説明

エクオール含有大豆胚軸発酵物、及びその製造方法

【課題】エクオールを含有し、食品素材、医薬品素材、又は化粧品素材等として有用な大豆胚軸発酵物を提供する。
【解決手段】ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を用いて、大豆胚軸を発酵させることにより、エクオール含有大豆胚軸発酵物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクオールを含有する大豆胚軸の発酵物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆中に含まれるイソフラボン(大豆イソフラボン;ダイゼイン、ゲ二ステイン、グリシテイン)はエストラジオールと構造が類似しており、エストロゲンレセプター(以下、ERと表記する)への結合に伴う抗エストロゲン作用及びエストロゲン様作用を有している。これまでの大豆イソフラボンの疫学研究や介入研究からは、抗エストロゲン作用による乳癌、前立腺癌等のホルモン依存性の癌の予防効果や、エストロゲン様作用による更年期障害、閉経後の骨粗鬆症、高脂血症の改善効果が示唆されている。
【0003】
近年、これら大豆イソフラボンの生理作用の活性本体がダイゼインの代謝物のエクオールである可能性が指摘されている。即ち、エクオールは大豆イソフラボンと比較してERとの結合能(特に、ERβとの結合)が強く、乳房や前立腺組織などの標的臓器への移行性が顕著に高いことが報告されている。また、患者−対照研究では、乳癌、前立腺癌患者でエクオール産生者が有意に少ないことが報告され、閉経後の骨密度、脂質代謝に対する大豆イソフラボンの改善効果をエクオール産生者と非産生者に分けて解析するとエクオール産生者で有意に改善されたことも報告されている。
【0004】
エクオールは、ダイゼインより腸内細菌の代謝を経て産生されるが、エクオール産生能には個人差があり、日本人のエクオール産生者の割合は、約50%と報告されている。つまり、日本人の約50%がエクオールを産生できないヒト(エクオール非産生者)であり、このようなヒトにおいては、大豆や大豆加工食品を摂取しても、エクオールの作用に基づく有用生理効果が享受できない。従って、エクオール非産生者に、エクオールの作用に基づく有用生理効果を発現させるには、エクオール自体を摂取させることが有効であると考えられる。
【0005】
従来、エクオールの製造方法としては、ダイゼインを含む原料に対して、ダイゼインを資化してエクオールを産生する微生物(以下、エクオール産生菌と表記する)で発酵処理する方法が知られている。この製造方法において、使用されるダイゼインを含む原料としては、大豆、葛根湯、レッドグローブ、アルファルファ等が知られている。また、エクオール産生菌についても既に公知であり、例えば、本発明者等によって、バクテロイデスE-23-15(FERM BP-6435号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)及びラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)がヒトの糞便から単離されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
しかしながら、単に、上記のダイゼイン類を含む原料に対して、エクオール産生菌を用いて発酵処理しても、得られる発酵物中のエクオール量は十分ではなく、その発酵物をそのまま摂取しても、エクオールの作用に基づく所望の有用効果を十分には望めないという問題点があった。
【0007】
一方、大豆胚軸部分には、大豆加工食品として利用されている子葉部分に比べて、イソフラボンやサポニン等の有用成分が高い割合で含まれていることが知られており、その抽出物については種々の用途が開発されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、大豆胚軸抽出物は、それ自体コストが高いという欠点がある。また、大豆胚軸抽出物は、エクオールの製造原料とする場合には、エクオール産生菌による発酵のために別途栄養素の添加が必要になるという問題点がある。このような理由から、大豆胚軸抽出物は、エクオ
ールを工業的に製造する上で、原料として使用できないのが現状である。
【0008】
