説明

エマルジョン組成物およびそれを用いた塗膜防水材

【課題】アンモニアを発生させることなく、塗工作業が可能な、作業性に優れ、更に、塗膜の柔軟性に優れたエマルジョン組成物の提供を目的とする。
【解決手段】アクリル系エマルジョンおよびセメントを含有してなるエマルジョン組成物であって、上記アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂が、エチレン性不飽和基と一価の金属塩とを含有するアニオン系反応性界面活性剤の存在する状態で、エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工時にアンモニアが発生しない、いわゆるアンモニアフリーのエマルジョン組成物およびそれを用いた塗膜防水材に関するものであり、詳しくは、陸屋根等の建物屋上、建築物のベランダ、壁、バルコニー、浴室、冷凍倉庫外面等の、土木・建築分野において、防水被覆技術に使用するポリマーセメント系のエマルジョン組成物、およびそれを用いた塗膜防水材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、陸屋根等の建物屋上等の土木・建築分野における塗膜防水材としては、アクリル系エマルジョンや酢酸ビニル系エマルジョン等の合成高分子エマルジョンを、セメント等に混和させたポリマーセメント系のエマルジョン組成物が使用されている。例えば、アルミナセメント、エマルジョンおよびワックスサスペンジョンを含み、タック荷重が500gf以下のポリマーセメント組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−220009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1のエマルジョン組成物は、塗工時にエマルジョン−セメント混和液からアンモニアが発生し、作業性が著しく悪化するという課題を有していた。
このようなアンモニアの発生は、エマルジョン作製時に使用する界面活性剤に起因する。従来は、乳化重合時に、アンモニウム塩型のアニオン系界面活性剤を使用しているため、セメント混和の際に界面活性剤中のアンモニウム塩と、セメント中のカルシウムイオンとのイオン交換が起こり、そのため、イオン交換後のアンモニアがフリーになり、混和液から気化したものが、アンモニア臭として作業者に知覚されていた。このように、上記特許文献1のような従来の塗膜防水剤用エマルジョンでは、塗工時にアンモニアが発生するという課題があった。このようなアンモニアの発生は、作業者のみならず自然環境への悪影響も考えられるため、その改良が切望されていた。
また、塗膜防水用エマルジョンとしては、塗工時の下地に対する追随性が重要であり、その結果塗膜の柔軟性も求められている。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、アンモニアを発生させることなく、塗工作業が可能な、作業性に優れ、更に、塗膜の柔軟性に優れたエマルジョン組成物、およびそれを用いた塗膜防水材の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アンモニアを発生させることなく、塗工作業が可能な、作業性に優れたエマルジョン組成物を得るために研究を重ねる過程で、まず、界面活性剤に着目した。乳化重合において安定したエマルジョンを得るためには、アニオン系界面活性剤を使用する必要があり、従来は、ハンドリングの点から、アンモニウム塩型のアニオン系界面活性剤を使用していた。しかし、アンモニウム塩型のアニオン系界面活性剤を使用した場合には、先に述べたように、エマルジョン組成物とセメントとの混合時に、アニオン系界面活性剤中のアンモニウム塩と、セメント中のカルシウムイオンとがイオン交換を起し、アンモニアが発生するという問題があった。本発明者らは、イオン交換を起させないようなアニオン系界面活性剤について検討したところ、アンモニウム塩型のアニオン系界面活性剤に代えて、一価の金属イオン(Na+、K+、Li+等)で中和を行った金属塩型のアニオン系界面活性剤を用いると好結果が得られることを突き止めた。すなわち、一価の金属塩を含有する金属塩型のアニオン系反応性界面活性剤の存在する状態で、エチレン性不飽和単量体を重合してなるアクリル系樹脂を必須成分とするアクリル系エマルジョンを用いると、セメントとの混合時において、イオン交換が起こらなくなるため、塗工時のアンモニアの臭気がなくなり、作業性に優れることを見いだし、更に、塗膜の柔軟性に優れ、下地への追従性に優れることも見いだし、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、アクリル系エマルジョンおよびセメントを含有してなるエマルジョン組成物であって、アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂が、エチレン性不飽和基と一価の金属塩とを含有するアニオン系反応性界面活性剤の存在する状態で、エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂であるエマルジョン組成物を第1の要旨とする。
【0007】
また、本発明は、上記エマルジョン組成物を含有してなる塗膜防水材を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明のエマルジョン組成物は、アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂として、エチレン性不飽和基と一価の金属塩とを含有するアニオン系反応性界面活性剤の存在する状態で、エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂を使用しているため、セメントとの混合時において、アニオン系反応性界面活性剤と、セメント中のカルシムウイオンとのイオン交換が起こらなくなる。そのため、塗工時のアンモニアの臭気がなくなり、作業者負担が低減し、作業性に優れるとともに、環境負荷も低減するという効果が得られる。また、イオン交換が起こらないことから、塗膜内にカルシウムイオン由来のキレートを形成することがなく、塗膜の柔軟性が向上し、その結果塗膜の伸度が向上するという効果も得られる。
