説明

エアフィルタ用濾材及びエアフィルタユニット

【課題】エアフィルタユニットの重量が増加することなくエアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制することができるエアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニットを提供する。
【解決手段】エアフィルタ用濾材は、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層、を有し、前記エアフィルタ用濾材の表面にエンボス突起部が複数設けられる。前記エアフィルタ用濾材は、山折りおよび谷折りされて折り畳まれてジグザグ形状に形状が保持され、前記ジグザグ形状の奥行き寸法と、前記エンボス突起部により、ジグザク形状に保持された前記エアフィルタ用濾材の山折りの頂部あるいは谷折りの谷底部同士の間隔との比は、前記エアフィルタ濾材の厚さを含まない状態で、21以上から65以下である。また、前記エンボス突起部の最大突出高さは、前記エアフィルタ用濾材の厚さを含まない状態で、2.0mm以上6.0mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材及びエアフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置や液晶表示装置の製造は、高清浄空間において行われる。この高清浄空間を作るために、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)からなる多孔膜(以下、PTFE多孔膜という)が集塵フィルタとして用いられている。PTFE多孔膜は、ガラス繊維製濾材に比べて同じ圧力損失で比較したとき塵の捕集効率が高いことから、特に、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)に好適に用いられている。
【0003】
一方において、PTFE多孔膜は、従来より用いられてきたガラス繊維濾材に比べて繊維構造が密となっているため、塵による目詰まりが早く、外気処理ユニットのように塵の捕集負荷の大きな環境で用いられる場合、短時間でエアフィルタユニットの圧力損失が増大する。
【0004】
上記問題に対して、捕獲した塵による目詰まりを防ぎ、圧力損失の上昇を抑制できるエアフィルタ用濾材が知られている(特許文献1)。当該エアフィルタ用濾材は、PTFE多孔質膜と繊維製通気性多孔材とを含み、前記多孔質膜の気体の流れの上流側に前記繊維製通気性多孔材が配置され、前記繊維製通気性多孔材は、その繊維径が1〜15μmの範囲にあり、その気孔率が70%以上、その目付け量が60g/m2以上である。
【0005】
また、フィルター用濾材であって圧力損失の上昇が抑制されたタービン用吸気フィルタ濾材も知られている(特許文献2)。当該濾材は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と通気性支持材とを含み、前記通気性支持材の繊維径が0.2μm以上15μm以下である、繊維径が広範囲の繊維が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−300921号公報
【特許文献2】特開2002−370009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの濾材は、エアフィルタユニットに組み込まれるために、プリーツ加工をして濾材を山折り、谷折りに折り畳むことによりジグザグ形状にする。このジグザグ形状の濾材の凹部にセパレータやスペーサが挿入されることで、ジグザグ形状を維持した濾材が作製され、この濾材を枠体に保持することによりエアフィルタユニットが作製される。
しかし、濾材のジグザグ形状を保持するためにセパレータやスペーサを濾材の凹部に設けることで、エアフィルタユニットの重量が増加する他、濾材の有効濾過面積が小さくなり、エアフィルタユニットにおける圧力損失の増大を招く。
【0008】
そこで、本発明は、エアフィルタユニットの重量が増加することなくエアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制することができるエアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、PTFE多孔膜を有するエアフィルタ用濾材は、PTFE多孔膜は破れ易いため、エンボス加工等の加工を行うと濾材として機能しなくなると考えられていた。これに対して、本発明者らは、PTFE多孔膜を有するエアフィルタ用濾材について、エンボス加工を行ってエンボス突起部を設けても、エアフィルタ用濾材自身やPTFE多孔膜が破損することなくエアフィルタ用濾材として機能することを見出して、本発明に至っている。
すなわち、本発明の一態様は、気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材である。当該濾材は、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層、を有し、前記エアフィルタ用濾材の表面にエンボス突起部が複数設けられている。
【0010】
本発明の他の態様は、エアフィルタユニットである。当該エアフィルタユニットは、前記エアフィルタ用濾材をプリーツ加工したジグザグ形状の加工済み濾材と、前記加工済み濾材を保持する枠体と、を備える。
前記エアフィルタ用濾材の前記エンボス突起部は、前記エアフィルタ用炉材の向かい合う面に設けられたエンボス突起部と接触することにより、前記ジグザグ形状を保持する。
【発明の効果】
【0011】
