説明

アンモニア分解素子

【課題】 (1)高い耐久性を有し、長期間にわたってメインテナンスフリーで、かつ低いランニングコストで稼動することができ、(2)小型の装置で、大きな処理能力と高い分解速度を有する、アンモニア分解素子を提供する。
【解決手段】 アンモニア分解素子10は、カソード3に接するカソード集電体7を備え、カソード集電体7が、連続気孔を持つ金属多孔体でなり、該金属多孔体が、ニッケルもしくはニッケル合金でなるか、またはニッケルもしくはニッケル合金の金属多孔体の表層が、(クロム(Cr)、アルミニウム(Al)銀(Ag)、金(Au)および白金(Pt))の少なくとも1種に富化されてなる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解素子であって、より具体的には、ガスを効率よく分解することができ、小型で維持管理が不要か、または容易なアンモニア分解素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは農業や工業に不可欠の化合物であるが、ヒトには有害であるので、水中や大気中のアンモニアを分解する方法が、多く開示されてきた。たとえば、高濃度のアンモニアを含む水からアンモニアを分解除去するために、噴霧状のアンモニア水を空気流と接触させて空気中にアンモニアを分離して、次亜臭素酸溶液または硫酸と接触させる方法が提案されている(特許文献1)。また、上記と同じプロセスで空気中にアンモニアを分離して触媒により燃焼させる方法の開示もなされている(特許文献2)。また、アンモニア含有排水を触媒を用いて分解して、窒素と水とに分解する方法が提案されている(特許文献3)。アンモニア分解反応を促進する触媒については、遷移金属成分を含む多孔質カーボン粒子、マンガン組成物、鉄−マンガン組成物(特許文献3)、クロム化合物、銅化合物、コバルト化合物(特許文献4)、アルミナ製3次元網状構造体に担持された白金(特許文献5)などが公表されている。上記の触媒を用いた化学反応によってアンモニアを分解する方法では、窒素酸化物NOxの生成を抑えることができる。さらに、触媒に二酸化マンガンを用いることによって、100℃以下で、より効率的にアンモニアの熱分解を促進する方法も提案されている(特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−31966号公報
【特許文献2】特開平7−116650号公報
【特許文献3】特開平11−347535号公報
【特許文献4】特開昭53−11185号公報
【特許文献5】特開昭54−10269号公報
【特許文献6】特開2006−231223号公報
【特許文献7】特開2006−175376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の中和剤などの薬液を用いる方法(特許文献1)、燃焼する方法(特許文献2)、触媒を用いた熱分解反応による方法(特許文献3〜7)などによれば、アンモニアの分解は可能である。しかし、上記の方法では、薬品や外部エネルギー(燃料)を必要とし、さらに触媒の定期的交換やメインテナンスを要し、ランニングコストが高いという問題がある。とくに構成部材について長期間にわたってメインテナンスフリーは許容されない。また、装置が大掛かりとなり、たとえば既存の設備に付加的に設ける場合に配置が難しい場合も生じる。わが国では、装置の小型化は能率を害さないかぎり、実用上、大きな利益をもたらす場合が多く、通例、高い評価を受ける。またアンモニアを燃焼する方法などでは、二酸化炭素、NOxを排出する問題も発生する。
【0005】
本発明は、(1)高い耐久性を有し、長期間にわたってメインテナンスフリーで、かつ低いランニングコストで稼動することができ、(2)小型の装置で、大きな処理能力と高い分解速度を有する、アンモニア分解素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアンモニア分解素子は、アンモニアを分解するための素子である。このアンモニア分解素子は、アンモニアまたはアンモニアを含む気体が導入される多孔質のアノードと、アノードと対をなし、酸素原子を含む気体が導入される多孔質のカソードと、アノードとカソードとに挟まれる、酸素イオン導電性を持つイオン導電材と、カソードに接するカソード集電体とを備える。そして、カソード集電体が、連続気孔を持つ金属多孔体でなり、該金属多孔体が、ニッケルもしくはニッケル合金でなるか、またはニッケルもしくはニッケル合金の表層が、(クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)および白金(Pt))の少なくとも1種に富化されてなる、ことを特徴とする。
【0007】
上記の素子では、カソードに酸素原子を含む気体を導入して、カソードにおいて酸素イオンを生成してイオン導電材にその酸素イオンを送る。イオン導電材における酸素イオンの拡散速度を高めるため、また各電極での電気化学反応を促進するため、高温に加熱する。このため、カソード集電体を含むカソード表面付近は、高温の酸化性雰囲気になる。上記の構成によれば、電気化学反応によって気体中のアンモニアを分解するとき、次の作用を得ることができる。
(E1)カソード集電体を金属多孔体で形成することで、アンモニアを含む気体を通しながら、当該気体の乱流状態を促進する。気体を層流にして通過させるよりも、乱流とすることで、当該気体がカソードに接する機会、時間等を長くして分解反応(電気化学反応)を促進することができる。これによって、カソード単位面積当たりの電気化学反応効率を高めることができる。
