説明

インクジェット記録装置

【課題】 記録媒体上にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドを用いて、記録を行うインクジェット記録装置において、ウェットワイピングに用いる、ウェットワイピング溶液(例としてグリセリン)は、環境温度に依る粘度の変動が大きい。
これにより環境温度によって、ヘッドに塗られるウェットワイピングの転写量も変動してしまう。しかし、ウェットワイピング溶液を一定量以上塗らなければ、ウェットワイピングの効果が得られない。
【解決手段】 ウェットワイピング溶液を加熱する事で、ウェットワイピング溶液の温度を常に一定にし、転写量を一定量以上に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するインク吐出口を備えた記録手段のヘッド回復装置及びヘッド回復方法並びに該ヘッド回復を実施するインクジェット記録装置に関する。更に詳しくは、インクを吐出するヘッドのノズルが形成されている面(以下フェイス面と言う)を払拭してヘッド性能とプリント品質を維持させるために、フェイス面のインク等を除去するためのワイパーを用いたプリンタにおける払拭装置に関係するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等の機能を有する記録装置、あるいはコンピューターやワードプロセッサ等を含む複合型電子機器やワークステーションなどの出力機器として用いられる記録装置は、記録情報に基づいて紙、布、プラスチックシート、OHP用シート等の被記録材(記録媒体)に画像(文字や記号等を含む)を記録するものである。そのうち、インクジェット式の記録装置(インクジェット記録装置)は、記録手段(記録ヘッド)から被記録材へインクを吐出して記録を行うものであり、記録手段のコンパクト化が容易であり、高精細な画像を高速で記録することができ、普通紙に特別の処理を必要とせずに記録することができ、ランニングコストが安く、ノンインパクト方式であるため騒音が少なく、しかも、多種類のインク(例えばカラーインク)を使用してカラー画像を記録するのが容易であるなどの利点を有している。
【0003】
インクジェット記録ヘッドの吐出口からインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子としては、ピエゾ素子等の電気機械変換体を用いるもの、レーザー等の電磁波を照射して発熱させ、この発熱作用によってインク滴を吐出させるもの、あるいは発熱抵抗体を有する電気熱変換体によって液体を加熱するものなどがある。その中でも、熱エネルギーを利用してインクを滴として吐出するインクジェット式の記録手段(記録ヘッド)は、吐出口を高密度に配列することができるため高解像度の記録をすることが可能である。特に、その中でも、電気熱変換体素子をエネルギー発生素子として用いる記録ヘッドは、小型化が容易であり、かつ最近の半導体分野における技術の進歩と信頼性の向上性が著しいIC技術やマイクロ加工技術の長所を十分に活用でき、高密度実装化が容易で製造コストも安価なことから、有利である。
【0004】
また、被記録材の材質に対する要求も様々なものがあり、近年では、これらの要求に対する開発が進み、通常の被記録材である紙(薄紙や加工紙を含む)や樹脂薄板(OHP等)などの他に、布、皮革、不織布、さらには金属等を被記録材として用いる記録装置も使用されるようになっている。
【0005】
記録装置には、記録紙(被記録材)の搬送方向と交叉する方向に主走査しながら記録していくシリアル型の記録装置と記録紙の幅方向の所定幅(全幅を含む)の範囲をカバーするように定位置に保持された所定長さの記録ヘッドを用いて記録していくライン型の記録装置とに大別できる。本発明はこれらの記録方式を含むいずれの形式の記録装置においても適用可能なものである。上記シリアル型のインクジェット記録装置においては、通常、記録紙を所定の記録位置にセットした後、記録紙に沿って移動するキャリッジ上に搭載した記録ヘッドによって画像(文字や記号等を含む)を記録し、所定量の紙送り(副走査)を実行することにより記録紙に画像が形成される。
【0006】
上記インクジェット記録装置においては、記録動作によって記録ヘッドのヘッド面にインク滴、ごみ、ほこり、紙粉等の異物が付着することがあり、これらの異物を除去するためにクリーニング部材によりヘッド面をクリーニング(例えば摺擦による拭き取り)することが行われている。前記クリーニング部材としては、通常、ゴム状弾性材から成るゴムブレード等の可撓性部材が使用される。また、記録ヘッドの吐出口近傍のインクが乾燥し、インクの増粘、固着、堆積により吐出口の目詰まりが生じることがある。さらに、吐出口内部(液路)に発生した気泡やゴミ等によっても吐出口の目詰まりが生じることがある。これらの目詰まりを回復(予防、解消等)する方法として、例えば、キャッピング部材を用いてインクの吐出口部に密閉系を形成し、ポンプを用いて吐出口面(ヘッド面)に所定の負圧吸引力を発生させることにより吐出口よりインクを強制的に排出するという吸引回復方法が採られている。また、吸引回復によってヘッド面に付着したインクを除去するために、クリーニング部材により該ヘッド面をクリーニング(拭き取り)することも行われている。
【0007】
また、これらのインクジェット記録装置に用いるインクとしては、従来は水性染料インクを用いたものが主流であったが、染料インクはそもそも染料の分子が小さいがゆえに耐光性、耐ガス性といったいわゆる耐候性が不十分であり、記録物の色味が径時的に変化してしまうという問題があった。そこで近年、水性染料インクにかわり水性顔料インクが実用化されてきている。現在用いられている顔料インクは、顔料の粒径がおよそ100nm程度と染料分子に比較してはるかに大きいため光やオゾンの影響を受けたとしても色材の退色が顕著ではなく、耐候性は染料インクに比較してはるかに良好である。
【0008】
