説明

めっき部材

【課題】硫化に対する耐性が強く、かつ、単純な手法で得られる軟質合金めっき皮膜が形成されためっき部材を提供する。
【解決手段】本発明のめっき部材は、基材に銀めっきとインジウムめっきとを施し、熱拡散によってインジウムを銀中に拡散させることによって形成することができる。インジウムの膜中における含有率は、重量%で0.1%以上60%未満が望ましい。硬度の調整のために、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン、金、又は、ビスマスから選ばれる1種以上の金属を、膜中の含有率(重量%)で1%以下加えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金めっきが形成されためっき部材に関し、特に耐硫化特性、耐摩擦、耐摩耗特性に優れた、拡散により合金化した、合金めっき皮膜が形成されためっき部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受けや接点等の金属同士が摺動したり、接触したりする部分の摩擦抵抗、摩耗特性等を改善するために、それらの部分には、錫、銀、亜鉛、鉛、インジウム等の軟質金属及びそれらを含む合金が古くから用いられている。しかしながら、一般的には、軟質の金属や合金は、摩擦や摩耗の特性に優れているが、速度、荷重などの摺動条件によっては、必ずしも同じ組成を有した摺動表面が、常に優れているとは限らない。
【0003】
軸受け部の劣化に関しては、単に摩擦や摩耗だけでなく潤滑油中の成分による腐蝕やメカノケミカルな挙動も原因となっている。従って、限られた測定値だけでは寿命の評価が不可能な場合が多い。軸受け部等に用いる材料に関しては、類似した技術の例が多くの特許文献において見受けられる。
【0004】
基材の表面に軟質金属(または合金)のめっきを施す手法や、或いはその他の何らかの方法で基材とは異なる表面層を形成させる手法は、古くから用いられている。この技術分野においても類似した組成を有する例が特許文献に現れている。銀及びインジウムを含む合金に着目すると下記のような例がある。
【0005】
たとえば、特許文献1には、「軌道面が凹凸加工され、かつ、少なくともその凹凸加工に軟質金属の鍍金が施された後に凸部の鍍金は除去され、軌道輪用部材の表面が露出するとともに、凹部内に軟質金属が少なくともころに付着する異物を除去するための金属として残されてなることを特徴とするころ軸受け用軌道輪」及び、「鍍金工程に用いる軟質金属が、金、銀、銅、錫、インジウム、亜鉛、及びアルミニウムにより選択された少なくとも1種またはこれらの基合金」が提案されている。
【0006】
特許文献2には、「接点の接触面は、Snを1〜9質量%含み、Inを1〜9質量%含む化学組成のAg合金からなり、表面部の第一層と内部の第二層とを有し、第一層のマイクロビッカース硬度が190以上、第二層のマイクロビッカース硬度が130以下であり、第一層の厚みが、10〜360μmの範囲内にあることを特徴とする直流リレー」が提案されている。
【0007】
特許文献3には、「錫基オーバレイ層の最上層には、亜鉛、インジウム、アンチモン、銀のうち、1種または2種以上を総量で5質量%以下含むことを特徴とする複層摺動材料」が提案されている。
【0008】
特許文献4には、「インジウム、銅、亜鉛、アンチモン、銀から選ばれた1種または2種以上を0.1〜25重量%、残部錫からなることを特徴とする」「銅系すべり軸受けの錫基オーバーレイ層」が提案されている。
【0009】
特許文献5には、「内側孔表面が軸受材料で被覆されていることを特徴とする遊星歯車」であって、該軸受材料が「a 銅、アルミニウム、銀、およびその混合物で構成される群から選定された少なくとも1種の要素と、b 鉛、錫、インジウム 、アンチモン、およびこれらの混合物で構成される群から選定されるバランス材料と、の混合物から成る遊星歯車」が提案されている。
【0010】
特許文献6には、「転動体を使用した機械部品の転がり摩擦面および滑り摩擦面の中の少なくとも一部の摩擦面に、軟質金属または高分子材料の1種または2種以上の微粒子を、ノズルから空気と共に吹き付けて固体潤滑被膜を形成する転動体使用部品の固体潤滑被膜形成方法」が開示され、該微粒子として「金,銀,鉛,亜鉛,すず,インジウム等の軟質金属や、ポリ四ふっ化エチレン(PTFE)や、ペルフルオロアルコキシふっ素樹脂(PTA)等の高分子材料」を用いることが提案されている。
【0011】
特許文献7には、「軸受被膜のための合金」として「銀、アルミニウム、金、ビスマス、炭素(黒鉛)、カルシウム、銅、インジウム、マグネシウム、鉛、パラジウム、プラチナ、スカンジウム、錫、イットリウム、亜鉛及びランタノイド系元素を含む元素群のうちの少なくとも1つの元素から形成され、軟質相元素がマトリクス元素とは異なることを特徴とする」合金が、提案されている。
【0012】
特許文献8には、「Hv値が60以上の合金層又は単体金属層を下層とし、Hv値が40以下の合金層又は単体金属層を上層とすることを特徴とするめっき皮膜」が開示され、さらに当該の硬度を有するめっき皮膜として「インジウムと銀との合金層を上層とすることを特徴とするめっき皮膜」あるいは「上層がインジウムと銀との合金層である場合、上層に含まれるインジウムの量が、上層に対して60〜100重量%であることを特徴とする」めっき皮膜、が提案されている。
【0013】
【特許文献1】特開2006−112585号公報
【特許文献2】特開2004−193099号公報
【特許文献3】特開2002−310158号公報
【特許文献4】特開平10−205539号公報
【特許文献5】特開平09−100882号公報
【特許文献6】特開平06−109022号公報
【特許文献7】特表2007−507605号公報
【特許文献8】再公表2004/063426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
