説明

エストロゲン様作用剤および皮膚外用剤

【課題】従来のものに比べ高活性なエストロゲン様作用剤の提供。肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌のなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れる皮膚外用剤の提供。
【解決手段】エストロゲン様作用剤は、ツツジ科スノキ属のコケモモ(Vaccinium vitis-idaea )の果実の抽出物を有効成分として含有する。皮膚外用剤は、上記コケモモの果実の抽出物を乾燥残留物として0.0001〜5質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の植物抽出物を含有する新規なエストロゲン様作用剤およびその抽出物を含有する皮膚外用剤に関する。さらに詳しくは、ツツジ科スノキ属のコケモモ(Vaccinium vitis-idaea )の果実抽出物を有効成分として含有する高活性なエストロゲン様作用剤およびその抽出物を含有する皮膚外用剤に関する。本発明の皮膚外用剤は、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れる。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンは、卵胞ホルモンまたは女性ホルモンとも呼ばれ、発情ホルモンに特有な生物学的作用をもつ天然物質あるいは合成物質の総称を表す用語として用いられている。一般には、エストロン、エストラジオール、エストリオールが知られている。特にエストラジオールは、哺乳類に普通にみられる卵胞ホルモンのうち最も有効なものであり、卵巣、胎盤、睾丸、副腎皮質などで生成される。
【0003】
エストロゲンは、ステロイドホルモンの一種であり、その受容体を介して生理作用を示す。エストロゲンの受容体は、生殖器や乳腺のみならず、全身の細胞に存在し、その働きは多岐に渡っている。エストロゲンの作用については、一般的には、乳腺細胞の増殖促進、卵巣排卵制御、脂質代謝制御、インスリン作用、血液凝固作用、中枢神経(意識)女性化、LDL(low density lipoprotein )の減少とVLDL(very low density lipoprotein)・HDL(high density lipoprotein)の増加による動脈硬化抑制などが知られている。
【0004】
皮膚においては、エストラジオールの投与によって皮膚中のヒアルロン酸含量が増加するにつれて皮膚水分量も増加するという報告(非特許文献1)、エストラジオールの欠乏により真皮中のゼラチナーゼが増加し皮膚の弾力性が低下するという報告(非特許文献2)、エストラジオール軟膏の大規模臨床試験から閉経後の女性の紫外線老化皮膚に対してエストラジオールが有効であったという報告(非特許文献3)がなされている。
【0005】
しかしながら、エストロゲン投与によるホルモン療法には、副作用があることから投与の調整が非常に難しいという問題、また医師の管理化で行わなければならないという問題があった。
【0006】
そこで近年、特許文献1,2に開示されているように、エストロゲン様作用を有する植物の抽出物を用いて女性ホルモンバランスを調整することにより、皮膚などの老化防止を試みる提案がなされている。しかしながら、これら特許文献に記載の抽出物においても安定して十分な効果を得られるものが無いのが現状であり、また、老化防止と肌質改善を実感するのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−191452号公報
【特許文献2】特開2008−037819号公報
【特許文献3】特開2004−115466号公報
【特許文献4】特開2003−073287号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Acta Endocrinol., 85, 429-435, 1977
【非特許文献2】日本皮膚科学会雑誌, 111, 532, 2001
【非特許文献3】Photochem. Photobiol., 73, 525-531, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来のものに比べ高活性なエストロゲン様作用剤を提供すること、また、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れる皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、エストロゲン様作用について、様々な植物抽出物を用いて鋭意研究を重ねてきた。その結果、コケモモ果実抽出物が高活性のエストロゲン様作用を有することを見出した。また、コケモモ果実抽出物を特定量含有させることによって、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ツツジ科スノキ属のコケモモ(Vaccinium vitis-idaea )の果実抽出物を有効成分として含有するエストロゲン様作用剤であり、またコケモモ(Vaccinium vitis-idaea )果実抽出物を乾燥残留物として0.0001〜5質量%含有する皮膚外用剤である。
【0012】
なお、コケモモ果実抽出物について、既に、抗菌・抗炎症作用(特許文献3)、ヒアルロニダーゼ活性阻害作用(特許文献4)を有するとの報告がなされているが、コケモモ果実抽出物が高活性なエストロゲン様作用を有すること、また、コケモモ果実抽出物を皮膚外用剤に特定量含有させることによって、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れることは、未だ報告されていない。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエストロゲン様作用剤は、従来のエストロゲン様作用剤に比べ高活性なエストロゲン様作用を有する。また、本発明の皮膚外用剤は、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明のエストロゲン様作用剤および皮膚外用剤は、いずれもコケモモ果実抽出物を含有する。まず、コケモモ果実抽出物について説明する。
