説明

アルキレンカーボネートの連続的製造方法

【課題】高いアルキレンオキサイド転化率を達成し、未反応原料や副生成物を最少にし、爆発の可能性を回避しつつ、簡便な設備でアルキレンカーボネートを製造する方法の提供。
【解決手段】アルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下にアルキレンカーボネートを製造するプロセスにおいて、a.反応器出口混合物中の対応する反応副生成物のアルデヒドが、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下であって、b.反応器出口混合物中の対応する反応副生成物のグリコールが、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下であって、c.アルキレンカーボネートよりも沸点の低い反応副生成物を、水に吸収させ、d.アルキレンカーボネートよりも沸点の高い反応副生成物を、全量または一部を系外に抜き出して燃焼することを特徴とするアルキレンカーボネートの連続的製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒存在下アルキレンカーボネートを製造するにあたっての、未反応原料や多岐にわたる副生成物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキサイドと二酸化炭素からアルキレンカーボネートを製造する反応(以下しばしば本発明の反応と略記する)は、その有用性から多くの検討が行われ、工業的に充分な反応速度を得るために触媒の検討も活発に行われている。固体酸触媒、アルカリ金属塩触媒、均一系有機金属触媒等を使用した報告が多く、例えば、アルキル基置換アンモニウムカチオンを対カチオンとするカルボン酸型陽イオン交換樹脂を触媒とするアルキレンカーボネートの製造方法(特許文献1)、タングステン酸化物ないしはモリブデン酸化物からなる触媒を用いるアルキレンカーボネートの製造方法(特許文献2)、3級アミン官能基ないしは4級アンモニウム官能基を有する陰イオン交換樹脂を触媒とするアルキレンカーボネートの製造方法(特許文献3)、アルカリ金属塩を触媒としたアリール置換アルキレンカーボネートの合成(特許文献4)、相間移動有機金属錯体触媒を用いるアルケニルエーテルカーボネートの製造方法(特許文献5)等がある。
【0003】
これら従来技術の製法ではその触媒改良により、アルキレンオキサイドの転化率、アルキレンカーボネートの選択率ともに大幅な向上が見られているものの、多い場合には、1%程度の未反応アルキレンオキサイドと1%程度の反応副生成物が発生することは避けられず、工業スケールで本反応を実施しようとする場合には、これらの化合物を、製品アルキレンカーボネートから効率よく分離し適切に処理しなければならない。
該反応副生成物としては、原料アルキレンオキサイドに対応するアルデヒド類、アルキレンオキサイドが水和して生成するグリコール、アルキレンオキサイドが重合して生成するポリアルキレングリコール、生成したアルキレンカーボネートが重合したポリアルキレンカーボネートなどが代表的である(特許文献6、7)。
【0004】
アルデヒド類は、生成物中の滞留時間があまり長すぎると、重合したり、紫外線吸収作用を持つ化合物に変化して製品アルキレンカーボネートに混入しその品質低下を招いたりするなどの不都合があって、速やかに分離除去しなければならないとされている(特許文献6)。
ポリマー類は、アルキレンオキサイドやアルキレンカーボネートがグリコールと一緒に加熱されると生成し、触媒のリサイクルに伴って反応系内に蓄積されるのみならず、反応器、熱交換器、蒸留塔、配管壁面などに付着し、伝熱や流動を妨げ、熱量の増加や製品アルキレンカーボネートの熱分解などを誘発するため、適切に分離除去されなければならない(特許文献7)。
【0005】
一方、未反応原料の内、アルキレンオキサイドは自己燃焼性(爆発性)を有する危険な化合物であり、反応器内はもとより、製品アルキレンカーボネートと分離した後も、最終的に無害化するまで、絶対に爆発限界に入ることなく処理されなければならない。しかしながら、実際のプロセスにおけるアルキレンオキサイドの安全な処理方法を開示した文献は無い。
