エロージョン予測評価方法
【課題】複雑な配管流路に適用可能で、定量的な評価を高精度に行うことができるエロージョン予測評価方法を提供する。
【解決手段】流れ場計算ステップ11により、配管の入口から出口までの蒸気の流れ場を、Eulerian−lagrangian法でK−ω乱流モデルを使用して、二相流解析により求める。また、蒸気の流れ場として、蒸気の過冷却度および液滴生成率も求める。次に、液滴生成ステップ12により、求められた流れ場の中で、過冷却度および液滴生成率のうち少なくとも一方が、それぞれ予め設定された臨界値以上となる位置に、液滴を挿入する。衝突計算ステップ13により、挿入された液滴の成長を考慮しつつ、液滴の配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度等の物理量を求める。エロージョン評価ステップ14により、求められた物理量に基づいて、配管内壁のエロージョン率を計算し、エロージョンの評価を行う。
【解決手段】流れ場計算ステップ11により、配管の入口から出口までの蒸気の流れ場を、Eulerian−lagrangian法でK−ω乱流モデルを使用して、二相流解析により求める。また、蒸気の流れ場として、蒸気の過冷却度および液滴生成率も求める。次に、液滴生成ステップ12により、求められた流れ場の中で、過冷却度および液滴生成率のうち少なくとも一方が、それぞれ予め設定された臨界値以上となる位置に、液滴を挿入する。衝突計算ステップ13により、挿入された液滴の成長を考慮しつつ、液滴の配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度等の物理量を求める。エロージョン評価ステップ14により、求められた物理量に基づいて、配管内壁のエロージョン率を計算し、エロージョンの評価を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エロージョン予測評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などの発電プラントでは、配管等の内壁の肉厚が減少する減肉現象が発生する。ここで、減肉とは、高速流動・腐食(エロージョン・コロージョン)その他の要因により、配管内部の材料組織が侵食される現象であり、最終的には配管に穴が開いて破断に至ることもある。特に、発電プラントでは、配管が非常に複雑な形状を有し、なおかつ高温・高速という非常にシビアな条件で配管内流動が行われているため、減肉現象が発生しやすい。このため、発電プラントでは、減肉現象を事前に予測して事故を未然に防止することが、非常に重要な課題となっている。減肉現象の発生箇所を事前に予測することにより、その予測箇所に対して集中的に保守・点検、安全対策を行うことができるとともに、保守・点検に要する時間的・人的コストを大幅に軽減化することができ、安全性の高い発電プラントの運用を効率よく行うこともできる。
【0003】
発電プラントの配管の減肉現象は、主に液滴衝撃エロージョン(LDI:Liquid Drop Impingement)が原因であると考えられる。LDIは、秒速100m以上にもなる高速蒸気中に混ざった液滴が配管壁に衝突し、その衝撃力で機械的に減肉が起こる現象であり、配管の曲がり部分(エルボー)や絞り部分(オリフィス)で発生しやすい。このLDIを引き起こす液滴は、配管内では以下のようにして生成される。例えば、配管内の高圧蒸気流が、高速でオリフィスを通過する時、配管の急速拡大によって、非平衡な凝縮現象が発生する。このとき、流れてくる蒸気は高い湿り度を持っているため、オリフィスを通過する時、二次核化(secondary nucleation)現象が発生し、この二次核化現象により液滴が生成される。
【0004】
従来、このような液滴衝撃エロージョン(LDI)の評価システムとして、配管系全体の蒸気の流速・湿り度・液滴径などの流動状体の分布を把握し、評価対象とする局所的箇所における液滴の挙動を計算し、液滴が配管に衝突する割合を求め、これらの結果に基づいてLDI発生の可能性(減肉可能性)を評価するものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
なお、現在、湿り蒸気流の二相流数値計算方法として、主にEulerian-lagrangian法、Fully Eulerian法、Moment based法の3つが用いられている。これらのうちEulerian-lagrangian法は、Fully Eulerian法およびMoment法に比べて、計算時間はかかるが、より直観的な運動軌跡を取得することができ、液滴の衝突、成長、跳ね返りなどの現象を、より便利に計算することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森田良、「液滴衝撃エロージョン評価システムの構築」、電力中央研究所報告、平成20年6月、研究報告:L07017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の液滴衝撃エロージョン評価システムは、単純な解析モデルにしか適用できないため、発電プラントの実際の複雑な配管流路に対して適用することができないという課題があった。また、減肉については定性的な評価しか得られず、エロージョンの定量的な評価ができないという課題もあった。液滴の粒径が一定であるとして計算しており、計算精度が低いという課題もあった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、複雑な配管流路に適用可能で、定量的な評価を高精度に行うことができるエロージョン予測評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るエロージョン予測評価方法は、配管内を通過する蒸気による配管内壁のエロージョンを予測または評価するエロージョン予測評価方法であって、前記配管の入口から出口までの、前記蒸気の過冷却度と液滴生成率とを含む前記蒸気の流れ場を二相流解析により求める流れ場計算ステップと、前記流れ場計算ステップで求められた前記過冷却度および前記液滴生成率のうち少なくとも一方がそれぞれ予め設定された臨界値以上となる前記流れ場の位置に液滴を挿入する液滴生成ステップと、前記液滴生成ステップで挿入された前記液滴の成長を考慮しつつ、前記液滴の前記配管内壁への衝突時の物理量を求める衝突計算ステップと、前記衝突計算ステップで求められた前記物理量に基づいて、前記配管内壁のエロージョンを評価するエロージョン評価ステップとを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るエロージョン予測評価方法は、流れ場の中での液滴の生成および成長を考慮して計算を行うため、配管内での液滴の挙動を高精度で求めることができる。また、高精度で求められた液滴の配管内壁への衝突時の物理量に基づいて、配管内壁のエロージョンを求めることができ、エロージョンの定量的な評価を高精度に行うことができる。
【0011】
適用モデルに制限がなく、複雑な配管流路にも適用可能である。このため、実際の発電プラントの配管に適用して、エロージョンの発生箇所を事前に予測することができる。予測されたエロージョンの発生箇所に対して、集中的に保守・点検、安全対策を行うことにより、発電プラントの保守・点検に要する時間的・人的コストを大幅に軽減化することができる。また、エロージョンによる事故を未然に防止することができ、極めて安全性の高い発電プラントの運用を行うことができる。
