説明

アクリル共重合体の製造方法

【課題】種々素材に対し良好なヌレ性、相溶性、接着性を有するアクリル共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記構造式で示される


(Zは、フェニル基、ベンジル基、ペンタフルオロベンジル基、ペンタフルオロフェニル基のいずれか、R、および、Rは、H、ニトリル基、炭素原子数1〜4のアルキル基、Rは、H、炭素原子数1〜4個のアルキル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、フェニル基等。)ジチオエステル化合物を使用した塊状重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有するアクリル共重合体の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、その原料となるアクリル単量体の種類が豊富で付着性、接着性、硬度、透明性、耐光性、耐候性、耐薬品性等の物理的性質、化学的性質を随意にコントロールできることから、ディスプレイ、レンズなどの光学用塗、光学フィルム用途、これらに使用する粘・接着剤用途、塗料、シーリング材、紙力増強剤、歯科材料、航空機や自動車部材の接着剤等、幅広く応用され、用いられている。
【0003】
アクリル樹脂は、一般に重合時の発熱が大きく、また重合が進むにつれ高粘度となるため、工業的には水や有機溶媒を媒体とする溶液重合や乳化重合、懸濁重合などの除熱が比較的容易な方法で製造されることが多い。また、鋳込み等特殊な用途で使用される場合には部分重合したシロップとして使用されることもある。
【0004】
アクリル単量体のラジカル重合を利用してABCまたはABAブロック共重合体を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示されている技術は、メタクリル酸アルキルエステル、および、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、3級アミノ基などを有するメタクリル単量体が共重合されるものであり、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ノリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PPS樹脂などの有機高分子材料市場で主要な位置を占めるプラスチック類、あるいは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などとの相溶性、ヌレ性、接着性などの機能向上は考慮されていないと思われる。
【0006】
特許文献1が提案する技術では、アクリル単量体に対する2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンおよび重合開始剤の使用量が示されているが、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(α−メチルスチレンダイマー)に対する重合開始剤の使用量は規定されていない。したがって、ラジカル重合でアクリルマクロモノマー、およびアクリル共重合体を製造する際の除熱が大きい課題となり、アクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体の製造方法が限定される。すなわち、除熱が容易な有機溶剤を媒体とする溶液重合または水を媒体とする乳化重合などの製造方法でアクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体を製造する場合に限定される。
【0007】
特許文献1に提案されている技術に従いアクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体を溶液重合で製造する場合には、製造中の攪拌、除熱の懸念から低分子量で、有機溶剤を多量に含む低濃度のアクリルマクロモノマーおよびアクリル共重合体のみが製造可能であり、用途限定されるばかりでなく、工業的にメリットが少ない。多量の有機溶剤を含有することは、環境負荷の観点からも好ましくない。
【0008】
可逆的付加開列型連鎖移動剤としてのジチオエステル誘導体および連鎖移動剤ならびにこれを用いたラジカル重合性重合体の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2によれば、分子中にペンタフルオロフェニル基またはペンタフルオロベンジル基を有する、例えば、1−フェニルエチル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートなどのジチオエステル誘導体を使用することで、ジチオエステル誘導体そのものの不快臭および重合体の臭気が抑制され、分子量調整が容易で、低多分散性の重合体が製造されるというものである。
【0009】
特許文献2が提案する技術は、工業的な見地からは、製造中の攪拌、重合熱の除熱には何らの考慮も払われておらず、製造現場では攪拌や除熱の困難さを回避するため、本実施例で示されているとおり有機溶媒中での製造が必須条件となることは自明である。有機溶媒中で製造されたポリマーを脱溶媒し、ポリマーを取り出すには多大なエネルギーと労力を必要とするため、現実的な手法としては推奨されない。また、環境負荷低減の観点からも、有機溶媒を多量に使用して製造する技術は望ましくない。
【0010】
可逆的付加開裂型連鎖移動剤(RAFT剤)を用いるRAFT重合は、重合初期から分子量分布の小さいポリマーが製造でき、使用するアクリル単量体などのビニルモノマーの種類、官能基の影響を受けにくい点が特徴である。この特長を活かし、刺激応答性高分子、ドラックデリバリーシステムなど先端産業分野で盛んに研究、検討が進められている。RAFT剤としては、分子量制御などの重合制御が容易であること、分子量分布が小さくなることからチオエステル化合物が多く研究対象となっている。
【0011】
一方で、RAFT重合では、生成したポリマーにRAFT剤特有の悪臭が残ること、本来のポリマー色と異なる着色が見られること、通常のラジカル重合反応と同様に製造時の発熱が大きいため、溶液重合等、除熱が容易な製造方法に頼らざるを得なかったなどの欠点が課題となっていた。
【特許文献1】特開2000−169531号公報
【特許文献2】特開2007−238646
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、重合初期から分子量分布の小さいポリマーが製造でき、使用するアクリル単量体などのビニルモノマーの種類、官能基の影響を受けにくく、重合温度制御、攪拌などの重合制御を工業レベルで可能とし、純粋なポリマーが製造できる塊状重合でアクリル共重合体を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記構造式で示される
【0014】
【化1】