【0009】
また、アニオン系反応性界面活性剤中の一価の金属塩が、ナトリウム塩であると、セメント中のカルシムウイオンとのイオン交換がより生起しなくなり、アンモニア発生抑制効果が大きくなるため、作業性の点から、さらに好ましい。
【0010】
そして、アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂のガラス転移温度が−20〜−40℃であると、塗膜の伸度がさらに向上する。
【0011】
本発明のエマルジョン組成物を塗膜防水材として使用した場合には、塗膜の伸度が向上することから、塗膜防水材用途に必要な下地に対する追随性が向上するようになるため好適である。
【0012】
本発明の塗膜防水材は、上記特殊なエマルジョン組成物を含有するため、作業者負担が低減し、作業性に優れるとともに、環境負荷も低減し、周辺環境への影響もなく、かつ、塗膜の伸張性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0014】
本発明のエマルジョン組成物は、アクリル系エマルジョンおよびセメントを用いて得ることができる。本発明においては、アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂が、エチレン性不飽和基と一価の金属塩とを含有するアニオン系反応性界面活性剤の存在する状態で、エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂を用いることが最大の特徴である。
【0015】
まず、このアクリル系エマルジョンについて説明する。
【0016】
《アクリル系エマルジョン》
アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂(W)としては、例えば、エチレン性不飽和単量体(M)の単独重合体もしくは共重合体であることが好ましく、さらには、エチレン性不飽和単量体(M)の中でも特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、その他のエチレン性不飽和単量体と共重合したアクリル系共重合体であることが好ましい。本発明において、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするとは、エチレン性不飽和単量体(M)全体の50重量%を超える量を含有することを意味し、好ましくは、全体の60重量%以上を含有することをいう。
【0017】
以下、アクリル系樹脂(W)を形成する重合成分であるエチレン性不飽和単量体(M)について詳述する。
【0018】
〈エチレン性不飽和単量体(M)〉
上記アクリル系樹脂(W)を形成するエチレン性不飽和単量体(M)としては、例えば、下記の(a)〜(m)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル。
(b)芳香族エチレン性不飽和単量体。
(c)ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体。
(d)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体。
(e)エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体。
(f)メチロール基含有エチレン性不飽和単量体。
(g)アルコキシアルキル基含有エチレン性不飽和単量体。
(h)シアノ基含有エチレン性不飽和単量体。
(i)ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体。
(j)アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体。
(k)スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体。
(l)リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体。
(m)アミド基を有するエチレン性不飽和単量体。
【0019】
なお、本発明における上記アクリル系樹脂(W)としては、上記(a)〜(m)以外に、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等の単量体も、所望に応じて適宜使用することができる。
【0020】
つぎに、上記(a)〜(m)に例示された単量体について、詳述する。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜20の脂肪族(メタ)アクリレートや、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも好ましくは、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜10の脂肪族(メタ)アクリレートである。
【0022】
上記芳香族エチレン性不飽和単量体(b)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、好ましくはスチレンである。
【0023】
