説明

ウイキョウ属植物醗酵物

【課題】優れた骨形成促進作用を有し、骨粗鬆症を予防、改善又は治療するための医薬品、食品等の素材となり得る安全性の高い素材、及びこれを用いた医薬品、食品等の提供。
【解決手段】ウイキョウ、アマウイキョウ、カラウイキョウ及びインドウイキョウから選ばれる1種又は2種以上のウイキョウ属植物の植物体又はその抽出物を水に懸濁し、これにリゾプス属菌を添加して培養することにより得られるウイキョウ属植物醗酵物、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイキョウ属植物の醗酵物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
骨の代謝異常や骨形成不全により、骨中のカルシウム量が減少し、種々の骨疾患が起こるといわれている。骨疾患としては骨粗鬆症、骨折、骨軟化症、骨形成不全、腰痛などが知られており、中でも骨粗鬆症は高齢化に伴い、その予防・治療は社会的な課題とされている。
【0003】
骨粗鬆症とは、「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版)と定義されており、加齢、運動不足など長年の生活習慣が原因で、破骨と骨形成、いわゆる骨代謝のバランスが崩れることが原因で発症する疾患とされる。高年齢の男性にもみられるが、特に、閉経後の女性においては、破骨細胞の働きを抑える女性ホルモンの分泌が低下して、急速に骨の量が減ってしまうため骨粗鬆症を発症しやすい。寝たきりの原因の一つがこの骨粗鬆症による骨折で、高齢化社会における生活の質の維持、向上という観点からも、骨粗鬆症を予防、治療することは重要な課題である。
【0004】
骨粗鬆症は、発症してから治療することが困難であることから、予防が重要であり、思春期などの若年期にカルシウム摂取と身体活動により高い骨密度を獲得することが重要であるとされている。日常的に骨形成に必要な栄養成分や、骨形成を促進する食品を積極的に摂取するとともに適度な運動を励行する必要がある。
【0005】
骨粗鬆症の予防、治療としては、カルシウム吸収量を増やす方法、骨吸収を抑制する方法または骨形成を促進する方法等が知られている。
骨粗鬆症の予防・治療薬としては、活性型ビタミンD3製剤、ビスフォスフォネート製剤、イプリフラボン製剤、女性ホルモン製剤、ビタミンK2製剤、カルシトニン製剤、蛋白同化ホルモン製剤が臨床に用いられている。しかし、前記製剤を用いた予防・治療法は必ずしも満足できるものではなく、また、副作用の面から投与対象が限定されたり、効果が不確実である場合もあり、十分な効果が得られていない。従って、従来の製剤とは異なった作用メカニズムをもつ新規な製剤の開発が期待されている。
【0006】
一方、テリパラチド(遺伝子組換え)(一般名:ヒト副甲状腺ホルモン(1-34))が、従来の作用メカニズムと異なる世界初の骨形成促進作用を有する骨粗鬆症治療薬として2002年以来、現在82の国と地域で承認されている。しかしながら、2年以上の使用は推奨されておらず、安全性の観点から課題が残っている。
【0007】
また、骨を強化する食品としては、カルシウムやマグネシウム、ビタミンD、大豆イソフラボンなどが古くから利用されており、現在では、健康食品素材として非常に幅広い食材が研究されている。例えば、ローヤルゼリー(特許文献1)、茶カテキン(特許文献2)に骨形成促進作用があること、ワサビ抽出物に骨量増進作用があること(特許文献3)等が報告されている。
しかしながら、その効果は十分とは云えず、より効果が高く、作用メカニズムが解明された素材の開発が望まれている。
【0008】
一方、ウイキョウ属植物、例えばウイキョウ(Foeniculum vulgare)には、胃運動亢進作用(非特許文献1)、鎮痙作用(非特許文献2)、肥満防止作用(特許文献4)等の薬理作用があることが知られている。
しかしながら、ウイキョウ属植物に骨形成促進作用があることはこれまでに報告されておらず、ウイキョウ属植物のリゾプス属菌醗酵物についてはそれ自体全く報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−290813号公報
【特許文献2】特開2004−161669号公報
【特許文献3】特開平10−279492号公報
【特許文献4】特開2007−49955号公報
【非特許文献1】新甫勇次郎ら:日薬理誌73, 45(1977)