このようなインクジェット記録装置について、図2及び図3を用いて、従来のヘッド回復装置及びヘッド回復方法について説明する。図2は従来のインクジェット記録装置のヘッド回復装置を前面方向から見て示す模式的正面図であり、図3は図2のヘッド回復装置を側面から見て示す模式的側面図である。図2及び図3において、1Aは普通紙やマット紙等に好適な、いわゆる上乗せ系の表面張力の高いブラック顔料インク(以下マットBkインクと言う)を吐出するマットBkヘッドである。1Bはインクジェット光沢紙や写真用紙等に好適な、いわゆる浸透系の表面張力の低いカラー顔料インク(ここでは、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色である)を吐出するカラーヘッドである。なおヘッド1Bのこれらのインクはインクジェット記録媒体上でのインクの定着のために樹脂を添加することが多く、以下ではこれらカラー顔料インクを樹脂顔料インクと言う。2はマットBk ヘッド1A及びカラーヘッド1Bを位置決め保持する主走査キャリッジであり、3は記録方向である矢印A方向に往復移動可能な状態で主走査キャリッジ2を案内保持する主走査レールである。
【0009】
さらに、4Aはブラックヘッド1Aの吐出口部11に密閉系を形成する(キャッピングする)ゴムキャップ(マットBk ヘッド用のキャップ)であり、4Bはカラーヘッド1Bの吐出口部1Baに密閉系を形成する(キャッピングする)ゴムキャップ(カラーヘッド用のキャップ)である。これらのゴムキャップ4A、4Bは、不図示の駆動源によりキャッピング方向(矢印B方向)及び非キャッピング方向(矢印C方向)に移動可能に不図示のホルダ部材に位置決め保持されており、それによって顔料インクヘッド用のキャッピング手段が構成されている。
【0010】
図2及び図3において、前記ゴムキャップ4A、4Bのそれぞれの内部には、インクを吸収保持するためのキャップ吸収部材9A、9Bが設けられている。また、吐出口部11、1Baにインクが増粘して固着堆積することを防止するために、記録(プリント)中でも、これらの吐出口から所定の時間間隔でキャップ吸収部材9A、9Bに対して予備吐が行われる。5AはマットBkヘッド用の吸引ポンプ(吸引手段)であり、5Bはカラーヘッド用の吸引ポンプ(吸引手段)であり、キャッピング状態で吐出口部11、1Baに所定の吸引圧(負圧)を発生させ、第1チューブ6A、6Bを介して吐出口部11、1Baより強制的にインクを吸引し、吸引したインクを第2チューブ7A、7Bを介して廃インク処理部材8へ排出する吸引回復(回復処理)を行う。10AはマットBkヘッド用のクリーニング部材であり、10Bはカラーヘッド用のクリーニング部材であり、これらのクリーニング部材はウレタン、ブチル、シリコン等のゴム部材又は多孔質のスポンジ系の材質等で形成されている。
【0011】
クリーニング部材10A、10Bは不図示の駆動源により図3中、矢印D及び矢印Eの方向に移動可能であり、矢印D方向の移動により吐出口部11,1Baを含むヘッド面に摺擦して((1)→(2)→(3)点線部)クリーニング(拭き取り清掃)を行う。クリーニングが終了した後さらに矢印D方向に移動すると、クリーニング部材10A、10Bはクリーナ11A、11Bに当接する((4)点線部)。この当接により、ヘッド面から掻きとられてクリーニング部材10A、10Bに付着したインク滴、ごみ、ほこり、紙粉等は、対応するクリーナ11A、11Bに転写される(移行する)ことで回収される。この時、キャッピング手段のキャップ4A、4Bは、不図示の駆動源により矢印C方向に移動(後退)し、クリーニング手段のクリーニング部材10A、10Bと干渉しない位置(不図示)まで退避している。
【0012】
ここで従来のヘッド回復装置及びヘッド回復方法並びに該ヘッド回復を実施するインクジェット記録装置においては、染料インクを用いる場合には装置各部における耐久性の問題は生じないが、顔料インクを用いる場合には、インクが増粘したり固着したりするまでの経過時間が染料インクを用いる場合より短く、早期に増粘したり固着したりし、また、クリーニング部材により掻き取る(又は拭き取る)場合のクリーニング性も染料インクを用いる場合より悪いため、記録手段のヘッド面に摺擦させてクリーニングしても、該ヘッド面にインクが薄膜状に堆積し、さらにそのインクが固着してしまい、クリーニング動作ではヘッド回復を行うことができないか、きわめて困難であるという技術的課題があった。
【0013】
通常染料インクは染料分子そのものが水溶液中に分散(溶解)しているが、顔料インクでは一般的に顔料粒子が親水性ではなく疎水性であるために水には溶解しないので水溶性を付与するために顔料粒子に樹脂や活性剤等を吸着させ顔料分散体として親水性を与え、水溶液中に分散させている。あるいは顔料粒子の構造自体の末端に親水基を持たせることで水溶液中に自己分散させている。
【0014】
そして顔料粒子そのものが疎水性であるため、染料インクと比較して記録ヘッドから顔料インクを吐出させたときに吐出口面が顔料インクでヌレやすくなってしまう性質を持っている。また前述した樹脂を用いて顔料を分散させている、いわゆる樹脂分散系の顔料インクでは、顔料とともに樹脂も吐出口面を濡らし易いので一層顕著である。また顔料粒子がフェイス面に存在する状態で前述したワイピング動作を行うことによるフェイス面へのダメージ(削れ)等もフェイス面を濡れやすくする一因である。
【0015】
このようにして吐出口面がヌレると、インクの吐出する方向性が安定しなくなり、インクが被記録媒体上に着弾する位置精度が悪くなり画像品位が低下する。
【0016】
上記の問題に対して、記録ヘッドの吐出口面に顔料インクを弾くいわゆる撥水処理を施した記録ヘッドを用いれば、初期は吐出の方向性は安定するが、基本的に顔料インク等のヌレやすいインクを用いた場合は、徐々に撥水性が劣化し吐出の方向性は不安定となる。あるいは記録ヘッドの吐出特性維持のために行なわれるワイピングによっても、結果的にヌレやすい顔料インクを吐出口面に広げてしまうためその撥水性は劣化していき、画像品位の劣化を生じてしまう。
【0017】
あるいは特開平11−334074号公報に示されるように顔料インク用のヘッドとしては吐出口周辺のみを最初から親水化したようなヘッドも提案されている。
【0018】
しかしながら吐出口面の撥水性、または親水性等の性質は長期間維持できるものではなく、経時的に劣化していく。比較的知られているUVオゾン処理等でも、処理直後は親水性を有するが時間と共にその親水の程度が変化してしまうことがある。
