イオン捕集装置
【課題】 デソープションイオン化方法において、試料台表面近傍のイオンを最大限に捕集する機構を提供する。
【解決手段】 生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口を設け、これを試料台に接するように位置させる。または、試料台に段差をつけて試料の積載された面よりも低い面を設け、生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口の開口部底面を、試料の積載された面よりも低く設置する。
【解決手段】 生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口を設け、これを試料台に接するように位置させる。または、試料台に段差をつけて試料の積載された面よりも低い面を設け、生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口の開口部底面を、試料の積載された面よりも低く設置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多種類の成分を含むサンプルの分析システムに関し、特に、薬品や生体関連物質の分析、および物質表面成分の検出に使用する質量分析システム、分析方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、質量分析法は、多種試料のイオン化方法が開発されてきたことに伴い、多くの分野で分析手段として取り入れられるようになった。例えば、バイオ・創薬・食品分野を中心に、生体組織や体液などに含まれるタンパク質や糖鎖、代謝産物などの生体関連物質を解析する主要な手段となりつつある。また、セキュリティ分野では、物体表面に痕跡量付着した爆薬などを質量分析法で検出する技術が確立されつつある。
【0003】
質量分析法において、試料のイオン化方法は今までに多く研究されてきた。その中で、大気圧下でイオン化が可能なものには、エレクトロスプレーイオン化(ESI)が知られている。ESIは、大気圧下で、試料溶液を電場中に噴霧することで、試料のイオン化を行う。また、マトリクス支援レーザーイオン化(MALDI)は、通常真空中でイオン化を行うが、最近では、大気圧下でイオンを生成する方法も開発された。この大気圧MALDIでは、試料にレーザーを照射し、試料台付近に放出された試料イオンをガス流で質量分析機のイオン取り込み口へと導く(非特許文献1)。しかし、大気圧MALDIは、マトリクスが必要なこと、レーザー設備が必要であり、高価であること、などの問題があった。
【0004】
そこで最近、ESIと大気圧MALDIの中間的なイオン化方法として、デソープションエレクトロスプレーイオン化(DESI)というイオン化方法が開発された。DESIでは、大気圧下で、ESIで生成した帯電液滴を当てることで、物体表面の物質をイオン化する。物体表面にマトリクスを塗布することなく、物体表面の物質をそのまま分析することができ、電圧印加手段があるだけで実現できる点が利点である。DESIの中でも、ネブライザーガスを用いたエレクトロスプレーにより生成した帯電液滴を、試料に当てる方法がある。この方法には、イオン化条件が温和であること、簡便であること、様々な物質をイオン化できること、等の利点がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2005/0230635A1号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Analytical Chemistry (2000) p.652-657 (アナリティカルケミストリー 2000年、第652項から第657項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ネブライザーガスを用いたデソープションイオン化では、ガス流は試料を保持した試料台に当たって、試料台表面に沿って流れる。試料から生じたイオンもまた、このガス流に乗り試料台表面に沿って流れる。したがって、特許文献1に述べられているような、イオン取り込み管を試料台の上方から試料に接近させ、典型的には角度10度に傾けてイオンを捕集する方法では、生じたイオンの一部しか捕集できない。また、ガス流の流れる方向に別の試料が存在する場合、別の試料の方にも帯電液滴が達してイオン化が起こり、目的試料以外のイオンも観測されてしまう。したがって、より高感度で選択的な測定を行うためには、試料台表面近傍の目的イオンを最大限に捕集する機構が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明では、試料台表面に沿って流れるガス流の進行方向に、生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口を設け、これを試料台に接するように位置させる。または、試料台表面に沿って流れるガス流の進行方向の試料台に、段差をつけて試料の積載された面よりも低い面を設け、生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口の開口部底面を、試料の積載された面よりも低く設置する。また、試料台には、試料を置くための領域とイオン取り込み口を置くための領域を区別して設ける。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ネブライザーガスを用いたデソープションイオン化法において、試料イオンのイオン取り込み効率を向上させることができる。また、別の試料が誤ってイオン化されるのを防ぐことができ、測定の正確性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図2】イオン取り込み管の帯電液滴スプレーの中心軸からのずれと捕集されるイオン量の関係を示すグラフ。