アルキレンオキサイドを安全に無害化処理するためには、後述するように特別な設備と充分な監視体制が必要であり、処理する未反応アルキレンオキサイドの量をなるべく少なくすることが、安全操業のための鉄則である。
【0006】
そのためには、アルキレンオキサイドの転化率を上げて、未反応アルキレンオキサイドを減らせばよい訳であるが、一般にアルキレンオキサイドの転化率を上げると、主反応たるアルキレンカーボネートの選択率が悪化し、対応するアルデヒドやグリコールが増える傾向にある。
アルデヒドやグリコールは、蒸留分離が可能ではあるが、蒸留塔を通せば通すほど、設備が重鈍で複雑になるだけでなく、生成物中での加熱時間が増え、アルデヒドは、それが重合したり紫外線吸収作用を持つ化合物に変化したりする割合を増やしてしまうことになり好ましくなく、グリコールは、上述したように、それ自身が基点となってアルキレンオキサイドやアルキレンカーボネートの重合を誘発するため、こちらも好ましくない。
【0007】
逆に、アルデヒドやグリコールを減らそうとして、すなわち、アルキレンカーボネートの選択率を上げようとして、アルキレンオキサイドの転化率が低い条件で運転すると、未反応アルキレンオキサイドの処理量が著しく増えてしまい、設備を重厚にし、監視体制も強化しなければならず、何よりも、爆発に至ってしまう確率が増し、また、万が一爆発に至ったときの被害が甚大になり、これもまた好ましくない。
このように、本反応のプロセス全体に渡って未反応原料や多岐にわたる副生成物を適切に処理することは、高いアルキレンオキサイド転化率、低いアルデヒド、グリコール、ポリマー類生成量というトレードオフの関係にある要件を同時に実現するだけでなく、これら未反応原料や多岐にわたる反応副生成物を、爆発の可能性を回避しつつ、簡便な設備で適切に処理するという、相反する高度な要求を満たさねばならなかった。
【0008】
ところが、上記文献では、種類や性質、取り扱い上の難しさも様々な未反応原料や副生成物の個々について、プロセスの一部を切り出して部分的に教示したものでしかなく、充分な技術開示とは言えず、アルキレンカーボネートを連続的に安定して製造する為に、相反する要求を満足しながら、爆発の可能性を回避しつつ、未反応原料や多岐にわたる副生成物の全体に渡って適切に処理する方法を提供することが求められていた。
【特許文献1】特開平7−206846号公報
【特許文献2】特開平7−206847号公報
【特許文献3】特開平7−206848号公報
【特許文献4】特開平8−53396号公報
【特許文献5】米国特許第5,095,124号
【特許文献6】特開昭54−98765号公報
【特許文献7】特開平2−32045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒存在下アルキレンカーボネートを製造するにあたって、高いアルキレンオキサイド転化率と低いアルデヒド、グリコール、ポリマー類の生成量を実現し、さらには、未反応原料や多岐にわたる副生成物を、爆発の可能性を回避しつつ、プロセス全体に渡って、簡便な設備で適切に処理するという相反する要求を全て同時に解決する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルデヒド類は、反応器出口混合物から未反応原料を分離するフラッシュ工程で未反応原料と一緒にガスとして分離させることができることを見出し、本発明の端緒を得た。
次に、グリコール類の分離と処理について検討した。製品アルキレンカーボネートと対応するグリコールは、一般に蒸留分離が可能な充分な沸点差を持っているので、当初、蒸留分離を検討したが、蒸留塔の加熱部分で、グリコールを基点にしてアルキレンオキサイドの重合が進行することが判り、蒸留工程に回す前に分離しなければならないことを見出し、上記アルデヒドを分離する工程で、一緒に分離することを検討した。
【0011】
その結果、グリコールは、アルキレンカーボネートと共沸混合物を形成して、ガスとしてアルデヒドや未反応原料と一緒に排出できることが判った。
さらに、ガスとして排出された未反応アルキレンオキサイド、アルデヒド、グリコールの処理方法を検討した。これらガス状有機物の除去は、フレア等を用いた燃焼廃棄が一般的ではあるが、アルキレンオキサイドは空気に触れると爆発する可能性が高く、ここでは、アルキレンオキサイドを爆発させずに処理することを最優先して、水に吸収させる方法で、これらガスとして排出された化合物を爆発させずに製品アルキレンカーボネートと分離できることを見出した。