また、上記のように多くの検討があるにもかかわらず、大気中のイオウを含む汚染物質や潤滑油中のイオウ成分による硫化皮膜の生成とその硫化銀のメカノケミカルな剥離による表面被覆層の劣化に対する十分な耐性を有し、かつ単純な手法で得られる皮膜がなかった。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、大気中のイオウを含む汚染物質や潤滑油中のイオウ成分による硫化皮膜の生成に対する十分な耐性と、その硫化銀のメカノケミカルな剥離による表面被覆層の劣化に対する十分な耐性とを有し、かつ、単純な手法で得られる軟質合金めっき皮膜が形成されためっき部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題は、下記の各発明によって解決することができる。
即ち、基材に銀とインジウムの合金めっき皮膜が形成されためっき部材であって、前記めっき皮膜中のインジウム含有率が重量%で、0.1%以上60%未満であり、前記めっき皮膜中に金属間化合物Ag9In4を形成させたことを主要な特徴としている。これにより、耐硫化特性と耐摺動特性が良好な皮膜を有するめっき部材を得ることができる。
【0016】
また、本発明のめっき部材は、前記合金めっき皮膜の厚み方向全体にInが存在することを主要な特徴としている。これにより、より一層、耐硫化特性と耐摺動特性が良好な皮膜を有するめっき部材を得ることができる。
【0017】
更に、本発明のめっき部材は、前記基材と前記合金めっき皮膜との界面における前記合金めっき皮膜側に前記金属間化合物Ag9In4が存在することを主要な特徴としている。これにより、より一層、耐硫化特性と耐摺動特性が良好な皮膜を有するめっき部材を得ることができる。
【0018】
更にまた、本発明のめっき部材は、前記拡散合金めっき皮膜中のインジウム含有率が重量%で、0.1%以上31%未満、または、36%以上60%未満であることを主要な特徴としている。
このように、冶金学的な方法では金属間化合物Ag9In4の形成が不可能なインジウム含有率の範囲においても、Ag9In4の形成が可能であり、このインジウム含有率の範囲においても耐硫化特性と耐摺動特性が良好な皮膜を有するめっき部材を得ることができる。
【0019】
更に、本発明のめっき部材は、前記インジウムを前記銀中に80℃以上156℃未満で拡散させたことを主要な特徴としている。
これにより、冶金学的な方法では金属間化合物Ag9In4の形成が不可能なインジウム含有率の範囲においても、Ag9In4の形成が可能であり、Ag9In4の存在により良好な耐硫化特性と耐摺動特性とを備えた皮膜を有するめっき部材を得ることが出来る。
【0020】
また、本発明のめっき部材は、前記インジウムを前記銀中に156℃以上200℃以下で拡散させたことを主要な特徴としている。
これにより、銀濃度の高い銀/インジウムの界面付近では、実質的に溶融に至る温度にはならないため、実質的に融点以下の温度での拡散となり、金属間化合物Ag9In4が形成された良好な耐硫化特性と耐摺動特性とを備えた皮膜を有するめっき部材を得ることが出来る。
【0021】
更にまた、本発明のめっき部材は、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン、金、ビスマスから選ばれる少なくとも1種以上の金属が、前記皮膜中の含有率において、重量%で1%以下添加されていることを主要な特徴としている。これにより、前記1種類以上の金属を微量添加することによって、Ag-In拡散合金皮膜の良好な耐硫化特性を損なわずに摺動部の使用状況に合わせて硬度を調整することができる。
【0022】
また、本発明の摺動用部品は、前記めっき部材で構成されたことを主要な特徴としている。これにより、耐硫化特性と耐摺動特性が良好な摺動用部品を得ることができる。
【0023】
更に、本発明のめっき部材製造方法は、前記基材に銀をめっきする工程と、前記銀の上にインジウムをめっきする工程と、加熱により前記インジウムを前記銀中に熱拡散する工程と、を備えることを主要な特徴としている。
これにより、冶金的方法(溶融−凝固)や合金めっき法では得られにくい金属間化合物Ag9In4を有する合金皮膜を容易に得ることができる。また冶金学的方法よりも低温で製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の銀とインジウムの合金めっき皮膜が施されためっき部材は、大気中のイオウを含む汚染物質や潤滑油中のイオウ成分による硫化銀の生成とその硫化銀のメカノケミカルな剥離による表面被覆層の劣化に対する十分な耐性を有し、軸受け用の上層皮膜のみならず宝飾用等の装飾用にも用いることができる。また、本発明の銀とインジウムの合金めっき皮膜が施されためっき部材は、摺動特性に優れているので、軸受、接点等の摺動部に適用可能であり、特に高速回転用の摺動部品として使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のめっき部材について詳細に説明する。
本発明のめっき部材に形成されている、銀−インジウム系合金めっき皮膜は、基材表面に銀又は銀合金めっきを施し、その上にさらにインジウムめっきを施して拡散合金とした実質的に鉛を含まない銀−インジウム系の拡散合金めっき皮膜である。
【0026】
めっき皮膜中のインジウムの含有率は、重量%で0.1wt%以上で銀単独の皮膜とは比較できない程急激に耐硫化特性が向上し、60wt%までその特性は維持される。インジウム含有率がそれ以上では、耐硫化特性は低下する。従って、0.1wt%以上60wt%未満の拡散合金皮膜が好適に用いられるが、耐硫化特性は、5wt%以上55wt%以下で一層優れておりこの範囲が一層好適に用いられる。
発明者らの鋭意研究により、耐硫化特性の向上には金属間化合物Ag9In4相の存在が関与している可能性があることが判明した。