(E2)カソード集電体は金属多孔体なので、外部からのカソードへの電子の流入を確保して、アンモニア分解に伴う電荷授受を円滑化することができる。これによって、電子の授受が電気化学反応のネックになることを防止することができる。
(E3)金属多孔体を、ニッケル等により、またはクロム等の富化層を形成したものにより形成することで、文字通りニッケル並み、またはニッケルを超える耐高温腐食(酸化)性能を与えることができる。上記のアンモニア分解素子のカソード周辺は、たとえば600℃〜950℃の高温に加熱され、空気等の酸素原子を含む気体が流入して、カソードにおいて酸素イオンを生成する。このため、カソードおよびカソード集電体で、金属の高温酸化反応が進行し、実用上、耐久性(耐高温酸化性)が不足する場合が生じる。ニッケルは、めっき体や微粒子の作製が容易なため、連続気孔の金属多孔体を製造する上で、非常に好適な金属であり、かつ一定の耐高温酸化性能を備える。しかし、用途によっては耐高温酸化性能が不十分であり、そのような場合には、より耐高温酸化性能の良好な材料を用いる。金属多孔体を耐高温酸化性能に優れる材料で形成することで、カソード集電体の耐久性を向上させることができる。この結果、カソード集電体の取り換えや修理などのメインテナンスなしで、長期間にわたって安定してアンモニア分解素子を使用することができる。
ここで、ニッケル合金は、ニッケルをベースにして他の金属が含まれるニッケル基合金でもよいし、他の金属をベースにした他金属基の合金であってニッケルがそこに含まれるものであってもよい。また、カソードに導入される酸素原子を含む気体は、酸素原子を含む分子が含まれる気体をさし、空気、酸素ガス、NOx、水蒸気、二酸化炭素、またはこれら2種以上の混合気体をさす。
上記の金属多孔体は、最も広くは、(1)金属粒子または金属繊維の焼結体、(2)気孔連続化処理をされた発泡樹脂を用いて形成した金属めっき体、(3)パンチングメタルやエキスパンドメタルの様な機械加工式多孔体、が好ましく用いられる。またその他のどのようなものでもよい。
【0008】
上記の金属多孔体を、金属めっき体で形成することができる。金属めっき体で金属多孔体を形成することで、成形に際し空隙の狭小化をもたらす圧力付加を必要としない。これによって、(E1)の作用を確保しながら、金属粒子や金属繊維の焼結体に比較して、気孔率を高くでき、通気性が良く、圧力損失の小さいカソード集電体とすることができる。なお、上記の金属多孔体は、柱状の金属めっき体が連続する骨格をなしている場合が多い。
【0009】
上記の金属多孔体の気孔率を、0.6以上0.98以下とすることができる。これによって、非常に良好な通気性を得ることができる。気孔率が0.6未満では、圧力損失が大きくなり、ポンプ等による強制循環をするとエネルギー効率が低下し、またイオン導電材等に曲げ変形等を生じて好ましくない。圧力損失を低減し、イオン導電材の損傷を防止するために、気孔率は、0.8以上とするのがよく、更に好ましい範囲として0.9以上とする。一方、気孔率が0.98を超えると電気伝導性が低下して集電機能が低下する。
金属多孔体について、(1)孔径はSEM(Scanning Electric Microscopy:
走査型電子顕微鏡)観察により、(2)比表面積はBET表面積法により、(3)気孔率は表面積、体積および重量から、それぞれ求めた。
【0010】
ウレタンを用いて金属多孔体を作製した場合において、その金属多孔体の、孔径をx(mm)、比表面積をy(m/m)とするとき、400≦(x−0.3)y、を満たす構成をとることができる。これによって、上記(E1)の作用を得ながら、圧力損失の増大を防止することができる。圧力損失の増大をより厳しく防止するには、600≦(x−0.3)yとするのがよい。(x−0.3)yの上限は、とくに設ける必要はないが、(E2)の作用を確保するために、たとえば3000を上限とすることができる。なお、孔径と比表面積との積の双曲線における漸近線は、孔径の最小極限値0.3mmを表示する。この最小極限値0.3mmはウレタンを用いて金属多孔体を製作した場合の最小極限値である。ウレタンに代えて、メラミン樹脂を使うと最小極限値は50μm、すなわち0.05mmくらいとなる。メラミン樹脂を用いて製作した金属多孔体の範囲については、とくに限定はしないが、メラミン樹脂を用いて製作した金属多孔体も、構成要件が該当すれば本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。すなわち、メラミン樹脂を用いて製作した金属多孔体の、気孔率などの上記の構成要件が該当すれば、本発明の範囲に含まれる。
【0011】
アノード、イオン導電材、およびカソードが、一体化されたMEAの(アノード/イオン導電材/カソード)の形態とされ、カソード集電体は、シート状であり、カソードに接して積層され、酸素原子を含む気体の流路を形成することができる。これによって、(E1)の作用を確実にすることができ、かつ分解されずに素通りするアンモニアの比率を顕著に低下させることができる。また、シート状とすることで薄型のアンモニア分解素子シートを得ることができ、これを積層することで、コンパクトなアンモニア分解素子を得ることができる。なお、最終的な製品のアンモニア分解素子は、どのような形状でもよく、板状、板状のものを巻いた円柱状などの可能な形状をとることができる。
【0012】
上記のカソードを、イオン導電性セラミックスの焼結体、またはイオン導電性セラミックスと銀との焼結体とすることができる。これによって、電気化学反応中のカソード反応において、高い効率を確保することができる。
【0013】
