説明

インフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸

【課題】インフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸を提供する。
【解決手段】インフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸であって、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.4ないし0.6モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物を前記石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%含む石鹸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸に関するものであり、詳細には、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.4ないし0.6モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物を前記石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%含む石鹸に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗インフルエンザウイルス薬が盛んに研究・開発され、タミフル(登録商標)やザナミヴィル(登録商標)等のインフルエンザウイルスの増殖を抑えることができる薬剤が開発されるに至っている。しかし、これらの抗インフルエンザウイルス薬は、使用可能時期が狭い範囲に限られたり、また、副作用の観点から必ずしも汎用に適した薬剤といえるものではなく、更に、これらの抗インフルエンザウイルス薬はインフルエンザウイルスの増殖を個人レベルで抑える作用を持つものの、インフルエンザウイルス感染が拡大するのを予防し得るものではない。
特に、免疫を有していない新型インフルエンザウイルス(A型、H1N1亜型)の感染が拡大するのを予防することは非常に困難である。
【0003】
一方、ヒノキチオールと亜鉛化合物を含有する組成物が、抗菌剤として有用であることが知られている(例えば、引用文献1参照。)
また、ヒノキチオールと亜鉛化合物を含有する組成物がHIVウイルスに対して抗ウイルス活性を示すことも報告されている(例えば、引用文献2参照。)
しかし、インフルエンザウイルス対して抗ウイルス活性を示し得る石鹸に付いては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第93/17559号パンフレット
【特許文献2】特開平08−259439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗インフルエンザウイルス活性及び安全性に優れるインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒノキチオールと塩化亜鉛とからなる混合物が抗インフルエンザウイルス活性を有し且つ安全性に優れること、その際、ヒノキチオールと塩化亜鉛の使用量をモル比で1:0.4ないし1:0.6の範囲とすると優れた抗インフルエンザウイルス活性を示すこと、該混合物を0.001ないし10質量%含有する石鹸が、抗インフルエンザウイルス活性及び安全性に優れるインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
また、本発明の石鹸は、新型インフルエンザウイルス(A型、H1N1亜型)の感染拡大の予防が期待できる。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)インフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸であって、ヒノキチオールと該
ヒノキチオールの0.4ないし0.6モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物を前記石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%含む石鹸、
(2)前記混合物が、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.45ないし0.55モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる前記(1)記載のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸、
(3)前記混合物を前記石鹸の質量に基づき0.01ないし1質量%含有する前記(1)又は(2)記載のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸、
(4)前記インフルエンザが、鳥インフルエンザ又はヒトインフルエンザである前記(1)ないし(3)の何れか1つに記載のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、抗インフルエンザウイルス活性及び安全性に優れるインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸の提供が可能となる。
従って、本発明のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸は、インフルエンザウイルス感染の予防において有用であり、特に、新型インフルエンザウイルス(A型、H1N1亜型)の感染拡大の予防が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ヒノキチオール及びヒノキチオール塩化亜鉛混合物の濃度に対する鳥インフルエンザウイルスのウイルス力価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸は、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.4ないし0.6モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物を前記石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%含む。
【0011】
