説明

エネルギー吸収体

【課題】本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、軽量でも比較的大きなエネルギーを吸収でき、しかもエネルギー吸収に要するストロークも少なくでき車内の居住空間を大きくしうるエネルギー吸収体を提供することを目的とする。
【解決手段】リム部と該リム部の両端を結ぶ弦部とを有し、リム部末端からリム部中央の間で、リム部が弦部側に凸状に湾曲および/又は屈曲し、該リム部に沿った全長Lrと該弦部の長さLsが、Lr>Lsである弓状のエネルギー吸収体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ衝撃負荷に対するエネルギー吸収効率の高いエネルギー吸収体に関し、特に自動車、航空機、電車など移動体の衝突安全性を高めるのに好適なエネルギー吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の移動体の燃費向上や走行性能の向上などの観点から、車体の軽量化に対するニーズが高まっている。特に、自動車等の車両構造材としてこれまで鋼板が使用されていた部品を繊維強化プラスチック(FRP)に置き換えたり、車体全体をコンパクト化して軽量化を図ったりする試みが盛んに検討されている。一方で、自動車等の移動体においては、衝突等から車室内の乗員の保護をより高いレベルで確保するために、乗員の保護対策等に対してますます高い基準が定められる傾向にあり、軽量化と衝突安全性向上の両立がますます重要となってきている。
【0003】
このような背景から、繊維強化複合材料を使用した衝撃エネルギー吸収体が多数開示されている。
例えば、特許文献1、特許文献2などでは、繊維強化複合材料からなる中空筒状部材の軸圧壊による衝撃エネルギー吸収体が開示されている。これらは、自動車等のバンパーの支持部材などを対象としたものであり、中空筒状部材が蛇腹状に軸圧壊することにより衝撃荷重を緩和することができるため、軽量で比較的大きなエネルギーを吸収できるというメリットがある。
【0004】
しかしながら、このような方式の場合は、自動車等の前後方向に衝撃を吸収するためのストロークを確保する必要があり、乗員の居住空間が狭くなり、自動車の居住性が損なわれるという欠点がある。
【0005】
これに対して、特許文献3では、前方または後方に張り出した形状の衝撃力変向部材に入力された荷重により車体骨格部材を拡開させ、エネルギー吸収部材を車幅方向に変形させることで衝撃エネルギーを吸収させる構造が開示されている。衝撃方向に対し、エネルギー吸収のための変形方向がほぼ直交しているため、衝撃を吸収するためのストロークを小さくできる。
【0006】
しかしながら、この方法ではエネルギー吸収部材の構造が複雑であるだけではなく、荷重が入力した際に衝撃力変向部材が撓みやすく、エネルギー吸収部材を効果的に変形できない。これを改善するために衝撃力変向部材の板厚を増加することもできるが、結果的に部材重量も増加し、軽量化とは相反する形となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−123322号公報
【特許文献2】特開2000−240706号公報
【特許文献3】特開平11−334648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、軽量でも比較的大きなエネルギーを吸収でき、しかもエネルギー吸収に要するストロークも少なくできるので車内の居住空間を大きくしうるエネルギー吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、エネルギー吸収体の構造として、次の構成が有効である事を見出した。本発明の構成を以下に示す。
【0010】
1.リム部と該リム部の両端を結ぶ弦部とを有する弓状のエネルギー吸収体であって、リム部末端からリム部中央の間で、リム部が弦部側に凸状に湾曲および/又は屈曲し、該リム部に沿った全長Lrと該弦部の長さLsが、Lr>Lsである弓状のエネルギー吸収体。
2.該弦部は構成要素として有機繊維を含み、有機繊維の繊維軸が該リム部の両端を直線的に結ぶ軸に平行であるものを含む前記1に記載の弓状のエネルギー吸収体。
3.該リム部は熱可塑性樹脂をマトリクスとした炭素繊維複合材料を含む前記1〜2いずれかに記載の弓状のエネルギー吸収体。
4.該弦部材料は、該リム部に埋設されている前記1〜3いずれかに記載の弓状のエネルギー吸収体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リム部側から荷重が負荷することによって、リム部の撓み変形と、弦部が引っ張られることによる弦部の伸張変形でエネルギーを吸収する機構である。
エネルギー吸収体が弓状であると、リム部側から加わった負荷は主に弦部の引張り伸張変形でエネルギーを吸収する機構であるため、リム部の変形方向を衝撃の負荷方向からこれと垂直方向に変換できる。このため、部材が軽量でも比較的小さなストロークでエネルギー吸収が可能となり、自動車のコンパクト化も可能となる。
また、弦部材料として繊維材料を使用することで、繊維を引張モードで使用することができるため、リム部と組み合わせると、より効率的なエネルギー吸収が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の弓状のエネルギー吸収体の例