ここで、これらの濃度範囲の中で、31%以上36%未満の領域では、理論的には、冶金学的溶融方法(溶融−凝固)によっても金属間化合物Ag9In4を有する合金は得られるが、それ以外の濃度領域では、金属間化合物Ag9In4を有する合金は冶金学的溶融方法(溶融−凝固)や合金めっき法では極めて得られにくい。銀とインジウムの二層めっきを施して熱拡散させることによって、上記以外の領域においても容易に金属間化合物Ag9In4相を有する合金皮膜が得られる。
【0027】
インジウムの含有率が0.1wt%から1wt%の範囲で硬度は約20%ほど急激に増大し、その後硬度は60%付近までインジウム含有率に対してほぼ直線に近い変化で増大する。このため、銀とインジウムの比率を制御すれば容易に所望の硬度になるように制御することができる。当然のこととして銀めっき及びインジウムめっき皮膜の厚さを制御することで、銀とインジウムの組成比率は制御できる。
【0028】
本発明のめっき部材に形成されている、銀−インジウム系拡散合金めっき皮膜は、上記の銀/インジウム組成で極めて良好な耐硫化性という化学的性質と良好な摺動特性を兼備する。耐硫化性という観点からは銀とインジウムの二元合金で十分であり、基本的に両者以外の成分元素は不要であるが、硬度の調整のために、それら自体並びに毒性の強いヒ素、カドミウム、水銀、タリウム、鉛を除く周期律表の第4〜6周期のIB、IIB、IIIA、IVA、VAの各族元素から選ばれる1種以上、即ち銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン、金、又は、ビスマスから選ばれる1種以上の金属を加えることができる。しかしながら、これらの金属元素の添加は、合金めっき皮膜中の含有率において、重量%で1wt%未満の範囲で好適に用いられる。1wt%を超えると耐硫化特性が低下するからである。前記1種類以上の金属を微量添加することによって、Ag-In拡散合金皮膜の良好な耐硫化特性を損なわずに摺動部の使用状況に合わせて硬度を調整することができる。
【0029】
本発明のめっき部材を得るためのめっき工程としては、たとえば下記の工程がある。もちろん下記に限定されるものではないが、一般的な工程としては、被めっき素地の脱脂、酸洗に引き続いて銀めっきを行い、引き続いてインジウムめっきを行う。通常各工程の間には水洗工程が含まれる。
【0030】
めっきの条件は、銀、インジウムめっきともに、一般的には、浴温10〜50℃が好適に用いられ、さらに好適には15〜40℃が用いられる。電流密度は、0.1〜10A/dm2が好適に用いられ、0.5〜5A/dm2がさらに好適に用いられる。めっき時間は所望のめっき厚さに応じて任意に変化させて用いられる。
【0031】
本発明のめっき部材に形成されている、銀−インジウム系合金めっき皮膜は、銀めっきとインジウムめっきの二層めっきから拡散によって形成することができる。銀、インジウムともに公知のめっき浴が好適に用いられる。銀めっき浴については、シアン浴、ヨウ化カリ等を錯化剤とするハロゲン化物浴、ヒダントイン類を錯化剤とする浴、コハク酸イミド等の各種イミドを錯化剤とする浴、アセチルシステイン等のアミノ酸類を錯化剤とする浴、メルカプト基を有する錯化剤を用いる浴、ホスフィン類を錯化剤とする浴、各種カルボン酸を錯化剤とする浴、スルホン酸を用いる酸性浴等を好適に用いることができる。インジウムめっき浴についても、シアン浴、スルファミン酸浴、硫酸浴、スルホン酸浴、各種カルボン酸を錯化剤とする浴等を好適に用いることができる。銀めっき、インジウムの両めっき浴ともに作業環境、地球環境の保全の上から非シアン浴を用いることが好ましい。
【0032】
銀、インジウムともに、上述した非シアン浴の中でもスルホン酸浴が非常に好適に用いられる。スルホン酸としては脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸のいずれもが好適に用いられるが、脂肪族スルホン酸が一層好適に用いられる。脂肪族スルホン酸としては、アルカンスルホン酸及びアルカノールスルホン酸等の脂肪族スルホン酸が好適に用いられる。上記アルカンスルホン酸としては、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、2−ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などが挙げられる。上記アルカノールスルホン酸としては、具体的には、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸(イセチオン酸)、2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸(2−プロパノールスルホン酸)、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタン−1−スルホン酸などの他、1−ヒドロキシプロパン−2−スルホン酸、3−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、4−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシヘキサン−1−スルホン酸などが挙げられる。
【0033】
また、銀についてはホスフィン類を錯化剤とする浴も極めて好適に用いることができる。脂肪族又は芳香族のホスフィン類が利用できるが、下記一般式(1)で示した化合物を含有するめっき液が好適に用いられる。
一般式(1):
【化1】

[ここで、X1、X2、X3は同一又は異なっていてよく、水素、置換若しくは非置換のC1〜C10のアルキル基、又は置換若しくは非置換のベンゼン環を表し、該置換アルキル基又は該置換ベンゼン環の置換基はヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基又はアミノ基から選ばれた1種又は2種以上である。ただし、X1、X2、X3の全てが同時に水素であることはない。]
で表されるホスフィンの一種又は二種以上。