【図3】イオン取り込み管の金属板表面からの距離と捕集されるイオン量の関係を示すグラフ。
【図4】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図5】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図6】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図7】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図8】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図9】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台と試料配置の例の図。
【図10】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台と試料配置の例の図。
【図11】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台と試料配置の例の図。
【図12】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台形状例の断面図。
【図13】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図14】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図15】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図16】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図17】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図18】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の(a)立体図 (b)断面図。
【図19】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図20】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の立体図。
【図21】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の立体図。
【図22】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例(a)上から見た図(b)断面図。
【図23】本発明によるイオン捕集装置を用いた液体クロマトグラフ/質量分析装置の一例の図。
【図24】本発明によるイオン捕集装置に用いる帯電液滴生成装置の一例の図。
【図25】本発明によるイオン捕集装置に用いるイオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図26】本発明によるイオン捕集装置に用いるイオン取り込み管の形状と配置例の図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するための装置構成例を示す。試料は試料台に保持する。試料に対し、帯電物質を、ネブライザーガスとともに試料台と適切な角度で照射する。帯電物質としては、エレクトロスプレーやソニックスプレーなどのイオン化手段により生成した帯電液滴などが考えられる。照射された帯電物質との接触により、試料はイオン化して試料台から脱離する、あるいは試料台から脱離した後イオン化する。イオン化のために試料に照射するものは、それ以外にも試料のイオン化に必要なエネルギーを持った粒子であればよく、電子線、イオンビーム、高速原子、レーザー光、液滴などが考えられる。
【0012】
図2に、板に45度の角度で、ネブライザーガスを用いたエレクトロスプレーで生成させた帯電液滴スプレーを当て、スプレーを当てた点から当てた方向に4mm進んだ位置でイオンの横方向の広がりを測定した結果をグラフに示す。このグラフから、イオンは幅6mm程度の広がりを持つことがわかる。また、図3に、同様に板と垂直方向のイオンの広がりを測定した結果をグラフに示す。イオンは高さ1.2mm以下の範囲を流れていくことがわかる。これらの実験結果から、生じたイオンは、ネブライザーガスの流れに伴い、試料台表面を、幅6mm、高さ1.2mmの帯状に流れていくことがわかる。従って、このイオンが流れていく方向に、イオン取り込み管を配置するのがよいことがわかる。
【0013】
図1では、試料台の試料が存在しない領域に溝を設け、イオン取り込み管を、溝底面に接するように置く。イオン取り込み管は、室温よりも高温あるいは低温に設定することにより、目的のイオンのイオン化を促進することもできる。図2、図3の実験に用いた帯電液滴生成装置を用いた場合、イオン取り込み管の開口部の幅および高さは、試料イオンの広がる、幅6mm、高さ1.2mm以上の大きさであることが望ましい。入射イオンの中心軸と、イオン取り込み管の軸が同一平面上にあるように配置する。この配置により、試料に照射された帯電液滴により発生した試料イオンが、効率よく捕集され、高感度の測定が可能となる。
【0014】