カソードにおける上記の電気化学反応は、銀の触媒作用で促進されるが、酸素イオンのイオン導電材を移動する速度または移動時間で律速される場合が多い。酸素イオンの移動速度を大きくするために、上記のアンモニア分解素子は、加熱機器たとえばヒータを備え、高温、たとえば600℃〜950℃にするのが普通である。高温にすることで、イオン移動速度だけでなく、電極での電荷授受をともなう化学反応も促進される。
上記イオン導電材からアノードへと移動する酸素イオンは、カソードでの電気化学反応によって発生し、供給される。カソードに酸素原子を含む気体が導入され、カソードにおいて酸素原子を含む分子と、アノードで生成し回路を経てきた電子とが反応して酸素イオンが生成する。生成した酸素イオンは、イオン導電材中をアノードへと移動する。カソードでの反応に参加する電子は、アノードとカソードとを連絡する外部回路(蓄電器、電源、電力消費機器を含む)から入ってくる。上記素子における電気化学反応は、燃料電池の発電反応であってもよいし、または電気分解反応であってもよい。
【0014】
カソードが、銀粒子を含む場合には当該銀粒子が、カソード反応に対する触媒作用と、カソード反応の結果生じる電流に対して導電性とを有するため、全体の電気化学反応が促進され、小型の素子で、大きな処理能力を確保することができる。また、分解対象のアンモニアは、アノードに導入するが、中和剤などは不要であり、反応物を取り出す必要もないので、低いランニングコストで稼動することができる。
【0015】
上記のイオン導電材、アノードおよびカソードを加熱するヒータと、イオン導電材、アノードおよびカソードの温度を制御する温度制御システムとを備えることができる。実用化可能なアンモニア分解速度を得るために、イオン導電材における酸素イオンの拡散速度を一定以上とする必要があり、また、電極における反応速度も促進するので、高温に加熱する。通常、600℃〜950℃に加熱するためのヒータと、イオン導電材等の温度を制御するための温度制御システムを備える。
【0016】
アンモニアを酸素イオンにより分解する電気化学反応では、カソードの電位がアノードの電位より高くなり、カソードとアノードから電力の取り出しができるので、これを利用することができる。この場合、電力を他の電気装置に供給するための電力供給部品(配電用の配線、端子など)を備えることができる。
【0017】
取り出した電力をヒータ、および/または 前記温度制御システムに供給することができ、これによって、エネルギー効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアンモニア分解素子によれば、分解速度を高めるために高温に加熱しても、長期間にわたってメインテナンスフリーで、高耐久性であり、かつ低いランニングコストで稼動することができる。また高温に加熱して、アンモニア分解の電気化学反応を促進するので、小型の装置で、大きな処理能力と高い分解速度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアンモニア分解素子を示す断面図である。
【図2】図1のアンモニア分解素子を燃料電池(発電素子)にして、アンモニアを分解する状態を説明するための図である。
【図3】実施の形態1のアンモニア分解素子におけるカソード集電体およびカソードの特徴を説明するための図である。
【図4】実施の形態1のアンモニア分解素子のカソード集電体のめっき多孔体を製造する方法を説明するための図である。
【図5】めっき多孔体に合金化処理を施す方法の具体例を示す図であり、(a)はアルミナイジングを、(b)はクロマイジングを示す図である。
【図6】図4の方法で製造したNiめっき多孔体の比表面積と孔径との関係を示す図である。
【図7】実施の形態1のアンモニア分解素子におけるアノードの特徴を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態2におけるアンモニア分解素子(電気分解素子)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるアンモニア分解素子10を示す図である。このアンモニア分解素子10では、イオン導電性の電解質1をはさんで、アノード2と、カソード3とが、配置されている。アノード2の外側にはアノード集電体8が、また、カソード3の外側にはカソード集電体7が配置されている。アノード2は、表面酸化層を持つ金属粒連鎖体21とイオン導電性のセラミックス(金属酸化物)22とを主構成材とする焼結体であり、流体が流通できる多孔質体である。また、カソード3は、やはり流体が流通できる多孔質体であり、たとえばイオン導電性のセラミックス32と、銀(Ag)33とを主構成材とする焼結体とすることができる。アノード集電体8およびカソード集電体7は、ともに連続気孔を持つ金属多孔体とする。カソード集電体7を構成する材料については、あとで詳しく説明する。
電解質1は、固体酸化物、溶融炭酸塩、リン酸、固体高分子、電解液など、イオン導電性があれば何でもよい。電解質1の材料については、あとで具体的に説明する。このアンモニア分解素子10は、表1に示すように、燃料電池として発電させることもできるし、電気分解装置として電力投入して作動させることもできる。本実施の形態1では、図2に示すように、アンモニア分解素子10を燃料電池として用いる場合について説明する。これは表1におけるR1〜R3の電気化学反応の場合に対応する。その中でもとくに、アノード2にアンモニアを、カソード3に空気または酸素を導入する場合、すなわち表1のR1の電気化学反応を行う場合について説明する。燃料電池では、アノード2は燃料極、カソードは空気極と呼ばれることが多いが、本説明では、アノード2およびカソード3の用語を用いる。
