説明

エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】半導体装置を封止した際に、銅配線の腐食、マイグレーションやアルミニウムと金の接合部における金属間化合物の生成を抑制した硬化物を与える信頼性に優れるエポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)硬化促進剤、(E)接着向上剤、(F)金属酸化物を含むエポキシ樹脂組成物において、(F)金属酸化物として、(a)マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体、(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体及び(c)希土類酸化物の組合せ比率が、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量100質量部に対して、(a):(b):(c)=0.5〜20質量部:0.5〜20質量部:0.01〜10質量部であるエポキシ樹脂組成物、及び半導体素子をこのエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体を封止した際に、銅配線の腐食、マイグレーションやアルミニウムと金の接合部における金属間化合物の生成を抑制した硬化物を与える信頼性に優れるエポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の高速化に伴い、配線もアルミニウムから銅に変わりつつある。このような状況下において、銅はアルミニウムに比べて酸化や腐食に弱く、使用するに当り細心の注意が必要となっている。特に銅ワイヤーや配線、リードフレームを使用した場合、燐酸イオン、硝酸イオン及び硫酸イオンによってマイグレーションが生じている。
【0003】
また、アルミニウムと金の接合部における金属間化合物の生成による半導体特性の劣化に関しては、難燃剤として使用している臭素化合物や酸化アンチモンが原因であることが明確に示されている(Microelectronics Reliability 40 (2000) 145−153:非特許文献1)。
【0004】
このため、この特性劣化を防止すべく、臭素化合物や酸化アンチモンを全く含有しないエポキシ樹脂組成物が開発されている。しかし、この種のエポキシ樹脂組成物で封止した半導体素子においても、金属間化合物が生成し、特性が劣化する場合がある。
【0005】
即ち、ハロゲンやアンチモン化合物を含まないエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置を170℃以上の高温で長時間放置した場合、アルミニウムと金の接合部で金属間化合物が生成し、抵抗値が増大する不良が発生する。この原因としては、接着向上剤として使用した窒素原子や硫黄原子を含んだ化合物が高温で酸化劣化し、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオンあるいは有機酸などを生ずることにある。有機酸としては主に蟻酸や酢酸のような低分子の酸が問題となる。
【0006】
また、この種のイオンが生成することで硬化物中では酸性となり、この状況で水分が侵入するとアルミニウムの電極が容易に腐食したり、銀や銅のマイグレーションが発生する。
【0007】
また、この種のイオンを補足するためにイオントラップ材を使用することは良く知られているが、トラップ剤の多くはイオンを補足すると金属イオンが溶け出してくるものがある。金属イオンも電荷をもっていることからリーク電流の増加の原因の一つとなるものもある。(特許第2501820号、特許第2519277号、特許第2712898号、特許第3167853号、特公平06−051826号、特開平09−118810号、特開平10−158360号、特開平11−240937号、特開平11−310766号、特開2000−159520号、特開2000−230110号、特開2002−080566号公報:特許文献1〜12参照)
【0008】
【特許文献1】特許第2501820号公報
【特許文献2】特許第2519277号公報
【特許文献3】特許第2712898号公報
【特許文献4】特許第3167853号公報
【特許文献5】特公平06−051826号公報
【特許文献6】特開平09−118810号公報
【特許文献7】特開平10−158360号公報
【特許文献8】特開平11−240937号公報
【特許文献9】特開平11−310766号公報
【特許文献10】特開2000−159520号公報
【特許文献11】特開2000−230110号公報
【特許文献12】特開2002−080566号公報
【非特許文献1】Microelectronics Reliability 40 (2000) 145−153
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、半導体装置を封止した際に、銅配線の腐食、マイグレーションやアルミニウムと金の接合部における金属間化合物の生成を抑制した硬化物を与える信頼性に優れるエポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、種々のイオン交換体や各種金属酸化物を検討した結果、従来から知られている特定のイオン交換体とランタノイド系金属酸化物を用いることで半導体装置の信頼性に悪影響を及ぼすイオン種を固定化でき、その結果、高度の信頼性を持った半導体装置が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、銅のマイグレーションや金属間化合物の生成を防止するため、種々検討した結果、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)硬化促進剤、(E)接