【非特許文献2】Forster,H.B.,et al.:Planta Med. 40, 309(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた骨形成促進作用を有し、骨粗鬆症を予防、改善又は治療するための医薬品、食品等となり得る安全性の高い素材、及びこれを用いた医薬品、食品等を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、斯かる実状に鑑み鋭意研究を行った結果、ウイキョウ属植物をリゾプス属菌により醗酵させて得られた醗酵物に優れた骨形成促進作用があり、骨粗鬆症の予防、治療又は改善に有用であることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の1)〜10)に係るものである。
1)ウイキョウ属植物をリゾプス属菌で醗酵させた醗酵物。
2)ウイキョウ属植物が、ウイキョウ、アマウイキョウ、カラウイキョウ及びインドウイキョウから選ばれる1種又は2種以上である前記1)の醗酵物。
3)リゾプス属菌が、Rhizopus microsporusRhizopus oligosporusRhizopus azygosporusRhizopus oryzaeRhizopus chinensisRhizopus niveusRhizopus stoloniferRhizopus sexualis及びRhizopus schipperaeから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の醗酵物。
4)前記1)〜3)のいずれかの醗酵物又はその抽出物を有効成分とする骨形成促進剤。
5)前記1)〜3)のいずれかの醗酵物又はその抽出物を有効成分とする骨粗鬆症の予防、改善又は治療剤。
6)前記1)〜3)のいずれかの醗酵物又はその抽出物を有効成分とする骨疾患の予防、改善又は治療剤。
7)前記1)〜3)のいずれかの醗酵物又はその抽出物を含有する医薬。
8)前記1)〜3)のいずれかの醗酵物又はその抽出物を含有する食品。
9)前記1)〜3)のいずれかの醗酵物又はその抽出物を含有する骨粗鬆症の予防又は改善のための食品。
10)ウイキョウ属植物の植物体又はその抽出物を水に懸濁し、これにリゾプス属菌を添加して培養することを特徴とするウイキョウ属植物醗酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウイキョウ属植物の醗酵物又はその抽出物は、骨芽細胞分化促進作用、骨重量増加作用及び骨強度増加作用を有し、安全性が高いことから、骨形成を促進し、骨粗鬆症の予防、改善又は治療のための食品、医薬品、医薬部外品等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】醗酵過程における温度、pH、DOのモニタリング結果を示したグラフ。
【図2】ALP活性を示すST2細胞の染色結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、ウイキョウ属植物とは、セリ科(Umbelliferae)のウイキョウ属(Foeniculum)に属する植物をいい、例えばウイキョウFoeniculum vulgare、アマウイキョウ(ローマウイキョウ) Foeniculum dulce、カラウイキョウFoeniculum piperitum、インドウイキョウFoeniculum panmoricum等が挙げられ、特にウイキョウが好ましい。
【0016】
本発明において、リゾプス属菌とは、リゾプス属(Rhizopus)の糸状菌をいい、例えばRhizopus microsporusRhizopus oligosporusRhizopus azygosporusRhizopus oryzaeRhizopus chinensisRhizopus niveusRhizopus stoloniferRhizopus sexualisRhizopus schipperae等が挙げられ、このうち、Rhizopus microsporusRhizopus oligosporusが好ましい。
本発明の醗酵において、斯かるリゾプス属菌は、1種の菌を使用しても、複数菌種を使用しても良く、後者においては、醗酵基材に複数の菌種を同時添加しても、ある菌種で一旦醗酵処理を行った後、さらに別の菌種を用いて追加醗酵を行っても良い。
【0017】