上記ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも好ましくは、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。
【0024】
上記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(d)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を用いることができ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸、イタコン酸がより好ましい。なお、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸のようなジカルボン酸の場合には、これらのモノエステルやモノアマイドを用いてもよい。
【0025】
上記エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(e)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートである。
【0026】
上記メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(f)としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチロール(メタ)アクリルアミド等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0027】
上記アルコキシアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(g)としては、例えば、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメトキシ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルコキシ(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0028】
上記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(h)としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等があげられる。
【0029】
上記ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体(i)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0030】
上記アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体(j)としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0031】
上記スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(k)としては、例えば、ビニルスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸(塩)等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0032】
上記リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(l)としては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイロキシエチル〕ホスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0033】
上記アミド基を有するエチレン性不飽和単量体(m)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド、(メタ)アクリルアミドメタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドメチルエタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドブタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドジメチルエタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドペンタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドメチルブタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドジメチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドエチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドエチルメチルエタンスルホン酸(塩)および(メタ)アクリルアミドプロピルエタンスルホン酸(塩)等の炭素数1〜5の分岐または直鎖のアルキレン基を有する化合物等をあげることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも、好ましくは(メタ)アクリルアミドや、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(塩)等の分岐のアルキレン基を有する(メタ)アクリルアミドアルキレンスルホン酸(塩)である。なお、上記スルホン酸(塩)とは、スルホン酸あるいはその塩を意味する。
