説明

α,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法

【課題】反応性の高い不飽和結合含有化合物を基質として用いる場合において、基質の副反応や生成物の分解反応を抑えて効率よく含酸素有機化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法であって、該液相酸化反応は、ラジカル反応禁止剤存在下、基質/過酸化物酸化剤の原料モル比を0.84以上、1.10以下として行うα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法に関する。より詳しくは、各種工業製品の原料及び中間体等に用いられるα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−含酸素カルボニル化合物は、医薬、農薬、食品、触媒、高分子化合物、添加剤及び改質剤等の各種工業製品の原料、及び、中間体等として用いられている化合物である。このようなα,β−含酸素カルボニル化合物は、α,β−不飽和カルボニル化合物から、酸化剤を用いた反応に与することにより得る方法が知られており、反応を効率的なものとするために、反応に用いる酸化剤や触媒、及び、その他の反応条件等が研究されている。中でも酸化剤としては、反応性が高く、また副生成物が水のみであり、反応終了後の処理が容易であるため、環境に配慮したクリーンなプロセス構築が可能であることから、過酸化水素(H)が好適に用いられている。
【0003】
を酸化剤として用いてα,β−不飽和カルボニル化合物からα,β−含酸素カルボニル化合物を製造する方法としては、タングステンやクロム等を触媒として用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1〜3並びに非特許文献1及び2参照。)。
【0004】
タングステンを触媒として用いる方法としては、メタクリル酸からメチルグリセリン酸を合成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、実施例において、原料モル比が基質:H=1:〜0.9程度(基質/過酸化水素=1.11〜)として反応させた場合、メチルグリセリン酸の収率が77%程度であることが示されており、反応の収率及び基質の転換率を向上させて生成物を効率よく得るものとする工夫の余地があった。
【0005】
タングステンを触媒として用い、アクリル酸からグリセリン酸を製造する方法では、実施例において、原料モル比が基質:H=1:1.5〜2.8程度(基質/過酸化水素=0.36〜0.67)として反応させることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、アルケンからエポキシ化合物を製造する方法では、実施例において、原料モル比が基質:H=1:1.2程度(基質/過酸化水素=〜0.83)として反応させることが開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、これらの方法においては、高価な過酸化物が過剰量添加されているため、無駄になるおそれがあり、反応に使用する過酸化物量を削減し、その有効利用率を向上させる工夫の余地があった。
【0006】
一方、クロムを触媒として用いる方法としては、アルケンからカルボニル化合物を製造する方法(例えば、非特許文献2参照。)、及び、クロム−シリカライト触媒を用いて、アルケンからカルボニル化合物を製造する方法(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。
【0007】
これらの方法においては、基質としてアクリル酸、メタクリル酸やメタクリル酸エステル等の不飽和結合含有化合物を用いて、グリセリン酸類化合物、エポキシ化合物やカルボニル化合物を得たりすることになる。
しかしながら、基質としてアクリル酸やメタクリル酸等の反応性の高い不飽和結合含有化合物を用いると、ラジカル反応開始能力をもあわせもつ過酸化水素を酸化剤に使用した場合には、反応中に基質がポリマー化したり、生成したα,β−含酸素カルボニル化合物が分解してしまい、収率の低下及び基質の浪費に繋がる。このことから、ラジカルによる基質のポリマー化や生成物の分解を防ぎ、反応の収率及び基質の転換率を向上させて生成物を効率よく得るものとする工夫の余地があった。また、工業的な大規模生産のために、副生成物を抑制して基質の転換率を高め、かつ、高価な過酸化物の有効利用率を向上させて、目的生成物の収率を向上するための工夫の余地があった。
【0008】
一方、Hを酸化剤として、タングステンを触媒として用いて、メタクリル酸からメチルグリセリン酸を合成する方法に関し、精製したメタクリル酸に、使用前にヒドロキノンを添加して、オレフィンのポリマー化を防ぐことが開示されている(例えば、非特許文献3参照。)。しかしながら、重合禁止剤としてヒドロキノンを用いることが記載されているものの、ヒドロキノンを使用する反応は良好な再現性を有するものではなく、基質の重合を再現性よく防止し、反応の収率を高める反応とする工夫の余地があった。
【特許文献1】特公平5−58417号公報(第1−3頁)
【特許文献2】特開昭60−226842号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平3−58954号公報(第1−3頁)
【非特許文献1】キルシェンバオム(Kirshenbaum, K. S.)、他1名、「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)」、(米国)、1985年、50巻、p.1979 −1982.
【非特許文献2】イノウエ(Inoue, M.)、他3名、「ケミストリー レターズ(Chemistry Letters)」、(日本)、1989年、p.99−100.
