説明

においメモリチップ

【課題】好感度の大きなにおいなど、高価値のにおいを任意の時刻に任意の場所で再現する携帯用の手段を提供し、またいくつもの基準ガスまたは基準試料をにおい識別装置の近傍に用意する必要があった従来の校正作業を改善する。
【解決手段】捕集剤11をベッド12上に配設し、グラスウール13および14で挟持する。ベッド12の一端に、常温では垂直方向に展開され加熱によって円弧状に変形する形状記憶合金製の扉15を接合する。ベッド12の下面は絶縁材料で絶縁し、加熱のためのヒータが印刷され端面に電力導入用のコネクタ17を設けた基板16の上面に載置する。基板16を熱インシュレータ18上に載置する。これらの要素類を内部カバー19、さらに携帯用の外囲器20内に収納する。においの流通のため、外囲器20の前後は開口とし、ヒータの加熱によりあらかじめ吸着したにおいを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品や香料などの特定のにおいを任意の場所で発生するための携帯用のにおい供給装置(以下、原則としてにおいメモリチップと記載する)に関する。
【0002】
一般に、におい識別装置(以下「識別装置」と称す)を使用して食品・食材などの官能値を測定し他の測定値と比較する場合には、ボンベに封入された既知試料ガスや香料の混合物、または興味のあるにおい成分と同種の官能値を持つ既知試料を封入したバッグを基準ガスまたは基準試料バッグとして用意し、におい識別装置の校正を行う必要がある。校正時は識別装置の試料吸入口に、図5に示す基準試料2、可撓性を有するバッグ3および接続ポート4からなる基準試料バッグ部1を接続ポート4を介して接続し、測定時の手順に準じて基準試料バッグ部1から基準試料2を供給し、校正を行う。なお基準試料バッグ部1に替えて前記基準ガスを使用する場合は、既知試料ガスや香料の混合物を封入した基準ガスボンベ(図示せず)を吸入口に接続し、測定時の手順に準じて校正を行う。
【0003】
【特許文献1】特開2002−22692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
標準的な食品や香料、さらに特定の食品のにおいや、好感度の大きなにおいなどの高価値のにおいを、識別装置に接続しまたは独立で、希望に応じて任意の場所で簡易に発生するために、携帯に適し簡便な手順でにおいを発生させることが可能なにおい供給装置の提供が要望されているが、従来この用途に適したにおい供給装置は提供されていなかった。すなわち、従来のにおい供給装置としては図5に示したバッグ3または前記基準ガスボンベ(以下試料容器やバッグと略記する)が使用されているが、寸法・重量の大きな試料容器やバッグは簡易ににおいを供給する携帯用の機器ではない。またバッグを使用して長期間試料を保管すると、漏れやバッグ素材からのにおい成分の発生などの問題が生じる。
【0005】
校正の別方式として提案されているにおいのバーチャルリアリティ方式は、やはり香料を混合した基準試料を使用する必要があり、現状では品質に限界がある。この方式の動向としては、最初に特定の識別装置で標準となるにおいを分析し、そのデータを別の場所の識別装置に伝送し、伝送データを再現するように幾つかの香料を混合してにおいを再現合成した上で、合成ガスをその場所での基準ガスとして使用し測定をする方式が提案されているが、現在の技術の完成度では現実にはこの方法の実現はまだ困難である。
【0006】
したがって、基準的な食品や香料、さらに特定の食品のにおいや、好感度の大きなにおいなどの高価値のにおいを、識別装置に接続しまたは独立で、希望に応じて任意の場所で簡易に発生するために、携帯に適し簡便な手順でにおいを発生させることが可能なにおい供給装置の提供が要望されている。本発明はこのような問題点を解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が提供するにおいメモリチップは上記課題を解決するために、におい捕集剤と、前記捕集剤を加熱するヒータを内蔵した捕集室と、常温においては前記捕集室と外方を遮断しヒータの加熱に際しては前記捕集室を外方に開放する捕集室の扉を備え、前記ヒータの加熱によって、あらかじめ捕集剤に捕集されたにおいを放出させる。またにおいメモリチップはパーソナルコンピュータと直結するための端子を備える。また前記捕集室の扉は形状記憶合金により常温においては捕集室と外方を遮断しヒータの加熱に際しては捕集室を外方に開放する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば携帯に適したにおいメモリチップによって、好感度の大きなにおいなど、高価値のにおいを任意の時刻に任意の場所で発生することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図示例にしたがって説明する。