【0012】
そして、ポリマー類については、アルキレンカーボネートを分離した後の残液を、全部または一部系外に抜き出して処理することでアルキレンカーボネートを製造する系内への蓄積を防ぐことができた。そして、抜き出した残液の処理方法として、活性汚泥処理や燃焼廃棄などを検討し、最終的に燃焼処理が、簡便で、かつ、触媒の回収も期待できることから相応しいと判断した。
これら一つ一つの技術を組み合せた効果は驚くほど劇的であって、複雑に入り組んだ蒸留設備や理論段数を高く積み上げた蒸留塔を必要とせず、後述するように、簡便なフラッシュタンクと運転の容易な薄膜蒸留器を用いるだけで、未反応原料や多岐にわたる副生成物を、プロセス全体に渡って、爆発の可能性を回避しつつ、簡便な装置で適切に処理でき、さらには、高いアルキレンオキサイド転化率と高いアルキレンカーボネート選択率を達成するという、相反する高度な要求を全て同時に満足する顕著な効果を見出すに至り、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、
1.化学式(1)で表されるアルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下に反応させ化学式(2)で表されるアルキレンカーボネートを製造するプロセスにおいて、
a. 反応器出口混合物中の対応する反応副生成物のアルデヒドが、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下であって、
b. 反応器出口混合物中の対応する反応副生成物のグリコールが、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下であって、
c. アルキレンカーボネートよりも沸点の低い反応副生成物を、水に吸収させ
d. アルキレンカーボネートよりも沸点の高い反応副生成物を、全量または一部を系外に抜き出して、400℃〜1200℃の温度範囲で燃焼することを特徴とするアルキレンカーボネートの連続的製造方法に係わる。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
(化学式(1)及び(2)において、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数1〜8の脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、これらは同じであっても、異なっていてもよい)
【0017】
2.該水に吸収させる工程が、未反応アルキレンオキサイドを水に吸収させる工程も兼ねることを特徴とする上記1記載のアルキレンカーボネートの連続的製造方法に係わる。
3.水に吸収させた反応副生成物および未反応アルキレンオキサイドを無害化する工程が、酸を添加して反応させたのち、中和して活性汚泥処理する工程を含むことを特徴とする上記2記載のアルキレンカーボネートの連続的製造方法に係わる。
4.該反応副生成物および未反応アルキレンオキサイドを吸収させる水が、酸を含んでいることを特徴とする上記3記載のアルキレンオキサイドの連続的製造方法に係わる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒存在下アルキレンカーボネートを製造するにあたって、高いアルキレンオキサイド転化率と低いアルデヒド、グリコール、ポリマー類の生成量を実現し、さらには、未反応原料や多岐にわたる副生成物を、爆発の可能性を回避しつつ、プロセス全体に渡って、簡便な設備で適切に処理するという相反する要求を全て同時に解決する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の反応は、アルキレンオキサイドと二酸化炭素からアルキレンカーボネートを得るものである。
本発明で使用されるアルキレンオキサイドは、化学式(1)で表される化合物である。
このようなアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ビニルエチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド及びスチレンオキサイド等が挙げられ、特にエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドが入手の容易さなどの点で好ましい。これらのアルキレンオキサイドは、単独でも、また、複数種類を組み合せて用いても良い。
本発明により製造されるアルキレンカーボネートは、化学式(2)で表される化合物である。
【0020】
アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート及びスチレンカーボネート等が挙げられ、本発明は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの製造に好ましく用いられる。
本発明で用いられる二酸化炭素は、工業的に入手可能なものが好ましく、天然ガス、発酵ガス、石油精製の副生ガス、アンモニア合成工程の副生ガスなどから得られる二酸化炭素が例示される。荷姿は、ガス状炭酸ガス、液化炭酸ガス、ドライアイスから選ばれるが、なかでもガス状炭酸ガスおよび液化炭酸ガスが、取り扱いの容易さから好ましく用いられる場合が多い。
【0021】
本発明に用いる触媒は、背景技術の項で説明したように、種々の触媒を用いることが可能であり、よく知られているテトラエチルアンモニウムブロマイド、カルボン酸型陽イオン交換樹脂、タングステン酸化物ないしはモリブデン酸化物を主体とするヘテロポリ酸、アルカリ金属のヨウ化物や臭化物などが例示される。なかでもハロゲン化アルカリが容易に入手できるなどの利点があり好ましく、アルカリ金属のヨウ化物は、反応混合物からの分離回収が容易であり、一般に安定であり、一層好ましい。
触媒濃度は、用いる触媒、反応条件、反応器の形状等により異なるため反応器中の濃度として、0.01〜5質量%に調整されるのが一般的である。
【0022】
本発明の反応方式は、気泡塔反応器、完全混合型反応器、完全混合型反応器を直列に用いた多段反応方式、プラグフロー反応器、完全混合反応器とプラグフロー反応器を組み合せた方式等、一般的に用いられる反応方式を使用することができる。
本発明を実施するに当り、アルキレンカーボネートを合成する反応の、反応温度は、通常、100〜200℃、好ましくは150〜190℃である。反応圧力は、通常、2〜15MPa、好ましくは4〜12MPaである。反応時間は、原料であるアルキレンオキサイドと二酸化炭素の組成比、アルキレンオキサイドの種類、使用触媒の種類と濃度、反応温度等によって異なり、例えば、エチレンオキサイドと二酸化炭素を、完全混合反応器を用いて合成する場合には、反応器の滞留液量と全供給液量から求められる平均滞留時間を反応時間と定義すると、通常、0.5〜10Hr、好ましくは1〜5Hrである。
【0023】
本発明を実施するに当り、原料であるアルキレンオキサイドと二酸化炭素の量比は、アルキレンオキサイドに対する二酸化炭素のモル比で表現して、通常、1〜5、好ましくは1〜2である。しかし、通常は反応器から余剰の二酸化炭素ガスを放出すると、余剰の二酸化炭素ガスに同伴する未反応のアルキレンオキサイドも増えるので、反応器圧力が一定となるように二酸化炭素供給量を調整する方法が好ましい。
本反応は、二酸化炭素の反応液への溶解が律速過程になる場合が圧倒的に多いため、溶解度を上げる目的で高圧反応が選ばれる場合が多い。二酸化炭素で高圧をかけることは、自己燃焼性(爆発性)のアルキレンオキサイドを、爆発限界を外して反応させる目的からも好ましい。
【0024】
また、二酸化炭素を反応液に溶解させるために、種々の反応器形式が考案されており、本発明で開示するシャワーノズル式や、エジェクター方式、気泡塔反応器などが例示され、ベンチュリー攪拌子を備えた完全混合槽反応器などを用いることも好ましい。
本反応は著しい発熱反応であり、反応熱の除去が重要である。種々の方式が提案されているが、一般的には、反応器の周りにジャケットを設けてオイルを流し、このオイルを熱交換器に通して除熱したり、反応器から反応混合物を一部抜き出し、熱交換器を通して冷ました反応混合物を再び反応器に戻して除熱したりする方式が用いられる場合が多い。