【非特許文献3】アン(An, Z. -w.)、他2名、「シンセシス(Synthesis)」、(米国)、1992年、p.273−275.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、反応性の高いα,β−不飽和カルボニル化合物を基質として用いる場合において、基質の副反応や生成物の分解反応を抑えて効率よくα,β−含酸素カルボニル化合物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、α,β−不飽和カルボニル化合物から、過酸化物を酸化剤として用いた液相酸化反応によりα,β−含酸素カルボニル化合物を製造する方法について種々検討したところ、基質/過酸化水素原料モル比を特定のものとし、ラジカル反応禁止剤を使用することにより、高価な過酸化物を無駄にしない範囲で、副反応を抑制し、目的反応を進行させることによって収率を高めることができることを見いだした。また、ラジカル反応禁止剤として、安定遊離基を有するラジカル反応禁止剤及び分子状酸素から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いると、基質の副反応を効果的に抑制することができることを見いだした。また、分子状酸素をラジカル反応禁止剤として用いる場合には、液相反応において反応気相部の分子状酸素分圧を特定値以上に制御すると、液相中の酸素濃度が充分に上昇するのに起因して副反応を効果的に抑制することができることを見いだした。更に、安定遊離基を含有しないラジカル反応禁止剤の使用と反応系中の分子状酸素分圧の制御とを併用することにより、両者の効果が相乗的に発揮されて副反応が充分に抑制されることも見いだした。そして、ラジカル反応禁止剤が副反応を充分に抑制できることに起因して、反応性に富む不飽和結合を有する基質を効率よく目的生成物に転換することができ、反応の収率を向上できることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち本発明は、α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法であって、上記液相酸化反応は、ラジカル反応禁止剤存在下、基質/過酸化物酸化剤の原料モル比を0.84以上、1.10以下として行うα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法である。
【0012】
本発明はまた、上記製造方法を経て得られるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液であって、上記α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液は、α,β−ジヒドロキシカルボニル化合物又はα,β−エポキシカルボニル化合物であり、上記α,β−含酸素カルボニル化合物を100質量部とすると、基質が重合して副生した高分子化合物が12質量部以下であるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液でもある。
本発明は更に、α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法であって、上記液相酸化反応は、α,β−不飽和カルボニル化合物を反応溶液に滴下して行うα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明のα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法は、α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応において、ラジカル反応禁止剤存在下、基質/過酸化物酸化剤の原料モル比を0.84以上、1.10以下として行うものである。
上記基質/過酸化物酸化剤の原料モル比としては、0.84以上、1.10以下が好ましい。基質/過酸化物酸化剤の原料モル比が0.84未満であると、反応の収率が低下し、未反応基質の回収が必要になり、1.10を超えると、過酸化物酸化剤が系中に過剰に存在することになり、高価な過酸化物が無駄になるばかりでなく、基質のポリマー化副反応や、生成物の分解反応が進行しやすくなるおそれがある。より好ましくは、0.85以上、1.09以下であり、更に好ましくは、0.86以上、1.08以下である。
【0014】
前記ラジカル反応禁止剤としては、安定遊離基を有するラジカル反応禁止剤及び分子状酸素から選ばれる少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
安定遊離基とは、その特異な化学構造に起因し、長時間安定に存在できる遊離基を意味する。上記安定遊離基含有化合物としては、テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−ヒドロキシ−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、ガルビノキシル、トリス{ジ(トリメチルシリル)メチル}錫、トリス{ジ(トリメチルシリル)メチル}ゲルマニウム、一酸化窒素等が好ましい。より好ましくは、テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−ヒドロキシ−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、ガルビノキシル、一酸化窒素であり、更に好ましくは、テトラメチルピペリジン−N−オキシド、4−ヒドロキシ−テトラメチルピペリジン−N−オキシド、一酸化窒素である。これらラジカル反応禁止剤は、高分子化合物や無機化合物に、イオン結合、共有結合や、マイクロカプセル化を利用することにより担持させることも可能である。上記分子状酸素とは、2個の酸素原子によって作られた基底状態の三重項酸素分子(O)を意味する。
【0015】
上記ラジカル反応禁止剤としては、更に、ヒドロキノン類、キノン類、フェノール類及びN−ヒドロキシ化合物類からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物と分子状酸素を併用することが好ましい。より好ましくは、安定遊離基を含有しない、ヒドロキノン、メトキノン、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルピロカテコール、トパノール、N−ヒドロキシイミド化合物等であり、更に好ましくは、ヒドロキノン、メトキノン、4−tert−ブチルピロカテコール、トパノール、N−ヒドロキシフタルイミド、N,N’,N’’−トリヒドロキシイソシアヌール酸等と分子状酸素を併用することである。これらラジカル反応禁止剤は、高分子化合物や無機化合物に、イオン結合、共有結合や、マイクロカプセル化を利用することにより担持させることも可能である。
【0016】
上記ラジカル反応禁止剤の使用量としては、反応基質1molに対して、ラジカル反応禁止剤の反応活性点のモル数が、0.000001mol以上であることが好ましく、また、100mol以下であることが好ましい。ラジカル反応禁止剤を100molより多量に加えても基質の重合反応を更に抑制する効果は得られず、また、ラジカル反応禁止剤の使用量が0.000001molより少量であると、基質の重合反応を更に抑制する効果が充分に得ることができないおそれがある。より好ましくは、0.0001mol以上であり、また、90mol以下である。
【0017】
上記α,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法では、また、液相反応において、分子状酸素を使用し、反応気相部の分子状酸素分圧(酸素分圧)を制御することによりα,β−不飽和カルボニル化合物の重合反応や目的生成物の分解反応等の副反応を抑制して収率及び転換率を向上させることができる。