図4〜8に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するための装置構成例を示す。複数の試料を同一試料台上に置く場合、試料間に間隔をあけて配置する。その間隔は、イオン取り込み管先端を試料の存在しない領域にのみ接することができるように、イオン取り込み管先端の接触長さ以上とする。また、イオン取り込み管が試料に接触しないよう、試料台に対して傾けて配置する、あるいはイオン取り込み管を屈曲させる。イオン取り込み管を、試料台の試料がない領域に接するように置き、スプレー管の中心軸と、イオン取り込み管の軸が同一平面上にあるように配置する。試料台に溝を設けない場合は、イオン取り込み管の先端部分は試料台に密着することが望ましい。例えば、図4に示すように、円い管の先端を斜めに切断し、その切断面で試料台に密着させることができる。この時、イオン取り込み管の開口部の高さ、および試料台に接する幅は、イオンが広がる高さ、幅以上であることが望ましい。この配置により、試料に入射した帯電物質により発生した試料イオンが、効率よく収集され、高感度の測定が可能となる。
【0015】
また例えば、図5に示すように、イオン取り込み管先端を変形させて平らな部分を作り、試料台に安定して接するようにすることができる。
【0016】
また例えば、図6に示すように、イオン取り込み管に突起を作り、それに対応して試料台にくぼみを作り、イオン取り込み管が一定の領域しか移動できないように制限することができる。あるいは、図7に示すように、試料台に突起を作り、それに対応してイオン取り込み管にくぼみを作り、イオン取り込み管が一定の領域しか移動できないように制限することができる。イオン取り込み管の移動を制限することにより、他の試料を誤って損傷することが防止できる。
【0017】
また例えば、図8に示すように、試料台において、試料と試料の間に溝を作った構造の場合、イオン取り込み管と試料台を接触させなくともよい。このとき、イオン取り込み管の開口部の底面は、試料が乗っている凸部の面よりも低くする必要がある。この配置により、凸部面近傍を面に沿って流れてきたイオンは、凸部と溝の境目に達しても直進し、イオン取り込み管に入る。加熱した試料取り込み管を試料台に接触させたくない場合など、試料台とイオン取り込み管の接触を避けたい場合に有効である。
【0018】
図9〜12に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するための試料台の例を示す。図9は、複数試料を一試料台に乗せる方法の一例である。試料を等間隔で配置することにより、電動のXYステージなどを用いて自動測定することが容易となる。また、試料間の間隔を、イオン広がり幅以上とすることで、試料間のデータの混合がなくなり、測定精度が向上する。
【0019】
図10は、試料間に溝を設けた試料台の一例である。溝にイオン取り込み管先端をはめ込むことにより、イオン取り込み管が溝部分の範囲でしか移動できなくなり、イオン取り込み管が試料と接触することによる試料の損傷防止できる。
【0020】
図11は、試料間に溝を設けた試料台の一例である。溝にイオン取り込み管先端をはめ込むことにより、イオン取り込み管が溝部分の範囲でしか移動できなくなり、イオン取り込み管が試料と接触することによる試料の損傷防止できる。
【0021】
図12は、試料台の形状と、試料の乗せ方の例である。図12(a)は、平面状の試料台に単純に試料を置く場合である。試料台の加工が不要であり、低価格が実現できる。図12(b)は、窪みを持った平板を使用し、窪みに試料を保持する例である。試料が特定の範囲内に正確に置かれるため、自動装置による測定が容易となる。図12(c)は、窪みを持った平板を使用し、窪みに、不要成分を除去するための物質(不要成分を結合する抗体、低分子量成分のみ吸収するゲル、特定の金属イオンを補足するキレート剤、など)や、試料を安定化する物質や、試料のイオン化を補助する物質をあらかじめ保持する。これらの物質の作用により、より質の良いデータを得ることができる。また、それぞれの窪みで、異なる種類の物質を置いておき、試料と既知物質の相互作用の度合いや、イオン化効率向上方法のスクリーニングをすることができる。
【0022】
図13〜22に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するためのイオン取り込み口および試料台の例を示す。
【0023】
図13は、円形のイオン取り込み管と溝付き試料台の組み合わせの例である。円形の管であっても、試料が載った凸面に接する開口部の幅および高さが、イオンの広がり以上の大きさであれば良い。この場合、通常の管を特に加工せずイオン取り込み管として使用できるため、簡便である。
【0024】
図14は、先端を矩形にしたイオン取り込み管と溝付き試料台の組み合わせの例である。この形状により、イオン取り込み管を試料台に安定に置くことができる。
【0025】
図15は、先端を矩形にしたイオン取り込み管と溝付き試料台の組み合わせの例である。質量分析装置のイオン取り込み口の直径が試料イオンの広がり幅よりも小さい場合は、イオン取り込み管の開口部幅を試料イオンの広がり幅よりも大きく広げた形状とすることで、発生した試料イオンが、効率よく収集され、高感度の測定が可能となる。
【0026】
図16は、先端の一部を平らにして試料台と接する部分の管厚みを薄くし、断面で見ると楔形の形状としたイオン取り込み管と、平面状の試料台の組み合わせの例である。イオン取り込み管の先端を楔形にすることにより、発生した試料イオンの流れがイオン取り込み管開口部断面により乱されずにイオン取り込み管に導入できるため、試料イオンの損失を低減し、高感度の測定が可能となる。
【0027】
図17は、イオン取り込み部先端を、1試料の上と側面を覆う形状とした一例である。この形状により、帯電物質や、発生した試料イオンが、隣接する試料に達するのを防ぐことができる。また、発生した試料イオンを損失なく収集し、高感度の測定が可能となる。また、外部に帯電物質が拡散する心配がなく、取り扱いが安全である。また、帯電物質導入管を固定することで、帯電物質導入管の先端が試料に接触するのを防止することができる。
【0028】
