説明

インクジェット記録装置

【課題】顔料インク吐出口列の長さが染料インク吐出口列の長さより大きい記録ヘッドから予備吐出を行う場合でも、予備吐出された顔料インクが予備吐出受け部に堆積することを効率よく低減し、記録ヘッドと堆積顔料インクとの接触を防止する。
【解決手段】予備吐出受け部5に斜面51を設け、染料インク吐出口33からのインクを斜面の重力方向上流寄りの位置51aで受け、顔料インク吐出口32からのインクを斜面の重力方向下流寄りの位置51bで受ける

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顔料インクと染料インクを用いて記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピュータやワードプロセッサ等を含む複合電子機器やワークステーションなどの出力機器として用いられる記録装置は、画像情報に基づいて紙やプラスチックシートなどの記録媒体に画像を形成していくように構成されている。前記記録装置のうち、記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置は、記録ヘッドのコンパクト化が容易であり、高精細な画像を高速で記録することができ、普通紙に特別な処理をせずに記録することができ、ノンインパクト方式であるため騒音が少なく、しかも多種類のインクを使用してカラー画像を形成するのが容易であるなどの利点を有している。
【0003】
上記インクジェット記録装置においては、記録ヘッドとして一般に微細な吐出口を配列したものが用いられるので、吐出口内への気泡や塵埃の混入が生じたり、あるいはインク溶剤の蒸発に伴ってインクが増粘するなどしてインク滴の吐出不良が発生することがある。このような吐出不良が発生した場合には、記録ヘッド内のインクをリフレッシュすることによりそれら吐出不良要因を除去するための吐出回復処理が行われる。
【0004】
前記吐出回復処理を行う手段として、吐出口内のインクを加圧することによりインクを強制的に吐出させる加圧回復手段や、吐出口内のインクに負圧を作用させることにより強制的に吸引する吸引回復手段などが用いられており、さらに、記録最中に吐出回復処理としての予備吐出を行う予備吐出手段も用いられている。この予備吐出は、記録中の吐出不良の発生を避けるために記録に関与しない位置で行われるインク吐出動作であり、通常は、記録開始直前や、記録最中に一定時間間隔ごとに定期的に行われる。この予備吐出は、記録に使用されない吐出口からの溶媒の蒸発に起因するインク粘度の上昇による吐出口の目詰まりなどを防止する目的で行われる。
【0005】
インクジェット記録装置では、記録ヘッドの吐出口面の乾燥を防ぐとともに、前述の加圧回復や吸引回復を行うときに吐出口面を密閉(キャッピング)する目的で、記録媒体に対する記録動作が行われる記録領域を外れた位置にキャップが配設されている。上記予備吐出は予備吐出受け部として利用される前記キャップに向かって行われることがあり、また、専用に設けられた予備吐出受け部に向かって行われることもある。前記専用に設けられた予備吐出受け部は、前記キャップと隣接する位置又は近傍の位置に配置しても構わないが、前記キャップに対して記録中の記録媒体を挟んで反対側に設けることで次のような利点がある。
【0006】
すなわち、インクジェット記録装置の高速化、高解像度化を達成するために、記録ヘッドの吐出口は近年微細化、高密度化が行われている。それに伴い記録中の予備吐出は益々短い時間間隔で行うことを要請されている。その際、キャップに対して記録中の記録媒体を挟んで反対側にも予備吐出受け部を設けることで、キャップと合わせて記録媒体の両側での予備吐出が可能となり、予備吐出のためだけに記録ヘッドを移動させる余分な動作が不要となり、一連の記録動作の中で予備吐出動作に要する時間を短縮することができ、記録装置のスループット向上にもつながる。このことは、特に記録媒体のサイズが大きい場合に有効である。また、予備吐出受け部に多孔質体などからなるインク吸収体などを設けることにより、予備吐出されたインクを吸収保持することが一般に行われている。
【0007】