【図2】本発明の弓状のエネルギー吸収体の側面図例
【図3】リム部が弦部側に凸でない例
【図4】リム部の湾曲もしくは屈曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLs
【図5】リム部のA−A’断面形状
【図6】リム部端部のB−B’断面
【図7】弓状のエネルギー吸収体の製造方法
【図8】比較例2で用いた単純円弧形状のマンドレル
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明におけるエネルギー吸収体について図を引用しつつ順次説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
本発明におけるエネルギー吸収体は湾曲もしくは屈曲して形成した板状のリム部と該リム部の両端を結ぶように配された帯状の弦部を構造要素として少なくとも有しており、図1bのようにリム部に−Z方向へ荷重が負荷することを想定したエネルギー吸収体である。尚、以下では特に記載が無い限りは、図1aのX方向を側面方向とする。
【0014】
本発明におけるリム部とは、エネルギー吸収体の弓部を指す。また、リム部の屈曲とは、リム部の側面形状として、図2aのようにくの字状に直線的に曲がっている状態を指し、リム部の湾曲とは、図2bのように曲線的に曲がっている状態を指す。また、本発明では、該リム部末端からリム部中央の間で、リム部の側面形状が弦部側に凸面であることが必要である。
すなわち、リム部に沿った長さの全長Lrとすると、屈曲又は湾曲しているのは、リム部の端から1/2Lrの間であり、好ましくはリム部の端から1/3Lrの間、更に好ましくは好ましくはリム部の端から1/4Lrの間が好ましい。
【0015】
本発明の例としては、図1乃至図2に示される。図1の例では、弦部とリム部の接合点(図1の3)から弦部側に凸となるように屈曲が始まる部分を有しており、弓状構造体全体を仮に台形と見たときに、上底となるリム部と、下底となる弦部を含んでいる。
このような構造であると、リム部に負荷した荷重が、効率よく弦部の引張に変更できる。反対に図3のように、該リム部末端からリム部中央の間で、弦部側に凹面であると、荷重が負荷した際に、図3のようにリム部自体が撓みやすくなり、弦部の引張効率が低下するため好ましくない。屈曲もしくは湾曲は、図2dのように両者が含まれていても良い。
【0016】
該リム部末端からリム部中央の間で、リム部の側面形状が弦部側に凸面である事により効率的にエネルギーを吸収でき、リム部が適度に撓みながら弦部に引張負荷を与えることができる。このような変形状態を得るためにリム部の形状、板厚、材質などは後述する弦部の物性との兼ね合いで適宜選択可能であるが、それぞれについて好ましいものを以下に例示する。
【0017】
リム部の側面形状としては、上述のように屈曲、湾曲、又は両者を組み合わせた形状などが上げられるが、図4のように側面から見たときのリム部に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、Lr>Lsであることが必要である。
Lr>Lsの場合には、弦部が過度に弛んでおらず、リム部に過重が負荷した際に、弦部に効率的に張力が伝わるため、弦部の慎重変形によるエネルギー吸収が効率的に行われる。
【0018】
リム部の板厚については特に限定はしないが、0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。板厚が0.5mm以上である場合は、リム部の剛性が十分となり、リム部に荷重が負荷してもリム部の撓み変形が主とならず、効果的に弦部を引っ張ることができる。また、板厚が10mm以下である場合は、リム部が軽くなり、自動車等をより軽量化する事が出来るので好ましい。また板厚は一様でなく、例えば中央部分の厚みが端部に比べて厚いものが好ましい。
【0019】
リム部の材質としては木材、金属、樹脂、又はこれらの組み合わせなどが例示できる。高弾性材料は弦部を効率的に引っ張れるため、リム部は下記式(1)で定義される比弾性(E)が2.5以上の強化繊維を含み、熱可塑性樹脂をマトリクスとした繊維強化複合材料を含む弓状のエネルギー吸収体で有る事が好ましい。
E=M/D/9.8 (1)
【0020】
ここで、Eは比弾性、Mは繊維の弾性率(MPa)、Dは繊維の密度(g/cm3)である。このような強化繊維の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維(ステンレス繊維)、セラミック繊維などの無機繊維、およびアラミド繊維などが挙げられ、軽量性と弾性率の面から炭素繊維が好ましい。また、マトリクス樹脂としては、繊維強化複合材料の成形性、生産性、加工性の面から、熱可塑性樹脂がさらに好ましい。このときの炭素繊維と熱可塑性樹脂の割合は特に規定は無いが、炭素繊維100重量部に対し熱可塑性樹脂が50〜1000重量部含まれているものであることが好ましい。より好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜400重量部、更に好ましくは、炭素繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂50〜100重量部である。
【0021】
