説明

アルコールの製造方法

【課題】 発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法において、工業的に好適に用いることができるアルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】 発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法であって、該製造方法は、原料からブタノール含有溶液を調製し、該ブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する工程を含み、該回収工程における蒸留は、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液を特定のものとして行われるアルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの製造方法に関する。より詳しくは、発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵によるアルコールの製造は、古くから研究の行われていた分野であるが、特に発酵によりバイオエタノールやバイオブタノールを製造する技術は、世界全体の地球環境意識の高まりや原油価格の高騰等を背景に、石油資源の消費を抑え、二酸化炭素の排出量を低減して、持続可能な(サスティナブルな)燃料や工業原料を生産することができる技術として近年再び注目を集めている。
【0003】
従来検討されている発酵によるバイオアルコールの製造方法としては、例えば、微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると共に未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵による化学品の製造方法において、前記の分離膜として平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の細孔を有する多孔性膜を用い、その膜間差圧を0.1から20kPaの範囲にして濾過処理する連続発酵による製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、植物原料を発酵に用い、分離工程において逆浸透法を用いるバイオブタノールの製造方法や、発酵により製造したアルコールを蒸留によって分離するアルコールの分離方法が開示されている(例えば、特許文献2、3参照。)。
あるいは、アルコール醗酵液を蒸発缶によりフラッシュ蒸発させ、アルコール蒸気と水蒸気からなる気体混合物を生成する気体混合物生成工程、気体混合物生成工程で生成された気体混合物を圧縮機により圧縮する気体混合物圧縮工程、気体混合物圧縮工程で圧縮された気体混合物を、70℃以上の温度で気体分離膜の一方の側に供給し、且つその際、気体混合物中の水蒸気を選択的に透過除去して、気体分離膜の一方の側に水蒸気量が減少したアルコール蒸気を得る水蒸気分離工程を具備するアルコール醗酵液の脱水濃縮方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
その他、エタノール、1−ブタノール、その他の有機化合物及び水を含む組成物(水−アルコール組成物)から、エタノールと1−ブタノールとその他成分に分離するための方法において、水−アルコール組成物から少なくとも水を除去する工程を経た後に、蒸留によりエタノール及び/又は1−ブタノールを精製する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0005】
更には、(i)原材料または原材料の誘導体からバイオ燃料を遊離させる少なくとも一つの第1処理に、原材料または原材料の誘導体を付す工程、(ii)工程(i)において遊離したバイオ燃料を単離して、単離バイオ燃料を得る工程、(iii)物質懸濁液を与える少なくとも一つの第2処理に、原材料または原材料の誘導体を付す工程、(iv)精製タンパク質生成物を得る膨張層吸着工程に、工程(iii)からの物質懸濁液を付す工程を含む、原材料または原材料の誘導体から、単離バイオ燃料および精製タンパク質生成物を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
あるいは、発酵もろみを減圧もろみ塔に導入し、運転温度を90℃以下に保って減圧もろみ塔の頂部からエタノール成分を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−252367号公報
【特許文献2】国際公開第2009/062601号公報
【特許文献3】国際公開第2009/065504号公報
【特許文献4】特開昭63−254987号公報
【特許文献5】特開2009−275019号公報
【特許文献6】特表2010−515441号公報
【特許文献7】特開2010−65001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発酵によるバイオアルコールの製造方法としては、上述したように種々の方法が試みられているが、バイオアルコールの発酵生産から回収までの一連のプロセスとしては、工業的に更に好適に用いることができる製造プロセスとするための改良の余地があった。
バイオアルコールの製造方法において、アルコール回収方法として蒸留法が有効である。しかし、バイオアルコールを発酵生産した後の発酵培養液をそのまま、大気圧下、100℃以上での蒸発や蒸留によってバイオアルコールを単離する単離工程に付すと、発酵培養液中に含まれるタンパク質の析出が単離過程で起こってしまう。これらの析出は、熱源の伝熱低下や、装置内部および/または配管の閉塞を引き起こし、これが、バイオアルコールの回収効率低下の原因となる。
更に、上記の様な蒸発や蒸留による単離工程に付す場合、希薄水溶液の加熱、蒸発が必要であるために、その伝熱面付近を非常に高温に保つ必要がある。その結果、発酵培養液に含まれるグルコース等の糖質の焦げ付きが生じる。この糖質の焦げ付きも、上述したタンパク質の析出と同様にして、バイオアルコールの回収効率低下の原因となる。
例えば、特許文献6には、エタノールを発酵生産した後、発酵培養液からエタノールを蒸発および/または蒸留により単離する前に、発酵培養液に含まれるタンパク質生成物を精製する形態が開示されているが、発酵培養液に含まれる糖質を分離することについては、開示されていない。そのため特許文献6に開示の方法においては、エタノールを単離する過程において、上述した様な糖質の焦げ付きによるエタノールの回収効率の低下が起こると考えられ、バイオアルコールの工業生産に適用する上では、更に改良する余地のあるものであった。
また更に、特許文献6に記載の従来技術では、その実施において、小麦から小麦抽出物と沈殿物質とを得た後、抽出物からタンパク質を単離し、その後のエタノールの製造において、タンパク質が実質的に減少した溶液と沈殿物質とを組み合わせ、糖化し、発酵の後、エタノールを蒸留し、採取した、とされている。このような工程においては、タンパク質が実質的に減少したとしても、エタノールの製造においては、再度発酵させていることから、糖濃度だけではなく、タンパク質の濃度も低いものとはなっていない。そのため蒸留効率を上げることはできないことが明らかである。
【0008】
一方、特許文献7の方法は、減圧もろみ塔を用いた減圧蒸留によりエタノール成分の回収を行うことで、塔内に付着成分が発生するのを防いでいる。しかしながら、減圧蒸留を行う場合、特に発酵系では二酸化炭素等の非凝縮性ガスが大量に発生することから、コンデンサ(凝縮器)を大きくすることが必要不可欠となるため、設備コストが高くなってしまうという問題を抱えており、バイオアルコールの工業生産に適用する上では、更に改良する余地のあるものであった。