一方、大豆胚軸自体については、特有の苦味があるため、それ自体をそのまま利用することは敬遠される傾向があり、大豆の胚軸の多くは廃棄されているのが現状である。また、大豆胚軸には、大豆の子葉部分と同様に、アレルゲン物質が含まれているため、大豆アレルギーを持つ人にとって、大豆胚軸を摂取乃至投与することができなかった。そのため、大豆胚軸を有効利用するには、大豆胚軸自体に更に付加価値を備えさせることにより、その有用性を高めることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第99/007392号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/000042号パンフレット
【特許文献3】特開2002−234844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、エクオールを含有し、食品素材、医薬品素材、又は化粧品素材等として有用な大豆胚軸発酵物を提供することである。更に、本発明は、エクオールを含有する大豆胚軸発酵物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を用いて、大豆の胚軸を発酵させると、高い効率でエクオールが生成し、エクオール含有大豆胚軸発酵物が得られることを見出した。更に、斯くして得られるエクオール含有大豆胚軸発酵物には、大豆胚軸に含まれるアレルゲンが低減されているので、低アレルゲンの素材としても有用であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げるエクオール含有大豆胚軸発酵物及びその利用に関する発明を提供する:
項1. ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物で、大豆胚軸を発酵させて得られる、エクオール含有大豆胚軸発酵物。
項2. 前記微生物が、ラクトコッカス属に属する乳酸菌である、項1に記載の大豆胚軸発酵物。
項3. 前記微生物が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)である、項1に記載の大豆胚軸発酵物。
項4. 大豆胚軸発酵物の乾燥重量当たり、エクオールを0.1〜20重量%含有している、項1に記載の大豆胚軸発酵物。
項5. 更に、ダイジン類、ゲニスチン類、ゲニステイン類、グリシチン類及びグリシテイン類を含む、項1に記載の大豆胚軸発酵物。
項6. 更に、オルニチンを含む、項1に記載の大豆胚軸発酵物。
項7. 項1に記載の大豆胚軸発酵物を含む、食品。
項8. 栄養補助食品である、項7に記載の食品。
項9. 食品100g当たり、前記大豆胚軸発酵物が0.1〜90g含まれている、項7に記載の食品。
項10. 項1に記載の大豆胚軸発酵物を含む、医薬製剤。
項11. 更年期障害、骨粗鬆症、前立腺肥大、又はメタボリックシンドロームの予防又は治療剤である、項10に記載の医薬製剤。
項12. 血中コレステロール値の低減剤である、項10に記載の医薬製剤。
項13. 項1に記載の大豆胚軸発酵物の、更年期障害、骨粗鬆症、前立腺肥大、又はメタボリックシンドロームの予防又は治療剤の製造のための使用。
項14. 項1に記載の大豆胚軸発酵物の、血中コレステロール値の低減剤の製造のための使用。
項15. 更年期障害の患者に、項1に記載の大豆胚軸発酵物の有効量を投与することを特徴とする、更年期障害の治療方法。
項16. 血中コレステロール値の低減が必要とされる患者に、項1に記載の大豆胚軸発酵物の有効量を投与することを特徴とする、血中コレステロール値の低減方法。
項17. 項1に記載の大豆胚軸発酵物を含む、化粧料。
項18. 化粧料100g当たり、前記大豆胚軸発酵物が0.1〜10g含まれている、項17に記載の化粧料。
項19. ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物で、大豆胚軸を発酵処理することを特徴とする、エクオール含有大豆胚軸発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の大豆胚軸発酵物は、エクオールと共に、エクオール以外のイソフラボンやサポニン等の有用成分をも含有しているので、食品、医薬品、化粧料等の分野での有用である。特に、本発明の大豆胚軸発酵物は、大豆、葛根湯、レッドグローブ、アルファルファ等のダイゼイン含有原料を発酵させたものに比べて、エクオールの生成量が格段に多く、エクオールに基づく有用生理効果を一層良好に奏することができる。
【0014】