図1(A)および(B)は本発明のにおいメモリチップの構成の一例を示している。図1(A)は外観図、図1(B)は分解図である。においメモリチップ10において、におい成分を吸着・保持する捕集剤11は銅などの熱伝導の良好な材料で作製されたベッド12上に配設され、前後をにおい成分を透過するグラスウール13および14で挟持されている。ベッド12の一端には形状記憶合金製の扉15が接合されている。扉15は常温では垂直方向に展開され、加熱によって図1に示されているように円弧状に変形する。なお、図3の説明で後記するように、扉15は捕集剤11の両側に設けても良い。
【0010】
ベッド12はアルミナなどの絶縁性材料で作製された基板16上に載置されている。基板16の上面にはNiCrなどの抵抗材料で加熱のためのヒータが印刷されており、前記ヒータはコネクタ17から導入される電力によって加熱される。コネクタ17はたとえばUSBインターフェースなどの形式である。配線との短絡を防止するため、ベッド12の下面はアルミナなどの絶縁性材料を塗布するなどの方法で絶縁されている。
【0011】
加熱に際して基板16から外方への熱の散逸を低減するため、基板16は2個の熱インシュレータ18上に載置されている。これらの要素類は、ガラスまたは耐熱性プラスチックなどの材料で作製され側面内面が基板16の側面外面に滑合した内部カバー19内に収納される。内部カバー19はさらに、プラスチック等で成形された外囲器20内に収納されている。外囲器20の一端は外方機器から電力を導入するため、コネクタ17の端部が露出している。においの流通のため、外囲器20の前後は開口になっている。
【0012】
図2はにおいメモリチップ10の利用の一例である。4個のにおいメモリチップ10が、たとえば前記のUSB形式のPCコネクタ31によってパーソナルコンピュータ、PC30に接続されている。PC30からの制御によって、任意の1個のにおいメモリチップ10が加熱され、におい成分がにおいメモリチップ10の周囲に昇華する。たとえばPC30に特定の食品または料理の画像を出すと共に対応したにおいメモリチップ10を加熱することにより、画像に対応した特定の食品または料理のにおいをPC30周辺に昇華させ、においを伴った画像から付加価値の拡大された知見を得ることができる。
【0013】
図3は、においメモリチップ10aににおい成分を採取するために使用する吸入圧送部40の構造および、基準試料バッグ部1、においメモリチップ10aおよび吸入圧送部40の相互接続の一例を模式的に示している。吸入圧送部40は接続ポート41、扉開放バー42、ポンプ43および接続ポート44で構成され、ポンプ43は通電により、吸入圧送部40内部の気体を左から右に送出する。
【0014】
においメモリチップ10aおよび外囲器20aは図1に示したにおいメモリチップ10および外囲器20と基本構造は同一であるが、前段装置、後段装置との接続に便ならしめるため、外囲器20aの開口部には接続ポート21および22を設け、またコネクタ17の方向を変更している。また形状記憶合金の扉15aを増設し、図1の扉15に対応する扉15bと協動して捕集剤11の両側を閉じきり可能にしている。図5において説明したごとく、標準試料バッグ部1は食品などの基準試料2を封入したバッグ3と摺り合わせ形式(メス)の接続ポート4から構成されており、接続ポート4の接続ポート21への挿入によってにおいメモリチップ10aと結合される。
【0015】
またにおいメモリチップ10aは、接続ポート22の接続ポート41への挿入によって吸入圧送部40と結合される。このとき、吸入圧送部40の接続ポート41に固定されている扉開放バー42がにおいメモリチップ10aに挿入され、扉15a、15bが機械的に開放される。この状態でポンプ43を作動させると基準試料2のにおい成分は常温の捕集剤11を通過し、におい成分が捕集剤11に吸着・蓄積される。
【0016】
図4は本発明のにおいメモリチップ10aおよび吸入圧送部40を識別装置に接続し、校正または試料測定を行う場合の相互接続を示している。吸入圧送部40の接続ポート24はにおいメモリチップ10aの接続ポート21に接続される。またにおいメモリチップ10aの接続ポート22は識別装置の吸入口Sに接続される。
【0017】
PC30からの指令により、コネクタ17を介設して基板16上面のヒータ、したがって捕集剤11が加熱され、あらかじめ吸着されていたにおい成分が放出される。さらにポンプ43を作動させ、放出されたにおい成分を識別装置に導入する。におい成分が特定の食品等の成分であれば、においメモリチップ10aは携帯用の試料として作動する。またにおい成分が標準試料であれば、においメモリチップ10aは携帯用の標準試料として作動する。