【0034】
さらに、ホスフィンの中でも下記一般式(2)で示した脂肪族ホスフィンが一層好適に用いられる。
一般式(2):
【化2】

[ここで、Y1、Y2、Y3は同一又は異なっていてよく、非置換のC1〜C3アルキル基、又はヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基若しくはアミノ基から選ばれた1種若しくは2種以上で置換されたC1〜C3アルキル基を表す。]
で表される低級アルキルホスフィン。
【0035】
好適に用いられるホスフィンを具体的に例示すれば、例えば、アルキル基がメチル基、エチル基又はプロピル基である非置換アルキルホスフィン並びにそれらアルキル基の水素がヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基又はアミノ基で置換された、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、スルホメチル基、スルホエチル基又はスルホプロピル基、アミノメチル基、アミノエチル基又はアミノプロピル基を有するヒドロキシ低級アルキルホスフィン、カルボキシ低級アルキルホスフィン、スルホ低級アルキルホスフィン又はアミノ低級アルキルホスフィン等が挙げられる。
【0036】
さらに、その中でもアルキル基の一つの水素がヒドロキシル基で置換されたヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基又はヒドロキシプロピル基のみで構成されるトリスヒドロキシ低級アルキルホスフィンが、価格、安定性の面から一層好適に用いられ、更にトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンが最も好適に用いられる。
本発明のめっき部材に形成されている、銀−インジウム系合金めっき皮膜には、既述したように、それら自体並びに毒性の強いヒ素、カドミウム、水銀、タリウム、鉛を除く周期律表の第4〜6周期のIB、IIB、IIIA、IVA、VAの各族元素から選ばれる1種以上、即ち銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン、金、又は、ビスマスから選ばれる1種以上の金属を1%以下の範囲で加えることができる。
【0037】
これら銀、インジウムに次ぐ第3の金属元素類は、銀めっき層又はインジウムめっき層の上にめっき法によって極く薄い皮膜を析出させて拡散合金皮膜中に含ませるか、或いは銀めっき又はインジウムめっき浴にそれらの金属化合物を添加し合金めっきとして析出させてもよい。前者即ち、それぞれの金属の極く薄い皮膜を析出させる場合、銀めっき上にそれらの金属の皮膜を施したのちにインジウムめっきを施す工程が一層好適に用いられる。めっきは、電気めっきが好適に用いられるが、銅、金の場合には無電解めっき浴を用いてもよく、さらに、金の場合には置換めっきを用いてもよい。後者即ち、銀又はインジウムめっき浴に添加して合金めっきとして共析させる場合には各種の金属と可溶性の塩を形成するスルホン酸イオンを含む浴が好適に用いられる。
【0038】
銀とインジウムは相互に拡散し易い金属であり、拡散処理工程ののちの皮膜は、EDAXによる観察結果から銀とインジウムがほとんど均一に分布した構造となっていることが確認されている。銀及びインジウムそれぞれのめっき皮膜の厚さを管理することによって、拡散合金めっき皮膜の組成を管理することができる。
【0039】
本発明のめっき部材のめっき皮膜は、銀/インジウムの比率によるが、室温で放置することによっても1週間〜1ケ月程度で表面部分にのみ拡散した合金皮膜として形成される。しかしながら、皮膜全体に拡散させるためには、また、工業的に生産するためには、加熱処理によって迅速に拡散させることによって合金めっき皮膜を作製することが望ましい。
加熱処理の温度範囲は銀及びインジウムのめっき厚さによって適宜選定すればよいが、拡散可能な範囲は、80℃以上200℃以下である。しかしながら、インジウムの融点は、156℃なので、156℃以上200℃以下の温度範囲よりも、80℃以上156℃以下の温度範囲の方が望ましい。156℃以上200℃以下の温度範囲の場合は、銀濃度の高い銀/インジウムの界面付近では、実質的に溶融に至る温度にはならないため、実質的に融点以下の温度での拡散となるが、拡散と溶融の両方が発生し、金属間化合物Ag9In4相の形成にばらつきが生じうるからである。180℃以下では、金属間化合物Ag9In4相の形成のばらつきは、かなり小さくなる。200℃より高い温度の場合は、溶融の割合が大きくなり金属間化合物Ag9In4相がほとんど形成されなくなってくる。このため、硫化特性、摺動特性が低下する。
インジウム比率が高いほど、温度を高く、加熱処理時間を長くすることが望ましいが、140〜160℃、1〜100時間の加熱処理条件において再現性良く好適にめっき皮膜の作成が可能であった。
このように、銀中にインジウムを熱拡散して作製した拡散合金めっき皮膜は、銀−インジウム合金をそのままめっきした皮膜と比較して、冶金学的方法では極めて限られた濃度範囲にしか現れないAg9In4相を有する合金皮膜を広い濃度範囲で得ることができる。冶金学的方法、即ち溶融により合金を形成する方法では、ほとんどの濃度範囲において、Ag3Inもしくは、AgIn2が 形成されることが知られている。
【0040】
このようにして作製された、本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜は、耐硫化特性に優れ、相当に過酷な耐硫化試験の条件である硫化アンモニウムの水溶液に浸漬する試験にも耐えることができる。例えば、硫化アンモニウムの5wt%水溶液に10分間浸漬したのちの反射率の低下が、20%以下のものを作製することも可能であり、また、反射率の低下が、10%以下のものを作製することも可能である。これにより、望まれる反射率の用途により、劣化時においても要求される反射率の要求を満たすめっき部材を作製することができる。
