説明

インバータ一体型電動圧縮機及び車輌

【課題】冷媒の種類に関わらず同一仕様のインバータ一体型電動圧縮機を使用可能とする。
【解決手段】各種パラメータの数値から冷媒の吐出温度を演算により推定する機能をインバータ制御ソフトに搭載したインバータ一体型電動圧縮機において、車輌(図示せず)から提供される冷媒の種類を示す信号を受信する機能と、前記車輌から提供される可能性のある少なくとも2種類以上の冷媒特性に対応した演算ソフトを記憶し、前記車輌から受信した冷媒の種類に応じて前記演算ソフトを選択し、選択された前記演算ソフトにより吐出温度の推定を行うもので、同一のインバータ一体型電動圧縮機において、異なる2種類以上の冷媒を用いる場合であっても、各冷媒に対応した吐出温度の推定が可能となるので、インバータ一体型電動圧縮機を冷媒種類によって分ける必要が無く、インバータ一体型電動圧縮機の機種増加や管理費用の増加を招くことが無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用空調装置に用いられるインバータ一体型電動圧縮機及び車輌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置においては、現行の冷媒としてHFC−134aが広く利用されてきたが、欧州を中心に低GWP冷媒として、新冷媒(HFO−1234yf)への移行が進められており、同冷媒へ対応した電動圧縮機の開発が進められている。
【0003】
この種のインバータ一体型電動圧縮機では、吐出温度を検出する方法として、従来、温度センサを用いていたが、モータ電流、圧縮機回転速度、吸入温度などのパラメータを用いた演算式より、吐出温度、モータ温度を演算している。あらかじめ各条件での吐出温度をインバータの制御ソフトに記憶させ、実際のコンプレッサの運転条件による上記パラメータの数値から吐出温度推定値を演算することにより吐出温度推定を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2836664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、新冷媒へ完全に移行するまでの間は、仕向地や、車種によって現行冷媒と新冷媒を使い分けて使用されることが予想される。
【0006】
従来冷媒と新冷媒では、冷媒の特性が異なるため、条件が同一であっても吐出温度が異なる。一方、従来技術で示す吐出温度の推定は、特定の冷媒を想定しているため、モータ電流、圧縮機回転速度、吸入温度などの数値が同一であれば、冷媒に関係なく、吐出温度の推定値は同じ値となる。
【0007】
即ち、吐出温度の推定において、冷媒が変わる場合には、冷媒に合わせた吐出温度の演算式を用いる必要が有る。現行冷媒と新冷媒を仕向地で使い分ける等の場合には、車輌の冷凍サイクルに封入する冷媒の種類によって、インバータの制御ソフトを使い分ける必要があるため、同一車種であっても、同一仕様のインバータ一体型電動圧縮機を使用することが出来ず、インバータ一体型電動圧縮機の機種増加や管理費用の増加を招くといった課題を有していた。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するもので、特性の異なる2種類以上の冷媒を用いる場合であっても、インバータ制御ソフトを使い分ける必要のないインバータ一体型電動圧縮機と車輌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するため、本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、各種パラメータの数値から冷媒の吐出温度を演算により推定する機能をインバータ制御ソフトに搭載したインバータ一体型電動圧縮機において、車輌から提供される冷媒の種類を示す信号を受信する機能と、前記車輌から提供される可能性のある少なくとも2種類以上の冷媒特性に対応した演算ソフトを記憶し、前記車輌から受信した冷媒の種類に応じて前記演算ソフ
トを選択し、選択された前記演算ソフトにより吐出温度の推定を行うもので、同一のインバータ一体型電動圧縮機において、異なる2種類以上の冷媒を用いる場合であっても、各冷媒に対応した吐出温度の推定が可能となる。これにより、インバータ制御ソフト即ちインバータ一体型電動圧縮機を冷媒種類によって分ける必要が無くなり、インバータ一体型電動圧縮機の機種増加や管理費用の増加を招くことが無い。
【0010】