また、一方では、インクジェット記録の多様化が進み、カラー画像の記録に適した染料カラーインクに加えて、文字などのモノクロ記録の表現性に優れた顔料黒インクを搭載したインクジェット記録装置も一般的になってきている。しかしながら、一般的な顔料インクは、その性質上、前述したようなインク吸収体が装填された予備吐出受け部に向けて予備吐出する場合、カーボン等の顔料インク成分の一部が蓄積し、堆積物が発生することがある。そして、予備吐出受け部に多くの堆積物が堆積すると、記録ヘッド走査時に記録ヘッドの吐出口近傍に堆積物が接触し、吐出不良を起こす原因となることがある。図6はこのような予備吐出受け部における顔料インクの堆積を例示する部分斜視図であり、同図中、5は予備吐出受け部、6はプラテン、54は顔料インクの堆積、55は染料インクの堆積、57は予備吐出受け部5内のインク吸収体を、それぞれ示す。
【0008】
そこで、顔料インクの予備吐出を行うときには、その予備吐出に応じて染料インクの予備吐出を行うことによって顔料インクと染料インクとを混合させ、顔料インクのインク吸収体への浸透を促進させることで、顔料インク成分の堆積を低減する技術が提案されている(特許文献1)。一方で、顔料インク吐出手段(複数の顔料インク吐出口を所定ピッチで配列した顔料インク吐出口列)と染料インク吐出手段(複数の染料インク吐出口を所定ピッチで配列した染料インク吐出口列)の列方向の長さを比べたときに、染料インク吐出手段よりも顔料インク吐出手段の方を長くした記録ヘッドが使用されている。
【0009】
図4はこのような記録ヘッドの顔料インク吐出口列及び染料インク吐出口列を示す模式的正面図であり、同図中、31は吐出口列が形成された吐出口面、32は複数の黒色の顔料インク吐出口を所定ピッチで配列した顔料インク吐出口列、33は各色ごとの複数のカラーの染料インク吐出口を所定ピッチで配列した複数(4列)の染料インク吐出口列を示す。図4に示すような吐出口列の構成によれば、文字などのモノクロ印刷を行う際には顔料インクの黒のみを用いて高速印刷を行い、カラー画像などのカラー印刷は染料インクを用いて高画質で印刷することができる。
【0010】
また、一方で、顔料インク吐出口列の位置を染料インク吐出口列に対して全体的に列方向にずらして配置することも行われている。図5は顔料インク吐出口列を染料インク吐出口列に対して全体的に列方向にずらして配置した記録ヘッドの吐出口面を示す模式的正面図であり、同図中の符号は前述の図4中の符号に対応しており、それぞれ同じ部分を示す。図5のような吐出口列の配列によれば、先に顔料インクのみによる記録を行い、記録ヘッドの走査1回又は複数回行った後に染料インクによる記録を行うことができる。これにより、記録中の記録媒体を逆搬送することなしに、顔料黒インクを十分に定着させた後に染料カラーインクの印刷を行うことができ、顔料インクと染料インクの記録媒体上での混色や滲みを防ぐことができ、記録画像の画質維持(又は画質向上)を図ることができる。
【特許文献1】特開2003−053986
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のインクジェット記録装置においては、次のような解決すべき課題があった。すなわち、顔料インク吐出口列と染料インク吐出口列が列方向にずれている記録ヘッドの場合、顔料インクと染料インクを予備吐出受け部で十分に混合させることができず、そのため、染料インクが混ざらない領域において顔料インクの堆積が生じてしまう可能性があった。図4中のL1及び図5中のL2で示す領域が染料インクが届かない顔料インクの吐出領域であり、この領域において顔料インクと染料インクを十分に混合できない。その場合、図6に示すようにプラテン6の近傍に配設された予備吐出受け部5内のインク吸収体57に向けて顔料インクと染料インクの予備吐出を行った場合、染料インク55は染料の性質上インク吸収体57にすぐに吸収されるが、顔料インク54は顔料インクの性質上インク吸収体57上に堆積する可能性がある。顔料インクが堆積すると、前述のように堆積した顔料インクと記録ヘッドが接触する可能性が生じることがある。
【0012】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、顔料インク吐出口列の長さが染料インク吐出口列の長さより大きい記録ヘッドから予備吐出を行う場合でも、予備吐出された顔料インクが予備吐出受け部に堆積することを効率よく低減することができ、記録ヘッドと堆積顔料インクとの接触を防ぐことで良好な画像記録を行うことができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、顔料インクを吐出する顔料インク吐出口と染料インクを吐出する染料インク吐出口とを有する記録ヘッドにより記録を行うインクジェット記録装置において、前記吐出口から吐出される記録に寄与しないインクを受ける予備吐出受け部と、前記予備吐出受け部に配された斜面と、を備え、前記染料インク吐出口からのインクを前記斜面の重力方向上流寄りの位置で受け、前記顔料インク吐出口からのインクを前記斜面の重力方向下流寄りの位置で受けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、顔料インク吐出口列の長さが染料インク吐出口列の長さより大きい記録ヘッドから予備吐出を行う場合でも、予備吐出された顔料インクが予備吐出受け部に堆積することを効率よく低減することができ、記録ヘッドと堆積顔料インクとの接触を防ぐことで良好な画像記録を行うことができるインクジェット記録装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示すものである。図1は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の主要部を示す模式的斜視図であり、図2は本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の予備吐出受け部と予備吐出位置を示す模式的部分斜視図である。図1及び図2において、インクジェット記録装置1は、部分的に示す装置本体のベース(又はシャーシ)7と、記録紙やプラスチックシート等の記録媒体2を積載するとともに記録媒体2を1枚ずつ分離して給送するための給紙部8と、記録部を通して記録媒体2を搬送する搬送ローラ61と、記録部において記録媒体2を支持するプラテン6と、プラテン6と対向して配置され記録媒体2にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド3と、記録ヘッド3のインク吐出機能を正常な状態に維持回復するための回復機構部4と、記録後の記録媒体2を積載する排紙トレイ9と、を備えている。
【0016】
記録ヘッド3は記録情報に基づいて吐出口から記録媒体2へインクを吐出して記録を行うものである。図4は記録ヘッドの吐出口面における吐出口の配列状態の一例を示す模式図であり、図5は記録ヘッドの吐出口面における吐出口の配列状態の別の例を示す模式図である。次に、記録ヘッド3等からなる記録手段について説明する。図1及び図2並びに図4及び図5において、記録ヘッド3は往復移動可能なキャリッジ34に搭載されている。また、記録ヘッド3には交換可能なインクタンク35が装着されており、記録ヘッド3のプラテン6と対向する側には、吐出口(本実施形態では、複数の吐出口を所定ピッチで配列した吐出口列)が形成された吐出口面31が構成されている。
【0017】
本実施形態では、吐出口面31に、1列の顔料インク吐出口列32と4列の染料インク吐出口列33a、33b、33c、33dが形成されている。顔料インク吐出口列32は記録媒体搬送方向に所定ピッチで配列された複数のブラックの顔料インク吐出口で構成され、各染料インク吐出口列33のそれぞれは記録媒体搬送方向に所定ピッチで配列された複数のカラーの染料インク吐出口で構成されている。4列の各染料インク吐出口列33(33a、33b、33c、33d)から吐出される液体としては、例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、処理液などが使用される。そして、ブラックの顔料インク吐出口列32は、カラーの各染料インク吐出口列33より長い吐出口列で構成されている。
【0018】
図4の吐出口面31においては、顔料インク吐出口列32は、各染料インク吐出口列33に対して、記録媒体搬送方向下流側端を揃えるとともに記録媒体搬送方向の上流側に長さL1だけ長くなるように位置をずらして形成されている。また、図5の吐出口面31においては、顔料インク吐出口列32は、各染料インク吐出口列33に対して、全体的に搬送方向上流へ位置をずらして配置されており、搬送方向上流側への進出長さL2は図4の場合の進出長さL1よりさらに長くなっている。
【0019】
図1において、記録ヘッド3を搭載したキャリッジ34は、装置本体に設置されたガイドシャフト36に沿って主走査方向に往復移動可能に案内支持されている。シャーシ7の一端部に取り付けられたキャリッジモータ38にはモータプーリ38aが設けられ、このモータプーリ38aとその反対側に配置されたアイドラプーリ39との間に張架されたタイミングベルト37の一部がキャリッジ34に連結されている。従って、キャリッジモータ38の回転及び回転方向を制御することにより、記録ヘッド3による主走査方向の位置及び移動が制御される。
