説明

アニオン型電着塗料組成物

【課題】 本発明の課題は、特にアルミニウム素材に塗装して、低温硬化性、および耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能の両者を満足させることができ、塗膜の外観仕上がり性に優れた電着塗料組成物を提供することである。
【解決手段】 (A)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、アセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体を含有するビニル共重合体、および(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物を必須成分とするアニオン型電着塗料組成物により、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン型電着塗料組成物に関するものである。より詳しくは低温硬化性、耐水性、耐薬品性に優れた塗膜を提供できることに特徴があり、特にアルミニウム素材の塗装に適している。
【背景技術】
【0002】
陽極酸化処理したアルミニウム素材は軽量でかつ強度が強く、さらには耐食性に優れることから、ビルや住宅の窓枠、ドアー、エクステリア等の建材関係に広く使用されている。アルミニウム素材の塗装には、ワンコートで仕上がり性の良いアニオン型電着塗料が一般的に使用されている。そのアニオン型電着塗料としては、カルボキシル基および水酸基を含有する水性アクリル樹脂にメラミン樹脂架橋剤を配合し、水分散してなるメラミン硬化型電着塗料組成物が代表的であり、現在では艶有りタイプの塗装や艶消しタイプの塗装が行われている。
【0003】
しかしながら、メラミン硬化型電着塗料組成物は、通常、170℃以上の焼付温度を必要とするため陽極酸化被膜が劣化して外観や性能が低下することや、高燃費により経済的損失が大きいことから、生産性の向上が図れないといった問題点があった。
【0004】
この問題点を補うために、メラミン硬化型塗料組成物にクメンスルホン酸などの酸触媒を添加することにより低温化を行なう技術が考案されており特許文献1がこれに相当する。しかしながらこの技術においては、塗膜が黄変色する、耐候性や加工性が低下するといった問題点があり、さらに艶有りタイプに関しては塗膜が艶引けして十分な鮮映性が得られないといった問題点がある。
【0005】
さらに、上記の問題点以外にも、メラミン硬化型電着塗料組成物を用いた硬化塗膜は、未反応の水酸基が塗膜中に残存するため、機械特性、耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能が不十分であり、それらの改善が要求されている。
【0006】
低温硬化性を志向した電着塗料用組成物としては、特許文献2、特許文献3等のように、メラミン樹脂架橋剤の代わりにブロックポリイソシアネート硬化剤を使用する技術が考案されている。これらのようなブロックポリイソシアネート硬化型電着塗料組成物は、水酸基との架橋反応においてメラミン硬化型電着塗料組成物よりも低温硬化性に優れるが、焼付け低温領域においては、未反応の水酸基が残存するため、機械特性、耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能は不十分であり、低温硬化性と耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能の両者を満足させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−262068号公報
【特許文献2】特開平8−41380号公報
【特許文献3】特開2007−9059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、低温硬化性、および耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能の両者を満足させることができ、塗膜の仕上がり性に優れた電着塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題を解決するために、水酸基/メラミン樹脂に代わる新規硬化系について検討を行った。その結果、アセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体を含有するビニル共重合体、およびブロック化ポリイソシアネート化合物を主成分とするアニオン型電着塗料組成物が、塗膜の仕上がり性に優れ、電着塗膜の低温硬化性に優れており、かつ耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能が良好であるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)アセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、(c)水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体からなるビニル共重合体(A)、およびブロック化ポリイソシアネート化合物(B)を必須成分とするアニオン型電着塗料組成物。
(2)より好ましくは、酸価10〜150KOHmg/g(固形分)、水酸基価0.1〜100KOHmg/g(固形分)、全単量体合計100g中、単量体(b)に由来するアセトアセチル基を50〜300ミリモル含有するビニル共重合体(A)、およびブロック化ポリイソシアネート化合物(B)から成る上記(1)のアニオン型電着塗料組成物である。
(3)さらに好ましくは、ビニル共重合体(A)100重量部に対して、ブロック化ポリイソシアネート化合物が30〜100重量部である上記(2)のアニオン型電着塗料組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアニオン型電着塗料組成物は、以上説明したように構成されており、電着塗膜を形成する架橋反応はビニル共重合体(A)に含有されるアセトアセチル基の活性メチレン水素とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基との反応が主であり、ビニル共重合体(A)に含有される水酸基とブロック化ポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基との反応は、従来技術と比較して減少するため、焼付け低温領域において未反応の水酸基が残存することなく優れた低温硬化性を発揮し、耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能が良好で仕上がり性に優れた電着塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の電着塗料およびその電着塗装方法について詳細に説明する。