また、本発明の車輌は、請求項1又は2に記載のインバータ一体型電動圧縮機を搭載したもので、車輌の空調装置に使用される冷媒の種類が途中で変更されても、インバータ一体型電動圧縮機を交換する必要が無いので、冷媒の変更時のコストが大幅に低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインバータ一体型電動圧縮機は、冷媒種類の違いに関わらず同一仕様の圧縮機を使用可能とすることで機種数・管理費用を削減することができる。また、本発明の車輌は、その空調装置に使用される冷媒の種類が途中で変更されても、インバータ一体型電動圧縮機を交換する必要が無いので、冷媒の変更時のコストが大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1におけるインバータ一体型電動圧縮機を搭載した空調装置の構成図
【図2】同インバータ一体型電動圧縮機の電動圧縮機の断面図
【図3】同インバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置とその周辺の電気回路図
【図4】同インバータ装置での吐出温度推定フローチャート
【図5】本発明の実施の形態2における車輌の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1の発明は、各種パラメータの数値から冷媒の吐出温度を演算により推定する機能をインバータ制御ソフトに搭載したインバータ一体型電動圧縮機において、車輌から提供される冷媒の種類を示す信号を受信する機能と、前記車輌から提供される可能性のある少なくとも2種類以上の冷媒特性に対応した演算ソフトを記憶し、前記車輌から受信した冷媒の種類に応じて前記演算ソフトを選択し、選択された前記演算ソフトにより吐出温度の推定を行うもので、同一のインバータ一体型電動圧縮機において、異なる2種類以上の冷媒を用いる場合であっても、各冷媒に対応した吐出温度の推定が可能となる。これにより、インバータ制御ソフト即ちインバータ一体型電動圧縮機を冷媒種類によって分ける必要が無くなり、インバータ一体型電動圧縮機の機種増加や管理費用の増加を招くことが無い。
【0014】
第2の発明は、特に、第1の発明の少なくとも2種類の冷媒が、「HFC−134a」と「HFO−1234yf」であるもので、低GWPとして移行が進む新冷媒と従来冷媒の両冷媒での正確な吐出温度を推定することが出来る。
【0015】
第3の発明に係る車輌は、請求項1又は2に記載のインバータ一体型電動圧縮機を搭載したもので、車輌の空調装置に使用される冷媒の種類が途中で変更されても、インバータ一体型電動圧縮機を交換する必要が無いので、冷媒の変更時のコストが大幅に低減できる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1におけるインバータ一体型電動圧縮機について、図1〜4を用いて説明する。図1は、本実施の形態におけるインバータ一体型電動圧縮機を搭載した空調
装置の構成図である。
【0018】
本実施の形態におけるインバータ一体型電動圧縮機61は、後述の電動圧縮機60と、それに一体的に取り付けられたインバータ装置20から構成されている。
【0019】
図1において、このインバータ一体型電動圧縮機61を搭載した空調装置は、室内送風ファン51の作用により、送風ダクト53の空気導入口52から空気を吸い込み、室内熱交換器54で熱交換した空気が空気吹き出し口55から車室内に吹き出される。
【0020】
室内熱交換器54は、モータ(図示せず)を駆動源とする電動圧縮機60、冷媒の流れを切替えて冷房と暖房を選択するための四方切替弁59、絞り装置56および室外ファン57の作用で、車室外空気と熱交換する室外熱交換器58と共に冷凍サイクルを構成している。
【0021】
上記モータを駆動する電動圧縮機駆動装置としてのインバータ装置20、室内送風ファン51、四方切替弁59、および室外ファン57は、エアコンコントローラ62により動作が制御される。エアコンコントローラ62は、室内送風の「自動」、「強」、「弱」、「OFF」を設定する室内送風ファンスイッチ63、「冷房」、「暖房」、「運転」、「OFF」を選択するエアコンスイッチ64、温度調節スイッチ65、空調用温度センサである車室内温度センサ67、車室外温度センサ68および車輌コントローラ(図示せず)との通信を行うための通信装置66と接続されている。
【0022】
図2は、上記電動圧縮機60の断面図を示したもので、金属製筐体32の内部には、圧縮機構部28とモータ11が設置されている。冷媒は、吸入口33から吸入され、圧縮機構部28がモータ11で駆動されることにより圧縮される。この圧縮された冷媒は、金属製筐体32の内部において、モータ11を通過し、その際にモータ11の冷却を行い、吐出口34より吐出される。
【0023】
インバータ装置20は、電動圧縮機60に一体となるように取付けられており、インバータ回路10が吸入通路38とを隔てた壁面に取付けられている。
【0024】
図3は、上記インバータ装置20とその周辺の電気回路を示したものである。インバータ装置20の制御回路7は、エアコンコントローラ62と接続される通信線12からの指令回転数等に基づき、インバータ回路10を構成するスイッチング素子2を制御する。そして、バッテリ1からの直流電圧をPWM変調でスイッチングすることにより、交流電流をモータ11の構成要素である固定子巻線4へ出力し、回転子5から指令回転数の動力を出力させる。モータ11は、電動圧縮機60の駆動源であり、電動圧縮機60に内蔵されている。