本発明に使用するヒノキチオールは、タイワンヒノキ、ヒバ、アスナロ等の原料植物に由来する精油から抽出された天然物でもよく、化学合成品でもよい。また、市販品のヒノキチオールをそのまま用いてもよい。原料植物としては、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記精油としてはヒバ油が好ましい。化学合成品も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0012】
本発明のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸においては、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.4ないし0.6モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物を使用する。
前記混合物は、好ましくは、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.45ないし0.55モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物であり、より好ましくは、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.5モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物である。
【0013】
前記混合物の使用量は、前記石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%の範囲であり、好ましくは、前記混合物を前記石鹸の質量に基づき0.01ないし1質量%、また、0.15ないし1質量%の範囲である。
また、本発明のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸に使用する塩化亜鉛は、例えば、市販で入手することができる。
【0014】
本発明の石鹸は、通常、前記混合物を含む溶液と粉末の石鹸基材を混合した後、溶液中の水や有機溶媒を除去することにより製造することができる。
前記混合物を含む溶液は、前記混合物を溶解した水溶液、アルコール溶液及び水−アルコール溶液であることができる。
前記水溶液及び水−アルコール溶液に使用する水としては、水道水でも脱イオン水や蒸留水等の精製水でも使用できるが、脱イオン水等の精製水を使用するのが好ましい。
前記アルコール溶液及び水−アルコール溶液に使用するアルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。好ましいアルコールはエタノールである。
【0015】
前記混合物を含む溶液としては、アルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)が好ましい。
前記混合物を含む溶液として水−アルコール溶液を使用する際の、溶液全量に対する水及びアルコールの使用量は、特に限定されるものではないが、合計で、例えば、10ないし99.8質量%の範囲である。
【0016】
前記溶液は、グリセリンを含むこともできる。
グリセリンとしては、グリセリンおよびグリセリンの各種誘導体が挙げられる。
【0017】
前記溶液は、クエン酸及び/又はクエン酸のアルカリ金属塩を含み得る。クエン酸のアルカリ金属塩としてはクエン酸ナトリウムが好ましい。
前記溶液は、エチレンジアミン四酢酸又はそのアルカリ金属塩を含み得る。エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が好ましく、また、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウムが好ましい。
前記溶液は、エチドロン酸又はそのアルカリ金属塩を含み得る。エチドロン酸のアルカリ金属塩が好ましく、また、エチドロン酸4ナトリウムが好ましい。
前記溶液は、亜鉛化合物の他に、更に、ナトリウム化合物、アルミニウム化合物を添加することもできる。
上記ナトリウム化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム等が挙げられ、アルミニウム化合物としては、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸、クロロヒドロキシアルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、カリウムミョーバン、アンモニウムミョーバン、ナトリウムミョーバン等が挙げられる。
【0018】
前記溶液は、アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含むこともできる。
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を厚搾抽出法で抽出し、熱を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバーロインを用いてもよい。アロエ抽出物には、アロインやバーバーロインの他、アロエ‐エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。
アロエの抽出物を使用する際の使用量は、前記溶液の質量に基づいて、0.002ないし10質量%、好ましくは、0.01ないし1質量%、より好ましくは、0.05ないし0.25質量%の範囲で使用し得る。
【0019】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピ
ガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。
緑茶の抽出物を使用する際の使用量は、前記溶液の質量に基づいて、0.002ないし10質量%、好ましくは、0.01ないし1質量%、より好ましくは、0.05ないし0.25質量%の範囲で使用し得る。
【0020】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で、その時にしぼり出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β−アミリン・フリーデン)の他、リグニン残渣、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
熊笹の抽出物を使用する際の使用量は、前記溶液の質量に基づいて、0.001ないし5質量%、好ましくは、0.005ないし0.3質量%、より好ましくは、0.01ないし0.1質量%の範囲で使用し得る。
【0021】