図18は、イオン取り込み部先端を、1試料の全体を覆う形状とし、帯電物質導入管をその一部から挿入する形状とした一例である。また、図19のように、ガス導入管をその一部から挿入することも可能である。これは、帯電物質導入管から発せられるガス流量より、イオン取り込み管が吸引するガス流量の方が多い場合に有効である。即ち、ガス導入管から純気体を適切な量導入することにより、外部から気体を吸い込んで異物が混入するのを防ぐことができる。また、外部に帯電物質が拡散する心配がなく、取り扱いが安全である。また、帯電物質導入管を固定することで、帯電物質導入管の先端が試料に接触するのを防止することができる。
【0029】
図20は、イオン取り込み管先端を、閉鎖された空間とし、帯電物質導入管をその一部から挿入する形状とした一例である。イオン取り込み管先端の一部にスロット状の穴をあける。スライドガラス、ろ紙切片などに担持した試料をここから挿入し、測定に供する。この形状は、個別に採取した試料を逐一測定したい場合に便利である。
【0030】
図21は、イオン取り込み部先端を閉鎖された空間とし、その底面に穴をあける形状とした一例である。帯電物質の広がり以下の面積範囲の試料を分析したい場合には、穴のサイズを小さくすることで対応できる。帯電物質導入管とイオン取り込み管を一体化し、さらにイオン取り込み管を可動式にすることが望ましい。目的の物体の表面に押し当てることで、物体表面に付着している物質を簡便に測定することができる。
【0031】
図22は、複数試料を載せる試料台の一例である。回転可能な円盤の周縁部に複数試料を一列に並べる。円盤面、および円周方向と垂直な平面内に、帯電物質導入管と、イオン取り込み管を固定する。円盤を回転することで、各資料を順番に測定できるため、複雑なXY方向の移動手段が不要である。
【0032】
図23に、本発明に基づくイオン捕集方法を用いた液体クロマトグラフ/質量分析装置の一例を示す。液体クロマトグラフから溶出した試料溶液を、一定量試料台に滴下する。試料台を一定距離移動させ、次の溶出液を一定量試料台に滴下する。これを液体クロマトグラフから試料が溶出する間繰り返す。試料台は、試料保持に適した温度に設定される。滴下された溶出液は、送風機などの手段により乾燥され、次に、帯電物質を入射してイオン化する。イオン化は、大気圧下で、エレクトロスプレーイオン化、ソニックスプレーイオン化などの手段により生成した帯電液滴を吹き付ける方法がもっとも簡便で温和な方法である。生成した試料イオンは本発明によるイオン取り込み管により質量分析計に導入され、質量分析を行う。このような液体クロマトグラフ溶出液の検出方法では、分析中にイオン化が不安定になっても再度同じ試料を測定することができる。また、試料台に、目的物質と反応して、特徴的な質量スペクトルを与えるための試薬をあらかじめ塗布しておくことで、一般的なLC/MSよりも多くの情報を得ることができる。
【0033】
図24は、本発明に基づくイオン捕集方法を用いた質量分析システムに用いる、帯電液滴を生成する手段の一例である。溶媒とネブライザーガスガイドの間に電位差を設けることで、帯電液滴が効率よく生成する。また、ネブライザーガスにより、放電が抑制され、安定した帯電液滴生成ができる。
【0034】
図25に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するためのイオン取り込み管の一例を示す。イオン取り込み管開口部は試料表面から生じたイオンを捕集するのに適切な大きさとする。さらに、イオン取り込み管の底面に、柔軟性に富んだ素材で作製したクッションを取り付ける。これにより、凹凸のある試料表面でも、クッション部が変形して試料表面に密着するため、イオン取り込み管底面と試料との間に隙間なく接触させることができ、生じたイオンを逃さずに取り込むことができる。
【0035】
図26に、本発明に基づくイオン捕集方法を用いた測定装置の一例を示す。イオン取り込み管先端を、1試料の全体を覆う形状とし、帯電物質のスプレー管をその一部から挿入する。イオン取り込み管先端の閉鎖空間の底面に小さな窓を開ける。イオン取り込み管先端底面を直接液体試料に接触させ、帯電物質を底面の窓に向けて吹き付ける。発生した試料イオンは質量分析装置に送られ、質量分析により液体試料の成分を分析する。イオン取り込み管内の圧力を調整することにより、液体試料の進入を防ぐことができる。この装置構成により、液体にイオン取り込み管先端を浸すという簡便な操作だけで、液体試料の質量分析による成分分析を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・試料、2・・・試料台、3・・・溝、4・・・帯電物質導入管、5・・・帯電物質、6・・・帯電液滴、7・・・溶媒、8・・・ネブライザーガス、9・・・ネブライザーガスガイド、10・・・イオン取り込み管、11・・・イオン取り込み管先端部、12・・・ガス導入管、13・・・試料台挿入口、14・・・クッション。
【技術分野】
【0001】
本発明は多種類の成分を含むサンプルの分析システムに関し、特に、薬品や生体関連物質の分析、および物質表面成分の検出に使用する質量分析システム、分析方法、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、質量分析法は、多種試料のイオン化方法が開発されてきたことに伴い、多くの分野で分析手段として取り入れられるようになった。例えば、バイオ・創薬・食品分野を中心に、生体組織や体液などに含まれるタンパク質や糖鎖、代謝産物などの生体関連物質を解析する主要な手段となりつつある。また、セキュリティ分野では、物体表面に痕跡量付着した爆薬などを質量分析法で検出する技術が確立されつつある。
【0003】
質量分析法において、試料のイオン化方法は今までに多く研究されてきた。その中で、大気圧下でイオン化が可能なものには、エレクトロスプレーイオン化(ESI)が知られている。ESIは、大気圧下で、試料溶液を電場中に噴霧することで、試料のイオン化を行う。また、マトリクス支援レーザーイオン化(MALDI)は、通常真空中でイオン化を行うが、最近では、大気圧下でイオンを生成する方法も開発された。この大気圧MALDIでは、試料にレーザーを照射し、試料台付近に放出された試料イオンをガス流で質量分析機のイオン取り込み口へと導く(非特許文献1)。しかし、大気圧MALDIは、マトリクスが必要なこと、レーザー設備が必要であり、高価であること、などの問題があった。