【0034】
なお、本発明において、(メタ)アクリロイロキシとは、アクリロイロキシあるいはメタクリロイロキシを意味し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸あるいはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリルとは、アクリルあるいはメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートあるいはメタクリレートを意味する。
【0035】
本発明に係るアクリル系樹脂(W)は、エチレン性不飽和基と一価の金属塩とを含有するアニオン系反応性界面活性剤の存在下で、エチレン性不飽和単量体(M)を重合してなる樹脂である。この重合の際に、必要に応じて、重合開始剤、重合調整剤、可塑剤、造膜助剤等の他の成分を適宜用いることができる。なお、本発明で用いる各種添加剤としては、本発明の目的を損なわない範囲内において、アンモニウム塩の添加剤を用いることもできるが、好ましくは、よりアンモニアを発生させない点から、アンモニウム塩のものは用いないほうがよい。
【0036】
〈アニオン系反応性界面活性剤〉
本発明においては、アニオン系反応性界面活性剤として、エチレン性不飽和基と、一価の金属塩とを含有するものが用いられる。上記一価の金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等があげられ、汎用性及びセメント中のカルシムウイオンとのイオン交換がより生起しなくなり、アンモニア発生抑制効果が大きくなる等の点で、ナトリウム塩が好ましい。
【0037】
上記アニオン系反応性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(1)〜(9)で表される構造をもつものがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
〔ここで、一般式(1)〜(9)において、R1はアルキル基、R2は水素またはメチル基、l,m,nは1以上の整数(m+n=3)、XはSO3Na、SO3K、SO3Liのいずれかである。〕
【0048】
上記アニオン系反応性界面活性剤としては具体的には、アデカリアソープSR−10S(X=SO3Na)〔以上、ADEKA社製〕等の市販品があげられる。
【0049】
上記アニオン系反応性界面活性剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100重量部(以下「部」と略す)に対して、1〜10部であることが好ましく、さらには2〜9部、特には3〜8部の範囲であることが好ましい。すなわち、アニオン系反応性界面活性剤の使用量が少なすぎると、重合安定性の面において、不安定になる傾向がみられ、逆に、多すぎると、得られる重合体または共重合体の平均粒子径が小さくなりすぎる傾向がみられ、結果、エマルジョンの粘度が高くなりすぎて作業性が低下する等の問題が生じる傾向がみられるからである。
【0050】
なお、本発明においては、上記アニオン系反応性界面活性剤以外の界面活性剤を、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、併用しても差し支えない。
【0051】
上記アニオン系反応性界面活性剤以外の界面活性剤としては、例えば、アルキルもしくはアルキルアリル硫酸塩、アルキルもしくはアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ソーダ等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレングリコール型、ポリオキシエチレンプロピレングリコール型等のノニオン性界面活性剤;およびポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0052】
〈重合開始剤〉
上記重合開始剤としては、水溶性、油溶性のいずれのものも用いることが可能である。例えば、アルキルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−メタンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、ジ−イソブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2′−アゾビスイソブチレート、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、4,4′−アゾビス−4−シアノバレリックアシッドのアンモニウム(アミン)塩、2,2′−アゾビス(2−メチルアミドオキシム)ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジヒドロクロライドテトラヒドレート、2,2′−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕−プロピオンアミド}、2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、各種レドックス系触媒(この場合酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、p−メタンハイドロパーオキサイド等が、還元剤としては亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が用いられる。)等があげられる。
【0053】
