説明

イオン液体

【課題】 リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、色素増感太陽電池の電解液等の電気デバイス用材料として、また、各種反応用の溶媒として有用な、常温に於いて低粘度であり、安価な原料で簡便に製造可能なイオン液体を提供する。
【解決手段】 本発明は、カチオン成分及びアニオン成分からなるイオン液体であって、前記カチオン成分は有機カチオンであり、前記アニオン成分は下記化学式(1)で示される化学構造を含むことを特徴とするイオン液体。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気デバイス用材料、各種反応用溶媒等に使用可能なイオン液体に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、一般に、イミダゾリニウム等のカチオンと、Br、Cl、BF、PF、(CFSO等のアニオンとの組み合わせで構成され、難燃性、不揮発性、高いイオン伝導性、優れた熱安定性を示すため、電池やキャパシタ用の電解液、環境適合性の高い溶媒(グリーン溶媒)等への応用が広く研究されている。
【0003】
イオン液体は上記のように従来の有機溶媒にない優れた特徴を持っている。しかし、一方では粘度が高いという特徴も有する。粘度が高いと液体の移送や濾過の作業性が低下する。また、反応用溶媒として用いる場合は、反応速度が低下し、電池の電解液として用いる場合は、充放電に関与するイオンの移動度が低くなる結果、充放電速度が低下する。このように、イオン液体を利用する場合、粘度の高さが障害となることが多く、低粘度のイオン液体が求められている。
【0004】
多くの場合、イオン液体の粘度は、同じアニオンで比較すると、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンの場合に最低となることが知られている。1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとの組み合わせで、常温に於いて低粘度のイオン液体としては、特許文献1に(FSOをアニオンとするイオン液体が開示されており、粘度は非特許文献1に25℃で17mPasと報告されている。また、非特許文献2に(CN)及び(CN)をアニオンとするイオン液体が報告されており、粘度は22℃でそれぞれ17及び18mPasである。さらに、特許文献2にはCF=CFBFをアニオンとするイオン液体が開示されており、粘度は25℃で16mPasである。
【0005】
アンモニウムイオンをカチオン成分とする低粘度のイオン液体としては、特許文献3にN−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウムトリフルオロ(ペンタフルオロエチル)ボレートが開示されており、粘度は25℃で37mPasである。
【0006】
しかしながら、これらのイオン液体は、製造に高価な原料を必要としたり、多くの反応工程が必要であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO99/40025号
【特許文献2】WO2006/070545号
【特許文献3】WO2005/063773号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】第一工業製薬株式会社社報,No.555,pp16,2011
【非特許文献2】Inorganic Chemistry,Vol.43,pp1458−1462,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、常温で低粘度であり、安価な原料で簡便に製造可能なイオン液体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、本発明者は、鋭意研究して以下の発明がなされた。
【0011】
本発明は、カチオン成分及びアニオン成分からなるイオン液体であって、上記カチオン成分は有機カチオンであり、上記アニオン成分は下記化学式(1)で示される化学構造を含むイオン液体に関する。
【0012】
【化1】

【0013】
また、上記カチオン成分は、下記化学式(2)で示される群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。但し、式中、Zは窒素原子又はリン原子、R〜Rは、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´〜R´12は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【0014】
【化2】