【0004】
そこで最近、ESIと大気圧MALDIの中間的なイオン化方法として、デソープションエレクトロスプレーイオン化(DESI)というイオン化方法が開発された。DESIでは、大気圧下で、ESIで生成した帯電液滴を当てることで、物体表面の物質をイオン化する。物体表面にマトリクスを塗布することなく、物体表面の物質をそのまま分析することができ、電圧印加手段があるだけで実現できる点が利点である。DESIの中でも、ネブライザーガスを用いたエレクトロスプレーにより生成した帯電液滴を、試料に当てる方法がある。この方法には、イオン化条件が温和であること、簡便であること、様々な物質をイオン化できること、等の利点がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2005/0230635A1号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Analytical Chemistry (2000) p.652-657 (アナリティカルケミストリー 2000年、第652項から第657項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ネブライザーガスを用いたデソープションイオン化では、ガス流は試料を保持した試料台に当たって、試料台表面に沿って流れる。試料から生じたイオンもまた、このガス流に乗り試料台表面に沿って流れる。したがって、特許文献1に述べられているような、イオン取り込み管を試料台の上方から試料に接近させ、典型的には角度10度に傾けてイオンを捕集する方法では、生じたイオンの一部しか捕集できない。また、ガス流の流れる方向に別の試料が存在する場合、別の試料の方にも帯電液滴が達してイオン化が起こり、目的試料以外のイオンも観測されてしまう。したがって、より高感度で選択的な測定を行うためには、試料台表面近傍の目的イオンを最大限に捕集する機構が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明では、試料台表面に沿って流れるガス流の進行方向に、生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口を設け、これを試料台に接するように位置させる。または、試料台表面に沿って流れるガス流の進行方向の試料台に、段差をつけて試料の積載された面よりも低い面を設け、生じたイオンの広がり以上の幅および高さをもつイオン取り込み口の開口部底面を、試料の積載された面よりも低く設置する。また、試料台には、試料を置くための領域とイオン取り込み口を置くための領域を区別して設ける。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ネブライザーガスを用いたデソープションイオン化法において、試料イオンのイオン取り込み効率を向上させることができる。また、別の試料が誤ってイオン化されるのを防ぐことができ、測定の正確性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図2】イオン取り込み管の帯電液滴スプレーの中心軸からのずれと捕集されるイオン量の関係を示すグラフ。
【図3】イオン取り込み管の金属板表面からの距離と捕集されるイオン量の関係を示すグラフ。
【図4】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図5】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図6】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図7】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図8】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図9】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台と試料配置の例の図。
【図10】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台と試料配置の例の図。
【図11】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台と試料配置の例の図。
【図12】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台形状例の断面図。
【図13】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図14】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図15】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図16】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図17】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図18】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の(a)立体図 (b)断面図。
【図19】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の断面図。