【0015】
(ここで、Zは、フェニル基、ベンジル基、下記構造式で示される化学構造
【0016】
【化2】

【0017】
(ペンタフルオロベンジル基)
【0018】
【化3】

【0019】
(ペンタフルオロフェニル基)
のいずれかを表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素原子数1〜4個のアルキル基、または、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシルエチル基、カルボキシプロピル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、フェニル基、または、置換基を有するフェニル基(ただし、置換基は、ニトリル基、炭素原子数1〜4個のアルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、スルホニル基および塩、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基を表す。)を表す。)
ジチオエステル化合物1.0モルに対して重合開始剤を0.020〜0.400モル使用し、アクリル単量体を塊状重合するアクリル共重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、製造時の重合温度制御が容易で、アクリル共重合体製造時の攪拌、除熱を含む防災上の懸念を払拭し、安全、安定にアクリル共重合体を塊状重合できる製造方法を提供する。
【0021】
本発明の製造方法では、アクリル共重合体が塊状重合され、アクリル共重合体を純粋な状態で取り出すことができるため、脱溶媒、沈殿、再溶解、沈殿、分離、乾燥といった精製作業が不要であり、環境負荷低減がはかれ、工業的には製造工程短縮と収率の向上が可能である。
【0022】
また、本発明は、難接着性とされる無極性プラスチックであるポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、極性を有しエンジニアリングプラスチックとして広く使用されているナイロンに代表されるポリアミドなどの種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有するアクリル共重合体を提供する。
【0023】
本発明で製造されるアクリル共重合体は、例えば、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂などの異種高分子材料の相溶化ポリマーとして有用である。また、本発明で製造されるアクリル共重合体は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタンウィスカーなどの機能性補強材とマトリックス樹脂との分散安定化や相溶性、接着性を高めてより高強度な複合材料を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、下記構造式で示される
【0025】
【化4】

【0026】
(ここで、Zは、フェニル基、ベンジル基、下記構造式で示される化学構造
【0027】
【化5】

【0028】
(ペンタフルオロベンジル基)
【0029】
【化6】

【0030】
(ペンタフルオロフェニル基)
のいずれかを表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素原子数1〜4個のアルキル基、または、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシルエチル基、カルボキシプロピル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、フェニル基、または、置換基を有するフェニル基(ただし、置換基は、ニトリル基、炭素原子数1〜4個のアルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、スルホニル基および塩、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基を表す。)を表す。)
ジチオエステル化合物1.0モルに対して重合開始剤を0.02〜0.400モル使用し、アクリル単量体を塊状重合するアクリル共重合体の製造方法である。
【0031】
本発明で使用するジチオエステル化合物は、好ましくは、可逆的付加開裂型連鎖移動剤として作用する。可逆的付加開裂型連鎖移動剤は一般にRAFT剤(ReversibleAddition-Fragmentation Chain Transfer;RAFT)といわれ、精密重合技術の主要な1手法であるRAFT重合を行うための原料である。RAFT重合では、ラジカル重合反応が制御され、ラジカル重合反応がリビングラジカル重合で進行し、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した分子量分布(Mw/Mn)(多分散性とも言う)が小さいポリマーを製造できる。
【0032】
RAFT重合の特徴は、重合初期から分子量分布の小さいポリマーが製造でき、使用するアクリル単量体などのビニルモノマーの種類、官能基の影響を受けにくい点が上げられる。この特長を活かし、刺激応答性高分子、ドラックデリバリーシステムなど先端産業分野で盛んに研究、検討が進められている。RAFT剤としては、分子量などの重合制御が容易であること、分子量分布が小さくなることからチオエステル化合物が多く研究対象となっている。
【0033】
RAFT剤、RAFT重合については、以下の成書、(1)株式会社エヌ・ティー・エス発行の「ラジカル重合ハンドブック」、p152−p153(1999)、(2)特開2003−128712、(3)W098/01478、(4)W099/31144、(5)W000/75207、(6)特開2003−012719、(7)特開2002−265523、(8)特開2003−041224、(9)特表2000−515181などに詳細に記述されている。
【0034】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、下記構造式で示される
【0035】
【化7】