【0019】
このようなフェイス面の撥水性能もしくは親水性能の変化の問題に対しては、例えば特開平10−138502号公報に示すような、いわゆるウェットワイピングと言う技術が知られている。これはフェイス面を払拭するワイパーに例えばグリセリンやポリエチレングリコール等の揮発性のきわめて低い溶剤(以下ウェット液と言う)を付着させて、そのワイパーにてフェイス面を払拭することにより、フェイスの濡れ性の変化を防止するものである。ウェット液はその作用として、第1にフェイスに蓄積されたインク増粘物や増膜物を溶解する作用があり、第2にワイパーとフェイスとの間に介在することにより潤滑材の働きをし、第3にフェイスにウェット液を付着させることでフェイス保護のための膜を形成するものである。詳細な説明は後述するとして、以下にウェットワイピングの構成の一例を記す。
【0020】
図4はウェットワイピングの構成を示したもので、図3にウェットワイピングのユニットを加えたものである。ワイパー清掃部材11A,11Bよりも右側のワイパー折り返し位置近傍にウェットワイピングのユニットは設けられている。20はウェット液保持部で、21はワイパーが当接しウェット液をウェイパーに付着させる当接部である。当接部21付近には、不図示の駆動源により、ウェット液を加熱するための加熱機構22が備え付けられている。ワイパーは図中左側から11A,11Bのワイパー清掃部材にて清掃された後、清掃部材を通過してウェットワイピングのユニットに達する((4)→(5)→(6)の動作)。ワイパーは左右に往復動するが、折り返し位置にてワイパーが図の(6)のように当接部に当たるよう配置されている。そして当接部にて所定のニップ幅分に応じてウェット液が付着する(以下、当接部からワイパーへのウェット液の移動、ワイパーへの付着のことを「ウェット液の転写」と言う)ようにしたものである。
【0021】
しかしながら本発明者らが上記のようなウェットワイピングを搭載してヘッドのフェイス面の性能変化を検討したところ、特に低温環境下においてウェットワイピングの効果が少なく、フェイスの状態が初期に比べて変化してしまうことがわかった。そのため吐出液滴の着弾精度が悪化し、結果として印字品位を乱すことが判明した。
【0022】
このような低温環境下での挙動を検討したところ、ワイパーに転写されるウェット液の量が環境で大きく変動することがわかった。ウェット液はそもそも本体装置内に本体寿命の間、保持されているべきものであるため、空気中の飽和蒸気圧の低いもの、すなわち蒸発しにくいものが好ましく、またインク増粘物への溶解性やヘッド各部材との接液性を考慮すると、インクジェットプリンタのインク組成としてもしばしば用いられるグリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコール類が好ましい。これらの溶剤は一般的に分子量が大きく粘度が高いものが多いので低温環境下での粘度上昇の程度も大きい。図8は一例として、グリセリンの温度粘度曲線を示したものである。常温で800cp程度の粘度が、15℃で2300cp、5℃で7000cpと、低温に行くほど急激に粘度が上昇する。
【0023】
このような低温環境下におけるウェット液の粘度上昇(増粘)によりウェット液の転写量が減少するものと考えられるが、すなわちワイパーが当接部に当接したときのウェット液のワイパーに対する濡れが粘性のために不十分であったり、あるいはワイパーが当接してから戻るときにウェット液の粘性が大きいために当接部からウェット液を引きちぎりにくくなるものと考えられる。
【特許文献1】特開平11−334074号公報
【特許文献2】特開平10−138502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記のようにウェットワイピングを搭載したインクジェットプリンタにおいては、ワイパーへのウェット液の転写量が環境で大きく変動するという問題があった。すなわち低温環境ではウェット液の粘度上昇により転写量が常温よりも減少するため、所定のウェットワイプの効果が発揮できず、耐久後のフェイスの性能が劣化し印字品位を悪化させるという問題があった。
【0025】
本件は、上記課題を解決するためになされたもので、インクジェット記録装置において、印字を行う際、ウェット液の温度調整と保温を行う事で、どの環境温度においても常に、熱変動に依る粘度増加を抑え、必要量のウェット液が、ワイパーに転写され、記録ヘッドに塗布する事を可能にし、どの環境においても、常に高品位の印字を可能にさせるものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するため、本発明は、次のような構成を備えるものとなっている。
【0027】
記録媒体上にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドを用いて、記録を行うインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドに付着した汚れ等を拭き取るためのクリーニング部材と、前記記録ヘッドを洗浄する塗布液と、前期塗布液を保持するための保持手段と、前記塗布液の温度を測定する温度測定手段と、前記温度測定手段により、塗布液の加熱が、必要かどうかを、判断する判断手段と、前記塗布液を加熱するための加熱手段と、所定の温度に保温するための保温手段を有する事を特徴とし、
また、前記加熱手段は、前期クリーニング部材と塗布液保持手段との等接部付近にある事を特徴とし、
また、電源ON中は、塗布液を保温し続ける事を特徴とし、
また、電源ON中の所定のタイミングのみ、塗布液を加熱させる事を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、塗布液の温度を一定に保つ事によって、印字開始に際して、ウェット液の温度を所定の温度にさせる事で、粘度変化をなくし、記録ヘッドに対して、必要量のウェット液を塗布できるようになり、顔料インクを用いた時に問題であった、記録ヘッドにおけるノズル近傍の、インクの固着や膜張りの発生を減少させ、常に、高品質な印刷を行う事が出来る。また、加熱時間を限定することにより、消費電力の節約が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明のウェットワイピングを採用したインクジェット記録装置の概略図である。図1中、35はウェットワイピング機構を含む回復装置、36は回復装置近傍であって本体側板内に設けられた温度検出部材で、ここではサーミスタを用いている。