【0018】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、さらに種々の変形実施例を挙げることができる。たとえば図3ではコネクタ17の配置の一例として図1とはコネクタ17の方向を変更しているが、前段装置との接続のためには必ずしもコネクタ17の方向を変更する必要はなく、たとえばコネクタ17より大きな開口の接続ポート21を使用してコネクタ17を図1と同じ方向に設け、吸入圧送部40にコネクタ17の受け口を設け、吸入圧送部40を介設してPC30と接続することもできる。また図3、図4では各接続ポートは摺り合わせ形式で示されているが、フランジ形式、ねじ込み形式など、他の形式の接続ポートとしてもよい。また捕集剤には物理的吸着を行い本発明の機能を行う捕集剤も含まれるものである。
【0019】
また必要に応じて、標準試料バッグ部1とにおいメモリチップ10a、またにおいメモリチップ10aと識別装置などを可撓性のチューブ、たとえばテフロン(R)チューブを介して接続しても良い。また扉開放バー42の構造および保持方法は図3、4に示したものには限定されない。たとえば扉開閉バー42を図3の接続ポート41に対して固定するのではなく、ポンプ43に固定しても良い。
【0020】
扉開閉バー42の断面形状も円、楕円、長方形など各種の形状が考えられる。また図4における扉15aの加熱変形時の湾曲方向を逆方向にすると共に、扉開閉バー42の機能を2分割し、標準試料バッグ部1の接続ポート4の部分に扉15aを開くためのバーを追加し、吸入圧送部40の扉開閉バー42は長さを短縮して扉15bの開放専用としても良い。図4において、においメモリチップ10aと吸入圧送部40の結合時に同時にポンプ43の作動用制御信号線(図示せず)をにおいメモリチップ10aに結合させ、さらににおいメモリチップ10aを介設してコネクタ17に接続させ、ポンプ43の作動をPC30で制御することも可能である。なお図4において図1、図3と同一の符号で示される部品は図1、図3と同一の部品であり、詳細な説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のにおいメモリチップの基本構造を示す斜視図である。
【図2】本発明のにおいメモリチップの使用の一例を示す図である。
【図3】本発明のにおいメモリチップににおい成分を採取する際の外方機器との相互接続の一例を示す図である。
【図4】本発明のにおいメモリチップをにおい識別装置に接続する際の外方機器との相互接続の一例を示す図である。
【図5】基準試料バッグ部の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 基準試料バッグ部
2 基準試料
3 バッグ
4 接続ポート
10 においメモリチップ
10a においメモリチップ
11 捕集剤
12 ベッド
13 グラスウール
14 グラスウール
15 扉
15a 扉
15b 扉
16 基板
17 コネクタ
18 熱インシュレータ
19 内部カバー
20 外囲器
20a 外囲器
21 接続ポート
22 接続ポート
30 PC
31 PCコネクタ
40 吸入圧送部
41 接続ポート
42 扉開放バー
43 ポンプ
44 接続ポート
S 吸入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
におい捕集剤と、前記捕集剤を加熱するヒータを内蔵した捕集室と、常温においては前記捕集室と外方を遮断しヒータの加熱に際しては前記捕集室を外方に開放する捕集室の扉を備え、前記ヒータの加熱によって、あらかじめ捕集剤に捕集されたにおいを放出させるようにしたことを特徴とするにおいメモリチップ。
【請求項2】
においメモリチップはパーソナルコンピュータと直結するための端子を備えたことを特徴とする請求項1記載のにおいメモリチップ。
【請求項3】
前記捕集室の扉は形状記憶合金により常温においては捕集室と外方を遮断しヒータの加熱に際しては捕集室を外方に開放することを特徴とする請求項1または請求項2記載のにおいメモリチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−156823(P2009−156823A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338324(P2007−338324)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】