【0015】
また、本発明のイオン液体は、下記化学式(3)で示される構造を有することが好ましい。
【0016】
【化3】

【0017】
さらに、本発明のイオン液体は、下記化学式(4)で示される構造を有することが好ましい。
【0018】
【化4】

【0019】
さらに、本発明のイオン液体は、下記化学式(5)で示される構造を有することが好ましい。
【0020】
【化5】

【0021】
さらに、本発明のイオン液体は、下記化学式(6)で示される構造を有することが好ましい。
【0022】
【化6】

【発明の効果】
【0023】
本発明のイオン液体は常温で低粘度である。従って、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、色素増感太陽電池の電解液等の電気デバイス用材料として、また、各種反応用の溶媒として有用である。また、本発明のイオン液体は、安価に入手可能な原料を用い、少ない反応工程で簡便に製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について更に詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態及び実施例に限定されない。
【0025】
イオン液体
イオン液体に関しては幾つかの定義が提唱されている(イオン液体II―驚異的な進歩と多彩な近未来―,シーエムシー出版,pp4−15,2006)。本発明において、イオン液体とは、少なくとも一方が有機イオンであるカチオンとアニオンのみから成り、融点が100℃以下である物質を示す。また、本発明のイオン液体は、少なくとも常温で液体であることが好ましい。
【0026】
アニオン成分
本発明のイオン液体を構成するアニオン成分には下記化学式(1)で示されるアニオンが用いられる。
【0027】
【化7】

【0028】
カチオン成分
本発明において用いられるカチオン成分は特に制限されない。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンやテトラフルオロボレートアニオン等とイオン液体を形成するカチオンを本発明に於いても用いることができる。好ましいカチオンとしては下記化学式(2)で示されるカチオンが挙げられる。但し、式中、Zは窒素原子又はリン原子、R〜Rは、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´〜R´12は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【0029】
【化8】

【0030】
〜Rとしては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、トリメチルシリルメチル基、アリル基が好ましい。R´〜R´12としては水素原子、メチル基が好ましい。好ましいカチオンとしてより具体的には、下記化学式(7)で示されるカチオンがあげられる。但し、式中、nは1〜10の整数を示す。
【0031】
【化9】

【0032】
イオン液体の製造方法
本発明のイオン液体の代表的な製造法を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<第一の製造法>
【0034】
【化10】

【0035】
上記反応式(1)で示される第一の製造法は、チオシアン酸イオン又はイソチオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体と三フッ化ホウ素とを反応させる製造法である。式中、Cは本発明のイオン液体を構成するカチオン、SCNはチオシアン酸イオン、NCSはイソチオシアン酸イオン、nは0〜2の整数、Lは三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物である。
チオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体は欧州特許第1512460号に記載の公知の方法により製造することができる。具体的には、目的カチオンのハロゲン化物とチオシアン酸塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩等)とを反応させることにより製造することができる。また、イソチオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体も同様に製造することができる。三フッ化ホウ素は気体、ジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、ピペリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体として製造に用いることができる。三フッ化ホウ素はチオシアン酸イオン又はイソチオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体1モルに対して1〜2モル反応させることが好ましい。反応は溶媒を用いても用いなくても実施することができる。溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等の二トリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステルを用いることができる。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応温度としては−50℃〜50℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒及び過剰の三フッ化ホウ素を留去することにより、本発明のイオン液体を得ることができる。
<第二の製造法>
【0036】
【化11】

【0037】
上記反応式(2)で示される第二の製造法は、先ずトリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸塩を製造し、続いてトリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸塩と目的カチオンのハロゲン化物塩とを反応させる製造法である。式中、MはLi、Na、K、NH、Agのいずれかのカチオン、SCNはチオシアン酸イオン、NCSはイソチオシアン酸イオン、nは0〜2の整数、Lは三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物、Cは本発明のイオン液体を構成するカチオン、XはCl、Br、Iのいずれかのアニオンを示す。
トリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。トリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸塩はチオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩と三フッ化ホウ素とを反応させることにより製造することができる。チオシアン酸塩及びイソチオシアン酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。三フッ化ホウ素は気体、ジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、ピペリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体として製造に用いることができる。三フッ化ホウ素はチオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩1モルに対して1〜2モル反応させることが好ましい。反応には溶媒を用いることが好ましく、溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等の二トリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。反応温度としては−50℃〜50℃が好ましい。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒及び過剰の三フッ化ホウ素を留去することにより、トリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸塩を得ることができる。
イオン液体の製造は、目的カチオンの電荷とトリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸アニオンの電荷が等しくなるように反応させることにより実施することができる。例えば、1価のカチオンの場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオンの場合は1:2のモル比で反応させる。反応溶媒としては水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンが好ましい。目的カチオンのハロゲン化物塩及びトリフルオロ(イソチオシアナト)ホウ酸塩はそれぞれ純度99%以上に精製して用いることが好ましく、それぞれの溶液を調整し、一方の溶液に他方の溶液を添加することにより反応を行う。反応は空気中、常温で実施することができる。ハロゲン化物塩が副生するが、濾過あるいはイオン液体が疎水性の場合には、水で洗浄することによりハロゲン化物塩を除去することができる。
<第三の製造法>
【0038】
【化12】