このように、バイオアルコールの製造方法として、工業的に更に好適に用いることができる製造方法が求められているところであった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法において、工業的に好適に用いることができるアルコールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法について、種々検討を行い、発酵によって原料からブタノール含有溶液を調製し、そのブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する方法に着目した。そして、ブタノールを回収するために行われる蒸留操作を、該蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下として行うことにより、ブタノール含有溶液中に含まれる成分の析出や焦げ付き等が起こらず、そのため、蒸留装置内や、配管内等が閉塞してしまったり、リボイラーの伝熱効率が下がってしまったりすることなく、安定した蒸留運転が可能となることが分かった。そしてこれにより、回収効率を低下させることなく、ブタノールを回収することができることを見出した。特にこの方法は、蒸留操作を大気圧(常圧)下、100℃以上となる条件で行っても、上述の効果を奏することができるものであるため、このようなアルコールの製造方法は、ブタノールの蒸留による回収を、回収効率を低下させることなく大気圧下でも行うことが可能であり、発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法として、効率、製造コストの観点から、工業的に優れた方法と言える。このように工業的に好適に用いることができるアルコールの製造方法を見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち本発明は、発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法であって、上記製造方法は、原料からブタノール含有溶液を調製し、該ブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する工程を含み、上記回収工程における蒸留は、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下として行われることを特徴とするアルコールの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載される本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の好ましい形態である。
【0012】
本発明のアルコールの製造方法は、原料からブタノール含有溶液を調製し、該ブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する工程を含むものであるが、当該回収工程が含まれる限り、その他の工程を含んでいてもよい。具体的には、後述するように、原料からブタノール含有溶液を調製する発酵工程が含まれ、更には、除タンパク工程や、逆浸透膜濃縮工程、脱水工程等を含んでいてもよい。
【0013】
本発明のアルコールの製造方法は、発酵により糖質を含む原料からブタノール含有溶液を調製し、当該ブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収するものであるが、ブタノールを回収する回収工程に特に特徴を有するものであることから、まず、回収工程について説明し、その後で、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液が調製されるまでの工程について説明する。
【0014】
上記回収工程は、発酵工程により調製されたブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する工程であり、ブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下で行う蒸留操作を必須として含むが、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下とすることを必須とするものである。蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度及びタンパク質濃度を上記特定値以下とすることにより、好ましくは、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液を実質的にすべて上記糖濃度及びタンパク質濃度とすることにより、ブタノール含有溶液に含まれるタンパク質の析出や、グルコース等の糖質の焦げ付き等に起因する蒸留装置や配管の閉塞、加熱時の伝熱効率の低下を抑制することができ、その結果、回収効率を低下させることなく、ブタノールを回収することが可能となる。特に、蒸留操作をたとえ、大気圧(常圧)下、100℃以上となるような条件で行ったとしても、効果を奏することができる。このように、ブタノールの回収効率の低下がタンパク質の析出(発酵における微生物由来のタンパク質等)やグルコース等の糖質の焦げ付きによって生じることを見出したところに本発明の技術的意義がある。
【0015】
上記糖濃度としては、50g/L以下であることが必須であるが、好ましくは45g/L以下であり、より好ましくは40g/L以下であり、更に好ましくは35g/L以下である。糖濃度は、なるべく低い方が好ましいものであり、0g/Lであることが好ましい。
ブタノール含有溶液中の糖濃度は、当該技術分野で知られている高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法やバイオセンサーなどいくつかの方法により測定することができる。
なお、上記糖濃度とは、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液に含まれる糖質の濃度を表している。糖質については後述する。
【0016】
上記タンパク質濃度としては、85mg/L以下であることが必須であるが、好ましくは80mg/L以下であり、より好ましくは70mg/L以下であり、更に好ましくは60mg/L以下である。タンパク質濃度も、なるべく低い方が好ましいものであり、0mg/Lであることが好ましい。
ブタノール含有溶液中のタンパク質濃度は、当該技術分野で知られている紫外線吸収法、ブラッドフォード(Bradford)法、ローリー(Lowry)法、ビシンコニン酸(BCA)法などの分光光度計を用いた公知の比色定量法により測定することができる。
なお、タンパク質の場合は、蒸留塔で加熱を受け析出し、グルコース等の糖類の場合は、焦げ付くことになり、両者ともに蒸留装置の詰まりを生じさせる原因となるが、それぞれの詰まりを生じさせる作用が異なるため、両者ともに最大値付近となる場合においても、上記特定値の範囲内であればそれぞれの作用が抑制されることから蒸留装置の詰まりを防止することができる。
【0017】
上記回収されるブタノールは、蒸留操作を経て回収される際、通常では他の成分との混合溶液として回収されることとなる。この場合のブタノール溶液のブタノール濃度としては、20質量%以上であることが好ましい。このような濃度で回収することができれば、更なるブタノール精製過程へ供するにも好適である。回収工程により回収されるブタノール溶液のブタノール濃度としてより好ましくは、25質量%以上であり、更に好ましくは、30質量%以上である。
【0018】
