説明

アイオノマー組成物

【課題】非帯電性に優れ、溶融流動性の低下が抑制されたアイオノマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)多価金属で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーと、(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物と、を含有し、前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.001〜10質量部であるアイオノマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイオノマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボン酸基を金属イオンで中和したアイオノマーは、加工性、透明性、金属接着性、耐摩耗性、耐ピンホール性などに優れることが知られている。
これらの優れた性質を利用して、アイオノマーを、食品や電子部品の包装材、自動車の部品、化粧品の容器、ゴルフボールなどのスポーツ用品の用途に使用することも提案されている。
【0003】
また一般に、ポリマーの帯電を抑制するために、ポリマーに帯電防止剤を添加することが行われている。帯電防止剤としては、種々の界面活性剤が用いられている。
アイオノマーに対する帯電防止剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルとの混合成分が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−138071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アイオノマーは、中和に用いる金属によって電気的性質が異なる。
例えば、K、Cs、Rbなどのアルカリ金属で中和されたアイオノマーは、導電性(即ち、非帯電性)を示す。その理由は、アルカリ金属イオンは吸水性が高く、アルカリ金属イオンで中和されたアイオノマーは吸湿し易く、その結果、固体であるアイオノマー中においてアルカリ金属イオンが動きやすくなるため、と考えられている。
【0006】
一方、亜鉛やマグネシウムのような多価金属で中和されたアイオノマーは、非常に帯電し易く、かつ、電荷がイオンクラスターに拘束され、放電されにくいという性質を示す。このため、多価金属で中和されたアイオノマーにおいては、表面帯電だけでなく内部帯電も発生する。
この点に関し、従来の界面活性剤(帯電防止剤)による帯電抑制の機構は、親水基が表面に配向することで電荷を逃がす機構であり、表面帯電には有効であるが内部帯電に対してはあまり効果がない。
【0007】
特許文献1に記載のアルキルスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルとの混合成分は、練りこみ型帯電防止剤としてアイオノマーに対して高い帯電抑制効果を示すとされている。
しかしながら、多価金属で中和されたアイオノマーについては、更なる非帯電性が望まれている。
更に、帯電防止剤を添加することにより、アイオノマーの溶融流動性(MFR;メルトフローレート)が上昇又は低下する変動が現れることがある。成形現場においては、このような変動を出来る限り抑制するか、若しくは変動が発生しても成形加工性が向上する傾向となる上昇する方向に変動することも望まれている。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、非帯電性に優れ、溶融流動性の変動が抑制されたアイオノマー組成物を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (A)多価金属で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーと、(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物と、を含有し、前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.001〜10質量部であるアイオノマー組成物である。
<2> 前記(C)成分の質量が、前記(B)成分の質量の1倍〜1000倍である<1>に記載のアイオノマー組成物である。
<3> 前記多価金属が、亜鉛である<1>又は<2>に記載のアイオノマー組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非帯電性に優れ、溶融流動性の変動が抑制されたアイオノマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアイオノマー組成物は、(A)多価金属で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマー(以下、「(A)成分」ともいう)と、(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(以下、「(B)成分」ともいう)と、(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物(以下、「(C)成分」ともいう)と、を含有し、前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.001〜10質量部である。
【0012】
本発明のアイオノマー組成物は、上記構成としたことにより、非帯電性に優れ(即ち、帯電しにくく)、かつ、溶融流動性の変動が抑制される。
前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.001質量部未満であると、非帯電性、即ち表面帯電のみならず内部帯電を防止する性能が低下する
前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量が、前記(A)成分100質量部に対して10質量部を超えると、押出加工機のスクリュー内部でアイオノマー組成物がスリップし易くなり成形加工性の低下を発生したり、ブリードし易くなって成形品表面がべたついたり、フィルムやシート形状だとブロッキングが発生しやすくなる虞がある。
前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量としては、本発明による効果をより効果的に得る観点より、前記(A)成分100質量部に対し、1〜10質量部が好ましく、3〜10質量部が好ましく、4〜8質量部が特に好ましい。