【0039】
上記反応式(3)で示される第三の製造法は、チオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩と目的カチオンのハロゲン化物とを三フッ化ホウ素存在下で反応させる製造法である。式中、MはLi、Na、K、NH、Agのいずれかのカチオン、SCNはチオシアン酸イオン、NCSはイソチオシアン酸イオン、Cは本発明のイオン液体を構成するカチオン、XはCl、Br、Iのいずれかのアニオン、nは0〜2の整数、Lは三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物を示す。
チオシアン酸塩及びイソチオシアン酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。反応は目的カチオンの電荷とチオシアン酸アニオン又はイソチオシアン酸アニオンの電荷が等しくなるように実施する。例えば、1価のカチオンの場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオンの場合は1:2のモル比で反応させる。三フッ化ホウ素は気体、ジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、ピペリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体として製造に用いることができる。三フッ化ホウ素はチオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩1モルに対して1〜2モル反応させることが好ましい。反応には溶媒を用いることが好ましく、溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等の二トリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応温度としては−50℃〜50℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒及び過剰の三フッ化ホウ素を留去することにより、本発明のイオン液体を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0041】
イオン液体の製造
製造した化合物の構造確認は元素分析又はNMRにより行う。NMR測定装置はVarian社製Mercury−300又はINOVA−600を使用し、元素分析装置はPerkinElmer社製2400IIを使用する。
【0042】
〔実施例1〕1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート(化学式(3))の製造
【0043】
【化13】

【0044】
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は予め蒸留精製したものを使用し、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートはIoLiTec社製のものを使用する。滴下ロートを備えた200mLの3つ口フラスコに、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート25.00g(147.7mmol)とジクロロメタン50mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0〜5℃に冷却しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体25.08g(176.7mmol)を35分間かけて滴下する。反応を完了させるために、滴下終了後、室温でさらに17時間攪拌を続ける。ジクロロメタンと過剰の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体とを減圧留去し、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート34.94g(収率100%)が得られる。製造したイオン液体の構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0045】
〔NMRスペクトルデータ〕
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm)8.55(1H,s),7.39(1H,t,J=1.8Hz),7.36(1H,t,J=1.8Hz),4.26(2H,q,J=7.4Hz),3.95(3H,s),1.57(3H,t,J=7.4Hz)
13C−NMR(75MHz,CDCl
δ(ppm)135.44,128.41,123.40,121.77,44.92,35.71,14.58
〔実施例2〕1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート(化学式(4))の製造
【0046】
【化14】