反応を完全混合槽反応器で行う場合には、反応液中に二酸化炭素が溶解し易いように、大流量の反応液をポンプで循環する方法も好ましい。通常、単位時間当たりの循環回数は10〜50回/Hrであり、好ましくは20〜40回/Hrである。反応液をポンプ循環する配管の途中に熱交換器を設けて、反応熱の除去を行う場合には、単位時間当たりの除熱速度を高める大流量の循環を行うと、熱交換器の冷却能力が上がるので好ましい。
反応器等のプロセス液が通る部位の材質は、プロセス液に対する耐蝕性があれば使用可能である。鉄錆があるとその触媒作用によりアルキレンオキサイドの重合物の生成原因となるので、ステンレス鋼を用いるのが好ましい。
【0025】
本発明では、反応で副生するアルキレンオキサイドに対応するアルデヒドとグリコール、例えば、エチレンオキサイドを用いた場合は、アセトアルデヒドとエチレングリコールの処理方法を開示する。
本発明では、反応器出口混合物から、まず未反応のアルキレンオキサイド、未反応の二酸化炭素を除去するが、この工程で、アルデヒドは単独でガスとして除去し、グリコールは、アルキレンカーボネートと共沸混合物を形成させて、やはりガスとして除去する。この工程では、フラッシュタンクや段数の小さな簡便な蒸留塔などが用いられる場合が多く、本発明者らも、フラッシュタンクを用いて検討を行った。
【0026】
しかしながら、本発明で開示する上記のような簡便な方法では、処理できるアルデヒドとグリコールの量に限界がある。
アルデヒドは、反応器出口混合物中の濃度が、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下、好ましくは500ppm以下であり、少ないほど好ましい。
アルデヒドの量が1000ppmを越えると、フラッシュタンクでアルデヒドをガスとして除去しきれずに、アルキレンカーボネート側に分配されてしまうため好ましくない。
グリコールは、フラッシュタンクでガスとして除去するためには、アルキレンカーボネートとの共沸混合物を形成できる濃度範囲にある必要があり、具体的には、反応器出口混合物中の濃度が、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下、好ましくは500ppm以下であり、少ないほど好ましい。
【0027】
グリコールの濃度が1000ppmを越えると、アルキレンカーボネートと共沸混合物を形成させて、フラッシュタンクから除去することが困難になり好ましくない。
次善の策として、除去したいグリコールと共沸混合物を形成し易い別のアルキレンカーボネートを少量添加してから、フラッシュタンクに供してもよい。
アルデヒドやグリコールの副生を抑える方法は種々あるため、そのうちのいくつかを例示する。
アルキレンカーボネート製造に選択性の優れた触媒を用いることは重要であり、本発明の実施例で用いたヨウ化カリウム、一般的によく用いられるテトラエチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられ、これらを組み合せて用いることも好ましい。
【0028】
原料アルキレンオキサイドの転化率を下げれば、一般に選択性が上がることはよく知られているが、転化率を下げることなく選択性を高く維持する方法としては、反応器を、一段で高い転化率を達成するよりも、多段にして、いたずらに反応時間を延ばすことなく選択性を上げる方法も好ましい。また、完全混合型反応器を用いる場合には、反応器出口に、フィニッシャーと呼ばれる小型のピストンフロー型反応器を取り付けておき、転化率を稼ぐ方法も好ましい。
原料の純度も重要であって、用いるアルキレンオキサイド、用いる二酸化炭素は、精製したものであることが好ましい。アルキレンオキサイドには、一般に、対応するグリコール、対応するアルデヒド、対応するアルデヒドより炭素数の一つ少ないアルデヒドなどが含まれる。また、アルケンの酸化反応によってアルキレンオキサイドを製造する工程においては、反応ガスを水に接触させて水に吸収させる工程を用いる場合が多いため、水分を含む場合もある。二酸化炭素の不純物は、その供給元によって異なるため、一概には例示できないが、例えば、アンモニア製造工程で副生する二酸化炭素の場合、最も多く含まれる不純物は水分である。これら水分は、アルキレンオキサイドと速やかに反応して対応するグリコールを副生するため、できるだけ少ない原料を用いることが重要である。好ましくは0.2モル%以下、さらに好ましくは0.05モル%以下である。