熱可塑性炭素繊維複合材料における炭素繊維の形態は、特に限定されず、連続繊維であっても、不連続繊維であっても、両者を複合したものでも良い。例えば、短繊維、又は長繊維の不連続繊維が、リム部にランダムに分散して含んでもよく、この場合の平均炭素繊維長は、10以上100mm以下であり、好ましくは15mm以上100mm以下であり、より好ましくは15mm以上80mm以下であり、更には20mm以上60mm以下が好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが挙げられる。この中でも、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂はより好ましく、特に好ましいのは、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂が挙げられる。
【0023】
リム部の断面(図5 X軸方向 A−A’)の形状としては、特に限定はしないが、軽量性と剛性を付与する目的で図5のように、リブや波形状などを形成しても良いし、ハット材と組み合わせて中空閉断面を形成しても良い。また、同様の目的で、リム部の表層(スキン層)を高剛性材料とし、内層(コア層)を低比重材料として両層が一体化したサンドイッチ構造としても良い。
【0024】
本発明における弦部とは、リム部の両末端に接合点を有し、両末端を結ぶように配された部分を指し、弦部がこのように配されることによって全体として奥行きを持った弓構造を形成する。弦部の幅は、リブ部の幅に関わらず自由に決定できるが、リブの幅以下が好ましく、リブの幅と同じ幅がより好ましい。
本発明で言うリム部の両末端とは、リム部の対向するエッジ部分を指し(図1の番号3)、この両末端を結ぶように弦部が配されている。
【0025】
また、弦部材料は、特に限定は無く、ガラス繊維、炭素繊維、又は金属繊維等の無機繊維や、後述する有機繊維を含む事ができるが、好ましい態様としては、軽量性及び、破断強度や引張伸度が大きく、引張による吸収エネルギーが比較的大きくなる観点から、有機繊維が含まれることが好ましい。有機繊維の含有量は、弦部の重量に対して25〜100%であれば良く、好ましくは50〜100%である。
【0026】
有機繊維は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルスルホン繊維、アラミド繊維、ポリベンゾオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ボリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル繊維、ポリアミド6、ポリアミド66などのポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維などが挙げられるが、引張荷重が加わった際に塑性変形を示す性質を有するポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリプロピレン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維がより好ましい。塑性変形を示す繊維は、荷重増大の割合よりも変位増大の割合が大きくなるため、衝撃荷重を抑制しつつ大きなエネルギー吸収が得られる。
【0027】
弦部の形態は特に限定はしないが、例えば、モノフィラメント、モノフィラメントを束ねた繊維束や繊維束に撚りを施した撚り糸といったマルチフィラメント及び紡績糸などの一次元繊維材料を平行に並べたもの、一次元繊維材料を原料として公知の設備を使用して帯状に成形されるネット状物、すだれ織物、織物、編物、不織布などの二次元繊維材料などが挙げられる。また、後述するように、リム部と弦部の接合一体化の際には、二次元繊維材料を原料として縫製等によって成形、一次元繊維材料を直接的に成形した筒編物、組紐、又は不織布などの立体的な筒状の三次元繊維材料なども好適に利用できる。
【0028】
また、弦部が効率的に引張荷重を受けるためには、有機繊維の集合体としての繊維軸はリム部の両末端を直線的に結ぶ軸と平行であるものが含まれることが好ましい。
ここでいう、「平行」とは、完全に平行である必要は無く、リム部の両末端を直線的に結んだ軸に対して、有機繊維の配向が、±10°〜±0°の範囲であればよく、±5°〜±0°の範囲であればより好ましい。また、ここでいう「含む」とは、有機繊維の80〜100重量%が平行していれば良く、90〜100%が平行していれば好ましい。
【0029】
また、これらの繊維材料は取り扱い易さ、リム部との接合強度などを向上させる目的で、熱可塑性樹脂を含浸又はコーティングしたものも使用することができる。このとき弦部材料の熱可塑性樹脂の割合は、繊維材料100重量部に対して1〜200重量部であることが好ましく、5〜100重量部であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明におけるリム部と弦部の接合方法は、特に規定はしないが、リム部材料と弦部材料を別々に準備して両者を接着剤等で接着する方法、又は両者をリベット等で接合する方法などがあげられるが、なかでも、リム部と弦部がより強固に接合できるため、弦部材料の両末端がリム部材料に埋設してあるものが好ましい。ここでいう埋設とは、弓状のエネルギー吸収体のリム部を図6ようにB−B‘断面で切断したときに弦部材料がリム部に包含一体化されている状態を指す。弦部の製造方法の例としては、図7のように、マンドレルを用いて2枚のリム部材料で弦部材料を挟みこんだ後、プレス成形する方法が挙げられる。このとき上述のように弦部材料として筒状の三次元繊維材料を用いると、マンドレルにセットした際の位置ずれなどが少ないため好適である。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