【0020】
搬送ローラ61に対してはピンチローラ62が不図示のピンチローラばねの付勢力によって押圧されており、該ピンチローラ62が搬送ローラ61の回転に従動回転することで記録媒体2に対する搬送力を発生させている。排紙ローラ63には不図示の拍車が不図示のばね軸の付勢力によって押圧されており、この拍車が排紙ローラ63の回転に従動回転することで記録用紙2に対する搬送力を発生させている。
【0021】
上記構成のインクジェット記録装置においては、給紙部8から1枚ずつ分離されて給送された記録媒体2は、搬送ローラ61とピンチローラ62まで搬送された後、不図示の搬送モータで回転駆動される搬送ローラ61によりプラテン6上の記録開始位置まで搬送される。そして、キャリッジモータ38によりタイミングベルト37を介してキャリッジ34を移動させることにより、記録ヘッド3で記録媒体2上を往復走査しながら、所定の画像情報に基づいて記録ヘッド3の吐出口からインクを記録媒体2上の所定位置に吐出することで画像記録が行われる。
【0022】
記録ヘッド3の1ライン分の記録走査が終わると、搬送ローラ61を再び回転させて記録媒体2を次のラインの記録開始位置までピッチ送りし、記録ヘッド3の主走査によって次のラインの画像記録が行われる。以上の記録動作を所定の画像情報に基づいて所定回数繰り返し、記録媒体2に対する記録が終了すると、記録媒体2は排紙ローラ63の回転により装置本体外へ排出され、排紙トレイ9に積載される。
【0023】
記録ヘッド3の、吐出口列32、33のインク吐出部は、複数の微細な吐出口、各吐出口に対応する液路、各液路の一部に設けられるエネルギー作用部、並びに各エネルギー作用部に設けられてインクに液滴形成エネルギーを付与するためのエネルギー発生手段などで構成されている。このエネルギー発生手段としては、ピエゾ素子等の電気機械変換体を用いる手段、レーザー等の電磁波を照射して発熱させてその熱による作用で液滴を吐出する手段、あるいは、発熱抵抗体を有する発熱素子等の電気熱変換体によって液体を加熱して吐出させる手段などが使用される。
【0024】
そのうち、熱エネルギーにより液体を吐出させるインクジェット記録ヘッドは、吐出液滴を形成するための吐出口を高密度で配列することができ、高解像度の画像を記録することができる。その中でも、電気熱変換体をエネルギー発生手段として用いる記録ヘッドは、小型化が容易であり、かつ最近の半導体分野における技術の進歩と信頼性の向上が著しいIC技術やマイクロ加工技術の長所を十分に活用でき、高密度実装が容易で、製造コストも安価なことから有利である。
【0025】
次に、記録ヘッド3のインク吐出機能を維持回復するための回復機構部4について説明する。記録ヘッド3の吐出口を覆うためのキャッピング手段44は、顔料インク吐出口列32用のキャップ42と染料インク吐出口列用のキャップ43とを備えている。キャッピング手段44は、記録ヘッド3の移動範囲内であって、記録のための主走査範囲(記録領域)を外れた位置であって、記録ヘッド3が対向位置にあるときに吐出口面31の吐出口を密閉できる位置に配設されている。各キャップ42、43は、一般にゴムなどの弾性材料で形成され、対応する吐出口列32、33を密閉開放するためにキャッピング手段44の駆動によって吐出口面31に密着離間されるように構成されている。
【0026】
前記キャッピング手段44は、記録していないときに顔料インク吐出口列32及び染料インク吐出口列33を保護したり、吐出口からのインクの蒸発を低減したり、加圧回復もしくは吸引回復の処理を行うために用いられる。すなわち、吐出回復処理の一つとして、各吐出口列32、33をキャップ42、43で覆った状態で、これらのキャップに接続されたポンプ41を作動させて吐出口内のインクを強制的に吸引することにより、吐出口内のインクをリフレッシュすることで吐出不良要因を除去する吸引回復処理が行われている。
【0027】
また、上記の吸引回復処理の他に、予備吐出による回復処理が行われている。この予備吐出は、記録ヘッド3の主走査方向の移動範囲内に図2(又は図3)に示すような予備吐出受け部(吐出インク受け部)5を設け、記録ヘッド3の各吐出口列32、33を予備吐出受け部5に対向させた状態で該記録ヘッド3を駆動することにより記録に寄与しないインク吐出を行うものである。この予備吐出処理によっても、上記の吸引回復の場合と同様、各吐出口の内部の気泡や塵埃、さらには増粘して記録に適さなくなったインクなどの吐出不良要因を除去することで、記録ヘッドのインク吐出機能を正常な状態に維持回復することができる。