上記蒸留操作としては、ブタノールを回収することができれば通常用いられる手法により行うことができ、単独の蒸留塔あるいは多段の蒸留塔を用いて行う方法が好ましい。蒸留を行う際の圧力、温度共に、ブタノール含有溶液の組成等を考慮して、蒸留操作において通常実施される範囲で行うことができる。また、上述したように、本発明のアルコールの製造方法は、大気圧(常圧)下、100℃以上となるような条件で行った場合においても好適に適用することができる。この場合、本発明の製造方法は発酵系であることから二酸化炭素等の非凝縮性ガスが大量に発生することになるが、減圧蒸留を行う必要がないことから、大きなコンデンサを設置する必要がなく、設備コストの点で利点を有することとなる。すなわち、蒸留が減圧下ではなく常圧以上の圧力下で行われる際に、本発明の方法による効果がより顕著に顕れることとなる。このことから、蒸留を行う際の圧力としては、好ましくは0.05〜0.3MPaであり、より好ましくは0.07〜0.25MPaであり、更に好ましくは0.09〜0.2MPaである。すなわち、本発明における蒸留操作が、0.1〜0.15MPaの圧力で行われることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。なお、後述するように、蒸留操作を複数回の蒸留操作を組み合わせて行う場合には、少なくとも1つの蒸留操作が上記圧力範囲で行われることが好ましい。蒸留を行う際の還流比及び、蒸留塔の理論段数は、通常実施される範囲で行うことができ、特に制限はされない。蒸留を行う際の還流比としては、0.01〜30であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20であり、最も好ましくは0.5〜10である。用いる蒸留塔の理論段数としては、1〜50段であることが好ましく、より好ましくは5〜45段であり、最も好ましくは10〜40段である。
【0019】
また、蒸留を行う際の温度(蒸留温度)としては、100℃以上といったタンパク質の析出や、糖質の焦げ付き等が起こってしまう温度範囲において、本発明の方法による効果はより顕著に発揮されることとなる。蒸留温度としては、80〜150℃であることが好ましく、90〜120℃であることがより好ましい。更に好ましくは、95〜115℃である。すなわち、本発明における蒸留操作が、100〜110℃の蒸留温度で行われることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。なお、後述するように、蒸留操作を複数回の蒸留操作を組み合わせて行う場合には、少なくとも1つの蒸留操作が上記温度範囲で行われることが好ましい。
本明細書において、蒸留塔を用いて蒸留操作を行う場合における蒸留温度とは、塔底部温度(ボトム温度)を意味するものとする。
【0020】
上記蒸留操作は、1回の蒸留操作により行ってもよいし、複数回の蒸留操作を組み合わせて行ってもよい。なお、複数回の蒸留操作を組み合わせて行う場合には、同一条件の蒸留を複数回行うこととしてもよいし、異なる条件の蒸留を組み合わせて複数回蒸留を行う多段蒸留としてもよい。更に、複数回の蒸留操作を組み合わせて行う場合には、複数回行われる蒸留操作のうち、いずれか少なくとも1つの蒸留操作に供される溶液において、糖濃度が50g/L以下であり、かつ、タンパク質濃度が85mg/L以下であればよいが、蒸留操作が複数回行われる場合、すべての蒸留操作において本発明の効果を充分に発揮させるためには、すべての蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度及びタンパク質濃度を上記特定値以下とすることが好ましい。
蒸留操作としては、上述した中でも、多段蒸留によって行われることが好ましい。
また、ブタノール含有溶液を連続的に蒸留操作に供給し続けて蒸留操作を行う場合には、ブタノール含有溶液が蒸留操作に供給されている期間のうち、ある期間において供給されるブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下とすればよいが、本発明の効果をより充分に発揮させるためには、ブタノール含有溶液が蒸留操作に供給されている期間中、常に、ブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下として蒸留操作に供給するのが好ましい。すなわち、蒸留運転時間と蒸留塔フィード液中のタンパク質濃度との関係において、ブタノール含有溶液のタンパク質濃度を実質的に全蒸留運転時間において上記特定値以下とすることが好ましい。また、タンパク質濃度だけでなく、ブタノール含有溶液の糖濃度も実質的に全蒸留運転時間において上記特定値以下とすることが好ましい。本発明の要旨は、蒸留装置の詰まりを防ぐために、糖及びタンパク質の濃度を上記特定値以下にする点にあることから、実質的に全蒸留運転時間において、糖及びタンパク質の濃度を上記特定値以下にしておかないと詰まりが発生するおそれが高い。
このように、実質的に全蒸留運転時間において、ブタノール含有溶液の蒸留塔フィード液中における糖及びタンパク質の濃度を上記特定値以下とすることは、本発明の好ましい実施形態の一つである。
【0021】
後述するように、発酵工程により調製されるブタノール含有溶液には、ブタノールを含むアルコール成分が含まれているが(更にはケトン成分も含まれている場合もある。)、このようなブタノール含有溶液からブタノールを回収するために、アルコール成分(ブタノール含有溶液にケトン成分も含まれている場合には、アルコール成分及びケトン成分)を濃縮する蒸留濃縮操作、並びに、ブタノール以外のアルコール成分(ブタノール含有溶液にケトン成分も含まれている場合には、ブタノール以外のアルコール成分及びケトン成分)を除去する軽沸除去操作を含む多段蒸留を蒸留操作として行うことが好ましい。なお、蒸留濃縮操作及び軽沸除去操作の実施する順序は、特に制限されないが、蒸留濃縮操作を行った後に、軽沸除去操作を行う方が好ましい。すなわち、本発明の製造方法が、発酵によりアルコール成分、若しくは、アルコール成分及びケトン成分を生成し、上記蒸留操作が、蒸留濃縮操作及び軽沸除去操作を含み、当該蒸留濃縮操作によってアルコール成分、若しくは、アルコール成分及びケトン成分を濃縮し、当該軽沸除去操作によってブタノール以外のアルコール成分、若しくは、ブタノール以外のアルコール成分及びケトン成分を除去することもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0022】
上記蒸留濃縮操作としては、供されるブタノール含有溶液に含まれるアルコール成分、若しくは、アルコール成分及びケトン成分を濃縮することができるよう、通常用いられる蒸留の手法を用いて適宜蒸留条件を設定することにより行うことができる。中でも、蒸留塔を用いて蒸留濃縮操作を行う場合には、塔頂部からブタノール、エタノール等のアルコール成分、若しくは、当該アルコール成分及びアセトン等のケトン成分を留出させ、塔底部(蒸留ボトム)から主に水を抜出することとなる。
なお、塔底部から抜出された水には培地成分も含まれており、これらは発酵工程に循環させて再利用してもよい。また、発酵工程に循環する際、発酵工程に戻す前にその一部をパージして発酵に使用する液量を調節することができる。
【0023】
本発明の製造方法においては、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度及びタンパク質濃度を上記特定値以下とする、すなわち、蒸留塔に供給(フィード)されるブタノール含有溶液(蒸留塔フィード液)中の濃度を上記のようにして蒸留操作を行う。
