説明

アリピプラゾールを含有する逆耐性抑制剤

【課題】アリピプラゾールを含有する逆耐性抑制剤の提供。
【解決手段】7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]ブトキシ}−3,4−ジヒドロカルボスチリル(アリピプラゾール)及びその塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする逆耐性抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリピプラゾールを含有する逆耐性抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
覚醒剤、幻覚剤等の薬物投与による現象として、逆耐性と呼ばれる現象が知られている。逆耐性とは、薬物の反復投与によって薬物感受性の増強が起こる現象である。薬物を投与後、しばらく断薬して薬物による症状が消失した後、数年以内に少量の薬物を投与することにより、依存状態(精神毒性)が再現される。このような現象としては、例えば、覚醒剤による分裂病的な被害妄想の再現等が挙げられる。
【0003】
強力かつ選択的なD2受容体遮断作用を持つYM-09151-2は、強力な抗アンフェタミン作用を持ち、メタンフェタミンによる逆耐性形成前に、メタンフェタミン投与と共にYM-09151-2を投与すればメタンフェタミンの急性効果及びメタンフェタミン逆耐性形成の抑制に有効であることが知られている。
【0004】
ところが、一旦形成されたメタンフェタミンによる逆耐性は、以後YM-09151-2を処置してもほとんど抑制することができない。これまで、抗精神病薬(D2 full-antagonist)は、メタンフェタミンによる逆耐性形成の抑制には有効であるが、一旦形成された、メタンフェタミン休薬後の投与による逆耐性抑制を示さなかった。
【0005】
一方、アリピプラゾールは統合失調症治療薬として既に日本、欧米等で販売されている。特許文献1には、カルボスチリル誘導体がアンフェタミン関連障害;コカイン関連障害;ニコチン関連障害;鎮静薬、睡眠薬、または抗不安薬関連障害等に対して効果的であることが記載されている。
【0006】
しかしながら、カルボスチリル誘導体が、逆耐性に対して抑制効果を有することは知られていない。
【特許文献1】特表2007−503460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、逆耐性に対して効果的なアリピプラゾールを含有する逆耐性抑制剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねて来た。その結果、アリピプラゾールが逆耐性に対して優れた抑制効果を示すことを見出した。本発明は、この様な知見に基づき完成されたものであり、下記項1に示す逆耐性抑制剤を提供する。
【0009】
項1. 有効成分が7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]ブトキシ}−3,4−ジヒドロカルボスチリル及びその塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする逆耐性抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の逆耐性抑制剤は、メタンフェタミン(MAP)、コカイン(覚醒剤・向精神薬)等の薬物による逆耐性の抑制に有効である。従って、本発明の逆耐性抑制剤は、逆耐性を抑制することにより、覚醒剤等の渇望期における幻覚妄想再発・再熱の予防に有効である。また、本発明の逆耐性抑制剤は、ピック病などの脳器質性障害、精神病性障害、性機能不全、睡眠障害、フラッシュバック(自然再燃)、記憶障害(脳障害)、精神症状以外の覚醒剤の乱用によるかすみ目、脳溢血等にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の逆耐性抑制剤は、7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]ブトキシ}−3,4−ジヒドロカルボスチリル(以下、アリピプラゾールという)及びその塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する。
【0012】
本発明の逆耐性抑制剤は、アリピプラゾール及びその塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含めばよいが、有効成分としてアリピプラゾールを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の逆耐性抑制剤に含まれるアリピプラゾールは、例えば、遊離塩基、全ての型の結晶多形体、水和物、塩(酸付加塩等)等のいずれの形態であってもよい。これらの形態の中でも、アリピプラゾール無水物B形結晶が好ましい形態である。
【0014】
アリピプラゾール及びその塩は、種々の方法により製造することができ、例えば、特許第2893175号公報に記載の方法により製造できる。また、アリピプラゾール無水物B形結晶の調製方法は、従来公知の方法を採用すればよく、例えば特許第3760264号公報に記載の方法を用いればよい。
【0015】
アリピプラゾールは、医薬的に許容される酸を作用させることにより容易に酸付加塩とすることができる。該酸としては例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。
【0016】
アリピプラゾール及びその塩は、通常、一般的な医薬製剤の形態で用いられる。製剤は通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の稀釈剤或いは賦形剤を用いて調製される。
【0017】
この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁 剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等が挙げられる。
【0018】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等が例示できる。
【0019】
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或いは二重錠、多層錠とすることができる。丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナランカンテン等の崩壊剤等が例示できる。
【0020】
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用でき、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を挙げることができる。注射剤として調製される場合には液剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これら液剤、丸剤及び懸濁剤の形態に成形するのに際しては、稀釈剤としてこの分野において慣用されているものを全て使用でき、例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を挙げることができる。尚、この場合等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖或いはグリセリンを本発明薬剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を該治療中に含有せしめてもよい。
【0021】
本発明の逆耐性抑制剤中に含有されるべきアリピプラゾールの量は特に限定されず広範囲に選択されるが、通常全組成物中1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%である。