【0041】
また、本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜は、酸に対する耐性が高い皮膜であり、例えば、10wt%の硫酸に90℃で5時間浸漬した場合の溶解減量が3%以内でのものも、溶解減量が1%以内のものも作製することが可能である。これにより、酸に対する望まれる耐性を有するめっき部材を作製することが可能となる。
【0042】
更に、本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜は、マイクロビッカース硬度で45Hv超の特性のものを作製することが可能であり、マイクロビッカース硬度で65Hv以上の特性のものを作製することも可能である。これにより、要求される硬度のめっき部材を作製することが可能となる。
【0043】
摺動部用の軟質皮膜として用いるためには250Hv程度を硬度の上限として用いるのが望ましく、190Hv程度を上限とするのが一層望ましい。硬くなりすぎると摩耗特性が低下するためである。軟質上層皮膜として極めて軟らかい皮膜を用いている例もあるが、摺動特性は必ずしも硬度が低いほうが優れているわけではなく、特に高速回転への摺動性はある程度の硬さがあったほうがよい場合が多いのである。
【0044】
本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜は、銀合金であるため接触電気抵抗も低く、また、耐硫化性が良好であるため接触電気抵抗の変化も少ないので、接点用としても好適に用いることができる。表面の接触電気抵抗は、10gf荷重で測定したときに20mΩ以下の皮膜が接点用としては、好適に用いられ、6mΩ以下の皮膜が一層好適に用いられる。
【0045】
本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜は、耐硫化特性に優れているので、装飾用途にも好適に用いることができ、特に、皮膜の厚さが0.1μm以上であればこの目的に好適に利用することができる。用途によるが摺動部に適用する場合には、少なくとも2μm以上の厚さの皮膜が望ましい。一層望ましくは、5μm以上の厚さが良く、20μm以上の厚さが更に望ましい。長期間の稼働に耐える十分な製品寿命を得るためには100μm以上の厚さが望ましい。
典型的には、主としてコスト上の問題と、厚すぎるめっき皮膜は表面荒さや厚さの分布が大きくなるため寸法精度が悪化するという問題と、またそのために最良の摺動特性が得られないという問題とのため、めっき皮膜の厚みは、1000μm以下の範囲で使用されるのが望ましい。一層望ましくは、500μm以下の範囲で使用されることである。
【0046】
本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜は、既に述べたように、高耐硫化性が要求される皮膜並びに軸受、接点等の摺動部に用いられる拡散合金めっき皮膜として極めて好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得るものである。
本発明のめっき部材表面に形成されているめっき皮膜の作成は、(1)一般的なアルカリ電解脱脂、(2)ダインACC(大和化成株式会社)10%溶液による酸活性化、(3)ダインシルバーGPE−ST(大和化成株式会社)によるストライク銀めっき、(4)ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)又はダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)による銀めっき、(5)ダインACC(大和化成株式会社)10%溶液による表面調整、(6)ダインIN−161PL(大和化成株式会社)によるインジウムめっき、(7)加熱処理による拡散合金化皮膜の形成、により行った。
【0048】
これらの工程の条件は、それぞれの市販浴の標準操作条件に従った。上記のうち(a)銀及びインジウムのめっき皮膜厚さ及びそれにともなう拡散合金化後のインジウム含有率、(b)加熱処理の温度及び時間、はそれぞれ条件を変化させて試料を作成した。(c)1%以下の微量元素を添加する場合は、上記ダインシルバーGPE−PL浴にそれぞれの金属のメタンスルホン酸塩を添加して調整した。
【0049】
微量添加元素の含有量は、同一条件で厚付けして作成しためっき皮膜を酸に溶解し、ICPにて測定して確認した値を含有量とした。素地としてJISH5120,CAC406材を用いた。
【0050】
<比較例1>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 5μm
In なし
皮膜中のIn含有率 0Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0051】
<比較例2>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In なし
皮膜中のIn含有率 0Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0052】
<比較例3>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 5μm
In なし
皮膜中のIn含有率 0Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0053】
<比較例4>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In なし
皮膜中のIn含有率 0Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0054】
<比較例5>
使用銀めっき液 なし
めっき厚さ Ag なし
In 5μm
