説明

インクジェット記録用シート

【課題】 従来の良好なインクジェット適性乃至印字品質を維持しつつ、問題点であった変色を改善したインクジェット記録用シートを提供すること。
【解決手段】 パルプを主成分とするシート状支持体と、前記シート状支持体の片面又は両面にあって、多孔性の微粒子状無機顔料、水溶性の接着剤、及びカチオン性のインク定着剤を含む塗工液を塗布してなる記録層とを包含し、かつ前記多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量は、前記記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理された多孔性の微粒子無機顔料とされることを特徴とするインクジェット記録用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用シートに係り、特に、多孔質な記録層構造を有するインクジェット記録用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々なインクジェット記録用シートが市販されているが、それらの製品は、インク受理性向上のために、多孔質な記録層構造を採用することから、種々の周辺物質との接触による相互作用が無視できず、経時での変色が目立つものが多いといえる。また、変色を改善するために、基本構造に対する大きな設計変更を行うと、インクジェット印字特性が悪化することも考えられる。
【0003】
インクジェット記録用シートに関して、変色を改善する方策を検討した例としては、例えば以下のようなものがある。
【0004】
特許文献1には、耐水性支持体上に、少なくても1層のインク受容層を有するインクジェット記録用シートにおいて、該インク受容層が気相法シリカとシランカップリング剤を含有することを特徴とするインクジェット記録シートが紹介されている。また、特許文献2には、支持体上に色材受容層を有するインクジェット記録用シートにおいて、その層中に各種の定義された化合物を導入することで、印字の変色を抑えられる、との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−233572号公報
【特許文献2】特開2003−305949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された構成によれば、シリカ表面の活性な水酸基を保護することで原紙の変色は改善されるものの、その一方で、シランカップリング剤の添加量次第では、インクジェットインクの親和性が損なわれる。加えて、シランカップリング剤の殆どが非水系であるために塗工液作成での作業性の問題が生じる虞があり、また、シランカップリング剤の反応が脱水重縮合系であるため、常温での反応状態次第では添加量ほど効果が得られないことも充分に考えられる。さらに、シランカップリング剤は一般的な紙業用添加剤よりも比較的高価であることから、経済上の不利益も被ることになる。
【0007】
また、特許文献2についても、記載された化合式を見ると、その骨格は対称的であり、共役した二重結合は距離が短く、かつ側鎖は、比較的反応性の低い物が選ばれており、他の物質との相互作用が弱いことは読み取れるが、単位分子量あたりのイオン性の官能基が少なく、その添加量次第では、水性のインクの親和性を損ねることになる。また、当該化合式は、その分子鎖の量と多様性から多段の合成工程を経ているものであり、高価なものと容易に推定され、経済上、選択として最適であるかどうか疑わしい。加えて、印字の変色についての記載はあるものの、原紙の変色に関する記載はない。
【0008】
本発明は、上述の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来の良好なインクジェット適性乃至印字品質を維持しつつ、問題点であった変色を改善したインクジェット記録用シートを提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究の結果、本願のインクジェット記録用シートを得るに至った。本願に係るインクジェット記録用シートは、パルプを主成分とするシート状支持体と、前記シート状支持体の片面又は両面にあって、多孔性の微粒子状無機顔料、水溶性の接着剤、及びカチオン性のインク定着剤を含む塗工液を塗布してなる記録層とを包含し、かつ前記多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量は、前記記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理された多孔性の微粒子無機顔料とされることを特徴とするものである。
【0011】
このような構成によれば、記録層に用いる多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量を、記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理されたものとしたことにより、インクジェット印字品質を低下させず、しかも経時による変色が少ないインクジェット記録用シートが得られる。
【0012】
本願の好ましい実施の形態においては、前記失活処理が、前記多孔性の微粒子状無機顔料表面を所定のコーティング剤を用いてコーティングするコーティング処理、又は前記多孔性の微粒子状無機顔料表面に位置し、かつ変色に寄与する官能基を所定の不感化剤を用いて不感化する不感化処理であってもよい。