【0021】
【表1】

【0022】
図2において、分解対象のガスは、アノード集電体8を流路としてアノード2に導入される。また酸素イオンを供給するための流体は、カソード集電体7を流路としてカソードに導入される。導入された流体は、カソード3またはアノード2で所定の反応をした後、カソード集電体7またはアノード集電体8を流路として外部に放出される。反応R1は、発電を伴う電気化学反応であり、アノード集電体8およびカソード集電体7から電力を取り出し、負荷に電力を供給することができる。負荷としては、アンモニア分解素子10に内蔵される、図示しない加熱装置、たとえばヒータとすることができる。
アンモニア分解素子10の場合、電解質1の酸素イオンの通過時間を短縮し、かつ各電極での電気化学反応速度も確保するために、要は全体の電気化学反応を促進するために、ヒータ等によって、たとえば600℃〜950℃に加熱される(それ以外の温度で用いてもかまわない)。上述のように、カソード3およびカソード集電体7には、酸素原子を含む酸化力の高い気体が導入される。600℃〜950℃の高温で酸化力の高い気体にさらされる金属は、特別な金属を除いて、当該気体によって酸化されてゆき、所定期間経過後に使用不能になる。カソード集電体が、使用不能になる形態は、酸化増量による目詰まり(通気性の低下、圧力損失の増大)、集電性能の低下、などである。カソードにおいても、高温酸化による同様の、通気性の低下、導電性の低下などが生じる。アノード集電体などのアノード側は還元性の気体が流通するので、高温酸化の問題は生じにくい。
【0023】
(本発明の実施の形態におけるポイント1−耐高温酸化性能−)
図3は、カソード3およびカソード集電体7を構成する材料の役割を説明するための図である。本発明の実施の形態のポイントは、アンモニア分解に電気化学反応を用い、その電気化学反応の促進を図りながら、その場合、必然的に生じる、カソード側3,7における高温酸化、とくにカソード集電体7の高温酸化に対して耐久性を持ち、維持管理が不要かまたは容易な材料とする点に特徴を持つ。カソード集電体7は、上記(E3)の作用を得るために、連続気孔を持つ多孔体を、ニッケルもしくはニッケル合金で形成するか、またはそのニッケルもしくはニッケル合金の表層が、(クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)および白金(Pt))の少なくとも1種によって富化されるようにする。これによって耐高温酸化性能(E3)が強化される。
本実施の形態におけるカソード3は、空隙3hのある多孔体であり、Ag粒子33と、酸素イオンを通すセラミックス32とで構成される。この中で、Ag粒子33は、カソード反応O+2e→2O2−を大きく促進させる触媒機能を有する。カソード集電体7は、600℃〜950℃を、たとえば低温域と高温域、または酸化力の強い雰囲気と弱い雰囲気に分けて次の材料で構成される。低温域および高温域の区別、または酸化力の強弱はそれほど明確に分ける必要はない。
(低温域または比較的酸化性の弱い雰囲気):
カソード集電体7は、連続気孔7hを持ち、骨格7aが導電部となるNi等の金属多孔体とする。Ni等の金属多孔体は、通気性と導電性とが確保されればどのようなものでもよい。ただし、その中でも、とくにNiめっきで形成された三角柱状の骨格が3次元に連なった連続気孔を持つ金属多孔体がよく、典型例として、たとえば住友電気工業(株)製のセルメット(登録商標)を用いることができる。製造方法については、このあと詳細に説明するが、発泡樹脂の気孔を連続化した後、金属めっきにより骨格部を形成することに起因して、金属粒や金属繊維の焼結体に比べて、通気性がよく、導電性も確保される。
カソード3は、酸素イオン導電性のセラミックス32と、銀(Ag)33と、を主成分とする焼結体とする。酸素イオン導電性のセラミックス32として、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)などを用いるのがよい。触媒の銀は、条件によっては含まなくてもよい。
(高温域または酸化性の強い雰囲気):
高温域または酸化性の強い雰囲気用のカソード集電体7については、金属多孔体にNiを用いた場合、ある程度高温になっても耐久性を持つことができる。しかし、Niによる多孔体の表層にCr等の富化層を形成するなどして、耐高温酸化性能を確実に向上させるのがよい。上述のように、ニッケルは、めっき体や微粒子の作製が容易なため、連続気孔の金属多孔体を製造する上で、非常に好適な金属であり、かつ一定の耐高温酸化性能を備える。しかし、このNiによる多孔体を土台にして、Cr等の耐高温酸化性能を向上させる合金元素を利用するのが、良好な通気性、長期間の耐久性、経済性の確保の点で、より得策である。
高温域または酸化性の強い雰囲気用のカソード3については、カソード3中の、酸素イオン導電性セラミックス32と、銀33とは、低温域用のものと同じである。
【0024】
(本発明の実施の形態におけるポイント2−アンモニア分解反応−)
アノード2に導入されたアンモニアは、2NH+3O2−→N+3HO+6eの反応(アノード反応)をする。反応後の流体であるN+3HOはアノード2およびアノード集電体8から放出される。また、カソード3に導入されたOは、O+2e→2O2−の反応(カソード反応)をする。カソード3で生成した酸素イオンは、カソード3中の酸素イオン導電性セラミックス32から固体電解質1を通って、アノード2に到達する。アノード2に到達した酸素イオンは、アンモニアと上記反応をして、アンモニアは分解される。アノード2で生成した電子eは、負荷を経てカソード集電体7およびカソード3へと流れる。上記の反応では、カソード3の電位が、アノード2よりも高くないと、電気化学反応が進行しないが、外部から電位を印可しなくても、この電位条件は満たされ、このアンモニア分解素子10は燃料電池として発電をする。