【0025】
前記、吸入通路38に取付けられたインバータ回路10は、モータ11の電流値と冷媒の吸入温度を測定する機能を有しており、モータ11を駆動させたときの電流値と、吸入温度を検出することが出来る。
【0026】
エアコンコントローラ62は、上記スイッチ、センサ等からの情報に基づき、電動圧縮機60の所要回転数を演算し、指令回転数として、通信線12を介し、インバータ装置20へ送信する。インバータ装置20は、上記指令回転数に追加して、電動圧縮機60から、モータ電流、車輌コントローラ(図示せず)にあらかじめ登録された冷媒情報を受信している。
【0027】
インバータ装置20は、モータ電流、圧縮機回転速度、吸入温度の情報を電動圧縮機6
0から受信し、モータ電流より求められるモータトルクから吐出圧力を演算する。また、前記吐出圧力と圧縮機回転速度、吸入温度より電動圧縮機60の吐出温度を演算することにより吐出温度の推定を行う。
【0028】
図4に、上記例での吐出温度推定のフローチャートを示す。インバータ装置20は、ステップ10にて、あらかじめ車輌(図示せず)から送信された冷媒情報信号を受信する。受信した情報を元に、ステップ20にて冷媒の種類を判別する。その結果、冷媒種類が、例えば冷媒1と判定した場合、ステップ30にて、冷媒1用の吐出温度推定演算ソフトAを選択し、吐出温度の推定を行う。また、ステップ20にて判別した冷媒種類が冷媒2の場合には、ステップ40にて冷媒2用の吐出温度推定演算ソフトBを選択し、吐出温度の推定を行う。
【0029】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における車輌の構成を示す図である。なお、上記実施の形態1におけるインバータ一体型電動圧縮機61と同一部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図5において、本実施の形態における車輌70の前方の車輌室外であるエンジンルーム75には、上記実施の形態1における電動圧縮機60とインバータ装置20からなるインバータ一体型電動圧縮機61と、室外熱交換器58と、室外ファン57と、車室外温度センサ68が搭載されている。
【0031】
一方、車輌室内76には、室内送風ファン51と、室内熱交換器54と、エアコンコントローラ62と、車室内温度センサ67が配置されている。空調装置に封入される冷媒の種類は、車輌コントローラ(図示せず)にあらかじめ登録され、インバータ装置20へ送信される。
【0032】
インバータ一体型電動圧縮機61は、本実施の形態に示す方法により、吐出温度の推定を行うことにより、例えば、室外ファン57が故障する等により、室外熱交換器58での放熱量が少なくなるなどの場合での、吐出温度が異常上昇した場合等に、電動圧縮機60を停止する等の保護制御を行う必要があるが、本実施の形態では、冷温度センサを用いることをせずに、上記保護制御を行うことが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機及び車輌は、冷媒種類の違いに関わらず同一仕様の電動圧縮機を使用することが出来るので、自動車用空調装置での異種冷媒へ対応した電動圧縮機の開発・製造での機種数・管理費用を削減することが出来る。
【符号の説明】
【0034】
20 インバータ装置
60 電動圧縮機
61 インバータ一体型電動圧縮機
70 車輌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種パラメータの数値から冷媒の吐出温度を演算により推定する機能をインバータ制御ソフトに搭載したインバータ一体型電動圧縮機において、車輌から提供される冷媒の種類を示す信号を受信する機能と、前記車輌から提供される可能性のある少なくとも2種類以上の冷媒特性に対応した演算ソフトを記憶し、前記車輌から受信した冷媒の種類に応じて前記演算ソフトを選択し、選択された前記演算ソフトにより吐出温度の推定を行うことを特徴としたインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項2】
少なくとも2種類の冷媒が、「HFC−134a」と「HFO−1234yf」であることを特徴とした請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインバータ一体型電動圧縮機を搭載したことを特徴とする車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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