説明

エアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法及び装置

【課題】船体ブロック又は橋梁ブロックが外気にさらされることがなく、しかもブラスト・塗装工程の待ち時間も減らすことができるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法を提供する。
【解決手段】船体ブロック又は橋梁ブロック4を囲む移動建屋5を、ブラスト室1及び複数の塗装室2に沿って横行できるようにブラスト室1及び複数の塗装室2に併設する。そして、船体ブロック又は橋梁ブロック4をブラスト室1から移動建屋5内に移動台車3により走行移動させ、その後、船体ブロック又は橋梁ブロック4を移動建屋5内に入れたまま移動建屋5と移動台車3とを同調して横行させ、その後、移動台車3により船体ブロック又は橋梁ブロック4を移動建屋5から複数の塗装室2のいずれかへ走行移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体ブロック又は橋梁ブロックを、エアーブラストを行うブラスト室から塗装を行う塗装室へ移動させるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
造船所、橋梁物工場において、船体ブロック又は橋梁物ブロックは、ブラスト室で塗装の下地処理としてのエアーブラストが行われた後、次の塗装を行なう塗装室へ送られる。塗装工程には塗料の乾燥時間も含まれるので、ブラスト工程の数倍、例えば三倍の時間がかかる。ブラスト工程及び塗装工程の全体の時間を短くするために、ブラスト室に対して複数室、例えば三室の塗装室が設けられる。ショット面に錆が発生しないように、ブラスト室及び塗装室共に空調設備が設けられて温度・湿度が一定に保たれている。
【0003】
ブラスト室と塗装室は別室なので、エアーブラスト完了後、船体ブロック又は橋梁物ブロックをブラスト室から塗装室へ移動させる必要がある。その際には、台車等を用い、ブロックをブラスト室から一旦屋外に搬出し、その後塗装室に搬入するのが従来の移動方法であった。しかし、船体ブロック又は橋梁物ブロックを屋外に搬出すると、これらが外気の温度・湿度にさらされるから、ブロックのショットした表面に湿気、水分を付着、結露させることになる。ブロック表面のこれらの湿気、水分は錆を招いてしまう。そのうえ、船体ブロック又は橋梁物ブロックを屋外に搬出すると、せっかく除湿・昇温した室内空気も外気と置換されるため、次の船体ブロック又は橋梁物ブロックのエアーブラスト又は塗装のときに、大量の外気の空調処理が必要になる。さらに、従来の移動方法には、雨天時にはブロック表面に雨水があたり、活性化した鉄表面が錆びるという欠点がある。これを防ぐためには、晴天になるまで船体ブロック又は橋梁物ブロックの移動を中止するなどの方法をとらざるを得ないから、ブロックの塗装工程に大幅な遅延を招く。
【0004】
従来のブロックの移動方法の上述の問題点を解決するために、一つの建屋内にブラスト室と塗装室を並べて配置し、建屋内を移動する移動台車によってブロックをブラスト室から塗装室まで搬送するブロックの搬送方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭60‐32509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の、建屋内の移動台車によりブロックをブラスト室から塗装室に順次搬送する方法にあっては、ブラスト工程の時間と塗装工程の時間が同じであれば、待ち時間なくブロックをブラスト室から塗装室まで搬送することができる。しかし、ブラスト工程の時間と塗装工程の時間とが同じになることはなく、塗装工程にはブラスト工程の例えば三倍の時間がかかる。特許文献1に記載の搬送方法には、塗装工程が終了する時間まで次のブロックのブラスト工程に待ち時間が増えてしまうという大きな問題がある。
【0006】
そこで、本発明はブロックが外気にさらされることなく、しかもブラスト及び塗装工程の待ち時間も減らすことができるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、エアーブラストを行った船体ブロック又は橋梁ブロックを、塗装のためにブラスト室から複数の塗装室のいずれかへ移動させるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法であって、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを囲む移動建屋を、前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に沿って横行できるように前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に併設し、そして、移動台車により前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記ブラスト室から前記移動建屋内に走行移動させ、その後、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋内に入れたまま前記移動建屋と前記移動台車とを同調して横行させ、その後、前記移動台車により前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋から前記複数の塗装室のいずれかへ走行移動させることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、エアーブラストを行った船体ブロック又は橋梁ブロックを塗装のためにブラスト室から複数の塗装室のいずれかへ移動させるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置であって、前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