【0028】
上記ポンプ41は、インクの強制吸引のために吸引力を作用させるために使用される他に、強制吸引を用いる上記吸引回復処理や上記予備吐出処理などの吐出回復処理に際して、キャップ44内に受容された(又は残留する)廃インクを吸引して回収するために使用される。本実施形態では、ポンプ41として、例えば、不図示のコロによって不図示のチューブを押しつぶして負圧を発生させるチューブポンプ、あるいはピストン・シリンダ式のポンプなどを使用することができる。また、上記吸引回復処理や上記予備吐出処理によって生じた不要インク(廃インク)を受容し回収するための廃インク吸収体(不図示)がプラテン6の下側に配設されている。
【0029】
そこで、回復機構部4と対向する反対側の位置であってプラテン6の隣接位置に、図2に示すような予備吐出受け部5が配設されている。本実施形態では、予備吐出受け部5はプラテン6と一体に構成されており、この予備吐出受け部5には、記録媒体2の搬送方向下流側に斜面上流部51aを有するとともに搬送方向上流側に斜面下流部51bを有する斜面51が形成されている。前記斜面下流部51bには、プラテン6の下側に配置された不図示の廃インク吸収体に連通する孔又は開口51cが形成されている。そして、この予備吐出受け部5は、予備吐出に際して、染料インク吐出口33からのインクを斜面51の重力方向上流寄りの位置である斜面上流部51aで受け、顔料インク吐出口32からのインクを斜面51の重力方向下流寄りの位置である斜面下流部51bで受けるように構成されている。
【0030】
次に、上記予備吐出受け部5の詳細な構成並びに該予備吐出受け部における予備吐出動作について説明する。図4又は図5に示すように顔料インク吐出口列32と染料インク吐出口列33を互いに位置をずらして配置されている場合、予備吐出受け部5に向けて予備吐出を行った際には、図2に示すように、斜面51の斜面上流部51a寄りの位置に予備吐出された染料インク53が付着し、斜面下流部51b寄りの位置に予備吐出された顔料インク52が付着するように構成されている。予備吐出された染料インク53は、その性質上堆積しにくくかつ流れやすいので、斜面上流部51aに付着した後、早期にその大部分が斜面下流部51bへ向かって流れていく。
【0031】
染料インク53が流れる領域には予備吐出された顔料インク52が付着しており、従ってこの顔料インク52は流れてくる染料インク53と混合される。顔料インク52自身はその性質上堆積しやすいが、染料インク53と混合される前記顔料インク52は、混合されることで堆積しにくくかつ流れやすい性質となり、染料インク53と共に斜面下流部51bにある孔51cを通してプラテン6の下側の廃インク吸収体へと流れていき、該廃インク吸収体内に吸収されて回収される。
【0032】
予備吐出に使用するインク量については、顔料インクの吐出量よりも染料インクの吐出量を多くすることにより、混合インク中の染料インクの割合を多くし、一層堆積しにくく流れやすい混合インクにすることができ、顔料インクの堆積を一層効果的に低減(又は阻止)することができる。さらに、顔料インクの予備吐出を行うより前にあらかじめ染料インクの予備吐出を行っておくことで、染料インクが斜面下流部51bに到達した後に顔料インクの吐出を行うようにし、それによって、一層確実に顔料インクと染料インクを混合させて確実に流れやすい混合インクを作ることが可能になり、インクの堆積を一層効果的に防止することができる。
【0033】
また、本実施形態では、記録ヘッド3の走査方向の移動経路における顔料インクの予備吐出位置52と染料インクの予備吐出位置53は図2に示すように互いに重なるような同じ位置に選定されている。このように予備吐出位置を同じにすることにより、顔料インクと染料インクを一層確実に混合させることができる。また、本実施形態のように複数の染料インク吐出口列33を有する場合には、各染料インクの予備吐出位置53を各色の吐出口列ごとに個別に制御することにより、後述する図3で示すように、全ての染料インクの記録ヘッド移動方向における予備吐出位置53を顔料の予備吐出位置52に重ね合わせることもできる。このように1つの位置に重ねることで、一層確実に顔料インクと染料インクを混合させて確実に流れやすい混合インクを作ることが可能になり、インクの堆積を一層効果的に防止することができる。
【0034】