更に、本発明の大豆胚軸発酵物は、大豆胚軸に含まれるアレルゲンが低減されているので、低アレルギー性素材として、大豆アレルギーを持つ人にとっても安全に摂取乃至適用することができるという利点がある。また、本発明の大豆胚軸発酵物は、大豆の食品加工時に廃棄されていた大豆胚軸を原料としており、資源の有効利用という点でも産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1−3で得られた発酵液中のエクオール濃度を示す図である。
【図2】実施例1で得られた大豆胚軸発酵物、大豆子葉、及び大豆胚軸に含まれる総タンパク質を検出した結果(電気泳動図)を示す図である。
【図3】実施例1で得られた大豆胚軸発酵物、大豆子葉、及び大豆胚軸に含まれる主要アレルゲン(Gym4、Gm30K、Gm28K)を検出した結果(電気泳動図)を示す図である。
【図4】実施例1で得られた大豆胚軸発酵物、大豆子葉、及び大豆胚軸に含まれる主要アレルゲン(7Sグロブリンmix、オレオシン、トリプシンインヒビター)を検出した結果(電気泳動図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明では、エクオール産生菌として、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類を資化してエクオールを産生する能力(代謝活性)を有する微生物を使用する。ここで、ダイゼイン配糖体としては、具体的には、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン等が挙げられる。
【0018】
上記微生物(エクオール産生菌)としては、食品衛生上許容され、上記能力を有する限り特に制限されないが、例えば、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)等
のラクトコッカス属に属する微生物;ストレプトコッカス・インターメディアス(Streptococcus intermedius)、ストレプトコッカス・コンステラータス(Streptococcus constellatus)等のストレプトコッカス属に属する微生物;バクテロイデス・オバタス(Bacteroides ovatus)等のバクテロイデス属に属する微生物の中に上記能力を有する微生物が存在し
ていることが分かっている。エクオール産生菌の中で、好ましくは、ラクトコッカス属、及びストレプトコッカス属等の乳酸菌であり、更に好ましくはラクトコッカス属に属する乳酸菌であり、特に好ましくはラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。上記能力を有する微生物は、例えば、ヒト糞便中からエクオールの産生能の有無を指標として単離することができる。上記エクオール産生菌については、本発明者等により、ヒト糞便から単離同定された菌、即ち、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)、ストレプトコッカスE-23-17(FERM BP-6436号)、ストレプトコッカスA6G225(FERM BP-6437号)、及びバクテロ
イデスE-23-15(FERM BP-6435号)が寄託されており、本発明ではこれらの寄託菌を使用
できる。これらの寄託菌の中でも、ラクトコッカス20-92が好適に使用される。
【0019】
本発明において、発酵原料としては大豆胚軸が用いられる。大豆胚軸とは、大豆の発芽時に幼芽、幼根となる部分であり、ダイゼイン配糖体やダイゼイン等のダイゼイン類が多く含まれていることが知られている。本発明に使用される大豆胚軸は、含有されているダイゼイン類が失われていないことを限度として、大豆の産地や加工の有無については制限されない。例えば、生の状態のもの;加熱処理、乾燥処理、蒸煮処理等に供された大豆から分離したもの;未加工の大豆から分離した胚軸を加熱処理、乾燥処理又は蒸煮処理等に供したもの等のいずれであってもよい。また、本発明で使用される大豆胚軸は、脱脂処理や脱タンパク処理に供したものであってもよい。また、本発明に使用される大豆胚軸の形状については、特に制限されるものではなく、粉末状であっても、粉砕又は破砕されたのものであってもよい。より効率的にエクオールを生成させるという観点からは、粉末状の大豆胚軸を使用することが望ましい。
【0020】
大豆胚軸の発酵処理は、適量の水を大豆胚軸に加えて水分含量を調整し、これに上記エクオール産生菌を接種することにより行われる。
【0021】