に沿って横行できるように前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に併設されると共に、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを囲む移動建屋と、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記ブラスト室から前記移動建屋内に走行移動させ、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋内に入れたまま前記移動建屋と同調して横行し、さらに前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋から前記複数の塗装室のいずれかへ走行移動させる走行台車と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置において、前記移動建屋は、天井及び壁から構成される箱形状の本体部と、本体部に設けられる走行車輪と、前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に沿って伸び、前記走行車輪が走行する軌道レールと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブラスト室の環境を移動台車上で維持したまま塗装室まで移動させるので、ショット面の湿気、結露を防ぐことができ、塗装処理までの錆の発生を防ぐことができる。しかも、ブラスト後のブロックを複数の塗装室のうちの空いている塗装室に搬送することができるので、ブラスト及び塗装工程の待ち時間を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下添付図面に基づいて本発明の一実施形態におけるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方装置を説明する。図1は本発明の一実施形態におけるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置の斜視図を示す。造船所、橋梁物工場においては、船体ブロック又は橋梁物ブロック(以下単にブロックという)をエアーブラスト及び塗装するためのエアーブラスト及び塗装設備が設けられる。工場には、エアーブラストが行われるブラスト室1の建屋と、塗装が行われる塗装室2の建屋が建築される。塗装工程はブラスト工程の数倍の時間がかかるので、待ち時間を少なくするために一つのブラスト室1に対して複数の、例えば三つの塗装室2が設けられる。ブラスト室1の建屋と塗装室2の建屋とは隣接していて、ブラスト室1と塗装室2とは一列に並べられている。ブラスト室1及び塗装室2とも、錆の発生を防ぐために空調設備によって温度・湿度が管理されている。
【0012】
ブラスト室1から塗装室2までブロック4を搬送するため、移動台車3が用いられる。移動台車3は、台座3aと台座3aの下部に設けられた移動台車走行車輪3bとを有する。移動台車3の移動は自動により行われても、手動により行われてもよい。
【0013】
ブラスト室1でブラスト処理されたブロックは、移動台車3に載せられる。ブラスト室1及び塗装室2の扉を開放した後、移動台車3はブロックをブラスト室1及び塗装室2の横行方向ではなく、横行方向に直交する走行方向に一旦移動させる。このとき、移動台車3の周囲が囲まれていないと、ブロック4が屋外に露出する。それゆえ、移動台車3の周囲を移動建屋5で囲む。
【0014】
図2及び図3は、移動建屋5を示す。移動建屋5は、天井6と壁7を有して箱形状に形成される。箱形状といっても、移動建屋5のブラスト室1及び塗装室2側には、ブロック4が出入りできるように壁7が設けられていない。移動建屋5とブラスト室1及び塗装室2との間のシール性を向上させるため、これらの間にはラビリンスシール等が設けられる。このような移動建屋5は建屋というよりむしろカーテンルームに近い。移動建屋5の縦・横・高さ寸法はブロック4の寸法以上をもつ。天井6及び壁7は、扉を有さない固定のパネルから構成される。天井6及び壁7には、空調された雰囲気が逃げないように断熱材を使用してもよい。なお、移動建屋5のブラスト室1及び塗装室2側に扉を設けてもよい。移動建屋5がブラスト室1から塗装室2へ移動するときに、移動建屋5内に外気が進入したり、風雨が影響するのを防止するためである。ブラスト室1又は塗装室2と移動建屋5との間でブロック4を授受するときに、この扉を開閉させて移動台車3の出入りを可能にする。
【0015】
天井6及び壁7から構成される移動建屋5の本体部には、移動建屋5が横行方向に走行できるように複数の走行車輪9が設けられる。走行車輪9は横行方向に伸びる二本の軌道レール10a,10b上を走行する。ブラスト・塗装室側の軌道レール10bは、ブラスト室1及び塗装室2の建屋の庇上に設置されてもよいし、基礎上に設置されてもよい。また、移動建屋5の移動は自動により行われても、手動により行われてもよい。
【0016】
図4は、移動台車3及び移動建屋5によるブロック4の移動方法を示す。ブラスト室1でのブラスト処理完了後、ブラスト室1及び移動建屋5の扉を開けて、移動台車3によりブロック4をブラスト室1から移動建屋5に走行移動させる((1)→(2))。このとき、ブロック4のみならず、ブラスト室内の除湿された空気もブラスト室1から移動建屋5に移動する。ブロック4が移動建屋5内に移動したら、ブラスト室1及び移動建屋5の扉を閉じる。ここで、ブラスト室1内の空気を漏らさずに移動建屋5内に移動させるために、移動建屋5の扉の周囲をゴム等で養生して、ブラスト室1との連絡部分のシール性を向上させてもよい。
【0017】
次に、移動台車3はブラスト室1から塗装室2に向かって横行方向にブロック4を走行移動させる((2)→(3))。このとき移動建屋5は、あたかも雨傘のように移動建屋5内にブロック4を入れたまま、移動台車3と同調して横行方向に走行移動する。複数の塗装室2のうち、空いている塗装室2の前までブロックを搬送したら、移動台車3及び移動建屋5の走行移動を停止する。