着向上剤、(F)金属酸化物を含むエポキシ樹脂組成物において、(F)金属酸化物として、(a)マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体、(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体及び(c)希土類酸化物を用い、この組合せ比率が、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量100質量部に対して、(a):(b):(c)=0.5〜20質量部:0.5〜20質量部:0.01〜10質量部であるエポキシ樹脂組成物を封止材として用いること、この場合、特にはこのようなエポキシ樹脂組成物として、該組成物を厚さ3mm、直径50mmの円盤状に成形後硬化し、この硬化物を175℃で1,000時間保持した後、粉砕して30〜150メッシュの粒度に調整し、この粉体を5gと、イオン交換水50mlを加圧容器に入れ、125℃で20時間抽出した抽出水中の燐酸イオン、硝酸イオン及び硫酸イオン量が、上記エポキシ樹脂組成物中の含有量に換算していずれも5ppm以下であって、更に抽出水のpH値が、5.5〜7であるエポキシ樹脂組成物を封止材として用いることにより、銅配線の腐食、マイグレーションやアルミニウムと金の接合部における金属間化合物の生成を抑制した高信頼性の半導体装置が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
従って、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)硬化促進剤、(E)接着向上剤、(F)金属酸化物を含むエポキシ樹脂組成物において、(F)金属酸化物として、(a)マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体、(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体及び(c)希土類酸化物の組合せ比率が、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量100質量部に対して、(a):(b):(c)=0.5〜20質量部:0.5〜20質量部:0.01〜10質量部であるエポキシ樹脂組成物、及び半導体素子をこのエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、半導体装置を封止した際に、銅配線の腐食、マイグレーションやアルミニウムと金の接合部における金属間化合物の生成を抑制した硬化物を与えるものであり、この組成物の硬化物で封止された半導体装置は、耐リフロークラック性、耐湿性に優れ、高温雰囲気下における信頼性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[(A)エポキシ樹脂]
本発明に使用されるエポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられるが、ハロゲン化エポキシ樹脂は使用しないことが好ましい。
【0015】
本発明においては、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【化1】

(式中、R1は水素原子、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基の中から選択される同一もしくは異なる原子又は基であり、nは0〜10の整数である。)
【0016】
[(B)フェノール樹脂硬化剤]
本発明に用いるエポキシ樹脂の硬化剤であるフェノール樹脂は、下記一般式(2)で表されるフェノール樹脂の他、ナフタレン環含有フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
【化2】

(式中、R2は水素原子、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基の中から選択される同一もしくは異なる原子又は基であり、mは0〜10の整数である。)
【0018】
エポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化剤の配合量は特に制限されないが、エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基1モルに対して、フェノール樹脂硬化剤中に含まれるフェノール性水酸基のモル比が0.5〜1.5、特に0.8〜1.2の範囲であることが好ましい。モル比が0.5未満あるいは1.5を超えるとエポキシ基とフェノール性水酸基の量がアンバランスであり、硬化物の特性が十分でない場合がある。
【0019】
[(C)無機質充填剤]
本発明に用いる無機質充填剤は、通常樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。具体的には、例えば溶融シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素、酸化チタン、ガラス繊維等が挙げられる。これらの中では、球状の溶融シリカもしくはアルミナが特に望ましく、その平均粒径は5〜30μmのものが、成型性、流動性の面から望ましい。
【0020】
なお、本発明において、平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(又はメディアン径)等として求めることができる。
【0021】
この無機質充填剤の配合量としては、ハロゲン化樹脂と三酸化アンチモンを含有せずに難燃化するために、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量100質量部に対し、700〜1,100質量部、特に750〜1,000質量部とすることが好ましい。700質量部未満では樹脂の割合が高く、組成物の硬化物が燃焼しやすくなる場合があり、また1,100質量部を超える量では粘度が高くなるために成形できなくなるおそれがある。
