説明

アルシンの分析方法

【課題】大気中の各種ガス成分の影響を排除してアルシンをパルス放電型検出器で確実に分析することができるアルシンの分析方法を提供する。
【解決手段】試料ガスを脱水剤に接触させて試料ガス中の水分を除去し、分離カラムで試料ガス中のアルシンを含む分析用ガスと他のガス成分とを分離し、分離した分析用ガスと共に、準安定状態を有する原子からなる第1のガスと、該第1のガスよりイオン化ポテンシャルの低い原子からなる第2のガスとをパルス放電型検出器の放電室に供給し、準安定状態に励起された前記第1のガスが前記第2のガスをイオン化して形成されたプラズマを用いて前記分析用ガス中のアルシンをイオン化し、該イオン化したアルシンのイオン強度を測定することにより、前記試料ガス中のアルシンの濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルシンの分析方法に関し、詳しくは、大気中に微量に存在するアルシンを分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルシンを原料として使用する半導体製造設備では、設備周辺の大気中にアルシンが漏洩していないことを確認する必要があることから、大気をサンプリングして各種分析装置によりアルシンを分析している(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−34616号公報
【特許文献2】特開2004−354332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の分析装置では高感度でアルシンを分析することが困難であり、検出器としてパルス放電型検出器を用いることによって感度を向上させることは可能であるが、大気中の各種ガス成分がアルシンと重なって検出されることがあるため、大気中のアルシンを高感度で分析することはできなかった。
【0005】
そこで本発明は、大気中の各種ガス成分の影響を排除することにより、大気中のアルシンをパルス放電型検出器によって高感度に分析することができるアルシンの分析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のアルシンの分析方法は、試料ガス中のアルシンを分析する方法であって、前記試料ガスを脱水剤に接触させて試料ガス中の水分を除去し、分離カラムで試料ガス中のアルシンを含む分析用ガスと他のガス成分とを分離し、分離した分析用ガスと共に、準安定状態を有する原子からなる第1のガスと、該第1のガスよりイオン化ポテンシャルの低い原子からなる第2のガスとをパルス放電型検出器の放電室に供給し、準安定状態に励起された前記第1のガスが前記第2のガスをイオン化して形成されたプラズマを用いて前記分析用ガス中のアルシンをイオン化し、該イオン化したアルシンのイオン強度を測定することにより、前記試料ガス中のアルシンの濃度を求めることを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明のアルシンの分析方法は、前記第1のガスがヘリウムであること、前記第2のガスがアルゴン又はクリプトンであること、前記脱水剤が五酸化リンであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルシンの分析方法によれば、試料ガス中の各種ガス成分に影響されることなく、アルシンを高感度で確実に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のアルシンの分析方法を実施するための分析装置の一例を示す説明図である。
【図2】大気成分の影響を受けたときのピーク強度の一例を示す図である。
【図3】大気成分の影響を排除したときのピーク強度の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本形態例に示す分析装置は、試料ガス(SG)に含まれるアルシンを分析するものであって、パルス放電型検出器10で分析を行う前に、試料ガス中に含まれるアルシン以外の成分、例えば、試料ガスが大気の場合は、大気中の水分を除去したり、大気中の主成分である窒素を分離したり、分析対象成分であるアルシンを濃縮したりする前処理を行うようにしている。
【0011】
分析装置における前処理部には、試料ガス導入経路11から試料ガスが導入され、キャリアガス導入経路12からキャリアガス(CG)が導入されるとともに、パルス放電型検出器10には、放電ガス経路13から放電用ガス(PG)が導入される。
【0012】