【0029】
このフラッシュ工程では、主にアルキレンカーボネートよりも沸点の低い化合物が除去されるわけであるが、未反応のアルキレンオキサイドのような自己燃焼性(爆発性)化合物や、アルデヒドのような臭気の著しい化合物など、適切に処理しなければならない化合物を含むガスが排出される。
一般に、これら反応副生ガス状化合物の処理は、フレアスタックなどで燃焼処理するのが一般的であるが、上記のような理由で、特にアルキレンオキサイドを爆発させずに分離廃棄するために、本発明では、フラッシュ工程のアルキレンオキサイドを含む排出ガスは、一旦水に吸収させることが必須である。
【0030】
未反応アルキレンオキサイドを含むガスとしては、上記フラッシュ工程の排出ガス以外にも、反応器ベントライン、アルキレンカーボネート蒸留工程で用いる真空ポンプの排気ガス、アルキレンカーボネート貯槽からのベントガスなどが挙げられ、これらのガスも、水に吸収させる必要がある。
水に吸収させた後の処理方法としては、アルキレンオキサイドを希硫酸などで対応するグリコールに無害化したのち吸収水を苛性ソーダで中和して活性汚泥などで処理する方法、無害化したのち吸着剤などで除去する方法、水中に空気を吹き込みながら湿式燃焼で無害化する方法などが例示される。なかでも、アルキレンオキサイドを酸でグリコールに無害化したのち、活性汚泥処理する方法は好ましく例示される。この場合、吸収させる水として希硫酸を用いることも好ましい実施様態である。
【0031】
未反応のアルキレンオキサイドと未反応の二酸化炭素を分離した後の、主としてアルキレンカーボネートを含む混合物は、一般的には蒸留にかけて、生成したアルキレンカーボネートを回収する。この混合物には、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンカーボネートなど、アルキレンカーボネートよりもはるかに沸点の高い化合物を含むため、通常の蒸留塔よりも、薄膜蒸留装置を用いることが好ましい。
アルキレンカーボネートを除去した後の釜残は、ハンドリングし難いポリマー類を含むため、全量系外に抜き出して処理してもよいし、触媒を含むため、その内の一部を反応器に戻して再利用してもよい。
【0032】
これらポリマー様の化合物の処理方法については、触媒とポリマー類の極性の違いを利用した液液抽出や、釜残の粘度を調整したのち吸着で触媒を分離する方法、釜残液中の有機物を燃焼除去し触媒を回収する方法などがあり、本発明者らは鋭意検討したが、分子量や粘度など素性がばらばらの化合物の混合物のため、燃焼廃棄することが最も簡便であった。触媒にアルカリ金属のヨウ化物を用いた場合は、燃焼灰から触媒を回収することも容易であり、この点からも燃焼廃棄は好ましい。
燃焼温度は、400℃〜1200℃の範囲が好ましく、600℃〜1100℃の範囲がさらに好ましい。有機物の自然発火温度は一般に400℃と言われており、燃焼温度がこの温度よりも低い場合には、不完全燃焼で有機物が燃え残る可能性があり好ましくない。また、燃焼温度が1200℃を超えると、一般に燃焼炉を傷める可能性が高くなと言われており、装置側の制約から好ましくない。
【0033】
該高沸液を燃焼させた後の、触媒などの無機物の回収方法については、公知の種々の方法を用いることができる。触媒にアルカリ金属のヨウ化物を用いた場合で例示するならば、燃焼灰を無機酸で溶解し、その水溶液を塩素や過酸化水素で処理してヨウ素を遊離させて回収する方法(特開2004−35302号公報、特開2002−201006号公報)、燃焼させる前に該高沸液を乾燥させて、それを熱処理してアルカリ金属のヨウ化物を回収する方法(特許第2539858号公報)、該高沸液を燃焼させる際にヨウ化水素やヨウ化ナトリウムを吹き込みながら同時に燃焼させ、アルカリ溶液で吸収させる方法(特許第2902235号公報)、などが挙げられ、燃焼しないで回収する方法としては、ヨウ素化合物を含む水溶液に苛性ソーダを加えた後に塩素や過酸化水素などで析出させて回収する方法(特開平6−80402号公報)などが挙げられる。
このようにして得られたアルキレンカーボネートは、凝固点が25℃と同じくらいか25℃よりも高い場合が多いため、液体で貯蔵する場合は、該凝固点以上の温度で貯蔵すると良い。