【0022】
なお、無機質充填剤は、樹脂と無機質充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトシラン、γ−エピスルフィドキシプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤を用いることが好ましい。ここで、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0023】
[(D)硬化促進剤]
また、本発明に用いる硬化促進剤としては、一般に封止材料に用いられているものを併用することができる。例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中では、活性の高いトリス(p−トリル)ホスフィンの使用が好ましい。
【0024】
硬化促進剤の配合量は有効量であるが、上記リン系化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物等の硬化促進剤を用いる場合、(A),(B)成分の総量100質量部に対し、0.1〜5質量部、特に0.5〜2質量部とすることが好ましい。配合量が0.1質量部未満であると硬化不良を引き起こす場合があり、5質量部を超えると硬化時間が短く、未充填を引き起こす場合がある。
【0025】
[(E)接着向上剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物には、金属性のリードフレームやシリコンチップ、銀や金メッキ表面との接着性を改善するため、接着向上剤を配合する。このような接着向上剤としては、硫黄原子及び/又は窒素原子をそれぞれ含有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、有機チオール化合物、熱可塑性樹脂あるいはシランカップリング剤等が好適に使用される。
【0026】
代表的なものとして、ビスフェノールA型もしくはF型エポキシ樹脂のエポキシ基の一部(通常約半分)がチイラン基に変換されたチイラン樹脂、5員環ジチオカーボナート基を有する化合物、チオフェノール誘導体、トリグリシドキシイソシアヌレート、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などのほかに、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
なお、上記接着向上剤(E)には、通常使用される3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有シランなども併用してよい。
【0027】
これら接着向上剤(E)の使用量としては、エポキシ樹脂とフェノール樹脂硬化剤の合計量100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましい。特にシランカップリング剤の場合は0.1〜1質量部が望ましい。配合量が少なすぎると接着性向上の効果が得られない場合があり、多すぎると硬化性や流動性が低下する場合がある。
【0028】
上記した接着向上剤成分を含有し、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物を含まないエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置を170℃以上の高温で長時間放置した場合、アルミニウムと金の接合部で金属間化合物が生成し、抵抗値が増大する不良が発生する。この原因としては、接着向上剤として使用した窒素原子や硫黄原子を含んだ化合物が高温で酸化劣化し、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、あるいは有機酸などを生ずることにあるためである。なお、有機酸としては、主に蟻酸や酢酸のような低分子の酸が問題となる。また、これらのイオンが生成することで硬化物中では酸性となり、この状況で水分が侵入するとアルミニウムの電極が容易に腐食したり、銀や銅のマイグレーションが発生したりするという問題を起こす。
【0029】
[(F)金属酸化物]
この種の不良を防止するため、本発明では(F)金属酸化物を添加するもので、この場合金属酸化物としては、金属酸化物複合体である無機のイオン交換体で、金属原子の溶出もなく、後述する抽出液中のハロゲンイオン、アルカリイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオンが特定量以下で、かつ抽出液のpHが5.5〜7となる硬化物を与える組成物を形成することができるものが有効である。
【0030】
かかる金属酸化物としては、(a)マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体、(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体、及び(c)希土類酸化物を組合せて用いるものである。
【0031】
(a)のマグネシウム・アルミニウム系イオン交換体として、具体的には下記式で示されるものが例示される。
MgxAly(OH)2x+3y-2z(CO3z・mH2
(x,y,zはそれぞれ0<y/x≦1,0≦z/y<1.5なる関係を有し、mは正数を示す。)
マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体としては、市販品としてIXE700F(東亞合成化学(株)製)が挙げられる。
【0032】
マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体の配合比率としては、(A),(B)成分の総量100質量部に対して、0.5〜20質量部、更に好ましくは1.0〜15質量部であることが望ましい。添加量が0.5質量部未満では十分なトラップ効果が得られない場合があり、また20質量部を超えると、硬化性や流動性の不良が発生する場合がある。
【0033】
(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体として、具体的には、東亞合成化学(株)からビスマス系としてIXE500、IXE550、アンチモン・ビスマス系としてIXE600、IXE633、ジルコニウム・ビスマス系としてIXE6107、ハイドロタルサイト系としては協和化学(株)からDHT−4A−2、KW2200などの無機イオン交換体が多数市販されている。
【0034】
ハイドロタルサイト系イオン交換体の配合比率としては、(A),(B)成分の総量100質量部に対して、0.5〜20質量部、更に好ましくは1.0〜15質量部であることが望ましい。添加量が0.5質量部未満では十分なトラップ効果が得られない場合があり、また20質量部を超えると、硬化性や流動性の不良が発生する場合がある。
【0035】
この種のマグネシウム・アルミニウム系イオン交換体とハイドロタルサイト系イオン交換体を使用することで、従来から知られているようなハロゲンイオンやアルカリ金属イオンなどを減少させることができる。
【0036】
(c)希土類酸化物は、イオン、特にリン酸イオンのトラップ能力に優れ、高温、高湿下においてもLa,Y,Gd,Bi,Mg,Al等の金属イオンが溶出せず、かつエポキシ樹脂組成物の硬化性にも影響せず、耐熱性、耐湿性に優れた硬化物を与えることができる。
【0037】
希土類酸化物としては、酸化ランタン、酸化ガドリニウム、酸化サマリウム、酸化ツリウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジム、酸化エルビウム、酸化テルビウム、酸化プラセオジウム、酸化ジスプロジウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化ホルミウムなどが挙げられ、これらは信越化学工業(株)から市販されている。
【0038】
希土類酸化物の添加量としては、(A),(B)成分の合計量100質量部に対し、0.01〜10質量部、特に0.5〜8質量部が好ましい。添加量が0.01質量部未満では十分なイオントラップ効果が得られない場合があり、また10質量部を超えると、流動性の低下を引き起こす場合がある。
【0039】
本発明では種々検討した結果、(a)マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体と(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体、及び(c)希土類酸化物を特定の比率で混合し、使用することで信頼性の良好な組成物を得ることができることを見出したものである。使用比率としては、樹脂の合計量100質量部に対し、マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体:ハイドロタルサイト系イオン交換体:希土類酸化物=0.5〜20質量部:0.5〜20質量部:0.01〜10質量部の割合で混合する。望ましくは1〜10質量部:1〜10質量部:0.1〜6質量部の割合である。この比率で金属酸化物を混合したのち配合することで所望の特性を得ることができる。
【0040】
[その他添加剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)硬化促進剤、(E)接着向上剤、(F)金属酸化物を必須成分とするが、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤、カルナバワックス等のワックス類、カーボンブラック等の着色剤等の添加剤を添加配合することができる。
【0041】
また、離型剤成分を配合することもでき、離型剤成分としては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物であるモンタンワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、これら1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0042】
離型剤の配合量としては、(A),(B)成分の総量100質量部に対して、0.1〜5質量部、更に好ましくは0.3〜4質量部であることが望ましい。
【0043】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物には、組成物のなじみをよくするために、従来より公知である(E)成分以外の(即ち、窒素原子及び硫黄原子を含まない)各種シランカップリング剤を添加することができる。
【0044】
上記シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でもγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを使用することが好ましく、耐湿信頼性に優れ、吸湿劣化後の接着強度の低下が少ないエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0045】
上記カップリング剤を用いる場合、その使用量は、(A),(B)成分の総量100質量部に対して、通常0.1〜5.0質量部であり、好ましくは0.3〜3.0質量部である。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の目的及び効果を発現できる範囲内において、更に難燃剤、例えば赤リン、リン酸エステル、ホスファゼン化合物等のリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等の無機化合物、及び他のイオントラップ材、例えばリン酸ジルコニウム化合物、水酸化ビスマス化合物などを添加することもできる。但し、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物は配合されない。