本発明のウイキョウ属植物の醗酵物は、ウイキョウ属植物をリゾプス属菌により醗酵させた醗酵物であり、具体的にはウイキョウ属植物の植物体又はその抽出物にリゾプス属菌を接種して醗酵培養させた醗酵物が挙げられる。
【0018】
ウイキョウ属植物の使用部位は、植物体のすべてを使用することができるが、例えば果実、葉、根、茎、花等を単独または混合して使用することができ、好ましくは果実を用いることができる。また植物体は、粉砕、破砕、修治、裁断、焙煎、乾燥等加工して使用することができる。
【0019】
ウイキョウ属植物の抽出物とは、ウイキョウ属植物を溶媒で抽出して得られる抽出液、その希釈液、濃縮液、エキス又はこれを乾燥して得られる乾燥物が挙げられる。溶媒としては、水あるいはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類等の極性溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどのような芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、モノグライムなどのようなエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのようなハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、あるいはこれらの混合液が挙げられるが、好ましい溶媒としては、水、メタノール、エタノール等の低級アルコール、あるいはこれらの混合液である。
【0020】
上記のウイキョウ属植物の植物体及びその抽出物は、滅菌処理を施して醗酵に供するのが好ましく、当該滅菌処理としては、ウイキョウ属植物の植物体又はその抽出物を高圧処理、熱、マイクロウエーブ等に付すことにより行うことができる。このうち高圧処理がより好ましく、高圧処理のための温度は、80〜200℃、1〜60分が好ましく、100〜140℃、20〜40分がより好ましい。
【0021】
本発明のウイキョウ属植物醗酵物の製造は、具体的には、以下のように醗酵基材を調製し、これにリゾプス属菌を接種し、培養することにより行うことができる。
1)醗酵基材の調製
上記のとおり調製されたウイキョウ属植物の植物体又はその抽出物に水を加えて懸濁し、必要に応じて栄養源を添加して醗酵基材とする。
ここで、水は、水分が全体の80〜99質量%となるように添加するのが好ましい。
栄養源としては、ジャガイモ、大豆、米、麦、ハトムギや、糖類、アミノ酸類等を1種類以上使用するのが一般的であるが、これら以外の原材料を使用しても差し支えない。
【0022】
2)醗酵培養
1)で調製した醗酵基材に、リゾプス属菌を直接、或いは予め前培養したリゾプス属菌の前培養菌液を、菌体の濃度が0.1〜50%、好ましくは0.5〜10%となるように添加し、更に必要に応じて、栄養基材として適宜、ジャガイモ、大豆、米、麦、ハトムギや、糖類、アミノ酸類を加え、10〜50℃で3日〜30日間、更に好ましくは、20〜40℃で5〜15日間、攪拌培養、振盪培養若しくは静置培養を行うことにより、ウイキョウ属植物醗酵物を調製することができる。
尚、リゾプス属菌の前培養は、例えばサブロー培地(ペプトン1%、グルコース4%)、ポテトデキストロース培地(ジャガイモ煎汁(200g/l)グルコース2%)、グリセリン培地(グリセリン7%、グルコース3%、Soybean meal 3%、ペプトン0.8%、硫酸マグネシウム0.1%、塩化ナトリウム0.2%)の他、任意の微生物用の培地を用いて、20〜40℃、80〜150rpmの速さで振盪を行い2〜5日間前培養することにより行うことができる。
【0023】
斯くして得られたウイキョウ属植物醗酵物は、醗酵物を必要に応じて加熱滅菌した後、適宜、遠心分離もしくは濾過により固形分を除き使用することができる。
【0024】
本発明のウイキョウ属植物醗酵物の抽出物は、醗酵物に、水、アルコール、その他の有機溶媒又はその混合溶媒を添加し、室温抽出、加熱抽出さらには加圧抽出することにより抽出処理後、遠心分離等により固形分と液体を分離し、さらに必要に応じて濾過等の処理を行った後、減圧濃縮等で濃縮することにより、エキスとして調製できる。また当該抽出物は更に、真空乾燥、凍結乾燥等により粉末化することもできる。粉末化に際して、適当な賦形剤を加えても差し支えない。
【0025】
