説明

イソシアナートの製造方法

【課題】アミン化合物とホスゲンとの反応によりイソシアナートを製造する方法において、反応後、イソシアナートを含有する溶液を濃縮後、回収した溶媒を反応槽に戻すことにより、回収した溶媒中に含有しているホスゲンを再利用する際、回収した溶媒中に含有しているホスゲン量をできるだけ正確に推定して、新たに仕込むホスゲン量を予測する方法を提供すること。
【解決手段】溶媒中でアミン化合物とホスゲンとを還流させながら反応させ、得られたイソシアナートを含有する溶液を濃縮後、回収した溶媒をリサイクルしてアミン化合物と混合し、回収した溶媒中に含有するホスゲンを再度原料として使用するイソシアナートの製造方法において、ホスゲン化完結時の槽内温度を測定することにより、新たに仕込むホスゲンの添加量を算出することを特徴とするイソシアナートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン化合物とホスゲンとの反応によりイソシアナートを製造する方法に関する。特に、反応後、イソシアナートを含有する溶液を濃縮後、回収した溶媒を原料に戻すことにより、回収した溶媒中に含有しているホスゲンを再利用する方法において、新たに仕込むホスゲン量を容易、かつ、できるだけ正確に予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミン化合物とホスゲンとの反応により、イソシアナートを製造する場合、反応後、イソシアナートを含有する溶液を濃縮し、溶媒を回収して原料に戻すことにより、回収した溶媒中に含有しているホスゲンを再利用する方法が取られている。その場合、次の製造において新しく添加するホスゲンの量は、アミン化合物との反応に必要なホスゲンの量から回収した溶媒中に含有しているホスゲン量を差し引いた量となるため、回収した溶媒中に含有しているホスゲン量を正確に測定することが必要であった。
しかしながら、回収した溶媒中に含有しているホスゲン量を直接測定する方法は、ホスゲンが非常に危険な化合物であるため困難であった。
そこで、やむを得ず、得られたイソシアナート中の加水分解性塩素濃度がホスゲンの仕込み量により変動することから、従来は、イソシアナート中の加水分解性塩素濃度を定期的に測定して規格値の範囲内に入るようにホスゲンの仕込み量を予測して調整していた。しかしながら、回収した溶媒中に含有しているホスゲン量が一定ではないため、前回と同量のホスゲンを添加しても、多すぎたり、少なすぎたりすることが起こり、その結果イソシアナート中の加水分解性塩素濃度が規格値を外れることがあった。
そのため、回収した溶媒中のホスゲン量をできるだけ正確に推定できる方法が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、アミン化合物とホスゲンとの反応によりイソシアナートを製造する方法において、反応後、イソシアナートを含有する溶液を濃縮後、回収した溶媒を反応槽に戻すことにより、回収した溶媒中に含有しているホスゲンを再利用する際、回収した溶媒中に含有しているホスゲン量をできるだけ正確に推定して、新たに仕込むホスゲン量を予測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討の結果、パラトルエンスルホンアミド等のアミン化合物をホスゲンと反応させてイソシアナートを製造する際、ホスゲン化反応が完結した槽内の温度が、槽内に残存するホスゲンの量と相関を有することを見出し、その結果、次回に仕込むホスゲンの添加量を算出することができるようになり、本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、溶媒中でアミン化合物とホスゲンとを還流させながら反応させ、得られたイソシアナートを含有する溶液を濃縮後、回収した溶媒をリサイクルしてアミン化合物と混合し、回収した溶媒中に含有するホスゲンを再度原料として使用するイソシアナートの製造方法において、ホスゲン化完結時の槽内温度を測定することにより、新たに仕込むホスゲンの添加量を算出することを特徴とするイソシアナートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、新たに仕込むホスゲンの添加量をより正確に算出することができるようになり、その結果、イソシアナート製品中の加水分解性塩素濃度が規格内のものを安定して製造することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、溶媒中、触媒の存在又は非存在下でアミン化合物をホスゲンと反応させる方法であり、反応は、還流させて加熱熟成する。
【0008】
ホスゲンを反応液に導入する方法としては特に制限されず、反応液にホスゲンガスを吹込む方法、液体状のホスゲンを反応液に添加する方法、ホスゲンの多量体を反応液に添加して、反応系内でホスゲンを発生させる方法等が挙げられるが、簡便かつ効率よく目的とするイソシアナート化合物を得ることができることから、反応液にホスゲンガスを吹込む方法が好ましい。
ホスゲンガスを吹込む方法としては、例えば、還流冷却器、温度計、ホスゲン吹き込み管及び攪拌機を備えた反応器中に原料の芳香族スルホンアミド、反応溶媒又はホスゲン及びウレアを含む回収された溶媒を仕込んだ後、所定の温度まで加熱し、反応温度を保持しながらホスゲンを吹き込む。
ホスゲンの使用量は、原料であるアミン化合物のアミノ基1モルに対し、過剰に用いられ、通常は1.1〜2.0モル(又は当量)、好ましくは1.4〜1.7モルである。
【0009】
ホスゲンを導入するときの反応液の温度(ホスゲン吹込み開始温度)は、ホスゲン吹込み開始温度があまり低いと反応が進行しないため、ホスゲン吹込み開始温度を一定温度以上とする必要がある。本発明においては、ホスゲンの吹込み開始温度は、好ましくは80℃〜170℃、より好ましくは90℃〜110℃である。
【0010】