【0047】
<1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムクロライドの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、1−メチルピロリジンは予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートとジムロート冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、1−メチルピロリジン40.00g(469.8mmol)とアセトン300mLとを入れる。0℃で攪拌しながらクロロメチルメチルエーテル45.38g(563.7mmol)を190分間かけて滴下する。そのまま0℃で16時間攪拌した後、室温へ昇温する。生成した沈殿を濾過し、アセトン200mLで洗浄、減圧乾燥する。その結果、1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムクロライドが57.66g(収率74%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C50.75,H9.73,N8.46
分析値:C50.98,H9.72,N8.56
<1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムチオシアネートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムクロライド25.54g(154.2mmol)を200mLナス型フラスコに秤量し、エタノール80mLを加え溶液とする。別の200mLナス型フラスコにチオシアン酸ナトリウム12.50g(154.2mmol)を秤量し、エタノール20mLを加え溶液とする。室温で攪拌しながら1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムクロライドの溶液にチオシアン酸ナトリウムの溶液を添加する。フラスコに残った溶液はエタノール20mLで洗い流し、1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムクロライドの溶液に残さず加える。添加と同時に白色の沈殿が生成する。反応を完了させるために、添加終了後、さらに16時間攪拌を続ける。生成した沈殿を濾別し、エタノール80mLで洗浄する。濾液よりエタノールを減圧留去した後、ジクロロメタン150mLを加え、−20℃で20時間静置する。析出した沈殿を−20℃で濾別し、ジクロロメタンを減圧留去する。その結果、1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムチオシアネートが28.68g(収率99%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C51.10,H8.56,N14.88
分析値:C51.05,H8.75,N14.51
<1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートを備えた200mLの3つ口フラスコに、1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムチオシアネート23.00g(122.2mmol)とジクロロメタン40mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0〜5℃に冷却しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体21.09g(148.6mmol)を35分間かけて滴下する。反応を完了させるために、滴下終了後、室温でさらに15時間攪拌を続ける。ジクロロメタンと過剰の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体とを減圧留去し、1−メチル−1−メトキシメチルピロリジニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート31.26g(収率100%)が得られる。製造したイオン液体の構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0048】
〔NMRスペクトルデータ〕
H−NMR(600MHz,CDCl
δ(ppm)4.54(2H,s),3.68(3H,s),3.62(2H,m),3.42(2H,m),3.10(3H,s),2.26(4H,m)
13C−NMR(75MHz,CDCl
δ(ppm)128.63,90.78,60.96,60.12,46.92,21.92
〔実施例3〕P,P,P−トリエチル−P−メトキシメチルホスホニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート(化学式(6))の製造
【0049】
【化15】

【0050】
<トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロマイドの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。滴下ロートとジムロート冷却管を備えた500mLの3つ口フラスコに、トリエチルホスフィン20wt%トルエン溶液85.90g(145.4mmol)とトルエン20mLとを入れる。室温で攪拌しながらブロモメチルメチルエーテル45.38g(563.7mmol)を20分間かけて滴下する。50℃で3時間攪拌した後、室温で15時間攪拌する。生成した沈殿を濾過し、トルエン100mLで洗浄、減圧乾燥する。その結果、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロマイドが35.26g(収率100%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C39.52,H8.29
分析値:C39.71,H8.44
<トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムチオシアネートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロマイド35.79g(147.2mmol)を300mLナス型フラスコに秤量し、エタノール80mLを加え溶液とする。別の200mLナス型フラスコにチオシアン酸ナトリウム11.94g(147.3mmol)を秤量し、エタノール20mLを加え溶液とする。室温で攪拌しながらトリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロマイドの溶液にチオシアン酸ナトリウムの溶液を添加する。フラスコに残った溶液はエタノール10mLで洗い流し、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムブロマイドの溶液に残さず加える。添加と同時に白色の沈殿が生成する。反応を完了させるために、添加終了後、さらに16時間攪拌を続ける。生成した沈殿を濾別し、エタノール10mLで洗浄する。濾液よりエタノールを減圧留去した後、ジクロロメタン150mLを加え、水15mLで3回洗浄し、ジクロロメタンを減圧留去する。その結果、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムチオシアネートが24.29g(収率75%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C48.85,H9.11,N6.33
分析値:C49.11,H8.90,N6.48
<トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートを備えた200mLの3つ口フラスコに、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムチオシアネート24.13g(109.0mmol)とジクロロメタン35mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0〜5℃に冷却しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体18.65g(131.4mmol)を21分間かけて滴下する。反応を完了させるために、滴下終了後、室温でさらに17時間攪拌を続ける。ジクロロメタンと過剰の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体とを減圧留去し、トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート31.36g(収率99%)が得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C37.39,H6.97,N4.84
分析値:C37.15,H6.77,N4.85
〔実施例4〕トリエチルスルホニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート(化学式(7))の製造
【0051】
【化16】