斯くして得られた本発明のウイキョウ属植物醗酵物又はその抽出物は、後記実施例に示すように、優れた骨芽細胞分化促進作用、骨重量増加作用及び骨強度増加作用を有することから、これを有効量含有する製剤は、骨形成促進剤、骨粗鬆症の予防、改善又は治療剤となり得、骨形成促進や骨粗鬆症の予防、改善又は治療するための食品、医薬品、医薬部外品等として使用できる。また、食品は、骨形成促進や骨粗鬆症の予防、改善又は治療をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した健康食品、サプリメント若しくは特定保健用食品等の機能性食品とすることも可能である。
【0026】
ここで、医薬品の形態としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、トローチ剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
上記経口用固形製剤やサプリメントを調製する場合は、ウイキョウ属植物醗酵物又はその抽出物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ぶどう糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を、崩壊剤としては乾燥デンプン、カルメロースカルシウム、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0027】
経口用液体製剤を調製する場合は、ウイキョウ属植物醗酵物又はその抽出物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0028】
斯かる医薬製剤やサプリメントとして用いる場合の該製剤中の本発明のウイキョウ属植物醗酵物又はその抽出物の含有量は、乾燥物換算で全組成中の0.02〜95質量%、好ましくは0.2〜90質量%である。
【0029】
食品としての形態は、固形食品、クリーム状又はジャム状の半流動食品、ゲル状食品、果汁又は野菜汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、乳飲料、発酵飲料、アルコール飲料、清涼飲料等の飲料の他、上述した経口用固形製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)のサプリメント等が挙げられる。
【0030】
斯かる食品として用いる場合の本発明のウイキョウ属植物醗酵物又はその抽出物の含有量は、乾燥物換算で食品組成中の0.001〜95質量%、好ましくは0.1〜60質量%である。
【0031】
本発明の食品(健康食品、サプリメント)又は医薬品の投与量及び投与方法は、年齢、体重、症状等により適宜決定することができるが、一般に成人1日当たり、ウイキョウ属植物醗酵物又はその抽出物を、例えば乾燥物換算で、0.5〜15gが好ましく、1〜10gがより好ましい。また、所望によりこの1日量を2〜4回に分割して投与することもできる。
以下、実施例をあげて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
ウイキョウ末に100g/2Lになるように水を加えて、懸濁液を調製し、オートクレーブで121℃、30分間加熱することにより抽出及び滅菌を行った。別にRhizopus microsporus var. oligosporus NBRC8631株を、バッフル付三角フラスコを用いて、サブロー培地100ml(ペプトン1%、グルコース4%)で30℃、100rpm振盪の条件下で3日間前培養した。ウイキョウ懸濁液に前培養液を5%添加し、2Lジャーファーメンターを用いて、温度30℃、攪拌300rpm 、通気0.5vvmの条件下で7日間培養した。培養物に終濃度30%になるようにエタノールを加え、含水エタノール抽出を行った後、遠心分離もしくは濾過により固形分を除いたエキス(以下、ウイキョウ醗酵物エキス)を以下の試験に用いた。ウイキョウ醗酵物エキスの収率は、30%であった。また、ウイキョウ懸濁液に対し醗酵を行わずに含水エタノール抽出を行ったエキス(以下、ウイキョウ抽出物)も同時に調製した。ウイキョウ抽出物の収率は25%であった。これらのエキスを以下の試験に用いた。
【0033】
<醗酵中の温度、pH及びDOのモニタリング>
図1に醗酵中の温度、pH及びDOのモニタリングをした結果を示す。溶存酸素濃度(DO)はリゾプス属菌が消費した酸素を示しており、増殖及び醗酵の進行度合いの指標と考えられる。リゾプス属菌の接種直後からDOは減少し、4〜5日目から再び増加する傾向にあった。これよりリゾプス属菌は3〜4日目までに増殖し、その後7日目程度で醗酵を終了することが明らかである。