これらの重合開始剤は単独であるいは2種以上併せて用いられる。これらの中でも重合安定性に優れる点で、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、レドックス系触媒(酸化剤:過硫酸カリウム,過硫酸ナトリウム、還元剤:亜硫酸ナトリウム,酸性亜硫酸ナトリウム,ロンガリット,アスコルビン酸)等が好適である。なお、アンモニア臭を発生させない点から、アンモニウム塩のものを用いないほうがより好ましい。
【0054】
上記重合開始剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100部に対して、0.01〜5部の範囲であることが好ましく、さらには0.03〜3部であることがより好ましい。すなわち、重合開始剤の使用量が少なすぎると、重合速度が遅くなる傾向がみられ、逆に、多すぎると、得られる共重合体の分子量が低下し耐水性の面において好ましくない傾向がみられるからである。
【0055】
なお、上記重合開始剤は、重合缶内に予め加えておいてもよいし、重合開始直前に加えてもよいし、必要に応じて重合途中に追加添加してもよい。あるいは、単量体混合物に予め添加したり、上記単量体混合物からなる乳化液に添加したりしてもよい。また、重合開始剤の添加に際しては、重合開始剤を別途溶媒や上記単量体に溶解して添加したり、溶解した重合開始剤をさらに乳化状にして添加したりしてもよい。
【0056】
〈重合調整剤〉
また、重合に際して、重合調整剤を配合することができる。前記重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、pH緩衝剤等があげられる。
【0057】
上記連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;n−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0058】
この連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、アクリル系樹脂(W)の重合度を低下させ、得られる塗膜の弾性率を低下させる可能性がある。そのため、具体的には、連鎖移動剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100部に対して、0.01〜1部であることが好ましく、さらに0.01〜0.5部であることが好ましい。連鎖移動剤の使用量が少なすぎると、連鎖移動剤としての効果が不足する傾向がみられ、逆に、多すぎると、塗膜の弾性率が低下する傾向がみられるからである。
【0059】
また、上記pH緩衝剤としては、例えば、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、蟻酸ナトリウム、蟻酸アンモニウム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、アンモニア臭を発生させない点から、アンモニウム塩のものを用いないほうがより好ましい。
【0060】
上記pH緩衝剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100部に対して0.1〜10部であることが好ましく、さらに0.1〜5部であることが好ましい。pH緩衝剤の使用量が少なすぎると、重合調整剤としての効果が不足する傾向がみられ、逆に、多すぎると、反応を阻害する傾向がみられるからである。
【0061】
〈可塑剤および造膜助剤〉
また、上記可塑剤としては、例えば、アジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤等が使用できる。また、沸点が260℃以上の造膜助剤等も使用できる。
【0062】
これら可塑剤や、造膜助剤等の他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、適宜選択することができ、例えば、可塑剤としてはエチレン性不飽和単量体(M)全体100部に対して通常0.1〜50部、造膜助剤としてはエチレン性不飽和単量体(M)全体100部に対して通常0.1〜50部である。
【0063】
《アクリル系エマルジョンの製造》
上記で例示される重合成分から形成されるアクリル系樹脂(W)を分散質として、アクリル系エマルジョンが得られるようになる。
【0064】
アクリル系樹脂(W)は、例えば、上記エチレン性不飽和単量体(M)をアニオン系反応性界面活性剤の存在下にて、上記重合開始剤を用いて乳化重合を行い、単独重合体または共重合体を作製することにより製造される。この重合過程において、アクリル系樹脂(W)を分散質とするアクリル系エマルジョンが製造されるのが一般である。
【0065】
上記重合方法としては、(1)エチレン性不飽和単量体(M)、アニオン系反応性界面活性剤、水等の全量を仕込み、昇温し重合する方法、(2)重合缶に水、アニオン系反応性界面活性剤、エチレン性不飽和単量体(M)の一部を仕込み、昇温し重合した後、残りのエチレン性不飽和単量体(M)を滴下または分割添加して重合を継続する方法、(3)重合缶に水、アニオン系反応性界面活性剤等を仕込んでおき昇温した後、エチレン性不飽和単量体(M)を全量滴下または分割添加して重合する方法等があげられる。中でも、重合温度の制御が容易である点で、上記(2)、(3)の方法が好ましい。また、多段式重合法を採用することも好ましく、多段式重合によって得られるコアシェル型のエマルジョンは、造膜性や機械的物性の向上に寄与するので望ましい。
【0066】
上記(1)〜(3)に示す重合方法における重合条件としては、例えば、上記(1)の重合方法における重合条件として、通常、40〜100℃程度の温度範囲が適当であり、昇温開始後1〜8時間程度反応を行うこと等があげられる。
【0067】