【0047】
難燃剤の配合比率としては、(A),(B)成分の総量100質量部に対して、3〜50質量部、更に好ましくは5〜20質量部であることが望ましい。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物を成型材料として調製する場合の一般的な方法としては、エポキシ樹脂、硬化剤、無機質充填剤、硬化促進剤、接着向上剤、金属酸化物、及び必要によりその他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して成形材料とすることができる。
【0049】
このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種の半導体装置の封止材料として有効に利用でき、この場合、封止の最も一般的な方法としては低圧トランスファー成形法が挙げられる。なお、本発明のエポキシ樹脂組成物の成形温度は150〜185℃で30〜180秒、後硬化は150〜185℃で2〜20時間行うことが望ましい。
【0050】
本発明においては、上記エポキシ樹脂組成物を厚さ3mm、直径50mmの円盤状に成形硬化し、これを180℃で4時間ポストキュアし、得られた硬化物を175℃で1,000時間保持した後、30〜150メッシュの粒度に粉砕し、この粉体5gとイオン交換水50mlを加圧容器に入れ、2.2atomの圧力で125℃で20時間抽出させた抽出水中の燐酸イオン、硝酸イオン及び硫酸イオンを測定した場合、燐酸イオン、硝酸イオン及び硫酸イオン量が上記エポキシ樹脂組成物中の含有量に換算していずれも5ppm以下、好ましくは3ppm以下であることが望ましい。上記イオンがそれぞれ5ppmを超えると良好な耐湿性、高温放置特性の効果が十分得られない場合がある。
【0051】
また、上記抽出水のpH値が5.5〜7であることが望ましい。抽出水のpHが5.5未満では酸性度が高く、良好な高温放置特性の効果が得られない場合があり、7を超えると良好な耐湿性の効果が得られない場合がある。
【0052】
なお、従来の硫黄原子や窒素原子を含有するエポキシ樹脂組成物における上記測定法に基づく燐酸イオン、硝酸イオン及び硫酸イオン量は、そのいずれかが5ppm以上であり、また、抽出水pHは5.5以下である。
【実施例】
【0053】
以下、エポキシ樹脂組成物の実施例と比較例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において部はいずれも質量部である。
【0054】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
表1,2に示す成分を熱2本ロールで均一に溶融混合し、冷却、粉砕して半導体封止用樹脂組成物を得た。更に得られた成形材料をタブレット化し、低圧トランスファー成形機にて175℃、70kgf/cm2、120秒の条件で各試験片を成形し、180℃、4時間ポストキュアした硬化物をpH、燐酸イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量、ガラス転移温度、耐リフロークラック性、耐湿性、高温放置特性を下記に示す評価方法により、評価した。結果を表1,2に示す。
【0055】
使用した原材料を下記に示す。
(A)エポキシ樹脂
(イ):式(1−1)で表されるエポキシ樹脂:NC3000P(日本化薬(株)製、エポキシ当量272)
【化3】

(n=0.74(平均値))
(ロ):ビフェニル型エポキシ樹脂:YX4000HK(油化シェル(株)製、エポキシ当量190)
(ハ):o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:EOCN1020−55(日本化薬(株)製、エポキシ当量200)
(ニ):エピスルフィドエポキシ樹脂:ESLV120TE(東都化成(株)製、エポキシ当量250)
【0056】
(B)硬化剤
(ホ):式(2−1)で表されるフェノール樹脂:MEH7851L(明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量199)
【化4】

(m=0.44(平均値))
(ヘ):フェノールアラルキル樹脂:MEH7800SS(明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量175)
(ト):フェノールノボラック樹脂:DL−92(明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量110)
【0057】
(C)無機質充填剤:球状溶融シリカ(龍森(株)製、平均粒径15μm)
(D)硬化促進剤
(チ):トリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)
(リ):テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート(北興化学(株)製)
【0058】
(E)接着向上剤
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
【0059】
(F)金属酸化物
(a)マグネシム・アルミニウム系イオン交換体:IXE−700F(東亞合成(株)製)
(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体:DHT−4A−2(協和化学工業(株)製)