あくまで、蒸留塔フィード液中のグルコース等の糖濃度としては、50g/Lが限界点、好ましい上限値は上述した通りであるが、蒸留塔における塔底部の濃度まで特定範囲に設定する必要性は低い。蒸留時にグルコース等の糖成分は、塔底部に濃縮されるので、フィードよりも塔底部の方が高濃度となるが、50g/Lを超えるグルコース等の糖濃度の塔底液が発酵槽へリサイクルされても、発酵時にグルコース等の糖成分の消費が起こるので、かならずしもリサイクル後に供給される蒸留塔フィード液中のグルコース等の糖濃度が50g/Lを超えるとは限らない。ただ、あまりにも塔底部のグルコース等の糖濃度が上がりすぎると発酵過程で消費しきれずに蒸留塔フィード液中のグルコース等の糖濃度が上昇して50g/Lを超える可能性がある。そのため、塔底液を発酵槽へリサイクルする場合は、蒸留塔における塔底部のグルコース等の糖濃度を、リサイクル後の蒸留塔フィード液中のグルコース等の糖濃度が50g/Lを超えないように、好ましくは上述した上限値を超えないように制御することが好ましい。
蒸留塔における塔底部のタンパク質濃度については、タンパク質の場合、通常では蒸留塔で加熱を受け析出するので塔底部の液中の濃度は非常に低くなる。ただ、タンパク質の場合は、蒸留塔フィード液中の濃度が85mg/L以下でも析出は起こるが、析出物が柔らかいこともあり、85mg/L以下であれば析出物の量が少ないため、通常では蒸留塔から閉塞することもなく抜出され、蓄積もすることがない。しかし、85mg/Lを超えると、析出物の量が増加し、閉塞を起こしてしまう。このことからも、蒸留塔フィード液中のタンパク質濃度を85mg/L以下とする、好ましくは上述した上限値を超えないようにすることが有効であると言える。
【0024】
上記軽沸除去操作としては、蒸留濃縮操作によって濃縮された、アルコール成分、若しくは、アルコール成分及びケトン成分を含む溶液が供され、その供された溶液に含まれる、ブタノール以外のアルコール成分、若しくは、ブタノール以外のアルコール成分及びケトン成分を除去することができるよう、通常用いられる蒸留の手法を用いて適宜蒸留条件を設定することにより行うことができる。中でも、蒸留塔を用いて軽沸除去操作を行う場合には、塔頂部からエタノール等のブタノール以外のアルコール成分、若しくは、当該ブタノール以外のアルコール成分及びアセトン等のケトン成分を留出させ、塔底部からブタノール及び水を抜出し、取得することとなる。なお、ブタノールと水とを含む溶液は、ブタノール濃度が8〜80%の範囲では水とブタノールが相分離し、2相を形成するため、軽沸除去操作により得られたブタノール及び水を含むブタノール溶液が2相を形成する場合には、その油相を得ることでブタノール画分を得ることができる。
【0025】
本発明のアルコールの製造方法においては、回収工程によりブタノール及び水を含むブタノール溶液が回収されるが、回収されたブタノール溶液は更に水を除去する精製過程へ供してもよい。このように、本発明のアルコールの製造方法が、更に、脱水工程を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記脱水工程は、回収工程により回収されたブタノール及び水を含むブタノール溶液から水を除去し、更にブタノール濃度の高いブタノール溶液を得ることができれば、その方法は特に制限されない。脱水方法としては、例えば、親水性膜を用いた浸透気化による脱水方法、共沸剤を用いた共沸蒸留による脱水方法、吸着法を用いた脱水方法などが挙げられる。これらの中でも、親水性膜を用いた浸透気化法が効率、製造コストの観点から好ましい。
【0026】
上記親水性膜としては、親水性ゼオライト膜の様な無機膜や、ポリビニルアルコールなどの親水性高分子膜が挙げられるが、耐久性、水透過選択性の観点から親水性ゼオライト膜が好ましい。
【0027】
次に、発酵から蒸留操作に供されるブタノール含有溶液が調製されるまでの工程について説明する。
上記発酵工程は、発酵槽内で、発酵により糖質を含む原料からブタノール含有溶液を調製する工程であるが、当該ブタノール含有溶液にはブタノールが含まれている限りその他のアルコールが含まれていてもよい。通常当該ブタノール含有溶液には、ブタノールを含むアルコール成分が含まれ、更にはケトン成分も含まれている場合もある。また、発酵工程としては、発酵によりブタノール含有溶液を調製することができれば、菌体の種類や、原料、培地成分の組成、菌体の培養方法は、通常、発酵によるアルコール生産の分野で用いられているものを用いることができる。
発酵工程に用いられる菌としては、例えば、クロストリジウム・ベージェリンキー(Clostridium beijerinckii)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum)、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butylicum)等の嫌気性菌のクロストリジウム属微生物、1−ブタノール代謝遺伝子を大腸菌や酵母、枯草菌等に組み換えた発酵菌株、変異処理により収率が向上した発酵菌株、1−ブタノール耐性を高めた発酵菌株などが挙げられる。これらの中でも、クロストリジウム・ベージェリンキー、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム、クロストリジウム・アセトブチリカムが好ましい。
【0028】
上記発酵工程に用いられる培地成分としては、限定されないが、通常、炭素源、窒素源及び無機イオンを含むものが用いられる。そして必要に応じて更に有機微量栄養素を用いることが好ましい。
上記炭素源としては、例えば、でんぷん、デキストリン、シクロデキストリン、セルロース等の多糖類;グルコース、ガラクトース、フラクトース、 キシロース等の単糖類;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖等のオリゴ糖類等の糖質が挙げられる。なお、上記糖質と共に、ソルビトール、グリセロール等の糖アルコール類、フマル酸、クエン酸、コハク酸、酪酸、酢酸等の有機酸類などとを併用して用いることもできる。
本発明における原料は、上記糖質を含む原料であればよい。そして、上記炭素源としては、1種の糖質を用いてもよいし、2種以上の糖質を併用してもよく、また、糖質以外の炭素源を1種又は2種以上併用しても構わない。中でも、本発明における糖質を含む原料としては、グルコースを含んでいることが好ましい。
なお、ここで言う「グルコースを含んでいる」とは、グルコースそのものを含んでいる形態であってもよいし、グルコースを構成単位として有する糖質を含んでいる形態であってもよい。
上記グルコースを構成単位として有する糖質としては、でんぷん、デキストリン、シクロデキストリン、セルロース、スクロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、トレハロース、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース、フラクトオリゴ糖、ガラクオリゴ糖、マンナンオリゴ糖などが挙げられ、好ましくはでんぷん、セルロース、スクロース、ラクトース、マルトース、セロビオースである。
上記炭素源として、近年では地球環境への配慮から、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは大きくでんぷん系バイオマスとセルロース系バイオマスに大別されるが、これらバイオマスを加水分解して得られる糖化液を原料としても良い。特にパーム油の原料である植物パームヤシは東南アジアを中心に大量に生産されており、パームヤシ由来バイオマス(パームヤシ古木、パーム空果房、パーム油排水、パーム油絞り粕等)の利用が可能である。
上記バイオマスの糖化液は、グルコースやキシロース以外に二糖、三糖、オリゴ糖及び多糖類等の糖質を含むが、炭素源として用いる場合、発酵中の代謝により、グルコースやキシロースなどの単糖を経由してバイオアルコールが生成されることとなる。
【0029】
上記窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩;酢酸アンモニウム等の有機アンモニウム塩;大豆加水分解物、アミノ酸等の有機窒素;アンモニアガス、アンモニア水などが挙げられる。
【0030】
