説明

γ‐アミノ酪酸含有の食品素材およびその製造方法

【課題】高濃度のGABAが含有されたGABA含有の食品素材の製造方法を提供する。
【解決手段】材料玄米を準備する工程S1と、前記材料玄米を水に浸漬する工程S2と、前記水に浸漬して含水させた材料玄米を湿式粉砕し、平均粒径が20μm以下となるようにライススラリーを生成する工程S3と、前記ライススラリーを反応させて、γ‐アミノ酪酸を生成させる工程S4とからなる高濃度のGABA含有食品素材の製造方法および該製造方法により製造されたγ‐アミノ酪酸含有の食品素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ‐アミノ酪酸(GABA:Gamma−AminoButyric Acid)含有の食品素材およびその製造方法に関し、より詳しくは、玄米を原料とするGABA含有の食品素材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは、アミノ酸の一種であり、抑制系の神経伝達物質として機能することが知られている。GABAは、血圧上昇抑制、抗不安、および肝機能改善等の効果があると言われ、機能性食品素材として注目されている。
【0003】
GABAを多量に生成する方法として、食品を乳酸菌によって発酵させる方法がある。例えば、特開2011−004723号公報(特許文献1)および特開2008−054555号公報(特許文献2)には、GABA高生産能を有する乳酸菌ならびにそれを使用しGABA富化した食品および該食品の製造方法が開示されている。また、特開2008−086292号公報(特許文献3)には、グルタミン酸またはグルタミン酸塩を含む海苔にGABA高生産能を有する乳酸菌を作用させることを特徴とするGABA含有の食品素材の製造方法が開示されている。
【0004】
特開2008−259460号公報(特許文献4)には、トマト搾汁液を20〜80℃、2〜24時間の条件でセルラーゼ処理した後、70〜150℃の温度で加熱処理することを特徴とする、GABA吸収を向上させたトマトジュースの製造方法が開示されている。
【0005】
特開2009−136207号公報(特許文献5)には、酵素活性を有するバナナ、およびL−グルタミン酸もしくはL−グルタミン酸ナトリウム、またはこれらに水を混合して得られるスラリーを20℃以下の保持温度で一定時間保持して、L−グルタミン酸をGABAに変換させる食品素材の製造方法が開示されている。
【0006】
GABAは、玄米等の穀物類を発芽させることによって富化できることが知られている。胚芽中のグルタミン酸が、内在酵素によってGABAに変換されるためである。特開2011−139659号公報(特許文献6)には、発芽玄米米飯およびその製造方法が開示されている。特開2011−103801号公報(特許文献7)には、GABA、タウリン高含有発芽種子およびその製造方法、ならびに食品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−004723号公報
【特許文献2】特開2008−054555号公報
【特許文献3】特開2008−086292号公報
【特許文献4】特開2008−259460号公報
【特許文献5】特開2009−136207号公報
【特許文献6】特開2011−139659号公報
【特許文献7】特開2011−103801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3のように、発酵によりGABAを生成する方法は、雑菌の混入を防ぐための特殊な装置が必要である。また、発酵によるGABAの生成速度は遅く、食品の乾燥重量100gあたり数十〜数百ミリグラムのGABAを得るのに、数日〜数週間程度を要するという問題がある。
【0009】
特許文献4および5に記載の食品素材の製造方法は、その製造工程でセルラーゼ/L−グルタミン酸等といった化学物質を添加するものである。これは、天然指向の消費者のニーズに合致しないという問題がある。GABAの富化方法は、天然素材のみで行われるものが好ましい。
【0010】
特許文献6および7に記載の発芽玄米米飯/発芽種子は、玄米/種子を固体のまま発芽させる固体反応によりGABA富化を行っている。しかし、固体状態では基質と酵素との反応性に乏しい。そのため、これらによるGABAの生成速度は遅く、生成量も低濃度である。
【0011】