大豆胚軸に添加される水の量は、使用するエクオール産生菌の種類や発酵槽の種類等によって応じて適宜設定される。通常、発酵開始時に、大豆胚軸と水が以下の割合で共存していればよい:大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、水が400〜4000重量部、好ましくは500〜2000重量部、更に好ましくは600〜1000重量部。
【0022】
また、大豆胚軸の発酵において、発酵原料となる大豆胚軸には、必要に応じて、発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として、酵母エキス、ポリペプトン、肉エキス等の窒素源;グルコース、シュクロース等の炭素源;リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に、エクオール産生菌として、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(以下、「オルニチン・エクオール産生菌」と表記する)を使用する場合には、大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって、得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合、アルギニンの添加量については、例えば、大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して、アルギニンが0.5〜3重量部程度が例示される。なお、アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するエクオール産生菌としては、具体的には、ラクトコッカス・ガルビエから選択することができ、具体的には、ラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が挙げられる。
【0023】
更に、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)のpHについては、エクオール産生菌が生育可能である限り特に制限されないが、エクオール産生菌を良好に増殖させるという観点からは、発酵原料のpHを6〜7程度、好ましくは6.3〜6.8程度に調整しておくこ
とが望ましい。
【0024】
また、使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には、更に、前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。このようにイソフラボンを発酵原料に別途添加しておくことにより、得られる大豆胚軸発酵物中のエクオール含量をより高めることが可能になり、その有用性を一層向上させることができる。
【0025】
大豆胚軸の発酵は、使用するエクオール産生菌の生育特性に応じた環境条件下で実施される。例えば、上記で具体的に列挙したエクオール産生菌を使用する場合であれば、大豆胚軸の発酵は嫌気性条件下で行われる。
【0026】
また、発酵温度としては、エクオール産生菌の生育に好適な条件であればよく、例えば、20〜40℃、好ましくは35〜40℃、更に好ましくは36〜38℃が挙げられる。
【0027】
発酵時間については、エクオールの生成量、ダイゼイン類の残存量、エクオール産生菌の種類等に応じて適宜設定できるが、通常1〜10日間、好ましくは2〜7日間、更に好ましくは3〜5日間とすることができる。
【0028】
上記の条件で発酵処理されて得られる大豆胚軸発酵物には、エクオールが生成されて蓄積されており、エクオールの有用生理作用を発現することができる。大豆胚軸発酵物中のエクオール含量については、使用するエクオール生産菌や発酵条件等によって異なるが、通常、大豆胚軸発酵物の乾燥重量当たり(大豆胚軸発酵物の乾燥重量を1gとした場合)、エクオールが1〜20mg、好ましくは2〜12mg、更に好ましくは5〜8mg含まれている。
【0029】
大豆胚軸発酵物には、エクオール以外に、ダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン、ダイゼイン、ジハイドロダイゼイン等のダイゼイン類(以下、これらの成分を「ダイゼイン類」と表記する);ゲニスチン、マロニルゲニスチン、アセチルゲニスチン、ゲニステイン、ジハイドロゲニステイン等のゲニステイン類(以下、これらの成分を「ゲニステイン類」と表記する);グリシチン、マロニルグリシチン、アセチルグリシチン、グリシテイン、ジハイドログリシテイン等のグリシテイン類(以下、これらの成分を「グリシテイン類」と表記する)等の各種イソフラボンも含まれており、これらのイソフラボンの有用生理活性をも発現することができる。大豆胚軸発酵物中のイソフラボン(エクオールを含む)含有量については、大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり、イソフラボンが5〜20mg、好ましくは5〜15mg、更に好ましくは8〜15mg程度が例示される。