上記無機イオンとしては、例えば、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオンなどが挙げられる。
上記有機微量栄養素としては、例えば、ビオチン、ビタミンB1等の要求物質、p−アミノ安息香酸、酵母エキスなどが挙げられる。
【0031】
上記発酵工程における菌の培養条件を以下に例示する。クロストリジウム属微生物の培養は、通常、嫌気条件下で行われる。大腸菌や酵母、枯草菌等に1−ブタノール代謝遺伝子を組み換えた発酵菌株では、菌株に合わせて好気条件、嫌気条件の両条件とも選択して実施できる。培養時間は、バッチ培養では、5〜100時間、好ましくは5〜50時間、より好ましくは10〜50時間実施することが好ましく、連続培養では、200時間以上、好ましくは500時間以上、より好ましくは1000時間以上の実施が好ましい。培養温度は通常15〜60℃とすることが好ましく、25〜40℃がより好ましい。培養中のpHは特に調整する必要はないが、調整する場合には通常3〜8、より好ましくは5〜7に制御することが好ましい。pHを調整する際には、例えば、無機の酸性物質、無機のアルカリ性物質、有機の酸性物質、有機のアルカリ性物質、アンモニアガス等を使用することができる。
【0032】
本発明のアルコールの製造方法は、バッチ式、連続式、半連続式、いずれの方法でも行うことができるが、好ましくは連続式である。すなわち、本発明のアルコールの製造方法が、発酵に用いる菌体とブタノール含有溶液とを分離し、菌体に対して原料を連続的に供給しながら行われることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、ここでいう「連続式」には、連続式により行うが、発酵槽中に菌の死骸が増え、発酵が行われている発酵培養液中の糖濃度、菌濃度やタンパク濃度が一定値に達して、ブタノール生産の効率が落ちてきたら一旦反応を止めて菌を新しい菌と交換するような、反応を途中で止めるような反応方式も含まれるものである。連続式に用いられる発酵槽としては単独もしくは多段式が好ましい。
【0033】
上記発酵に用いる菌体とブタノール含有溶液との分離には、例えば、精密濾過膜(MF膜)を用いることができる。菌体は精密濾過膜を通過することができないのに対して、ブタノール含有溶液は通過することができるために、分離が可能となる。分離された菌体は、発酵工程に戻して再利用してもよい。
【0034】
上記精密濾過膜としては、菌体とブタノール含有溶液とを分離することができれば、特に制限されず、通常の精密濾過膜を用いることができる。その形式は、平膜状、中空糸状、チューブ状など特に制限されないが、中空糸状が好ましい。膜の材質は例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア等のセラミック、ガラス、金属などの無機膜、又は、酢酸セルロース系、ニトロセルロース系、脂肪族ポリアミド系、ポリスルホン系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、フッ素高分子等の有機膜が挙げられる。
【0035】
本発明のアルコールの製造方法は、発酵工程により調製されるブタノール含有溶液を回収工程に供してブタノールを回収するものであるが、回収工程に供するブタノール含有溶液はタンパク質濃度が特定値以下であるものである。ここで、回収工程に供するブタノール含有溶液のタンパク質濃度を調整するために、本発明のアルコールの製造方法は、更に、除タンパク工程を含んでいてもよい。
【0036】
上記除タンパク工程としては、ブタノール含有溶液中のタンパク質を除くことができ、回収工程に供するブタノール含有溶液のタンパク質濃度を特定値以下とすることができれば、その方法は特に制限されず、例えば、上記精密濾過膜を通過したブタノール含有溶液を加熱して、タンパク質を変性させ析出させて、その析出したタンパク質をフィルター濾過する方法や、含まれているタンパク質が通過できない孔径の分離膜を使用する方法等により、行うことが可能である。
ブタノール含有溶液を加熱して、タンパク質を変性させ析出させて、その析出したタンパク質をフィルター濾過する方法の加熱温度としては、70〜120℃であることが好ましい。また、90〜110℃であることがより好ましい。また、上記フィルター濾過に用いるフィルターとしては、析出したタンパク質を捕捉可能な孔径を有し、使用する温度に対する耐熱性や使用するブタノール含有溶液のブタノール濃度に対する耐薬品性を有していれば特に制限されない。孔径は0.1〜30μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。材質は、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、混合セルロースエステル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素高分子、ガラス、ステンレス等が好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
上記タンパク質が通過できない孔径の分離膜を使用する方法においては、分離膜の分画分子量としては100万以下のもの、より好ましくは10万以下のもの、さらに好ましくは1万以下のものが好ましい。その形式は、平膜状、中空糸状、チューブ状など特に制限されないが、中空糸状が好ましい。分離膜の材質としては例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア等のセラミック、ガラス、金属などの無機膜、又は、酢酸セルロース系、ニトロセルロース系、脂肪族ポリアミド系、ポリスルホン系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、フッ素高分子等の有機膜などが挙げられる。
なお、除タンパク工程を上述のようにブタノール含有溶液を加熱してタンパク質を変性、析出させて除くこととする場合には、そのような過程でブタノール含有溶液に含まれる糖質も焦げ付き、ある程度除去されることとなる。
【0037】
また、本発明のアルコールの製造方法は、回収工程に供するブタノール含有溶液は糖濃度が特定値以下であるものである。ここで、回収工程に供するブタノール含有溶液の糖濃度を調整するために、本発明のアルコールの製造方法は、更に、除糖質工程を含んでいてもよい。
【0038】
上記除糖質工程としては、ブタノール含有溶液中の糖質を除くことができ、回収工程に供するブタノール含有溶液の糖濃度を特定値以下とすることができれば、その方法は特に制限されず、例えば、逆浸透膜又は、ナノ濾過膜で処理する方法などが用いられる。
ただし、ブタノール含有溶液中の糖濃度は、発酵工程において原料と菌体との接触時間を長くするなど発酵が充分に進行するようにして、原料に含まれる糖質を充分消費させるようにしたり、糖濃度をモニタリングして一定濃度を超えないように制御して流加するなどすれば、回収工程に供しても問題にならない濃度とすることが可能である。
【0039】
本発明のアルコールの製造方法は、発酵工程後、菌体とブタノール含有溶液とを分離した後、更に、逆浸透膜(RO膜)濃縮工程を含んでいてもよい。ここで用いる逆浸透膜は、ブタノールは透過させないが、水は透過することができるものを用いる事が必要である。上記の様な逆浸透膜を用いる事で、加熱することなくブタノールを濃縮することが可能である。
なお、逆浸透膜を透過した水は、発酵工程に循環させて再利用してもよい。また、発酵工程に循環する際、発酵工程に戻す前にその一部をパージして発酵槽中の液量を調節することができる。
このように、本発明のアルコールの製造方法としては、原料からブタノール含有溶液を調製した後、逆浸透膜によるブタノール含有溶液の濃縮操作、蒸留操作及び脱水操作がこの順に行われることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0040】