【0013】
このような構成によれば、コーティングによる物理的な保護、若しくは不感化剤による不感化処理によって変色に寄与する官能基の失活処理がなされるため、インク吸収性が良好な状態と記録層強度が保持されながらも、変色防止効果がより向上する。
【0014】
ここで、本願の好ましい実施の形態においては、前記所定のコーティング剤が、各種ワックスであってもよい。また、前記所定の不感化剤には、シランカップリング剤、正電荷を有する各種金属イオン、微粒子状の金属又は金属酸化物、界面活性剤、有機バインダ、又は無機バインダが含まれてもよい。
【0015】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記多孔性の微粒子状無機顔料の配合量が、前記水溶性の接着剤100質量部に対して200〜334質量部の範囲であってもよい。
【0016】
このような構成によれば、インク吸収性と記録層強度のバランスが良いインクジェット記録用シートが得られる。
【0017】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記カチオン性のインク定着剤の配合量が、多孔性の微粒子状無機顔料100質量部に対して、5〜30質量部の範囲であってもよい。
【0018】
このような構成によれば、印字品質とインクの変色抑制の双方に優れた効果を有するインクジェット記録用シートが得られる。
【0019】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記塗工液の塗布量が、乾燥状態にて片面当たり5〜20g/m2の範囲であってもよい。
【0020】
このような構成によれば、インクジェット適性と記録層強度のバランスが良いインクジェット記録用シートが得られる。
【0021】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記多孔性の微粒子状無機顔料には、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、又はアパタイトが含まれてもよい。
【0022】
このような構成によれば、無機顔料としてインクジェットインクとの親和性に優れたものを選択するため、インクジェット適性に優れ、画像品質が良好なインクジェット記録用シートが得られる。
【0023】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記多孔性の微粒子状無機顔料がシリカであり、かつ前記微粒子状無機顔料の全量を100質量部としたとき、前記表面活性を失活処理された微粒子状無機顔料の所定分量が10〜80質量部の範囲であってもよい。
【0024】
このような構成によれば、インク吸収性と変色防止効果のバランスが良いインクジェット記録用シートが得られる。
【0025】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記表面活性を失活処理された微粒子状無機顔料の所定分量が20〜60質量部の範囲であってもよい。
【0026】
このような構成によれば、より変色防止効果に優れたインクジェット記録用シートが得られる。
【0027】
また、本願の好ましい実施の形態においては、前記失活処理が、シランカップリング剤を用いた不感化処理であってもよい。
【0028】
このような構成によれば、よりインク吸収性と変色防止効果のバランスが良いインクジェット記録用シートが得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のインクジェット記録用シートによれば、記録層に用いる多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量を、記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理されたものとしたことにより、インクジェット印字品質を低下させず、しかも経時による変色が少ないインクジェット記録用シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例及び比較例の物性評価結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係るインクジェット記録シートを添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
先にも述べたように、本発明に係るインクジェット記録シートは、シート状支持体と、前記シート状支持体の片面又は両面にあって、多孔性の微粒子状無機顔料、水溶性の接着剤、及びカチオン性のインク定着剤を含む塗工液を塗布してなる記録層とを包含し、かつ前記多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量は、前記記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理された多孔性の微粒子無機顔料とされる、ことを特徴とするものである。
【0033】