【0036】
(ここで、Zは、フェニル基、ベンジル基、下記構造式で示される化学構造
【0037】
【化8】

【0038】
(ペンタフルオロベンジル基)
【0039】
【化9】

【0040】
(ペンタフルオロフェニル基)
のいずれかを表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素原子数1〜4個のアルキル基、または、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシルエチル基、カルボキシプロピル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、フェニル基、または、置換基を有するフェニル基(ただし、置換基は、ニトリル基、炭素原子数1〜4個のアルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、スルホニル基および塩、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基を表す。)を表す。)
ジチオエステル化合物が使用される。
【0041】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、下記構造式で示される
【0042】
【化10】

【0043】
(ここで、Zは、フェニル基、ベンジル基、下記構造式で示される化学構造
【0044】
【化11】

【0045】
(ペンタフルオロベンジル基)
【0046】
【化12】

【0047】
(ペンタフルオロフェニル基)
のいずれかを表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素原子数1〜4個のアルキル基、または、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシルエチル基、カルボキシプロピル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、フェニル基、または、置換基を有するフェニル基(ただし、置換基は、ニトリル基、炭素原子数1〜4個のアルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、スルホニル基および塩、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基を表す。)を表す。)
ジチオエステル化合物は、Rが水素原子、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがベンジル基の場合、1−フェニルエチル−フェニルジチオアセテート、Rがメチル基、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがベンジル基の場合、2−フェニルプロピル−フェニルジチオアセテート、Rが水素原子、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがペンタフルオロベンジル基の場合、1−フェニルエチル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテート、Rがメチル基、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがペンタフルオロベンジル基の場合、2−フェニルプロピル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテート、Rが水素原子、Rが水素原子、Rがフェニル基、Zがペンタフルオロフェニル基の場合、ジチオ安息香酸ペンタフルオロベンジル、Rが水素原子、Rがメチル基、Rがp−アミノプロピルフェニル基、Zがベンジル基の場合、1−p−アミノプロピルフェニルエチル−フェニルジチオアセテート、Rがシアノ基、Rがメチル基、Rがヒドロキシプロピル基、Zがフェニル基の場合、2−シアノ−5−ヒドロキシペンチル−フェニルジチオアセテート、Rがシアノ基、Rがメチル基、Rがカルボキシエチル基、Zがフェニル基の場合、2−シアノ−4−カルボキシブチル−フェニルジチオアセテートなどが例示される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのジチオエステル化合物は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0048】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体からRAFT剤特有の臭気を低減し、着色を抑制するために、Rが水素原子、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがペンタフルオロベンジル基の1−フェニルエチル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテート、Rがメチル基、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがペンタフルオロベンジル基の2−フェニルプロピル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテート、Rが水素原子、Rが水素原子、Rがフェニル基、Zがペンタフルオロフェニル基の場合、ジチオ安息香酸ペンタフルオロベンジルなどが推奨される。
【0049】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、臭気や着色を考慮しない場合には、重合効率のよい、Rが水素原子、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがベンジル基の1−フェニルエチル−フェニルジチオアセテート、Rがメチル基、Rがメチル基、Rがフェニル基、Zがベンジル基の2−フェニルプロピル−フェニルジチオアセテートなどが推奨される。
【0050】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、特定のジチオエステル化合物1.0モルに対して重合開始剤を0.020〜0.400モル使用し、アクリル単量体を塊状重合する。
【0051】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合開始剤として、好ましくは、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などの有機アゾ系重合開始剤などが例示できる。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらの重合開始剤は、単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0052】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらの重合開始剤のなかでは、好ましくは、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などの有機アゾ系重合開始剤が推奨され、アクリル共重合体の製造時の重合温度制御が容易になる傾向が見られる。
【0053】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、特定のジチオエステル化合物1.0モルに対し、重合開始剤を0.020〜0.400モル、好ましくは、0.040〜0.350モル、より好ましくは、0.050〜0.350モル使用するのが望ましい。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合開始剤の使用量が0.020モル未満の場合には、重合速度が遅く、アクリル共重合体の重合率を実用的に十分なレベルまで引き上げることができない。重合開始剤の使用量が0.400モルを超える場合には、アクリル共重合体を塊状重合で製造する際の発熱が激しく、攪拌、除熱が不完全となり、安全、防災上好ましくない。ここで、本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体の実用レベルの重合率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上であるのが望ましい。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体の重合率が80%以上であれば、アクリル共重合体をプレポリマーとして使用し、ラジカル重合によりさらに高分子量化、あるいは、ブロック共重合体を製造する場合、より効率的に高分子量化が可能であり、より機能発現ができるブロック共重合体を製造できる傾向が見られ、望ましい。
【0054】
さらに、本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合温度制御をより安全に行うために、重合開始剤は、アクリルプレポリマーに使用するアクリル単量体100重量部に対して、好ましくは0.02〜2.0重量部、より好ましくは0.2〜2.0重量部、さらに好ましくは0.2〜1.5重量部使用するのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、重合開始剤の使用量が0.02〜2.0重量部のとき、異常な重合反応や急激な発熱が起こりにくくなる傾向が見られる。
【0055】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体は塊状重合で製造される。
【0056】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、塊状重合とは、アクリル共重合体製造容器に、特定のジチオエステル化合物、特定のジチオエステル化合物1.0モルに対し0.020〜0.400モルの重合開始剤、アクリル単量体を仕込み、所定の重合温度に加熱してラジカル重合を行う方法である。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、好ましくは、アクリル単量体をラジカル共重合する際、有機溶媒、水などの希釈媒体は含まれない。
【0057】
一般的な塊状重合の場合には、急激に発生する大きい重合熱と、重合率の上昇に伴い急激に高くなる粘度のため、攪拌動力が不足し、重合温度が制御不能となって暴走反応に至る場合が多い。爆発や破裂などの重大災害に繋がる危険性をはらんでおり、設備にいくら手を加えても、工業的には限界がある。
【0058】
また、攪拌、除熱不足により、局部加熱が起こりやすくなり、ポリマーの焼け、高重合度化など品質の悪化が起こりやすい。
【0059】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体の製造が、特定のジチオエステル化合物1.0モルに対して0.020〜0.400モルの重合開始剤を使用し、塊状重合が実施されるため、アクリル共重合体製造時の攪拌、除熱不足による暴走反応、局部加熱による品質の悪化などの懸念が払拭され、安全に、安定してアクリル共重合体を製造できる。また、工業的に適正な製造時間内で、アクリル共重合体の重合率を実用的に必要十分なレベルまで高めることができる。
【0060】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、製造容器の不活性ガス置換された気相部酸素濃度が、好ましくは、0.0vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%、より好ましくは、0.02vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%、さらにより好ましくは、0.02vol%≦気相部酸素濃度≦6.0vol%の雰囲気下に実施されるのが望ましい。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体製造時の気相部酸素濃度が0.0vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%であれば、気相部でアクリル単量体が重合反応を起こすことがなく、安全に、効率よくアクリル共重合体を製造することができる傾向が見られる。
【0061】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合系中の酸素濃度は、「デジタル酸素濃度計 XO−326ALB」(新コスモス電機(株)の酸素濃度測定器)を使用し測定した。また、本発明のアクリル共重合体の製造方法では、本発明で使用される不活性ガスは、窒素ガス、ヘリウムガスなど市販されているもののなかから任意に選択することができる。
【0062】
さらに、本発明のアクリル共重合体の製造方法では、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスの吹き込みを行って気相部酸素濃度を制御する場合には、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスがアクリル単量体のラジカル重合が開始されない程度に十分低い温度であることが推奨される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、この観点から、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスの温度は低ければ低いほど望ましいが、好ましくは、40℃以下、より好ましくは、30℃以下、さらに好ましくは、25℃以下であることが推奨される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガスの温度が好ましくは40℃以下であれば、アクリル共重合体製造容器気相部に存在するアクリル単量体蒸気が冷却され、アクリル単量体がアクリル共重合体製造容器気相部、器壁、コンデンサー等でラジカル重合を起こしにくくなる傾向が見られ、アクリル共重合体製造がより安全に実施できる傾向が見られる。
【0063】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、もっとも好ましくは、アクリル共重合体製造容器の気相部酸素濃度が、0.0vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%であり、製造中に吹き込まれる不活性ガスまたは不活性ガス/空気の混合ガス温度が30℃以下であることが推奨される。気相部でのアクリル単量体のラジカル重合が抑制され、異常反応や総括伝熱係数の低下を防止して安全に製造作業を行うことができる傾向が見られる。
【0064】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合温度は、好ましくは、60〜100℃、より好ましくは、65〜95℃、さらに好ましくは、70〜90℃であるのが望ましい。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合温度が好ましくは、60〜100℃の場合、攪拌、除熱が容易であり、アクリル共重合体をより安全に製造できる傾向が見られる。また、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどの低沸点アクリル単量体を共重合する場合でも、アクリル単量体蒸気の発生が少なく、製造容器器壁での重合やコンデンサー内での重合を回避できる傾向が見られ、望ましい。
【0065】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、所定重合温度まで、好ましくは、60〜300分、より好ましくは、90〜300分、さらに好ましくは、90〜180分かけて昇温し、塊状重合を行うのが推奨される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、所定重合温度までの昇温時間が好ましくは60〜300分のとき、ラジカル重合反応が定量的に、より速く進み、攪拌、除熱がいっそう容易となって、より安全に製造作業が実施できる傾向が見られる。また、重合速度が速くなることで、製造時間の短縮が計れ、アクリル共重合体分子量分布がより小さくなる傾向が見られる。また、アクリル共重合体をさらにラジカル共重合で高分子量化する場合のプレポリマーとしての機能発現がより明瞭となる傾向が見られる。
【0066】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体に使用されるアクリル単量体とし、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸トリフルオロエチルなどの(メタ)アクリル酸(フルオロ)アルキルエステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有アクリルル単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの水酸基含有アクリル単量体、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの3級アミノ基含有アクリル単量体、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどのヒンダードアミノ基含有アクリル単量体、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、4−メタクリルアミドエチルエチレンウレアなどのアミド基含有アクリル単量体、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアなどのウレア基含有アクリル単量体、アクリル酸グリシジル、アクリル酸メチルグリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルグリシジル、o,p,m−ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有アクリル単量体、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレートなどのジシクロペンタジエン誘導体アクリル単量体、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン基含有アクリル単量体などが例示される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0067】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体のなかでは製造時間短縮が可能で、分子量調節が容易なメタクリレート単量体が推奨される。
【0068】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル単量体が、下記構造式で示される
【0069】
【化13】