皮膜中のIn含有率 100Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0055】
<比較例6>
使用銀めっき液 なし
めっき厚さ Ag なし
In 100μm
皮膜中のIn含有率 100Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0056】
<実施例1>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 5μm
In 0.05μm
皮膜中のIn含有率 0.7Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、5時間
【0057】
<実施例2>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In 0.3μm
皮膜中のIn含有率 0.2Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、10時間
【0058】
<実施例3>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In 3μm
皮膜中のIn含有率 2Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、10時間
【0059】
<実施例4>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 20μm
皮膜中のIn含有率 15Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0060】
<実施例5>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0061】
<実施例6>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Cu(0.1Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0062】
<実施例7>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Zn(0.5Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0063】
<実施例8>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Ga(0.3Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0064】
<実施例9>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Sn(0.7Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0065】
<実施例10>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Bi(0.4Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0066】
<実施例11>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 60μm
In 60μm
皮膜中のIn含有率 41Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 180℃、36時間
【0067】
<実施例12>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 50μm
In 60μm
皮膜中のIn含有率 46Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 180℃、48時間
【0068】
<実施例13>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 5μm
In 0.05μm
皮膜中のIn含有率 0.7Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、5時間
【0069】
<実施例14>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In 0.3μm
皮膜中のIn含有率 0.2Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、10時間
【0070】
<実施例15>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In 3μm
皮膜中のIn含有率 2Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、10時間
【0071】
<実施例16>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 20μm
皮膜中のIn含有率 15Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0072】
<実施例17>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 80μm
In 40μm
皮膜中のIn含有率 26Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0073】
<実施例18>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 60μm
In 60μm
皮膜中のIn含有率 41Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 180℃、36時間
