説明

アルデヒド代謝促進剤

【課題】飲酒による弊害を予防または抑制し得る、アルデヒド代謝促進剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分として含む、アルデヒド代謝促進剤を提供する。上記焙煎植物繊維物質は、好ましくは、焙煎脱脂大豆または焙煎脱脂米糠である。本発明はさらに、上記アルデヒド代謝促進剤を含有する経口投与または摂取用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド代謝促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の摂取は、過度の緊張の解消、疲労感の軽減、会話の円滑化などをもたらす。しかし、過剰摂取は、悪酔い、二日酔い、急性アルコール中毒などの弊害につながり得る。このようなアルコール飲料の摂取による弊害は、体内に残留するアルコール(エタノール)およびその代謝物のアセトアルデヒドの作用が関係していると考えられている。
【0003】
上記のような弊害の予防または抑制のために、体内のエタノールおよびアセトアルデヒドの残留を低下させる試みがなされている。例えば、飲酒による二日酔い予防のためのウコンの摂取がポピュラーになってきている。また、L−アラニンおよび人工甘味料を主成分とする二日酔予防治療剤(特許文献1)、グリシルグリシンを有効成分とするアルコール吸収抑制剤(特許文献2)、カテキン類を主成分とする茶抽出物による体内アルコールおよびアルコール代謝物の低下促進剤(特許文献3)、キシリトールなどの糖アルコールを有効成分とする悪酔い予防剤(特許文献4)などが提案されている。
【0004】
ところで、植物繊維物質の焙煎物を熱水で抽出し、さらに有機溶媒で抽出することにより得られるエキスには、肝機能の低下を改善する作用があることが報告されている(特許文献5)。特許文献5には、過剰な活性酸素による肝臓の損傷によって肝機能が低下することが記載され、活性酸素の大量発生の一因として飲酒が挙げられている。しかし、上記エキスが飲酒後の体内のエタノールおよびその代謝物の濃度の低下に及ぼす影響については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−207232号公報
【特許文献2】特開平3−127739号公報
【特許文献3】特開平6−263648号公報
【特許文献4】特開2001−199880号公報
【特許文献5】特開2008−115087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、二日酔いなどの飲酒による弊害を予防または抑制し得る、アルデヒド代謝促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が優れたアルデヒド代謝促進効果を有することを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分として含む、アルデヒド代謝促進剤を提供する。
【0009】
1つの実施態様では、上記焙煎植物繊維物質は、焙煎脱脂大豆または焙煎脱脂米糠である。
【0010】
本発明はさらに、上記アルデヒド代謝促進剤を含有する経口投与または摂取用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二日酔いなどの飲酒による弊害を予防または抑制し得る、アルデヒド代謝促進剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアルデヒド代謝促進剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分として含む。本明細書中で「アルデヒド代謝促進」とは、体内に摂取されたエタノールが代謝されて生成したアセトアルデヒドからさらに酢酸への代謝(体内におけるアルデヒド代謝)を促進し得ることをいう。本発明においては、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が、飲酒後の体内におけるアルデヒド代謝を促進することを見出した点に特徴がある。本発明は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物の新規な用途を提供するものである。
【0013】
(焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物)
本発明に用いられる「焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物」(以下、単に「有機溶媒抽出物」という場合がある)は、植物繊維物質の焙煎物を熱水で抽出し、濾過し、必要に応じて濃縮および乾燥することによって得られる「焙煎植物繊維物質熱水抽出エキス」(以下、単に「抽出エキス」という場合がある)を、さらに有機溶媒で抽出することによって得られる。
【0014】
原料の植物繊維物質としては、大豆、米糠、ふすま、小麦、米、茶葉などが挙げられる。これらの植物繊維物質は予め脱脂しておくことが好ましい。好ましくは脱脂大豆および脱脂米糠である。