本発明の目的は、高濃度のGABAが含有されたGABA含有の食品素材およびその製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、γ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法であって、材料玄米を準備する工程と、前記材料玄米を水に浸漬する工程と、前記水に浸漬して含水させた材料玄米を湿式粉砕し、ライススラリーを生成する工程と、前記ライススラリーを反応させて、γ‐アミノ酪酸を生成させる工程とを含む。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のγ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法であって、前記ライススラリーを反応させる工程は、前記ライススラリーを振とうまたは撹拌して反応させる工程を含む。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のγ‐アミノ酪酸含有食品素材の製造方法であって、前記ライススラリーを反応させる工程は、20〜40℃の恒温水槽内で行われる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のγ‐アミノ酪酸含有食品素材の製造方法であって、前記材料玄米を湿式粉砕する工程において、前記ライススラリーの平均粒径が20μm以下となるように調整する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のγ‐アミノ酪酸含有食品素材の製造方法により製造されたγ‐アミノ酪酸含有食品素材である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、玄米を伝熱性、流動性、反応性に富むライススラリーにしてGABA生成を行う。そのため、反応制御が容易になるとともに、GABAの生成速度・濃度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法の手順を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法において湿式粉砕に用いる、湿式電動石臼の概略構成を示す模式的断面図である。
【図3】図3は、本実施形態にかかるGABA含有食の品素材の製造方法においてGABA生成反応に用いる、GABA生成装置の概略構成を示す模式的断面図である。
【図4】図4は、実施例1で使用した原料玄米「北陸胚240号」の成分分析の結果を示す表である。
【図5】図5は、各反応温度において、横軸に反応時間(時間)を、縦軸は乾燥重量100gあたりのGABA含有量(mg/100g玄米)をプロットした図である。
【図6】図6は、冷凍していないライススラリーと、冷凍および解凍を行ったライススラリーとにおいて、横軸に反応時間(時間)を、縦軸は乾燥重量100gあたりのGABA含有量(mg/100g玄米)をプロットした図である。
【図7】図7は、本発明の実施例にかかるライススラリーと、比較例にかかる玄米粒とにおいて、横軸に反応時間(時間)を、縦軸は乾燥重量100gあたりのGABA含有量(mg/100g玄米)をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。また、各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法の手順を示す図である。本実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法は、原料玄米を準備する工程(S1)と、原料玄米を水に浸漬する工程(S2)と、水に浸漬して含水させた原料玄米を湿式粉砕してライススラリーを生成する工程(S3)と、ライススラリーを反応させてGABAを生成させるGABA生成反応工程(S4)と、反応を停止させる工程(S5)とを含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0021】
[原料玄米を準備する工程]
原料となる玄米の品種は特に限定されない。既述のように、GABAは玄米の胚芽に含まれるグルタミン酸が内在酵素(グルタミン脱炭酵素(GAD)等)によって分解されて生成される(化1参照)。そのため、原料玄米は、胚の大きい品種が好ましく、また、内在酵素を多く含む品種が好ましい。原料玄米は、一部精白されたものを含んでいても良く、発芽させたものであっても良い。
【0022】
【化1】

【0023】
[原料玄米を水に浸漬する工程]