【0025】
温度を上げて、触媒に分解対象ガスを接触させるだけで、その分解対象ガスの分解は進行する。それは先行文献に開示されており、上記したように周知である。しかし、上記のように、気体分子の分解に電気化学反応を用いて、当該分解対象の気体分子を一方の電極に導入し、当該分解の電気化学反応に寄与する気体を他方の電極に導入し、電子と酸素イオンとを用いて、分解の顕著な促進をはかった例は、あまり見られない。
【0026】
次に、カソード集電体7に用いられる、金属めっき体で形成された骨格を持つ、連続気孔の多孔体(以下、めっき多孔体と呼ぶ)の製造方法の一例について説明する。図4は、めっき多孔体の製造方法の一例を示す図である。図4において、まずウレタン等の樹脂に発泡処理を施し発泡させたものを準備する。次いで、発泡した気孔を連続する気孔連続化処理を行う。気孔連続化処理は、除膜処理 を主内容とする。孔の上に出来た薄膜を爆発処理等の加圧処理もしくは化学処理により除膜することで連続気孔化する。このあと、気孔内壁に、導電性炭素膜を付着させるか、または無電解めっき等により導電薄膜を形成する。次いで、電気めっきによって、金属めっき層を導電性炭素膜または導電薄膜上に形成する。この金属めっき層が気孔体の骨格となる。金属めっきはニッケルイオンを含むめっき液を用い、Niめっき層を形成するのがよい。Niは、上記の低温域で耐高温酸化性を有し、かつめっき層の形成が容易である。次いで、熱処理によって樹脂を消散させて、金属めっき層のみを残して、Niめっき多孔体とする。
より高温での耐酸化性能を得るためには、上述のように、Niめっき多孔体に対して合金化処理を施す。この合金化処理は、Cr、Al、その他の金属を外から表層に拡散導入することにより行われる。合金化を表層のみに止めて、合金化表層付きめっき多孔体とするのが普通であるが、中まで合金化する場合もある。
また、図4には示していないが、めっき液にニッケルイオンおよび他の金属イオンを溶解させて、めっき体をニッケル合金とすることができる。そのように、直接、合金めっき層を形成することで、ニッケル合金の骨格を形成してもよい。
【0027】
図5は、AlまたはCr添加処理の具体例を示す図である。図5(a)はアルミナイジング(Aluminizing)の具体例である。この方法では、Niめっき多孔体(図5(a)で「Me」で表示)を、Fe−Al合金粉およびNHCl粉よりなる調合剤とともに鋼製ケース内に埋め込む。次いで、ケースを密封して、その密封したケースを炉内に装入し、900℃〜1050℃に加熱する。これによってAl拡散浸透層を得ることができ、耐高温酸化性、耐摩耗性等を向上することができる。また、図5(b)はクロマイジング(Chromizing)の具体例である。この方法では、Niめっき多孔体(Me)を、Cr粉、Al粉およびNHCl粉よりなる調合剤とともに、ケース内に埋め込む。ケース内にHガスまたはArガスを通しながら、炉内にて900℃〜1100℃に加熱することで、Cr拡散浸透層を得ることができる。このCr拡散浸透層も耐高温酸化性能を高めることができる。なお、図5では、アルミナイジングおよびクロマイジングともに、粉末法のみを示したが、気体法、溶融塩法など、既存の任意の方法を用いて、AlまたはCrを拡散浸透することができる。
【0028】
図4に示す方法で製造したNiめっき多孔体の、比表面積(y:m/m)と孔径(x:mm)との関係を図6に示す。図6の小黒丸が実測値である。孔径0.05mm〜3.2mmにわたって、上記の方法で製造することができる。実測値は、ウレタンを用いた場合は、(x−0.3)y=400または600の双曲線に比して、同じ孔径において大きな比表面積を持つ。ここで双曲線の孔径の最小極限値(漸近線)の0.3mmは、ウレタンを用いた場合のものである。(x−0.3)yの値が大きいと、カソード集電体7に導入される気体と接触して、カソード3へと気体を乱流状態で送り込む機能を保持しながら、圧力損失を低くできる効果を生み出す。このため、400≦(x−0.3)y、とするのがよい。より好ましくは、600≦(x−0.3)y、とするのがよい。孔径をあまり大きくする弊害(導電性の低下など)が生じるおそれがあるので、上限は3000程度、より好ましくは2000程度とするのがよい。
なお、ウレタンの代わりにメラミンを用いた場合には、孔径の最小極限値は0.05mmとなる。メラミンを用いて製作した金属多孔体については、孔径と比表面積との積の表式は示さないが、気孔率が0.6以上0.98以下の範囲に入れば、メラミンを用いて製作した金属多孔体も本発明の範囲に入る。
金属粉焼結体の場合、孔径は0.05mm〜0.3mmの範囲、より好ましくは0.10〜0.2mmの範囲にある。また、比表面積は、ウレタンの多孔体鋳型を用いて製作した図4に示す関係(x−0.3)y=400よりも、かなり小さい範囲にある。気孔率は、骨格の形状にも影響を受けるが、一般的に気孔率が高いものほど比表面積は大きい。したがって、図4に示す方法で作製したNiめっき多孔体は、同じ導電性、同じ乱流生成作用を得ながら、金属粉焼結体よりも圧力損失を低下することができる。
【0029】