上記酸素分圧の制御に用いる気体としては、反応や触媒に悪影響を及ぼさず、反応条件において蒸気圧を持つものであれば特に限定されないが、ヘリウム、アルゴン、窒素、空気等を用いることが好ましく簡便である。
上記酸素分圧を上記範囲に制御する期間としては、液相反応において副反応が生じる期間に対応して液相反応の全期間であることが好ましいが、本発明の作用効果が発揮される限り一部の期間であってもよい。
【0018】
上記反応気相部の酸素分圧を上記のように制御する方法としては、密閉系や流通系等いずれの反応形態でもよいが、(1)反応容器に酸素を含んだ気体を吹き込んで反応容器内の反応気相部の酸素分圧が上記の範囲内となるようにする方法、(2)液相表面に酸素を含んだ気体を吹きつけることにより、反応気相部の酸素分圧が上記の範囲内となるようにする方法、(3)反応液相部に酸素を含む気体を通じることにより反応気相部の酸素分圧が上記の範囲内となるようにする方法、これらを組み合わせた方法等が好ましい。これらの方法において、酸素分圧の制御に用いる気体としては、酸素を0.1%以上含むことが好ましい。より好ましくは、0.2%以上含むことであり、更に好ましくは、0.5%以上含むことである。酸素の上限値としては、安全性の点から、99%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、80%以下であることが更に好ましいが、反応溶媒に水を使用する場合には、特に上限値は限定されない。なお、酸素分圧は、酸素濃度計、圧力ゲージ、熱伝導度検出器等により測定(計算)することができる。
【0019】
本発明におけるα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法は、液相酸化反応を上記特定の酸素分圧下で行うことが好適であるが、酸素分圧を制御することに加えて、ラジカル反応禁止剤の存在下で行うものであることが好ましい。このように、ラジカル反応禁止剤が、ヒドロキノン類、キノン類、フェノール類及びN−ヒドロキシ化合物類からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物であり、上記液相酸化反応は、反応気相部の酸素分圧を0.05atm以上、5atm以下の条件として行うα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法は、本発明の好ましい形態の一つである。
【0020】
本発明のα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法に反応基質として用いられるα,β−不飽和カルボニル化合物は、カルボニル基に隣接するα炭素原子と、α炭素原子に隣接するβ炭素原子とで不飽和結合を形成している構造を有する化合物を意味し、このような構造を有するものである限り特に限定されない。
上記α,β−不飽和カルボニル化合物としては、下記一般式(1);
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、原子若しくは原子団を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
【0023】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物から本発明の製造方法により得られるα,β−含酸素カルボニル化合物としては、上記一般式(1)における不飽和結合に水酸基が付加した下記一般式(2);
【0024】
【化2】

【0025】
で表される化合物、又は、上記不飽和結合にエポキシ基が導入された下記一般式(3);
【0026】
【化3】

【0027】
で表される化合物であることが好ましい。上記式(2)及び(3)中、R、R、R及びRは、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRと同じである。
【0028】
上記一般式(1)、(2)及び(3)におけるR、R、R及びRとしては、水素原子、水酸基、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル等の直鎖飽和アルキル基;イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、イソヘキシル、イソヘプチル、イソオクチル、イソノニル、イソデシル等の分岐飽和アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等の脂環式飽和アルキル基;フェニル、アリール(例えば、メチルフェニル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、メトキシフェニル、ジメトキシフェニル、フルオロフェニル、ジフルオロフェニル、トリフルオロフェニル、テトラフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、クロロフェニル、ジクロロフェニル、トリクロロフェニル、ブロモフェニル、ジブロモフェニル、トリブロモフェニル等)、アリールアルキル(例えば、ベンジル、メトキシベンジル、ジメトキシベンジル等)等の芳香族基含有基等が好適である。また、上記飽和アルキル基に対応する不飽和結合含有基であってもよく、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル、テトラデシニル、ペンタデシニル、ヘキサデシニル、ヘプタデシニル、オクタデシニル、ノナデシニル等が好ましい。
【0029】
上記R、R、R及びRとしては、例えば、エステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基や、水酸基、ハロゲン基、イソニトリル基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、エポキシ基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホキシド基、スルホン基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン酸基、カルボニル基(例えば、ケトンやアルデヒド)、アミン基、アミンオキシド基、ニトロン基、アミド基、アジド基、アセタール基、アゾ基、アゾキシ基、アジン基、イミノ基、イミド基、エナミン基、エナミド基、オルトエステル基、ジアゾ基、ジアゾニウム基、ケタール基、オニウム塩、複素環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ元素等を有する原子団が好適である。
【0030】
上記R、R、R及びRとしては、好ましくは、水素原子、水酸基、直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基、脂環式不飽和アルキル基、及び、エステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、ハロゲン基、スルホン酸基、カルボニル基、アミド基、イミド基、オニウム塩、複素環式化合物、ヘテロ元素を含有する原子団である。中でも、水素原子、水酸基、炭素数1以上60以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基、脂環式不飽和アルキル基、及び、炭素数0以上60以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、ハロゲン基、スルホン酸基、カルボニル基、アミド基、イミド基、オニウム塩、複素環式化合物、ヘテロ元素を含有する原子団が好ましい。より好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上30以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基、脂環式不飽和アルキル基、及び、炭素数0以上30以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、オニウム塩を有する原子団である。更に好ましくは、水素原子、水酸基、炭素数1以上18以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、及び、炭素数0以上18以下のエステル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、オニウム塩を有する原子団である。R、R、Rは、結合し、環構造を形成してもよい。
