説明

アリピプラゾールの製造法

【課題】本発明は、アリピプラゾールを高純度且つ高収率で製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の方法は、一般式(2)


[式中、Xは、塩素原子以外のハロゲン原子、低級アルカンスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基又はアラルキルスルホニルオキシ基を示す。]
で表されるカルボスチリル化合物と式(3)


で表されるピペラジン化合物及び/又はその塩とを、カルボスチリル化合物(2)に対して0.5〜10倍モル量の無機塩基性化合物の存在下に水中で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリピプラゾールの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】

【0003】
【化1】

【0004】
で表される7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]ブトキシ}−3,4−ジヒドロ−2(1H)−キノリノンは、アリピプラゾールと呼ばれ、精神分裂病治療剤として有用な化合物である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従来、アリピプラゾールは、例えば一般式(2)
【0006】
【化2】

【0007】
[式中、Xは、ハロゲン原子、低級アルカンスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基又はアラルキルスルホニルオキシ基を示す。]
で表されるカルボスチリル化合物と式(3)
【0008】
【化3】

【0009】
で表されるピペラジン化合物とを無機もしくは有機塩基性化合物の存在下、有機溶媒中又は無溶媒下で反応させることにより製造されている(特許文献1の第3頁参照)。
【0010】
特許文献1には、「上記反応は、必要に応じ反応促進剤として、沃化カリウム、沃化ナトリウム等の沃化アルカリ金属化合物を添加して行い得る。」という記載があり(特許文献1、第3頁右下欄)、その実施例においても沃化ナトリウムが反応促進剤として使用されている。特許文献1に記載の方法では、反応促進剤を使用した場合でも、目的とするアリピプラゾールの収率は80%程度に止まる(特許文献1、第8頁左上欄〜右上欄)。
【0011】
特許文献1では、無溶媒下でもアリピプラゾールを製造しているが、無溶媒下では反応の進行が遅く、また出発原料化合物及び目的とするアリピプラゾールがいずれも固体であることから、攪拌による均一性を維持することが困難であり、それ故、特許文献1に記載の方法は工業的製造には不適である。
【0012】
更に、特許文献1に記載の方法は、目的とするアリピプラゾールを得るまでの操作が煩雑である。
【0013】
アリピプラゾールは、医薬の有効成分として使用されるため、より一層高純度でアリピプラゾールを製造することが望まれている。また、製造コストを低く抑えるために、より一層収率よくアリピプラゾールを製造することが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−191256号公報(特許請求の範囲、第3頁、第8頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、アリピプラゾールをより一層高純度且つ高収率で製造し得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、アリピプラゾールをより一層高純度且つ高収率で製造し得る方法の開発を続けてきた。一般に化学反応は反応基質が溶解する反応系において効率よく進行するということが化学常識になっている。この化学常識に従えば、上記一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物は、水に全く不溶であるために、該カルボスチリル化合物と式(3)で表されるピペラジン化合物又はその塩との反応媒体として水を使用することなど当業者が到底考えつくことではない。しかも、一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物は、分子内のXが水で加水分解されて水酸基に置換される可能性が極めて高く、そのためにアリピプラゾールの純度及び収率が低下することは当業者であれば容易に予想できることである。
【0017】
本発明者らは、このような状況の下、一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物を全く溶解しない水を敢えて反応媒体として使用し、更に塩基性化合物として無機塩基性化合物を用いた場合に、アリピプラゾールをより一層高純度且つ高収率で製造し得ることを
見い出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
1.本発明は、上記一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物と式(3)で表されるピペラジン化合物及び/又はその塩とを、カルボスチリル化合物(2)に対して0.5〜10倍モル量の無機塩基性化合物の存在下に水中で反応させて、式(1)で表されるアリピプラゾールを得ることを特徴とするアリピプラゾールの製造法を提供する。
2.本発明は、無機塩基性化合物を1種単独で使用し、該塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸物又はアルカリ金属である上記1に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
3.本発明は、無機塩基性化合物を2種以上混合して使用し、該塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属炭酸物との混合物である上記1に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
4.本発明は、一般式(2)におけるXがハロゲン原子である上記2又は3に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
5.本発明は、一般式(2)におけるXが塩素原子であり、無機塩基性化合物がアルカリ金属炭酸物である上記2に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
6.本発明は、一般式(2)におけるXが塩素原子である上記3に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
7.本発明は、アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム又は水酸化リチウムである上記2又は3に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
8.本発明は、アルカリ金属炭酸物が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムである上記2、3又は5に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
9.本発明は、アルカリ金属がナトリウム又はカリウムである上記2に記載のアリピプラゾールの製造法を提供する。
【0018】
本発明において、出発原料として使用される一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物は、公知である。
【0019】
一般式(2)において、Xで示されるハロゲン原子は、弗素原子、塩素原子、臭素原子及び沃素原子である。
【0020】