【0030】
また、大豆胚軸発酵物は、エクオール以外のイソフラボンの組成の点でも、大豆胚軸に含まれるイソフラボンとは異なる組成を有している。特に、大豆胚軸発酵物には、内分泌攪乱物質として作用することが懸念されているゲニステイン類の総和の含有比率が、大豆胚軸発酵物のイソフラボンの総量当たり、好ましくは15重量%以下、更に好ましくは12重量%以下と低くなっており、イソフラボンの組成の観点からも、発酵前の大豆胚軸に比べて有利である。
【0031】
大豆胚軸発酵物として、具体的には、以下のイソフラボンの組成のものが例示される(以下の単位「mg」は、大豆胚軸発酵物1g(乾燥重量)当たりの各イソフラボンの総量を示す):
エクオール:1〜20mg、好ましくは2〜12mg
ダイゼイン類:0.1〜30mg、好ましくは0.1〜1.5mg
ゲニステイン類:0.05〜2.5mg、好ましくは0.05〜2mg
グリシテイン類:0.1〜4mg、好ましくは2〜3.5mg。
【0032】
また、大豆胚軸発酵物に含まれる各イソフラボンの組成比率としては、以下に示す範囲が例示される(以下の単位「重量%」は、大豆胚軸発酵物に含まれる全イソフラボンの合計量に対する割合を示す):
エクオール:30〜75重量%、好ましくは40〜70重量%、更に好ましくは45〜70重量%、
ダイゼイン類:1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%、更に好ましくは4〜12重量%、
ゲニステイン類:0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは1〜10重量%、
グリシテイン類:10〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、更に好ましくは25〜35重量%。
【0033】
本発明の大豆胚軸発酵物は、従来技術では実現できていない組成のイソフラボンを含んでいるので、他の観点から、上記イソフラボン組成を備えるイソフラボン含有物質と言い換えることもできる。
【0034】
上記のような組成のイソフラボンを有する大豆胚軸発酵物の製造には、エクオール産生菌としてラクトコッカス20-92(FERM BP-10036号)が特に好適に使用される。
【0035】
更に、大豆胚軸発酵物には、大豆胚軸に由来するサポニンをも有しているので、サポニンの作用に基づく有用生理活性(例えば、抗ウイルス活性等)までも獲得することができる。大豆胚軸発酵物中のサポニンは、大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たり、サポニンが10〜80mg、好ましくは20〜50mg、更に好ましくは30〜40mg含まれている。
【0036】
また、前述するように、オルニチン・エクオール産生菌を使用し、且つアルギニンを大豆胚軸に添加して発酵させることにより得られる大豆胚軸発酵物には、オルニチンが含有されている。このような大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には、大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5〜2mg、好ましくは8〜15mg、更に好ましくは9〜12mg程度が例示される。
【0037】
上記の条件で発酵処理されて得られる大豆胚軸発酵物は、発酵後の状態のまま、食品、医薬品、化粧料等の素材として使用してもよく、また、必要に応じて乾燥処理に供して乾燥固形物状にして前記素材として使用することもできる。大豆胚軸発酵物の保存安定性を向上させるためには、加熱乾燥処理により固形状にしておくことが望ましい。また、加熱乾燥処理された大豆胚軸発酵物は、必要に応じて粉末化処理に供して、粉末状にしてもよい。
【0038】