次に、アノード側2,8および電解質1について説明する。アノード2およびアノード集電体8は、高温酸化についてとくに対策は必要ないが、加熱されることは避けられないので、それに応じた材料で構成するのがよい。アノード2は、表面酸化されて酸化層を有するNi粒連鎖体21と、酸素イオン導電性のセラミックス22とを主成分とする焼結体である。酸素イオン導電性のセラミックス22としては、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いることができる。
アノード集電体8には、低温域用のカソード集電体と同じもので構成するのが、通気性および導電性を確保する上で、好ましい。
また、電解質1は、酸素イオン導電性がある、固体酸化物、溶融炭酸塩、リン酸、固体高分子などを用いることができるが、固体酸化物は小型化でき、取り扱いが容易なので好ましい。固体酸化物1としては、SSZ、YSZ、SDC、LSGM、GDCなどを用いるのがよい。
【0030】
図7は、アノード2を構成する材料の役割を説明するための図である。アノード2は、表面酸化された金属粒連鎖体21と、SSZ22との焼結体で構成される。金属粒連鎖体21の金属は、Niとするのがよい。Niに鉄(Fe)を少し含むものであってもよい。さらに好ましくはTiを2〜10000ppm程度の微量含むものである。
上述のようにアノード2内の表面酸化層付きNi粒連鎖体21は、Niに鉄(Fe)を少し含むものであってもよい。さらに好ましくはTiを2〜10000ppm程度の微量含むものである。(1)Ni自体、アンモニアの分解を促進する触媒作用を有する。また、FeやTiを微量含むことでさらに触媒作用を高めることができる。さらに、このNiを酸化させて形成されたニッケル酸化物は、これら金属単味の促進作用をさらに大きく高めることができる。(2)上記の触媒作用に加えて、アノードにおいて、電子を酸素の分解反応に参加させている。すなわち、分解を電気化学反応のなかで行う。上記のアノード反応では、電子の寄与(生成)があり、酸素イオンも参加してアンモニアの分解速度を大きく向上させる。(3)アノード反応では、電子eが反応に関与する。電子eがアノードから外に導電されないと、アノード反応の進行は妨げられる。金属粒連鎖体21は、ひも状に細長く、酸化層21bで被覆された中身21aは良導体の金属(Ni)である。電子eは、ひも状の金属粒連鎖体の長手方向に、スムースに流れる。このため、電子eがアノード2から外に導電しないことはなく、金属粒連鎖体21の中身21aを通って、流れ出る。金属粒連鎖体21により、電子eの通りが、非常に良くなる。
【0031】
上記のアノード2およびカソード3の構成によって、アノード反応およびカソード反応は、非常に高い反応速度で進行する。このため、小型の簡単な構造の素子によって、大量のアンモニアを能率よく分解することができる。また、高温酸化によるカソード側の金属部分の劣化のおそれがなく、維持管理は不要である。また、反応生成物が堆積することもなく、メインテナンスは必要なく、ランニングコストは大幅に低減することができる。さらに、上記のように発電が可能なので、たとえば本実施の形態のアンモニア分解素子10に内蔵されるヒータの電力を外部から供給しなくてもよいか、または外部からの供給量を減らすことができる。このため、エネルギー効率に優れている。
【0032】
次に、上記のアンモニア分解素子10の、カソード集電体以外の各部について説明する。
1.アノードの金属粒連鎖体21
金属粒連鎖体21は、還元析出法によって製造するのがよい。この金属粒連鎖体21の還元析出法については、特開2004−332047号公報などに詳述されている。ここで紹介されている還元析出法は、還元剤として3価チタン(Ti)イオンを用いる方法であり、析出する金属粒(Ni粒など)は微量のTiを含む。このため、Ti含有量を定量分析することで、3価チタンイオンによる還元析出法で製造されたものと特定することができる。3価チタンイオンとともに存在する金属イオンを変えることで、所望の金属の粒を得ることができる。Niの場合はNiイオンを共存させる。Feイオンを微量加えると、微量Feを含むNi粒連鎖体が形成される。
また、連鎖体を形成するには、金属が強磁性金属であり、かつ所定のサイズ以上であることを要する。NiもFeも強磁性金属なので、金属粒連鎖体を容易に形成することができる。サイズについての要件は、強磁性金属が磁区を形成して、相互に磁力で結合し、その結合状態のまま金属の析出→金属層の成長が生じて、金属体として全体が一体になる過程で、必要である。所定サイズ以上の金属粒が磁力で結合した後も、金属の析出は続き、たとえば結合した金属粒の境界のネックは、金属粒の他の部分とともに、太く成長する。アノード2に含まれる金属粒連鎖体21の平均直径Dは5nm以上、500nm以下の範囲とするのがよい。また、平均長さLは0.5μm以上、1000μm以下の範囲とするのがよい。また、上記平均長さLと平均径Dとの比は3以上とするのがよい。ただし、これら範囲外の寸法を持つものであってもよい。
【0033】
2.表面酸化
アノード2内のNi粒連鎖体21は、電気化学反応を促進する触媒作用を高めるために、表面酸化されるのがよい。
表面酸化処理は、(i)気相法による熱処理酸化、(ii)電解酸化、(iii)化学酸化の3種類が好適な手法である。(i)では大気中で500〜700℃にて1〜30分処理するのがよい。最も簡便な方法であるが、酸化膜厚の制御が難しい。(ii)では標準水素電極基準で3V程度に電位を印加し、陽極酸化することにより表面酸化を行うが、表面積に応じ電気量により酸化膜厚を制御できる特徴がある。しかし、大面積化した場合、均一に酸化膜をつけることは難しい手法である。(iii)では硝酸などの酸化剤を溶解した溶液に1〜5分程度浸漬することで表面酸化する。酸化膜厚は時間と温度、酸化剤の種類でコントロールできるが薬品の洗浄が手間となる。いずれの手法も好適であるが、(i)または(iii)がより好ましい。