原料玄米を通常の方法で洗米する。洗米後、原料玄米を水に浸漬する。この工程は、次工程の湿式粉砕に先立って原料玄米を含水させておき、原料玄米を軟らかくすることを目的とする。含水率は、浸漬時間により制御することができる。浸漬時間が長いほど、含水率が高くなり、原料玄米は軟らかくなる。そのため、次工程で原料玄米を湿式粉砕したときに、より粒径の細かいスラリーが得られる。浸漬時間は特に限定されないが、例えば1.5〜5時間である。なお、生菌の増加を防ぐため、冷水を用いて行うことが好ましい。
【0024】
[湿式粉砕工程]
次に、水に浸漬して含水させた原料玄米を湿式粉砕してライススラリーを生成する。本実施形態では、水に浸漬して含水させた原料玄米を湿式粉砕して得られる分散体をライススラリーと呼ぶ。
【0025】
図2は、本実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法において湿式粉砕に用いる、湿式電動石臼1の概略構成を示す模式的断面図である。以下、図2を参照して、湿式電動石臼1の構成を説明する。湿式電動石臼1は、土台10、上臼11、下臼12、シュラウド13、モータ14、回転軸141、ホッパ15、原料供給スクリュ16、モータ17、原料供給ビーカ18、送液ポンプ19、および送液管20を備えている。
【0026】
固形原料はホッパ15に投入される。固形原料は、モータ17が駆動する原料供給スクリュ16によって、一定量ずつ運ばれる。一方、原料供給ビーカ18内の液体原料は、送液ポンプ19によって一定量ずつ送液管20内を通じて運ばれる。本実施形態では、固体原料として水に浸漬して含水させた原料玄米を、液体原料として水を使用する。
【0027】
上臼11および下臼12は、互いに同軸で、外径もほぼ等しい円柱状に形成されている。上臼11と下臼12との間には、僅かなクリアランスが設けられている。下臼12は、回転軸141に取り付けられており、モータ14によって回転できるように構成されている。上臼11は、図示しない部材によって土台10に固定されている。上臼11は、回転軸141を回転自在に支持している。これにより、下臼12のみが回転し、上臼11は回転しないように構成されている。湿式電動石臼1は、上臼11と下臼12との間のクリアランスに挟みこまれた被粉砕物を、固定された上臼11と回転する下臼12とによって生じる磨砕力およびせん断力によって微細化する。
【0028】
下臼12の天面には、細かい溝が形成されている。この溝の深さやパターンは、目的とする微細化の程度に応じて種々のものから選択できるようになっている。
【0029】
上臼11および下臼12の周囲を覆って、シュラウド13が形成されている。シュラウド13は、上臼11および下臼12よりも一回り大きな外径を有する有底の筒形状である。シュラウド13の底の一部には、粉砕物排出口13aが形成されている。
【0030】
上臼11には、上臼11の上面から下面まで貫通する開口11aが形成されている。モータ17および送液ポンプ19によって一定量ずつ運ばれた固形原料および液体原料は、一定割合で混合されながら、開口11aに注入される。そして、上臼11と下臼12との間のクリアランスに到達する。下臼12の回転によって、固体原料は微細化されるとともに、液体原料内に分散してスラリーを形成する。
【0031】
形成されたスラリーは、遠心力によって、上臼11と下臼12との間のクリアランスの外部に吐き出される。吐き出されたスラリーは、シュラウド13によって捕集され、粉砕物排出口13aから排出される。スラリーの、クリアランス内での滞留時間は、固体原料および液体原料の供給速度、供給割合および粘度、下臼12の回転速度、下臼12の天面に設けられた溝のパターン等によって制御される。これらは、目的とする微細化の程度に応じて種々の条件から選択される。
【0032】
以上、湿式電動石臼1の構成について説明した。
【0033】
既述のように、本実施形態では、固体原料として水に浸漬して含水させた原料玄米を、液体原料として水を使用してライススラリーを作製する。原料玄米の供給速度は、特に限定されないが、例えば5〜50g/分である。好ましくは10〜40g/分であり、さらに好ましくは15〜30g/分である。水の供給速度は、特に限定されないが、例えば10〜500mL/分である。好ましくは20〜200mL/分であり、さらに好ましくは30〜120mL/分である。形成されるライススラリーの固形分濃度は、原料玄米と水との供給割合によって決定される。したがって、固形分濃度を正確に調整するため、原料玄米は、十分に水切をしてから供給することが好ましい。下臼の回転速度は、特に限定されないが、例えば10〜90rpmである。好ましくは20〜80rpmであり、より好ましくは30〜70rpmである。
【0034】