以下、本発明のアイオノマー組成物の各成分について説明する。
【0013】
<(A)多価金属で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマー>
本発明のアイオノマー組成物は、(A)多価金属で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマー((A)成分)の少なくとも1種を含有する。
前記(A)成分は、詳しくは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(ベースポリマー)に含まれるカルボン酸基の一部又は全部が、多価金属イオンによって中和されてなるものである。
【0014】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(ベースポリマー)における不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどが挙げられるが、これらのうちアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0015】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中におけるエチレンに由来する構造単位の含有量は、98〜70質量%が好ましく、97〜75質量%がより好ましい。
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中における不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量は、2〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましい。
【0016】
また、前記(A)成分における中和度は、90モル%以下が好ましく、5〜80モル%がより好ましく、10〜70モル%が特に好ましい。
ここで、中和度は、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(ベースポリマー)中に含まれる全カルボン酸基のうち、多価金属イオンによって中和されているカルボン酸基の割合(モル%)を指す。
前記中和度が90モル%以下であれば、イオン凝集を適度に抑制できて、流動性の低下をより抑制でき、成形加工性をより好適に維持できる。
前記中和度の下限には特に限定はないが、アイオノマーとしての性能をより効果的に発揮する観点より、5モル%が好ましい。
【0017】
前記多価金属としては、亜鉛またはマグネシウムが挙げられる。
前記多価金属として亜鉛を用いた場合は、後述の(B)成分及び(C)成分の添加による溶融流動性の変化は殆ど生じず、また、生じたとしても溶融流動性が向上する方向である。従って、前記多価金属としては、亜鉛が特に好ましい。
【0018】
また、前記(A)成分のメルトフローレート(190℃、2160g荷重)としては、成形性や機械的特性の観点より、0.01〜100g/10分が好ましく、0.1〜50g/10分がより好ましい。
【0019】
また、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸との二元共重合体であってもよいし、エチレンと不飽和カルボン酸と1種又は2種以上の他のモノマーとが共重合してなる多元共重合体であってもよい。
前記他のモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素、二酸化硫黄などを例示することができる。
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中における、前記他のモノマーに由来する構造単位の含有量は、アイオノマー組成物としたときの耐磨耗性、耐傷付き性、耐熱性の観点からは、0〜10質量%がより好ましく、0〜5質量%が更に好ましく、0質量%が特に好ましい。
【0020】
本発明のアイオノマー組成物中における、(A)成分の含有量としては、アイオノマーとしての機能をより効果的に発揮させる観点より、80〜98質量%が好ましく、90〜98質量%がより好ましい。
【0021】
<(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩>
本発明のアイオノマー組成物は、(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩((B)成分)を少なくとも1種含有する。
前記(B)成分に含まれるアルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+などが挙げられる。
中でも、好ましくはイオン半径の小さいLi、Na、Kであり、より好ましくはLi、Naであり、特に好ましくはLi(リチウムイオン)である。
【0022】
前記(B)成分(アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩)に含まれるアニオンとしては、例えば、Cl、Br、F、I、NO、SCN、ClO、CFSO、BF、(CFSO、(CFSOなどが挙げられる。
中でも、好ましくはClO、CFSO、(CFSO、(CFSOであり、特に好ましくはClO、CFSO、(CFSO、(CFSOである。
【0023】
前記(B)成分としては、アイオノマー組成物の帯電をより効果的に抑制する観点から、好ましくは、過塩素酸リチウムLiClO、過塩素酸ナトリウムNaClO、過塩素酸マグネシウムMg(ClO、過塩素酸カリウムKClO、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムLi(CFSO)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムLi・N(CFSO、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムK・N(CFSO、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウムNa・N(CFSO、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンリチウムLi・C(CFSO、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンナトリウムNa・C(CFSOである。