また、上記(2)の重合方法における重合条件としては、エチレン性不飽和単量体(M)の1〜50重量%を通常40〜90℃で0.1〜4時間重合した後、残りのエチレン性不飽和単量体(M)を1〜7時間程度かけて滴下または分割添加して、その後、上記温度で1〜3時間程度熟成すること等があげられる。
【0068】
そして、上記(3)の重合方法における重合条件としては、重合缶に水を仕込み、40〜90℃に昇温し、単量体混合物を2〜7時間程度かけて滴下または分割添加し、その後、上記温度で1〜3時間程度熟成すること等があげられる。
【0069】
上記重合方法において、エチレン性不飽和単量体(M)は、アニオン系反応性界面活性剤(またはアニオン系反応性界面活性剤の一部)をエチレン性不飽和単量体(M)に溶解しておくか、または、予めO/W型の乳化液の状態とすることが重合安定性の点から好ましい。
【0070】
上記予めO/W型の乳化液とする調製方法としては、例えば、水にアニオン系反応性界面活性剤を溶解した後、上記単量体を仕込み、この混合液を撹拌乳化する方法、あるいは水にアニオン系反応性界面活性剤を溶解した後、撹拌しながら上記単量体を仕込む方法等があげられる。
【0071】
上記乳化液の乳化の際の撹拌は、各成分を混合し、ホモディスパー、パドル翼等の撹拌翼を取り付けた撹拌装置を用いて行うことができる。乳化時の温度は、乳化中に混合物が反応しない程度の温度であれば問題なく、通常5〜60℃程度が適当である。
【0072】
《製造されたアクリル系エマルジョン》
このようにして、アクリル系樹脂(W)を分散質とするアクリル系エマルジョンが得られる。
【0073】
アクリル系エマルジョンは、分散質が上記アクリル系樹脂(W)であり、また、分散媒としては、上記アクリル系樹脂(W)が分散質となるような分散媒が好ましい。このような分散媒のなかでも、より好ましいのは水系媒体からなるものである。ここで水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、好ましくは水をいう。
【0074】
また、アクリル系エマルジョンには、必要に応じて、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、酸化防止剤等の各種の添加剤を含有していてもよい。
【0075】
〈平均粒子径〉
上記アクリル系エマルジョン中のアクリル系樹脂(W)の平均粒子径は、100〜500nm、特には100〜400nm、さらには150〜300nmの範囲が好ましい。粒子径が小さすぎると、エマルジョンの粘度が高くなりすぎて、セメント混和時のエマルジョンの分散性が悪くなる傾向がみられ、逆に、粒子径が大きすぎると、塗膜形成時に緻密な塗膜を得ることが難しく、強度の点で好ましくない傾向がみられるからである。この平均粒子径の測定は、光散乱法に基づくものである。
【0076】
このアクリル系樹脂(W)の平均粒子径は、重合時に用いる処方を適宜に調整することにより、所定の範囲内に設定することができ、例えば、アニオン系反応性界面活性剤の使用量や、重合時の撹拌速度等を調整すること等によって、所定範囲に設定することができる。
【0077】
〈ガラス転移温度(Tg)〉
上記アクリル系樹脂(W)のガラス転移温度 (Tg) は、塗膜の低温時の伸びが向上する点から、0〜−70℃の範囲、さらには−10〜−60℃、特には−20〜−40℃であることが好ましい。ガラス転移温度が高すぎると、塗膜の造膜温度が高くなりすぎ、特に冬場での現場施工時に充分な強度を得ることができないという傾向がみられ、低すぎると塗膜のタック発生の原因となる傾向がみられるからである。
【0078】
なお、アクリル系樹脂(W)のガラス転移温度(Tg)は、下記の式(1)に示すFoxの式で算出した値を用いた。
【0079】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+ ・・・ + Wn/Tgn ・・・(1)
【0080】
上記式(1)において、W1からWnは、使用している各単量体の重量分率を示し、Tg1からTgnは、各単量体の単独重合体のガラス転移温度(単位は絶対温度「K」)を示す。また絶対温度は、絶対温度「K」=セルシウス温度「℃」+273.15として計算する。
【0081】
〈不揮発分濃度〉
また、アクリル系エマルジョンの不揮発分濃度(固形分濃度)については、45重量%以上であることが好ましく、さらには45〜75重量%、特には45〜60重量%であることが、安定性、作業性の点で好ましい。なお、上記不揮発分濃度とは、105℃で1時間乾燥した後の不揮発分濃度(固形分濃度)をいう。
【0082】
〈粘度〉
アクリル系エマルジョンの粘度としては、ハンドリングの点で、通常10〜100000mPa・sであることが好ましく、さらには10〜5000mPa・s、特には500〜5000mPa・sであることが好ましい。
【0083】
なお、本発明のエマルジョン組成物には、前記アクリル系エマルジョンに加えて、有機系の表面改質剤や油脂等を、単独でもしくは併用しても差し支えない。
【0084】
〈表面改質剤〉
表面改質剤は、通常セメントの凝結後のチェッキング防止の機能を有するものであるが、本発明においては、ポリエチレンオキサイド系化合物、ポリプロピレンオキサイド系化合物、あるいは前記2つの共重合体であるポリエチレンプロピレンオキサイド系化合物が好ましく、中でもポリエチレンオキサイド系化合物、ポリプロピレンオキサイド系化合物であることが、チェッキング改善には効果的である。配合量は、セメント100部に対して、1〜20部であり、好ましくは2〜15部、さらに好ましくは3〜10部であることが、チェッキング改良には望ましい。
【0085】
〈油脂〉