Xで示される低級アルカンスルホニルオキシ基としては、具体的には、メタンスルホニルオキシ、エタンスルホニルオキシ、イソプロパンスルホニルオキシ、n−プロパンスルホニルオキシ、n−ブタンスルホニルオキシ、tert−ブタンスルホニルオキシ、n−ペンタンスルホニルオキシ、n−ヘキサンスルホニルオキシ基等の炭素数が1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルカンスルホニルオキシ基を例示できる。
【0021】
Xで示されるアリールスルホニルオキシ基としては、例えば、フェニル環上に置換基として炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子なる群より選ばれた基を1〜3個有することのあるフェニルスルホニルオキシ基、ナフチルスルホニルオキシ基等を挙げることができる。上記置換基を有することのあるフェニルスルホニルオキシ基の具体例としては、フェニルスルホニルオキシ、4−メチルフェニルスルホニルオキシ、2−メチルフェニルスルホニルオキシ、4−ニトロフェニルスルホニルオキシ、4−メトキシフェニルスルホニルオキシ、2−ニトロフェニルスルホニルオキシ、3−クロロフェニルスルホニルオキシ等を例示できる。ナフチルスルホニルオキシ基の具体例としては、α−ナフチルスルホニルオキシ、β−ナフチルスルホニルオキシ基等を例示できる。
【0022】
Xで示されるアラルキルスルホニルオキシ基としては、例えばフェニル環上に置換基と
して炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子なる群より選ばれた基を1〜3個有することのあるフェニル基が置換した炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルキルスルホニルオキシ基、ナフチル基が置換した炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状のアルキルスルホニルオキシ基等を挙げることができる。上記フェニル基が置換したアルキルスルホニルオキシ基の具体例としては、ベンジルホニルオキシ、2−フェニルエチルスルホニルオキシ、4−フェニルブチルスルホニルオキシ、2−メチルベンジルスルホニルオキシ、4−メトキシベンジルスルホニルオキシ、4−ニトロベンジルスルホニルオキシ、3−クロロベンジルスルホニルオキシ等を例示できる。上記ナフチル基が置換したアルキルスルホニルオキシ基の具体例としては、α−ナフチルメチルスルホニルオキシ、β−ナフチルメチルスルホニルオキシ基等を例示できる。
【0023】
Xとしては、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0024】
本発明において、他の一つの出発原料として使用される式(3)で表されるピペラジン化合物及びその塩も、公知である。
【0025】
塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、燐酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩を例示できる。
【0026】
上記一般式(2)のカルボスチリル化合物と式(3)のピペラジン化合物及び/又はその塩との反応において、両者の使用割合は特に限定されるものではなく、広い範囲内から適宜選択することができる。式(3)のピペラジン化合物及び/又はその塩は、一般式(2)のカルボスチリル化合物1モルに対して、通常少なくとも0.5モル、好ましくは1〜1.5モル使用される。
【0027】
本発明の反応は、無機塩基性化合物の存在下、水中で行われる。
【0028】
無機塩基性化合物としては、公知のものを広く使用でき、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸物;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属等が挙げられる。これらの無機塩基性化合物は、1種単独で又は2種以上混合して使用される。
【0029】
無機塩基性化合物の1種を単独で使用する場合は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸物等が好ましく、その使用量は、一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物に対して、通常0.5〜10倍モル、好ましくは0.5〜6倍モルである。
【0030】
2種以上の無機塩基性化合物を混合物として使用する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物と炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸物との混合物が好ましい。この混合物を使用する場合、無機塩基性化合物の総使用量は、一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物に対して、通常0.5〜10倍モル量、好ましくは0.5〜6倍モル量である。
【0031】
本発明方法において、水は、一般式(2)で表されるカルボスチリル化合物に対して、通常3〜50倍重量程度、好ましくは5〜15倍重量程度使用する。
【0032】
本発明の反応は、通常室温〜200℃、好ましくは80〜150℃付近にて行われる。該反応は、通常1〜10時間程度で完了する。
【0033】
本発明においては、撹拌下で反応を行うことにより、該反応がより有利に進行する。
【0034】
本発明の方法で得られるアリピプラゾールは、この分野で慣用されている単離及び精製手段により反応混合物から容易に単離、精製することができる。斯かる単離及び精製手段としては、例えば、溶媒抽出法、希釈法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、プレパラテイブ薄層クロマトグラフィー等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の方法により、アリピプラゾールを高純度且つ高収率で製造することができる。
【0036】
本発明の方法は、反応に使用する媒体が水であるため、有機溶媒等の環境衛生上好ましくない物質の使用を回避でき、環境に対して負荷を与えず、安全である。
【0037】
本発明の方法によれば、簡便な操作でアリピプラゾールを製造することができる。
【0038】
本発明の方法によれば、煩雑な精製工程を経ることなく、高純度のアリピプラゾールを製造することができる。
【0039】
本発明の方法は、必要以上の試薬を用いることはないので、アリピプラゾールを安価に製造することができる。
【0040】
従って、本発明方法は、アリピプラゾールの工業的製造法として極めて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0042】
実施例1
炭酸カリウム36.0gを水600ml中に溶解し、この中に7−(4−クロロブトキシ)−3,4−ジヒドロカルボスチリル60.0g及び1−(2,3−ジクロロフェニル)ピペラジン・1塩酸塩69.6gを加え、90〜95℃で約4時間加熱攪拌した。次に、反応液を40℃付近まで冷却し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶を240mlの水で洗浄した後、酢酸エチル900mlに溶解し、還流下に水/酢酸エチルの共沸物(約300ml)を留去した。残った溶液を0〜5℃まで冷却し、析出晶を濾取した。得られた結晶を酢酸エチル120mlで洗浄し、減圧乾燥(50〜60℃、50Torr、3時間)すると、98.4g(収率92.8%、純度99%)のアリピプラゾールが得られた。
mp.140℃。
【0043】
アリピプラゾールの純度は、以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。
カラム:YMC AM303 ODS(YMC社製)
移動層:0.02M硫酸ナトリウム/アセトニトリル/メタノール/酢酸=56/33/11/1
流速:1ml/分
検出波長:254nm UV