湿式粉砕により得られたライススラリーに、さらに湿式電動石臼1により湿式粉砕を行っても良い。このとき、ライススラリーをそのまま開口11aに投入しても良いし、加水してから投入しても良い。目的とする微細化の程度に応じて、下臼12の天面の設けられた溝のパターンを変更することが好ましい。
【0035】
以上の工程で、原料玄米を湿式粉砕したライススラリーが作製された。本実施形態による原料玄米の湿式粉砕は、連続処理が可能であり、ボールミル等を用いた回分式の操作と比べて効率が良い。また、粉砕と脱水とを繰り返す米粉の製造と比較して、省エネルギープロセスであり、また、廃水処理が不要という利点がある。さらに、粉砕時に、デンプン等の栄養素の損傷が少ない。
【0036】
ライススラリーは、これに限定されないが、例えば固形分濃度が3〜15重量%のものであり、好ましくは、5〜12重量%のものであり、より好ましくは、7〜10重量%のものである。また、ライススラリーは、これに限定されないが、レーザー回折粒度分布計による平均粒子径が30μm以下のものである。なお、平均粒子径は小さい方がGABA生成反応に有利であると考えられ、好ましくは、20μm以下であり、より好ましくは、10μm以下であり、さらに好ましくは、7μm以下である。また、粒度の揃ったものが好ましい。
【0037】
ライススラリーは、湿式粉砕によって形成された状態から、希釈または濃縮を行って、固形分濃度を調整しても良い。また、種々の添加物、例えば補酵素等を添加しても良い。
【0038】
また、ライススラリーは、冷凍して保存することができる。詳しくは実施例として後述するが、冷凍および解凍を行っても、GABA生成量へ与える影響は小さい。
【0039】
[GABA生成反応工程]
次に、このライススラリーを用いてGABA生成反応を行う。
【0040】
図3は、本実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法においてGABA生成反応に用いる、GABA生成装置2の概略構成を示す模式的断面図である。以下、図3を参照して、GABA生成装置2の構成を説明する。GABA生成装置2は、ヒータ21、恒温水槽22、熱媒23、振とう器24、およびGABA生成反応容器25を備えている。
【0041】
ヒータ21は、図示しない温度計を備えており、恒温水槽22に充填された熱媒23の温度を一定に保っている。熱媒23には、油や水を用いることができるが、通常は水を用いる。GABA生成反応容器25には、GABA富化させたい食品素材を入れる。このとき必要に応じて、溶媒(水等)を添加しても良い。食品素材が入ったGABA生成反応容器25は、振とう器24により、図3中に矢印で示したように水平面内で、一定周期で振とうされる。
【0042】
本実施形態では、GABA生成反応容器25にライススラリーを入れ、GABA生成反応を行う。恒温水槽22の熱媒23の温度は特に限定されないが、例えば10〜60℃である。好ましくは20〜40℃であり、より好ましくは28℃〜38℃である。
【0043】
反応時間は、特に限定されないが、例えば2〜90時間である。好ましくは6〜72時間であり、より好ましくは12〜48時間である。ある程度は飽和はするが、反応時間が長いほどGABA生成量は多くなる。
【0044】
振とう器24の振とう速度は特に限定されないが、例えば20〜120rpmである。好ましくは40〜100rpmであり、より好ましくは50〜90rpmである。振とうに代えて、または振とうに加えて、撹拌を行っても良い。また、反応を行う環境は、好気環境および嫌気環境のいずれでも良く、GABA生成反応容器25内に送気を行っても良い。反応の進行とともに、ライススラリーのpHは低下するが、pH調整を行っても良いし、行わなくても良い。
【0045】
[反応停止工程]
GABA富化したライススラリーを、沸騰水浴に10分間保持し、酵素を失活させてGABA生成反応を停止させる。
【0046】
以上の工程により、GABA富化したライススラリーが作製された。GABA富化したライススラリーを、殺菌しても良い。この殺菌は、例えば、圧力をかけて均質化した後、高温短時間(HTST)殺菌を用いて行うことができる。HTST殺菌の条件は、例えば、処理温度85℃、処理時間15秒である。また、超高温(UHT)殺菌を用いて行うことができる。UHT殺菌の条件は、例えば、処理温度125℃、処理時間5秒や、処理温度135℃、処理時間3秒である。
【0047】