【0030】
以下順次、[1]本体の概略動作説明、[2]回復装置の概要、[3]記録ヘッドの概要、[4]ウェットワイピングを含む回復装置の詳細な動作説明、[5]ウェットワイピングに関する重要部分の説明の順に本発明に用いられるウェットワイピング機構に関して説明し、後に実施の形態として36の温度検出部材による温度に応じた、ウェットワイピング機構の制御に関する実施例を記す。
[1]本体の概略動作説明
図1にて記録用紙等の被記録材30は、給紙ローラ31によって装置本体内に送り込まれ、紙送りローラ(搬送ローラ)32上でピンチローラ(不図示)及び紙押え板33により挟持され、該紙送りローラ32の回転を制御することにより前記マットBkヘッド1A及び前記カラーヘッド1Bで構成される記録手段(記録ヘッド)1の前面(図示の例では下面に設けられたヘッド面)から所定の隙間をおいた位置(記録位置)を通して紙送り(搬送)され、その間に記録情報に基づいて記録ヘッド1を駆動することにより画像(文字等を含む)を記録(プリント)される。主走査キャリッジ2の移動範囲内であって、記録領域を外れた位置(図示の右側端部)には、該主走査キャリッジ2のホームポジションHPが設定されている。
[2]回復装置の概要
前記ホームポジションHPの近傍には、マットBkヘッド1A及びカラーヘッド1Bのヘッド面(吐出口が形成された面)に当接(密着)して吐出口を密封することが可能なゴム状弾性材のキャップ4A、4Bを有するキャッピング手段、キャッピング状態で該キャップ4A、4Bを介して前記吐出口に負圧吸引力を発生させ得る吸引ポンプを含む吸引手段、並びに前記マットBkヘッド1A及びカラーヘッド1Bのヘッド面に摺擦してインクやほこり等の付着物を掻き取る(拭き取る)ためのクリーニング部材を含むクリーニング手段などを備えたヘッド回復装置35が配設されている。このヘッド回復装置35は、ヘッドの吐出口部をキャッピングした状態で吸引ポンプによりキャップ内に負圧を発生させ、この負圧により吐出口からインクとともに増粘インク、気泡、固着インク、ほこり等の異物を吸い出して排出除去することにより、ヘッドのインク吐出性能を回復させる回復動作を実行するためのものである。
[3]記録ヘッドの概要
記録手段(記録ヘッド)1としての前記マットBkヘッド1A及び前記カラーヘッド1Bは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録ヘッドであって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。また、前記記録手段1は、前記電気熱変換体により印加される熱エネルギーによってインク内に膜沸騰を生じさせ、その時に生じる気泡の成長、収縮による圧力変化を利用して吐出口よりインクを吐出させ、記録(印字を含むプリント等)を行うものである。
[4]ウェットワイピングを含む回復装置の詳細な動作説明
図1の回復装置35内にはウェットワイピングユニット部を含むが、これに関しては以下の回復装置の説明の中で詳細に説明する。回復装置35及びこれを用いたウェットワイピングの基本的なメカ構成やシーケンス動作は従来例で説明したものと同じであるので図2及び図4を用いて説明する。
【0031】
図2は記録装置の電源Off時、またはスタンバイ時の回復装置の状態を示すもので、マットBkヘッド1A(インク吐出口1Aa)をマットBkヘッド用のキャップ4Aに対向させ、かつ、カラーヘッド1B(インク吐出口1Ba用)をカラーヘッド用のキャップ4Bに対向させたキャッピング状態であり、ヘッド回復装置35の模式的正面図である。
【0032】
通常プリンタの電源Off時や、プリンタのスタンバイ時は、キャップはこのようなヘッド保護のポジションにあって、ヘッドの吐出口へのゴミ等の付着や、吐出口からの水分蒸発を抑制している。印字信号を受信するとマットBkヘッド用のキャップ4A及び、カラーヘッド用キャップ4Bは図2中矢印C方向に下降し、キャップオープン状態となりキャリッジが操作可能な印字可能状態となる。図4はキャップオープン状態での回復装置35の模式的側面図である。
【0033】
印字は主走査レール3に沿ってキャリッジ2を走査して行うが、印字中の回復動作としてキャップ上への予備吐出があげられる。9A、9Bは前述のキャップ4A、4B内に設けられたインク吸収部材であり、これらのインク吸収部材9A、9Bは、インクを吸収、保持することができる多孔質材料又はスポンジ状材料などで形成されている。印字中のキャップオープン状態では、キャップ4A、4Bをヘッド1A、1Bから離間した位置に位置決め保持したキャップオープン状態において、ヘッド1A、1Bの吐出口1Aa、1Baから前記インク吸収部材9A、9Bに向けてインクを吐出する予備吐出が行われる。
【0034】
この予備吐出は、記録途中で吐出口部1Aa、1Baにおけるインクが増粘、固着することを防止するための操作であり、通常所定の時間間隔で行われる。なお、この予備吐出は不図示の予備吐出受け手段に向けて行ってもよい。この予備吐出受け手段は、例えば、容器やインク吸収部材などで構成することができる。
【0035】
次に図2、図4を用いて通常のヘッド回復動作について説明する。5AはマットBkヘッド用吸引ポンプ(吸引手段)であり、5Bはカラーヘッド用の吸引ポンプ(吸引手段)である。図2に示すようにキャップ4A、4Bをヘッド1A、1Bに当接(密着)させたキャッピング状態において、ヘッド1A、1Bの吐出口1Aa、1Baに所定の吸引負圧(吸引力)を発生させることで、第1チューブ6A、6Bを介して吐出口部1Aa、1Baよりインクを強制的に吸引するとともに、吸引したインクを第2チューブ7A、7Bを介して廃インク処理部材8へ排出するという吸引回復が行われる。前記吸引ポンプ(吸引手段)5A、5Bはこのような吸引回復を行うためのものである。また、この吸引回復は、記録開始直前や、記録中の所定量の時間又は記録動作ごとに、あるいはヘッドの回復操作が必要になったことを検知したときなど、必要性を考慮して実行されるものである。