【0015】
上記焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスは、例えば、以下のようにして調製される。まず、脱脂大豆、脱脂米糠などを約170℃〜約230℃にて約5分間〜約1時間焙煎する(浅炒り)。次いで、得られた焙煎物に対して約10倍量〜約20倍量の水を加えて約5分間〜約80分間沸騰させた後、濾過して濾液(抽出エキス)を回収する。抽出エキスとしては、この濾液をさらに、例えば質量比で約0.1倍量〜約0.3倍量になるまで濃縮した濃縮液、あるいはこれらの濾液および濃縮液を水分含量が約4質量%以下になるまで乾燥した乾燥物も好適に用いることができる。乾燥法としては、公知の任意の方法が用いられ得るが、例えば、風乾法、加熱乾燥法、スプレードライ法、凍結乾燥法などが挙げられる。例えば、抽出エキスに賦型剤(例えば、デキストリン)を添加し、これをスプレードライ法などにより乾燥する。
【0016】
次いで、抽出エキスを、さらに有機溶媒で抽出する。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類、ベンゼン、クロロホルム、n−ヘキサン、および四塩化炭素が挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類である。有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
有機溶媒による抽出は、例えば、上記抽出エキス(例えば、スプレードライ品)に、抽出エキスの約5倍量〜約10倍量の95%エタノールを加えて約30分間〜約3時間、好ましくは約2時間沸騰させながら行われる。その後、濾過して濾液を回収することによって焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物が得られる。上記濾液中のエタノールを減圧下で除去した後、再度エタノールを加えて、固形分濃度を調整した濃縮物を有機溶媒抽出物として用いてもよい。なお、上記有機溶媒による抽出は複数回行ってもよい。
【0018】
(アルデヒド代謝促進剤)
本発明のアルデヒド代謝促進剤は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分として含有する。焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物の含有量は特に制限されない。
【0019】
上記焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物はそのまま、本発明のアルデヒド代謝促進剤の有効成分として用いることができる。あるいは、さらに乾燥手段、粉砕手段などの処理に供したものを用いてもよい。乾燥法は上記の通りである。粉砕法は、例えば、粉砕機や摩砕機を使用して微粉末化または微粒化するなどの手段を含む。
【0020】
本発明のアルデヒド代謝促進剤は、有効成分として、単独の植物に由来する成分、または複数の異なる植物に由来する成分の混合物を含有し得る。好ましくは、脱脂米糠の焙煎物の熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物(以下、単に「焙煎米糠抽出物」という場合がある)、または脱脂大豆の焙煎物の熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物(以下、単に「焙煎大豆抽出物」という場合がある)が有効成分として用いられ得る。焙煎米糠抽出物および焙煎大豆抽出物の混合物もまた用いられ得る。
【0021】
本発明では、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物として、市販の食品添加物も用いられ得る。例えば、焙煎米糠抽出物および焙煎大豆抽出物については、食品添加物として入手可能であり(例えば、奥野製薬工業株式会社製の製品:商品名「デスミーRパウダー」、「デスミーNパウダー」、「デスミーP50」など)、これらもまた、本発明に用いられ得る。
【0022】
(アルデヒド代謝促進剤を含有する経口投与または摂取用組成物)
本発明のアルデヒド代謝促進剤は、単独で、または種々の成分と混合して、経口投与または摂取用組成物に調製され得る。本発明のアルデヒド代謝促進剤またはこれを含有する経口投与または摂取用の組成物は、医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、栄養補助食品、その他の飲食品など(以下、これらをまとめて単に「医薬品または食品」という場合がある)として利用される。
【0023】
本発明のアルデヒド代謝促進剤は、医薬品または食品の調製に当業者が通常用い得る種々の成分と組み合わせられ得る。このような成分としては、例えば、賦形剤、希釈剤、充填剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、保存剤、着色剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、溶解補助剤、食品添加物、栄養補助剤、調味料などが挙げられる。
