説明

イオン液体

【課題】ハロゲン原子を含まず、熱安定性に優れ、疎水性を示すイオン液体を提供すること。
【解決手段】式(1)で示されるホスホニウム塩からなることを特徴とするイオン液体。


(式中、R1は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示し、R2は、炭素原子数8〜20のアルキル基を示し、R3は、炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、nは、1〜12の整数を表す。ただし、R2の炭素原子数は、R1の炭素原子数よりも多い。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体に関し、さらに詳述すると、テトラアルキルホスホニウムカチオンと、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸アニオンとから構成されるイオン液体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで知られているイオン液体のほとんどは、アニオンにフッ素原子等のハロゲン原子を含んでいることから、環境負荷という点で問題がある上、製造コストが高いという問題もあり、それらの改善が望まれている。
この点に鑑み、ハロゲン原子を含まないタイプのイオン液体も開発されている(例えば、特許文献1,2参照)が、フッ素原子含有するイオン液体に比べ、粘度が高い、耐熱性が低い(分解点が低い)等の問題があった。
【0003】
また、一般にイオン液体は親水性を示すものが多く、含水率を低くすることが要求される場合や、水との分離が必要な場合など、その親水性が問題となることも多い。
この点、水と相分離する程度の疎水性を有するイオン液体も開発されている(例えば、特許文献2参照)が、このイオン液体はフッ素原子を含むものである。
【0004】
このように、ハロゲンフリーで耐熱性に優れ、かつ疎水性のイオン液体はこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−82534号公報
【特許文献2】特開2005−232019号公報
【特許文献3】特開2005−314332号公報
【特許文献4】特表2005−535690号公報
【特許文献5】特表2009−543105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン原子を含まず、熱安定性に優れ、疎水性を示すイオン液体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、比較的長いアルキル鎖を有する非対称のテトラアルキルホスホニウムカチオンと、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸アニオンとから構成される塩がイオン液体となることを見出すとともに、このイオン液体が、ハロゲンフリーであるにも関わらず熱安定が良好であるとともに、疎水性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
なお、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸アニオンとオニウムイオンとからなる塩は、例えば、特許文献4,5に開示されているが、当該塩はイオン液体ではない。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で示されるホスホニウム塩からなることを特徴とするイオン液体、
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2は、炭素数8〜20のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、nは、1〜12の整数を表す。ただし、R2の炭素数は、R1の炭素数よりも多い。)
2. 前記R2が、炭素数10〜20の直鎖アルキル基である1のイオン液体、
3. 前記R1が、n−ブチル基である1または2のイオン液体、
4. 前記R3が、メチル基である1〜3のいずれかのイオン液体、
5. 前記nが、3である1〜4のいずれかのイオン液体
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイオン液体は、ハロゲンフリーであって環境負荷が小さく、またハロゲンフリーにも関わらず良好な耐熱性を発揮する。
また、疎水性を示すものであるため、水と容易に分離可能であるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られた化合物(1)の1H−NMRスペクトル図である。
【図2】実施例1で得られた化合物(1)の分解点を示すチャートである。
【図3】実施例2で得られた化合物(2)の1H−NMRスペクトル図である。
【図4】実施例2で得られた化合物(2)の分解点を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
上記式(1)において、炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、c−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、c−ブチル、n−ペンチル、c−ペンチル、n−ヘキシル、c−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル基等が挙げられる。
炭素数8〜20のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、例えば、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−エイコシル基等が挙げられる。
炭素数1〜8のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、上記炭素数1〜10のアルキル基で例示した、炭素数1〜8のものと同様の基が挙げられる。
【0012】
特に本発明において、R1としては、炭素数2〜8の直鎖アルキル基が好ましく、炭素数3〜8の直鎖アルキル基がより好ましく、炭素数4〜8の直鎖アルキル基がより一層好ましく、本発明のイオン液体の特性(疎水性、耐熱性)および製造コストなどを考慮すると、n−ブチル基が最適である。
2としては、本発明のイオン液体の特性(疎水性、耐熱性)を考慮すると、炭素数10〜20の直鎖アルキル基が好ましく、炭素数12〜20の直鎖アルキル基がより好ましい。
3としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基が最適である。
nとしては、1〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、3〜5がより一層好ましく、コスト面を考慮すると、nは3が最適である。
【0013】
本発明のイオン液体は、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸塩と、R132PX(Xはハロゲン原子)で示されるテトラアルキルホスホニウムハライドとを、溶媒中で反応させて製造することができる。
この場合、スルホン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩等を用いることができる。
また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられるが、塩素原子、臭素原子が好ましい。
溶媒としては、水、有機溶媒どちらでも構わないが、生成した本発明のイオン液体が疎水性であって、水と2層に分離することから、水を用いることで生成物の分離等の操作が容易になる。
【0014】
上記反応における、R132PX(Xはハロゲン原子)とトリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸塩との使用比率は、モル比で5:1〜1:5程度とすることができる。通常は1:1に近い比率で行うことが好ましい。
反応終了後は、通常の後処理を行って目的物を得ることができる。
【0015】
また、本発明のイオン液体のその他の製造方法として、イオン交換樹脂を用いた中和法も挙げることができる。
この中和法の場合、まずトリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸塩と、R132PXで示されるテトラアルキルホスホニウム塩を、各々陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いて、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸およびテトラアルキルホスホニウム水酸化物に変換した後、両者を混合することによって得ることができる。
本発明においてこの中和法を適用する場合、スルホン酸、ホスホニウム塩共に、イオン交換するものならば、対イオンの制限は特にない。しかし、コスト面から、スルホン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が好ましい。ホスホニウム塩との対イオンとしてはハロゲンイオンが好ましく、コスト面から、塩素イオン、臭素イオンが中でも特に好ましい。
上記中和反応における、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸及びテトラアルキルホスホニウム水酸化物のモル比は特に制限がなく、5:1〜1:5程度とすることができる。コスト面を考慮すると、1:1に近い比率で行うことが好ましく、特に水層の中和点を反応終結点とするのが好ましい。
本発明のイオン液体は、トリアルキルシリル基含有アルキルスルホン酸およびテトラアルキルホスホニウム水酸化物を混合後に生じる有機層を水層から分離する事で、簡単に得ることができる。
【0016】
以上説明した本発明のイオン液体は、等容量の水と混合した場合に完全に2層分離する程度の疎水性を有しているから、反応溶媒や抽出溶媒として有用であり、特に、ハロゲンフリーのイオン液体であるため、環境負荷の少ないグリーン溶媒として有用である。
また、蓄電デバイスの電解質(電解液)や、ゴム、プラスチック等の高分子材料に添加する帯電防止剤や可塑剤などとして用いることができる。特に、本発明のイオン液体は熱安定性が良好であるため、耐熱性が要求されるデバイスの電解質(電解液)や、耐熱性が要求される高分子材料からなる部材に用いる帯電防止剤や可塑剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用した分析装置および条件は下記のとおりである。
[1]1H−NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 AL−400
溶媒:重クロロホルム
[2]融点およびTg
装置:セイコーインスツル(株)製 DSC 6200
測定条件:20℃〜60℃まで毎分10℃昇温、60℃〜−90℃まで毎分1℃降温、−90℃で1分間保持後、−90℃〜60℃まで毎分1℃昇温の条件で測定した。
[3]分解点
装置:セイコーインスツル(株)製 TG−DTA 6200
測定条件:空気雰囲気下、30℃〜500℃まで毎分10℃昇温の条件で測定した。
【0018】
[実施例1]化合物(1)の合成
【化2】