【0034】
また、アルキレンカーボネートを含む混合物が流れる配管では、アルキレンカーボネートの析出固化を防ぐために、配管を加熱、保温することが好ましく、一般には40〜100℃の温度範囲が選ばれることが多い。
このようにして得られたアルキレンカーボネートは、一般に安定で、毒性の無い、極性の大きな化合物であり、水や有機溶剤とよく混合し、高分子物質に対しても、一般に優れた溶解性を示す。そのため、有機溶剤として広範囲に用いられるのみならず、活性水素を有する化合物に対して、開環付加反応、開環縮合反応を行うため、有機合成原料としても有用である。また、二次電池用電解液としての用途にも好ましく用いることができる。
具体的な用途としては、有機溶剤、ポリマー溶剤、ヒドロキシアルキル化剤、リチウム二次電池用電解液、医薬品、アクリル繊維加工剤、土壌硬化剤などに用いられ、芳香族ポリカーボネート原料としての炭酸ジエステルを製造する原料としても、好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
図1を用いて本発明を具体的に説明する。
図1はアルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図である。
反応器11は、内径10cmΦ、直胴部長さ250cm、容量20Lで、反応器上部に二酸化炭素の吸収効率を高める液分散ノズルを持った、ステンレス製の縦型円塔槽である。
なお、配管14と16の分岐から調整弁までの間に、フィニッシャーを設けたが、記載は省略した。
原料として、約5℃に冷却されたエチレンオキサイドを、原料配管1からエチレンオキサイドポンプ4に供給し、そこで2500g/hをポンプで昇圧し、エチレンオキサイド供給配管8から反応器循環配管14に供給した。もう一方の原料である二酸化炭素として、液化二酸化炭素を原料配管3から二酸化炭素供給ポンプ6に供給した。そこで昇圧させ、温水浴型の二酸化炭素蒸発器7でガス化させ、約90℃の温度で二酸化炭素供給配管10から反応器上部の気相部に約9.5MPaの一定圧力となるよう調節して供給した。平均的な二酸化炭素供給量は2720g/hであった。
【0036】
触媒には、沃化カリウム(KI)を用い、エチレンカーボネート溶液に5wt%となるように調合した。フレッシュ触媒は、触媒配管2から触媒供給ポンプ5に供給し、触媒供給配管9から反応器循環配管14に供給した。エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒を含む混合物は、配管24を通じて、触媒供給ポンプ25に送り、反応器循環配管14に供給した。
エチレンカーボネート精製工程で回収した触媒とフレッシュ触媒の割合は、それぞれ9部及び1部として、反応器循環液中の沃化カリウム濃度が0.23〜0.26wt%となるようにに設定した。
【0037】
反応器内の液保有量が14.5kgで一定となるように、送り出し配管16の調節弁を調整して、抜き出した混合物は、まずフラッシュタンク18に供給し、未反応のエチレンオキサイド、未反応の二酸化炭素、微量のエチレンカーボネートをガスとして配管17から系外に排出した。配管17出口には、エチレンオキサイド濃度計を設置して常時濃度を監視し、万が一、大量のエチレンオキサイドが流失して排出ガスの濃度が爆発限界を超えそうになった場合に備えて、大量の窒素で排出ガスを希釈できる設備を設けた。フラッシュタンクの作動条件は、常圧、130℃であった。
さらに、フラッシュタンク18の底部より、主にエチレンカーボネートを含む混合物を配管19を通して抜き出し、エチレンカーボネート回収塔21に導入した。エチレンカーボネート回収塔は、160℃、49Torrに制御された薄膜蒸留器である。エチレンカーボネートは蒸留器21より配管20を通して抜き出し、触媒、高沸物を含む混合物は蒸留塔より配管22を通して抜き出した。この一部を、配管23を通して系外に排出し、触媒を回収する工程に供給した。回収の方法は、特許第2539858号公報、および特許第2902235号公報記載の方法に拠ったが、回収方法による本願効果の違いは見られなかった。
【0038】
[実施例1]
