説明

アンモニア分解触媒

【課題】400℃以下という低温域においても高いアンモニア分解率を示す触媒を提供する。
【解決手段】本発明によるアンモニア分解触媒は、平均粒径1nm〜50nmの超微粒子粉末を所要形状に成形した担体に、ルテニウムおよび促進剤を担持してなる。好ましい担体原料はAl2O3、MgO、SiO2またはCeO2の超微粒子粉末である。好ましい担体の形状は球形、円柱形またはハニカム構造である。好ましい促進剤はアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア分解触媒に関するものである。本発明の触媒は、自動車用燃料電池の燃料としての水素を供給するためにアンモニアを分解するのに好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
自動車用固体高分子型燃料電池の燃料として水素を用いるには、水素を供給するための水素ステーションを全国に設置する必要性がある上に、水素を詰めた水素圧力容器を自動車に搭載する必要があり、これらに要するコストは燃料電池車の普及を阻害している一つの原因となっている。
【0003】
一方、アンモニアは1MPa以下の圧力で液化するので、オンボードでアンモニアを分解して水素を発生させることができる触媒が開発できれば、自動車用燃料電池の水素源としてアンモニアを使用でき、コスト削減により燃料電池車の普及を図ることができる。
【0004】
従来、アンモニア分解触媒は、Al2O3などの無機質担体にルテニウムなどの活性金属およびカリウムなどの促進剤を担持させることで調製されている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−119341号公報
【特許文献2】特開平08−084910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のアンモニア分解触媒は、500℃以上の高温域では十分な分解率(転化率)が確認できるが、400℃以下の低温域では分解率が著しく低下して十分に確認できないという問題を有していた。このような現象は以下の原因によるものと考えられる。アンモニア分解反応は吸熱反応であるため、500℃以上のように十分に外部から熱が供給される状況においては、アンモニア分解触媒は十分な活性を維持することができる。しかし、反応温度が400℃以下になると、熱供給が十分でないために、アンモニア分解触媒はその活性を維持することができない。結果として、400℃以下の低温域においてアンモニア分解率が著しく低下する。
【0007】
このように外部からの熱供給が多くない400℃以下の低温域においては、十分なアンモニア分解率を得るために、アンモニア分解触媒の活性そのものを向上させる必要があり、そのためには活性金属であるルテニウム(および促進剤であるカリウム)を担体表面により高分散化すればよいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、担体に活性金属(および促進剤)を効果的に担持させる方法を検討した結果、担体原料として特定粒径の超微粒子粉末を用いてアンモニア分解触媒を調製すれば、活性金属の効果的担持が可能であり、400℃以下の低温域においてアンモニアを高い分解率で分解できることを見出した。
【0009】
本発明は下記の通りである。
【0010】
(1):平均粒径1nm〜50nmの超微粒子粉末を所要形状に成形した担体に、ルテニウムおよび促進剤を担持してなることを特徴とするアンモニア分解触媒。
【0011】
(2):担体原料がAl2O3、MgO、SiO2またはCeO2の超微粒子粉末であることを特徴とする上記(1)のアンモニア分解触媒。
【0012】
(3):担体の形状が球形、円柱形またはハニカム構造であることを特徴とする上記(1)または(2)記載のアンモニア分解触媒。
【0013】
(4):促進剤がアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
【0014】
(5):上記(1)から(4)のいずれかに記載のアンモニア分解触媒を用いたことを特徴とする水素発生システム。
【0015】
(6):上記(5)記載の水素発生システムを具備したことを特徴とする燃料電池。
【0016】
担体原料の超微粒子粉末の平均粒径が1nm〜50nmに限定される理由は、1nm未満の超微粒子の担体原料を製造することは工業的に困難であり、また50nmを超える超微粒子を担体原料に用いても顕著な効果が認められないからである。
【0017】
ハニカム構造は、ハニカム状の押出成形物、または、複数枚の平板と複数枚の波板を交互に積み上げて一体化したものであって良い。
【0018】
超微粒子粉末の平均粒径の測定は、例えば比表面積測定装置ASAP−2010(島津製作所社製)を用いてBET法により比表面積〔m2 /g〕測定し、比表面積及び密度〔g/cm3 〕を用い次式により算出して、行うことができる。