GABA富化したライススラリーは、GABA含有の食品素材として、様々な用途に用いることができる。GABA含有の食品素材が用いられる食品としては、ライススラリーを主原料にするものであっても良いし、他の食品にライススラリーを添加するものであっても良い。また、GABA含有の食品素材は、希釈または濃縮を行ってから使用しても良く、固形分と水分とを分離しても良い。その他、GABAを変性させない限りで、種々の加工を行っても良い。GABA含有の食品素材が用いられる食品としては、これに限定されないが、例えば、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン等を挙げることができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態にかかるGABA含有の食品素材の製造方法を説明した。本実施形態によれば、原料玄米を伝熱性、流動性、反応性に富むライススラリーにしてGABA生成を行う。そのため、反応制御が容易になるとともに、GABAの生成速度・濃度を高めることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は本発明を限定するものではない。
【0050】
[実施例1]
原料玄米として、北陸胚240号(巨大胚品種)を用いた。ライススラリー作製に先立って測定した成分分析の結果を図4に示す。成分分析は、株式会社ケット化学研究所製、成分分析計AN−800を用いて行った。なお、図4中の品質評価値とは、食味値とも呼ばれ、タンパク質、水分、アミロース、および脂肪酸の成分含有量を総合的に評価した値である。
【0051】
原料玄米を通常の方法で洗米した後、2℃の水に1.5時間浸漬した。浸漬した原料玄米を十分に水切した。原料玄米の含水率は、27%であった。
【0052】
湿式電動石臼1により、原料玄米を湿式粉砕してライススラリーを作製した。玄米の供給速度を20g/分、水の供給速度を60g/分、下臼12の回転速度は50rpmに、それぞれ設定した。得られたライススラリーは、固形分濃度が約9.8質量%であった。レーザー回折粒度分布計(株式会社島津製作所製、SALD−2200)で測定した平均粒径は、約10μmであった。
【0053】
得られたライススラリーをGABA生成反応容器25に入れて振とう器24を67rpmで振とうさせ、GABAを生成させた。このとき、恒温水槽22の熱媒23の温度を、20℃、30℃、40℃、および50℃の5水準でGABA生成反応を行い、GABA生成の温度依存性を調査した。また、反応時間として、6時間、12時間、および24時間の3水準でGABA生成反応を行い、GABA生成の反応時間依存性を調査した。反応時間経過後、沸騰水浴中で10分間保持して酵素を失活させ、反応を停止させた。
【0054】
上記のようにしてGABA富化したライススラリーの、GABA含有量の測定を行った。まず、ライススラリーを、エバポレータによって蒸発乾固させた。残留物を移動相溶媒(10mmol/Lヘキサンスルホン酸ナトリウムを含む20mmol/Lりん酸ナトリウム緩衝液)に溶解した。この溶液を高速液体クロマトグラフィ(HPLC)に注入して、GABA含有量を測定した。この測定は、株式会社島津製作所製、LC−20Aを用いて行った。
【0055】
結果を図5に示す。図5は、各反応温度において、横軸に反応時間(時間)を、縦軸は乾燥重量100gあたりのGABA含有量(mg/100g玄米)をプロットした図である。図5中、E20は反応温度20℃のデータを示している。同様に、E30は反応温度30℃のデータを、E40は反応温度40℃のデータを、E50は反応温度50℃のデータを、それぞれ示している。GABA含有量は、反応初期に最も大きく増加し、その後は次第に緩やかに増加した。また、反応温度30℃において、最も多くのGABAを生成した(25.1mg/100g玄米)。
【0056】
[実施例2]
ライススラリーを冷凍保存した場合の影響について調査を行った。まず、実施例1と同様にライススラリーを作製した。そして、その一部を冷凍庫に入れて−20℃で冷凍した。冷凍したライススラリーを、その後、冷蔵庫に入れて解凍した。
【0057】
冷凍していないライススラリーと、冷凍および解凍を行ったライススラリーとを、それぞれGABA生成反応容器25に入れて、振とう器24を振とうさせ、GABAを生成させた。このとき、恒温水槽22の熱媒23の温度は33℃とした。それ以外の条件は実施例1と同様にしてGABA含有量を測定した。
【0058】
結果を図6に示す。図6は、冷凍していないライススラリーと、冷凍および解凍を行ったライススラリーとにおいて、横軸に反応時間(時間)を、縦軸は乾燥重量100gあたりのGABA含有量(mg/100g玄米)をプロットした図である。図6中、e1は冷凍していないライススラリーのデータを、e2は冷凍および解凍を行ったライススラリーのデータを、それぞれ示している。図6に示すように、冷凍および解凍を行ったライススラリーの方が、初期のGABA含有量が多かったが、これは、解凍時にGABA生成反応が起こったためと考えられる。また、冷凍していないライススラリーと、冷凍および解凍を行ったライススラリーとで、24時間後のGABA含有量は同程度であった。このことから、ライススラリーの冷凍および解凍を行っても、GABA生成量へ与える影響は小さく、品質を維持できることがわかった。