ドクダミは、日本、タイワン、中国、ヒマラヤ、ジャワに分布し、山野や庭などに見られる多年草である。ドクダミの抽出物は、熊笹と同様に、低温高圧圧搾抽出法という方法で抽出する。ドクダミ抽出物には、クエルシトリン(quercitrin)、アフゼニン(afzenin)、ハイぺリン(hyperin)、ルチン、クロロゲン酸、β−シトステロール、cisおよびtrans-N-(4-ヒドロキシスチリル)が含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合
成品の混合物を用いることもできる。
ドクダミの抽出物を使用する際の使用量は、前記溶液の質量に基づいて、0.001ないし5質量%、好ましくは、0.001ないし0.3質量%、より好ましくは、0.01ないし0.1質量%の範囲で使用し得る。
【0022】
前記抽出物を使用する際は、アロエ、緑茶、熊笹及びドクダミの抽出物から選択される1種類だけを用いてもよいが、2種類以上を併用することが好ましく、上記4種の抽出物を全て含むのがより好ましい。
【0023】
前記溶液は、本発明の効果を阻害しない限り、他の成分を配合してもよく、例えば、ジグリセリン、ジグリセリン誘導体(例えば、ポリオキシプロピレン(9)ジグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン(14)ジグリセリルエーテル)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,2−デカンジオール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、砂糖、マルチトール、トレハロース、グルコシルトレハロース等の保湿剤、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、キチン、キトサン、アロエエキス、オウレンエキス等の薬効成分、オウゴンエキス、酵母エキス、ユーカリエキス、クジンエキス、ローズマリーエキス、チョウジエキス、アスパラサネリアスエキス、クマザサエキス、イラクサエキス、紅茶エキス、ウーロン茶エキス、甘茶エキス、柿エキス等の消臭エキス等が配合可能である。
上記消臭エキスとして、市販の消臭エキスを用いることもでき、例えば、株式会社東海興産製のフィトンチッド(商品名「スメルナーク」)等の市販の消臭エキスを用いることができる。
【0024】
前記溶液は、柿の葉、松、杉、あま茶づる、シソ、ワサビ、アカネ、ウメ、ニンニク、ペパーミント、ヨモギ、サンショウ、ダイオウ、アザミ、ハッカ、ビワ、ムラサキ、ラベンダー、レモングラス、及びレンギョウの抽出成分、ハチミツより抽出されるプロポリス
等を含有してもよい。
【0025】
前記溶液の最終的なpHは、5.5ないし7の範囲とするのが好ましく、より好ましくは、6.0ないし7の範囲である。
【0026】
前記溶液の好ましい態様としては、以下が挙げられる。
0.01〜1.0質量%のヒノキチオール塩化亜鉛混合物、水、エタノール及びグリセリンを含むpH5.5ないし7の溶液。
0.15〜1.0質量%のヒノキチオール塩化亜鉛混合物、水、エタノール及びグリセリンを含むpH5.5ないし7の溶液。
0.01〜1.0質量%のヒノキチオール塩化亜鉛混合物、0.01〜1.0質量%のヒノキチオール塩化アルミニウム混合物、0.01〜1.0質量%のヒノキチオール水酸化ナトリウム混合物、水、エタノール及びグリセリンを含むpH5.5ないし7の溶液。
【0027】
本発明の石鹸に用いる石鹸基材は通常粉末状で使用され、具体的な石鹸基材としては、高級脂肪酸、樹脂酸、ナフテン酸等のナトリウムやカリウム等の金属塩等が挙げられる。
前記石鹸基材の使用量は、本発明の石鹸の質量に基づき60ないし99.9質量%の範囲である。
本発明の石鹸は、通常、前記混合物を含む溶液と粉末の石鹸基材とを均一に混合し、水やアルコールを除去した後、冷却固化することにより製造することができる。
【0028】
前記混合物を含む溶液と粉末の石鹸基材との混合比は、最終的に得られる石鹸中に含まれるヒノキチオールと塩化亜鉛とからなる混合物の量が、得られた石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%の範囲となるような比率となる。
前記混合物を含む溶液と粉末の石鹸基材との具体的な混合比は、例えば、質量に基づき、30:70ないし70:30の範囲である。
前記混合物を含む溶液と粉末の石鹸基材との混合は、室温ないし加熱条件下で数時間行うことにより達成できるが、好ましくは、30ないし60℃で、1ないし3時間攪拌することにより達成される。
水やアルコールの除去は、室温ないし加熱条件下で数時間ないし数日放置することにより達成できるが、好ましくは、30ないし60℃で、1時間ないし3日間放置することにより達成される。
また、最終的に得られる石鹸の含水率は、5ないし20%程度とし、10ないし18%程度とするのが好ましい。
尚、最終的に得られた石鹸におけるヒノキチオール塩化亜鉛混合物の含有量は、得られた石鹸の質量に基づき、0.001ないし10質量%、好ましくは、0.01ないし1質量%、また、0.15ないし1質量%の範囲である。
【0029】
上記した、本発明のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸に使用される塩化亜鉛混合物は、鳥インフルエンザウイルス及びヒトインフルエンザウイルスの双方に抗ウイルス活性を有し且つ安全性の高いものであり、従って、本発明は、鳥インフルエンザウイルス又はヒトインフルエンザウイルスを対象とするインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸にも関する。
本発明の石鹸は、特に、新型インフルエンザウイルス(A型、H1N1亜型)の感染拡大の予防が期待できる。
鳥インフルエンザウイルス又はヒトインフルエンザウイルスを対象とするインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸の構成としては前記で提示されたものと同様の構成を採用することができる。
【実施例】
【0030】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
【0031】
製造例1:抗インフルエンザウイルス溶液の調製
ヒノキチオール32.8g(0.2mol)に40℃ないし50℃でメタノール150gを滴下して溶解し、そのままの温度で1時間攪拌した。この溶液に、メタノール100gに塩化亜鉛(ZnCl2)13.6g(0.1mol)を溶解させた溶液を、30℃な
いし40℃で1.6時間かけて滴下し、40℃ないし45℃で5時間反応させた。冷却後、析出物を濾取し、濾物をメタノール30gで2回洗浄した。減圧下(133.3Pa)19ないし48℃で乾燥することにより、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物37.1gを淡黄色塊として得た。