【0024】
経口投与または摂取用組成物には、本発明のアルデヒド代謝促進剤に加えて、他の有効成分、例えば胃粘膜保護剤、アルデヒド分解促進剤(ウコン・アミノ酸)、その他各種生薬類(カキの葉エキス、牡蠣エキスなど)などを併用することもできる。
【0025】
経口投与または摂取用組成物は、医薬品または食品のいずれとしても、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤(液剤)などの経口投与可能な剤型に調製され得る。散剤、顆粒剤または錠剤は、例えば、有効成分である有機溶媒抽出物と、賦形剤(ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、滑石、アラビアゴムなど)とを混合して、必要に応じて造粒または打錠にて成形されて、調製される。カプセル剤は、例えば、有効成分である有機溶媒抽出物と、不活性な充填剤または希釈剤(蒸留水、生理食塩水など)との混合物をカプセル(硬ゼラチンカプセル、軟カプセルなど)に充填して調製される。液剤は、例えば、有効成分である有機溶媒抽出物を、上記希釈剤に希釈して調製される。
【0026】
本発明のアルデヒド代謝促進剤を経口投与または摂取用組成物に調製する場合、該組成物中の有効成分(有機溶媒抽出物)の含有量は、配合される製品の種類または剤形、投与または摂取の対象の年齢、性別、体重、状態、投与または摂取の方法、時期、時間などに応じて適宜設定され得る。好ましくは、組成物中に有効成分(有機溶媒抽出物)を1質量%以上、より好ましくは、3〜50質量%含有する。
【0027】
経口投与または摂取用組成物は、種々の加工食品および食品原料に配合して利用され得る。上記食品形態としては、特に限定されず、例えば、菓子類(キャンデー、タブレット、ガムなど)、飲料類(ジュース、茶、乳飲料など)などが挙げられる。食品中の有効成分(有機溶媒抽出物)の含有量は、上記と同様に、配合される製品の種類または剤形などに応じて適宜設定され得る。好ましくは、食品中に有効成分(有機溶媒抽出物)を約0.1〜約30質量%、より好ましくは1質量%前後を含有する。
【0028】
経口投与または摂取用組成物は、飲酒前に服用して使用され得る。投与または摂取量(服用量)は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物として、成人体重1kg当り10〜2000mg、好ましくは200〜1000mgの範囲とし得る。服用は、飲酒の有無に関わらず、日常で定期的(例えば、1日1回)に行ってもよい。
【0029】
本発明によれば、その有効成分の焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物の作用により、飲酒後の血中のエタノールおよびその代謝物(特にアセトアルデヒド)の濃度の低下が促進され、二日酔いなどの飲酒による弊害を予防または抑制し得る。焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物は、安全性が高く、口当たりがよく、服用しやすい。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(実施例1:焙煎脱脂米糠熱水抽出エキスのエタノール抽出物の調製)
精米時に得られた米糠から米油を常法に従ってヘキサンで抽出し、脱脂米糠を得た。脱脂米糠100質量部を、ロータリー回転させながら約170℃にて40分間焙煎(浅炒り)した。得られた焙煎物を、該焙煎物の10倍量の水中に入れた後、加熱して約40分間沸騰させた(全加熱時間60分間〜90分間)。その後、濾過して濾物を除去し、脱脂米糠熱水抽出エキスを得た。この抽出エキスを質量比で0.2倍量になるまで減圧下で濃縮し、次いでスプレードライを用いて乾燥させた。得られた粉末の水分含量は4質量%以下であった。
【0032】
次いで、得られた乾燥物を、該乾燥物の10倍量の95%(v/v)エタノール水溶液を用いて60〜65℃にて2時間抽出した。その後、濾過して濾物を除去し、さらに減圧下で濃縮した。このようにして焙煎脱脂米糠熱水抽出エキスのエタノール抽出物を得た(これを単に「焙煎米糠抽出物」という)。この焙煎米糠抽出物の固形分含量および窒素含量について3回測定して平均値を算出したところ、固形分含量が76.5質量%であり、窒素含量が1.1%であった。なお、固形分含量は、蒸発皿を用いて100℃にて4時間乾燥して測定した。
【0033】
(実施例2:焙煎脱脂大豆熱水抽出エキスのエタノール抽出物の調製)
脱脂米糠の代わりに、脱脂大豆を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、焙煎脱脂大豆熱水抽出エキスのエタノール抽出物を得た(これを単に「焙煎大豆抽出物」という)。この脱脂大豆抽出物の固形分含量は76.5質量%、窒素含量は1.52%であった。
【0034】
(実施例3:焙煎米糠抽出物または焙煎大豆抽出物のアルデヒド代謝効果1)