(c)希土類酸化物:酸化ランタン(III)(信越化学工業(株)製)
【0060】
その他添加剤
カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業(株)製)
離型剤:カルナバワックス(日興ファインプロダクツ(株)製)
難燃剤:三酸化アンチモン:SB23RX(住友金属鉱山(株)製
ブロモ化エポキシ樹脂:AER8049(旭チバ(株)製)
【0061】
評価方法を下記に示す。
《pH、燐酸イオン量、硝酸イオン量、硫酸イオン量》
175℃、70kgf/cm2、成形時間120秒の条件で厚さ3mm、直径50mmの円盤を成形し、180℃、4時間ポストキュアした硬化物を175℃で1,000時間放置した後、粉砕し、30〜150メッシュの粒度に調整した。この粉体5gと、イオン交換水50mlを加圧容器に入れ、125℃で20時間抽出した抽出水中の不純物(EMC中に換算)として燐酸イオン量、硝酸イオン量及び硫酸イオン量を測定し、また抽出水のpHを測定した。なお、上記各イオン量の測定方法はイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0062】
《ガラス転移温度》
TMA(TAS200 理学化学(株)製)により測定した。
【0063】
《耐リフロークラック性》
175℃、70kgf/cm2、成形時間120秒の条件で14×20×2.7mmのフラットパッケージを20個成形した。180℃で4時間ポストキュアしたものを、85℃/85%RHの恒温恒湿器に168時間放置して吸湿させた後、温度260℃の半田浴に30秒浸漬し、パッケージ外部のクラックを観察し、クラック数を調べた。
【0064】
《耐湿性》
シリコンチップ上にアルミ配線を形成した模擬素子と部分金メッキされた42アロイリードフレームとを、太さ30μmの金線でボンディングし、175℃、70kgf/cm2、成形時間120秒の条件で1.4mm厚のTSOPパッケージ20個を成形した。180℃、4時間ポストキュアしたものを140℃、85%RHの雰囲気中5Vの直流バイアス電圧をかけて500時間放置した後、アルミニウム腐食が発生し、断線したパッケージ数を調べた。
【0065】
《高温放置特性》
シリコンチップ上にアルミ配線を形成した模擬素子と部分金メッキされた42アロイリードフレームとを、太さ30μmの金線でボンディングし、175℃、70kgf/cm2、成形時間120秒の条件で1.4mm厚のTSOPパッケージ20個を成形した。180℃、4時間ポストキュアしたものを200℃の乾燥器に1,000時間放置した後、樹脂硬化物を発煙硝酸で溶かし、チップ側のボンディング部の引張り強度を測定した。この引張り強度の値が初期値の50%以下になったものを不良とし、不良数を調べた。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)硬化促進剤、(E)接着向上剤、(F)金属酸化物を含むエポキシ樹脂組成物において、(F)金属酸化物として、(a)マグネシウム・アルミニウム系イオン交換体、(b)ハイドロタルサイト系イオン交換体及び(c)希土類酸化物の組合せ比率が、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量100質量部に対して、(a):(b):(c)=0.5〜20質量部:0.5〜20質量部:0.01〜10質量部であるエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(E)接着向上剤が、硫黄原子及び/又は窒素原子をそれぞれ含有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、有機チオール化合物、熱可塑性樹脂及びシランカップリング剤から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(E)接着向上剤が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ基の一部がチイラン基に変換されたチイラン樹脂、5員環ジチオカーボナート基を有する化合物、チオフェノール誘導体、トリグリシドキシイソシアヌレート、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランから選ばれる1種又は2種以上である請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(E)接着向上剤の配合量が、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量100質量部に対し、0.1〜20質量部である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂組成物を厚さ3mm、直径50mmの円盤状に成形後硬化し、この硬化物を175℃で1,000時間保持した後、粉砕して30〜150メッシュの粒度に調整し、この粉体を5gと、イオン交換水50mlを加圧容器に入れ、125℃で20時間保持した場合の抽出水中の燐酸イオン、硝酸イオン及び硫酸イオン量が、上記エポキシ樹脂組成物中の含有量に換算していずれも5ppm以下であって、更に抽出水のpH値が、5.5〜7であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
半導体素子を請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置。


【公開番号】特開2007−63549(P2007−63549A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212280(P2006−212280)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】