本発明の大豆胚軸発酵物は、前述するように、エクオールを初めとして、種々の有用生理活性物質が含まれているので、様々な生理活性や薬理活性を発現することができる。例えば、本発明の大豆胚軸発酵物は、更年期障害、骨粗鬆症、前立腺肥大、メタボリックシンドローム等の疾患や症状の予防乃至改善、血中コレステロール値の低減、美白、にきびの改善、整腸、肥満改善、利尿等に有用である。中でも、本発明の大豆胚軸発酵物は、特に、中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴う症状(例えば、骨粗鬆症、更年期障害等)の予防乃至改善に有用である。また、アルギニンを含む発酵原料に対して、オルニチン・エクオール産生菌を使用して発酵させて得られた大豆胚軸発酵物には、オルニチンも生成・蓄積しているので、当該大豆胚軸発酵物によれば、肝機能改善、成長ホルモン分泌促進、免疫賦活、筋肉量増大、基礎代謝能の改善等のオルニチンに基づく有用生理作用をも得ることができる。
【0039】
本発明の大豆胚軸発酵物を食品素材として使用する場合には、該大豆胚軸発酵物は、例えば、飲料、顆粒、細粒、カプセル、錠剤、粉末、乳製品、ガム、グミ、プディング、バー、その他固形食品等の形態に調製される。このような大豆胚軸発酵物を含有する食品は、エクオールの有用生理活性に加えて、その他のイソフラボンやサポニン等の生理活性をも備えているので、有用性が高く健保効果に優れている。また、アルギニンを含む発酵原料に対して、オルニチン・エクオール産生菌を使用して発酵させて得られた大豆胚軸発酵物を使用する場合には、食品中にオルニチンをも含有させることができるので、食品としての有用性を一層高めることができる。
【0040】
本発明の大豆胚軸発酵物を含有する食品は、一般の食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等として使用できる。特に、本発明の大豆胚軸発酵物を含有する食品は、栄養補助食品として栄養補助食品として有用である。
【0041】
本発明の大豆胚軸発酵物を含有する食品において、該食品中の該大豆胚軸発酵物の配合割合については、該食品の種類、エクオールの含量、摂取対象者の年齢や性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記食品100gに対して、大豆胚軸発酵物(乾燥重量換算)が総量で0.1〜90g、好ましくは0.1〜10g、更に好ましくは0.5〜2gとなる割合を挙げることができる。
【0042】
大豆胚軸発酵物を含有する食品の一日当たりの摂取量については、大豆胚軸発酵物中のエクオール含量、摂取者の年齢や体重、摂取回数等によって異なるが、例えば、成人1日当たりの摂取量として大豆胚軸発酵物が0.1〜10gに相当する量を挙げることができる。
【0043】
また、本発明の大豆胚軸発酵物を医薬品素材として使用する場合には、該大豆胚軸発酵物は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤等の形態の医薬製剤に調製される。本発明の大豆胚軸発酵物を含有する医薬製剤は、更年期障害(更年期不定愁訴、骨粗鬆症、高脂血症)、骨粗鬆症、前立腺肥大、メタボリックシンドローム等の疾患や症状の予防乃至改善剤、血中コレステロール値の低減剤、整腸剤、肥満改善剤、利尿剤等として有用である。特に、大豆胚軸発酵物を含有する医薬製剤は、中高年女性における不定愁訴乃至閉経に伴う症状(例えば、骨粗鬆症、更年期障害等)の予防又は治療に好適に使用される。
【0044】
大豆胚軸発酵物を含有する医薬製剤の投与量については、大豆胚軸発酵物中のエクオール含量、投与対象者の年齢や体重、症状、投与回数等によって異なり一律に規定することはできないが、例えば、成人1日当たりの投与量として大豆胚軸発酵物が乾燥重量換算で0.5〜6gに相当する量を挙げることができる。
【0045】
更に、本発明の大豆胚軸発酵物を化粧料素材として使用する場合には、該大豆胚軸発酵物は、ペースト状、ムース状、ジェル状、液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、シート状等の各種所望の形態の化粧料に調製される。このような化粧料は、乳液、クリーム、ローション、オイル及びパック等の基礎化粧料;洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の洗浄料;清拭剤;清浄剤等の各種化粧料として有用である。本発明の大豆胚軸発酵物を含有する化粧料は、美白用化粧料、或いはニキビ改善用化粧料として使用される。
【0046】