望ましい酸化層の厚みは、1nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜50nmの範囲とする。ただし、この範囲外であってもかまわない。酸化皮膜が薄すぎると触媒機能が不十分となる。また、わずかな還元雰囲気でもメタライズされてしまう恐れがある。逆に酸化皮膜が厚すぎると触媒性は充分保たれるが、反面、界面での電子伝導性が損なわれ、発電性能が低下する。
【0034】
3.焼結
アノード2またはカソード3に含まれるSSZ22またはLSM32の原料粉末の平均径は0.5μm〜50μm程度とする。表面酸化された金属粒連鎖体21とSSZ22との配合比は、mol比で0.1〜10の範囲とする。
焼結方法は、たとえば大気雰囲気中で、温度1000℃〜1600℃の範囲に、
30分〜180分間保持することで行う。連鎖状金属粉末の表面酸化の時期は、上記の焼結体形成の前でもよいし後でもよい。
カソード3は、LSM32、Ag粒子33等の焼結体で構成される。Ag粒子の平均径は、10nm〜100nmとするのがよい。銀と、LSMとの配合比は、0.01〜10程度とするのがよい。
【0035】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2におけるアンモニア分解素子を示す図である。本実施の形態における反応は、一般的には、表1の反応R4のように、電気分解反応である。すなわち、このアンモニア分解素子10は、電気分解素子であり、電力を投入してアンモニアを分解する。アノード2にはアンモニアを導入し、カソード3には二酸化炭素を導入する。アノード反応は、実施の形態1と同じであるが、カソード反応は、CO+2e→CO+O2−である。
この場合、アノード集電体8と、カソード集電体7との間に、アノード側が高くなるように、外部から電位差(電圧)を印加する。外部の電源は、アンモニア分解素子10に対して電力を消費する。
【0036】
上記のように、実施の形態1との間に、電力の発生と消費という相違はあるが、アノード2/電解質1/カソード3および集電体7,8の構成は、実施の形態1と同様である。したがって、カソード集電体7について、たとえば低温域用はNiを骨格とする連続気孔の多孔体とし、高温域用にはCrやAlの拡散浸透をはかったものを用いる。とくにNiめっきで骨格を形成したものが圧力損失を軽減するのに好ましい。
また、アノード2では、表面酸化された金属粒連鎖体による、(1)ニッケル酸化物による反応の促進(高い触媒機能)、および(2)金属粒連鎖体のひも状良導体による電子の導通性確保(高い電子伝導性)を得ることができる。その結果、小型で簡単な素子によって大量のアンモニアガスを迅速に処理することができ、メインテナンス費用(ランニングコスト)が安価である。
【0037】
実施の形態1においても説明したように、触媒のもとで分解対象ガスを分解させることは周知である。しかし、本実施の形態では、電気化学反応において二酸化炭素を酸素イオンの供給源として反応に関与させ、実用レベルの分解速度を得るために、600℃〜950℃に加熱しながら、維持管理を容易にすることができる。アンモニア分解速度の向上については、実施の形態1におけるものと同様に、カソードにおける触媒(銀粒子)の酸素イオン生成促進、およびアノードにおけるNi粒連鎖体を含む構成および作用効果を持たせたることで、反応速度を大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0038】
次に、試験体を用いて実際に検証した例について説明する。用いた試験体は、アノードを共通にして、カソードについて構成を変えて8種類のガス分解装置を作製した。アノードは、次の構成を有し、8種類の試験体に共通である。
(1)アノード集電体:Ni金属多孔体(住友電気工業(株)製セルメット)、孔径1900μm、比表面積500m/m
(2)アノード:触媒Ni粒連鎖体(太さ100nm、鎖長30μm)/電解質
SSZ
8種類の試験体のカソード集電体およびカソードを、表2に示す。カソード集電体については、上記のNi金属多孔体をベースにして、孔径(比表面積)、合金化、について条件を振った。またカソードの触媒について、銀の有無の影響を検討した。これらの試験体について、温度700℃〜900℃で、アンモニアを含む窒素ガス(搬送ガス)に対して、除害の処理能力の、5時間〜5000時間にわたる変化を測定した。結果を表3に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表3の結果より、つぎの事項を確認することができた。処理能力の経過は、試験番号tの5時間経過時の能力を100として規格化した。試験番号tの5時間経過時の処理能力は、1.1mmol/cm・minである。すなわちこの処理能力を100とした。
−処理温度の影響−
試験番号t、t、tの結果より、5時間程度までの短時間では、温度700℃〜900℃の範囲で、高温度ほど処理能力は高い。900℃では700℃の処理能力の2.6倍である。しかし、高温度ほど時間経過につれ、処理能力は大きく低下して。5000時間では700℃での処理能力が最も高い。500時間では、800℃と900℃とで差が無く80程度を維持し、700℃の処理能力40よりも大きい。このような逆転現象は、高温酸化の影響によると考えられる。
−触媒の影響−