上記エアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニットによれば、エアフィルタユニットの重量が増加することなく、エアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制することができる。この場合、フィルタとして塵の捕集効率を従来同様に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のエアフィルタ用濾材を用いたエアフィルタユニットの外観斜視図である。
【図2】(a),(b)は、本実施形態の濾材の外観斜視図である。
【図3】本実施形態の濾材の展開図である。
【図4】本実施形態の濾材の層構成を示す断面図である。
【図5】変形例の濾材の層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のエアフィルタ用濾材およびその濾材を用いたエアフィルタユニットについて詳細に説明する。
【0014】
[エアフィルタユニット]
図1は、本実施形態のエアフィルタ用濾材を用いたエアフィルタユニット1の外観斜視図である。図1に示すように、エアフィルタユニット1は、エアフィルタ用濾材(以降、単に濾材という)10と、枠体14と、を有する。濾材10は、一定の間隔で山折り、谷折りされてジグザグ形状に形成され、この形状を維持した状態で、枠体14に保持される。
【0015】
[濾材の形状]
図2(a),(b)は、濾材10の外観斜視図である。図3は、濾材10の展開図である。図2(a),(b)に示す濾材10は、濾材10の表裏面にドット状のエンボス突起部20A〜20Eが設けられ、山折り、谷折りに交互に折り畳まれるとともに、折り畳まれた際に互いに向かい合う面のエンボス突起部同士を接触させて対向する濾材の面間の間隔を保持するように構成されている。
【0016】
エンボス突起部20A〜20Eは、山折り、谷折りに折り畳んだときに隣接する濾材10の面の間隔を保持できるように両側の面に形成される。ドット状のエンボス突起部20A〜20Eは様々な立体形状に形成することができる。ここで、濾材10の一方の表面に対して手前側に突出したエンボス突起部を凸突起、その逆側に突出したエンボス突起を凹突起と呼ぶ。すなわち、濾材10のある一方の表面から見た場合の凹突起は、もう一方の面から見れば凸突起となる。
【0017】
エンボス突起部20A〜20Eの凸突起を、濾材10の表面に対して垂直上方から見たたとき、凸突起の立ち上がる部分の縁部の輪郭形状に関して、エンボス突起部20A〜20Eの幅W(Y方向の幅)及び長さL(X方向の長さ)を図3に示すように定める。また、濾材10の平面に平行な仮想平面が凸突起の最も高い部分と接したとき、その仮想平面と濾材10の面との間隔をエンボス突起部20A〜20Eの突出高さHと定め、また上記仮想平面と接する点を含む平面のことを頂上面と定める。
【0018】
エンボス突起部20A〜20Eの突出形状は、例えば直方体、立方体、角柱、円柱、半球、球帯、角錘台、円錐、角錐、切頭円錐など種々の形状から選択され得る。また、濾材10の向かい合う面のエンボス突起部20A〜20Eの突出形状は必ずしも対称でなくてもよい。例えば、エンボス突起部20A〜20Eの各々の頂上面にさらに凸部と凹部が形成されて、濾材10の互いに向かい合う面のエンボス突起部20A〜20E同士が接するとき、エンボス突起部20A〜20Eが上記凸部と凹部で互いに係止されるように構成されてもよい。上記凹部と凸部により互いにエンボス突起部20A〜20Eが係止されるので、接するエンボス突起部20A〜20Eは位置ずれを起こし難い。これにより、濾材10のジグザグ形状をより強固に保持することができる。エンボス突起部20A〜20Eの頂上面は長方形や正方形のような平坦な矩形形状の平面であってもよいし、半球や円柱のように曲率を有する曲面であってもよい。
【0019】
エンボス突起部20A〜20Eは、濾材10の山折りの頂部から谷折りの谷底部に進む方向であるX方向(図2(a)参照)に複数個配列しており、その各々の突出高さは山折りの頂部から谷折りの谷底部へ進むに従って次第に低くなることにより、凹部の形状を、エアフィルタユニットにおける圧力損失を低くすることができるV字形状またはU字形状に保つことができる。すなわち、エンボス突起部20A〜20Eの最大突出位置は、山折りの頂部に最も近い位置であり、エンボス突起部20A〜20Eの最小突出位置は、谷折りの谷底部に最も近い位置である。
【0020】
このとき、エンボス突起部20A〜20Eの突出高さHのうち最大突出高さは、濾材10の厚さを含まない状態で2mm〜6mmであることが好ましい。この最大突出高さから、エンボス突起部20A〜20Eの突出高さHは、X方向に進むに従って低くなっている。突出高さHのうち最大突出位置における突出高さHが6mmより高い場合、濾材10の隣接する山折りの頂部同士の間隔が広くなり、塵の捕集効率が低くなる他、後述するPTFE多孔膜を用いた濾材10がエンボス加工により局部的に引き伸ばされて、濾材10の破損が生じるおそれがある。また突出高さHのうち最小突出位置における突出高さHは、濾材10の向かい合う面同士が接触せず、濾材10の間の空間の保持が可能な範囲で定まっている。
【0021】
エンボス突起部20A〜20Eは、濾材10の山折りの頂部から谷折りの谷底部に進む方向と直交するY方向(図2(a)参照)に複数個配列されている。このエンボス突起部の列毎に一定の高さを有することで、濾材10の形状を一定に維持することができる。
【0022】
エンボス突起部20A〜20Eの幅Wは、1.0mm〜10mmが好ましく、2.0mm〜9.0mmがさらに好ましい。幅Wが10mmより広い場合は気流の構造抵抗が増大しエアフィルタユニットにおける圧力損失が増大するおそれがある。また幅Wが1.0mmより狭い場合、濾材10を交互に山折り、谷折りに折り畳んだときエンボス突起部20A〜20E同士が位置ずれして濾材10のジグザグ形状を保持できず、エアフィルタユニット1における圧力損失が増大する場合がある。