【0036】
図4において10AはマットBkヘッド用のクリーニング部材(クリーニング手段)であり、10Bはカラーヘッド用のクリーニング部材(クリーニング手段)であり、これらのクリーニング部材はウレタン、ブチル、シリコン等のゴム状部材、多孔質状部材、スポンジ状部材で形成されている。クリーニング部材10A、10Bは不図示の駆動源により矢印D及び矢印E方向に移動可能であり、矢印D方向の移動により吐出口部1Aa、1Baを含むヘッド面(吐出口が形成された吐出口面)を払拭し(図4中の(1)→(2)→(3)の動作)、該ヘッド面のクリーニング(拭き取りなどによる)を行う。クリーニングが終了しさらに矢印D方向に移動すると、クリーニング部材10A、10Bはクリーナ11A、11Bに当接する((4)位置)。つまり、クリーニング部材10A、10Bがクリーナ11A、11Bに当接することにより、ヘッド面(吐出口面)から掻きとられたインク滴、ごみ、ほこり、紙粉はクリーニング部材10A、10Bからクリーナ11A、11Bへ移行し回収される。この時、キャップ4A、4Bは不図示の駆動源により矢印C方向に移動させられ、クリーニング部材10A、10Bと干渉しない位置(不図示)まで退避している。
【0037】
図4はウェットワイピングの構成を示したものである。ワイパー清掃部材11A,11Bよりも右側のワイパー折り返し位置近傍にウェットワイピングのユニットは設けられている。20はウェット液保持部で、21はウェット液伝達部、21aはワイパーが当接しウェット液をウェイパーに付着させる当接部である。ワイパーは図中左側から11A,11Bのワイパー清掃部材にて清掃された後、清掃部材を通過してウェットワイピングのユニットに達する((4)→(5)→(6)の動作)。ワイパーは左右に往復動するが、折り返し位置にてワイパーが図の(6)のように当接部に当たるよう配置されている。そして当接部にて所定のニップ幅分に応じてウェット液を転写する。
【0038】
ウェット液の転写の後に、ワイパーは再び(6)→(1)へと戻りワイパーの待機位置にて停止する。ただしこのときはワイパー清掃部材11A、11Bは、図示しない機構によって退避するように設けられている。またキャリッジ2もワイピング位置から移動して、ワイパーのワイピング面とは反対側の面ではヘッドのフェイス面を払拭しないようにしている。すなわち(6)→(5)→(3)→(1)のような動作にてワイパーは停止位置(1)に戻ることになる。
【0039】
上記のような系では初回のワイピング時は、実際にはウェット液がワイパーに転写していない状態でワイピングすることになり、初回のワイピング時にワイパーに転写したウェット液を用いて次回のウェットワイピングを行うことになる。ここで、ウェット液は非常に蒸発しにくいため次回のワイピング時にも蒸発して消失していることはない。またウェット液は通常のインクジェットプリンタに用いられるインクよりはるかに高い粘度を有しているため、ワイパーに付着した後に流失してしまうこともない。また初回1回のみのドライワイピング(ウェット液を用いないワイピング)によるフェイスの状態変化は本体寿命の間のワイピング耐久回数等に比較すると無視できるものである。
【0040】
なお本発明は上記のような構成に限るものではなく、前述した特開平10−138502に示されるような、回転ワイパーを用いたウェットワイピングの機構を有するインクジェットプリンタに対しても有効であり、あるいは上記のようなワイパーがスライド移動する他の構成に対しても有効である。具体的には上記のようなスライドワイパーの系において(5)と(6)の間に折り返し位置を設け、そこから(1)の停止位置に戻ることも可能な構成とすることで、ウェット液の転写工程((6)の位置まで移動してから(1)へ戻る工程)を含むワイピングと、ウェット液の転写を含まない((5)と(6)の位置にて折り返し(1)へ戻る)ワイピング工程とを有することが可能となるが、このような系においても本発明は有効である。
[5]ウェットワイピングに関する重要部分の説明
以上のような回復機構を有する系において、特にウェットワイピングの構成に関する重要な要素について、すなわちウェット液やそれの保持/伝達部、ヘッドのフェイス面の状態、使用するインクについては下記のようである。
【0041】
図4中、20はウェット液保持部であり、ここではポリプロピレン繊維をスポンジ状にしたもの(以下PPスポンジと言う)でウェット液を保持している。ポリプロピレン繊維の繊維径、繊維をスポンジ化したときの見かけ密度、スポンジ内の繊維の配向方向、スポンジを装置内に組み込むときの圧縮率、等は適宜選択して良い。21はウェット液保持部のPPスポンジ20から、ウェット液を伝達し21aのワイパー当接部にウェット液を伝達する伝達部材であり、当接部21aを含む。ここでは伝達部材21としては旭化成製サンファインAQ900を用いている。ここでウェット液保持部20と伝達部材21の間で確実にウェット液の供給が行われるようにするためには、毛管力に関してウェット液保持部20の毛管力よりも、伝達部材21の毛管力のほうが強くなければならない。そのような関係を維持しつつ、伝達部材の平均気孔径、見かけ密度、毛管力等を適宜選択しよい。
【0042】
またワイパー10A,10Bはここではポリエーテルウレタンを用い、ヘッドのフェイス面の状態は表面に撥水材をコートした撥水ヘッドを用いている。
【0043】
ウェット液としてはここではグリセリンを用いているが、グリセリンはそのものは蒸発しにくいが、空気中の水分を吸湿しやすく、また一旦吸湿した場合でも低湿度環境下では水分を放出し乾燥する特性があるため、図4中のウェット液保持部20や、伝達部材21等は吸湿、乾燥の影響を受けないように、その外周を図示しない水蒸気透過性の低い材料で遮蔽することが好ましいい。
【0044】
ただしウェット液保持部に存在するエアーの膨張収縮に耐えられるように、完全密閉ではなく、一部に大気連通の細孔を設けることが望ましい。
【0045】