上記で得られたヒノキチオール塩化亜鉛混合物(Ht−Zn)を30%エタノール(水溶液)又は50%エタノール(水溶液)に溶解して以下の抗インフルエンザウイルス溶液を調製した。
1.0%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.3%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
2.0%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
0.15%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
【0032】
製造例2:抗インフルエンザウイルス溶液の調製
合成ヒノキチオール(JCS、lot#05928602)と塩化亜鉛を65:35の比率(ヒノキチオール:塩化亜鉛=1:0.54)で混合し、これを30%エタノール(水溶液)又は50%エタノール(水溶液)に溶解して以下の抗インフルエンザウイルス溶液を調製した。1.0%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.3%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.2%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.15%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.10%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.05%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
0.01%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)
1.0%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
0.8%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
0.4%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
0.2%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
0.1%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)
0.05%Ht−Zn水溶液
【0033】
製造例3:ヒノキチオールナトリウム塩を含む溶液の調製
25%水酸化ナトリウム水溶液112g(0.7mol)を、ヒノキチオール121.1g(0.738mol)をメタノール160gに溶解した溶液に、35℃ないし40℃でゆっくり滴下した。溶液を30℃ないし40℃で2時間反応させた。減圧下で溶媒(メタノール)を留去して黄色塊を沈殿させ、該残渣をアセトン300gで再結晶し、濾過した後、減圧下(133.3Pa、7時間)で乾燥することにより、黄色のナトリウム塩(2水和物、133g)を得た。
上記で得られたヒノキチオールナトリウム塩を30%エタノール(水溶液)に溶解して、3%ヒノキチオールナトリウム塩30%エタノール(水溶液)を調製した。
【0034】
試験例1:ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩のインフルエンザウイルス(PR−8株)に対する抗ウイルス効果
1.検体
製造例1で調製した、1.0%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)及び0.3%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)、製造例3で調製した3%ヒノキチオールナトリウム塩30%エタノール(水溶液)、及び、ヒノキチオールを30%エタノール水溶液に溶解して調製した、1%ヒノキチオール30%エタノール(水溶液)を被検溶液とした。
2.試験目的
上記で調製した検体のインフルエンザウイルス(PR−8株)に対する不活性化試験を行う。
3.試験概要
検体にインフルエンザウイルス液を添加・混合して作用液とした。室温で60分間転倒混和を行い、作用後に作用液のウイルス感染価を測定した。尚、対照として30%エタノール水溶液及びリン酸緩衝液(PBS)を用いた。
4.試験方法
1)試験ウイルス
インフルエンザウイルス(PR−8株)(Infuluenz virus PR8 strain)(発育鶏卵に接種、2日後に回収したもの HA:2048)
2)使用細胞
MDCK細胞(理研バイオリソースセンター)
3)使用培地
(1)細胞増殖培地
ダルベッコ変法MEM(シグマ社)にカナマイシン(0.05mg/mL)及びウシ胎児血清(10%)を加えたものを使用した。
(2)細胞維持培地
ダルベッコ変法MEM(シグマ社)にカナマイシン(0.05mg/mL)、トリプシン及びBSA(0.1%)を加えたものを使用した。
4)ウイルス浮遊液
試験ウイルス液をPBSにて100倍に希釈して用いた。
5)試験操作
検体0.5mLにウイルス浮遊液0.5mLを添加・混合し、作用液とした。室温で60分間転倒混和により作用させた後、作用液を0.1%BSA/PBSにて10倍段階希釈した。
6)ウイルス感染価の測定
細胞増殖培地を用い、使用細胞をマイクロプレート(96穴)に単層培養した後、細胞増殖培地を除き、MEMにて2回洗浄した後に、作用液の各希釈液0.1mLを4穴づつに接種し、36℃の炭酸ガス(5%)インキュベーターにて1時間反応後、希釈液を取り除き、0.1mLの細胞維持培地を各穴に加え、36℃の炭酸ガス(5%)インキュベーターにて5日間培養した。培養後、倒立顕微鏡にて細胞変性の有無を観察及び培養液のHAの有無をニワトリ赤血球を用いて確認し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出した。
結果を表1に纏めた。
【表1】

【0035】
上記の成績から、ヒノキチオール、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物及びヒノキチオールナトリウム塩を用いた場合、ヒトインフルエンザウイルスは検出されず、これにより、ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を有することが確認された。
【0036】
試験例2:ヒノキチオール塩化亜鉛混合物(Ht-Zn)のヒトインフルエンザウイルスに対
する抗ウイルス効果