エンボス突起部の長さLは、1.0mm〜20mmであることが好ましく、3.0mm〜18mmであることがより好ましい。長さLが20mmより長い場合は、濾材10の有効濾材面積が減少することで圧力損失が増大するおそれがある。長さLが、1.0mmより短い場合、濾材10を交互に山折り、谷折りに折り畳んだときエンボス突起部20A〜20E同士が位置ずれして濾材10のジグザグ形状を保持できず、エアフィルタユニット1における圧力損失が増大する場合がある。
【0023】
エンボス突起部20A〜20Eの形状について、幅Wと長さLの比(長さ/幅)すなわちアスペクト比は0.5〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。アスペクト比が0.5より小さい場合は、濾材10を交互に山折り、谷折りに折り畳んだとき、濾材10の向かい合う面に設けられるエンボス突起部20A〜20E同士が位置ずれして形状を保持できない場合がある。アスペクト比が3より大きい場合、濾材10の有効濾材面積が減少することで圧力損失が増大する場合がある。
【0024】
また、濾材10のY方向(図2(a)参照)に複数個配列したエンボス突起部20A〜20Eの幅W、長さLは、谷折りの谷底部から山折りの頂部へ進むに従って連続的にあるいは段階的に長くなることが好ましい。これは、高さの高いエンボス突起部20A〜20Eを形成する場合に、幅W、長さLの狭いエンボス突起部20A〜20Eでは、濾材10の単位面積当たりエンボス加工で受ける力が大きいため、濾材10を破損する場合がある。突出高さHの高いエンボス突起部20A〜20Eの幅W、長さLを大きくすることで、濾材10の破損を防ぐことができる。
【0025】
エンボス突起部20A〜20Eについて、エンボス突起部20A〜20Eの濾材10の平面から立ち上がる縁部の輪郭線のうち最も山折りの頂部に近い側の点と、エンボス突起部20A〜20Eの最も高い点とを結ぶ直線が、濾材10の平面となす角度を立ち上がり角度と定める。なお、エンボス突起部20A〜20Eの頂上面が平面である場合、上記最も高い点は、頂上面のうち山折りの頂部に最も近い点とする。
このときエンボス突起部20A〜20Eの立ち上がり角度は、突出高さHに応じて適した角度が異なる。立ち上がり角度は、例えばエンボス突起部20A〜20Eの突出高さHが2.0mm以上の場合は、30度〜90度であることが好ましく、30度〜60度であることがより好ましい。立ち上がり角度が90度を超える場合、濾材10への変形の負担が著しく大きく、立ち上がり角度が30度未満の場合は、エンボス突起部20A〜20Eの頂上面の面積が小さくなる。また、エンボス突起部20A〜20Eの突出高さHが2.0mm未満の場合は、立ち上がり角度が90度以下であることが好ましく、60度以下であることがより好ましい。
【0026】
図2(a)中のX方向、Y方向に延びる列に含まれるエンボス突起部20A〜20Eの数は、3個以上15個以下であることが好ましく、5個以上10個以下であることがより好ましい。上記数が3個未満であるエンボス突起部20A〜20Eでは、山折りの頂部同士の間隔を保持することが困難になり、気流中、エンボス突起部20A〜20Eが、濾材10の向かい合う面に設けられたエンボス突起部20A〜20E以外の部分と接してしまい圧力損失の増大につながる場合がある。一方、上記数が16個以上のエンボス突起部20A〜20Eでは、気流が通過する有効濾材面積が小さくなり、圧力損失の増大につながる。
エンボス突起部20A〜20EのX方向の間隔は、5mm〜25mmであることが好ましく、7mm〜20mmであることがより好ましい。上記間隔が5mmよりも狭い場合、折り畳んだ濾材10のエンボス突起部20A〜20E同士が位置ずれして形状を保持できない場合がある。上記間隔が25mmよりも広い場合、気流中で濾材10の膨らみが生じて、隣り合う濾材10の表面が接し、エアフィルタユニット1における圧力損失が増大する場合がある。
【0027】
エンボス突起部20A〜20EのY方向の間隔は、15mm〜60mmであることが好ましい。凸突起のエンボス突起部20A〜20Eと隣り合う凸突起のエンボス突起部20A〜20Eとの間に、凹突起のエンボス突起部20A〜20Eが設けられるが、凹突起のエンボス突起部20A〜20Eの列は、凸突起のエンボス突起部20A〜20Eの隣り合う2列の間に形成されることが好ましい。凸突起のエンボス突起部20A〜20Eおよび凹突起のエンボス突起部20A〜20Eが偏って配置されると、エアフィルタユニット1において気流の流れが不均一になり、エアフィルタユニット1における圧力損失が増大する場合がある。
【0028】
濾材10のジグザグ形状の奥行き寸法(山折りの頂部から谷折りの谷底部までのX方向の長さ:折り幅)と、エンボス突起部20A〜20Eにより、ジグザク形状に保持された濾材10の山折りの頂部(あるいは谷折りの谷底部)同士の間隔との比は、濾材10の厚さを含まない状態で、21以上から65以下である、ことが好ましい。
濾材10の奥行き寸法(折り幅)が例えば260mm(濾材10の厚さを0.65mmとする)であり、濾材10の頂部あるいま谷底部同士の間隔が例えば4.0mm以上12.0mm以下である場合、上記比は21.6(=(260−2×0.65)/12.0)以上64.7(=(260−2×0.65)/4.0)となる。
また、濾材10の奥行き寸法(折り幅)が125mm(濾材10の厚さを0.65mmとする)であり、濾材10の頂部あるいま谷底部同士の間隔が例えば4.7である場合、上記比は26.3(=(125−2×0.65)/4.7)となる。
濾材10の折り幅は30mm〜280mmであることが好ましい。一般に、エアフィルタユニット1の寿命の観点から濾材10は多くの山折り、谷折りを有するが、折り幅が30mm未満の場合、隣接する山折りの頂部同士の間隔を十分に設けることが難しい。一方、折り幅が280mmを超える場合、互いに向き合う濾材10の平面の部分が接触しないように、隣接する山折り同士の間隔を広げる必要があり、このためエンボス突起部の高さを高くすることになる。このため、エンボス突起部20A〜20Eにより濾材10が破損する場合がある。