前記(B)成分として、より好ましくは、過塩素酸リチウムLiClO、過塩素酸ナトリウムNaClO、トリフルオロメタンスルホン酸リチウムLi(CFSO)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムLi・N(CFSO、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウムNa・N(CFSO、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンリチウムLi・C(CFSO及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンナトリウムNa・C(CFSOである。
前記(B)成分として、更に好ましくは、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンリチウムである。
【0024】
本発明のアイオノマー組成物中における、(B)成分の含有量の上限値としては、前記(A)成分100質量部に対して、9.99質量部が好ましく、8質量部がより好ましく、3質量部が特に好ましい。
本発明のアイオノマー組成物中における、(B)成分の含有量の下限値としては、前記(A)成分100質量部に対して、0.0001質量部が好ましく、0.0003質量部がより好ましく、0.01質量部が特に好ましい。
(B)成分の含有量が前記下限値以上であれば、より高い導電性を得ることができ、非帯電性をより向上できる。
一方、(B)成分の含有量が前記上限値以下であれば、結晶化の進行や材料劣化等をより効果的に抑制できる。
【0025】
<(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物>
本発明のアイオノマー組成物は、(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物((C)成分)を少なくとも1種含有する。
本発明のアイオノマー組成物が該(C)成分を含有することにより、前記(B)成分の前記(A)成分への溶解性が高くなり、前記(B)成分におけるアルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンの解離安定性が高くなり、ひいてはアイオノマー組成物における非帯電性が向上する。
ここで「溶解する」とは、25℃における溶解度が10質量%以上であることを指す。
【0026】
前記(C)成分として、好ましくは、−{O(ZO)}−基(Zは炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜7の整数を示す)を有し、かつ全ての分子鎖末端がCH基及び/又はCH基であるアジピン酸エステル化合物である。
上記分子鎖末端のCH基とは、二重結合をしている炭素原子を有するものである。
【0027】
前記(C)成分としては、例えば、炭素数1〜9の直鎖又は分岐脂肪族アルコール1モルに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを1〜7モル付加して得られるアルコールと、アジピン酸と、を反応させて得られるアジピン酸エステル化合物が好適である。
このような化合物は、一般的なエステル化合物の製造方法によって製造することができる。
【0028】
ここで、上記「炭素数1〜9の直鎖又は分岐脂肪族アルコール1モルに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを1〜7モル付加して得られるアルコール」の例としては、プロパノール1モルに、エチレンオキシド1〜7モル、プロピレンオキシド1〜4モル、またはブチレンオキシド1〜3モルを付加して得られるアルコール;ブタノール1モルにエチレンオキシド1〜6モルまたはプロピレンオキシド1〜3モルを付加して得られるアルコール;ヘキサノール1モルにエチレンオキシド1〜2モルを付加して得られるアルコール;ペンタノール1モルにエチレンオキシド1〜5モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜2モルを付加して得られるアルコール;オクタノール1モルにエチレンオキシド1〜5モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜3モルを付加して得られるアルコール;ノナノール1モルにエチレンオキシド1〜4モル、プロピレンオキシド1〜2モル、またはブチレンオキシド1〜2モルを付加して得られるアルコール;等が挙げられる。
【0029】
なお、これらのアルコールの中で、ブタノール1モルにエチレンオキシド2モルを付加させた2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、ブタノール1モルにエチレンオキシド1モルを付加させた2−ブトキシエタノールが、加工性とのバランスの観点から好ましい。
【0030】
前記(C)成分として、更に好ましくは、末端に、ヒドロキシル基を有さずアルキル基を有するアジピン酸エステル化合物である。
【0031】
前記(C)成分として、特に好ましくは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0032】
【化1】

【0033】
一般式(1)中、Zはそれぞれ独立に、炭素数2〜4のアルキレン基を示し、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜9の、直鎖又は分岐のアルキル基を示し、nはそれぞれ独立に、1〜7の整数である。
【0034】
一般式(1)で表される化合物のうち、最も好ましくは、下記化学式(1−1)に示されるアジピン酸ジブトキシエトキシエチル(ビス〔2−(2ブトキシエトキシ)エチル〕アジペート)である。
【0035】
【化2】



【0036】
本発明のアイオノマー組成物中における、(C)成分の含有量の上限値としては、前記(A)成分100質量部に対して、9.99質量部が好ましく、8質量部がより好ましい。
本発明のアイオノマー組成物中における、(C)成分の含有量の下限値には特に限定はないが、前記(A)成分100質量部に対して、0.1質量部が好ましく、0.3質量部がより好ましい。
(C)成分の含有量が前記上限値以下であれば、アイオノマー組成物の粘度低下をより効果的に抑制でき、ドローダウンなどの成形加工性をより向上でき、成形品の寸法安定性をより向上でき、物理的特性の低下をより効果的に抑制できる。
また(C)成分は、取り扱い性の観点からは、室温(23℃)で液体であることが好ましい。
【0037】
また、本発明のアイオノマー組成物中において、前記(C)成分の質量は、前記(B)成分の質量に対して1倍〜1000倍であることが好ましい。
(C)成分の質量が上記範囲であれば、ブリードがより抑制され、より安定した導電性(非帯電性)を得ることができる。