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)
【化1】

[式中、Xは、塩素原子以外のハロゲン原子、低級アルカンスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基又はアラルキルスルホニルオキシ基を示す。]
で表されるカルボスチリル化合物と式(3)
【化2】

で表されるピペラジン化合物及び/又はその塩とを、カルボスチリル化合物(2)に対して0.5〜10倍モル量のアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属炭酸物の存在下に水中で反応させて、式(1)
【化3】

で表されるアリピプラゾールを得ることを特徴とするアリピプラゾールの製造法。
【請求項2】
アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属炭酸物を1種単独で使用する請求項1に記載のアリピプラゾールの製造法。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属炭酸物を2種以上混合して使用する請求項1に記載のアリピプラゾールの製造法。
【請求項4】
一般式(2)におけるXが臭素原子である請求項1に記載のアリピプラゾールの製造法。
【請求項5】
一般式(2)におけるXが臭素原子であり、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属炭酸物がアルカリ金属炭酸物である請求項2に記載のアリピプラゾールの製造法。
【請求項6】
一般式(2)におけるXが臭素原子である請求項3に記載のアリピプラゾールの製造法。
【請求項7】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム又は水酸化リチウムである請求項2又は3に記載のアリピプラゾールの製造法。
【請求項8】
アルカリ金属炭酸物が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムである請求項2、3又は5に記載のアリピプラゾールの製造法。

【公開番号】特開2012−31203(P2012−31203A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241871(P2011−241871)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2004−4204(P2004−4204)の分割
【原出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】