ここで、本発明の支持体の原料としては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の化学パルプ、グランドパルプ、脱墨古紙パルプ等の古紙パルプ、などの一般的なパルプを1種又は2種以上を併用して用いることができ、その中でも、コストや白色度の点から木材繊維を主体とするパルプを用いることが好ましい。また、これらの原料パルプには、必要に応じて従来公知の填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種又は2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明に係るインクジェット記録シートの支持体は、原料パルプに必要に応じて1種又は2種以上の各種添加剤を添加して混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種抄紙機にて紙匹を形成し、その後乾燥させることで得ることができる。
【0035】
得られた支持体の表面には、塗工層を設ける前に、強度を付与することなどを目的として表面紙力増強剤をサイズプレス、ゲートロール、サイザーなどの装置を用いて塗工してもよい。表面紙力増強剤としては、例えば、澱粉、ポリアクリルアマイド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0036】
先にも述べたように、本願に係る支持体の片面又は両面に設けられる記録層は、多孔性の微粒子状無機顔料、水溶性の接着剤、及びカチオン性のインク定着剤を含む塗工液を塗布してなるものであり、かつ前記多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量は、前記記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理された多孔性の微粒子無機顔料である。
【0037】
本願において、前記多孔性の微粒子状無機顔料の添加量は、水溶性の接着剤100質量部に対し、200〜334質量部とすることが好ましい。多孔性の微粒子状無機顔料の添加量が200質量部未満になると、添加量が少ないことにより充分なインク吸収性が確保できず、印字品質が劣る虞がある。反対に、多孔性の微粒子状無機顔料の添加量が334質量部よりも多いと、インク吸収性には優れるものの、水溶性の接着剤の使用比率が低下することで記録層強度の低下を招き、インクジェットプリンタの搬送ロール汚れや、後加工での断裁紙粉によるトラブルを発生させる虞がある。なお、変色防止の効果をより重視する場合には、多孔性の微粒子状無機顔料の添加量は少なめであることが望ましく、水溶性の接着剤100質量部に対して200〜250部であることがより好ましい。
【0038】
記録層に含有させる多孔性の微粒子状無機顔料としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ハイドロキシアパタイト等の無機顔料が好ましい。これらの無機顔料の粒子は、表面が親水性であるためインクジェットインクとの親和性に優れており、加えて、粒子自体が多孔質体であるため、インク吸収能にも優れており、塗工層表面に付着したインクジェット用インクが速やかに吸収されることで、インクジェット印字の画像品質が良好となる。上述の無機材料の中でも、特にインク吸収性に優れ、好適なインクジェット適性が得られることから、微粒子シリカが特に好ましい。
【0039】
また、本願の、記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理された多孔性の微粒子無機顔料として、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ハイドロキシアパタイト等の無機顔料を失活処理したものが好ましいが、インクジェット印字適性の面で、シリカが好ましい。しかしながら、これら無機顔料の表面の活性な官能基(シリカの場合には水酸基)が反応の基点となり、種々の変色に影響を及ぼす虞がある。そこで、この反応活性な官能基を何らかの手段で失活させることで、インクジェット記録シートの変色改善に効果が得られるものと考えられる。
【0040】
具体的には、無機顔料のうちの所定分量を表面を何らかの物質でコーティングしたり、表面の活性な官能基を薬品を用いて保護するなどの方策て失活処理を図ることが変色防止に繋がるものと考えられる。
【0041】
無機顔料表面の失活処理としては、多孔性の微粒子状無機顔料表面を所定のコーティング剤を用いてコーティングするコーティング処理、又は多孔性の微粒子状無機顔料表面に位置し、かつ変色に寄与する官能基を所定の不感化剤を用いて不感化する不感化処理が挙げられる。コーティング剤としては各種ワックス、有機バインダ、無機バインダ、などが好ましく、不感化剤としては、界面活性剤、シランカップリング剤、正電化を有する各種金属イオン、微粒子の金属または、金属酸化物、などが好ましいが、インク吸収性を損なわずにシリカ表面を保護できるものであれば、この限りでは無い。例えば、市販のものとしては、東ソー・シリカ社製のニップジェルAZ360(ワックスで表面処理されたシリカ)が挙げられる。このような表面処理シリカの重要な特性としては、インク吸収性が良好な状態を保持していること、それが含有されることによる塗工層の強度の低下が無いこと、そして、それが含有されることによる塗工層自体の変質が軽減されること、等が挙げられる。
【0042】
しかしながら、表面に失活処理を施した無機顔料は変色防止の効果は得られるものであるが、その一方で、失活処理を施していない無機顔料と比較すると、インクジェット印字適性において劣るようになる。