〔(A)ビニル共重合体〕
本発明に使用される(A)ビニル共重合体中の(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ビニル共重合体に水分散性、電気泳動性を付与するものである。例示すればアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、ビニル共重合体の酸価が好ましくは10〜150KOHmg/g(固形分)、より好ましくは20〜100KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。ビニル共重合体の酸価が10未満では十分な水分散安定性が得られにくく、また150を超えると電気泳動性、塗膜析出性が低下し、塗膜の耐水性、耐アルカリ性が低下する。
【0014】
次に(b)アセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体としては、例えば下記化学式(1)で表されるアセトアセトキシエチルメタクリレートが代表的であり、他に、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタ(ア)クリレート、アセトアセトキシブチルメタ(ア)クリレート等が有用であり、ヒドロキシエチルメタ(ア)クリレートをラクトン変性した後、アセトアセチル化して得られる誘導体もまた活用できる。これらの単量体の1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
アセトアセチル基は全単量体合計100g中、50〜300ミリモルが適当である。50ミリモル以下では、得られる塗膜の硬化性が低下し、また、300ミリモル以上では、製造安定性が低下する。
【0017】
次に(c)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体としては、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、ヒドロキシブチルビニルエーテル、アリルアルコール、メタアリルアルコール等および、上記した水酸基含有ビニル系モノマー類のラクトン類化合物との反応物等が挙げられる。これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
(c)水酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体の使用量は、ビニル共重合体の水酸基価が好ましくは0.1〜100KOHmg/g(固形分)、より好ましくは0.1〜50KOHmg/g(固形分)となるような範囲で使用される。水酸基価が100を超えると、焼付け低温領域において未反応の水酸基が残存して耐水性が低下し十分な性能が得られにくい。
【0019】
また(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体の例としては、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、あるいはその他のビニル単量体およびアミド系単量体を用いることができる。具体的な化合物を例示すると、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系単量体等が挙げられる。これらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
また艶消しの塗膜を形成させる必要がある場合は、本発明のアニオン型電着塗料組成物のビニル共重合体を利用して、不溶性のミクロゲルを生成させて、艶消し性能を付与することが好ましい。例示すると、本発明のビニル共重合体の(b)成分であるアセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体の一部に、アルデヒド類特にホルムアルデヒドを反応させる方法、あるいは、本発明のビニル共重合体にγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の、アルコキシシリル基を含有するα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合させる方法がある。いずれの方法においても、後述する方法で本発明のビニル共重合体を水分散させた後、加熱処理等を行うことでミクロゲルを生成させることができる。
【0021】
ビニル共重合体の好ましい重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定でポリスチレン換算での数値)は10,000〜100,000であり、より好ましくは20,000〜70,000である(以下共重合体等の分子量についての記載はすべてGPCでのポリスチレン換算分子量を表すものとする)。重量平均分子量が10,000以下の場合は、塗膜耐久性が十分に得られず、また100,000以上の場合は、水分散性が低下し、塗料の取り扱い性が不良になる。
【0022】
上述したようなビニル共重合体は、前記の各単量体を溶液重合、非水性分散重合、塊状重合、エマルジョン重合、懸濁重合等の公知の方法で重合することによって得られるが、特に溶液重合が好ましく、反応温度としては通常40〜170℃が選ばれる。
【0023】
反応溶剤としては、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の親水性溶剤を用いるのが好ましい。また、重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ系化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等、公知のものを用いることができる。
【0024】
得られたビニル共重合体を水分散化するために、ビニル共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を塩基性物質、例えば有機アミンあるいは無機塩基で中和する。かかる塩基性物質としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミン、アンモニア、エチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。このような塩基性物質による中和率は30〜120%が適当であるが、特に50〜100%であると水分散性が良好で、光沢ムラを生じないので好ましい。
【0025】
〔(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物〕