【0074】
<実施例19>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 50μm
In 60μm
皮膜中のIn含有率 46Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 180℃、48時間
【0075】
<実施例20>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 98μm
In 0.14μm
皮膜中のIn含有率 0.1Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0076】
<実施例21>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 93μm
In 7μm
皮膜中のIn含有率 5Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0077】
<実施例22>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 86μm
In 14μm
皮膜中のIn含有率 10Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0078】
<実施例23>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 36μm
In 64μm
皮膜中のIn含有率 55Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0079】
<実施例24>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 41μm
In 59μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0080】
<実施例25>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 41μm
In 59μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Cu(1Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0081】
<比較例7>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 41μm
In 59μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) Cu(3Wt%)
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0082】
<比較例8>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 30μm
In 70μm
皮膜中のIn含有率 62Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0083】
<比較例9>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 100μm
In 0.07μm
皮膜中のIn含有率 0.05Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 140℃、24時間
【0084】
<比較例10>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 41μm
In 59μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 25℃、480時間
【0085】
<比較例11>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 41μm
In 59μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 75℃、48時間
【0086】
<比較例12>
使用銀メッキ液 ダインAI−PL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag−In合金 100μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0087】
<比較例13>
使用銀メッキ液 ダインAI−PL−10(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag−In合金 100μm
皮膜中のIn含有率 10Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 なし
【0088】
<比較例14>
使用銀めっき液 ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 60μm
In 60μm
皮膜中のIn含有率 41Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 220℃、36時間
【0089】
<実施例26>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 41μm
In 59μm
皮膜中のIn含有率 50Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 80℃、40時間
【0090】
<実施例27>
使用銀めっき液 ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
めっき厚さ Ag 60μm
In 60μm
皮膜中のIn含有率 41Wt%
微量添加元素(皮膜中濃度) なし