油脂としては、例えば、大豆油、アマニー油、ヒマシ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、菜種油、サフラワー油、ごま油等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも大豆油、オリーブ油、ごま油、とりわけ大豆油を用いることが、チェッキング改善を妨げず、かつ防水性付与には効果的である。配合量は、アクリル系エマルジョン中のアクリル系樹脂100部に対して、1〜50部であることが好ましく、さらには2〜40部、特には5〜20部、殊には6〜10部であることが、防水性付与には望ましい。
【0086】
さらに、本発明のエマルジョン組成物には、上記以外の他の成分を配合しても良い。例えば、耐寒剤(例えば、塩化カルシウム等)、防水剤(例えば、ステアリン酸等)、防錆剤(例えば、リン酸塩等)、粘度調整剤(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、分散剤(例えば、ポリカルボン酸系、無機リン系等)、消泡剤(例えば、シリコン系、鉱油系等)、防腐剤、補強剤(例えば、鋼繊維、ガラス繊維、合成繊維、炭素繊維等)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0087】
前記アクリル系エマルジョンと、表面改質剤等の添加剤との混合方法は、例えば、アクリル系エマルジョンの重合が終了した後に、添加剤を後添加し、重合缶に撹拌しながら投入して仕込む方法等があげられる。
【0088】
つぎに、本発明のエマルジョン組成物には、前記アクリル系エマルジョンとともに、セメントを用いる。ここで用いられるセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等があげられ、中でもポルトランドセメントが作業性の点から好適である。
【0089】
上記セメントの配合量は、アクリル系エマルジョン中のアクリル系樹脂100部に対して3〜500部であることが好ましく、さらには30〜350部であることが好ましい。
【0090】
また、水の含有量としては、エマルジョン組成物全体に対して5〜50重量%であることが好ましく、さらには10〜30重量%であることが好ましい。
【0091】
さらに、本発明のエマルジョン組成物には、必要に応じて、無機系の、砂、珪砂、寒水砂、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、珪藻土、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ等のポゾラン材料、天然および人工軽量骨材等の各種骨材が、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0092】
このようにして、本発明のエマルジョン組成物、特に塗膜防水材用のエマルジョン組成物(ポリマーセメント組成物)が得られ、この塗膜防水材用組成物をローラー、左官刷毛またはコテで塗布したり、またはスプレーによる吹き付け施工したりすることにより、塗膜防水材を形成することができる。
【0093】
上記塗膜防水材が形成される対象物としては、例えば、モルタル、コンクリート、鉄板、アスファルト等からなる建築物の屋上、勾配屋根、外壁、庇、ベランダ、ルーフバルコニー、外部廊下、階段、建築物の地下埋め戻し部分、地下打ち継ぎ部、地下ピットや雑排水槽、防火水槽等の屋内または地下水槽、サッシ枠周りの防水部、上水道の貯水槽等があげられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
なお、以下の各実施例において示す「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」の意味である。
【0096】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示すエマルジョン組成物(セメント不含)を調製した。
【0097】
<エマルジョン組成物1(セメント不含)(実施例用)の調製>
予め容器に、水200.0部、前記一般式(8)で表される構造を有する(R1=炭素数10〜14のアルキル基、n=10、X=SO3Na)アニオン系反応性界面活性剤a(ADEKA社製、アデカリアソープSR−10S)8.0部、重炭酸ナトリウム0.5部、アクリロニトリル6.0部、メチルメタクリレート39.0部、ブチルアクリレート150.0部を秤量し、単量体乳化混合液(1)を調製した。
【0098】
つぎに別の容器に、水300.0部、上記アニオン系反応性界面活性剤a30.0部、重炭酸ナトリウム2.0部、アクリル酸4.0部、アクリロニトリル25.0部、メチルメタクリレート210.0部、ブチルアクリレート270.0部、2−エチルヘキシルアクリレート270.0部を秤量し、単量体乳化混合液(2)を調製した。
【0099】
つぎに、温度計、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えたガラス製反応容器に、水250部を充填した。
【0100】
そして、先に調製した単量体乳化混合液(1)の15%を、上記ガラス製反応容器に加え、80℃に昇温し、80℃昇温の後、10%過硫酸ナトリウム(重合開始剤)水溶液11.04部を、上記ガラス製反応容器に添加し反応させた(初期重合)。30分後、残りの単量体乳化混合液(1)と、10%過硫酸ナトリウム6.6部とを混合した状態で、30分にわたってガラス製反応容器に滴下し、80℃で重合を行った(1段目重合)。他方、先に調製した単量体乳化混合液(2)の全量と、10%過硫酸ナトリウム32.0部とを混合して混合液をつくった。そして、上記1段目重合したものを、そのまま30分撹拌した後、上記混合液を、150分にわたってガラス製反応容器に滴下し、80℃で重合を行った(2段目重合)。30分間熟成を行い、重合を完結させ、アクリル系樹脂(ガラス転移温度:−30℃)を得た。つぎに、これを室温(25℃)まで冷却した後、防腐剤(SO JAPAN社製、ACTICIDE)3.68部、防腐剤(Clariant社製、Nipacide BIT20LC)0.96部、中和剤(苛性ソ−ダ)2.35部を添加し、さらに水を添加して、不揮発分(固形分)を52.0%、pH=7〜10に調整し、アクリル系エマルジョンを得た(平均粒子径:180nm、粘度:1900mPa・s)。このようにして、アクリル系エマルジョンを含有し、セメントは不含のエマルジョン組成物を調製した。