【図20】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の立体図。
【図21】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例の立体図。
【図22】本発明によるイオン捕集装置に用いる試料台、イオン取り込み管の形状と配置例(a)上から見た図(b)断面図。
【図23】本発明によるイオン捕集装置を用いた液体クロマトグラフ/質量分析装置の一例の図。
【図24】本発明によるイオン捕集装置に用いる帯電液滴生成装置の一例の図。
【図25】本発明によるイオン捕集装置に用いるイオン取り込み管の形状と配置例の図。
【図26】本発明によるイオン捕集装置に用いるイオン取り込み管の形状と配置例の図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するための装置構成例を示す。試料は試料台に保持する。試料に対し、帯電物質を、ネブライザーガスとともに試料台と適切な角度で照射する。帯電物質としては、エレクトロスプレーやソニックスプレーなどのイオン化手段により生成した帯電液滴などが考えられる。照射された帯電物質との接触により、試料はイオン化して試料台から脱離する、あるいは試料台から脱離した後イオン化する。イオン化のために試料に照射するものは、それ以外にも試料のイオン化に必要なエネルギーを持った粒子であればよく、電子線、イオンビーム、高速原子、レーザー光、液滴などが考えられる。
【0012】
図2に、板に45度の角度で、ネブライザーガスを用いたエレクトロスプレーで生成させた帯電液滴スプレーを当て、スプレーを当てた点から当てた方向に4mm進んだ位置でイオンの横方向の広がりを測定した結果をグラフに示す。このグラフから、イオンは幅6mm程度の広がりを持つことがわかる。また、図3に、同様に板と垂直方向のイオンの広がりを測定した結果をグラフに示す。イオンは高さ1.2mm以下の範囲を流れていくことがわかる。これらの実験結果から、生じたイオンは、ネブライザーガスの流れに伴い、試料台表面を、幅6mm、高さ1.2mmの帯状に流れていくことがわかる。従って、このイオンが流れていく方向に、イオン取り込み管を配置するのがよいことがわかる。
【0013】
図1では、試料台の試料が存在しない領域に溝を設け、イオン取り込み管を、溝底面に接するように置く。イオン取り込み管は、室温よりも高温あるいは低温に設定することにより、目的のイオンのイオン化を促進することもできる。図2、図3の実験に用いた帯電液滴生成装置を用いた場合、イオン取り込み管の開口部の幅および高さは、試料イオンの広がる、幅6mm、高さ1.2mm以上の大きさであることが望ましい。入射イオンの中心軸と、イオン取り込み管の軸が同一平面上にあるように配置する。この配置により、試料に照射された帯電液滴により発生した試料イオンが、効率よく捕集され、高感度の測定が可能となる。
【0014】
図4〜8に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するための装置構成例を示す。複数の試料を同一試料台上に置く場合、試料間に間隔をあけて配置する。その間隔は、イオン取り込み管先端を試料の存在しない領域にのみ接することができるように、イオン取り込み管先端の接触長さ以上とする。また、イオン取り込み管が試料に接触しないよう、試料台に対して傾けて配置する、あるいはイオン取り込み管を屈曲させる。イオン取り込み管を、試料台の試料がない領域に接するように置き、スプレー管の中心軸と、イオン取り込み管の軸が同一平面上にあるように配置する。試料台に溝を設けない場合は、イオン取り込み管の先端部分は試料台に密着することが望ましい。例えば、図4に示すように、円い管の先端を斜めに切断し、その切断面で試料台に密着させることができる。この時、イオン取り込み管の開口部の高さ、および試料台に接する幅は、イオンが広がる高さ、幅以上であることが望ましい。この配置により、試料に入射した帯電物質により発生した試料イオンが、効率よく収集され、高感度の測定が可能となる。
【0015】
また例えば、図5に示すように、イオン取り込み管先端を変形させて平らな部分を作り、試料台に安定して接するようにすることができる。
【0016】
また例えば、図6に示すように、イオン取り込み管に突起を作り、それに対応して試料台にくぼみを作り、イオン取り込み管が一定の領域しか移動できないように制限することができる。あるいは、図7に示すように、試料台に突起を作り、それに対応してイオン取り込み管にくぼみを作り、イオン取り込み管が一定の領域しか移動できないように制限することができる。イオン取り込み管の移動を制限することにより、他の試料を誤って損傷することが防止できる。
【0017】
また例えば、図8に示すように、試料台において、試料と試料の間に溝を作った構造の場合、イオン取り込み管と試料台を接触させなくともよい。このとき、イオン取り込み管の開口部の底面は、試料が乗っている凸部の面よりも低くする必要がある。この配置により、凸部面近傍を面に沿って流れてきたイオンは、凸部と溝の境目に達しても直進し、イオン取り込み管に入る。加熱した試料取り込み管を試料台に接触させたくない場合など、試料台とイオン取り込み管の接触を避けたい場合に有効である。
【0018】
図9〜12に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するための試料台の例を示す。図9は、複数試料を一試料台に乗せる方法の一例である。試料を等間隔で配置することにより、電動のXYステージなどを用いて自動測定することが容易となる。また、試料間の間隔を、イオン広がり幅以上とすることで、試料間のデータの混合がなくなり、測定精度が向上する。
【0019】
図10は、試料間に溝を設けた試料台の一例である。溝にイオン取り込み管先端をはめ込むことにより、イオン取り込み管が溝部分の範囲でしか移動できなくなり、イオン取り込み管が試料と接触することによる試料の損傷防止できる。