上記効果の観点より、前記(C)成分の質量は、前記(B)成分の質量に対して1倍〜100倍であることが更に好ましく、前記(B)成分の質量に対して1倍〜10倍であることが特に好ましい。
【0038】
<その他の成分等>
本発明のアイオノマー組成物は、本発明の目的を損なわない限り、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、各種添加剤や、前記(A)成分以外のその他のポリマー等が挙げられる。
【0039】
各種添加剤の一例としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、分散助剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などを挙げることができる。
例えば、ステアリン酸カルシウムのような高級脂肪酸塩の如き滑剤、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び滑剤を均一に分散させるためのグリセリン高級脂肪酸(炭素数12〜22)エステルのような分散助剤などを挙げることができる。これらは別々に添加することができるし、また予めこれらを混合して添加することができる。
【0040】
前記(A)成分以外のその他のポリマーとしては、前記(A)成分以外のその他のオレフィン・極性モノマー共重合体や、ポリオレフィンを用いることができる。
前記その他のオレフィン・極性モノマー共重合体におけるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンを例示することができ、とくにエチレンが好ましい。
また、前記その他のオレフィン・極性モノマー共重合体における極性モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルのようなグリシジルエステルやビニルグリシジルエーテルのようなグリシジルエーテルなどの不飽和エポキシモノマー、一酸化炭素、二酸化硫黄などを挙げることができる。
このような極性モノマーは、1種のみならず2種以上含有する共重合体であってもよい。
【0041】
前記ポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンの単独重合体、相互共重合体などが挙げられ、各種触媒を使用し、種々の方法で製造されたものを使用できる。
また、前記ポリオレフィンとしては、融点が200℃以下、とくに180℃以下のものが好ましい。
前記ポリオレフィンとしては、例えば、高圧法ポリエチレン、エチレンと炭素数3以上(好ましくは炭素数4〜12)のα−オレフィンとの共重合体(直鎖低密度ポリエチレン)、中・高密度ポリエチレン、プロピレン単独重合体、プロピレンと炭素数2〜12のα−オレフィンとの共重合体(以下、「プロピレン・α−オレフィン共重合体」ともいう)、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、などを挙げることができる。
【0042】
前記オレフィン・極性モノマー共重合体及び前記ポリオレフィンとしては、例えば、特開2003−138071号公報の段落番号0018〜段落番号0032に記載のオレフィン・極性モノマー共重合体及びポリオレフィンを、本発明においても好適に用いることができる。
【0043】
本発明のアイオノマー組成物は、溶融流動性に優れるため、成型加工性に優れる。
このため、本発明のアイオノマー組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形、中空成形などの各種成形方法により、シート形状やフィルム形状などの各種形状の成形体に容易に加工することができる。
本発明のアイオノマー組成物を用いて得られた成形体は、非帯電性、耐磨耗性、耐傷付き性、滑り性、耐候性等が良好である。
シート形状やフィルム形状の成形体は、例えば、インフレーションフィルム成形機やキャストフィルム・シート成形機を用いて成形することができる。
シート形状やフィルム形状の成形体は単層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。
また、シート形状やフィルム形状の成形体は、また各種基材との接着性を向上させるために、接着性樹脂層と積層されていてもよい。
シート形状やフィルム形状の成形体と、接着性樹脂層と、の積層体は、例えば、共押出成形機を用いて形成することができる。
【0044】
前記接着性樹脂層における接着性樹脂としては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル3元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、及びエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体から選ばれる少なくとも1種(単体またはブレンド物)が挙げられる。
また上記単体またはブレンド物に、さらに前記その他のポリマーとして例示したようなポリオレフィンをブレンドしたようなものであってもよい。
【0045】
また、本発明のアイオノマー組成物の他の成形例としては、押出コーティング成形により、他の基材表面に成形(熱接着)する例が挙げられる。
前記他の基材としては、紙、各種金属箔、鋼板などの各種金属板、各種重合体(例えばポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどのフィルムやシート)、織布、不織布などを挙げることができる。
押出コーティング成形では、本発明のアイオノマー組成物を構成する各重合体成分((A)成分、及び、必要に応じ用いられる他のポリマー)のメルトフローレートや、各成分の配合割合を巧くコントロールすることにより、押出成形性と耐磨耗性、耐傷付き性、艶消し外観などの表面特性のバランスを取ることができる。
【0046】
本発明のアイオノマー組成物を、押出コーティング成形により他の基材表面に成形する場合、得られる成形体は、単層構成でも2層構成でもよい。
また、他の基材との接着性の観点より、該成形体を、前述の接着性樹脂層を介して成形することもできる。
【0047】
以上で説明した本発明のアイオノマー組成物は、非帯電性に優れ、溶融流動性の低下が抑制されているため、例えば、食品や電子部品の包装材、自動車の部品、化粧品の容器、手すりやブロックなどの建築材料、ゴルフボール、パークゴルフクラブ、パターバッグケースなどのスポーツ用品等、種々の成形体(部材、容器、フィルム、シート、等)の作製用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実験例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実験例1〕