各配管の流量と組成を表1にまとめた。エチレンオキサイド、エチレンカーボネート、二酸化炭素、ヨウ化カリウム、アセトアルデヒド、エチレングリコール、高沸物はそれぞれ、EO、EC、CO2、KI、AA、EG、HBと略記した。配管16の値は、フィニッシャー以降の混合物の分析結果である。
配管17から系外に排出されたガス、および、配管20から抜き出される製品エチレンカーボネートに若干含まれるエチレンオキサイドと二酸化炭素を、50℃に設定したスクラバーで、0.1モル/Lの希硫酸水溶液に吸収させて、エチレンオキサイドをエチレングリコールに無害化したのち、苛性ソーダで中和して活性汚泥処理した。希硫酸吸収塔出口ガス(配管28 図中記載省略)もエチレンオキサイド濃度計で常時モニターした。
上記条件で1500時間の連続運転を行った結果を表2に示す。
【0039】
[比較例1]
エチレングリコールを1%含むエチレンオキサイドを用いた以外は、実施例1と同様の反応を行った。
反応時間700時間付近から反応温度の上昇が始まったため、730時間で反応を停止し、開放点検した。熱交換器の伝面に薄茶色の付着物が全面に付着していた。HB収率は3.9%であった。
【0040】
[比較例2]
アセトアルデヒドを1%含むエチレンオキサイドを用いた以外は、実施例1と同様の反応を行った。
配管20からアセトアルデヒドを検出、エチレンカーボネート中の濃度は350ppmであった。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、溶媒、有機合成原料、二次電池電解液として有用なアルキレンカーボネートを製造する際の、収率良く製品を得ると同時に、未反応原料や反応副生成物を、爆発の可能性を回避しつつ、簡便な装置で適切に処理する方法に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】アルキレンカーボネート製造プロセスを示すフロー図。
【符号の説明】
【0045】
1、2、3、8、9、10、12、14、15 配管
16、17、19、20、22、23、24、26 配管
4、5、6、13、25 ポンプ
7 熱交換器
11 反応器
18 フラッシュタンク
21 薄膜蒸留器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で表されるアルキレンオキサイドと二酸化炭素から触媒の存在下に反応させ化学式(2)で表されるアルキレンカーボネートを製造するプロセスにおいて、
a. 反応器出口混合物中の対応する反応副生成物のアルデヒドが、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下であって、
b. 反応器出口混合物中の対応する反応副生成物のグリコールが、該混合物中のアルキレンカーボネートに対して1000ppm以下であって、
c. アルキレンカーボネートよりも沸点の低い反応副生成物を、水に吸収させ
d. アルキレンカーボネートよりも沸点の高い反応副生成物を、全量または一部を系外に抜き出して、400℃〜1200℃の温度範囲で燃焼することを特徴とするアルキレンカーボネートの連続的製造方法。
【化1】

【化2】

(化学式(1)及び(2)において、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜8の鎖状炭化水素基、炭素数1〜8の脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、これらは同じであっても、異なっていてもよい)
【請求項2】
該水に吸収させる工程が、未反応アルキレンオキサイドを水に吸収させる工程も兼ねることを特徴とする請求項1記載のアルキレンカーボネートの連続的製造方法。
【請求項3】
水に吸収させた反応副生成物および未反応アルキレンオキサイドを無害化する工程が、酸を添加して反応させたのち、中和して活性汚泥処理する工程を含むことを特徴とする請求項2記載のアルキレンカーボネートの連続的製造方法。
【請求項4】
該反応副生成物および未反応アルキレンオキサイドを吸収させる水が、酸を含んでいることを特徴とする請求項3記載のアルキレンオキサイドの連続的製造方法。

【図1】
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