(エネルギー吸収体の性能評価)
エネルギー吸収体の性能評価は、万能試験機(インストロン製、5982)を用いて試料のリム部側から荷重負荷試験を行い、得られた荷重−変位曲線を元に比較評価を行った。
・試験条件
荷重負荷速度;10mm/分
上側(押し込み側)治具;JIS7017に準拠した4点曲げ試験用治具
下側治具;平滑な金属板
・評価項目
エネルギー吸収量;
各試験体について、吸収したエネルギー量を試験体の重量で除した値を算出し、実施例1の値を100とした相対値で比較した。尚、試験の終点は材料が破壊又はリム部が押し込まれて底付する直前とした。
(炭素繊維への樹脂含浸度)
炭素繊維等方性材の断面を光学顕微鏡で観察することにより、1mm角の視野中におけるボイドの面積率によって含浸度を算出した。
【0032】
[実施例1]
アラミド繊維織物(帝人テクノプロダクツ製、テクノーラM1000S、平織り、目付け=162g/m)を公知の工業用ミシンを用いてφ150mmの筒状に縫製した。このとき、織物のタテ方向が筒の円周に一致する方向とした。これを幅30mmに輪切りして弦部材料を得た。
次に、炭素繊維ストランド(東邦テナックス製、STS40)を20mmにカットし、カットしたストランド24gを40cm×30cmのアルミ板に均一な厚さになるよう散布した。この上にポリアミド6フィルム(ユニチカ製、エンブレムON フィルム)を5枚置き、ホットプレス機(名機製作所製、MHPC)を用いて、最高温度260℃、最大圧力2.0MPaで10分間加熱加圧することによりポリアミド6樹脂を部分含浸した炭素繊維等方材を得た。この部分含浸等方材を9枚重ね、適当なサイズに切り出した後、30cm×20cmの金型を用いて最高温度260℃、最大圧力3.0MPaで20分間加熱加圧することにより、樹脂の含浸度を99%まで高めた炭素繊維の等方材を得た。得られた炭素繊維等方性材の厚みは1.5mm、繊維の体積分率は50%であった。
その後、得られた炭素繊維等方性材を幅30mm、長さ150mmに切り出し、260℃の熱風乾燥機(アズワン製、ON−600)で5分間加熱し、炭素繊維等方性材が軟化した状態で図7のような台形型マンドレルに押し付けて仮賦形した。
最後に図7の方法で仮賦形した炭素繊維等方性材で弦部材料を挟み込むように金型にセットし、最高温度240℃、最大圧力3.0MPaで5分間加熱加圧した後、加圧したまま室温まで冷却し、図1のような形状のエネルギー吸収体の試験体を得た。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、それぞれLrが150mm、Lsが130mm(Lr>Ls)であり、弦部材料である織物のタテ糸の繊維軸方向とリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)とは平行であった。得られたエネルギー吸収体を用いてエネルギー吸収体の性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2]
実施例1において、ポリエステル繊維織物(帝人ファイバー製、 T4498、平織り、目付け=175g/m)を三重巻きしてφ150mmの筒状に縫製して弦部材料としたこと以外は同様の方法で実施例2の試験体を得た。リム部と弦部の形状は実施例1と同じである。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、Lr>Lsであり、弦部材料である織物のタテ糸の繊維軸方向とリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)とは平行であった。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0034】
[実施例3]
実施例1において、炭素繊維等方性材の代わりにアラミド繊維強化複合材料を用いたこと以外は同様の方法で実施例3の試験体を得た。リム部と弦部の形状は実施例1と同じである。アラミド繊維強化複合材料は、アラミド繊維織物(帝人テクノプロダクツ製、テクノーラM1000S)とポリアミド6フィルム(ユニチカ製、エンブレムON フィルム)を適当なサイズに切り出した後、30cm×20cmの金型内で、アラミド繊維織物1plyに対し、ポリアミドフィルム5plyの割合で数組みスタックし、ホットプレス機にて最高温度260℃、最大圧力3.0MPaで20分間加熱加圧することで厚さ1.5mmの板材を得て、その後は実施例1と同様の方法で実施例3の試験体を得た。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の両端の長さLsは、Lr>Lsであり、弦部材料である織物のタテ糸の繊維軸方向とリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)とは平行であった。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0035】
[実施例4]