(1)薬剤濃度と感作時間および感作温度の検討
最適および最小感作濃度時間の検討(目的 薬剤の濃度と感作時間と感作温度との関係を調べる)
1.試験方法
試験薬剤:製造例2で調製した0.3%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)、0.2%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)、0.15%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)、0.10%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)、0.05%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)及び0.01%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)を試験に供した。
1)使用細胞および細胞培養用培地:MDCK細胞(理研バイオリソースセンター)より購入し、実験室で継代培養して実験に供した。MDCK細胞は、細胞増殖培地にダルベッコ変法MEM(DMEM、Sigma)にカナマイシン(0.05mg/mL)およびウシ胎児血清(10%)を加えたも
のを使用した。ウイルスの感染時の細胞維持培地としてDMEMにカナマイシン(0.05mg/mL
)、トリプシン(0.625g/mL)およびBSA(0.1%)を加えたものを使用した。試験前日に96穴組織培養用プレートの各穴に2.5×105/mL/細胞増殖培地に調整したMDCK細胞0.1mLを37℃CO2(5%)インキュベーターで一晩培養し単層培養細胞とした。各穴を血清不含MEMで2
回洗浄し試験に供した。
2)使用ウイルス:ヒトインフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)株は10日齢の発育鶏卵
に接種3日後に回収したウイルス液を使用時に1×106TCID50/0.1mLとなるよう調整して用
いた。
3)ウイルス増殖の確認:ウイルスの増殖確認は、MDCK細胞にウイルスを感作後5日
間培養した後、更に細胞(2代目)に接種・培養し、培養上清中の鶏赤血球凝集能(HA)の有無を調べ最終判定とした。A/PR/8/34(H1N1)株はHAを有しているため、ウイルスが残存
していた場合細胞に感染増殖した子ウイルスが培養上清中に放出され、結果培養上清中にHAが認められる。
ニュートラルレッド取込試験:ニュートラルレッドが精細胞のリボゾームに取り込まれ蓄積される性質を利用した毒性試験を実施した。
被験資料の培養液を取り除き、ニュートラルレッド溶液(150μg/mL/PBS)を0.1mL加え37℃CO2((5%)インキュベーターで2時間培養、ニュートラルレッド溶液を取り除き細胞を0.1mLのPBSで2回洗浄した後1%酢酸/50%エタノール溶液0.1mLを加え20分間反応させ細胞に取り込まれたニュートラルレッドを抽出した。抽出液を吸光度測定用マイクロプレートに移し540nmにて吸光度を測定した。
【0037】
薬剤の最適および最小感作時間を決定するために25℃および10℃にて以下の試験を実施した。
(方法)各濃度のHt-Znを30%エタノール(水溶液)を等量のウイルス液(106 TCID50/0.1mL)と混和し25℃で10分、20分あるいは30分間静置し感作後、直ちに氷冷したPBSにて1,000倍希釈し、0.1mLを2ウエル(96ウェルプレート)のMDCK細胞に接種し1時間反応後、感作希釈液をトリプシン含有細胞維持培地に置き換え37℃で5日間培養すした。培養後、培養液中の赤血球凝集性(HA)を調べ、HA陰性の培養液については、更に細胞(2代目)に接種・培養し、HA性の有無を調べウイルス増殖の最終判定とし、2ウエルともウイルス陰性と
なったものを陰性とした。対照として30%エタノールおよびPBSを用いて同様に行った。
さらに感作温度の影響を検討するために同上の試験を感作温度10℃で行った。
Ht-Znの有効濃度は3回の実験の平均値で表示した。
本試験に用いたHt-Znの最大濃度は0.30%であり最終細胞感作濃度は0.00015%となるた
めHt-Znの細胞毒性が本試験に影響を及ぼさないと考えた。
結果:
感作温度25℃におけるHt-Znの最小感作濃度は、0.15%(10分)、0.22%(20分)、0.15%(30分)であった(表2)
感作温度10℃におけるHt-Znの最小感作濃度は、0.30%(20分)であった(表3)。
感作時間10分では試験に供試した最大濃度0.3%でウイルス不活化効果が試験1では認
められたが試験2では認められず試験3では1ウェルで不活化効果が認められた。また0.3%Ht-Znで感作時間30分では、試験2おいて不活化効果が認められたが試験1および3に
おいて各1ウェルのみ不活化効果が認められた。
感作温度10℃で感作液を静置したところ、感作液中に白濁・沈殿が生じていた。
感作温度10℃における不活化試験の成績の不安定さを検討する目的で、感作液を混和しながら60分間感作したところ、0.3%Ht-Zn溶液においてウイルス不活化効果が認められた。
【表2】

【表3】

【0038】
(2)Ht-Znの抗ウイルス効果の確認
(目的 Ht-Znの抗ウイルス効果を調べる)
薬剤の抗ウイルス効果を確認する目的で、他の薬剤や消毒剤との効果の比較を行った。
Ht-Znの抗ウイルス効果を確認するために、最小有効濃度Ht-Zn(0.15%)A:2mg(力価
)/mLストレプトマイシン0.0525%塩化亜鉛PBS溶液、C1:100%エタノール溶液、C2:50
%エタノール溶液、C3: 30%エタノール溶液、E:0.0975%HT30%エタノール溶液F:0.1%BSA/PBS、H:0.0525%塩化亜鉛30%エタノール溶液と等量のウイルス液(106 TCID50/0.1mL
)と混和し25℃で30分間反応後、直ちに氷冷したPBSにて1,000倍希釈し薬剤の効果をなく
し、0.1mLを2ウエル(96ウェルプレート)のMDCK細胞に接種し1時間反応後、感作希釈液
をトリプシン含有細胞維持培地に置き換え37℃で5日間培養する。培養後、培養液中の赤血球凝集性(HA)を調べる。HA陰性の培養液については、更に細胞(2代目)に接種・培養し、HA性の有無を調べ最終判定とし、2ウエルともウイルス陰性となったものを陰性とする
(陰性確認)。G最小有効濃度Ht-Zn(0.15%)を等量のPBSと混和し25℃で30分間反応後
、同様に1000倍希釈後MDCK細胞に接種した。
参考として7
B:コロナウイルス(インフルエンザウイルス以外の薬剤感受性ウイルス)を用いた試験はMDCK細胞に対して試験に必要とする高いウイルス力価を示さないので実施できなかった(注1)。豚コロナウイルスのMDCK細胞への訓化およびVero細胞を用いて高力価ウイルスの