【0034】
試験例1 In vitro評価
マウス骨髄間質細胞株ST2細胞を、48穴プレートに1×104個/ウエルとなるように播種し、10%牛胎児血清(FBS)を含むαMEM培地中、3日間培養した。ウイキョウ醗酵物エキス及びウイキョウ抽出物(以下、被験試料)を上記培地に溶解し、0.22μmのフィルターを通して滅菌した。濃度は、原生薬換算量として1mg/ml添加した。評価開始当日(Day0)、被験試料を含むαMEM培地+10%FBSに置換し、培養を継続した。Day4、Day7に再び被験試料を含むαMEM培地+10%FBSに置換し、Day11に骨芽細胞分化の指標となるアルカリフォスファターゼ(ALP)の活性を測定した。
【0035】
<染色>
ST2細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定後、水洗し、以下の染色液を加え45分間放置した。ALP活性が赤で染色されるので、染色度合いを定性的に評価した。
【0036】
<染色液>
0.1mg/ml Naphthol AS−MX phosphate、0.6mg/ml Fast Red Violet LB salt、2mM MgCl2を含む0.1M Tris・HCl緩衝液(pH8.3)
【0037】
<ALP活性の測定>
ST2細胞をダルベッコ変法PBSで洗浄後、0.2%TritonX−100を1ウエルあたり0.1ml加えて10分間振とうした。細胞溶解液は測定まで4℃で保存し、タンパク質量をBCA法により測定し、タンパク質量あたりのALP活性として表示した。後述する緩衝液100μlと細胞溶解液50μlを混合し、ここに32mM p−nitrophenyl phosphate溶液50μlを加え15分間、414nmの吸光度変化を記録し、ALP活性を算出した。数値は、Student's t−testにて検定し、有意水準5%以下となった場合に有意差があると判断した。
【0038】
<ALP活性測定用緩衝液>
1mM MgCl2を含む0.1M 2−amino―2−methyl−1−propanol緩衝液(pH10.5)
【0039】
<結果>
ウイキョウ醗酵物エキスのin vitro骨芽細胞分化促進作用;
図3に示すように、対照群として培地のみを加えて11日間培養した群において、ALP活性が染色された。図には示さないが、培養開始時にはALP活性は認められなかった。このことから、ST2細胞は、培養により骨芽細胞へ分化することが示された。ここに、実施例1で示したウイキョウ抽出物を添加して11日間培養すると、ALP活性染色はほとんど認められず、ウイキョウ抽出物では分化が阻害されていた。しかしながら、ウイキョウ醗酵物エキスを加えて11日培養した結果、対照群と比較してALP活性染色度が上昇しており、ウイキョウ醗酵物エキスが、骨芽細胞への分化を促進したことが示された。これを定量的に評価するため、ALP活性を測定した結果を表1に示す。対照群と比較して、ウイキョウ抽出物では、ALP活性が低下し、ウイキョウ醗酵物エキスを添加した群では、約3倍のALP活性増強を示した。統計学的検定により、ウイキョウ醗酵物エキスを添加した群は、対照群、およびウイキョウ抽出物添加群のどちらと比較しても、有意水準1%で有意にALP活性を上昇させることが示された。以上より、実施例1で示したウイキョウ醗酵物エキスは、マウス骨髄間質細胞の骨芽細胞への分化を促進させる作用を有していることが明らかとなった。
【0040】
【表1】

【0041】
試験例2 In vivo評価
実施例1で示したウイキョウ醗酵物エキスを、1g/10mlとなるように精製水に懸濁させた。雄性C57BL/6Jマウス(8週齢)に精製水、または被験物質を、1日1回、4週間、体重1kgあたり10mlとなるように経口投与した。投与終了後、脛骨を摘出し、パラホルムアルデヒドで固定後、アセトン系列で脱水し、メチルメタクリレート樹脂に包埋した。厚さ7μmの切片をvon Kossa染色し、写真撮影後、画像解析ソフト(Image J)により、以下のパラメーターを算出した。数値は、Student's t−testにて検定し、有意水準10%以下を傾向ありと判断し、有意水準5%以下となった場合には有意差があると判断した。
【0042】
<パラメーター>
組織面積に対する骨面積の割合;BV/TV(%)、骨梁数;Tb.N(mm-1)、骨梁間隙;Tb.Sp(μm)
【0043】
<結果>
ウイキョウ醗酵物エキスのin vivo骨量増加作用;