試料ガス導入経路11から導入される試料ガスは、水分除去器14に充填された脱水剤、例えば五酸化リンによって試料ガス中の水分を除去され、計量管15で計量され、濃縮管16で濃縮された後、プレカットカラム17でアルシンを含む分析用ガスと他のガス成分とに分離され、さらに、メインカラム18で前記分析用ガス中のガス成分が単成分に分離された後、パルス放電型検出器10の放電室に導入される。試料ガス導入経路11、キャリアガス導入経路12、計量管15、濃縮管16、プレカットカラム17及びメインカラム18は、流路抵抗調整用のダミーカラム19,20を含めて、一つの六方切替弁21と二つの四方切替弁22,23を介して接続されている。
【0013】
まず、各切替弁21,22,23が、図1に実線で示す経路に切り替えられている状態で試料ガス及びキャリアガスを導入すると、水分除去器14で水分を除去された試料ガスは、試料ガス導入経路11から六方切替弁21を通って前記計量管15を通過し、六方切替弁21に戻ってから第1排気経路24に排出される。キャリアガス導入経路12から導入されたキャリアガスの一部(第1キャリアガス)は、第1キャリアガス経路25から六方切替弁21を通り、更に、第1四方切替弁22を通ってプレカットカラム17に導入される。
【0014】
プレカットカラム17から導出された第1キャリアガスは、第2四方切替弁23を通り、第1ダミーカラム19を通って第2排気経路26に排出される。また、キャリアガス導入経路12から導入されたキャリアガスの残部(第2キャリアガス)は、第2キャリアガス経路27から第2ダミーカラム20を経て第2四方切替弁23を通り、メインカラム18を通過してパルス放電型検出器10に導入され、パルス放電型検出器10から第3排気経路28に排出される。
【0015】
この状態で六方切替弁21及び第1四方切替弁22を図1に破線で示す経路に切り替えると、試料ガスは、六方切替弁21を通ってそのまま第1排気経路24に排出され、計量管15内に満たされた一定量の試料ガスは、第1キャリアガス経路25から六方切替弁21を通って計量管15に導入される第1キャリアガスに押し出され、第1キャリアガスに同伴された状態で計量管15から六方切替弁21を通り、更に、第1四方切替弁22を通って濃縮管16に導入される。濃縮管16では、所定温度に冷却された充填剤に試料ガスが吸着することによって試料ガスの濃縮が行われる。濃縮管16内の低温の充填剤に吸着しない第1キャリアガスは、濃縮管16から導出され、第1四方切替弁22、プレカットカラム17、第2四方切替弁23、第1ダミーカラム19、第2排気経路26を通って排出される。
【0016】
上述の六方切替弁21及び第1四方切替弁22の切り替えを複数回繰り返し、計量管15で複数回計量した試料ガスを濃縮管16に濃縮させた後、濃縮管16の充填剤を所定温度に加熱して吸着していた試料ガスを充填剤から脱着させて第1キャリアガスに同伴させ、プレカットカラム17に導入して試料ガス中の主成分、例えば大気中の窒素をプレカットすることにより、分析対象であるアルシンを更に濃縮した状態とする。プレカットカラム17からアルシンが流出するタイミングで第2四方切替弁23を図1における破線側に切り替え、プレカット後のガスをメインカラム18に導入し、メインカラム18でアルシンを単成分に分離した分析用ガスをパルス放電型検出器10に導入する。
【0017】
パルス放電型検出器10に放電ガス経路13から導入される放電用ガス(PG)は、準安定状態を有する原子からなる第1のガス、例えばヘリウムと、該準安定状態を有する原子よりイオン化ポテンシャルの低い第2のガス、例えば前記ヘリウムに対してはアルゴン又はクリプトンを含むガスが導入され、前記第1のガスがドーパントガスとなり、前記第2のガスが放電時のペニングガスとして機能する。このように、放電用ガスとしてペニングガスを含むガスを使用して放電を行うことにより、準安定状態に励起されたヘリウムがクリプトンをイオン化して形成されたプラズマで前記分析用ガス中のアルシンをイオン化することができ、いわゆるペニング効果によって低い電圧で放電が起きることから、他の成分ガスのイオン化を抑えてアルシンのみを確実にイオン化させることができる。
【0018】
すなわち、水分除去器14で試料ガス中の水分を除去し、計量管15及び濃縮管16を使用して試料ガス中のアルシンを濃縮し、プレカットカラム17及びメインカラム18にてアルシンを単成分に分離し、さらに、パルス放電型検出器10の放電室に、例えばヘリウムとクリプトンとを導入して低電圧で放電させることにより、試料ガス中の各成分ガスの影響を排除してアルシンを正確に分析することができる。
【0019】
例えば、パルス放電型検出器10にペニングガスとなるクリプトンを導入せずに放電ガスとしてヘリウムのみを導入した状態で、窒素ガスに微量のアルシンを添加した試験ガスAをパルス放電型検出器10に導入した場合は、図2の線Aに示すように、窒素の影響を受けずにアルシンのピークを確実にとらえることができるが、大気からなる試験ガスBをパルス放電型検出器10に導入した場合は、図2の線Bに示すように、水分や酸素などの大気成分のピークが極めて大きくなり、アルシンのピークを判別することは不可能である。