以上説明した本発明の実施形態によれば、安価な構成で記録装置の大型化を招くことなく、顔料インク吐出口列の長さが染料インク吐出口列の長さより大きい記録ヘッドから予備吐出を行う場合でも、予備吐出された顔料インクが予備吐出受け部に堆積することを効率よく低減することができ、記録ヘッドと堆積顔料インクとの接触を防ぐことで良好な画像記録を行うことができるインクジェット記録装置が提供される。
【0035】
図3は本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の予備吐出受け部5と予備吐出位置を示す模式的部分斜視図である。前述した第1の実施形態では予備吐出受け部5及びその斜面51をプラテン6と一体に構成したが、図3のように別部材で構成しても良い。本実施形態では、斜面51を有するインク受容面がフィルム状の別部品で構成されている。プラテン6に隣接して設けられた予備吐出受け部5にフィルムなどの別部材56を嵌めることにより、第1の実施形態と同様の斜面51が形成されている。この別部材56の斜面51も、記録媒体2の搬送方向下流側に斜面上流部51aを有するとともに搬送方向上流側に斜面下流部51bを有する斜面で構成されている。
【0036】
そして、予備吐出に際して、染料インク吐出口33からのインクを斜面51の重力方向上流寄りの位置である斜面上流部51aで受け、顔料インク吐出口32からのインクを斜面51の重力方向下流寄りの位置である斜面下流部51bで受けるように構成されている。また、斜面51を有する別部材56の下側には予備吐出インクを吸収するための多孔質体からなるインク吸収体57が配置されており、このインク吸収体57は斜面下流部51bに形成された孔又は開口51cと接触している。このインク吸収体57の直下にはプラテン6の下側に配置された前述の廃インク吸収体が配設されている。
【0037】
以上のような図3に示す構成において、フィルム等の別部材56の斜面下流部51bに予備吐出される顔料インク52は、同じく別部材56等の斜面上流部51aに予備吐出され付着した後に流下してくる染料インク53と混合される。そして、混合されたインクは斜面下流部51bに形成された孔又は開口51cへ向かって流れていき、第1の実施形態と同様、顔料インク52の堆積を低減又は防止する効果が得られる。さらに、斜面下流部51bの孔又は開口51cを通過した混合インクは、予備吐出受け部5内のインク吸収体57に一旦吸収され一時的に収容される。収容された混合インクがある一定量を超えると、このインクはインク吸収体57からその下側に配置された不図示の前記廃インク吸収体へと伝わっていき、該廃インク吸収体内に吸収されて回収される。
【0038】
その際、インク吸収体57にあらかじめグリセリンなどの親水性のよい物質を含有させておくことにより、インク吸収体57内部でのインクの浸透性を向上させることができ、予備吐出インクを一層スムーズに前記廃インク吸収体へ導くことができる。
図3の第2の実施形態はその他の点では前述の第1の実施形態と実質的に同じ構成を有しており、その他の点についての説明は省略する。従って、第2の実施形態によっても、前述の第1の実施形態の場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
なお、以上の実施形態では、1本の比較的長い顔料インク吐出口列32と4本の比較的短い染料インク吐出口列33を有する記録ヘッド3を例に挙げて説明したが、本発明は、顔料インク吐出口と染料インク吐出口を用いるインクジェット記録装置であれば、吐出口の配置や、インク色の数や、吐出口列の長さなどに関係なく適用可能なものであり、同様の作用効果を奏するものである。また、本発明は、インクジェット記録装置であれば、単色又は複数色で記録する1個の記録ヘッドを用いる記録装置、異なる色のインクで記録する複数の記録ヘッドを用いるカラー記録装置、あるいは同一色彩で異なる濃度で記録する複数の記録ヘッドを用いる階調記録装置、さらには、これらを組み合わせた記録装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
【0040】
さらに、本発明は、記録ヘッドとインクタンクを一体化した交換可能なインクカートリッジを用いる構成、記録ヘッドとインクタンクを別体にし、その間をインク供給用チューブ等で接続する構成など、記録ヘッドとインクタンクの配置構成がどのような場合にも同様に適用することができ、同様の効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の主要部を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の予備吐出受け部と予備吐出位置を示す模式的部分斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の予備吐出受け部と予備吐出位置を示す模式的部分斜視図である。