上記逆浸透膜としては、ブタノールの透過が阻止されるものであれば、特に制限されない。上記逆浸透膜の材質としては、炭素膜、再生セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾロン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、アラミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、ポリエステル、ポリ酸化エチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、及び、それらを複合したものなどが挙げられる。好ましくは、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾロン、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、及び、それらを複合したものである。特に好ましくは、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、及び、それらを複合したものである。
【0041】
上記逆浸透膜の使用形態としては、管状、袋状、中空糸状、平膜状、スパイラル状等が挙げられ、好ましくは中空糸状、平膜状、スパイラル状である。より好ましくは中空糸状、スパイラル状であり、膜の厚みとしては1mm以下が好ましい。
【0042】
上記逆浸透膜としては、例えば、以下のものが挙げられる。なお、これらは全て、商品名によって表記される。日東電工社製:NTR−70SWC、NTR−7250、NTR−729HF、NTR−759HR、ES−40、ES−20、ES−15、LES90、LF10、ダイセンメンブレン・システムズ社製:NADIR SW、東レ社製:SUシリーズ、SULシリーズ、SCシリーズ、GEウォーター・アンド・プロセス・テクノロジーズ社製:AD、AG、AK、DSS社製:CA995PE、RO98pht、ダウ・ケミカルズ社製BW30−365、LE440、XLE440、SW30、SW30HRなどが挙げられる。これらの中で好ましくは、NTR−70SWC、ES−20、LF10、AD、SW30、SW30HRであり、より好ましくは、NTR−70SWC、AD、SW30、SW30HRである。
【0043】
本発明のアルコールの製造方法は、上述したとおりであるが、本発明のアルコールの製造方法を用いた発酵によるブタノール製造における、発酵工程から脱水工程までの一連のプロセスの一例を、図1に示す。
まず、発酵槽(2)に原料(1)および種菌体が投入されて発酵工程(A)が開始される。そして一定時間後、発酵槽の中の発酵溶液を精密濾過膜(3)を通して循環し、精密濾過膜により菌体を循環側に閉じ込めブタノール含有溶液を透過させる菌体分離(B)が行われる。透過したブタノール含有溶液は、除タンパク槽(4)に供され、加熱されて、タンパク質が析出する。そして、析出したタンパク質がフィルター(5)により除去される(除タンパク(C))。フィルターを透過したブタノール含有溶液は更に逆浸透膜(6)により濾過される逆浸透膜濃縮工程(D)に供される。逆浸透膜を透過した水等は、発酵槽へ戻される。一方、逆浸透膜を透過せずに濃縮されたブタノール含有溶液は、蒸留塔1(7)に供され、蒸留操作が行われる(蒸留濃縮(E))。この蒸留操作により、塔頂部よりエタノール及びブタノールが留出し(更にブタノール含有溶液がアセトンも含んでいる場合には、アセトンも塔頂部より留出する。)、塔底部から主に水が抜出される。抜出された水は、発酵槽に戻される。一方、塔頂部より留出した成分は、蒸留塔2(8)に供され、更に蒸留操作が行われる(軽沸除去(F))。この蒸留操作により、塔頂部よりエタノール(9)が留出し(更に蒸留塔2に供された成分がアセトンも含んでいる場合には、アセトンも塔頂部より留出する。)、塔底部からブタノール及び水が抜出される。抜出されたブタノール及び水を含むブタノール溶液は、ブタノール濃度が60%程度の水溶液であるため、ブタノールと水とは相分離している。そこで、ブタノール相(油相)のみを取得することで、ブタノール濃度が80%程度のブタノール溶液が得られる(相分離(G))。そして、相分離工程(G)により得られたブタノール溶液が、脱水工程(H)に供される。脱水工程(H)は、親水性膜(10)(例えば、ゼオライト膜)を用いた浸透気化法により行われる。これにより親水性膜を水(12)が透過して除去され、ブタノール(11)が精製、回収されることとなる。
更に、本発明のアルコールの製造方法を連続式で実施する場合は、連続リサイクル培養とすることが好ましい。連続リサイクル培養においては、蒸留塔における蒸留ボトム液を発酵槽に戻すことによってリサイクルし、該蒸留ボトム液を戻す際に、発酵で消費された成分を濃縮培地として調整しておき、これも発酵層へフィードし、発酵槽中の培地成分の量を調整することが好ましい。
なお、上記プロセスは、本発明のアルコールの製造方法の具体的な一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0044】
本発明のアルコールの製造方法は、上述の構成よりなり、発酵により糖質を含む原料からブタノール含有溶液を調製し、そのブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する方法において、ブタノール含有溶液中に含まれる成分の析出や焦げ付き等が起こらず、そのため、蒸留装置内や、配管内等が閉塞してしまったり、リボイラーの伝熱効率が下がってしまったりすることなく、安定した蒸留運転が可能であることから、回収効率を低下させることなくブタノールを回収することができるため、効率、製造コストの観点から、工業的に好適に用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明のアルコールの製造方法を用いた発酵によるブタノール製造における、発酵工程から脱水工程までの一連のプロセスの一例を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0047】
(液組成分析)
グルコース、ブタノール、アセトン、エタノールの分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で実施した。使用カラムはBio−rad社製のHPX−87H(長さ:300mm、内径:7.5mm)で、カラム温度20℃で分析した。溶離液は5mM硫酸を使用し、流速0.5ml/minで分析した。検出器は示差屈折率検出器を使用した。
【0048】
(実施例1)
クロストリジウム ベージェリンキー(Clostridium. beijerinckii)NCIMB8052株を用いたブタノール生産
クロストリジウム ベージェリンキーNCIMB8052株を標準的な実験室用発酵槽(総容量90L)にて培養し、ブタノール発酵を実施した。培養は復元培養、シード培養、前培養、本培養と順次スケールを大きくしていき、実施した。バッチ培養の本培養を22.5時間行った後、連続リサイクル培養に移行した。該連続培養では、まず、精密ろ過膜(MF膜)を用いたろ過により菌体を封じこめつつ、透過液を抜出し、除タンパク工程を経た後、蒸留塔にフィードし、ブタノール他の溶媒成分を回収した。そして蒸留ボトムはリサイクルし、発酵槽に戻した。戻す際には、発酵で消費された成分を濃縮培地として調整しておき、これもフィードし、発酵槽中の培地成分の量を調整した。また、蒸留ボトムの一部を液量調節のためにパージした。
【0049】
○培地組成
培養培地の調製には以下の化学物質を使用した(培養培地1リットルあたりの量):
1.D−グルコース:55g
2.酵母エキス:1g