【0052】
<トリエチルスルホニウムヨージドの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。滴下ロートを備えた500mLの3つ口フラスコに、ジエチルスルフィド42.94g(476.1mmol)とアセトン150mLとを入れる。室温で攪拌しながらヨウ化エチル105.69g(513.0mmol)を165分間かけて滴下する。遮光下、室温で183時間攪拌した後、生成した沈殿を濾過し、トルエン100mLで洗浄、減圧乾燥する。その結果、トリエチルスルホニウムヨージドが42.53g(収率36%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C29.28,H6.14
分析値:C29.35,H6.21
<トリエチルスルホニウムチオシアネートの製造>
トリエチルスルホニウムヨージド42.47g(172.5mmol)を200mLナス型フラスコに秤量し、水20mLを加え溶液とする。別の300mLナス型フラスコにチオシアン酸銀34.39g(207.2mmol)を秤量し、水85mLを加える。室温で攪拌しながらチオシアン酸銀のスラリーにトリエチルスルホニウムヨージドの溶液を添加する。フラスコに残った溶液は水40mLで洗い流し、チオシアン酸銀のスラリーに残さず加える。40℃で1時間攪拌した後、室温で16時間攪拌する。生成した沈殿を濾別し、水40mLで洗浄する。濾液に水900mLを加えると沈殿が析出する。3℃で20時間静置した後、沈殿を濾別し、濾液から水を減圧留去する。その結果、トリエチルスルホニウムチオシアネートが29.82g(収率97%)得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C47.41,H8.53,N7.90
分析値:C47.28,H8.48,N8.01
<トリエチルスルホニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートを備えた200mLの3つ口フラスコに、トリエチルスルホニウムチオシアネート23.01g(129.8mmol)とジクロロメタン40mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0〜5℃に冷却しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体22.04g(155.3mmol)を23分間かけて滴下する。反応を完了させるために、滴下終了後、室温でさらに16時間攪拌を続ける。ジクロロメタンと過剰の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体とを減圧留去し、トリエチルスルホニウムトリフルオロ(イソチオシアナト)ボレート31.77g(収率100%)が得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C34.30,H6.17,N5.72
分析値:C33.93,H6.14,N5.52
粘度の測定
イオン液体の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製、TVB−10M)を用い、窒素雰囲気のグローブボックス内で測定する。また、粘度測定時のイオン液体の温度も測定する。表1に粘度測定の結果を示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のイオン液体は常温で低粘度である。従って、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、色素増感太陽電池の電解液等の電気デバイス用材料として、また、各種反応用の溶媒として有用である。また、本発明のイオン液体は、原料であるチオシアン酸塩や三フッ化ホウ素が安価に入手可能であり、1〜2段階という少ない反応工程で製造が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン成分及びアニオン成分からなるイオン液体であって、
前記カチオン成分は有機カチオンであり、
前記アニオン成分は下記化学式(1)で示される化学構造を含むことを特徴とするイオン液体。
【化1】

【請求項2】
前記カチオン成分は下記化学式(2)で示される群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のイオン液体。
但し、式中、Zは窒素原子又はリン原子、R〜Rは、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´〜R´12は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【化2】

【請求項3】
下記化学式(3)で示される構造を有する、請求項1に記載のイオン液体。
【化3】

【請求項4】
下記化学式(4)で示される構造を有する、請求項1に記載のイオン液体。
【化4】

【請求項5】
下記化学式(5)で示される構造を有する、請求項1に記載のイオン液体。
【化5】

【請求項6】
下記化学式(6)で示される構造を有する、請求項1に記載のイオン液体。
【化6】


【公開番号】特開2013−47217(P2013−47217A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163191(P2012−163191)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】