ホスゲン化反応において使用される触媒は、ホスゲン化の反応終了後、溶媒と共に留出させ、回収使用するのが有利であり、そのため反応の溶媒の沸点に近い沸点を有する炭素数3〜8の容易に入手できる脂肪族アミン類で、例えば、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、1−メチルブチルアミン、シクロヘキシルアミンなどが使用される。
【0011】
ホスゲン化反応終了後は、完結を2時間行う。その後、溶媒とホスゲン及び触媒を留去した後、濃縮液を蒸留して目的とするイソシアナートを取り出す。
【0012】
本発明においては、反応終了後に常圧下又は減圧下で留去した溶媒を回収して、次の反応に利用することにより、溶媒中に溶解しているホスゲンを再利用する。
そのため、本発明において、ホスゲンの仕込み量は、ホスゲンの必要量から、回収されて再利用される溶媒中に含有しているホスゲンを差し引いた量となる。溶媒中のホスゲンの量は、ホスゲンが毒性の強い危険物質であるので直接測定することは容易ではないため、以下のようにして行う。
ホスゲン化が完結した後、反応槽内の温度を測定する。反応槽内の温度は、反応槽内のホスゲン量、及び再利用される溶媒中のホスゲン量に相関しており、反応槽内の温度の高低により、次回のホスゲン添加量を増減することができる。そのため、毎回、あるいは定期的にホスゲン化が完結した後の反応槽内の温度を測定し、次回に仕込むホスゲン量を決める。
【0013】
本発明において使用できるアミン化合物及び溶媒は以下のとおりである。
本発明において使用しうるアミン化合物は、ホスゲンと反応してイソシアナートを生成するものである限り、特に制限はないが、1以上の一級アミノ基を有する一級アミンは、ホスゲンと反応して、1以上のイソシアネート基を有する1以上のイソシアネートを生成することができるので、本発明において使用しうる。
アミン化合物としては、好ましくは芳香族アミン類、スルホンアミド類、アミド類等が挙げられる。
具体例としては、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン等の芳香族アミン類;アセトアミド、ベンゾイルアミド等のアミド類;メチルスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルイルスルホンアミド等のスルホンアミド類等が挙げられる。
【0014】
本発明において使用する溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限はないが、あまりに沸点が低いものは反応が遅くなるため好ましくない。用いる不活性有機溶媒の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、四塩化炭化水素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、o−クロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
有機溶媒の使用量は、用いる有機溶媒やアミン化合物の種類等によっても異なるが、アミン化合物1モルに対し、通常1〜5リットル、好ましくは1.0〜2.5リットルである。1リットル以下では攪拌が困難となるおそれがあるが、攪拌が可能であればこれ以下でも差しつかえない。5リットル以上でも問題ないが、経済的な面で好ましくない。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0017】
[実施例1]
還流冷却器、温度計、ホスゲン吹き込み管および撹拌機を備えた内容積10mの反応槽に、トルエン3000Lとp−トルエンスルホニルイソシアナート194kg(0.98×10モル) を仕込み、70℃に保持しながらsec−ブチルアミン21.5kg(0.29×10モル) を1時間を要して滴下し、さらに1時間かき混ぜ、N−p−トルエンスルホニル−N’−secブチルウレア160kg(0.29×10モル)を調整した。
次に、原料のp−トルエンスルホンアミド(以下、PAと略称する。)1200kg(7.00×10モル)と、ホスゲンを含有する回収トルエン2300Lを仕込んだ。
加熱昇温し還流下(内温106〜110℃)ホスゲン1050kg(10.6×10モル、PAに対して1.5倍モル比)を吹き込み、ホスゲン化反応を終了した。完結を2時間実施後、反応槽内に残存するホスゲンと触媒をトルエンと共に2300L留去させた。
溶媒を留去した残りの液を減圧蒸留(減圧度0.3〜0.4kPa)して、p−トルエンスルホニルイソシアナート1320kg(純度換算収率95%)を得た。
一方、留去した2300Lの回収トルエンは、次回のホスゲン化反応に再利用した。
ホスゲン化完結終了時の反応槽内温度を基準に、次回の反応に吹き込むホスゲン量を決め、上記と同様の操作を繰り返し行った。
ホスゲン化完結終了時の反応槽内温度と次回のホスゲン吹込み量との関係を以下の表に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
こうして得られたp−トルエンスルホニルイソシアナート製品中の加水分解性塩素濃度はいずれも規格値以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中でアミン化合物とホスゲンとを還流させながら反応させ、得られたイソシアナートを含有する溶液を濃縮後、回収した溶媒をリサイクルしてアミン化合物と混合し、回収した溶媒中に含有するホスゲンを再度原料として使用するイソシアナートの製造方法において、
ホスゲン化完結時の槽内温度を測定することにより、新たに仕込むホスゲンの添加量を算出することを特徴とするイソシアナートの製造方法。
【請求項2】
溶媒中でアミン化合物とホスゲンとを還流させながら反応させ、得られたイソシアナートを含有する溶液の濃縮を常圧下に加熱して行うことを特徴とする請求項1記載のイソシアナートの製造方法。