【0029】
濾材10に形成されるエンボス突起部20A〜20Eの占める占有面積の割合は、濾材10の面の面積の20%未満であることが好ましい。20%以上の場合は、濾材10の有効濾過面積が少なく、圧力損失の増大および塵の捕集効率の低下を招き易い。
上記のエアフィルタユニット1は、HEPAフィルタあるいはULPAフィルタに好適に用いることができる。
以上が、濾材10の形状に関する説明である。次に、本実施形態で用いる濾材10の層構成を説明する。
【0030】
[濾材の層構成]
図4は、エアフィルタユニット1に用いる濾材10の層構成を示す断面図である。濾材10は、気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であり、プレ捕集層20と、主捕集層22と、通気性カバー層24と、通気性支持層26と、を含む。なお、濾材10は、気流が図4中紙面上方から下方に向けて流れるように配置される。したがって、気流の上流側から通気性カバー層24、プレ捕集層20、主捕集層22、及び通気性支持層26がこの順に積層されている。
【0031】
プレ捕集層20は、主捕集層22の気流の上流側に設けられ、主捕集層22による塵の捕集の前に気流中の塵の一部を捕集する。プレ捕集層20には、例えばメルトブローン法あるいはエレクトロスピニング法で製造された繊維材料で構成された不織布が用いられる。上記繊維材料の平均繊維径は0.8μm以上2μm未満であることが好ましい。このとき、不織布は、後述する測定された繊維径の分布に関して言うと、繊維径分布の広がりを示す幾何標準偏差は例えば2.5以下であり、好ましく2.0以下である。これは、幾何標準偏差が大きすぎると、単位繊維あたりの捕集効率が低い繊維の割合が増え、後述するプレ捕集層に必要な捕集効率を得るためには目付、厚みを大きくする必要が出てくるためである。
【0032】
プレ捕集層20の繊維材料の材質は、例えばポリエチレン(PE)の他、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビリニデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)等が挙げられる。プレ捕集層20の不織布における平均繊維径が0.8μmより小さい場合、塵の捕集効率は上昇するが、繊維が密な配置となるため、圧力損失が大きく上昇する。一方、平均繊維径が2μm以上の場合、塵の捕集効率を維持するために目付けを大きくするので、プレ捕集層の厚さが厚くなる。このため、濾材における圧力損失が上昇する。以上の理由より、プレ捕集層20における繊維材料の平均繊維径は、0.8μm以上2μm未満であることが好ましい。
【0033】
プレ捕集層20の圧力損失は80Pa以下であることが好ましい。また、濾材全体の圧力損失をガラス繊維を用いたHEPA用濾材の1/2程度に留めるために、プレ捕集層20の塵の捕集効率は50%以上であることが好ましく、プレ捕集層20の捕集効率の上限は99%であることが好ましい。プレ捕集層20の捕集効率が低すぎると、主捕集層22への捕集負荷が高くなってしまい塵による目詰まりが起きる。また、プレ捕集層20の捕集効率が高すぎるとプレ捕集層20自体の目詰まりが無視できなくなる。また、プレ捕集層20の厚さは、例えば0.3mm未満とすることが好ましい。プレ捕集層20の厚さが0.3mm以上である場合、エアフィルタユニット15の構造に起因した圧力損失(構造抵抗)が大きくなる。このような特性を有するように、プレ捕集層20の繊維材料の材質、目付けが選択される。
【0034】
主捕集層22は、プレ捕集層20に対して気流の下流側に配置され、プレ捕集層20を通過した塵を捕集する。主捕集層22は、PTFE多孔膜からなる。
PTFE多孔膜は、PTFEファインパウダーを所定の割合以上の液状潤滑剤と混合したものからPTFE多孔膜を作製する。例えば、PTFEファインパウダーに、PTFEファインパウダー1kg当たり20℃において5〜50質量%の液状潤滑剤を混合して混合体を得る。さらに、得られた混合体を圧延し次いで液状潤滑剤を除去して未焼成テープを得る。さらに、得られた未焼成テープを延伸して多孔膜を得る。このとき、未焼成テープを長手方向に3倍以上20倍以下に延伸した後、幅方向に10倍以上50倍以下に延伸することにより、未焼成テープを総面積倍率で80倍以上800倍以下に延伸する。これにより、PTFE多孔膜が得られる。上記作製方法は、一例であり、PTFE多孔膜の作製方法は限定されない。PTFE多孔膜の充填率は、例えば8%以下、好ましくは3%以上8%以下であり、PTFE多孔膜を構成する繊維の平均繊維径は例えば0.1μm以下であり、PTFE多孔膜の膜厚は例えば50μm以下である。
【0035】
通気性カバー層24は、気流の上流側の、濾材10の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する濾材10表面の変形を抑制する。通気性カバー層24には、例えばPPの繊維材料を用いたスパンボンド不織布が用いられる。通気性カバー層24は、本実施形態では必ずしも用いられなくてもよい。しかし、万が一、濾材10が外部から押圧を受けたとき、エアフィルタユニットにおける圧力損失が増大するのを防止する点から、通気性カバー層24を設けることが好ましい。濾材10に外部からの押圧を受けた場合、プレ捕集層20は変形を受けやすく、プレ捕集層20における変形によって濾材10を流れる気流に余分な抵抗を与える。この抵抗が、エアフィルタユニット1における構造抵抗となって圧力損失を増大させる。しかし、外部からの押圧に対する濾材10表面の変形を抑制する通気性カバー層24を気流の上流側の最表層の位置に設けることにより、濾材10の表面の変形を抑制するので余分な抵抗を気流に与えない。