【0031】
上記一般式(1)において、R、R、R及びRを有する好適なアシル基としては、具体的には、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、マレオイル基、無水マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、無水シトラコノイル基、メサコノイル基、アントロポイル基、シンナモイル基等のカルボニル化合物等が好適である。
また上記α,β−不飽和カルボニル化合物としては、α,β−三重結合カルボニル化合物であってもよい。
【0032】
上記一般式(1)、(2)及び(3)において、Rとしては、上記R、R、R及びRに例示の各種官能基に加えて、Rが−ORで表される化合物が好適である。Rとしては、上記R、R、R及びRに例示の各種官能基が好ましく、水素原子、水酸基、直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基、脂環式不飽和アルキル基、及び、エステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、アミド基、イミド基、オニウム塩、複素環式化合物、ヘテロ元素を含有する原子団が好ましい。より好ましくは、水素原子、炭素数1以上30以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、芳香族基含有基、直鎖不飽和アルキル基、分岐不飽和アルキル基、脂環式不飽和アルキル基、及び、炭素数0以上30以下のエステル基、ニトリル基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、カルボニル基、オニウム塩を有する原子団である。更に好ましくは、水素原子、炭素数1以上18以下の直鎖飽和アルキル基、分岐飽和アルキル基、脂環式飽和アルキル基、及び、炭素数0以上18以下のカルボン酸基、エーテル基、水酸基、スルホン酸基、オニウム塩を有する原子団である。R、Rは、R、R、Rと結合し、環構造を形成してもよい。
【0033】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、アクリロイルピリジン、アクリロイルピペリジン、メチロールプロペン酸、メチレンラクトン、アクリルアミド、アクリル酸をモノマーとして用いた不飽和結合含有ポリマー、メタクリル酸をモノマーとして用いた不飽和結合含有ポリマー、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル、メサコン酸モノエステル、2−ヘキセンカルボン酸、3−メチル−2−ブタン酸、2−メチル−2−ブタン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1−カルボン酸、4−メチル−1,4−シクロヘキサジエン−1−カルボン酸、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4,5−ジメチル−1,4−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸、イタコン酸等が好適である。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、エチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、メチロールプロペン酸、メチレンラクトン、アクリルアミド、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、2−ヘキセンカルボン酸、イタコン酸がより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、メチロールプロペン酸、メチレンラクトン、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸が更に好ましい。
【0034】
上記酸化剤は、過酸化物であり、例えば、α−メチルベンジルハイドロパーオキシド、α,α−ジメチルベンジルハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、tert−アミルハイドロパーオキシド、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酢酸、ペルオキシプロピオン酸、ペルオキシイソプロピオン酸、ペルオキシブタン酸、ペルオキシイソブタン酸、過硫酸、過リン酸等が好適であり、これらは系中で発生させても差し支えない。これらの中でも、α−メチルベンジルハイドロハイドロパーオキシド、α,α−ジメチルベンジルハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、tert−アミルハイドロパーオキシド、過酸化水素、過酢酸が好ましく、反応終了後の中和工程等が不要で、生成物が水のみである過酸化水素がより好ましい。酸化剤として、過酸化物を用いる場合は、通常、それ自身がラジカル反応開始剤として作用し得る場合があるため、ラジカル反応禁止剤を用いた場合でも、基質の重合反応や生成物の分解反応等の副反応を抑制することが困難となるが、反応系の酸素濃度を制御することにより副反応を効果的に抑制することができる。
【0035】
本発明はまた、上記製造方法を経て得られるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液であって、上記α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液は、α,β−ジヒドロキシカルボニル化合物又はα,β−エポキシカルボニル化合物であり、上記α,β−含酸素カルボニル化合物を100質量部とすると、基質が重合して副生した高分子化合物が12質量部以下であるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液でもある。なお、基準となる「α,β−含酸素カルボニル化合物」とは、α,β−不飽和カルボニル化合物を液相酸化反応により得られたα,β−含酸素カルボニル化合物をいい、副生成物やその他の不純物を含むものである。
上記α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液は、上述のα,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法を経て得られるものであり、該液相酸化反応において、基質/過酸化物酸化剤の原料モル比、ラジカル反応禁止剤及び反応気相部の酸素分圧等を上述の条件として行うことにより得ることができる。
【0036】