用いるインクとしては、従来例でも説明したが、ここでは1Aのヘッドには自己分散性のマットBk顔料インクを用いている。これは顔料粒子の構造自体の末端に親水基を持たせることで顔料粒子を水溶液中に自己分散させたインクである。一方1Bのヘッドにはカラー顔料インク(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)を用いているが、これらは顔料粒子を界面活性剤的な作用を持つ樹脂にて水中に分散させているインクである。
【0046】
またウェット液保持部の大きさ、すなわちウェット液の必要量から逆算される保持部の容積については、次のように算出できる。まず、搭載するインクジェットプリンタの耐久枚数相当分のウェットワイピングを行ったとしてもフェイスの撥水状態に大きな変化がなく吐出液滴の着弾位置精度が許容範囲内であるために必要なウェット液の転写量を実験等で求め、これに耐久枚数相当分のワイピング回数を乗じただけのウェット液を保持可能な容積とする必要がある。
【0047】
例えば上記に示した系では1回のウェットワイプに1mgのグリセリンをワイパーに転写した上で上記撥水ヘッドのフェイス面に塗布することで目標とする耐久枚数10000枚を問題なく行うことができるとすると、耐久枚数の間に必要なグリセリン量は10gとなる。
【0048】
これに、グリセリンの密度、PPスポンジのグリセリン保持量、伝達部材のグリセリン保持量、グリセリン使いきり時の残量等を考慮すると、グリセリン保持部の容積は20cc程度が必要となる。初期のグリセリン注入量は使いきり効率にもよるが、通常100%の使い切りは期待できないので、必要量の1.2倍程度は注入しておく必要がある。もちろんこれらの条件、すなわち1回のワイピングで必要なグリセリンの量、耐久枚数、PPスポンジや伝達部材のグリセリン保持量に関しては、各プリンタの要件に応じて異なるものなので適宜設定されるべきものである。
【0049】
なお本発明は上記のような形態にのみ限って適用されるものではなく、ウェット液、ウェット液保持部、伝達部材等の材料や、フェイスの状態の撥水/非撥水/親水性等や、インクの濡れ性の指標であるインク表面張力や前記フェイスに対するインクの接触角等の様々な変更が可能であり様々な形態に変形可能である。もちろんインクに関しても本明細書中は顔料インクを用いた場合を例としてあげているが、染料インクであっても本発明を適用することは可能である。
【0050】
以下、本発明の特徴的な構成である低温環境下におけるウェット液のワイパーへの転写量制御に関する種々の実施形態を説明してゆく。
【実施例1】
【0051】
まず、本発明の特徴的構成における第1の実施形態を説明する。
【0052】
ウェット液の一例であるグリセリンは、図8に示すように、温度が低くなるにつれて、その粘度は高くなっていっている。そのため、低温環境においては、粘度が高くなり、ウェットワイピングを行うのに必要な量のウェット液を、ワイパーに転写出来ない。よって、インクヘッドにおける顔料インクを除去する事が困難になり、高品質な印字が出来なくなっている。この第1の実施形態では、ウェットワイピングを行う際の、記録ヘッドに対するウェットワイピングの塗布量がほぼ一定になるようにしたインクジェット記録装置において、次のような制御動作を行うものとなっている。
この第1の実施形態では、図4と、図5のフローチャートにより説明を行う。
【0053】
最初に、STEP-A1において、図1の36の温度検出部材にて、環境温度Twを測定する。次に、STEP-A2において、環境温度Twが閾値温度Thよりも高いかどうかを判断する。環境温度Twが閾値温度Thよりも高ければ、そのまま通常の印刷を行う。また、環境温度Twが閾値温度Thより低い場合は、STEP-A3に進み、ウェット液を図4の加熱機構によって、加熱し、所定温度まであげ、保温し、通常の印刷を行う。この加熱機構においては、電源がONの限り、この保温は続け、常に所定量のウェット液を、ワイパーに転写させ、記録ヘッドに塗布できるようにする。
【0054】
ここで、閾値温度Thの例としては、Th=25度とする。この粘度であれば、記録ヘッドに必要な塗布量を得る事が出来る。
【0055】
ここで、加熱機構で加熱する、ウェット液の所定温度の一例としては、25℃とする。これによって、粘度を800cp前後に保てるようにすると、所定量のウェット液を、記録ヘッドに塗布できる。もちろん、この加熱機構で、加熱させる温度は、この温度に限らず、それぞれに適応した温度にすることが好ましい。
【0056】
ここで、一例として、図4に示すように、ウェット液保持部のワイパー当接部付近だけに加熱機構をつけてある。この方が、ウェット液の一部の加熱で済むので、より早くウェット液の加熱が行う事が可能である。しかし、加熱機構の位置は、ここにこだわる事はなく、ウェット液を加熱する事ができる位置であれば、どこに設置しても構わない。
【0057】
また、今回一例として、図4において、ウェット液保持部とワイパーは、水平に当接するようにしてあるが、この当接部は、水平に限らず、角度を持たせて、ウェット液保持部とワイパーの当接面積を大きくしても構わない。
【0058】
このようにして、電源ONに際して、環境温度を測定し、ウェット液の温度を所定の温度にさせる事で、粘度変化をなくし、ウェットワイピングを行うことで、記録ヘッドに対して、必要量のウェット液を塗布できるようになり、顔料インクを使用した場合でも、記録ヘッドのフェイス面において、インクの固着や膜張りの発生を減少させ、常に、高品質な印刷を行う事が出来る。
【実施例2】
【0059】
本発明の特徴的構成における第2の実施形態を説明する。
【0060】
この第2の実施形態では、ウェットワイピング処理が可能なインクジェット記録装置において次のような制御動作を行うものとなっている。実施例1のように、常に、ウェット液を温めておくと、いつでも、最適な印字を行える反面、電源ONの間は、電力を消費しつづける事になる。そこで、印刷開始された時に、加熱が必要かどうかを判断し、印刷開始から過熱を行い、電源ONから、印刷開始までの時間における、電力消費量を抑える。
【0061】
第2の実施形態を図6のフローチャートにより説明を行う。
【0062】