回収を続けて行っている。
パルボウイルスはMDCK細胞で増殖できないため実施せず(注2)。
【表4】

【0039】
結果:
インフルエンザウイルスと0.15%Ht-Zn30%エタノール溶液を25℃30分間感作しウイル
スの増殖が認められないことを確認した。対照区において、AウイルスとHT以外の薬剤と
塩化亜鉛混合物、C3ウイルスと30%エタノール、EウイルスとHT単身溶液、Fウイルスと希釈液感作液およびHウイルスと塩化亜鉛単身溶液でウイルスの増殖が認められた。また、C1ウイルスと100%あるいはC2ウイルスと50%エタノールの感作液においてウイルスの増殖
は認められなかった。以上の結果、Ht-Znのウイルス不活化効果はヒノキチオールと塩化
亜鉛を混合することにより認められることが明らかになった。
【0040】
考察
感作温度10℃での試験において試験最大濃度である0.3%Ht-Znとウイルスの感作液は、
反応時間中に感作液に白濁・沈殿が生じ、試験結果に影響を及ぼし抗ウイルス効果の減弱
が認められた。
対照区においてヒノキチオール感受性および非感受性ウイルスを用いた試験は、コロナウイルスがMDCK細胞において抗ウイルス効果試験実施可能なウイルス力価(ウイルス濃度)にまで増殖しなかっため、パルボウイルスにおいてはMDCK細胞でウイルス増殖を示さなかっため、抗ウイルス効果試験を実施していない。コロナウイルスについては高力価ウイルスの作成を試みている。
Ht-Zn溶液あるいは感作液において白濁・沈殿が生じた場合、急激に抗ウイルス効果の
減弱が認められた。これは高濃度Htエタノール溶液のPBS等での希釈液においてHtが分離
し抗ウイルス効果が認められなくなる現象とよく一致していた。Ht-Znのウイルス不活化
作用はHt-Znが溶媒に溶解していることが必要であると考えられた。実用を考えた場合、
エタノール溶液で完全に溶解した状態での使用が考えられる。
Ht-Znの最小感作濃度(感作温度25℃)は0.15%(10分)、0.22%(20分)、0.15%(30分)である。感作温度10℃ではHt-Znの分離が起こり安定した結果が得られなかった。
対照区を用いた試験の結果、ヒノキチオールと塩化亜鉛の混合物溶解液にはウイルス不活化作用が認められた。
【0041】
試験例3:鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果
1)鳥インフルエンザウイルス
1983年大槻等が島根県に飛来したコハクチョウの糞から分離した弱毒のH5亜型ウイルスであるA/whistling swan/Shimane/499/83(H5N3)株を、ヒナで継代することにより、強毒化させることに成功した。該強毒化させたウイルスを以下の実験に使用した。
2)SPF10日齢発育鶏卵
栃木県青木種鶏場から有精卵を購入し、孵卵して実験に供した。
3)試験
製造例1で調製した、2.0%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)及び0.15%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)を被検溶液とした。
上記で調製した被検溶液にウイルス液を等量加えよく混合した。陰性対象として、50%エタノール水溶液を用い、同様にウイルス液を等量加えよく混合した。
それぞれの溶液を室温にて10分間静置した後、速やかに被検溶液−ウイルス混合液をPBSで10倍段階希釈し、希釈毎に3個の10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.2mLづつ接種した。
接種を受けた発育鶏卵は37℃で48時間培養した後、0.5%鶏赤血球凝集(HA)試験により、漿尿液中でのウイルスの増殖の有無を確認した。残存ウイルス価はReed
and Muenchの方法により算出した。
各被検溶液−ウイルス混合液における累積陰性数、累積陽性数及び累積陽性率を表5ないし7に示し、ウイルス力価を表8に纏めた。
また、図1にヒノキチオール及びヒノキチオール塩化亜鉛混合物の濃度に対する鳥インフルエンザウイルスのウイルス力価をグラフとして示した。
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【0042】
上記の成績から、両被検体液と鳥インフルエンザウイルスとの室温での10分間の接触により、検査した限りウイルスの生残は認められず、少なくとも1000分の1以下にウイルスが不活化されたことが明らかとなった。本被検体は、鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を有することが確認された。
また、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物は、0.15%という低濃度においても抗ウイルス効果を示すことが実証された(表6及び図1)。
【0043】
試験例4:ヒノキチオール塩化亜鉛混合物(Ht-Zn)の鳥インフルエンザウイルスに対す
る抗ウイルス効果
(1)薬剤濃度と感作時間および感作温度の検討
(目的 薬剤の濃度と感作時間と感作温度との関係を調べる)
1)最適および最小感作濃度時間の検討
(目的 抗ウイルス効果の濃度と時間の関係を調べる)
1.試験方法
1)試験薬剤:製造例2で調製した0.8%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)、0.4%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)、0.2%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)及び0.1%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)を試験に供した。使用鶏卵(SPF10日齢発育鶏卵):栃木県青木種鶏場から有精卵を購入し、本研究センタ
ーで孵卵して実験に供した。
使用ウイルス:鳥インフルエンザウイルスA/Whistling swan/Shimane/499/83(H5N3)株
は10日齢の発育鶏卵に接種2日後に回収したウイルス液(ウイルス力価1×108.5EID50/0.1mL)を用いた。
2)ウイルス増殖の確認:ウイルスの増殖確認は、発育鶏卵にウイルスを接種後2日間培養した後、更に発育鶏卵(2代目)に接種・培養し、尿膜腔液中の鶏赤血球凝集能(HA)の有無を調べ最終判定とした。
【0044】