【0043】
即ち、失活処理が施された無機顔料と、失活処理が施されていない無機顔料とはそれぞれ異なるメリット・デメリットを有しており、これらを適切な割合で配合することで、変色防止と優れたインクジェット印字適性とを両立させたインクジェット記録シートが得られるものと考えられる。
【0044】
本発明において、多孔性の微粒子状無機顔料の好ましい配合割合は、使用する微粒子状無機顔料全体の配合量を100質量部としたとき、表面処理を施した多孔性無機顔料の比率が、10〜80質量部の範囲内にあることが好ましく、20〜60質量部の範囲内であることがより好ましい。表面処理を施した多孔性の微粒子状無機顔料の配合割合が、無機顔料全量に対して10質量部未満である場合には、良好なインク吸収性が得られるものの、変色防止効果には悪い傾向である。また、インク吸収性が過多である場合には、印字濃度が低下する傾向も見られる。反対に、表面処理を施した多孔性シリカの配合割合が80質量部よりも多い場合には、良好な変色防止効果が得られる一方で、充分なインク吸収性が確保できずに印字品質が悪化する虞がある。
【0045】
また、本発明の記録層に用いる水溶性の接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレン酢酸ビニル、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、SBR、NBR、アクリルラテックス、クロロプレンラテックス等の各種ラテックスを例示することができ、これらの水溶性接着剤を1種又は2種以上を併用して用いてもよい。特にインク吸収性の観点からは、ポリビニルアルコールやポリエチレン酢酸ビニルといった樹脂を用いることが好ましく、光等による強度劣化の防止や変色防止等の変質の観点からは、ラテックス、ウレタンは好ましくは無い。このため、上述の水溶性接着剤の中でも、ポリビニルアルコール、ポリエチレン酢酸ビニル、アクリルといったものがより好ましいものとして例示される。
【0046】
本発明の記録層には、インクジェットインクの定着性を向上させるためにインク定着剤を含有させる。インクジェットインクはアニオン性であるため、カチオン性を有する定着剤が必要であり、このカチオン性インク定着剤を使用しないと、印字濃度を上げることが難しく、さらに、インクの耐水性も劣るようになる。また反対に、カチオン性インク定着剤の使用量が過剰である場合には、インクの発色性を損ね、インクの凝集などの変質を生じることもあり、更には、光や熱によるインクの耐久性にも劣るようになる。
【0047】
従って、カチオン性インク定着剤の添加量については、印字濃度と発色性等を両立させうる好ましい範囲が存在する。この範囲の設定には、対象とするインクジェットインクやカチオン性インク定着剤の種類の組み合わせ、更には、印字濃度や色調の目標や、耐水性や耐光性等の品質のレベル設定といった諸要素が影響する。
【0048】
本発明のインクジェット記録シートにおいては、塗工層中に含まれるカチオン性インク定着剤の添加量としては、多孔性の微粒子状無機顔料100質量部に対して5〜30質量部の範囲であることが好ましく、10〜20質量部の範囲であればさらに好ましい。このさらに好ましい範囲であれば、印字品質とインクの変色抑制の双方に効果のある最適条件と考えられる。
【0049】
本願において、記録層に用いるカチオン性インク定着剤としては一般公知のものを使用することができ、例えば、アミンエピクロルヒドリン重縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドポリマー、アルキルアミン4級化物、ジシアンジアミド、アクリルアミドジメチルアンモニウムクロライド共重合物等のカチオン性インク定着剤を1種又は2種以上を併用して用いることができる。カチオン性インク定着剤としては、一般的にアミン系化合物が用いられ、変色防止の点では低級なほど有利であるが、その一方で、印字濃度は劣る傾向となる。
【0050】
本発明の記録層に用いる塗工液には、無機顔料、水溶性接着剤、カチオン性インク定着剤の他に、必要に応じて、着色顔料及び着色染料などの着色剤、分散剤、消泡剤、粘度調整剤、架橋剤、離型剤、防腐剤、柔軟剤、ワックス、導電防止剤、帯電防止剤、香料、脱臭剤、防炎剤、忌避剤、防錆剤等の抄紙用添加剤を適宜使用することができる。
【0051】
本発明において、記録層を設ける為の塗工処理に関しては、公知一般の塗工機、例えば、ブレードコータ、ロールコータ、エアナイフコータ、ロッドコータ等を使用して支持体へ塗工することができる。
【0052】
また、塗工液の塗工量としては、乾燥塗工量で片面当たり、5〜20g/m2の範囲であることが好ましい。片面当たりの乾燥塗工量が5g/m2に満たないと、記録層が支持体表面を完全に覆うことが難しく、インクジェット適性の点で劣る虞がある。逆に、片面当たりの乾燥塗工量が20g/m2を超えると、記録層と支持体の間の接着強度が実用に耐えられなくなる可能性があり、また、断裁時に粉落ちが発生したり印刷時の耐刷力が劣るようになる虞がある。
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、例中の部、及び%は特に断らない限り、それぞれ質量部及び質量%を示すものである。
【実施例1】
【0054】
<原紙の作成>
LBKP100部(カナディアンスタンダードフリーネス:CSF=500ml)のパルプスラリーを長網式抄紙機で抄紙し、坪量180g/m2の原紙を得た。