【0036】
通気性カバー層24の圧力損失は、濾材10の圧力損失を抑制する点から、気流の流速が5.3cm/秒の条件において10Pa以下であることが好ましく、圧力損失は5Pa以下で実質的に0あるいは略0であることがより好ましい。通気性カバー層24の粒子径0.3μmの塵の捕集効率は5%以下であり、実質的に0あるいは略0である。すなわち、通気性カバー層24は、塵を捕集するフィルタとしての機能を有さず、塵を通過させる。このような通気性カバー層24の厚さは、0.3mm以下であることが、濾材10の厚さを余分に厚くせず、濾材10表面の変形を抑制する点で好ましい。
通気性カバー層24は、例えば、スパンボンド不織布が好適に用いられる。スパンボンド不織布の繊維材料には、例えばPP,PE,PET等が用いられ、繊維材料は特に制限されない。繊維材料の平均繊維径は例えば10〜30μmである。目付けは例えば5〜20g/m2である。
【0037】
通気性支持層26は、主捕集層22に対して気流の下流側に配置され、主捕集層24を支持する。通気性支持層26の圧力損失は、濾材10の圧力損失を抑制する点から、気流の流速が5.3cm/秒の条件において圧力損失は10Pa以下であることが好ましく、実質的に0あるいは略0であることが好ましい。通気性支持層26における粒子径0.3μmの塵の捕集効率は実質的に0あるいは略0である。
【0038】
通気性支持層26の材質及び構造は、特に限定されないが、例えば、フェルト、不織布、織布、メッシュ(網目状シート)、その他の材料を用いることができる。ただし、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。さらに、不織布は、これを構成する一部または全部の繊維が芯鞘構造の複合繊維であってもよく、この場合は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いとよい。繊維材料の材質についても特に制限されず、ポリオレフィン(PE、PP等)、ポリアミド、ポリエステル(PET等)、芳香族ポリアミド、またはこれらの複合材などを用いることができる。芯鞘構造の複合繊維の場合、例えば、芯/鞘が、ポリエステル/ポリエチレン、あるいは、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルの組み合わせが挙げられる。
【0039】
また、主捕集層22と通気性支持層26の積層体において、曲げ剛性が30g重/mm以上であることが、主捕集層22の気流による変形を通気性支持層26により抑制する点で好ましい。主捕集層22は、圧力損失が大きく、極めて薄く剛性が低いので気流に対する変形を受けやすい。通気性支持層22がない場合、主捕集層22の変形しようとする応力及びその歪がプレ捕集層20との間で働き、最終的にプレ捕集層20の層間破壊を引き起こしてしまう場合がある。このため、主捕集層22と通気性支持層26の積層体において、曲げ剛性が30g重/mm以上であることが好ましい。主捕集層22と通気性支持層26の積層体の曲げ剛性の上限は特に制限されないが、実質的に2000g重/mm以下であることが好ましい。
【0040】
以上の濾材10において、気流の流速が5.3cm/秒であるとき、通気性カバー層24、プレ捕集層20及び主捕集層22の中で主捕集層22の圧力損失が最も大きく、次に、プレ捕集層20が大きく、通気性カバー層24の圧力損失が最も小さい。通気性カバー層24の圧力損失は10Pa以下であり、プレ捕集層20の圧力損失は、80Pa以下であり、主捕集層22の圧力損失は、100Pa以下であることが、濾材10における圧力損失を190Pa以下にする点で好ましく、この範囲において、フィルタユニット15を好適にHEPAフィルタあるいはULPAフィルタに用いることができる。
また、粒子径0.3μmの塵の捕集効率に関して、通気性カバー層24、プレ捕集層20及び主捕集層22の中で主捕集層22の捕集効率が最も大きく、次に、プレ捕集層20が大きい。通気性カバー層24の捕集効率は10Pa以下である。プレ捕集層20における粒子径0.3μmの塵の捕集効率は、プレ捕集層20の除電された状態で50%以上であり、主捕集層22における粒子径0.3μmの塵の捕集効率が、99.9%以上であることが、濾材10において粒子径0.3μmの塵の捕集効率が99.97%以上となる点で好ましく、この範囲において、エアフィルタユニット15を好適にHEPAフィルタに用いることができる。
【0041】
なお、通気性カバー層24とプレ捕集層20とは、例えば、超音波熱融着、反応性接着剤を用いた接着、ホットメルト樹脂を用いた熱ラミネート等を用いて接合することができる。
主捕集層22と通気性支持層26は、例えば、加熱による通気性支持層26の一部の溶融により、あるいはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、あるいは、反応性接着剤等の接着を利用して、接合することができる。
また、プレ捕集層20と主捕集層22とは、例えば、ホットメルト樹脂を用いた熱ラミネートを使用して、あるいは、反応性接着剤等の接着を利用して、接合することができる。
【0042】
(変形例)
本実施形態の濾材10は、図4に示すように、主捕集層22に対して気流の下流側に通気性支持層26が設けられている。本変形例の濾材10は、図5に示すように、主捕集層22の気流の下流側に通気性支持層26が設けられる他、主捕集層22に対して気流の上流側にも通気性支持層28が設けられている。すなわち、本変形例の濾材10は、気流の上流側から、通気性カバー層24、プレ捕集層20、通気性支持層28、主捕集層22、及び通気性支持層26がこの順に積層されている。通気性支持層28は、通気性支持層26と同様の構成を有してもよいし、異なる構成を有してもよい。通気性支持層28の圧力損失は、気流の流速が5.3cm/秒の条件において10Pa以下であり、あるいは実質的に0に近い。また、通気性カバー層28の粒子径0.3μmの塵の捕集効率は実質的に0あるいは略0である。この限りにおいて、通気性支持層28の材質及び構造は、特に制限されない。本変形例の層構成の濾材10は、主捕集層22の両側から主捕集層22を挟むように通気性支持層28及び通気性支持層26を接合する。