【0070】
(ここで、Rは、水素原子またはメチル基を表す。)
ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートおよび/またはジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートを含むことが推奨される。
【0071】
本発明のアクリル共重合体では、アクリル単量体は、メタクリレート単量体またはシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが望ましく、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが、製造時間短縮、共重合性、分子量分布が小さくなることから望ましい。本発明のアクリル共重合体では、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートは、「QM−657」(ロームアンドハース社の製品)、「FANCRYL FA−512M」(日立化成工業社の製品)など、市販はされているもののなかから任意に選択できる。
【0072】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体にジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートおよび/またはジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されるとき、難接着性とされる無極性プラスチックであるポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、極性を有しエンジニアリングプラスチックとして広く使用されているナイロンに代表されるポリアミドなどの種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有する傾向が見られる。
【0073】
本発明のアクリル共重合体では、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートおよび/またはジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートは、アクリル共重合体に使用されるアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、20〜100重量%、より好ましくは、25〜98重量%、さらに好ましくは、25〜95重量%使用されるのが望ましい。本発明のアクリル共重合体では、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートおよび/またはジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートの使用量が20〜100重量%のとき、難接着性とされる無極性プラスチックであるポリプロピレンに代表されるポリオレフィン、極性を有しエンジニアリングプラスチックとして広く使用されているナイロンに代表されるポリアミドなどの種々素材に対して良好なヌレ性、相溶性、接着性を有する傾向が見られる。
【0074】
本発明のアクリル共重合体では、アクリル単量体として、さらに下記構造式で示される
【0075】
【化14】

【0076】
イソボルニルメタクリレートの使用が推奨される。
【0077】
本発明のアクリル共重合体では、嵩高い分子構造を有するイソボルニルメタクリレートが使用されることで、ヌレ性、相溶性がいっそう向上する傾向が見られる。特に、ポリプロピレン、ポリエチレンに代表されるポリオレフィン類とのヌレ性、相溶性、接着性が向上する傾向が見られる。
【0078】
本発明のアクリル共重合体では、イソボルニルメタクリレートは、アクリル共重合体に使用されるアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、2〜60重量%、より好ましくは、3〜50重量%、さらに好ましくは、3〜30重量%使用されるのが望ましい。本発明のアクリル共重合体では、イソボルニルメタクリレートの使用量が2〜60重量%のとき、ヌレ性、相溶性、接着性がいっそう向上する傾向が見られる。
【0079】
本発明のアクリル共重合体では、アクリル単量体が、さらに下記構造式で示され
【0080】
【化15】

【0081】
(ここで、Rは、水素原子、または、下記構造式で示される化学構造
【0082】
【化16】

【0083】
【化17】

【0084】
【化18】

【0085】
を表す。)
アクリル単量体をいずれか1種以上を含むことが望ましい。
【0086】
本発明のアクリル共重合体では、Rが水素原子の場合には、下記構造式の
【0087】
【化19】

【0088】
メタクリル酸を使用することで目的のアクリル共重合体を製造できる。
【0089】
本発明のアクリル共重合体では、メタクリル酸は、アクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、1.0〜10重量%、より好ましくは、1.5〜8.0重量%、さらに好ましくは3.0〜8.0重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリル共重合体では、メタクリル酸の使用量が1.0〜10重量%のとき、アクリル共重合体の凝集力が大きくなり、接着性が改善、向上する傾向が見られる。
【0090】
本発明のアクリル共重合体では、Rが下記構造式で示される化学構造の場合には、
【0091】
【化20】