【0020】
また、前処理として、水分除去器14による水分除去、計量管15及び濃縮管16による濃縮、プレカットカラム17及びメインカラム18による分離を行った大気からなる試験ガスCをパルス放電型検出器10に導入した場合は、図2の線Cに示すように、大気成分の影響、特に水分の影響は排除できるが、カラムからの溶出時間がアルシンと同程度の酸素のピークがアルシンのピークと重なって現れるため、アルシンを正確に分析することは困難である。
【0021】
一方、ペニングガスとなるクリプトンを添加したヘリウムをパルス放電型検出器10に導入した状態では、大気からなる前記試験ガスBの場合は、図3の線Bpに示すように、ペニング効果による放電電圧の低下から、前述の図2における線Bよりも大気成分由来のピークは小さくなるものの、アルシンのピークを判別することは不可能であるが、前記前処理を施した大気(試験ガスC)の場合は、図3の線Cpに示すように、水分の影響を排除できるだけでなく、ペニング効果による放電電圧の低下によって酸素のイオン化を抑えることができるため、酸素のピークが生じていないことが分かる。
【0022】
したがって、大気にアルシンを添加した試験ガスDについて前記前処理、すなわち、水分除去器14による水分除去、計量管15及び濃縮管16による濃縮、プレカットカラム17及びメインカラム18によるアルシンの分離を行った後、ペニングガスとなるクリプトンを混合したヘリウムを放電室に導入した状態のパルス放電型検出器10に導入した場合は、図3の線Dに示すように、水分や酸素の影響を排除して大気中に存在するアルシンのピークを確実に捉えることができる。これにより、大気中のアルシンを確実に高感度で分析することができ、アルシンを使用する設備の周辺大気中におけるアルシンの濃度を確実に測定することが可能となり、0.5ppb程度のアルシンも確実に分析することができる。
【0023】
なお、キャリアガスは、アルシンの分析に悪影響を与えなければ任意のガスを使用することが可能であり、濃縮管や各カラムに充填する充填剤や分離剤も、アルシンの濃縮やアルシンの分離を行えるものを任意に選択することができる。脱水剤は、五酸化リンを使用することによって大気中の水分を確実に除去することができるが、試料ガス中の水分を除去できれば適宜な脱水剤を用いることが可能である。また、ドーパントガスやペニングガスとなる各ガスも任意であるが、通常は、ドーパントガスにはヘリウム、ペニングガスにはアルゴン又はクリプトンを使用することが好ましく、ドーパントガスとペニングガスとの混合割合は、使用する機器の条件等に応じて適宜設定することができる。また、キャリアガスとしてヘリウムを使用したときには、アルゴン又はクリプトンのみを放電室に導入することもできる。また、大気中のアルシンだけではなく、水分及び酸素を含有する各種ガス中のアルシンを分析する際にも有効である。
【符号の説明】
【0024】
10…パルス放電型検出器、11…試料ガス導入経路、12…キャリアガス導入経路、13…放電ガス経路、14…水分除去器、15…計量管、16…濃縮管、17…プレカットカラム、18…メインカラム、19,20…ダミーカラム、21…六方切替弁、22,23…四方切替弁、24…第1排気経路、25…第1キャリアガス経路、26…第2排気経路、27…第2キャリアガス経路、28…第3排気経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中のアルシンを分析する方法であって、前記試料ガスを脱水剤に接触させて試料ガス中の水分を除去し、分離カラムで試料ガス中のアルシンを含む分析用ガスと他のガス成分とを分離し、分離した分析用ガスと共に、準安定状態を有する原子からなる第1のガスと、該第1のガスよりイオン化ポテンシャルの低い原子からなる第2のガスとをパルス放電型検出器の放電室に供給し、準安定状態に励起された前記第1のガスが前記第2のガスをイオン化して形成されたプラズマを用いて前記分析用ガス中のアルシンをイオン化し、該イオン化したアルシンのイオン強度を測定することにより、前記試料ガス中のアルシンの濃度を求めるアルシンの分析方法。
【請求項2】
前記第1のガスがヘリウムである請求項1記載のアルシンの分析方法。
【請求項3】
前記第2のガスがアルゴン又はクリプトンである請求項1又は2記載のアルシンの分析方法。
【請求項4】
前記脱水剤が五酸化リンである請求項1乃至3のいずれか1項記載のアルシンの分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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