通気性支持層28を設けることにより、主捕集層22を図4に示す層構成の濾材10に比べてより確実に支持し、プレ捕集層20との間で、層間破壊をより確実に抑制することができる。また、剛性の極めて低い主捕集層22を正確に積層して濾材10を作製することができる。
【0043】
本実施形態では、PTFE多孔膜を有する濾材10にエンボス突起部20A〜20Eを複数設けることにより、プリーツ加工した濾材10の形状を保持するので、セパレータやスペーサを用いた従来のエアフィルタユニットのように、重量が増加することなく、また、有効濾過面積を広くすることができるので、塵の捕集効率を犠牲にすることなく、エアフィルタユニットにおける圧力損失を抑制することができる。主捕集層22に用いるPTFE多孔膜は、厚さが他の層に比べてきわめて薄いため、突出高さHを2.0mm以上とする加工をすれば、PTFE多孔膜は破損するように思われていた。しかし、濾材の形状保持のために用いられるセパレータやスペーサと同等の突出高さHを有するようにPTFE多孔膜を有する濾材10をエンボス加工により突出させることができる。しかも、濾材10が破損することなく、エアフィルタユニット1における圧力損失を抑制することができる。
【0044】
[濾材、エアフィルタユニットの特性]
(濾材の圧力損失)
濾材10から有効面積を100cm2とした円形状の試験サンプルを取り出し、円筒形状のフィルタ濾材ホルダに試験サンプルをセットし、空気の濾材透過速度が5.3cm/秒になるように空気の流れを調整し、試験サンプルの上流側及び下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差を濾材10の圧力損失として得た。
【0045】
(濾材の捕集効率)
濾材10の圧力損失に用いた試験サンプルと同様の試験サンプルを、フィルタ濾材ホルダにセットし、空気の濾材通過速度が5.3cm/秒になるように空気の流れを調整し、この空気流れの上流側に直径0.3μmのPSL(Polystyrene Latex)粒子を導入し、試験サンプルの上流側と下流側のPSL粒子の濃度を、光散乱式粒子計数器を用いて測定し、下記式に従って濾材10の捕集効率を求めた。
捕集効率(%)=[1−(下流側のPSL粒子の濃度/上流側のPSL粒子の濃度)]
×100
プレ捕集層20の捕集効率は、試験サンプルの帯電による捕集効率上昇の影響を排除するために、試験サンプルをIPA(イソプロピルアルコール)蒸気に1日曝して除電状態を作った。
【0046】
(厚さ)
ダイヤルシックネスゲージを用い、試験サンプルに10mmφで2.5Nの荷重をかけたときの厚さの値を読み取った。
【0047】
(平均繊維径)
試験サンプルの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で1000〜5000倍で撮影し、撮影した1画像上で直交した2本の線を引き、これらの線と交わった繊維の像の太さを繊維径として測定した。測定した繊維数は最低でも200本とした。こうして得られた繊維径について、横軸に繊維径、縦軸に累積頻度を採って対数正規プロットし、累積頻度が50%となる値を平均繊維径とした。繊維径の分布を表す幾何標準偏差は、上述の対数正規プロットの結果から、累積頻度50%の繊維径と累積頻度84%の繊維径を読み取り下記式より算出した。
幾何標準偏差[−]=累積頻度84%繊維径/累積頻度50%繊維径
【0048】
(曲げ剛性)
濾材10からサイズ150mm×20mmの長尺状の試験サンプルを切り出し、この試験サンプルの長手方向の一端から40mmの範囲の領域を押さえ代にして水平の台から水平方向に突出させて静置した。このときの突出長さ110mmを測定長さとして、水平の台から自重により垂れ下がった垂直方向の変位を測定し、下記式により曲げ剛性を算出した。
曲げ剛性[gf・mm]=濾材10の目付け×(測定長さ)4/8/変位
【0049】
(エアフィルタユニットの圧力損失)
濾材10を用いてプリーツ加工をして、610mm×610mm×290mm(高さ×幅×奥行き)のジグザグ形状の加工済み濾材を作製し、エンボス突起部20A〜20Eによりジグザグ形状を保持し、この状態で加工済み濾材を枠体14で保持させてエアフィルタユニット1を作製した。
作製したエアフィルタユニット1を矩形ダクトにセットし、風量を56m3/分となるように空気の流れを調整し、エアフィルタユニット1の上流側及び下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差をエアフィルタユニットの圧力損失として得た。
【0050】
(エアフィルタユニットの捕集効率)
エアフィルタユニット1の捕集効率は、エアフィルタユニットの圧力損失の測定と同様に、エアフィルタユニット1を矩形ダクトにセットし、風量を56m3/分となるように空気の流れを調整し、エアフィルタユニット1の上流側に直径0.3μmのPSL粒子を導入し、エアフィルタユニット1の上流側と下流側のPSL粒子の濃度を、光散乱式粒子計数器を用いて測定し、濾材の捕集効率と同様の式に従ってエアフィルタユニット1の捕集効率を求めた。
【0051】
(エアフィルタユニットの構造に起因した圧力損失)
上記エアフィルタユニット1の圧力損失と濾材10の圧力損失とから下記式に従ってフィルタユニット1の構造に起因した圧力損失(構造抵抗)を算出した。エアフィルタユニット1の圧力損失の測定時、エアフィルタユニット1における空気の濾材通過速度は4cm/秒であった。したがって、下記式に示すように、濾材10における圧力損失を空気の濾材通過速度を用いて補正をしている。