<塗工層の塗工液の調製>
失活処理がなされていない無機顔料として平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)40部と、失活処理が施された無機顔料として平均粒子径3.5μmの合成非晶質シリカ(商品名:ニップジェルAZ360(ワックスで表面処理した多孔性合成シリカ)、東ソー・シリカ社製)60部と、水と、pH調整剤として酢酸0.5部を添加し、カウレス分散機にて28%の顔料スラリーを調製した。この顔料スラリーに、水溶性接着剤としてポリビニルアルコール15部(商品名:PVA−117、クラレ社製)及びポリエチレン酢酸ビニルバインダー25部(商品名:スミカフレックス450)、更に、カチオン性インク定着剤10部(商品名:パピオゲンP−105、センカ社製)を添加・攪拌し、更に水を添加し、固形分濃度で25%の塗工液を得た。
<記録層の形成>
得られた塗工液を支持体の片面に乾燥塗工量が10g/m2となるようにオンマシンでエアナイフコータで塗工し、エアードライヤーで熱風乾燥した。
【実施例2】
【0055】
実施例1において、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)の配合量を80部に、失活処理が施された無機顔料である平均粒子径3.5μmの合成非晶質シリカ(商品名:ニップジェルAZ360、東ソー・シリカ社製)の配合量を20部にそれぞれ変更した。
【実施例3】
【0056】
実施例1において、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)の配合量を20部に、失活処理が施された無機顔料である平均粒子径3.5μmの合成非晶質シリカ(商品名:ニップジェルAZ360、東ソー・シリカ社製)の配合量を80部にそれぞれ変更した。
【実施例4】
【0057】
実施例1において、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)の配合量を90部に、失活処理が施された無機顔料である平均粒子径3.5μmの合成非晶質シリカ(商品名:ニップジェルAZ360、東ソー・シリカ社製)の配合量を10部にそれぞれ変更した。
【比較例1】
【0058】
実施例1において、用いる無機顔料を、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)100部に変更した。
【比較例2】
【0059】
実施例1において、用いる無機顔料を、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)40部と、粒子径が2.0μm以下98%の水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH−42M、昭和電工社製)60部に変更した。
【比較例3】
【0060】
実施例1において、用いる無機顔料を、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)80部と、粒子径が2.0μm以下であるものが98%の水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH−42M、昭和電工社製)20部に変更した。
【比較例4】
【0061】
実施例1において、用いる無機顔料を、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)40部と、粒子径が0.5μm以下であるものが86〜90%の焼成クレー(商品名:アンシレックス93、BASF社製)60部に変更した。
【比較例5】
【0062】
実施例1において、用いる無機顔料を、失活処理がなされていない無機顔料である平均粒子径7μmの合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP407、グレースデビソン社製)80部と、粒子径が0.5μm以下であるものが86〜90%の焼成クレー(商品名:アンシレックス93、BASF社製)20部に変更した。
【0063】
<変色評価1>
得られたサンプルの変色試験を下記要領によって行なった。
まず、4,4−メチレンビス−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールをイソプロパノールに溶解させた1重量%の溶液を調製した。その溶液をマイクロシリンジにて20μLを塗工面に滴下させた。その後、23℃−50%RHの条件と、90℃の乾燥条件にてそのサンプルを光に当たらないように保管し、所定時間経過後に滴下部と非滴下部の色相を色差計(商品名:CR−300、ミノルタ社製)測定した。その結果より、ΔEを下記の定義式により算出した。
ΔE=√((L−L*)2+(a−a*)2+(b−b*)2)
L、a、b :滴下部 色相
L*、a*、b*:非滴下部 色相
即ち、ΔEが小さい程色相の変化が少なく、変色が起こりにくいということになる。
【0064】
<変色評価2>
得られたサンプルの変色試験を下記要領によって行なった。
コピー用紙(商品名:マリコピー、64g/m、北越紀州製紙製)の一方の面にセロハンテープ(商品名:CT−15、ニチバン社製)を貼り、もう一方の面には得られたサンプルの記録面が当たるようにコピー用紙とサンプルとを重ね合わせて接触させ、70℃の乾燥条件下で24時間保管した。コピー用紙に貼付したセロハンテープの粘着成分が、コピー用紙を通過して得られたサンプルの記録面に移行するので、その移行による変色の状況を目視にて確認し、評価を行った。