カソードの触媒に銀を用いた試験番号t10では、銀を用いないtに比べて、1.4倍程度向上し、110程度と高い。この優位性は500時間で90程度と、維持される。しかし、5000時間になると、処理能力の絶対値が大きく低下する。これは、金属多孔体の金属Niに起因すると考えられる。
−カソード集電体 金属多孔体の孔径−
試験番号t,t,t,tによって、カソード集電体を形成する金属多孔体の孔径の影響を知ることができる。時間500時間程度以内では、孔径は小さく、比表面積が大きいほうが、処理能力は高い。しかし、5000時間程度では、孔径が大きいほうがやや処理能力は高い。
−合金化の影響−
試験番号t,t,t,tによって、カソード集電体を形成する金属多孔体の合金化(表層への合金拡散)の影響を知ることができる。合金化によって、5000時間経過時点で大きな効果を得ることができる。Ni単体では、5000時間で15であるが、Crの拡散導入により70程度と顕著な効果を得ることができる。また、Al(試験番号t8)、Al−Cr(試験番号t9)の拡散導入によっても、同程度の顕著な効果を得ることができる。
上記より、長時間、ランニングコストを抑制して良好な除害能力を長期間得るためには、合金化が有効であることが理解される。
【0041】
【表3】

【0042】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のアンモニア分解素子によれば、大掛かりな装置を用いずに、小型、かつ簡単な素子により、大量のガスを能率よく分解することができ、維持管理は容易である。とくにカソード集電体のNi多孔体についての合金化は有効である。さらに、発電装置としても用いる場合があるので、アンモニア分解素子を高温に保持するための加熱装置に電力を供給することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 イオン導電性電解質(固体酸化物電解質)、2 アノード、3 カソード、3h 空隙、7 カソード集電体、7a 導電部、7h 連続気孔(空隙)、8 アノード集電体、10 アンモニア分解素子、21 金属粒連鎖体、21a 金属粒連鎖体の芯部(金属部)、21b 酸化層、22 アノードのイオン導電性セラミックス(SSZなど)、32 カソードのイオン導電性セラミックス(LSMなど)、33 銀。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを分解するための素子であって、
前記アンモニアまたはアンモニアを含む気体が導入される多孔質のアノードと、
前記アノードと対をなし、酸素原子を含む気体が導入される多孔質のカソードと、
前記アノードとカソードとに挟まれる、酸素イオン導電性を持つイオン導電材と、
前記カソードに接するカソード集電体とを備え、
前記カソード集電体が、連続気孔を持つ金属多孔体でなり、該金属多孔体が、ニッケルもしくはニッケル合金でなるか、またはニッケルもしくはニッケル合金の表層が、(クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)および白金(Pt))の少なくとも1種に富化されてなる、ことを特徴とする、アンモニア分解素子。
【請求項2】
前記金属多孔体が、金属めっき体であることを特徴とする、請求項1に記載のアンモニア分解素子。
【請求項3】
前記金属多孔体の気孔率が、0.6以上0.98以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアンモニア分解素子。
【請求項4】
前記金属多孔体の製作にウレタンを用いた場合において、該金属多孔体の、孔径をx(mm)、比表面積をy(m/m)とするとき、400≦(x−0.3)y、を満たすことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解素子。
【請求項5】
前記アノード、イオン導電材、およびカソードが、一体化されたMEA(Membrane Electrode Assembly)の(アノード/イオン導電材/カソード)の形態とされ、前記カソード集電体は、シート状であり、前記カソードに接して積層され、前記酸素原子を含む気体の流路を形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンモニア分解素子。
【請求項6】
前記カソードが、イオン導電性セラミックスの焼結体、またはイオン導電性セラミックスと銀との焼結体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンモニア分解素子。
【請求項7】
前記イオン導電材、アノードおよびカソードを、加熱するヒータと、前記イオン導電材、アノードおよびカソードの温度を制御する温度制御システムとを備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアンモニア分解素子。
【請求項8】
前記カソードと前記アノードから電力の取り出しができることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンモニア分解素子。
【請求項9】
前記取り出した電力を前記ヒータ、および/または 前記温度制御システムに供給することを特徴とする、請求項8に記載のアンモニア分解素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−159472(P2010−159472A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3814(P2009−3814)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】