【0015】
〔コケモモ果実抽出物〕
本発明に用いられるコケモモは、ツツジ科スノキ属に属する植物であり、学名はVaccinium vitis-idaea である。別名リンゴンベリー、マウンテンクランベリー、カウベリーとも呼ばれる。常緑小低木であり、北半球の寒帯に広く分布し、日本でも北海道から九州までの高山帯に生える。高さは5〜20cmくらいで、地中の根茎を伸ばすことで株が拡大する。花期は初夏で、小鐘形の淡紅色を帯びた白花のあとに、紅色の径4〜7mmくらいの房状球形果実をつける。
【0016】
本発明に用いられるコケモモ果実抽出物は、コケモモの果実を、そのまま、もしくは圧搾や破砕した後、各種溶媒にて抽出したものであり、抽出液そのもの、もしくはその濃縮物をいう。抽出に用いられる溶媒としては、炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、ハロゲン化炭化水素、水溶性のアルコール類及び水などがあげられる。中でも好ましくは、水、低級アルコール、多価アルコールの1種または2種以上を用いて得られる抽出物であり、更に好ましくは水、エタノール、1,3-ブチレングリコールの1種または2種以上を用いて得られる抽出物である。
【0017】
抽出方法は、コケモモの果実を、そのまま、もしくは圧搾や破砕したものに、抽出溶媒を加えて1時間以上浸漬し、ろ過することで抽出液を得ることができる。抽出は、常圧または加圧下で、室温または加熱、冷却下で行うことができる。得られた抽出液は、そのまま用いてもよく、あるいは溶媒留去により濃縮したり、カラムクロマトグラフィーや溶媒分画等の処理により精製したりしてもよい。
【0018】
〔エストロゲン様作用剤〕
本発明のエストロゲン様作用剤は、上記コケモモ果実抽出物を有効成分として含有するものであり、医薬品、医薬部外品、化粧品類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、パック、オイル、軟膏、スプレー、貼付剤など)として利用することができる。本発明のエストロゲン作用剤を医薬として適用する場合は、各種疾患又は症状を治療又は改善する目的、例えば、エストラジオールの欠乏による障害、乳汁分泌の阻止や停止、排卵抑制、乳癌や前立腺癌の回復を目的として用いることができる。本発明のエストロゲン様作用剤は、コケモモ果実抽出物に加え必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品、医薬部外品、化粧品類に添加され得る添加剤を含有していても良い。
【0019】
〔皮膚外用剤〕
本発明の皮膚外用剤は、上記コケモモ果実抽出物を乾燥残留物として0.0001〜5質量%含有するものである。本発明における乾燥残留物の質量は、実際に溶媒を除去して乾燥させた残留物の質量のみならず、残留物に含まれる溶媒量を算出し、その溶媒量を減じた残留物の質量も概念的に包含される。例えば、抽出溶媒が揮発性である場合は、抽出溶媒を105℃〜120℃で完全に留去させ、残存した固形分の質量であり、抽出溶媒が不揮発性である場合は、高速液体クロマトグラフィー等で溶媒量を定量し、それ以外の成分量が乾燥残留物の質量である。
【0020】
コケモモ果実抽出物の配合量は、乾燥残留物として0.0001〜5質量%であり、好ましくは0.0005〜2.5質量%であり、更に好ましくは0.001〜1質量%である。配合量が0.0001%未満では肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果を発揮させることができず、5%質量を超えると製剤の安定性に問題が生じやすくなり好ましくない。
【0021】
本発明の皮膚外用剤は、様々な剤形にて調製することができ、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、パック、オイル、軟膏、スプレー、貼付剤などとして利用することができる。本発明においては、化粧料や医薬品等の皮膚外用剤に常用されている添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜配合することも可能である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量%を表す。
【0023】
〔コケモモ果実抽出物の調製〕
コケモモ果実10kgを圧搾してから、10kgのエタノールと10kgの水を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することによりコケモモ果実の抽出液を得た。その抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、コケモモ果実抽出物を50g得た。
【0024】
〔実施例1、比較例1:エストロゲン様作用の評価試験〕
上記のコケモモ果実抽出物、及びエストロゲン様作用が知られているゲニステイン(東京化成工業社製)について、下記の方法によりエストロゲン様作用の評価試験を行った。そして、エストロゲン様作用活性率110%以上をエストロゲン様作用があると評価して表1中に「○」を記載し、エストロゲン様作用活性率110%未満をエストロゲン様作用が弱いと評価して表1中に「×」を記載した。
【0025】
エストロゲン様作用活性を、エストロゲン依存性細胞の増殖に対する影響を調べる方法(Invitrocell. Dev. Biol. 28A, 595-602, 1992)で、測定した。すなわち、ヒト乳がん細胞由来MCF−7細胞(理研細胞バンク、JCRB0134)を5%FBS(チャコール・デキストラン処理)、1mMピルビン酸ナトリウムを含有するEagle's MEM (フェノールレッド除去)を用いて、2.5×104個/mLの細胞密度で浮遊させた細胞懸濁培地0.2mLを96穴培養プレートに播種し、24時間培養後、表1に記載の各濃度に培地で調整した試料20μLを96穴培養プレートに添加した。6日間培養後、MTT還元法にて生細胞数の測定を行った。エストロゲン様作用活性率は、試料無添加で培養した生細胞数に対する試料添加で培養した生細胞数の割合(相対値%)で表わした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、コケモモ果実抽出物(実施例1)は、従来から女性ホルモン様作用が知られているゲニステイン(比較例1)と比較しても、非常に低濃度から高いエストロゲン様作用活性が確認された。また、ゲニステインは、2.70μg/mL以上の濃度で、生細胞数が試料無添加のものよりも減少していることから細胞毒性が認められるのに対して、コケモモ果実抽出物は6.25μg/mLの濃度においても細胞毒性が認められていないことから、コケモモ果実抽出物は安全性の点でも優れていることが分かる。