3.KHPO:0.5g
4.KHPO:0.5g
5.酢酸アンモニウム:2.2g
6.MgSO・7HO:0.2g
7.MnSO・HO:0.01g
8.FeSO・7HO:0.01g
9.NaCl:0.01g
(上記1〜9の化学物質は、いずれも分析用試薬を用いた。)
10.消泡剤(ADEKA社製「アデカノールLG−109」):1g
11.寒天培地用寒天:15g
(上記寒天は、分析用試薬を用いた。なお、寒天はプレート作製時にのみ使用した。)
【0050】
〇復元培養
上記培養培地の成分において、1番のD−グルコース、10番の消泡剤を除いて、2〜9番の化学物質及び11番の寒天を1L分ビーカーに量りとり、水を加えて溶解した後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)を実施した。続いてこの液が60℃程度まで冷えたら、あらかじめ滅菌ろ過しておいた50%のD−グルコース水溶液を終濃度で55g/Lになるように安全キャビネット内で無菌的に加えた。続いて、滅菌済みディスポーザブルシャーレに20mlずつ分注し、培養用プレートを作製した。ストックしてあるクロストリジウム ベージェリンキーNCIMB8052株を無菌的に滅菌済み白菌耳で掻き取り、プレートに画線した。嫌気装置内でインキュベートした(35℃、72時間)。プレート上に複数のシングルコロニーが生育した。
【0051】
〇シード培養
上記培養培地の成分において、1番のD−グルコースを除いて、2〜10番の化学物質を1L分ビーカーに量りとり、水を加えて溶解した後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)を実施した。続いてこの液が60℃程度まで冷えたら、あらかじめ滅菌ろ過しておいた50%のD−グルコース水溶液を終濃度で55g/Lになるように安全キャビネット内で無菌的に加えた。この培地をあらかじめオートクレーブ滅菌(121℃、15分)しておいた2本の15ml容ネジ口試験管に5mlずつ分注した。この2本の試験管に、復元培養で生育したシングルコロニーを滅菌済み爪楊枝で取りそれぞれ接種した。嫌気装置内でインキュベートした(35℃、24時間)。24時間後の培養液の660nmでの吸光度(O.D.660)は5程度であった。
【0052】
〇前培養
上記培養培地の成分において、1番のD−グルコースを除いて、2〜10番の化学物質を1L分ビーカーに量りとり、水を加えて溶解した後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)を実施した(水の量はグルコース水溶液を入れたときに1Lの容量になるように調節した)。続いてこの液が60℃程度まで冷えたら、あらかじめ滅菌ろ過しておいた50%のD−グルコース水溶液を終濃度で55g/Lになるように安全キャビネット内で無菌的に加えた。この培地をあらかじめオートクレーブ滅菌(121℃、15分)しておいた1L容ネジ口瓶に600ml分注した。このネジ口瓶に、シード培養で生育した培養液を6ml接種した。嫌気装置内でインキュベートした(35℃、18時間)。18時間後の培養液の660nmでの吸光度(O.D.660)は3程度であった。
【0053】
〇本培養−バッチ培養
上記培養培地の成分において、1番のD−グルコースを除いて、2〜10番の化学物質を60L分90L発酵槽に量りとり、水を加えて溶解した後、121℃で20分間滅菌を実施した(水の量はグルコース水溶液を入れたときに60Lの容量になるように調節した)。続いてこの液が60℃程度まで冷えたら、あらかじめ滅菌ろ過しておいた50%のD−グルコース水溶液を終濃度で55g/Lになるように無菌的に発酵槽内に加えた。発酵槽内に設置されている攪拌機の回転数は100rpmに設定し、35℃に調温後、窒素ガスで装置内を嫌気化した。ここに、前培養液600mlを無菌的に発酵槽内に接種して本培養を開始した。22.5時間バッチ培養を実施した。
【0054】
〇本培養−MF菌体閉じ込め培養
上記バッチ培養と同一の培養条件で、MF菌体閉じ込め培養を実施した。MF膜を透過した透過液(MF透過液)を後述する工程に使用した。該透過液を抜き出すのと同じ速度で、本培養で使用した培地と同じ培地を発酵槽に無菌的に追加して培養を継続した。MF膜は旭化成ケミカルズ社製のUSP143を3本直列に接続して使用し、循環流量は18L/分で実施した。また、透過液の抜き出し速度は6kg/時間に設定した。
【0055】
・除タンパク工程
蒸留への悪影響を回避するためにMF透過液からタンパク質を除去するための工程を実施した。除タンパク工程は、MF透過液を加熱してタンパク質を変性させ析出させてフィルターろ過で除くことにより実施した。具体的には、MF透過液の流路に3L四つ口フラスコを設置して、内温が100℃になるようにオイルバスで加熱した(流速はMF透過液の抜き出し速度と同じ。フラスコ内容量が2Lなので滞留時間は20分に相当する。)。続いて保冷したサスパイプコイルで40℃になるように調温し、アドバンテック社製PPプリーツコンパクトフィルター(捕捉可能粒子径:3μm)を使用し、タンパク質を除いた。
【0056】
・蒸留1st(濃縮)工程
除タンパク工程にてフィルターを通じた液を、本培養(バッチ培養)開始後、24時間後から70℃に加熱して蒸留塔1stへフィードした。上記フィード液をフィード開始後から所定の時間(蒸留運転時間)において分析した結果を表1に示す。なお、このように蒸留塔に供給(フィード)されるブタノール含有溶液(蒸留塔フィード液)中の各成分濃度を「蒸留フィード液中濃度」とする。
また下記の条件にて連続蒸留を行い、塔頂部からブタノール、アセトン、エタノールを留出させ、塔底部から主に水を抜出した。結果、48時間連続的に安定運転を実施でき、留出液を4.3kg取得した。塔頂部から得られた液(塔頂液)及び塔底部から得られた液(塔底液)各液の液組成を表2に示す。
表1及び表3には、後述する実施例及び比較例の結果もそれぞれ示した。
(蒸留装置)
蒸留塔内径:32φ
充填材:スルザーラボパッキン CY
理論段数:32段
ボトム容量:2L
運転条件
圧力:0.1MPa
還流比:1
フィード流速:100g/分
留出速度:1.5g/分
塔底温度:103℃
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
上述したように連続蒸留した後、蒸留塔の塔底部の析出物量を測定した。その結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
・パージ・ボトム循環工程
パージは上記蒸留ボトムが発酵槽に戻る前に0.39kg/時間(パージ量)で蒸留ボトムの抜き出しを実施した。発酵槽へは蒸留ボトムを5.5kg/時間(ボトムリサイクル量)の速度でリサイクルし、同時に発酵槽へ濃縮培地を0.5kg/時間(濃縮培地フィード量)でフィードした。但し、発酵槽の液面を保持するように、蒸留ボトムの抜き出し速度は適宜調整した。
濃縮培地の組成は以下である。(濃縮培地1リットルあたりの量)
1.D−グルコース:438g
2.酵母エキス:12.5g
3.KHPO:1.37g
4.KHPO:1.37g
5.酢酸アンモニウム:10.1g
6.MgSO・7HO:0.6g
7.MnSO・HO:0.1g
8.FeSO・7HO:0.13g
9.NaCl:0.13g
【0062】
・蒸留2nd(軽沸除去)工程
蒸留1st(濃縮)工程で取得した留出液は、一度クッションタンク内にためる事で、下記のフィード組成に平均化させた。前記の通り平均化させた蒸留1st工程の留出液を、80℃に加熱して、蒸留塔2ndにフィードした。下記の条件にて蒸留を行い、塔頂部に主にアセトン、エタノールを留出させ、塔底部よりブタノール、水を取得した。取得した塔底液は、2相を形成していたため、その油相を取得した。結果、塔底液油相を1.3kg取得した。各液組成を表4に示す。
蒸留装置
蒸留塔内径:32φ