【0059】
[比較例1]
比較例として、市販の発芽玄米(株式会社シジシージャパン製)のGABA含有量を測定した。炊飯した発芽玄米から有効成分をエタノールで抽出し、抽出物をエバポレータで蒸発乾固させた。以下、実施例と同様にしてGABA含有量を測定した。GABA含有量は、10.27mg/100g玄米であった。
【0060】
[比較例2]
他の比較例として、原料玄米(北陸胚240号)を、粒子のまま、水とともにGABA生成反応容器25に入れて、振とう器24を振とうさせ、GABAを生成させた。このとき、恒温水槽22の熱媒23の温度は30℃とした。それ以外の条件は実施例1と同様にしてGABA含有量を測定した。
【0061】
結果を図7に示す。図7は、本発明の実施例にかかるライススラリーと、比較例にかかる玄米粒とにおいて、横軸に反応時間(時間)を、縦軸は乾燥重量100gあたりのGABA含有量(mg/100g玄米)をプロットした図である。図7中、E30は実施例1によるデータを、C30は比較例2によるデータを、それぞれ示している。図7に示すように、実施例1の方が、GABA含有量の立ち上がりが速かった。スラリー化することで、初期の反応速度が向上することが分かった。
【0062】
以上の実施例から、原料玄米を伝熱性、流動性、反応性に富むライススラリーにしてGABA生成を行うことで、GABAの生成速度・濃度を高められることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、GABA含有の食品素材およびその製造方法として、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 湿式電動石臼
10 土台
11 上臼
12 下臼
13 シュラウド
14 モータ
141 回転軸
15 ホッパ
16 原料供給スクリュ
17 モータ
18 原料供給ビーカ
19 送液ポンプ
20 送液管
2 GABA生成装置
21 ヒータ
22 恒温水槽
23 熱媒
24 振とう器
25 GABA生成反応容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法であって、
材料玄米を準備する工程と、
前記材料玄米を水に浸漬する工程と、
前記水に浸漬して含水させた材料玄米を湿式粉砕し、ライススラリーを生成する工程と、
前記ライススラリーを反応させて、γ‐アミノ酪酸を生成させる工程と、
を含む、γ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のγ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法であって、
前記ライススラリーを反応させる工程は、前記ライススラリーを振とうまたは撹拌して反応させる工程を含む、γ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のγ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法であって、
前記ライススラリーを反応させる工程は、20〜40℃の恒温水槽内で行われる、γ‐アミノ酪酸含有食品素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のγ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法であって、
前記材料玄米を湿式粉砕する工程において、前記ライススラリーの平均粒径が20μm以下となるように調整する、γ‐アミノ酪酸含有の食品素材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のγ‐アミノ酪酸含の有食品素材の製造方法により製造されたγ‐アミノ酪酸含有の食品素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−99303(P2013−99303A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245885(P2011−245885)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】