【0028】
〔実施例2、3、比較例2、3:官能評価〕
上記のコケモモ果実抽出物を使用し、表2に示す化粧水(皮膚外用剤)を調製し、下記6項目について下記評価基準により評価を行った。結果を表2に示す。
【0029】
(評価項目及び評価基準)
(1)肌へのなじみ性
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、洗顔した後に皮膚外用剤を使用した時の感触について下記のように判定し、20名の平均値を求めた。平均値1.5点以上を使用時の感触の良好な皮膚外用剤であると評価した。
2点:使用時に肌へのなじみが良いと感じた場合。
1点:使用時に肌へのなじみがやや悪いと感じた場合。
0点:使用時に肌へのなじみが明らかに悪いと感じた場合。
【0030】
(2)使用後のべたつき
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、洗顔した後に皮膚外用剤を使用して10分後の肌の感触について下記のように判定し、20名の平均値を求めた。平均値1.5点以上を使用後のべたつきがない皮膚外用剤であると評価した。
2点:べたつきが無いと感じた場合。
1点:肌がややべたつくと感じた場合。
0点:肌が非常にべたつくと感じた場合。
【0031】
(3)肌荒れ改善効果
肌荒れを生じている10名の女性(32才〜50才)をパネラーとし、皮膚外用剤を一日2回ずつ連日2週間に渡って使用した時の肌の状態について官能検査し、下記のように判定した。10名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を肌荒れ改善効果のある皮膚外用剤であると評価した。
2点:肌荒れが明らかに治ってきたと感じた場合。
1点:肌荒れがやや治ってきたと感じた場合。
0点:肌荒れ改善効果が全く見られないと感じた場合。
【0032】
(4)シワ防止・改善効果
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、皮膚外用剤を一日2回ずつ連日4週間に渡って使用した時の肌の状態について官能検査し、下記のように判定した。20名の平均値を求めて、平均値1.5点以上をシワ防止・改善効果のある皮膚外用剤であると評価した。
2点:シワが明らかに少なくなったと感じた場合。
1点:シワがやや少なくなってきたと感じた場合。
0点:シワが減少しない、もしくは増えたと感じた場合。
【0033】
(5)美肌効果
20名の女性(28才〜61才)をパネラーとし、皮膚外用剤を一日2回ずつ連日2週間に渡って使用した時の肌の状態について官能検査し、下記のように判定した。20名の平均値を求めて、平均値1.5点以上を、肌にハリと透明感を与える効果のある皮膚外用剤であると評価した。
2点:肌に明らかにハリがでて、肌が若々しくなったと感じた場合。
1点:肌にややハリがでて、肌がやや若々しくなったと感じた場合。
0点:肌のハリに変化がなく、美肌効果が弱いと感じた場合。
【0034】
(6)経時安定性
化粧水を透明ガラス容器に密封して0℃、25℃、40℃でそれぞれ3ヶ月間保存し、その外観を観察して、下に示す3段階で評価した。
○:安定性良好(いずれの温度においても外観の変化がない。)
△:安定性やや不良(いずれかの温度において若干の澱(おり)、沈殿を生じるまたは若干変色を生じる。)
×:安定性不良(いずれかの温度において澱(おり)、沈殿を生じるまたは分離する。もしくは変色が著しい。)
【0035】
【表2】

【0036】
実施例2,3と比較例2,3の対比より、コケモモ果実抽出物を用いた本発明に係る化粧水は、比較例2,3のものよりも肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れていることが分かる。また、実施例2,3の化粧水は、コケモモ果実抽出物を含有しない比較例2と、肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感、経時安定性が同等であることから、コケモモ果実抽出物がこれらの性能を損なわないことも分かる。すなわち、本発明に係る化粧水が、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果に優れ、かつ肌へのなじみ性、使用後のべたつきが無い等の使用感にも優れるとともに、経時安定性にも優れることが分かる。
【0037】
一方、比較例2,3では、十分な性能が得られていなかった。つまり、本発明に係るコケモモ果実抽出物に代えて、別の植物エキス(茶エキス)を含有する比較例3の化粧水では、肌荒れ改善効果、シワ防止・改善効果、美肌効果が弱くなっており、植物エキスを含有しない比較例2の化粧水と比較して、これらの効果は僅かであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツツジ科スノキ属のコケモモ(Vaccinium vitis-idaea )の果実の抽出物を有効成分として含有するエストロゲン様作用剤。
【請求項2】
請求項1記載のコケモモの果実の抽出物を乾燥残留物として0.0001〜5質量%含有する皮膚外用剤。

【公開番号】特開2012−92069(P2012−92069A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241918(P2010−241918)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】