充填材:スルザーラボパッキン DX
理論段数:17段
ボトム容量:2L
運転条件
圧力:0.1MPa
還流比:5
フィード流速:18g/分
留出速度:3g/分
塔底温度:94℃
フィード液組成:
ブタノール(BuOH) 30質量%、
アセトン 12質量%、
エタノール(EtOH) 0.6質量%
【0063】
【表4】

【0064】
・脱水工程
蒸留2nd工程で取得した塔底液油相300gを500mlのフラスコに入れた。上記の液(塔底液油相の液)に長さ4cm、有効膜面積11cmの三井造船社製親水性ゼオライト膜を入れて、浸透気化法により脱水を行った。フラスコ内は還流条件で脱水を行い、内温95〜116℃の間で行った。浸透気化法であるため、透過側を減圧に引く必要があるが、透過側の圧力を2.7kPaで脱水した。結果、BuOH濃度99%の液を231g取得した(回収率97%)。
【0065】
(実施例2)
本培養(本培養−バッチ培養)時に、前培養液を800ml接種する以外は、実施例1と同様に行った。蒸留フィード液中濃度の分析結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
パージ・ボトム循環工程時に、パージ量を0.59kg/時間、ボトムリサイクル量を
5.3kg/時間、濃縮培地フィード量を0.7kg/時間にする以外は、実施例1と同様に行った。蒸留フィード液中濃度の分析結果を表1に示す。
【0067】
(比較例1)
除タンパク工程なしでの連続培養実験
除タンパク工程を実施しない以外は、実施例1と同様にして、ブタノール生産を試みた。
結果、蒸留1st(濃縮)工程開始から24時間で蒸留塔が閉塞した。蒸留フィード液中濃度の分析結果を表1に示す。
【0068】
(比較例2)
グルコース濃度を55g/Lに制御した連続培養実験
濃縮培地に加え、更に濃縮培地とは別の高濃度グルコース溶液を発酵槽へフィードし、発酵槽のグルコース濃度を55g/Lになるように調整しながら培養を実施した以外は、実施例1と同様にしてブタノールの生産を試みた。
結果、蒸留1st(濃縮)工程開始から2時間で蒸留塔が閉塞した。蒸留フィード液中濃度の分析結果を表1に示す。
【0069】
実施例及び比較例の結果から、以下のことがわかった。
発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法において、発酵によって原料からブタノール含有溶液を調製し、そのブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する方法により行う場合、ブタノールを回収するために行われる蒸留操作を、ブタノール含有溶液の糖濃度を50g/Lより高くして行ったり、タンパク質濃度を85mg/Lより高くして行ったりすると、蒸留を実施している途中で蒸留塔が閉塞してしまい、蒸留を連続的に安定運転することができなかった。それに対して、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下として蒸留操作を行うことにより、蒸留の途中で蒸留塔が閉塞することなく、蒸留を連続的に安定運転することができることが確認された。なお、実施例1に加えて、実施例2においては、本培養に入る前のバッチ培養時に接種させる前培養液量を増やしたことで、連続培養時の菌体濃度が高められ、それによって発酵活性が高められている。菌体濃度増加に伴い、タンパク質の濃度が高まっているが、蒸留連続運転中、タンパク質濃度が85mg/Lを超えてはいない。また、実施例3においては、パージ、ボトム循環工程にて加える濃縮培地の量を増やすことで、発酵液中のグルコース濃度が向上され、それによって発酵活性が高められている。発酵液中グルコース濃度が高いので、蒸留フィード液中糖濃度が高くなっているが、蒸留連続運転中、糖濃度が50g/Lを超えてはいない。これらの実施例は、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度及びタンパク質濃度を上記特定値以下とすれば、本発明の効果を奏することを実証的に裏付けるものである。
ところで、本発明の課題の一つであるバイオアルコール回収効率の低下は、プラントレベルの蒸留装置でのリボイラー汚れによる伝熱係数低下に起因することになるが、これを数値的に比較するには、蒸留停止時に蒸留塔のボトムに析出した固形分の量(蒸留後塔底部析出物量)を比較すればよい。それによって、間接的に効率低下の度合いを比較することができる。それを示したのが表3であり、このデータからも、実施例1−3の方が比較例1−2よりもバイオアルコール回収効率が際立って優れていることがわかる。また、実施例の中では、実施例1、2、3の順で析出物量が少なくなっている。
【0070】
上記実施例においては、発酵によるブタノール製造における、発酵工程から脱水工程までの一連のプロセスに関して、特定のプロセスを実施した例が示されているが、蒸留を連続的に安定運転することができるかどうかは、蒸留操作に供するブタノール含有溶液の糖濃度及びタンパク質濃度に依っているということは全ての形態において同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができると言える。
【符号の説明】
【0071】
1:原料
2:発酵槽
3:精密濾過膜
4:除タンパク槽
5:フィルター
6:逆浸透膜
7:蒸留塔1
8:蒸留塔2
9:エタノール
10:親水性膜
11:ブタノール
12:水
A:発酵
B:菌体分離
C:除タンパク
D:逆浸透膜濃縮
E:蒸留濃縮
F:軽沸除去
G:相分離
H:脱水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵により糖質を含む原料からアルコールを製造する方法であって、
該製造方法は、原料からブタノール含有溶液を調製し、該ブタノール含有溶液から蒸留によりブタノールを回収する工程を含み、
該回収工程における蒸留は、蒸留操作に供されるブタノール含有溶液の糖濃度を50g/L以下とし、かつ、タンパク質濃度を85mg/L以下として行われることを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記蒸留操作は、多段蒸留によって行われることを特徴とする請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、発酵によりアルコール成分、若しくは、アルコール成分及びケトン成分を生成し、
前記蒸留操作は、蒸留濃縮操作及び軽沸除去操作を含み、該蒸留濃縮操作によってアルコール成分、若しくは、アルコール成分及びケトン成分を濃縮し、該軽沸除去操作によってブタノール以外のアルコール成分、若しくは、ブタノール以外のアルコール成分及びケトン成分を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記蒸留操作は、0.05〜0.3MPaの圧力で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記蒸留操作は、80〜150℃の蒸留温度で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記製造方法は、発酵に用いる菌体とブタノール含有溶液とを分離し、菌体に対して原料を連続的に供給しながら行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、原料からブタノール含有溶液を調製した後、逆浸透膜によるブタノール含有溶液の濃縮操作、蒸留操作及び脱水操作がこの順に行われることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアルコールの製造方法。

【図1】
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