【0092】
下記構造式で示される
【0093】
【化21】

【0094】
メタクリル酸グリシジルを使用することで目的のアクリル共重合体を製造できる。
【0095】
本発明のアクリル共重合体では、メタクリル酸グリシジルはアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、3.0〜50重量%、より好ましくは、5〜35重量%、さらに好ましくは、5〜30重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリル共重合体では、メタクリル酸グリシジルの使用量が3〜50重量%のとき、アクリル共重合体のポリオレフィン、ナイロン、アルミニウム合金、鉄など種々素材に対する相溶性、ヌレ性、接着性が改善、向上する傾向が見られる。また、アクリル共重合体の架橋性が向上する傾向が見られ、強靱な相溶化ポリマー、接着剤などが製造される傾向が見られる。
【0096】
本発明のアクリル共重合体では、Rが下記構造式で示される化学構造の場合には、
【0097】
【化22】

【0098】
下記構造式で示される
【0099】
【化23】

【0100】
4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを使用することで目的のアクリル共重合体を製造できる。本発明のアクリル共重合体では、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンは、「FANCRYL FA−712HM」(日立化成工業の製品)、「アデカスタブ LA−87」(旭電化工業の製品)など、上市されているもののなかから任意に選択できる。
【0101】
本発明のアクリル共重合体では、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンはアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、1〜50重量%、より好ましくは、3〜35重量%、さらに好ましくは、5〜30重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリル共重合体では、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの使用量が1〜50重量%のとき、アクリル共重合体の炭素繊維、ガラス繊維、チタンウィスカーなど種々機能素材に対する相溶性、ヌレ性、接着性が改善、向上する傾向が見られる。また、アクリル共重合体の架橋性、耐候性が向上する傾向が見られ、機械的強度が改善、向上した繊維強化プラスチック等のコンポジットが製造される傾向が見られる。
【0102】
本発明のアクリル共重合体では、Rが下記構造式で示される化学構造の場合には、
【0103】
【化24】