製造例2で調製した0.8%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)、0.4%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)、0.2%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)及び0.1%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)を被検溶液とした。また、陰性対照として50%エタノール水溶液を用いた。PBSで100倍に希釈したウイルス液400μLと被
検溶液400μLを混合し25℃または4℃で1、10、20および30分間静置後、10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種した。0.8%被検溶液は鶏卵致死性があるためPBSで10倍に希釈し、陰性対照は30分静置後PBSで10倍階段希釈し、10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種した。2日間培養した後、尿膜腔液を回収し0.5%鶏赤血球浮遊液と反応させ鶏赤血球の凝集
の有無によってウイルス増殖の有無を判定した。赤血球凝集試験陰性の検体は、回収した尿膜腔液を再度10日齢発育鶏卵漿尿膜内に接種し、上記と同様の方法でウイルス増殖の有無を判定した。ウイルス価はReed and Muenchの方法により算出した。
【0045】
<結果>
(反応温度25℃)
被検溶液とウイルス液を25℃で各時間反応させた場合のウイルス生残率を表9に示す。また、陰性対照とウイルス液を30分間反応させた場合のウイルス力価は106.25EID50/0.2mL以上であった。ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液が0.4%の濃度の場合、1分間でウイルスを100%不活化することが示された。ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液が0.1%未満の場合、30分間の反応でもウイルスを100%不活化することはできなかった。また、0.2%の濃度では1分間の反応時間ではウイルスを100%不活化することはできなかったが、反応時間を10分間以上にのばすことでウイルスを完全に不活化することが可能であることが確認され
た。
【0046】
(反応温度4℃)
被検溶液とウイルス液を4℃で各時間反応させた場合のウイルス生残率を表10に示す
。また、陰性対照とウイルス液を30分間反応させた場合のウイルス力価は106.42EID50/0.2mL以上であった。ヒノキチオール塩化亜鉛混合物が0.8%の濃度の場合、1分間でウイルスを100%不活化することが示された。ヒノキチオール塩化亜鉛混合物が0.2%未満の場合、30分間の反応でもウイルスを100%不活化することができなかったが、0.4%の濃度では10分間以上反応させることでウイルスを100%不活化することが可能であることが確認された。
【表9】

【表10】

【0047】
<結論>
ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液とウイルス液を等量反応された場合、反応時間を長くすることによって、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液の抗インフルエンザウイルス効果が増強されることが確認された。25℃で反応させた場合は0.2%の濃度のヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液を、4℃で反応させた場合は0.4%の濃度のヒノキチオール塩化亜鉛混
合物溶液をウイルス液と10分間反応させることによりインフルエンザウイルスを不活化させることが可能であることが示された。
【0048】
2)感作温度の検討
(目的 抗インフルエンザウイルス効果の温度との関係を調べる)
製造例2で調製した0.4%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)、0.2%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)及び0.1%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)ヒノキチオール塩化亜鉛混合物を被検溶液とした。また、対照として50%エタノール
水溶液および100%エタノールを用いた。PBSで100倍に希釈したウイルス液400μLと被検溶液400μLを混合した。陰性対照として0.2%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液400μLとPBS400μLを混合した。4℃、10℃、および25℃で10分間静置後、10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種した。50%エタノール水溶液とウイルス液との混合液は10分静置後PBSで10
倍階段希釈し、10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種した。2日間培養した後、尿膜腔液を回収し0.5%鶏赤血球浮遊液と反応させ鶏赤血球の凝集の有無によってウイルス増殖の有無を判定した。赤血球凝集試験陰性の検体については、回収した尿膜腔液を再度10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種し、上記と同様の方法でウイルス増殖の有無を判定し
た。ウイルス価はReed and Muenchの方法により算出した。
【0049】
<結果>
被検溶液とウイルス液を10分間、各温度で反応させた場合のウイルス生残率を表11に示す。また、50%エタノール水溶液とウイルス液を4℃、10℃および25℃で反応させた場合のウイルス力価はそれぞれ106.5EID50/0.2mL、106EID50/0.2mLおよび106.5EID50/0.2mL以上であった。0.4%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液は4℃および10℃の条件下で、ウイ
ルス液と10分間反応することにより完全にウイルスを不活化した。また、0.2%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液および100%エタノールでは、4℃および10℃の条件下では十分な
抗インフルエンザウイルス効果を示さなかったが、25℃の条件下では完全にウイルスを不活化することが確認された。
【表11】

【0050】
<結論>
ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液は、反応温度によって抗インフルエンザウイルス効果に違いがあり、反応温度の上昇により効果が増強されることが確認された。