≪アイオノマー組成物(試料1〜試料8)の調製≫
下記表1に示す(A)成分及び添加剤を、下記表1に示す量となるように、ラボプラストミル混練機(東洋精機(株)製 ツインスクリュー)にて、温度180℃、回転数50min−1の条件で、10分間混合し、アイオノマー組成物(試料1〜試料8)を得た。
【0050】
下記表1において、「A」欄は(A)成分を示し、「質量比[A/左記添加剤]」欄は、(A)成分と添加剤(下記B−1又はB−2)との質量比を示している。
下記表1に示す(A)成分及び添加剤の詳細は以下のとおりである。
以下において、メタクリル酸量及びエチレン量は、それぞれ、メタクリル酸に由来する構造単位の含有量及びエチレンに由来する構造単位の含有量を表す。
【0051】
<(A)成分>
A−1:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸量15質量%、エチレン量85質量%)の亜鉛アイオノマー(中和度59%、MFR0.90g/10分)
A−2:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸量15質量%、エチレン量85質量%)のマグネシウムアイオノマー(中和度54%、MFR0.70g/10分)
A−3:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸量15質量%、エチレン量85質量%)のリチウムアイオノマー(中和度52%、MFR1.79g/10分)
A−4:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸量15質量%、エチレン量85質量%)のカリウムアイオノマー(中和度60%、MFR1.44g/10分)
【0052】
<添加剤>
B−1:三光化学工業社製「サンコノール0862−20R」(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム((B)成分)20質量%と、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル((C)成分)80質量%と、の混合物)
B−2:三光化学工業社製「サンコノールPEO−20R」(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム((B)成分)20質量%と、ポリアルキレンオキシドポリオール80質量%と、の混合物)
【0053】
≪測定及び評価≫
上記アイオノマー組成物の調製において、以下の測定及び評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
【0054】
<溶融流動性の評価>
上記混合後、JIS K7210−1999に準拠した方法により、温度190℃、荷重2160gの条件で、メルトフローレート(MFR)(単位g/10分)を測定した。測定結果を下記表1中の「組成物」欄に示す。
別途、ブランクとして、(A)成分のみのメルトフローレート(MFR)を上記の条件で測定した。測定結果を下記表1中の「ブランク」欄に示す。
上記で得られた測定結果より、アイオノマー組成物((A)成分と添加剤との混合物)のMFRの、(A)成分のMFRに対する変動幅(%)を算出し、溶融流動性を評価した。結果を下記表1中の「変動幅(%)」欄に示す。
変動幅(%)が小さい程、溶融流動性の低下又は上昇が抑制されていることを示す。
【0055】
<非帯電性の評価(表面抵抗率の測定)>
上記で得られたアイオノマー組成物を、加熱プレス(160℃)にてシート状にプレス成形し、3mm厚のプレスシートのサンプルを得た。
得られたプレスシシートのサンプルを、温度23℃、且つ、表1に示す相対湿度の雰囲気下に72時間放置した。
72時間放置後のサンプルの表面抵抗率(Ω/□)を、JIS K6911に準拠し、三菱化学(株)製ハイレスタを用いて測定した。
表面抵抗率が低い程、非帯電性に優れることを示す。

【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、(A)多価金属で中和されたアイオノマー樹脂と、(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物と、を特定の比率で含有する試料1及び試料2では、高湿度条件下でも低湿度条件下でも非帯電性に優れ(表面抵抗率が低く)、溶融流動性の変動が抑制されていた。特に、(A)成分として亜鉛アイオノマーを用いた試料1では、溶融流動性の変動は殆どなかった。
一方、(B)成分及び(C)成分を、1価の金属アイオノマーと組み合わせた場合(試料3及び試料4)には、非帯電性には優れるものの、溶融流動性の変動が大きく、しかも低下する方向になるので、成形加工性が悪くなることがわかった。
更に、(B)成分を用いる場合であっても、(C)成分を含有しない場合、即ち、(B)成分を溶解する有機化合物がアジピン酸化合物でない場合(試料5〜試料8)には、表面抵抗率が高くなり、非帯電性が悪化することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多価金属で中和されたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーと、
(B)アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩と、
(C)前記(B)成分を溶解するアジピン酸化合物と、
を含有し、
前記(B)成分及び前記(C)成分の総含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.001〜10質量部であるアイオノマー組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の質量が、前記(B)成分の質量の1倍〜1000倍である請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項3】
前記多価金属が、亜鉛である請求項1又は請求項2に記載のアイオノマー組成物。

【公開番号】特開2011−246500(P2011−246500A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117497(P2010−117497)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】