【図4】記録ヘッドの吐出口面における顔料インク吐出口列と染料インク吐出口列の配列状態の一例を示す模式図である。
【図5】記録ヘッドの吐出口面における顔料インク吐出口列と染料インク吐出口列の配列状態の別の例を示す模式図である。
【図6】従来のインクジェット記録装置における予備吐出受け部の顔料インクの堆積状態を例示する模式的部分斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 インクジェット記録装置
2 記録媒体
3 記録ヘッド
31 吐出口面
32 顔料インク吐出口(顔料インク吐出口列)
33 染料インク吐出口(染料インク吐出口列)
34 キャリッジ
35 インクタンク
36 ガイドシャフト
37 タイミングベルト
38 キャリッジモータ
4 回復機構部
41 ポンプ
42 顔料インク吐出口列のキャップ
43 染料インク吐出口列のキャップ
44 キャッピング手段
5 予備吐出受け部
51 斜面
51a 斜面上流部(重力方向の上流寄り)
51b 斜面下流部(重力方向の下流寄り)
51c 孔又は開口
52 予備吐出された顔料インク及びその吐出位置
53 予備吐出された染料インク及びその吐出位置
56 フィルム等の別部材
57 インク吸収体
6 プラテン
61 搬送ローラ
62 ピンチローラ
63 排紙ローラ
8 給紙部
9 排紙トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料インクを吐出する顔料インク吐出口と染料インクを吐出する染料インク吐出口とを有する記録ヘッドにより記録を行うインクジェット記録装置において、
前記吐出口から吐出される記録に寄与しないインクを受ける予備吐出受け部と、
前記予備吐出受け部に配された斜面と、
を備え、前記染料インク吐出口からのインクを前記斜面の重力方向上流寄りの位置で受け、前記顔料インク吐出口からのインクを前記斜面の重力方向下流寄りの位置で受けることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記斜面は記録媒体の搬送方向に傾斜した面で形成され、前記記録ヘッドの前記染料インク吐出口は前記斜面の重力方向上流寄りと対応する位置に配置され、前記記録ヘッドの前記顔料インク吐出口は前記斜面の重力方向下流寄りと対応する位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記染料インクの予備吐出量は、前記顔料インクの予備吐出量より多いことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記染料インクの予備吐出を行った後に前記顔料インクの予備吐出を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドの走査方向における前記染料インクの予備吐出位置と前記顔料インクの予備吐出位置が同じであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記染料インク吐出口が複数の吐出口列からなり、前記染料インクの各吐出口列の個別の予備吐出を前記顔料インクの予備吐出と同じ位置で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載きインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記予備吐出受け部に吐出されたインクは、前記斜面の重力方向下流部に形成された孔又は開口を通して廃インク吸収体へ導かれることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記斜面は、前記予備吐出受け部に取り付けられたフィルムなどの他の部材で形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−35786(P2006−35786A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222753(P2004−222753)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】