【0051】
3)Ht−Znの抗ウイルス効果の確認
(目的 Ht−Znの抗ウイルス効果を調べる)
製造例2で調製した0.2%Ht−Zn 50%エタノール(水溶液)を被検溶液とした。対照としてA:ストレプトマイシン塩化亜鉛混合体溶液(0.01%ストレプトマイシン:0.06%塩化亜鉛:溶媒50%エタノール水溶液)、C:100%エタノール、E:0.2%ヒノキチオール50%エタノール水溶液およびF:50%エタノール水溶液を用いた。以上は被検ウイルスとして鳥イ
ンフルエンザウイルスを用い、B:ニューカッスル病ウイルス(NDV)-La Sota株、D:鶏伝染
性気管支炎ウイルス(IBV)-Beaudette42株を被検ウイルスとした。PBSで100倍に希釈した
各ウイルス液400μLと被検溶液400μLを混合した。陰性対照として、G:0.2%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液400μLとPBS400μLを混合し用いた。25℃で10分間静置後、10日齢
発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種した。50%エタノール水溶液とウイルス液との混合液は10分静置後PBSで10倍階段希釈し、10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種した。2日間
培養した後、尿膜腔液を回収し0.5%鶏赤血球浮遊液と反応させ鶏赤血球の凝集の有無によってウイルス増殖の有無を判定した。赤血球凝集試験陰性の検体については、回収した尿膜腔液を再度10日齢発育鶏卵漿尿膜内に0.2mLずつ接種し、上記と同様の方法でウイルス
増殖の有無を判定した。ウイルス価はReed and Muenchの方法により算出した。
【0052】
<結果>
被検溶液と各ウイルス液を10分間反応させた場合のウイルス生残率を表12に示す。また、50%エタノール水溶液とインフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルスおよび
鶏伝染性気管支炎ウイルス液を10分間反応させた場合のウイルス力価はそれぞれ106.5EID50/0.2mL以上、102.5EID50/0.2mL以下および103.5EID50/0.2mLであった。0.2%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液とインフルエンザウイルスを反応させた場合、わずかに生残するウイルスが存在したが、ニューカッスル病ウイルスおよび鶏伝染性気管支炎ウイルスに比べ低い値であったウイルスは不活化された。また、E:0.2%ヒノキチオール溶液およびA:ストレプトマイシン塩化亜鉛混合体溶液は、ウイルスを不活化させることはできなかった。
ニューカッスル病ウイルスおよび鶏伝染性気管支炎ウイルスでは0.2%ヒノキチオール塩
化亜鉛混合物溶液と10分間の反応では、ウイルスの生残が認められた(44.4%および66.6%)。
【表12】

【0053】
<結論>
0.2%ヒノキチオール溶液およびストレプトマイシン塩化亜鉛混合体溶液では本試験条件において抗ウイルス効果が確認されなかったことから、本試験で確認された抗ウイルス効果はヒノキチオール単体および塩化亜鉛単体の作用ではなくヒノキチオール塩化亜鉛混合物によるものであることが確認された。
【0054】
試験例5:安全性試験
ヒノキチオール塩化亜鉛混合物に付き、以下に示す安全性試験を実施した。
i)ラットを用いる28日間混餌投与毒性試験
ii)ラットにおける急性経口投与毒性試験
iii)ウサギを用いる皮膚刺激性試験
iv)ウサギを用いる眼刺激性試験
v)細菌を用いる復帰突然変異試験
結論として、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物の毒性は、安全性の高いヒノキチオールと変わらないことが解り、環境、安全性に付いても問題が無いことが分った。尚、全試験において異常は認められなかった。
【0055】
実施例1:石鹸の製造
製造例2で調製した、0.3%Ht−Zn 30%エタノール(水溶液)200gと石鹸基材200gを均一になるまで45℃で1時間攪拌した。
この溶液を冷却固化し、切断後、含水率が15%になるまで乾燥して固形石鹸を得た。
得られた石鹸中に含まれるHt−Zn量は、約0.27%であった。
このHt−Zn量は、上述の試験例から、鳥インフルエンザウイルス及びヒトインフルエンザウイルスに対して十分な抗ウイルス作用を示し得るものであることが判る。
従って、上記で製造した石鹸は、効果的にインフルエンザウイルス感染を予防するであ
ろうことが示唆される。
また、上記の結果より、本発明の石鹸は、特に、新型インフルエンザウイルス(A型、H1N1亜型)の感染を効果的に予防するであろうことが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸であって、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.4ないし0.6モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる混合物を前記石鹸の質量に基づき0.001ないし10質量%含む石鹸。
【請求項2】
前記混合物が、ヒノキチオールと該ヒノキチオールの0.45ないし0.55モル当量となる量の塩化亜鉛とからなる請求項1記載のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸。
【請求項3】
前記混合物を前記石鹸の質量に基づき0.01ないし1質量%含有する請求項1又は2記載のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸。
【請求項4】
前記インフルエンザが、鳥インフルエンザ又はヒトインフルエンザである請求項1ないし3の何れか1項に記載のインフルエンザウイルス感染を予防するための石鹸。

【図1】
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【公開番号】特開2011−94087(P2011−94087A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252105(P2009−252105)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(593170702)株式会社ピーアンドピーエフ (27)
【出願人】(501382063)株式会社ジェイシーエス (14)
【Fターム(参考)】