【0101】
<エマルジョン組成物2(比較例用)の調製>
ナトリウム塩型のアニオン系反応性界面活性剤a(ADEKA社製、アデカリアソープSR−10S)に代えて、アンモニウム塩型のアニオン系反応性界面活性剤を用いた。すなわち、前記一般式(10)で表される構造を有する(R1=炭素数10〜14のアルキル基、n=10、X=SO3NH4)アニオン系反応性界面活性剤b(ADEKA社製、アデカリアソープSR−10)を用いる以外は、エマルジョン組成物1と同様にして、アクリル系エマルジョンを得た(平均粒子径:180nm、粘度:1900mPa・s)。このようにして、アクリル系エマルジョンを含有し、セメントは不含のエマルジョン組成物を調製した。
【0102】
〔実施例1、比較例1〕
つぎに、上記各エマルジョン組成物(セメント不含)と、セメントとを用い、両者の混和液からなる塗膜防水材用エマルジョン組成物(ポリマーセメント組成物)を調製して、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。その結果を、下記の表1に併せて示した。
【0103】
《臭気評価基準》
各エマルジョン組成物(セメント不含)と、セメントとの混和液〔(エマルジョン/セメント=1:1(重量比)〕を調製した。これを、幅25cm×奥行き25cm×厚み2mmの型枠に流し込み、塗布面より10cmの距離に、鼻を近づけ臭気を確認した。
【0104】
《塗膜の伸度評価基準》
各エマルジョン組成物(セメント不含)と、セメントとの混和液〔(エマルジョン/セメント=1:1(重量比)〕を調製した。これを、幅25cm×奥行き25cm×厚み2mmの型枠に流し込み、温度20℃±2℃、湿度65%±10%で養生を行った。材齢7日の塗膜を2号ダンベルの形に打ち抜いた。万能試験機で、チャック間距離60mmでダンベルを挟み、200mm/minのスピードで引っ張り試験を行った。伸張開始点と、ダンベルが破断した点との差を破断点距離〔伸び〕(mm)とし、下記の式(2)を用いて、塗膜の伸度(%)を算出した。
【0105】
伸度(%)=〔破断点距離(mm)/伸張開始時のチャック間距離(60mm)〕×100…(2)
【0106】
【表1】

【0107】
表1の結果より、ナトリウム塩型のアデカリアソープSR−10Sを用いた実施例1品は、セメント中のカルシウムイオンとイオン交換を起さないため、臭気成分の発生がなく、無臭であった。これに対して、比較例1品は、アンモニウム塩型のアデカリアソープSR−10と、セメント中のカルシウムイオンとがイオン交換を起し、副生成物のアンモニアが発生した。
【0108】
また、実施例1品は、比較例1品よりも塗膜の伸度が向上していることが分かる。すなわち、アンモニウム塩を使用した比較例1品は、セメント中のカルシウムイオンとイオン交換を起し、キレートを形成するのに対して、ナトリウム塩を使用した実施例1品は、キレートを形成することがない。そのため、実施例1品は、分子運動の抑制がなく、外部応力に対して、追随する運動性を獲得することから、塗膜の伸度が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のエマルジョン組成物は、土木・建築分野において有用であり、特に、塗膜防水材用組成物として、建築物の屋上、勾配屋根、ベランダ、ルーフバルコニー、外壁、庇、外部廊下、階段、建築物の地下埋め戻し部分、地下打ち継ぎ部、地下ピットや雑排水槽、防火水槽等の屋内または地下水槽、サッシ枠周りの防水部、上水道の貯水槽、床や地下鉄の周壁等の防水工事において使用することが非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系エマルジョンおよびセメントを含有してなるエマルジョン組成物であって、アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂が、エチレン性不飽和基と一価の金属塩とを含有するアニオン系反応性界面活性剤の存在する状態で、エチレン性不飽和単量体を重合してなる樹脂であることを特徴とするエマルジョン組成物。
【請求項2】
アニオン系反応性界面活性剤中の一価の金属塩が、ナトリウム塩であることを特徴とする請求項1記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
アクリル系エマルジョンを構成するアクリル系樹脂のガラス転移温度が、−20〜−40℃であることを特徴とする請求項1または2記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
塗膜防水材に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物を含有してなることを特徴とする塗膜防水材。

【公開番号】特開2011−46546(P2011−46546A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194623(P2009−194623)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】