上記α,β−含酸素カルボニル化合物としては、上記α,β−不飽和カルボニル化合物に対応するものであり、α,β−不飽和カルボニル化合物における不飽和結合が酸化されて、水酸基、カルボニル基、又は、エポキシ基等となったものが好ましい。α,β−不飽和カルボニル化合物における不飽和結合が酸化されて、水酸基やエポキシ基が導入される場合としては、上記一般式(2)及び(3)で表される化合物が好ましい。例えば、アクリル酸を基質に用いた場合には、エポキシアクリル酸やグリセリン酸等を得ることができ、メタクリル酸を基質に用いた場合には、エポキシメタクリル酸やメチルグリセリン酸等を得ることができる。α,β−不飽和カルボニル化合物の不飽和結合を過酸化物で酸化し、α,β−エポキシカルボニル化合物やα,β−ジヒドロキシカルボニル化合物を合成する場合には、基質の重合に加えて、生成物であるα,β−ジヒドロキシカルボニル化合物のラジカルによる分解が考えられるが、ラジカル反応禁止剤により、これら副反応が効果的に抑制されることになり、その製造方法の形態は、本発明の好ましい形態の一つである。
上記α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液において、基質が重合して副生した高分子化合物としては、12質量部以下であることが好ましい。12質量部より多いと、該α,β−含酸素カルボニル化合物を、モノマーや架橋剤として使用した場合に、生成した高分子化合物の目的とする性能を劣化させるおそれがある。好ましくは、11質量部以下であり、より好ましくは、10質量部以下である。
【0037】
本発明は更にまた、α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法であって、上記液相酸化反応は、α,β−不飽和カルボニル化合物を反応溶液に滴下して行うα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法でもある。
上記α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法は、上述のα,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法であってもよく、上述の液相酸化反応における反応条件等を用いることができ、基質/過酸化物酸化剤の原料モル比、ラジカル反応禁止剤及び反応気相部の酸素分圧等を上述の条件とすることができる。
【0038】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物を反応溶液に滴下して行う方法としては、酸化剤を含む溶液に、α,β−不飽和カルボニル化合物をニート(溶媒に溶解させない)で滴下する方法、α,β−不飽和カルボニル化合物を適当な溶媒に溶解させた溶液を酸化剤を含む溶液に滴下する方法等が好ましい。中でも、滴下溶液の調製を行うための装置が不用又は軽減されることから、α,β−不飽和カルボニル化合物をニートで酸化剤を含む溶液に滴下する方法が好ましく、工業的規模で大量に生産するうえで有利となる。
上記α,β−不飽和カルボニル化合物を適当な溶媒に溶解させた溶液を滴下する方法に用いる溶媒としては、液相酸化反応に用いる溶媒や、α,β−不飽和カルボニル化合物を溶解する溶媒等が好適である。また、上記酸化剤を含む溶液には、上述のラジカル反応禁止剤や触媒等が含まれていてもよい。
【0039】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物をニートで酸化剤を含む溶液に滴下する方法は、α,β−不飽和カルボニル化合物を、酸化剤を含む溶液に一括で添加する方法、及び、酸化剤をα,β−不飽和カルボニル化合物を含む溶液に滴下(又は添加)する方法等に比べて基質であるα,β−不飽和カルボニル化合物のポリマー化等の副反応を抑制することができる。また、液相酸化反応が、上述のラジカル反応禁止剤及び/又は触媒等を含む場合においても同様に、α,β−不飽和カルボニル化合物をニートで酸化剤、ラジカル反応禁止剤及び/又は触媒等を含む溶液に滴下する方法が好ましい。
【0040】
上記滴下方法の条件としては、用いる基質の種類、反応速度、副反応進行の有無や、反応熱の除熱等を鑑みて、液相酸化反応の条件により適宜選択することができる。基質を滴下により添加する形態をとることにより、一括で添加する形態と比較して、基質のポリマー化副反応や、生成物の分解反応及び反応液温度の急激な上昇等を抑制することになる。例えば、滴下速度としては、滴下終了時に、反応液中の生成物濃度が0.05M以上、5.0M以下となるのが好ましく、0.1M以上4.5M以下がより好ましく、0.2M以上4.5M以下が更に好ましい。滴下時間としては、48時間以内に滴下を終了することが好ましく、24時間以内に滴下を終了することがより好ましく、6時間以内に滴下を終了することが更に好ましい。この滴下時間内であれば、その滴下速度は任意に設定及び変更することができる。滴下量としては、基質の全部を滴下することが好ましいが、一部のみを滴下することもでき、基質の1/4を滴下することが好ましく、基質の1/2を滴下することがより好ましく、基質の3/4を滴下することが更に好ましい。
上記滴下方法の具体例として、α,β−不飽和カルボニル化合物としてメタクリル酸を用いてメチルグリセリン酸を製造する場合には、滴下速度としては、滴下終了時に反応液中のメチルグリセリン酸濃度が0.3M以上3.0M以下であることが好ましく、所定の全ての基質を、12時間以内に滴下を終了することが好ましく、4時間以内に滴下を終了することがより好ましく、3時間以内に滴下を終了することが更に好ましい。また、このような滴下条件でメタクリル酸を添加した場合の熟成温度及び時間としては、30〜100℃及び10分〜48時間が好ましい。
【0041】
本発明におけるα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法としては、反応に応じて、適当な触媒を用いるものであることが好ましい。このような触媒としては、例えばランタン、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルル等を含むものが好適である。これらの中でもチタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、レニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、硫黄、セレン、テルルがより好ましく、1種または2種以上を用いることができる。
【0042】
上記触媒としては、触媒機能を有する元素を含むものである限り、その他の化合物を含有していてもよい。その他の化合物としては、水素(プロトン)、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リン、砒素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好適である。
上記触媒がその他の化合物を含有するとは、その他の化合物を構成成分として有する形態にあること、又は、その他の化合物が、触媒と、反応系中で共存した形態にあることであり、例えば、混合物、複合酸化物や塩等の形態が好適である。液相均一系反応の場合には、溶媒中に溶解し、解離した状態であってもよい。また、触媒と、その他の化合物を別々に触媒として系中に投入し共存させることも可能である。触媒がポリオキソメタレートである場合には、ヘテロ原子やポリ原子として組み込まれ、共存してもよいし、カウンターカチオンとして共存してもよい。
【0043】
上記触媒がその他の化合物を含有する場合において、触媒が、その他の化合物を構成成分として有する場合、上記その他の化合物は、触媒100質量部に対して、0.0001重量部以上であることが好ましく、また、99質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、0.001質量部以上であり、また、98質量部以下である。
また上記その他の化合物が、触媒と、反応系中で共存した形態にある場合、上記その他の化合物は、触媒100質量部に対して、0.0001質量部以上であることが好ましく、また、1000000質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、0.001質量部以上であり、また、900000質量部以下である。