【0020】
図11は、試料間に溝を設けた試料台の一例である。溝にイオン取り込み管先端をはめ込むことにより、イオン取り込み管が溝部分の範囲でしか移動できなくなり、イオン取り込み管が試料と接触することによる試料の損傷防止できる。
【0021】
図12は、試料台の形状と、試料の乗せ方の例である。図12(a)は、平面状の試料台に単純に試料を置く場合である。試料台の加工が不要であり、低価格が実現できる。図12(b)は、窪みを持った平板を使用し、窪みに試料を保持する例である。試料が特定の範囲内に正確に置かれるため、自動装置による測定が容易となる。図12(c)は、窪みを持った平板を使用し、窪みに、不要成分を除去するための物質(不要成分を結合する抗体、低分子量成分のみ吸収するゲル、特定の金属イオンを補足するキレート剤、など)や、試料を安定化する物質や、試料のイオン化を補助する物質をあらかじめ保持する。これらの物質の作用により、より質の良いデータを得ることができる。また、それぞれの窪みで、異なる種類の物質を置いておき、試料と既知物質の相互作用の度合いや、イオン化効率向上方法のスクリーニングをすることができる。
【0022】
図13〜22に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するためのイオン取り込み口および試料台の例を示す。
【0023】
図13は、円形のイオン取り込み管と溝付き試料台の組み合わせの例である。円形の管であっても、試料が載った凸面に接する開口部の幅および高さが、イオンの広がり以上の大きさであれば良い。この場合、通常の管を特に加工せずイオン取り込み管として使用できるため、簡便である。
【0024】
図14は、先端を矩形にしたイオン取り込み管と溝付き試料台の組み合わせの例である。この形状により、イオン取り込み管を試料台に安定に置くことができる。
【0025】
図15は、先端を矩形にしたイオン取り込み管と溝付き試料台の組み合わせの例である。質量分析装置のイオン取り込み口の直径が試料イオンの広がり幅よりも小さい場合は、イオン取り込み管の開口部幅を試料イオンの広がり幅よりも大きく広げた形状とすることで、発生した試料イオンが、効率よく収集され、高感度の測定が可能となる。
【0026】
図16は、先端の一部を平らにして試料台と接する部分の管厚みを薄くし、断面で見ると楔形の形状としたイオン取り込み管と、平面状の試料台の組み合わせの例である。イオン取り込み管の先端を楔形にすることにより、発生した試料イオンの流れがイオン取り込み管開口部断面により乱されずにイオン取り込み管に導入できるため、試料イオンの損失を低減し、高感度の測定が可能となる。
【0027】
図17は、イオン取り込み部先端を、1試料の上と側面を覆う形状とした一例である。この形状により、帯電物質や、発生した試料イオンが、隣接する試料に達するのを防ぐことができる。また、発生した試料イオンを損失なく収集し、高感度の測定が可能となる。また、外部に帯電物質が拡散する心配がなく、取り扱いが安全である。また、帯電物質導入管を固定することで、帯電物質導入管の先端が試料に接触するのを防止することができる。
【0028】
図18は、イオン取り込み部先端を、1試料の全体を覆う形状とし、帯電物質導入管をその一部から挿入する形状とした一例である。また、図19のように、ガス導入管をその一部から挿入することも可能である。これは、帯電物質導入管から発せられるガス流量より、イオン取り込み管が吸引するガス流量の方が多い場合に有効である。即ち、ガス導入管から純気体を適切な量導入することにより、外部から気体を吸い込んで異物が混入するのを防ぐことができる。また、外部に帯電物質が拡散する心配がなく、取り扱いが安全である。また、帯電物質導入管を固定することで、帯電物質導入管の先端が試料に接触するのを防止することができる。
【0029】
図20は、イオン取り込み管先端を、閉鎖された空間とし、帯電物質導入管をその一部から挿入する形状とした一例である。イオン取り込み管先端の一部にスロット状の穴をあける。スライドガラス、ろ紙切片などに担持した試料をここから挿入し、測定に供する。この形状は、個別に採取した試料を逐一測定したい場合に便利である。
【0030】
図21は、イオン取り込み部先端を閉鎖された空間とし、その底面に穴をあける形状とした一例である。帯電物質の広がり以下の面積範囲の試料を分析したい場合には、穴のサイズを小さくすることで対応できる。帯電物質導入管とイオン取り込み管を一体化し、さらにイオン取り込み管を可動式にすることが望ましい。目的の物体の表面に押し当てることで、物体表面に付着している物質を簡便に測定することができる。
【0031】
図22は、複数試料を載せる試料台の一例である。回転可能な円盤の周縁部に複数試料を一列に並べる。円盤面、および円周方向と垂直な平面内に、帯電物質導入管と、イオン取り込み管を固定する。円盤を回転することで、各資料を順番に測定できるため、複雑なXY方向の移動手段が不要である。
【0032】
図23に、本発明に基づくイオン捕集方法を用いた液体クロマトグラフ/質量分析装置の一例を示す。液体クロマトグラフから溶出した試料溶液を、一定量試料台に滴下する。試料台を一定距離移動させ、次の溶出液を一定量試料台に滴下する。これを液体クロマトグラフから試料が溶出する間繰り返す。試料台は、試料保持に適した温度に設定される。滴下された溶出液は、送風機などの手段により乾燥され、次に、帯電物質を入射してイオン化する。イオン化は、大気圧下で、エレクトロスプレーイオン化、ソニックスプレーイオン化などの手段により生成した帯電液滴を吹き付ける方法がもっとも簡便で温和な方法である。生成した試料イオンは本発明によるイオン取り込み管により質量分析計に導入され、質量分析を行う。このような液体クロマトグラフ溶出液の検出方法では、分析中にイオン化が不安定になっても再度同じ試料を測定することができる。また、試料台に、目的物質と反応して、特徴的な質量スペクトルを与えるための試薬をあらかじめ塗布しておくことで、一般的なLC/MSよりも多くの情報を得ることができる。