【0022】
本発明の逆耐性抑制剤の投与方法には特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じた方法で投与される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合には経口投与される。また注射剤の場合には単独で或いはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更には必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合には直腸内投与される。
【0023】
本発明の逆耐性抑制剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常有効成分であるアリピプラゾールの量は1日当り体重1kg当り約0.1〜10mgとするのがよい。また、投与単位形態中に有効成分を1〜200mg含有するのがよい。
【0024】
本発明の逆耐性抑制剤は、薬物投与よって一旦形成された逆耐性現象を効果的に抑制することができる。すなわち、覚醒剤、幻覚剤等の症状を発生させる薬物投与後に、本発明の逆耐性抑制剤を投与することにより、該薬物を断薬して数年以内に該薬物を投与しても、覚醒剤、幻覚剤等による症状を効果的に抑制することできる。断薬期間は、特に限定されないが、通常、数日〜数ヶ月程度である。また、断薬期間中又は該薬物と同時に投与する本発明の逆耐性抑制剤の投与期間は、通常数日〜数ヶ月程度、好ましくは数日〜一週間程度である。
【0025】
本発明の逆耐性抑制剤は、断薬期間後に投与される薬物と同時に投与してもよい。即ち、本発明の逆耐性抑制剤投与期間中に薬物を投与してもよい。また、本発明の逆耐性抑制剤は、逆耐性抑制剤投与後、1日〜数週間程度後に薬物を投与した場合にも薬物による逆耐性を抑制することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び試験例をあげて本発明をより詳しく説明する。
【0027】
実施例1
Kaneko Y, Kashiwa A et al. Neuropsychopharmacology (2007) 32, 658-664に記載の方法に準じた以下の方法により、メタンフェタミン(MAP)投与によるマウス運動量変化を測定した。
【0028】
PT 1(MAP又は生理食塩水の投与)
ddYマウス(雄性、開始時5週齢)32匹にそれぞれMAP 1mg/kgを1日1回、10日間連続で皮下投与した後、9日間断薬した。一方、ブランクとして、ddYマウス(雄性、開始時5週齢)10匹にそれぞれ生理食塩水を1ml/kgの液量皮下投与した。
【0029】
PT 2(アリピプラゾールの5 %アラビアゴム水溶液懸濁液又は5 %アラビアゴム水溶液の投与)
PT 1で9日間断薬したddYマウス32匹に、アリピプラゾールの5 %アラビアゴム水溶液懸濁液を1日1回、5日間連続で、それぞれ1群8匹ずつ0.1mg/kg(Run 4)、0.3mg/kg(Run 5)、1.0mg/kg(Run 6)経口投与した。PT 1でブランクとしたddYマウス10匹には5 %アラビアゴム水溶液(vehicle (VEH))を1ml/kg(Run 1及び2)5日間連続で経口投与した。
【0030】
Challenge
PT 2でアリピプラゾールの懸濁液を5日間投与した3日後、Run 4〜6のマウス32匹にMAPをそれぞれ0.24 mg/kg皮下投与した。ブランクとした10匹のマウスのうち、5匹のマウスには、PT 2で5 %アラビアゴム水溶液(vehicle (VEH))を5日間投与した3日後、MAPをそれぞれ0.24 mg/kg皮下投与した(Run 2)。一方、ブランクの残り5匹のマウスには、PT 2で5 %アラビアゴム水溶液(vehicle (VEH))を5日間投与した3日後、生理食塩水(SAL)を1ml/kgの液量で皮下投与した(Run 1)。それぞれのマウスの運動量を測定した。実施例1で得られた薬物投与とマウスの運動量変化との関係を図1に示す。
【0031】
図1において、運動量値は、各マウスの運動量の平均値及びSEMである。図1中、#で示されるグループ間は、p<0.05であった(Dunnett’s method)。また、$$で示される実線で結ばれた2つのグループ間は、p<0.01であった。また、図1において、NSで示される実線(T検定)で結ばれた2つのグループ間には統計的有意性が見られなかった。( )中の数字は、マウスの数を示す。
【0032】
実施例2
実施例1のChallengeにおいて、PT 2の3日後に実施した後、10日後についても、実施例1と同様にしてマウスの運動量変化を測定した。実施例2で得られた薬物投与とマウスとの運動量変化の関係を図2に示す。図2において、運動量値は、各マウスの運動量の平均値及びSEMである。図2中、#で示されるグループ間は、p<0.05であり、##で示されるグループ間は、p<0.01であった(Dunnett’s method)。また、$で示される実線で結ばれた2つのグループ間は、p<0.05であった。また、図2において、NSで示される実線(T検定)で結ばれた2つのグループ間には統計的有意性が見られなかった。( )中の数字は、マウスの数を示す。
【0033】
図1及び2に示すように、PT 1でMAPを投与した後、9日間断薬し、PT 2でVEHを投与したマウス(Run 3 及びRun 9)は、ChallengeでMAPを投与した場合、Challengeで初めてMAPを投与したマウス(Run 2 及びRun 8)に比して運動量が非常に多くなった。このことから、MAPを投与し、断薬期間を設けて再度MAPを投与すると、マウスにMAPによる逆耐性が生じることが分かる。
【0034】
一方、実施例1及び2の結果から明らかなように、PT 1でMAPを投与した後、9日間断薬し、PT 2でアリピプラゾールを投与したマウス(Run 4〜6及びRun 10〜12)は、その後のChallengeでMAPを投与した場合、Challengeで初めてMAPを投与したマウス(Run 2及び8)と同等又はそれ以下に運動量が少なくなり、逆耐性が抑制されていることが分かる。特に、実施例2の結果から明らかなように、アリピプラゾールの投与量を増やすと、アリピプラゾールの投与前後にMAPを全く投与していないマウス(Run 7)と同程度にまで運動量を抑えることができた(Run 10〜12)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のアリピプラゾール及びその塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする逆耐性抑制剤は、優れた逆耐性抑制作用を有するので、医薬分野での利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】薬物投与とマウスの運動量変化との関係を示すグラフ(実施例1)
【図2】薬物投与とマウスの運動量変化との関係を示すグラフ(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7−{4−[4−(2,3−ジクロロフェニル)−1−ピペラジニル]ブトキシ}−3,4−ジヒドロカルボスチリル及びその塩から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする逆耐性抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−286740(P2009−286740A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142034(P2008−142034)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】