本発明の大豆胚軸発酵物を含有する化粧料において、該化粧料中の該大豆胚軸発酵物の配合割合については、該化粧料の種類、エクオールの含量等に応じて、適宜設定することができる。一例として、上記化粧料100gに対して、大豆胚軸発酵物(乾燥重量換算)が総量で0.1〜10g、好ましくは0.5〜5となる割合を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下に、試験例、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0048】
実施例1−3
表1に示す組成となるように、粉末状大豆胚軸、アルギニン、及び水を混合して、大豆胚軸溶液(原料)を調製した。この大豆胚軸溶液5mlに、ラクトコッカス20-92株(FERM
BP-10036号)を植菌し、嫌気条件下で、37℃で96時間静置培養を行った。培養後、得ら
れた発酵液(培養液)を100℃、1分間の条件で加熱殺菌した後、80℃の条件での乾燥処理し、更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより、粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。
【0049】
図1に、培養96時間後の培養液における培養液中のエクオール濃度を示す。併せて、表1に、培養96時間後の培養液における生菌数及びpH、粉末状の大豆胚軸発酵物の取得量、及び粉末状の大豆胚軸発酵物中のエクオール濃度を示す。この結果から、エクオール産生菌を用いて粉末状大豆胚軸を発酵させることにより、高効率でエクオールが生成されることが確認された。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例4
粉末状大豆胚軸10重量%及びL-アルギニン0.1重量%を含む大豆胚軸溶液5mlに、ラクトコッカス20-92株(FERM BP-10036号)を植菌し、嫌気条件下で、37℃で96時間静置培養することにより発酵処理を行った。培養後、得られた発酵液(培養液)を100℃、1分間の条件で加熱殺菌した後、80℃の条件での乾燥処理し、更にホモゲナイダーにより粉末化処理することにより、粉末状の大豆胚軸発酵物を得た。
【0052】
原料として使用した粉末状大豆胚軸(表2及び3中、発酵前と表記する)及び得られた粉末状大豆胚軸発酵物(表2及び3中、発酵後と表記する)の含有成分の分析を行った。大豆イソフラボン類の分析結果を表2に、栄養成分の分析結果を表3に示す。この結果からも、ラクトコッカス20-92株によって大豆胚軸を発酵させることにより、高含量のエク
オールを含む大豆胚軸発酵物が製造されることが確認された。また、ラフィノースやスタ
キオース等のオリゴ糖は、発酵前後でその含量が同程度であり、発酵による影響を殆ど受けないことが明らかとなった。一方、アルギニンについては、発酵処理によりオルニチンに変換されることが確認された。従って、大豆胚軸にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより、エクオールのみならず、オルニチンをも生成させ
得ることが明らかとなった。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
実施例5−11
上記実施例3とは異なる7種のロットの粉末状大豆胚軸を使用すること以外は、上記実施例3と同様の条件で、粉末状の大豆胚軸発酵物(実施例5−11)を製造した。得られた大豆胚軸発酵物に含まれるイソフラボンの組成を分析した。結果を表4に示す。この結果からも、実施例5−11の大豆胚軸発酵物は、エクオール含量が高く、従来技術では実現できていない組成のイソフラボンを含んでいることが確認された。
【0056】
【表4】

【0057】
実施例12
上記実施例3とは異なるロットの粉末状大豆胚軸を使用すること以外は、上記実施例3と同様の条件で、粉末状の大豆胚軸発酵物を製造した。得られた大豆胚軸発酵物には1g
当たり、6.5mgのエクオール、0.6mgのダイゼイン類、0.6mgのゲニステイン類、3.2mgのグリシテイン類が含有されていた。また、当該大豆胚軸発酵物には、イソフラボン含有量の総量当たり、アグリコンが90重量%以上を占めていた。
【0058】
斯くして得られた大豆胚軸発酵物を用いて、下記組成の錠剤(1錠当たりの重量2.51g
、1錠当たりエクオール10.9mg含有)を製した。
【0059】
大豆胚軸発酵物 66.7重量%
エリスリトール 33.2重量%
合計 100.0重量%
【0060】
実施例13