加熱処理温度、時間 200℃、36時間

比較例1〜14、実施例1〜27の作成条件について、表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表中の銀めっき種類(a)又は(b)は、下記の通り。
(a)ダインシルバーGPE−PL(大和化成株式会社)
(b)ダインシルバーブライトPL−50(大和化成株式会社)
比較例1〜6、実施例1〜19の合金めっき皮膜について、(A)硫化アンモニウム浸漬試験、(B)硫酸浸漬試験、(C)マイクロビッカース硬度、(D)接触電気抵抗測定、(E)摺動特性の評価を行った。各評価について、以下に詳細に説明する。
【0093】
(A)硫化アンモニウム浸漬試験は、5wt%硫化アンモニウム水溶液に10分間浸漬の後の反射率の低下(%)を測定した。照射光としてレーザーダイオード光源からの波長780nmの光を、検出にはフォトダイオードを用いた共焦点顕微反射率測定光学系を用いて、浸漬試験前後の試料の反射率の変化を測定した。
(B)硫酸浸漬試験は、10wt%の硫酸に90℃で5時間浸漬した場合の浸漬前後の試料重量変化の割合を溶解減量(%)とし、表2中に1%以内の場合を○で、1%を超える場合を×で示した。
(C)マイクロビッカース硬度は、試料を切断―樹脂埋め込み―研磨ののち、微少硬度計にて、皮膜断面の硬度を測定した。測定荷重は25gfとした。
(D)接触電気抵抗測定は、4端子式接触電気抵抗測定機を用い、接触子0.5mm純金、10gf荷重、印可定電流10mA、測定端子走査速度1mm/分で測定した。
(E)摺動特性は、スラスト摩耗試験方法を用い、相手材をSCM420H浸炭焼入れ材とし、定荷重1000N、摺動速度6.5m/S、75W−90ギヤオイル浸漬、2時間の条件で摺動試験を行った。試験時間内に焼き付きの認められなかったものを○、焼き付きのあったものを×とした。
(F)拡散後の全体膜厚は、樹脂に埋め込んだ試料断面を、(株)キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX−900で測定を行った。測定結果は、数値(μm)で求めた。
(G)拡散深さの測定は、樹脂に埋め込んだ試料断面を、堀場製作所製EDX(EMAX−7000)を備えた日立製作所製走査型電子顕微鏡S−2150を用い、皮膜断面の金属組成プロファイルを描かせることによって測定した。測定結果は、数値(μm)で求めた。皮膜全体に拡散していた場合は、(全体)と記載した。
(H)Ag9In4濃度は、(株)リガク社製X線回折装置RINT2000を用い、銀又はインジウムとAg9In4の回折強度の比から求めた。Ag9In4のIn-mol%は約32%であるので、皮膜全体としてのIn濃度がそれ以上の場合には皮膜中の全Agの含有量に対するAg9In4として存在するAgの量の比率を、In濃度がそれ以下の場合にはInの含有量に対するAg9In4として存在するInの量の比率を求めて、%で表した。即ち、化学量論的観点だけから考えて生成し得るAg9In4の量に較べてどの程度の量がAg9In4になっているかを表す量である。これをAg9In4の生成率(%)として表2に記載した。測定結果は、数値で求めた。
上記(A)から(H)の評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のめっき部材は、耐硫化特性に優れ、摺動特性にも優れているので、軸受け、接点等の摺動部に使用される部材や装飾品など、優れた耐硫化特性、摺動特性の必要な分野ならば、どの分野にいても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に銀とインジウムの合金めっき皮膜が形成されためっき部材であって、前記めっき皮膜中のインジウム含有率が重量%で、0.1%以上60%未満であり、前記めっき皮膜中に金属間化合物Ag9In4を形成させためっき部材。
【請求項2】
前記合金めっき皮膜の厚み方向全体にInが存在する請求項1に記載のめっき部材。
【請求項3】
前記基材と前記合金めっき皮膜との界面における前記合金めっき皮膜側に前記金属間化合物Ag9In4が存在する請求項1または2に記載のめっき部材。
【請求項4】
前記拡散合金めっき皮膜中のインジウム含有率が重量%で、0.1%以上31%未満、または、36%以上60%未満である請求項1から3のいずれか1つに記載のめっき部材。
【請求項5】
前記インジウムを前記銀中に80℃以上156℃未満で拡散させた請求項1から4のいずれか1つに記載のめっき部材。
【請求項6】
前記インジウムを前記銀中に156℃以上200℃以下で拡散させた請求項1から4のいずれか1つに記載のめっき部材。
【請求項7】
銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン、金、ビスマスから選ばれる少なくとも1種以上の金属が、前記皮膜中の含有率において、重量%で1%以下添加されている請求項1から6のいずれかに1つに記載のめっき部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに1つに記載のめっき部材で構成された摺動用部品。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに1つに記載のめっき部材を製造するめっき部材製造方法であって、
前記基材に銀をめっきする工程と、前記銀の上にインジウムをめっきする工程と、加熱により前記インジウムを前記銀中に熱拡散する工程と、
を備えるめっき部材製造方法。

【公開番号】特開2009−249648(P2009−249648A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95187(P2008−95187)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(593002540)株式会社大和化成研究所 (29)
【Fターム(参考)】