実施例2において、ポリアミド66織物(東レ製、#4253、平織り、目付け=210g/m)を用いたこと以外は、同様の方法で、実施例4の試験体を得た。リム部と弦部の形状は実施例1と同じである。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の両端の長さLsは、Lr>Lsであり、弦部材料である織物のタテ糸の繊維軸方向とリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)とは平行であった。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0036】
[実施例5]
実施例1において、弦部材料を筒状に縫製する際に織物の斜め45度方向が筒の円周に一致する方向としたこと以外は同様の方法で実施例5の試験体を得た。リム部と弦部の形状は実施例1と同じである。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、Lr>Lsであり、弦部材料である織物のタテ糸およびヨコ糸の繊維軸方向はリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)に対し45度傾いた状態であった。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0037】
[実施例6]
実施例1において、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、それぞれLrが150mm、Lsが140mm(Lr>Ls)としたこと以外は、同様の方法で実施例6の試験体を得た。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
実施例1において、弦部材料を挟み込まずにリム部のみとしたこと以外は同様の方法で比較例1の試験体を得た。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
実施例1において、炭素繊維等方性材の仮賦形の際に、図8のような単純な円弧形状のマンドレルを用いて成形したこと以外は同様の方法で比較例2の試験体を得た。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、Lr>Lsであり、弦部材料である織物のタテ糸およびヨコ糸の繊維軸方向はリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)に対し45度傾いた状態であった。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0040】
[比較例3]
実施例1において、弦部をφ300mmの筒状に縫製したこと以外は同様の方法で比較例3の試験体を得た。尚、このとき、リム部の湾曲に沿った全長Lrと該弦部の長さLsは、Lr<Lsであり、弦部材料である織物のタテ糸の繊維軸方向とリム部の両末端を直線的に結ぶ軸(Y軸)とは平行であったが、弦部自体はたるんだ状態であった。得られたエネルギー吸収体の性能評価を表1に示す。
【0041】
[結果の比較]
評価結果を表1に示すが、比較例は実施例に比べてエネルギー吸収量が低いものであった。これは、比較例が全般に弦部に力が十分に伝播せずに、弦部を伸張変形できていなかったためと考えられる。特に比較例2においては、リム部の側面形状が単純な円弧状であり、荷重を負荷していくとリム部が過度に撓んでしまい、弦部に十分に荷重が伝達できていないようであった。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、材料を効率的に利用できるため、軽量でも比較的大きなエネルギーを吸収し、かつエネルギー吸収に要するストロークが小さいため、自動車等の衝突安全性を高めるために設置される衝撃吸収部材として有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 リム部
1a アッパー側リム部
1b アンダー側リム部
2 弦部
2a 弦部露出部分
2b 弦部埋設部分
2c 筒状に成形された弦部材料
3 リム部両端部分
4 リム部のリブ部分
5 リム部の波形状部分
6 リム部のハット部分
7 マンドレル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リム部と該リム部の両端を結ぶ弦部とを有する弓状のエネルギー吸収体であって、リム部末端からリム部中央の間で、リム部が弦部側に凸状に湾曲および/又は屈曲し、該リム部に沿った全長Lrと該弦部の長さLsが、Lr>Lsである弓状のエネルギー吸収体。
【請求項2】
該弦部は構成要素として有機繊維を含み、有機繊維の繊維軸が該リム部の両端を直線的に結ぶ軸に平行であるものを含む請求項1に記載の弓状のエネルギー吸収体。
【請求項3】
該リム部は熱可塑性樹脂をマトリクスとした炭素繊維複合材料を含む請求項1〜2いずれかに記載の弓状のエネルギー吸収体。
【請求項4】
該弦部材料は、該リム部に埋設されている請求項1〜3いずれかに記載の弓状のエネルギー吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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