【0044】
上記製造方法における触媒の使用形態としては、触媒を液相に溶解させて行う均一系の形態、若しくは、触媒を液相に懸濁させたり、又は、触媒を固相として反応を行う不均一系の形態が挙げられ、いずれの形態であってもよい。均一系反応の場合には、必要であれば、触媒はイオン交換樹脂等に吸着させることにより分離回収することが可能である。多孔質担体としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化錫、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化ランタニド、酸化バリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、複合酸化物、ハイドロタルサイト、アパタイト、セピオライト、モンモリロナイトのような粘土化合物、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸バナジウム、リン酸ランタニド、活性炭、ゼオライト、ポリオキソメタレート、イオン交換樹脂等が好適であり、1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
上記触媒の使用量としては、反応基質1molに対して、触媒活性成分元素のモル数が0.00001mol以上であることが好ましく、0.99mol以下であることが好ましい。触媒を0.99molより多量に加えても基質からα,β−含酸素カルボニル化合物への転換率をそれ以上高める効果は得られず、また、触媒の使用量が0.00001molより少量であると、基質からα,β−含酸素カルボニル化合物への転換率を充分に高めることができないことになる。より好ましくは、0.0001mol以上であり、また、0.95mol以下である。
【0046】
本発明において、α,β−不飽和カルボニル化合物と過酸化物酸化剤との反応は、実施する反応により適宜選択すればよいが、酸性〜弱塩基性の条件下で行うことが好ましく、反応溶液のpHとしては、0.05以上、10.0以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1以上、8.5以下である。更に好ましくは、0.2以上、6.5以下である。例えば、不飽和結合含有化合物を酸化(ジオール化)することにより、ジヒドロキシ(ジオール)化合物に変換する反応においては、酸性条件下で行うことにより、反応基質のジヒドロキシ(ジオール)化合物への転換率を高めることができる。
【0047】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物と過酸化物酸化剤との反応を酸性条件下で行うために、反応系にブレンステッド酸性物質、ルイス酸性物質や、緩衝剤物質を加えることにより反応系を酸性にすることができ、反応活性を高めることが可能となる。ブレンステッド酸性物質、及び、ルイス酸性物質としては、塩酸、硝酸、リン酸、ヒ酸、硫酸、セレン酸、テルル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、スカンジウムトリフラート、硝酸スカンジウム、硫酸スカンジウム、ランタントリフラート、硝酸ランタン、硫酸ランタン、酸化硫酸チタン、硫酸チタン、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、酸化硫酸バナジウム、硫酸バナジウム、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、ホウ酸、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、硝酸インジウム、塩化錫、塩化アンチモン、硝酸ビスマス、リン酸ビスマス等が好ましく、緩衝材物質としては、塩化カリウム−塩酸溶液、フタル酸水素カリウム−塩酸溶液、グリシン−塩化ナトリウム−塩酸溶液、クエン酸ナトリウム−塩酸溶液、クエン酸カリウム−クエン酸溶液、クエン酸二水素カリウム−塩酸溶液、酒石酸−酒石酸ナトリウム溶液等が好ましい。これらは1種又は2種以上用いてもよい。より好ましくは、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸ランタン、硫酸チタン、硫酸ジルコニウム、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、ホウ酸、硝酸アルミニウム、塩化錫、塩化カリウム−塩酸溶液、グリシン−塩化ナトリウム−塩酸溶液、酒石酸−酒石酸ナトリウム溶液等である。上記物質を用いる場合、予め触媒を上記物質によって処理してもよく、不飽和結合含有化合物を過酸化物酸化剤と反応させる反応において、反応系中に共存させてもよい。
【0048】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物と過酸化物酸化剤との反応の反応条件としては、例えば、反応温度は、−10℃以上が好ましく、また、250℃以下が好ましい。より好ましくは、0℃以上、200℃以下である。反応時間は、0.2時間以上が好ましく、また、48時間以下が好ましい。より好ましくは、0.5時間以上、40時間以下である。また、反応初期の気圧としては、0.1atm以上、150atm以下が好ましい。より好ましくは、0.5atm以上、120atm以下である。
【0049】
本発明のα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法に用いる溶媒としては、反応の基質、生成物及び触媒その他、反応に悪影響を及ぼさないものである限り特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、ノルマル又はイソプロパノール、第3級ブタノール等の炭素数1〜6の第1、2、3級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、多価アルコールの蟻酸エステル又は酢酸エステル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;イソプロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;アセトニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、ニトロメタン等の窒素化合物;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素等が好適である。
これらの溶媒の中でも、水、第1、2、3級の一価アルコール、エーテル類、エステル類、ケトン類、アルデヒド類、ニトリル類、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等が好ましい。より好ましくは、水、メタノール、エタノール、第1級ブタノール、第3級ブタノール、イソプロパノール、へキサノール、シクロヘキサノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、アセトニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ノルマルヘキサン、トルエン、キシレン等である。更に好ましくは、溶媒に0.01質量%以上の水が含まれていることである。基質が水に溶解する場合には、有機溶媒を使用しないことも可能である。本発明における溶媒として、水等の酸素の溶解度が小さい溶媒を用いる場合は、反応系中の酸素濃度が低い状態となるため、反応気相部の酸素分圧を制御することにより基質の重合等の副反応を効果的に抑制することができる。
【0050】