本発明に使用される(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネートとブロック剤との反応物であり、ポリイソシアネートとしては、芳香族あるいは脂肪族(脂環式を含む)のポリイソシアネートである。例示すると、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートおよびこれらの混合物、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4‘ −ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルメタン−4,4’ −ジイソシアネート、1, 3あるいは1, 4−ビス−(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ビス−(イソシアネートメチル)−ノルボルナン、3あるいは4−イソシアネートメチル−1−メチルシクロヘキシルイソシアネート、m−あるいはp−キシリレンジイソシアネート、m−あるいはp−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、さらには上記イソシアネートのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体、あるいは上記イソシアネートのイソシアネート基の一部を、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトンジオール等のオリゴマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールで連結したポリイソシアネートあるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0026】
ブロック剤としては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール化合物、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルルエーテル等のセロソルブ系化合物、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール系化合物、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクタム等のラクタム化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系化合物、アセト酢酸エチルエステル、マロン酸ジエチルエステル等の活性メチレン基含有化合物を挙げることができる。
【0027】
ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、溶剤中あるいは溶剤なしの溶融体中で実施することができる。反応に使用する溶剤としては、ポリイソシアネートと反応しない溶剤、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素を例示することができる。反応温度については特に限定はないが、好ましくは30〜150℃である。
【0028】
本発明における(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物の使用量の好ましい範囲は、固形分比で(A)ビニル共重合体100重量部に対し30〜100重量部である。この範囲より少ない場合は、塗膜の架橋が不十分なため機械特性、耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性、耐薬品性等が低下し、逆に多い場合はビニル共重合体との親和性が不十分になり、水分散液の安定性不良、分散粒径の不均一化、電着後の水洗性不良、撥水現象、塗膜の光沢ムラ、塗膜黄変等の問題が生じる。
【0029】
本発明のアニオン型電着塗料組成物は、必要に応じて前記共重合体以外の塗膜形成樹脂、有機溶剤、有機樹脂微粒子、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、硬化促進剤などを含有することができる。
【0030】
〔電着塗料の調製〕
本発明における電着塗料の調製は、前述の(A)ビニル共重合体、(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物を通常40〜100℃で攪拌混合した後、中和用の塩基性物質および脱イオン水を、温度20〜80℃で撹拌混合して乳化分散液を得るのが、一般的な方法である。更に、必要に応じて脱イオン水、または親水性溶剤を一部含有する脱イオン水で希釈し、電着塗装に供せられる。また、電着塗料の調製にはさらに必要に応じて、硬化促進剤や消泡剤、レベリング剤等や界面活性剤のような通常の電着塗料に使用される添加剤類も、支障なく使用することができる。さらに、本発明の技術は着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の各種顔料類を併用して着色タイプの電着塗料にも適用が可能である。
【0031】
〔電着塗装方法〕
本発明により得られる電着塗料は、必要に応じて脱イオン水、あるいは親水性溶剤を一部含有する脱イオン水で希釈し、電着塗装に供せられる。電着塗装を実施する場合における、塗料浴の固形分濃度は4〜20重量%が適当である。4重量%より低い場合には、必要な塗膜厚を得るのに長時間を要し、20重量%を越えると浴液の状態が不安定となり、塗装系外に持ち出される塗料量も多く問題となる。
【0032】
塗装方法については、被塗物を陽極として電着塗装を行うが、塗装電圧は30〜350V、好ましくは50〜300Vであり、通電時間は0.5〜7分、好ましくは1〜5分である。電圧が高いほど通電時間は短く、逆に電圧が低いほど通電時間は長くなる。塗装電圧は通電と同時に設定電圧をかける方法、あるいは徐々に設定電圧まで上げていく方法のどちらでもかまわない。電着塗装された被塗物は必要により水洗し、次いで120〜200℃で15〜60分間加熱し最終塗膜を得る。塗膜厚は5〜30μmが好ましい。
【0033】
本発明の電着塗装方法が適用される被塗物の素材は、導電性を有するものであれば特に限定されないが、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いた素材に好適である。また、得られる塗膜は、平滑性、鮮映性や均一性等の外観に優れ、機械特性、耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性といった塗膜性能にも優れたものとなる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明について実施例を挙げ、更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお表中の配合量は特別な記載のない限り、重量部を表す。