【0018】
次に、塗装室2及び移動建屋5の扉を開け、移動台車3によりブロック4を移動建屋5から塗装室2内に走行移動させる((3)→(4))。このとき、このとき、ブロック4のみならず、移動建屋5内の除湿された空気も移動建屋5から塗装室2に移動する。ブロック4が塗装室2内に移動したら、移動建屋5及び塗装室2の扉を閉じる。
【0019】
本実施形態によれば、移動台車3と同調して移動する移動建屋5を設けることにより、ブラスト室1内の温度及び湿度(特に湿度)が調整された空気を外気開放させることなく、ブラスト処理後の環境を維持したまま塗装室2まで移動することができる。すなわち、ブロック4が外気にさらされないため、ブロック4の湿気、結露を防ぐことができ、塗装処理までの間の錆の発生を防ぐことができる。しかも、ブロック4を空いている塗装室2に搬送することで、エアーブラスト及び塗装設備の稼動効率を向上させることができる。
【0020】
また、ブラスト室1及び塗装室2とも冬季には膨大なエネルギを使用して、除湿・昇温させる必要がある。ブラスト室1の環境を塗装室2まで移動させることで、ブラスト室1及び塗装室2の空調エネルギロスの解消にもつながる。
【0021】
さらに、雨天に関係なく全天候下での作業が可能になることから、建造工程を当初の予定通り進めることが可能になり、作業員の手待ち、船渠の造船計画の支障を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態におけるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置の斜視図
【図2】移動建屋の側面図
【図3】図2のA矢視図
【図4】移動台車及び移動建屋によるブロックの移動方法を示す平面図
【符号の説明】
【0023】
1…ブラスト室
2…塗装室
3…移動台車
4…船体ブロック又は橋梁ブロック
5…移動建屋
9…走行車輪
10a,10b…軌道レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアーブラストを行った船体ブロック又は橋梁ブロックを、塗装のためにブラスト室から複数の塗装室のいずれかへ移動させるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法であって、
前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを囲む移動建屋を、前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に沿って横行できるように前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に併設し、
そして、移動台車により前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記ブラスト室から前記移動建屋内に走行移動させ、その後、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋内に入れたまま前記移動建屋と前記移動台車とを同調して横行させ、その後、前記移動台車により前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋から前記複数の塗装室のいずれかへ走行移動させることを特徴とするエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動方法。
【請求項2】
エアーブラストを行った船体ブロック又は橋梁ブロックを塗装のためにブラスト室から複数の塗装室のいずれかへ移動させるエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置であって、
前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に沿って横行できるように前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に併設されると共に、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを囲む移動建屋と、
前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記ブラスト室から前記移動建屋内に走行移動させ、前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋内に入れたまま前記移動建屋と同調して横行し、さらに前記船体ブロック又は前記橋梁ブロックを前記移動建屋から前記複数の塗装室のいずれかへ走行移動させる走行台車と、を備えることを特徴とするエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置。
【請求項3】
前記移動建屋は、天井及び壁から構成される箱形状の本体部と、本体部に設けられる走行車輪と、前記ブラスト室及び前記複数の塗装室に沿って伸び、前記走行車輪が走行する軌道レールと、を有することを特徴とする請求項2に記載のエアーブラスト及び塗装設備のブロック移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−268437(P2007−268437A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98122(P2006−98122)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000200334)JFEメカニカル株式会社 (48)
【出願人】(593172223)今治造船株式会社 (15)
【Fターム(参考)】