開2013−53220(P2013−53220A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192015(P2011−192015)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】