印刷命令が行われたら、最初に、STEP-B1において、図1の36の温度検出部材にて、環境温度Twを測定する。次に、STEP-B2において、環境温度Twが閾値温度Thよりも高いかどうかを判断する。環境温度Twが閾値温度Thよりも高ければ、STEP-B4に進む。また、環境温度Twが閾値温度Thより低い場合は、STEP-B3に進み、ウェット液を図4の加熱機構によって、加熱し、所定温度まであげ、保温し、STEP-B4に進む。次に、STEP-B4において、吸引回復が必要な状態かを判断する。吸引回復が必要な状態でなければ、STEP-B6に進む。また、吸引回復が必要な状態ならば、STEP-B5に進み、吸引回復を行い、STEP-B6に進む。次に、STEP-B6において、ウェットワイピングを行い、STEP-B7において、印字を行う。次に、STEP-B8に進み、印字データを受信したかを判断する。印字データを受信しなければ、STEP-B9に進み、印字データを受信したならば、STEP-B7に進み印字を続ける。次に、STEP-B9において、所定時間待機したかを判断する。所定時間経過していなければ、STEP-B8に進み、待機を続け、所定時間を経過していれば、STEP-B10に進む。STEP-B10においては、ウェットワイピングを行い、記録ヘッドに付着したインクの除去を行う。次に、STEP-B11で、キャッピングを行い、待機する。
【0063】
ここで、ウェット液の保温は、電源オフになるまで、保温を続け、次の印字データを待つようにする。
【0064】
ここで、加熱機構で加熱する、ウェット液の所定温度の一例としては、25℃とする。これによって、粘度を800cp前後に保てるようにすると、所定量のウェット液を、記録ヘッドに塗布できる。もちろん、この加熱機構で、過熱させる温度は、この温度に限らず、それぞれに適応した温度にすることが好ましい。
【0065】
ここで、STEP-B9で待機する時間の一例としては、60秒とする。この待機時間も、この一例に依らず、インクの物性やインクジェットプリンター本体の特性に合わせて、それぞれに適応した時間が設定されることが好ましい。
【0066】
このようにして、印字開始にする前に、ウェットワイピングを行う際、ウェット液の温度を所定の温度にさせる事で、粘度変化をなくし、記録ヘッドに対して、必要量のウェット液を塗布できるようになり、顔料インクを用いた場合でも、記録ヘッドのフェイス面における、インクの固着や膜張りの発生を減少させ、常に、高品質な印刷を行う事が出来る。さらに、電源ONからウェット液を加熱、保温するのではなく、印字開始から行う事で、消費電力を節約できる。
【実施例3】
【0067】
本発明の特徴的構成における第3の実施形態を説明する。
【0068】
この第3の実施形態では、ウェットワイピング処理が可能なインクジェット記録装置において次のような制御動作を行うものとなっている。常に、ウェット液を温めておくと、電力を消費しつづける事になるので、印刷時に限って、ウェット液を加熱することとする。
【0069】
第2の実施形態を図7のフローチャートにより説明を行う。
【0070】
印刷命令が行われたら、最初に、STEP-C1において、図1の36の温度検出部材にて、環境温度Twを測定する。次に、STEP-C2において、環境温度Twが閾値温度Thよりも高いかどうかを判断する。環境温度Twが閾値温度Thよりも高ければ、STEP-C4に進む。また、環境温度Twが閾値温度Thより低い場合は、STEP-C3に進み、ウェット液を図4の加熱機構によって、加熱し、所定温度まで上げ、保温し、STEP-C4に進む。次に、STEP-C4において、吸引回復が必要な状態かを判断する。吸引回復が必要な状態でなければ、STEP-C6に進む。また、吸引回復が必要な状態ならば、STEP-C5に進み、吸引回復を行い、STEP-C6に進む。次に、STEP-C6において、ウェットワイピングを行い、STEP-C7において、印字を行う。次に、STEP-C8に進み、印字データを受信したかを判断する。印字データを受信しなければ、STEP-C9に進み、印字データを受信したならば、STEP-C7に進み印字を行う。次に、STEP-C9において、所定時間待機したかを判断する。所定時間経過していなければ、STEP-C8に進み、待機を続け、所定時間を経過していれば、STEP-C10に進む。STEP-C10においては、ウェットワイピングを行い、記録ヘッドに付着したインクの除去を行う。次に、STEP-C11で、ウェットワイピング液の保温を終了し、STEP-C12において、キャッピングを行い、次の印字データが来るまで待機する。
【0071】
ここで、加熱機構で加熱する、ウェット液の所定温度の一例としては、25℃とする。これによって、粘度を800cp前後に保てるようにすると、所定量のウェット液を、記録ヘッドに塗布できる。もちろん、この加熱機構で、過熱させる温度は、この温度に限らず、それぞれに適応した温度にすることが好ましい。
【0072】
ここで、STEP-C9で待機する時間の一例としては、60秒とする。この待機時間も、この一例に依らず、インクの物性やインクジェットプリンター本体の特性に合わせて、それぞれに適応した時間が設定されることが好ましい。
【0073】
このようにして、印字開始にする前に、ウェットワイピングを行う際、ウェット液の温度を所定の温度にさせる事で、粘度変化をなくし、記録ヘッドに対して、必要量のウェット液を転写できるようになり、顔料インクを用いても、インクの固着や膜張りの発生を減少させ、常に、高品質な印刷を行う事が出来る。さらに、印字データが来た時のみ、ウェット液の加熱、保温を行う事で、消費電力をさらに節約できる。
【0074】
また、以上において、前記記録ヘッドはインクを吐出することにより記録を行うヘッドとすることができ、さらに前記ヘッドは、インクを吐出するために利用されるエネルギとしてインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する発熱素子を有するものとすることができる。
【0075】
なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、記録媒体上に、広く画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も言うものとする。