【0035】
〔ビニル共重合体の製造〕
製造例1〜7(樹脂液A1〜A7の製造)
撹拌装置、温度計、単量体の滴下装置、還流冷却装置を有する反応装置を準備する。表1に示す配合に従って、(1)と(2)を反応装置に仕込み、撹拌下に還流温度まで上昇させ、(3)〜(11)を予め均一に混合した後、3時間かけて滴下した。温度は90℃を維持した。滴下終了してから、1.5時間経過後に(12)を加えて、更に90℃で1.5時間反応を継続して、樹脂固形分65%の透明で粘稠な樹脂液A1〜A7を得た。それらの酸価、水酸基価、重量平均分子量も表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
〔ブロック化ポリイソシアネート化合物の製造〕
製造例8
撹拌装置、温度計、還流冷却装置を有する反応装置にイソホロン133部、トルエン150部、VESTANAT T−1890/100(デグサAG社製イソホロンジイソシアネートのヌレート体)333部、コロネートHX(日本ポリウレタン工業(株)社製ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体)300部を仕込み60℃まで昇温した。次いで60℃を保持しながらメチルエチルケトンオキシム261部を1時間で滴下し、さらに60℃で2時間保温した。最後にプロピレングリコールモノメチルエーテル100部を仕込んで固形分75%のブロック化ポリイソシアネート化合物B1を得た。
【0038】
製造例9
撹拌装置、温度計、還流冷却装置を有する反応装置にトルエン100部、コロネートHX(日本ポリウレタン工業(株)社製ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体)300部を仕込み60℃まで昇温した。次いで60℃を保持しながらメチルエチルケトンオキシム132部を1時間で滴下し、さらに60℃で2時間保温した。最後にプロピレングリコールモノメチルエーテル44部を仕込んで固形分75%のブロック化ポリイソシアネート化合物B2を得た。
【0039】
〔分散樹脂液の製造〕
撹拌装置、温度計、還流冷却装置を有する反応装置を準備し、表2および表3に示す配合に従って(1)〜(9)を仕込み、60℃で1時間撹拌混合した。これに(10)を加えた後、(11)を徐々に添加して分散樹脂液を得た。分散樹脂液C5、C6およびC11については、さらに(12)を添加して50℃で4時間保温し、ミクロゲル化の反応を行った。分散樹脂液C7とC8については、75℃で10時間保温してミクロゲル化の反応を行った。最後にC1〜C11それぞれに(13)を加えて固形分30%の分散樹脂液を得た。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
〔電着塗料の製造〕
上記の分散樹脂液C1〜C11に脱イオン水を加えて固形分を10%に調製した後、トリエチルアミンを加えてpHを8.0に調整して、各々の電着塗料D1〜D8(実施例1〜8用)、D9〜D11(比較例1〜3用)を得た。
【0043】
〔電着塗装および塗膜性能評価〕
(実施例1〜8、比較例1〜3)
上記で得られた電着塗料を塩化ビニル製の槽に入れ、陰極をSUS304鋼板とし、6063Sアルミ合金板にアルマイト処理(アルマイト膜厚=9μm)を施し、更に黒色に電解着色した後、常法により湯洗されたアルミニウム材を陽極(被塗物)として電着塗装を行った。電着塗装の具体的条件は浴温22℃、極間距離12cm、極比(+/−)2/1として、常法により、130Vで塗膜厚が10μmとなる様に通電し、電着終了後洗浄し、引き続いて所定の温度で30分間焼付けた。得られた塗膜を性能評価し結果を表4および表5に示した。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
評価方法は次の通りである。
(1)光沢値:グロスメーターで60°鏡面反射率を測定。
(2)鉛筆硬度:JIS K−5600に準拠し、破れ判定。
(3)ゲル分率:塗膜重量(W)が既知の試験片をアセトンに浸漬し、40℃×24時間後に取り出し、100℃×5分乾燥させたあとの塗膜重量(W)を測定
し下式を用いて計算される。
ゲル分率=(W/W)×100(%)
(4)アセトンを含ませたガーゼで試験片を20回擦った後の塗面状態を観察。
○=異常なし。
△=傷跡が見られる。
×=塗膜が溶解する。
(5)耐沸騰水性:沸騰水に5時間浸漬後に塗面状態を観察。
(6)耐アルカリ性:1%の水酸化ナトリウム水溶液に20℃で48時間浸漬後に塗面状態を観察。
(7)耐酸性:5%の硫酸水溶液に20℃で48時間浸漬後に塗面状態を観察。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のアニオン型電着塗料組成物は、アルミニウム素材、その他の金属素材用の電着塗料に供せられ、塗装後130℃程度の低い温度で焼付けられても、耐水性、耐沸騰水性、耐溶剤性や耐薬品性などに優れた硬化塗膜が形成でき、しかも十分な外観仕上がり性を有する塗装物品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(b)アセトアセチル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、(c)水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体、および(d)その他のα,β−エチレン性不飽和単量体を共重合したビニル共重合体、および(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物を必須成分とするアニオン型電着塗料組成物。
【請求項2】
ビニル共重合体(A)の酸価が10〜150KOHmg/g(固形分)、水酸基価が0.1〜100KOHmg/g(固形分)、全単量体合計100g中、単量体(b)に由来するアセトアセチル基を50〜300ミリモル含有する請求項1に記載のアニオン型電着塗料組成物。
【請求項3】
ビニル共重合体(A)100重量部に対して、ブロック化ポリイソシアネート化合物が30〜100重量部である請求項2に記載のアニオン型電着塗料組成物。

【公開番号】特開2011−168660(P2011−168660A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32175(P2010−32175)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000192844)神東塗料株式会社 (48)
【Fターム(参考)】