【0019】
3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸 ナトリウム塩(シグマアルドリッチ社製)1.00gをイオン交換水120mlに溶解した。この溶液に予めトリブチルドデシルホスホニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)2.03gをイオン交換水80mlに溶解した溶液を加え、室温で一晩撹拌した。この時反応液は最初白濁し、一晩反応後静置すると2層に分離した。この反応液に酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)50mlを加えて有機層の抽出を行った。この操作をさらに2回繰り返し、有機層を合わせたものをイオン交換水50mlで2回洗浄を行った。有機層に炭酸カリウム(和光純薬工業(株)製)を20g程度投入し、乾燥、固体分を炉別後、溶媒留去し、目的物である化合物(1)を無色透明液体として2.22g(収率87%)得た。化合物(1)の1H−NMRスペクトルを図1に示す。
また、この化合物の融点は観測されず、Tgは−63℃であり、図2に示されるように、分解点は316℃(10%)であった。
さらに、この化合物(1)を等容量の水と混合したところ、完全に2層に分離し、疎水性であることが確認された。
【0020】
[実施例2]化合物(2)の合成
【化3】

【0021】
トリブチルドデシルホスホニウムブロマイド2.03gをトリブチルヘキサデシルホスホニウムブロマイド(東京化成工業(株)製)2.28gに変更した以外は、実施例1と同様の操作で、化合物(2)を無色透明液体として2.12g(収率77%)得た。化合物(2)の1H−NMRスペクトルを図3に示す。
また、この化合物の融点は−41℃であり、図4に示されるように、分解点は322℃(10%)であった。
さらに、この化合物(2)を等容量の水と混合したところ、完全に2層に分離し、疎水性であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるホスホニウム塩からなることを特徴とするイオン液体。
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基を示し、R2は、炭素数8〜20のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、nは、1〜12の整数を表す。ただし、R2の炭素数は、R1の炭素原子数よりも多い。)
【請求項2】
前記R2が、炭素数10〜20の直鎖アルキル基である請求項1記載のイオン液体。
【請求項3】
前記R1が、n−ブチル基である請求項1または2記載のイオン液体。
【請求項4】
前記R3が、メチル基である請求項1〜3のいずれか1項記載のイオン液体。
【請求項5】
前記nが、3である請求項1〜4のいずれか1項記載のイオン液体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14536(P2013−14536A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147937(P2011−147937)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】