上記溶媒の添加量としては、特に限定されないが、反応基質100質量部に対して、0.0001質量部以上とすることが好ましく、また、10000000質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.001質量部以上であり、また、9000000質量部以下である。なお、基質が液体である場合には、無溶媒での反応も可能である。
【0051】
本発明のα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法においては、添加剤を用いてもよい。添加剤を用いることにより、系中で反応性の高い触媒活性種が生成し、反応活性を高めることが可能となる。このような添加剤を用いる場合、予め触媒を添加剤によって処理してもよく、α,β−不飽和カルボニル化合物を過酸化物酸化剤と反応させる反応において、反応系中に共存させてもよい。
上記添加剤としては、リン酸、ヒ酸、硫酸、セレン酸、テルル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ホウ酸、硝酸ランタン、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛等が好ましい。より好ましくは、リン酸、硫酸、セレン酸、パラトルエンスルホン酸、ホウ酸、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛等である。
【0052】
上記添加剤を用いる場合、添加剤の添加量としては、触媒100質量部に対して、0.0001質量部以上であることが好ましく、また、100000000質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、0.001質量部以上であり、また、50000000質量部以下である。
【0053】
上記製造方法により生成したα,β−含酸素カルボニル化合物は、蒸留や晶析及び乾燥工程等により単離精製したり、抽出や濃縮工程により、それが溶解した溶液にすることができる。晶析を行う場合、晶析溶媒としては、生成物が単離できれば特に限定されるものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、ノルマル又はイソプロパノール、第3級ブタノール等の炭素数1〜6の第1、2、3級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;イソプロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、ニトロメタン等の窒素化合物類;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類等が好適であり、α,β−含酸素カルボニル化合物の性状や溶解度に応じて、1種又は2種以上を用いることができる。これらの晶析溶媒の中でも、水、第1、2、3級の一価アルコール、エーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等が好ましい。より好ましくは、水、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ヘキサン、トルエン等である。この晶析工程により、例えば、メタクリル酸からメチルグリセリン酸を製造する場合には、化合物中に含まれる水分量を1%未満にすることが可能となる。また、生成物中に含まれる残存触媒量やラジカル反応禁止剤を除去もしくは低減することも可能となる。抽出を行う場合、抽出溶媒としては、基質や生成物に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、例えば、上記溶媒をα,β−含酸素カルボニル化合物の性状や溶解度に応じて、1種又は2種以上を用いることができる。これらの抽出溶媒の中でも、水と二層を形成するエーテル類、エステル類、ケトン類、ニトリル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類が好ましい。より好ましくは、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、クメン、ジイソプロピルベンゼン等である。
【0054】
本発明はまた、上記製造方法を経て得られるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液であって、該α,β−含酸素カルボニル化合物100質量部に対して、基質が重合して副生した高分子化合物が12質量部以下であるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液でもある。上記製造方法を経て得られるα,β−含酸素カルボニル化合物とは、反応終了後に、酸化剤の分解工程、触媒除去工程、濾過工程、溶媒留去工程、蒸留工程、晶析工程、抽出工程、濃縮工程、乾燥工程、減圧乾燥工程等の工程を経た後、得られる化合物である。この化合物の形態は特に限定されず、液体状、固体状、粉体状等のいずれであってもよい。また、α,β−含酸素カルボニル化合物の溶液とは、上記製造方法により得られるα,β−ジヒドロキシカルボニル化合物を、任意の濃度で溶媒に溶解させることにより得られる溶液であってもよいし、また、反応終了後に得られる溶液であってもよく、反応終了後に酸化剤の分解工程、触媒除去工程、濾過工程、溶媒留去工程、抽出工程、濃縮工程等の工程を経た後、得られる溶液であってもよい。場合によっては、α,β−含酸素カルボニル化合物の多量体が含まれていても差し支えない。なお、α,β−含酸素カルボニル化合物の溶液は、α,β−含酸素カルボニル化合物を溶媒で分散混合して得られた分散液であってもよい。
【0055】
上記α,β−含酸素カルボニル化合物の溶液としては、溶液100質量部に対して、α,β−含酸素カルボニル化合物が0.1質量部以上98質量部以下である溶液が好適である。好ましくは、0.5質量部以上95質量部以下であり、より好ましくは、1質量部以上93質量部以下であり、更に好ましくは、5質量部以上90質量部以下である。上記溶液に用いる溶媒としては特に限定されず、上記反応溶媒、晶析溶媒、抽出溶媒を1種又は2種以上用いることができる。中でも、水、第1,2,3級の一価アルコール、多価アルコール、エーテル類、エステル類、ケトン類、アルデヒド類、ニトリル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等が好ましい。より好ましくは、水、メタノール、エタノール、第1級ブタノール、第3級ブタノール、イソプロパノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、イソプロピルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ヘキサン、トルエン、キシレン等である。上記溶媒を用いてα,β−含酸素カルボニル化合物を溶液とする場合としては、上記製造方法を経て得られたα,β−含酸素カルボニル化合物を反応基質に用いる場合に、目的とする反応が、該化合物を溶解している溶液に影響を受けない反応である場合や、該化合物を移動又は輸送する場合等、その用途により溶液の形態が好ましい場合等であり、該化合物を溶液とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0056】
本発明のα,β−含酸素カルボニル化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、これにより反応性の高いα,β−不飽和カルボニル化合物を基質として用いる場合において、基質の副反応や生成物の分解反応を抑えて転化率を向上させて、各種工業製品の原料として用いられるα,β−含酸素カルボニル化合物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「モル%(mol%)」を意味するものとする。
【0058】
実施例1〜11及び比較例1〜3
[メタクリル酸のジオール化反応によるメチルグリセリン酸の製造]