上記実施例12で使用した大豆胚軸発酵物を用いて、下記組成の顆粒を製した。
【0061】
大豆胚軸発酵物 66.7重量%
エリスリトール 33.2重量%
合計 100.0重量%
【0062】
実施例14
上記実施例1の大豆胚軸発酵物を用いて、以下の組成の化粧料を調製した。
【0063】
大豆胚軸発酵物 10g
パラフィン油 60ml
オリーブ油 40ml
グリセリンモノステアリン酸エステル 50ml
ラノリン 10ml
プロピレングリコール 30ml
水 適量
合計 1000g
【0064】
実施例15
上記実施例1の大豆胚軸発酵物を用いて、以下の組成の化粧料を調製した。
大豆胚軸発酵物 10g
パラフィン油 30ml
オリーブ油 30ml
グリセリンモノステアリン酸エステル 60ml
ラノリン 20ml
プロピレングリコール 40ml
水 適量
合計 1000g
【0065】
試験例1
大豆胚軸には、Gym4、Gm30K、Gm28K、7Sグロブリンmix(β−コングリシン)、オレオ
シン、トリプシンインヒビター等のアレルゲンが含まれていることが分かっている。そこで、上記実施例で製造した大豆胚軸発酵物中にアレルゲンの存否を以下の試験により判定した。
【0066】
先ず、実施例1で得られた大豆胚軸発酵物の適当量を、抽出バッファー(Tris HCl pH 7.5、1M EDTA含有、タンパク質分解酵素阻害剤の適量含有)に添加し、十分に撹拌して、水溶性成分を抽出した。次いで、濾過により、固形分を除去し、抽出液を得た。斯くして得られた抽出液に含まれる総タンパク質を、バイオラッド社製のプロテインアッセイシステムを用いて検出した。更に、得られた抽出液に含まれる主要アレルゲン(Gym4、Gm30K
、Gm28K、7Sグロブリンmix、オレオシン、トリプシンインヒビター)についても、ウエスタンブロッティング法により検出した。また、比較として、大豆胚軸発酵物の代わりに、大豆の子葉の粉末、及び大豆胚軸の粉末を用いて、同様の方法により総タンパク質及びアレルゲンの検出を行った。
【0067】
結果を図2〜4に示す。図2には、総タンパク質の検出結果を;図3には、Gym4、Gm30K、及びGm28Kの検出結果を;図4には、7Sグロブリンmix、オレオシン、及びトリプシン
インヒビターの検出結果を、それぞれ示す。
【0068】
この結果から、大豆胚軸発酵物には、大豆又は大豆胚軸に含まれる主要アレルゲンが低
減していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆発酵物に含まれる総イソフラボンの合計量に対し、乾燥重量換算で、
(a)30〜70重量%のエクオール
(b)1〜20重量%のダイジン、マロニルダイジン、アセチルダイジン、ダイゼイン、及びジヒドロダイゼインから成る群より選択される少なくとも1種のダイゼイン類
(c)0.1〜15重量%のゲニスチン、マロニルゲニスチン、アセチルゲニスチン、ゲニステイン、及びジヒドロゲニステインから成る群より選択される少なくとも1種のゲニステイン類、並びに
(d)10〜50重量%のグリシチン、マロニルグリシチン、アセチルグリシチン、グリシテイン、及びジヒドログリシテインから成る群より選択される少なくとも1種のグリシテイン類
を含む、大豆発酵物。
【請求項2】
腸内細菌によって発酵されている、請求項1に記載の大豆発酵物。
【請求項3】
腸内細菌が乳酸菌である、請求項2に記載の大豆発酵物。
【請求項4】
大豆が大豆胚軸である、請求項1〜3のいずれかに記載の大豆発酵物。
【請求項5】
大豆中のアレルゲンの含量が低減されている、請求項1〜4のいずれかに記載の大豆発酵物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の大豆発酵物を利用した素材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の大豆発酵物を含む食品、医薬、又は化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−228252(P2012−228252A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−149675(P2012−149675)
【出願日】平成24年7月3日(2012.7.3)
【分割の表示】特願2012−82486(P2012−82486)の分割
【原出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】