【0076】
ここで、「記録媒体」とは、一般的なプリント装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチックフィルム、金属板等、インクを受容可能な物も言うものとする。
【0077】
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工に供され得る液体を言うものとする。
【0078】
なお本発明のウェットワイピング動作の入るタイミングについては説明してこなかったが、従来から行われているように、記録ヘッドのキャップオープン状態が所定時間継続したときに、吐出口面が乾燥している可能性があるので行うようにした、いわゆるタイマワイピングの入るタイミングや、吐出ドットカウントを行って所定量以上の記録がなされた場合に吐出口面がインクミストで汚れている可能性があるために行う、いわゆるドットカウントワイピングの入るタイミングで本発明のウェットワイピングを行うようにするのが好ましい。
【0079】
あるいはこれも従来から行われているが、キャップクローズの前に記録ヘッドの吐出口面に付着したインクを除去しその後の放置に備えるようにするため、キャップクローズ前のタイミングでも本発明のウェットワイピングを行うことが好ましい。
【0080】
また長期放置後であって、記録ヘッドの吐出口に固着/増粘インクが存在する場合に行われる吸引回復動作後も吐出口面に吸引残りのインクが比較的大量に付着しているため、このインク残りを除去するために吸引後のタイミングでも本発明のウェットワイピングを行うことが好ましい。
【0081】
また、特開平10−138503号広報に示されるように、処理液(塗布液)を加熱して、ウェットワイピングを行う機構を提案されているが、これは、固化している処理液(塗布液)をウェットワイピングを行うために、液化するために溶かしている構成であり、本発明の塗布液の温度を一定に保つ事によって、印字開始に際して、ウェット液の温度を所定の温度にさせる事で、粘度変化をなくし、記録ヘッドに対して、必要量のウェット液を塗布できる構成とは、設計思想が異なっている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明を適用したインクジェット記録装置の概略構成を示す模式的斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の従来の回復動作を説明するためのヘッド回復装置の模式的正面図である。
【図3】図1のヘッド回復装置において、顔料インクヘッド及び染料インクヘッドの少なくとも一方を顔料インクヘッド用のキャップ及び染料インクヘッド用のキャップの少なくとも一方に対向させた非キャッピング状態でクリーニング手段のクリーニング動作を併せて示す模式的側面図である。
【図4】図3に、ウェットワイピングの構成を加えて、ウェットワイピング動作を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るプリント位置合わせシーケンスを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係るプリント位置合わせシーケンスを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態に係るプリント位置合わせシーケンスを示すフローチャートである。
【図8】温度とグリセリンの粘度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
1A マットBkインクヘッド
1B カラーインクヘッド
2 主走査キャリッジ
3 主走査レール
4A マットBkインクヘッド用のキャップ(キャッピング手段)
4B カラーインクヘッド用のキャップ(キャッピング手段)
5A、5B 吸引手段(吸引ポンプ)
9A、9B インク吸収部材
10A マットBkインクヘッド用のクリーニング部材(クリーニング手段)
10B カラーインクヘッド用のクリーニング部材(クリーニング手段)
11A、11B クリーナ
1Aa、1Ba 吐出口部(吐出口)
1a、1b 吐出口部(吐出口)
20 ウェット液(塗布液)保持部
21 伝達部材
21a ワイパー当接部
22 加熱機構
30 被記録材(記録用紙等)
31 給紙ローラ
32 紙送りローラ
35 ヘッド回復装置
36 温度検出部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドを用いて、記録を行うインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドに付着した汚れを拭き取るためのクリーニング部材と、前記記録ヘッドを洗浄する塗布液と、前期塗布液を保持するための保持手段と、前記クリーニング部材と前記塗布液保持手段における前記塗布液伝達部材とを、当接させ、前記クリーニング部材に、前記塗布液を転写させる機構と、前記塗布液、または、塗布液近傍の温度を測定する温度測定手段と、前記温度測定手段により、塗布液の加熱が、必要かどうかを、判断する判断手段と、前記塗布液を加熱するための加熱手段と、所定の温度に保温するための保温手段を有する事を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前期クリーニング部材と塗布液保持手段との等接部付近にある事を特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
電源ON中は、塗布液を保温し続ける事を特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
電源ON中の所定のタイミングのみ、塗布液を加熱させる事を特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−101632(P2009−101632A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276446(P2007−276446)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】