エアフィルタユニットの構造抵抗 =
エアフィルタユニット1における圧力損失
−濾材10における圧力損失×(4.0/5.3)
【0052】
[実施例]
以下、本実施形態の効果を調べるために、以下に示す濾材を用いたフィルタユニットを作製した(サンプル1〜9)。
【0053】
(サンプル1)
・主捕集層22(PTFE多孔膜)の作製
平均分子量650万のPTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンファインパウダーF106」)1kg当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において33.5質量%加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出して丸棒形状の成形体を得た。この丸棒形状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりフィルム状に成形しPTFEフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ200μm、平均幅150mmの帯状の未焼成PTFEフィルムを得た。次に、未焼成PTFEフィルムを長手方向に延伸倍率5倍で延伸した。延伸温度は250℃であった。次に、延伸した未焼成フィルムを連続クリップできるテンターを用いて幅方向に延伸倍率32倍で延伸し、熱固定を行った。このときの延伸温度は290℃、熱固定温度は390℃であった。これにより、PTFE多孔膜(充填率が4.0%、平均繊維径が0.053μm、厚さ10μm)である主捕集層22を得た。
【0054】
・通気性支持層26,28
図4に示す通気性支持層26,28として、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付け40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。得られた主捕集層22であるPTFE多孔膜の両面に、上記スパンボンド不織布を、ラミネート装置を用いて熱融着により接合して、PTFE積層体を得た。こうして得られたPTFE積層体の圧力損失と塵の捕集効率は、上述した測定方法によれば、80Paと99.99%であった。この圧力損失及び捕集効率は、略PTFE多孔膜の特性である。
【0055】
・通気性カバー層24
通気性カバー層24として、平均繊維径が20μmの連続繊維であるPPからなるスパンボンド不織布(目付け10g/m2、厚さ0.15mm)を用いた。
【0056】
・プレ捕集層20
プレ捕集層20として、平均繊維径が1.2μmの繊維であるPPからなるメルトブローン不織布(目付け15g/m2、厚さ0.12mm)を用いた。上記通気性カバー層24であるスパンボンド不織布とプレ捕集層20であるメルトブローン不織布を、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行い、PP積層体(厚さ0.14mm)を得た。こうして得られたPP積層体の圧力損失と塵の捕集効率は、上述した測定方法によれば、60Paと60%であった。この圧力損失及び捕集効率は、略メルトブローン不織布の特性である。
最後に、PTFE積層体とPP積層体とを、EVAホットメルト接着剤を2g/m2使用して、110℃で熱ラミネートを行い、図5に示す層構成を有する濾材10を得た。濾材10の厚さは0.64mmであった。
濾材10の圧力損失と塵の捕集効率は、上述した測定方法によれば、170Paと99.995%であった。熱ラミネートによる圧力損失の上昇はなかった。この圧力損失及び捕集効率は、略プレ捕集層20と主捕集層22による特性である。また、炉材10の厚さは、0.64mmであった。
【0057】
作製した濾材10を、ロール状エンボス型を用いた装置を用いてエンボス加工を行った。このときエンボス突起部20A〜20Eの突出高さHが、山折りの頂部に最も近い位置で4mmとなり、X方向に進むにしたがって徐々に突出高さHが変化するように、突出高さHに分布を持たせて、エンボス加工を行った。これにより、濾材10に凸突起および凹突起のエンボス突起部20A〜20Eを設けた。
この後、ロータリ式折り機で260mm毎に山折り、谷折りになるようにプリーツ加工を行い、図2(a)に示すようなジグザグ形状の濾材10をつくった。
【0058】
このとき、以下に示すサンプル1〜7に示すように、エンボス突起部の最大突出高さ(濾材10の厚さを含まない)を種々変更し、また、濾材10の折り幅と山折りの頂部(あるいは谷折りの谷底部)間同士の間隔との比も種々変更した。例えば、サンプル4は、下記表に示すように、最大突出高さ(濾材10の厚さを含まない)が3.1mmであり、濾材10の折り幅と山折りの頂部(あるいは谷折りの谷底部)間同士の間隔との比(濾材10の厚さを含まない)が42であることを意味する。
得られた襞形状の濾材10をアルミニウム製の枠体14に固定した。濾材10の周囲をウレタン接着剤で枠体14と接着してシールして、エアフィルタユニット1を得た。
【0059】
下記表には、サンプルの各仕様と測定結果を示す。下記表中の「構造分抵抗」とは、上述した「エアフィルタユニットの構造抵抗」の算出方法で得られたものであり、「濾材分抵抗」とは、各サンプルのエアフィルタユニットにおける「圧力損失」から「構造分抵抗」を差い引いたものである。また、エアフィルタユニット1における圧力損失の許容される上限を210Paとした。
【0060】
【表1】

【0061】