【0019】
平均粒径(nm)=6×103 /(密度×比表面積)
つぎに、本発明によるアンモニア分解触媒の調製方法を具体的に説明する。
【0020】
平均粒径1〜50nmの超微粒子γ-Al2O3(通常、平均粒径は百nmのオーダー)を、直径約1mmのペレットに成形した担体を、三塩化ルテニウム(RuCl3)などの活性金属化合物を含む溶液に浸漬し、全体を蒸発乾固することにより、担体ペレットに活性金属を担持させる。得られた活性金属化合物担持ペレットを還元熱処理することにより、活性金属担持ペレットとする。ついでカリウムなどのアルカリ金属あるいはバリウムなどのアルカリ土類金属の硝酸塩溶液に活性金属担持ペレットを浸漬し、全体を蒸発乾固することにより、同ペレットに上記金属を担持させる。このペレットを再び還元熱処理することにより、アンモニア分解触媒を得る。
【発明の効果】
【0021】
一次粒子として平均粒径1nm〜50nmの超微粒子γ-Al2O3を用いて成形した直径1mmペレットと、一次粒子として平均粒径100nm程度のγ-Al2O3を用いて成形した直径1mmのペレットとを比較すると、ペレット単位に含まれる一次粒子の個数は前者のペレットの方がはるかに多くなっている。ルテニウムなどの活性金属およびカリウムなどの促進剤を、三塩化ルテニウム(RuCl3)や硝酸カリウム(KNO3)の水溶液として、蒸発乾固あるいは含浸によりペレットに担持させる場合は、ペレットにおける水溶液が接触可能な面積が活性金属および促進剤の担持サイト数と関係があり、その担持に影響を及ぼす。水溶液が接触可能な面積は、ペレットを構成している一次粒子の個数と関係がある。このため、一次粒子として平均粒径1nm〜50nmの超微粒子を用いて成形した担体ペレットの方が、ペレットを構成する一次粒子数が多く、活性金属および促進剤の担持サイトが多いことで、担持に優位性がある。したがって、担体に同量の活性金属(および促進剤)を担持させた場合に、担体原料に平均粒径1nm〜50nmの超微粒子を使用した方が効率的に担持が行われ、結果として触媒活性が高くなる。
【0022】
よって、この方法で調製されたアンモニア分解触媒は従来のそれより触媒活性が高く、400℃以下という低温域においても高いアンモニア分解率を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】触媒のアンモニア分解能力を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0025】
実施例1
担体原料として、平均粒径34nmの超微粒子γ-Al2O3(シーアイ化成社製「ナノテックNanoTek」)を用い、これを直径1mmのペレット(球状)に成形した。
【0026】
得られたAl2O3ペレットを塩化ルテニウム水溶液に浸漬し、全体を蒸発乾固させ、Al2O3ペレットに塩化ルテニウムを担持させた(Ruとして5.0wt%)。
【0027】
塩化ルテニウム担持Al2O3ペレットを反応管内に置き、水素還元処理(600℃、2時間)することにより、ルテニウム担持Al2O3ペレットを得た(Ru(5.0)/Al2O3)。
【0028】
還元処理後、ルテニウム担持Al2O3ペレットを水素雰囲気下で室温まで降温させ、反応管より取出してKNO3水溶液に浸漬し、全体を蒸発乾固させ、ルテニウム担持Al2O3ペレットにKNO3を担持させた(Kとして5.0wt%)。
【0029】
その後、同ペレットを再度水素還元(600℃、2h)することにより、ルテニウム担持Al2O3ペレットに促進剤としてカリウムを担持させた(K(5.0)-Ru(5.0)/Al2O3)。
【0030】
こうして得られたアンモニア分解触媒を、図1に示すアンモニア分解能力測定装置の垂直の反応管(1)(10mm角のステンレス鋼製)内のグラスウール(4)の上に充填長40mmになるように充填した(4ml)。
【0031】
次いで、反応管(1)の触媒充填部(3)をヒーター(2)で下記温度に加熱し、これに100%アンモニアガスを0.1MPaの圧力で下記流量で供給しながら、アンモニア分解能力の測定を行った。図1中、 (5)(6)は流量調節器、(7)はアンモニアトラップ、(8)は流量検知器である。
【0032】
温度(℃):600、500、400、350、300
流量(ml/min) :333、200、66.7、33.3
(空間速度(hr-1):5000、3000、1000、500)
比較例1〜2
担体原料として、走査電子顕微鏡(SEM)により直接観察・測定した平均粒径100nm、300nmのγ-Al2O3を使用した以外、実施例1と同様の方法でアンモニア分解触媒を得た。次いでこれらの触媒の分解能力の測定を実施例1と同様の方法で行った。
【0033】
実施例2〜4