24週齢のSDラット(日本チャールズ・リバー株式会社より入手)をコントロール群、焙煎米糠抽出物投与群、および焙煎大豆抽出物投与群に分けた(各3匹)。実施例1の焙煎米糠抽出物または実施例2の焙煎大豆抽出物を蒸留水に溶かし、固形分含量で1質量%含む水溶液を調製した。焙煎米糠抽出物投与群または焙煎大豆抽出物投与群では、1質量%焙煎米糠抽出物水溶液または1質量%焙煎大豆抽出物水溶液50mL/日(焙煎抽出物として0.5g/日)をラットに2週間にわたって自由摂取させた。コントロール群は、単に蒸留水をラットに自由摂取させた。焙煎抽出物水溶液を与えた日の18時よりラットを絶食させ、その翌日の10時に3.9mg/kg体重のエタノールを、注射器およびチューブを用いてラットに経口投与した(すなわち、体重50kg換算で195mL飲んだことになる)。エタノール投与の5時間後にラットの下大動脈から採血を行った。採血後、遠心分離により血清を採取した。
【0035】
採取した血清中のエタノール、アセトアルデヒド、および酢酸の濃度を以下のように測定した:
(測定条件)
エタノール、アセトアルデヒド:ガスクロマトグラフィー(GC)測定
カラム:DB−5MS 内径0.32mm×長さ30m
(アジレント・テクノロジー株式会社製)
窒素圧 60kPa スプリット比 30.0
温度60℃(11分間) − 50℃/分上昇 −160℃(5分間)
検出器:FID 温度250℃ 注入量4μL
各血清は、ポアサイズ0.45μmのフィルターに通し使用
酢酸:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定
カラム:CHEMCOSORB 5C8−U 内径4.6mm×長さ250m
(株式会社ケムコ製)
移動相:5mM NHPO(pH3.0)by HPO
温度27℃
流量0.8mL/分
検出器:UV 210nm 注入量10μL
各血清は移動相により10倍希釈し、ポアサイズ0.45μmのフィルターに通し使用
【0036】
血清中のエタノール、アセトアルデヒド、および酢酸の濃度を表1に示す(ピーク面積の平均値から計算)。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より明らかなように、焙煎米糠抽出物投与群および焙煎大豆抽出物投与群では、血中のエタノールおよびアセトアルデヒドの濃度の減少に伴い、酢酸の濃度が増大した。
【0039】
(実施例4:焙煎米糠抽出物または焙煎大豆抽出物のアルデヒド代謝効果2)
18週齢のSDラットをコントロール群、焙煎米糠抽出物投与群、および焙煎大豆抽出物投与群に分けた(各3匹)。焙煎抽出物の水溶液の調製は上記実施例3と同様に行った。各群の水溶液の投与量が以下の通りであること以外は、焙煎抽出物の投与およびエタノールの投与は、上記実施例3と同様に行った。
【0040】
各群の水溶液投与量:
コントロール(蒸留水投与)群:1個体につき30.57mL/日(427.98mL/14日)
焙煎米糠抽出物投与群:1個体につき31.57mL/日(441.98mL/14日)
焙煎大豆抽出物投与群:1個体につき31.14mL/日(435.96mL/14日)
【0041】
各群の焙煎抽出物の投与量:
焙煎米糠抽出物投与群:1個体につき4.42mL/14日
焙煎大豆抽出物投与群:1個体につき4.36mL/14日
【0042】
上記の投与処理を行ったラットを前日(18時)より絶食させ、当日の10時にエタノールを、注射器およびチューブを用いてラットに経口投与し、15時〜16時に下大動脈から採血を行った。採血後、遠心分離により血清を採取した。当日のエタノール投与量は、ラット体重1kgあたり1mLであった(すなわち、体重50kg換算でエタノール50mLを飲んだこととなり、ビールを1000mL飲んだ場合と等価である)。実施例3と同様にして、血清中のエタノール、アセトアルデヒド、および酢酸の濃度を測定した。
【0043】
結果を表2に示す(ピーク面積の平均値から計算)。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より明らかなように、焙煎米糠抽出物投与群および焙煎大豆抽出物投与群では、血中のエタノールおよびアセトアルデヒドの濃度の減少に伴い、酢酸の濃度が増大した。血中のエタノールおよびアセトアルデヒドの濃度の減少ならびに酢酸の濃度の増大の割合は、実施例3とほぼ同様のものとなった。したがって、焙煎抽出物の繰り返し投与による効果が確認され、さらに再現性も確認されたと考えられる。
【0046】
(実施例5:焙煎米糠抽出物または焙煎大豆抽出物のアルデヒド代謝効果3)
焙煎抽出物の水溶液の調製、焙煎抽出物の投与およびエタノールの投与は、上記実施例4と同様に行った。但し、各群のラット数を6匹とした。
【0047】
上記の投与処理を行ったラットを前日(18時)より絶食させ、当日の10時にエタノールを、注射器およびチューブを用いてラットに経口投与した。当日のエタノール投与量は、ラット体重1kgあたり1mLであった。エタノールの投与時にジエチルエーテル吸入麻酔を行った。同日の15時〜16時にラットをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で灌流して脱血した。灌流脱血時に、ジエチルエーテル吸入および抱水クロラール腹腔注射麻酔を行い、脱血後の肝臓を採取した。