上記表における「寿命」とは、実環境下、定格風量(例えば56m3/分)で通風した際、初期の圧力損失から250Pa分圧力損失が上昇したときに、濾材単位面積あたりに捕集する塵埃量(g/m2)で表す。表中の「ガラス繊維濾材並み」とは、従来からエアフィルタユニットに用いられているガラス繊維濾材と同等に寿命が長いことを意味し、塵埃量が10(g/m2)以上であることをいう。「ガラス繊維濾材より短い」とは、従来のガラス繊維濾材の「寿命」に比べて「寿命」が短く、濾材として不適であることを意味する。平均繊維径を2μm以上にすると、「寿命」が低下し、実用上好ましくない。
プレ捕集層20における捕集効率を50%以上にすれば、上記表によると、濾材10の寿命を、ガラス繊維濾材の寿命並みに延ばすことができる。
上記表に示す結果より、ジグザグ形状の濾材10の折り幅(奥行き寸法)と、濾材10の山折りの頂部(あるいは谷折りの谷底部)同士の間隔との比は、エアフィルタ濾材の厚さを含まない状態で、21以上から65以下であることが圧力損失を抑制する点で好ましいことがわかる。より具体的には、サンプル1〜7において、上記比は、24以上62以下であることがより好ましいことがわかる。上記比が高くなると、構造分抵抗が増加して、圧力損失を増加させる。上記比が低くなると、濾材分抵抗が増加して、圧力損失を増加させる。この点から、サンプル1〜7において、24以上62以下であることがより好ましいことがわかる。さらにより好ましくは、上記比は、29以上54以下である。
エンボス突起部20A〜20Eにおける最大突出高さは、2.0mm以上6.0mm以下であることが圧力損失を抑制する点で好ましいことがわかる。より具体的には、サンプル1〜7において、最大突出高さは、2.1mm以上5.4mm以下であることがより好ましいことがわかる。さらにより好ましくは、最大突出高さは、2.4mm以上4.4mm以下である。
【0062】
以上、本発明のエアフィルタ用濾材及びエアフィルタユニットについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0063】
1 エアフィルタユニット
10 エアフィルタ用濾材
14 枠体
20 プレ捕集層
22 主捕集層
24 通気性カバー層
26,28 通気性支持層
20A,20B,20C,20D,20E エンボス突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流中の塵を捕集するエアフィルタ用濾材であって、
ポリテトラフルオロエチレン多孔膜からなる主捕集層、を有し、
前記エアフィルタ用濾材の表面にエンボス突起部を複数設けた、ことを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
さらに、前記主捕集層に対して気流中の上流側に配置され、気流中の塵の一部を捕集するプレ捕集層を有し、
前記主捕集層は、前記プレ捕集層を通過した塵を捕集する、請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記主捕集層に対して気流の下流側に配置され、前記主捕集層を支持する通気性支持層を含む、請求項1または2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記主捕集層に対して気流中の上流側に、前記主捕集層に隣接して配置され、前記主捕集層を支持する通気性支持層を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
さらに、気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層を有し、
気流の流速が5.3cm/秒であるとき、前記通気性カバー層の圧力損失は10Pa以下であり、前記プレ捕集層の圧力損失は、80Pa以下であり、前記主捕集層の圧力損失は、100Pa以下である、請求項2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
さらに、気流の上流側の最表層の位置に配置され、気流中の塵を通過させる一方、外部からの押圧に対する前記エアフィルタ用濾材の表面の変形を抑制する通気性カバー層を有し、
前記プレ捕集層における粒子径0.3μmの塵の捕集効率が、前記プレ捕集層の除電された状態で50%以上であり、前記主捕集層における粒子径0.3μmの塵の捕集効率が、99.9%以上である、請求項2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項7】
前記エアフィルタ用濾材は、山折りおよび谷折りされて折り畳まれてジグザグ形状に形状が保持され、
前記ジグザグ形状の奥行き寸法と、前記エンボス突起部により、ジグザク形状に保持された前記エアフィルタ用濾材の山折りの頂部あるいは谷折りの谷底部同士の間隔との比は、前記エアフィルタ濾材の厚さを含まない状態で、21以上から65以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項8】
前記エンボス突起部の最大突出高さは、前記エアフィルタ用濾材の厚さを含まない状態で、2.0mm以上6.0mm以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のエアフィルタ用濾材をプリーツ加工したジグザグ形状の加工済み濾材と、
前記加工済み濾材を保持する枠体と、を備え、
前記エアフィルタ用濾材の前記エンボス突起部は、前記エアフィルタ用炉材の向かい合う面に設けられたエンボス突起部と接触することにより、前記ジグザグ形状を保持する、ことを特徴とするエアフィルタユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−52321(P2013−52321A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190200(P2011−190200)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】