【0104】
下記構造式で示される
【0105】
【化25】

【0106】
N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアを使用することで目的のアクリル共重合体を製造できる。本発明のアクリル共重合体では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアは、「PLEX 6852−0」、「PLEX 6844−0」(以上、エボニック デグサ ジャパンの製品)など、上市されているもののなかから任意に選択できる。
【0107】
本発明のアクリル共重合体では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアはアクリル単量体の合計量を100重量%として、好ましくは、1〜50重量%、より好ましくは、3〜35重量%、さらに好ましくは、5〜30重量%使用するのが望ましい。本発明のアクリル共重合体では、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレンウレアの使用量が1〜50重量%のとき、アクリル共重合体の炭素繊維、ガラス繊維、チタンウィスカーなど種々機能素材に対する相溶性、ヌレ性、接着性が改善、向上する傾向が見られる。また、アクリル共重合体の架橋性、耐候性が向上する傾向が見られ、機械的強度が改善、向上した繊維強化プラスチック等のコンポジットが製造される傾向が見られる。
【0108】
本発明で製造されるアクリル共重合体は、例えばポリカーボネート樹脂とABS樹脂などの異種高分子材料の相溶化ポリマーとして有用であり、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタンウィスカーなどの機能性補強材とマトリックス樹脂との分散安定化や相溶性、接着性を高めてより高強度な複合材料を製造できる傾向が見られる。
【実施例】
【0109】
以下に実施例で本発明の詳細を説明する。なお、以下の実施例では、評価方法、測定方法等を次の通りとした。
【0110】
1)重合率(%)
JIS K 5407:1997にしたがって加熱残分を測定し、これを重合率とした。ただし、測定条件は140℃で1時間加熱とした。
【0111】
2)酸素濃度(vol%)
デジタル酸素濃度計XO−326ALB(新コスモス電機(株)の測定装置)を使用して測定した。
【0112】
3)数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)「HLC−8220GPC」(東ソー(株)の試験装置)を使用し、キャリアーをテトラヒドロフラン、分子量スタンダードとしてポリスチレンを用い測定した。分子量分布は、Mw/Mnの式で算出した。
【0113】
実施例1
アクリル共重合体A−1の製造
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた2L四つ口フラスコに窒素ガスを吹き込みフラスコ内の酸素濃度が3.0vol%以下であることを確認した。以後、アクリル共重合体A−1製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。フラスコ内気相部温度は25℃であった。
【0114】
フラスコに、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート1000g、2−フェニルプロピル−フェニルジチオアセテート17.4g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.0gを仕込んだ。このとき、反応混合物の液温は22℃、気相部酸素濃度は2.0vol%以下であった。昇温を開始し、30℃から重合温度の85℃まで120分で昇温した。昇温後、6時間重合を行い、アクリル共重合体A−1を塊状ラジカル重合で製造した。
【0115】
アクリル共重合体A−1製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。
【0116】
アクリル共重合体A−1は、重合率98.8%、数平均分子量3800、重量平均分子量4200、分子量分布1.11であった。
【0117】
アクリル共重合体A−1の組成、製造方法、特性値の詳細を表1に示した。なお、表中、(1)はアクリル単量体、(2)はジチオエステル化合物、(3)は重合開始剤、(4)はアクリル共重合体の製造条件、(5)はアクリル共重合体の特性値を示した。また、1−フェニルエチル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートは、Zがペンタフルオロベンジル基、Rがメチル基、Rが水素原子、Rがフェニル基の場合であり、ベンジル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートは、Zがペンタフルオロベンジル基、R、Rが水素原子、Rがフェニル基の場合である。
【0118】
実施例2〜5
アクリル共重合体A−2〜A−5の製造
アクリル単量体組成、製造条件等を表1のように変える以外はアクリル共重合体A−1と同様にして、アクリル共重合体A−2〜A−5を製造した。
【0119】
アクリル共重合体A−2〜A−5製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。
【0120】
アクリル共重合体A−2〜A−5の組成、製造方法、特性値の詳細を表1に示した。なお、表中、(1)はアクリル単量体、(2)はジチオエステル化合物、(3)は重合開始剤、(4)はアクリル共重合体の製造条件、(5)はアクリル共重合体の特性値を示した。また、1−フェニルエチル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートは、Zがペンタフルオロベンジル基、Rがメチル基、Rが水素原子、Rがフェニル基の場合であり、ベンジル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートは、Zがペンタフルオロベンジル基、R、Rが水素原子、Rがフェニル基の場合である。
【0121】
なお、アクリル共重合体A−5は、分子量ピークが感知できずGPCでの分子量測定ができなかったが、粘度上昇からアクリル共重合体A−1〜A−4同様に数平均分子量、重量平均分子量が増大しているものと考えられる。
【0122】
実施例6〜10
アクリル共重合体A−6〜A−10の製造
アクリル単量体組成、製造条件等を表2のように変える以外はアクリル共重合体A−1と同様にして、アクリル共重合体A−6〜A−10を製造した。
【0123】
アクリル共重合体A−6〜A−10製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。
【0124】
アクリル共重合体A−6〜A−10の組成、製造方法、特性値の詳細を表2に示した。なお、表中、(1)はアクリル単量体、(2)はジチオエステル化合物、(3)は重合開始剤、(4)はアクリル共重合体の製造条件、(5)はアクリル共重合体の特性値を示した。また、1−フェニルエチル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートは、Zがペンタフルオロベンジル基、Rがメチル基、Rが水素原子、Rがフェニル基の場合であり、ベンジル−ペンタフルオロフェニルジチオアセテートは、Zがペンタフルオロベンジル基、R、Rが水素原子、Rがフェニル基の場合である。