4つ口フラスコに触媒及びラジカル反応禁止剤を加え、イオン交換水及び35%過酸化水素水を添加して、60℃で溶液が均一になるまで攪拌した後、メタクリル酸を滴下漏斗を用いて滴下した。滴下終了後、適切な温度で溶液を攪拌しながら適切な時間熟成した。反応後、過酸化水素が残存する場合には、5%パラジウム−活性炭を加えて60℃で2時間攪拌した後、溶液を濾過した。ここに、塩化ジアリルジメチルアンモニウムと二塩化テトラアリルジピペリジルプロパンアンモニウムのラジカル共重合により得られたイオン交換樹脂を加えて3時間攪拌した後、濾過し、液体を減圧下留去した。得られたシロップ状の無色透明残渣に、晶析溶媒として酢酸エチルを加え、攪拌して、得られた白色固体を濾過し、40℃で減圧乾燥して、目的のメチルグリセリン酸を単離した。なお、収率は、基質として用いたメタクリル酸を100(mol%)としたときの収率(mol%)である。過酸化水素有効利用率は、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)溶液を用いて残存過酸化水素量(mol)を滴定により求め、{メチルグリセリン酸収量(mol)/(基質として用いた過酸化水素量(mol)−残存過酸化水素量(mol))}×100の式により算出した。また、単離生成物中のポリメタクリル酸は、得られたメチルグリセリン酸を100質量部としたときの、ポリメタクリル酸の質量部であり、単離生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析し、ポリメタクリル酸収量(g)/メチルグリセリン酸収量(g)×100の式により算出した。
【0059】
試薬の仕込み量は、以下のとおりである。
メタクリル酸(住友化学社製):500mmol
35%過酸化水素水(旭電化工業社製):500〜525mmol
イオン交換水:138〜275mL
触媒(HWO、HMoO、MoO、HPMo1240):1mol%
反応温度:60℃〜80℃
メタクリル酸滴下時反応液温度:60℃
メタクリル酸滴下時間:2時間
熟成温度:60℃〜80℃
熟成時間:2時間〜22時間
5%パラジウム−活性炭:2g
イオン交換樹脂:2g
【0060】
【表1】

【0061】
実施例12
[アクリル酸のジオール化反応によるグリセリン酸水溶液の製造]
4つ口フラスコにHWO(2mol%)及び4−ヒドロキシ−テトラメチルピペリジン−N−オキシド(1000ppm)を加え、イオン交換水(300mL)及び35%過酸化水素水(旭電化工業社製)(500mmol)を添加して、60℃で溶液が均一になるまで攪拌した後、アクリル酸(日本触媒社製)(500mol)を滴下漏斗を用いて3時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で溶液を攪拌しながら4時間熟成した。反応後、5%パラジウム−活性炭(10g)を加えて60℃で1時間攪拌し、溶液を濾過した。塩化ジアリルジメチルアンモニウムと二塩化テトラアリルジピペリジルプロパンアンモニウムのラジカル共重合により得られたイオン交換樹脂(3g)を加えて3時間攪拌した後、濾過し、液体を減圧下留去することにより、75%グリセリン酸水溶液(グリセリン酸収率62%)を得た。なお、収率は、基質として用いたアクリル酸を100(mol%)としたときの収率(mol%)である。水分は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。また、得られたグリセリン酸を100質量部としたときの、ポリアクリル酸は、溶液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析し、ポリアクリル酸収量(g)/グリセリン酸収量(g)×100の式により算出したところ、0.8質量部であった。
【0062】
比較例4
[アクリル酸のジオール化反応によるグリセリン酸水溶液の製造]
4つ口フラスコにNaWO(15mol%)、イオン交換水(60mL)及びアクリル酸(日本触媒社製)(100mol)を加えて、60℃で溶液が均一になるまで攪拌した後、35%過酸化水素水(旭電化工業社製)(150mmol)を滴下漏斗を用いて、10分間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で溶液を攪拌しながら6時間熟成した。反応後、5%パラジウム−活性炭(10g)を加えて60℃で1時間攪拌し、溶液を濾過した。塩化ジアリルジメチルアンモニウムと二塩化テトラアリルジピペリジルプロパンアンモニウムのラジカル共重合により得られたイオン交換樹脂(5g)を加えて3時間攪拌した後、濾過し、液体を減圧下留去することにより、40%グリセリン酸水溶液(グリセリン酸収率52%)を得た。なお、収率は、基質として用いたアクリル酸を100(mol%)としたときの収率(mol%)である。水分は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。また、得られたグリセリン酸を100質量部としたときの、ポリアクリル酸は、溶液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析し、ポリアクリル酸収量(g)/グリセリン酸収量(g)×100の式により算出したところ、60質量部であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法であって、
該液相酸化反応は、ラジカル反応禁止剤存在下、基質/過酸化物酸化剤の原料モル比を0.84以上、1.10以下として行うことを特徴とするα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法。
【請求項2】
前記ラジカル反応禁止剤は、安定遊離基を有するラジカル反応禁止剤及び分子状酸素から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1記載のα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル反応禁止剤は、ヒドロキノン類、キノン類、フェノール類及びN−ヒドロキシ化合物類からなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物と分子状酸素を併用することを特徴とする請求項1記載のα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の製造方法を経て得られるα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液であって、
該α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液は、α,β−ジヒドロキシカルボニル化合物又はα,β−エポキシカルボニル化合物であり、
該α,β−含酸素カルボニル化合物を100質量部とすると、基質が重合して副生した高分子化合物が12質量部以下であることを特徴とするα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液。
【請求項5】
α,β−不飽和カルボニル化合物を基質とし、過酸化物を酸化剤とする液相酸化反応により、α,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液を製造する方法であって、
該液相酸化反応は、α,β−不飽和カルボニル化合物を反応溶液に滴下して行うことを特徴とする請求項1記載のα,β−含酸素カルボニル化合物又はその溶液の製造方法。



【公開番号】特開2006−137726(P2006−137726A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330439(P2004−330439)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】