担体原料として平均粒径44nmの超微粒子MgO、平均粒径29nmの超微粒子SiO2、平均粒径12nmの超微粒子CeO2(シーアイ化成社製、商品名「ナノテックNanoTek」)を用いた以外、実施例1と同様の方法でアンモニア分解触媒を得た。次いでこれらの触媒の分解能力の測定を実施例1と同様の方法で行った。
【0034】
実施例5〜7
促進剤としてNa、Cs、Baを担持させた以外、実施例1と同様の方法でアンモニア分解触媒を得た。次いでこれらの触媒の分解能力の測定を実施例1と同様の方法で行った。
【0035】
実施例8〜9
超微粒子γ-Al2O3を成形する形状を円柱形、ハニカム構造(複数枚の薄平板と複数枚の薄波板を交互に積み上げて一体化したもの)とした以外、実施例1と同様の方法でアンモニア分解触媒を得た。次いでこれらの触媒の分解能力の測定を実施例1と同様の方法で行った。
【0036】
得られたアンモニア分解能力測定結果を表1に示す。
【表1】

【0037】
実施例1と比較例1を比較すると、Ru担持量は同量であるにも拘わらず、400℃以下の低温域におけるアンモニア分解率に顕著な差異が認められる。これは、担体原料であるγ-Al2O3の平均粒径の差異に由来する、担体ペレット上の金属担持サイト数の差異がRu分散度に影響を及ぼし、調製触媒の活性の差異につながっていると考えられる。つまり、実施例1では担体原料のγ-Al2O3が平均粒径34nmと超微粒子であるのに対し、比較例1〜2ではγ-Al2O3は平均粒径100nmあるいは300nmの粒子であり、実施例1の担体上の金属担持サイト数は比較例1〜2のそれの数十〜数百倍であるため、(低温域における)触媒活性も高くなっていると考えられる。
【0038】
また、実施例1では、アンモニア分解反応における空間速度を変えている。SV=3,000と比較して、空間速度を大きくしたSV=5,000では触媒のアンモニア分解率が低下し、逆に空間速度を小さくしたSV=1,000または500ではアンモニア分解率が上昇することがわかる。先行技術文献として挙げた特許文献2におけるデータでは、アンモニア分解反応における空間速度はSV=142または710と小さいものであり、これと比較すると、本発明による触媒は高いアンモニア分解性能を示すことがわかる。
【0039】
実施例2〜4では、担体の種類を検討した。担体原料として実施例1のγ-Al2O3以外にMgO、SiO2、CeO2を用いたが、400℃以下の温度範囲で比較すると、担体原料としてγ-Al2O3を使用した場合に最もよくアンモニアを分解することがわかる。
【0040】
実施例5〜7では、促進剤の影響を検討した。アルカリ金属およびアルカリ土類金属の中から、実施例1のK以外でNa、Cs、Baを用いた。実施例1と実施例5〜7を比較すると、アンモニア分解触媒の促進剤としてKを用いた場合が低温域において最もよくアンモニアを分解することがわかる。
【0041】
実施例8〜9では、担体の形状による影響を検討した。実施例1の球形との比較で、円柱形、ハニカム構造の担体を使用して触媒調製を行っており、ハニカム構造において低温域における優位性が認められた。これはハニカム構造の方が球形よりも、触媒の反応面積が大きいことによると考えられる。
【0042】
以上の結果より、本発明の効果が確認された。
【符号の説明】
【0043】
(1) 反応管
(2) ヒーター
(3) 触媒充填部
(4) グラスウール
(5)(6) 流量調節器
(7) アンモニアトラップ
(8) 流量検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1nm〜50nmの超微粒子粉末を所要形状に成形した担体に、ルテニウムおよび促進剤を担持してなることを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
担体原料がAl2O3、MgO、SiO2またはCeO2の超微粒子粉末であることを特徴とする請求項1記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
担体の形状が球形、円柱形またはハニカム構造であることを特徴とする請求項1または2記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
促進剤がアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のアンモニア分解触媒を用いたことを特徴とする水素発生システム。
【請求項6】
請求項5記載の水素発生システムを具備したことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−78888(P2011−78888A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232137(P2009−232137)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】