【0125】
実施例11
アクリル共重合体A−4を加熱残分が25%になるようトルエンに溶解し、ポリプロピレンシート上に塗膜厚が20μmとなるよう塗布し、140℃で30分間乾燥した。碁盤目試験(JIS K 5407:1997)にしたがって付着性試験を行った結果、100/100で良好な付着性を示した。また、塗布に際して、ハジキや寄りは見られず、アクリル共重合体A−4はポリプロピレンに対して良好なヌレ性、相溶性を有していた。
【0126】
実施例12
アクリル共重合体A−6を2枚のアルミニウム板A−6061P(JIS H−4000:1999)に膜厚が100μmになるよう塗布した後、塗布面を圧着し、150℃で30分間加熱した。室温に冷却し、1日養生した後、JIS K 6850:1999にしたがって引張剪断試験を行った。引張剪断強度は18MPaであった。金属(アルミニウム合金)に対する良好なヌレ性、接着性を示した。
【0127】
実施例13
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた2L四つ口フラスコに窒素ガスを吹き込みフラスコ内の酸素濃度が3.0vol%以下であることを確認した。
【0128】
フラスコに、アクリル共重合体A−1500g、アクリル酸n−ブチル200g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.0gを仕込んだ。このとき、反応混合物の液温は22℃、気相部酸素濃度は2.0vol%以下であった。昇温を開始し、30℃から重合温度の85℃まで120分で昇温した。昇温後、6時間重合を行い、アクリル共重合体A−1とアクリル酸n−ブチルのブロック共重合体を塊状ラジカル重合で製造した。
【0129】
ブロック共重合体製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。また重合反応は、重合率の上昇とともに比例的に数平均分子量が増大し、良好なリビング性を示した。
【0130】
製造したブロック共重合体は、重合率95.1%、数平均分子量5600、重量平均分子量6900、分子量分布1.23であった。アクリル共重合体A−1はラジカル重合のプレポリマーとして十分な機能を有していた。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
比較例1
アクリル共重合体A−11の製造
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた2L四つ口フラスコに窒素ガスを吹き込みフラスコ内の酸素濃度が3.0vol%以下であることを確認した。以後、アクリル共重合体A−11製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。フラスコ内気相部温度は25℃であった。
【0134】
フラスコに、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート1000g、2−フェニルプロピル−フェニルジチオアセテート7.0g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.0gを仕込んだ。このとき、反応混合物の液温は22℃、気相部酸素濃度は2.0vol%以下であった。昇温を開始し、30℃から重合温度の85℃まで120分で昇温した。RAFT剤/重合開始剤使用量比が小さいため、昇温中に発熱が激しくなり、75℃くらいから暴走反応となって、アクリル共重合体A−11は製造できなかった。
【0135】
比較例2
アクリル共重合体A−12の製造
攪拌機、窒素ガス吹き込み口、還流冷却器、温度センサーを備えた2L四つ口フラスコに窒素ガスを吹き込みフラスコ内の酸素濃度が3.0vol%以下であることを確認した。以後、アクリル共重合体A−12製造中は窒素ガスの吹き込みを継続した。フラスコ内気相部温度は25℃であった。
【0136】
フラスコに、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート950g、イソボルニルメタクリレート50g、2−フェニルプロピル−フェニルジチオアセテート19.1g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.0gを仕込んだ。このとき、反応混合物の液温は22℃、気相部酸素濃度は2.0vol%以下であった。昇温を開始し、30℃から重合温度の85℃まで120分で昇温した。昇温後、6時間重合を行い、アクリル共重合体A−12を塊状ラジカル重合で製造した。
【0137】
アクリル共重合体A−12製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。
【0138】
アクリル共重合体A−12は、ジチオエステル化合物/重合開始剤使用量比が大きすぎるため重合率15.1%までしか上昇せず、実用性はなかった。
【0139】
アクリル共重合体A−12の組成、製造方法、特性値の詳細を表3に示した。なお、表中、(1)はアクリル単量体、(2)はジチオエステル化合物、(3)は重合開始剤、(4)はアクリル共重合体の製造条件、(5)はアクリル共重合体の特性値を示した。
【0140】
比較例3、比較例4
アクリル共重合体A−13、A−14の製造
アクリル単量体組成、製造条件等を表3のように変える以外はアクリル共重合体A−12と同様にして、アクリル共重合体A−13、A−14を製造した。
【0141】
アクリル共重合体A−13、A−14の製造中は、急激な発熱、粘度上昇は見られず、安全に製造できた。
【0142】
アクリル共重合体A−13、A−14の組成、製造方法、特性値の詳細を表3に示した。なお、表中、(1)は、アクリル単量体、(2)は、ジチオエステル化合物、または、α−メチルスチレンダイマー(2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン)である、(3)は重合開始剤、(4)はアクリル共重合体の製造条件、(5)はアクリル共重合体の特性値を示した。
【0143】
比較例5
アクリル共重合体A−13、A−14を加熱残分が25%になるようトルエンに溶解し、ポリプロピレンシート上に塗膜厚が20μmとなるよう塗布し、140℃で30分間乾燥した。碁盤目試験(JIS K 5407:1997)にしたがって付着性試験を行った結果、アクリル共重合体A−13、A−14とも0/100で、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されていないためポリプロピレンに対する付着性を有さなかった。また、塗布に際して、ポリプロピレンシート中心部への途液の寄り、ハジキが見られ、アクリル共重合体A−13、A−14は、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが使用されていないためポリプロピレンに対してヌレ性、相溶性が劣っていた。
【0144】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で示される
【化1】