表2に示すように、実施例1に示したウイキョウ醗酵物エキスのマウスへの投与により、組織面積に対する骨面積の割合、および骨梁数の増加傾向を示した。また、骨梁間隙は有意水準5%で有意に低下し、ウイキョウ醗酵物エキスにより骨梁の間隙が狭くなった。以上より、ウイキョウ醗酵物エキスが、脛骨において骨量を増加させたことが明らかとなった。
【0044】
【表2】

【0045】
試験例3 In vivo評価
実施例1で示したウイキョウ醗酵物エキスを、2g/10mlとなるように精製水に懸濁させた。雄性C57BL/6Jマウス(12週齢)に精製水、または被験物質を、1日1回、10週間、体重1kgあたり10mlとなるように経口投与した。投与終了後、大腿骨を摘出し、測定まで−20度で保存した。骨強度は、文献(Journal of Biomechanics, 38, 467(2005))に従い、3点曲げ試験を行うことにより求めた。試験は、FUDOH RHEO METER(RHEOTECH, RT−2005D・D)を用い、以下のパラメーターを算出した。数値は、Student's t−testにて検定し、有意水準10%以下を傾向ありと判断し、有意水準5%以下となった場合には有意差があると判断した。
【0046】
<パラメーター>
Ultimate force;最大圧、Yield force;降伏力
【0047】
<結果>
ウイキョウ醗酵物エキスのin vivo骨強度増加作用;
表3に示すように、実施例1に示したウイキョウ醗酵物エキスのマウスへの投与により、大腿骨骨折に要する最大圧の増加傾向が認められた。また、降伏圧は、有意に有意水準5%で増加した。以上より、ウイキョウ醗酵物エキスが、大腿骨において骨強度を増加させたことが明らかとなった。
【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイキョウ属植物をリゾプス属菌で醗酵させた醗酵物。
【請求項2】
ウイキョウ属植物が、ウイキョウ、アマウイキョウ、カラウイキョウ及びインドウイキョウから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の醗酵物。
【請求項3】
リゾプス属菌が、Rhizopus microsporusRhizopus oligosporusRhizopus azygosporusRhizopus oryzaeRhizopus chinensisRhizopus niveusRhizopus stoloniferRhizopus sexualis及びRhizopus schipperaeから選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の醗酵物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の醗酵物又はその抽出物を有効成分とする骨形成促進剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の醗酵物又はその抽出物を有効成分とする骨粗鬆症の予防、改善又は治療剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の醗酵物又はその抽出物を有効成分とする骨疾患の予防、改善又は治療剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項記載の醗酵物又はその抽出物を含有する医薬。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項記載の醗酵物又はその抽出物を含有する食品。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項記載の醗酵物又はその抽出物を含有する骨粗鬆症の予防又は改善のための食品。
【請求項10】
ウイキョウ属植物の植物体又はその抽出物を水に懸濁し、これにリゾプス属菌を添加して培養することを特徴とするウイキョウ属植物醗酵物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−42622(P2011−42622A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191940(P2009−191940)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】