【0048】
肝臓をPBSで灌流して脱血し、細断した後、50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.6)、0.32Mマンニトールおよび0.01mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)中でホモジナイズした。この肝ホモジネートを1100gにて10分間遠心分画して上清を回収し、細胞質画分を得た。得られた細胞質画分は、酵素活性を測定するまで凍結保存した。
【0049】
細胞質画分のADHの活性測定は、エタノールを基質とし、NADを補酵素とし、30℃にて5分間反応を行い、生成するNADHに由来する340nmの吸光度(吸光度係数6220M−1cm−1)の上昇を測定することにより行った。具体的には、1.5mLセルに、0.75mLの100mMグリシン−NaOH(pH10.0)、0.15mLの0.1mMセミカルバジド−HCl、0.15mLの15mM KCl、および0.13mLの0.34mM 4−メチルピラゾールを入れて30℃にて5分間置いた後、0.15mLの0.24mM NAD、0.15mLの33mMエタノールおよび20μLの試料(細胞質画分)を入れ、30℃にて5分間、340nmの吸光度を測定し、吸光度係数6220M−1cm−1を用いてNADHの単位時間当たりの生成量を算出した。酵素活性は、上記条件下で、1分間に1μmolのNADHを生成し得る酵素量を1単位(ユニット)と定義した。
【0050】
ADHを測定するために解凍した試料を再度凍結し、翌日解凍して、ALDHの測定に用いた。細胞質画分のALDHの活性測定は、アセトアルデヒドを基質とし、NADを補酵素とし、30℃にて5分間反応を行い、生成するNADHに由来する340nmの吸光度(吸光度係数6220M−1cm−1)の上昇を測定することにより行った。具体的には、1.5mLセルに、0.30mLの33mMピロリン酸ナトリウム(pH9.6)、0.15mLの1.0mMピラゾール、1.5μLの3.0μMロテノン(エタノール溶媒)および0.73mLの水を入れて30℃にて5分間置いた後、0.15mLの1.7mM NAD、0.15mLの8.3mMアセトアルデヒドおよび20μLの試料(細胞質画分)を入れ、30℃にて5分間、340nmの吸光度を測定し、吸光度係数6220M−1cm−1を用いてNADHの単位時間当たりの生成量を算出した。酵素活性は、上記条件下で、1分間に1μmolのNADHを生成し得る酵素量を1単位(ユニット)と定義した。
【0051】
細胞質画分のタンパク質濃度は、ビシンコニン酸法(BCA法)にて測定した。ADHおよびALDHの活性は、タンパク質量当たりの活性を計算した。
【0052】
結果を表3に示す。表3中のADHおよびALDHの活性ならびにタンパク質濃度の結果はいずれも、n=6の平均値である。表3中のADHおよびALDHの活性の単位は、1gタンパク質当たりのユニット(「unit/g protein」)である。
【0053】
【表3】

【0054】
表3より明らかなように、焙煎米糠抽出物投与群および焙煎大豆抽出物投与群では、ADHおよびALDHともコントロール(蒸留水投与)群よりも活性が上昇した。ADHおよびALDHの活性の結果からも、これらの焙煎抽出物が、エタノールからアセトアルデヒドへの代謝およびアセトアルデヒドから酢酸への代謝を促進するのに有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のアルデヒド代謝促進剤は、その有効成分の焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物の作用により、飲酒後の血中のエタノールおよびその代謝物(特にアセトアルデヒド)の濃度の低下を促進し、二日酔いなどの飲酒による弊害の予防または抑制に有効な医薬品または食品の開発につながる。このような医薬品または食品は、焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を利用するため、安全性が高く、口当たりがよく、服用しやすいという利点もまた有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎植物繊維物質熱水抽出エキスの有機溶媒抽出物を有効成分として含む、アルデヒド代謝促進剤。
【請求項2】
前記焙煎植物繊維物質が、焙煎脱脂大豆または焙煎脱脂米糠である、請求項1に記載のアルデヒド代謝促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルデヒド代謝促進剤を含有する経口投与または摂取用組成物。

【公開番号】特開2012−6913(P2012−6913A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111463(P2011−111463)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】