判断基準:
A :非常に良好 (変色の程度が非常に小さい)
B :良好 (変色の程度が小さく、実用可能な範囲)
C :やや不良 (変色の程度がやや大きい)
D :不良 (変色の程度が大きい)
【0065】
<インクジェット印字適性>
得られたサンプルに、インクジェットプリンタ(商品名:PM−A900、EPSON社製)にて印字を行い、画像部の滲みやベタ部均一性を目視評価することで、インクジェット適性を評価した。
判断基準:
A :非常に良好 (インク滲み、ベタ部均一性が共に良好)
B :良好 (インク滲みとベタ部均一性のいずれかにやや問題があるが、
実用可能な範囲)
C :やや不良 (インク滲みとベタ部均一性のいずれかが不良)
D :不良 (インク滲み、ベタ部均一性が共に不良)
【0066】
実施例及び比較例で得られたインクジェット記録シートの物性評価の結果が図1に示されている。図1の結果より明らかなように、本発明に係る実施例1〜4で得られたインクジェット記録シートは、いずれも変色が少なく、インクジェット適性についても、従来品と遜色ないレベルにあるものであった。
【0067】
これに対して、比較例1〜4で得られたインクジェット記録シートは、いずれも変色防止能が充分ではなく、高温下における変色実験の結果では特に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るインクジェット記録シートによれば、インクジェット印字品質を低下させず、しかも経時による変色が少なく、インクの変色抑制効果も有するインクジェット記録用シートが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主成分とするシート状支持体と、
前記シート状支持体の片面又は両面にあって、多孔性の微粒子状無機顔料、水溶性の接着剤、及びカチオン性のインク定着剤を含む塗工液を塗布してなる記録層とを包含し、かつ
前記多孔性の微粒子状無機顔料のうちの所定分量は、前記記録層の変色に寄与する表面活性を失活処理された多孔性の微粒子無機顔料とされる、
ことを特徴とするインクジェット記録用シート。
【請求項2】
前記失活処理が、前記多孔性の微粒子状無機顔料表面を所定のコーティング剤を用いてコーティングするコーティング処理、又は前記多孔性の微粒子状無機顔料表面に位置し、かつ変色に寄与する官能基を所定の不感化剤を用いて不感化する不感化処理である、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項3】
前記所定のコーティング剤が、各種ワックスである、ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項4】
前記所定の不感化剤には、シランカップリング剤、正電荷を有する各種金属イオン、微粒子状の金属又は金属酸化物、界面活性剤、有機バインダ、又は無機バインダが含まれる、ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項5】
前記多孔性の微粒子状無機顔料の配合量が、前記水溶性の接着剤100質量部に対して200〜334質量部の範囲である、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項6】
前記カチオン性のインク定着剤の配合量が、前記多孔性の微粒子状無機顔料100質量部に対して、5〜30質量部の範囲である、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項7】
前記塗工液の塗布量が、乾燥状態にて片面当たり5〜20g/m2の範囲である、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項8】
前記多孔性の微粒子状無機顔料には、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、又はアパタイトが含まれる、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項9】
前記多孔性の微粒子状無機顔料がシリカであり、かつ前記微粒子状無機顔料の全量を100質量部としたとき、前記表面活性を失活処理された微粒子状無機顔料の所定分量が10〜80質量部の範囲となる、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項10】
前記表面活性を失活処理された微粒子状無機顔料の所定分量が20〜60質量部の範囲となる、ことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項11】
前記失活処理が、シランカップリング剤を用いた不感化処理である、ことを特徴とする請求項9又は10に記載のインクジェット記録用シート。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18124(P2013−18124A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150823(P2011−150823)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】