【0033】
図24は、本発明に基づくイオン捕集方法を用いた質量分析システムに用いる、帯電液滴を生成する手段の一例である。溶媒とネブライザーガスガイドの間に電位差を設けることで、帯電液滴が効率よく生成する。また、ネブライザーガスにより、放電が抑制され、安定した帯電液滴生成ができる。
【0034】
図25に、本発明に基づくイオン捕集方法を実現するためのイオン取り込み管の一例を示す。イオン取り込み管開口部は試料表面から生じたイオンを捕集するのに適切な大きさとする。さらに、イオン取り込み管の底面に、柔軟性に富んだ素材で作製したクッションを取り付ける。これにより、凹凸のある試料表面でも、クッション部が変形して試料表面に密着するため、イオン取り込み管底面と試料との間に隙間なく接触させることができ、生じたイオンを逃さずに取り込むことができる。
【0035】
図26に、本発明に基づくイオン捕集方法を用いた測定装置の一例を示す。イオン取り込み管先端を、1試料の全体を覆う形状とし、帯電物質のスプレー管をその一部から挿入する。イオン取り込み管先端の閉鎖空間の底面に小さな窓を開ける。イオン取り込み管先端底面を直接液体試料に接触させ、帯電物質を底面の窓に向けて吹き付ける。発生した試料イオンは質量分析装置に送られ、質量分析により液体試料の成分を分析する。イオン取り込み管内の圧力を調整することにより、液体試料の進入を防ぐことができる。この装置構成により、液体にイオン取り込み管先端を浸すという簡便な操作だけで、液体試料の質量分析による成分分析を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・試料、2・・・試料台、3・・・溝、4・・・帯電物質導入管、5・・・帯電物質、6・・・帯電液滴、7・・・溶媒、8・・・ネブライザーガス、9・・・ネブライザーガスガイド、10・・・イオン取り込み管、11・・・イオン取り込み管先端部、12・・・ガス導入管、13・・・試料台挿入口、14・・・クッション。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を設置する試料台と、
前記試料台に設置された試料に対し、試料をイオン化させるための粒子をガスと共に照射するイオン化手段と、
イオン化された試料を取り込むイオン取り込み手段とを備え、
前記イオン取り込み手段のイオン取り込み部は、前記試料台に設置された試料を覆うように配置されることを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン捕集装置において、前記イオン化手段は、前記イオン取り込み手段のイオン取り込み部の上方から挿入されていることを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン捕集装置において、前記イオン取り込み部は、前記試料台を挿入させる挿入口を有することを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項4】
試料を設置する試料台と、
前記試料台に設置された試料に対し、試料をイオン化させるためのエネルギーをガスと共に照射するイオン化手段と、
イオン化された試料を取り込むイオン取り込み手段とを備え、
前記試料台は、試料設置部が凸状であり、
前記イオン取り込み手段のイオン取り込み口の底面は、前記試料設置部以外の部分に、前記試料設置部よりも低く配置されることを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項1】
試料を設置する試料台と、
前記試料台に設置された試料に対し、試料をイオン化させるための粒子をガスと共に照射するイオン化手段と、
イオン化された試料を取り込むイオン取り込み手段とを備え、
前記イオン取り込み手段のイオン取り込み部は、前記試料台に設置された試料を覆うように配置されることを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン捕集装置において、前記イオン化手段は、前記イオン取り込み手段のイオン取り込み部の上方から挿入されていることを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン捕集装置において、前記イオン取り込み部は、前記試料台を挿入させる挿入口を有することを特徴とするイオン捕集装置。
【請求項4】
試料を設置する試料台と、
前記試料台に設置された試料に対し、試料をイオン化させるためのエネルギーをガスと共に照射するイオン化手段と、
イオン化された試料を取り込むイオン取り込み手段とを備え、
前記試料台は、試料設置部が凸状であり、
前記イオン取り込み手段のイオン取り込み口の底面は、前記試料設置部以外の部分に、前記試料設置部よりも低く配置されることを特徴とするイオン捕集装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2011−210734(P2011−210734A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124789(P2011−124789)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2006−57086(P2006−57086)の分割
【原出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2006−57086(P2006−57086)の分割
【原出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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