(ここで、Zは、フェニル基、ベンジル基、下記構造式で示される化学構造、
【化2】

(ペンタフルオロベンジル基)、
【化3】

(ペンタフルオロフェニル基)
のいずれかを表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、ニトリル基、または、炭素原子数1〜4個のアルキル基を表し、Rは、水素原子、炭素原子数1〜4個のアルキル基、または、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシルエチル基、カルボキシプロピル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、フェニル基、または、置換基を有するフェニル基(ただし、置換基は、ニトリル基、炭素原子数1〜4個のアルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、カルボキシル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、スルホニル基および塩、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基を表す。)を表す。)
ジチオエステル化合物1.0モルに対して重合開始剤を0.020〜0.400モル使用し、アクリル単量体を塊状重合するアクリル共重合体の製造方法。
【請求項2】
アクリル単量体が、下記構造式で示される
【化4】

(ここで、Rは、水素原子またはメチル基を表す。)
ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートおよび/またはジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートを含む請求項1に記載のアクリル共重合体の製造方法。
【請求項3】
アクリル単量体が、さらに下記構造式で示される
【化5】

(ここで、Rは、水素原子、または、下記構造式で示される化学構造
【化6】

【化7】

【化8】

を表す。)
アクリル単量体をいずれか1種以上を含む請求項1または2のいずれかに記載のアクリル共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2010−95581(P2010−95581A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265885(P2008−265885)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】