【0012】
蒸気の過冷却度または液滴生成率を利用するため、実際に液滴が生成される流れ場の位置に、精度良く液滴を挿入することができる。過冷却度および液滴生成率のそれぞれの臨界値は、実験や過去のデータ等に基づいて設定されることが好ましい。
【0013】
二相流解析には、Eulerian-lagrangian法、Fully Eulerian法、Moment based法などの、湿り蒸気流の二相流数値計算方法を用いることが好ましい。流れ場に挿入された液滴の配管内壁への衝突時の物理量は、例えば、衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度などである。
【0014】
本発明に係るエロージョン予測評価方法で、前記配管は原子炉配管であり、前記流れ場計算ステップは、Eulerian−lagrangian法によりK−ω乱流モデルを使用して二相流解析を行い、前記蒸気の流れ場を求めることが好ましい。この場合、特に高精度に流れ場を求めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複雑な配管流路に適用可能で、定量的な評価を高精度に行うことができるエロージョン予測評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、シミュレーションモデルのmeshAを示す(a)全体斜視図、(b)入口付近の拡大側面図、(c)オリフィス付近の拡大端面図、(d)エルボー部付近の拡大端面図である。
【図3】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、シミュレーションモデルのmeshBを示す(a)全体斜視図、(b)入口付近の拡大側面図、(c)オリフィス付近の拡大端面図、(d)エルボー部付近の拡大端面図である。
【図4】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、シミュレーションの境界条件を示すモデルの側面図である。
【図5】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力が100kPaのときの、meshAの流れ場の(a)速度U、(b)圧力P、(c)温度T、(d)過冷却度ΔTの計算結果を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力が100kPaのときの、meshBの流れ場の(a)速度U、(b)圧力P、(c)温度T、(d)過冷却度ΔTの計算結果を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力が100kPaのときの(a)meshBのオリフィス出口付近の流れ場の過冷却度ΔTの計算結果を示す拡大断面図、(b)meshAのオリフィス出口付近の流れ場の過冷却度ΔTの計算結果を示す拡大断面図、(c)meshBのオリフィスから50mmの位置の流れ場の過冷却度ΔTの計算結果を示す横断面図である。
【図8】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力pに対する最大過冷却度ΔTmaxの変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、meshAにおける(a)挿入された液滴の直径dの計算結果を示す断面図、(b)エロージョン率Eの計算結果を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、meshBにおける(a)挿入された液滴の直径dの計算結果を示す断面図、(b)エロージョン率Eの計算結果を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、エロージョン最大値の発生位置の表示方法を示すモデルの側面図である。
【図12】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshAの液滴の軌跡の計算結果を示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshBの液滴の軌跡の計算結果を示す断面図である。
【図14】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshAのエロージョン率Eの計算結果を示す断面図である。
【図15】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshBのエロージョン率Eの計算結果を示す断面図である。
【図16】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径dに対する最大衝突速度maxUnの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至図16は、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法を示している。本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、発電プラントなどの配管内を通過する蒸気による配管内壁のエロージョンを予測または評価するのに使用される。
以下、図1に従って、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法について説明する。また、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法による計算の実施例として、図2および図3に示す、meshA(くさび型オリフィス)およびmeshB(テーパー型オリフィス)の2つの配管モデルに対してシミュレーションを行い、その結果も合わせて示す。なお、シミュレーション計算には、スーパーコンピュータを使用した。
【0018】
図1(a)に示すように、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、流れ場計算ステップ11と液滴生成ステップ12と衝突計算ステップ13とエロージョン評価ステップ14とを有している。
【0019】
[流れ場計算ステップ]
まず、流れ場計算ステップ11により、配管の入口から出口までの蒸気の流れ場を、Eulerian−lagrangian法を使用して二相流解析により求める。蒸気の流れ場として、meshAおよびmeshBの各配管モデルに対して、蒸気の速度、温度、圧力、過冷却度、液滴生成率等を求める。このとき、まず、モデル中の各格子セルでの蒸気の速度、温度、圧力等を、(1)式の質量保存方程式、(2)式の運動量保存方程式、(3)式のエネルギー保存方程式、(4)式の状態方程式、(7)式および(8)式のK−ω乱流モデルを使用して求める(図1(b)のステップ21)。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
【数3】
【0023】
ここで、(1)式、(2)式、(3)式中のソース項Sm、Su、Shは、それぞれ液滴と蒸気との間の質量交換、運動量交換、およびエネルギー交換である。なお、(5)式中のマイナス記号は、ガスから減ることを意味する。(6)式の右辺の三つの項は、それぞれエンタルピー、表面エンタルピー、運動エネルギーを表す。
【0024】
次に、各モデル中で液滴が生成する位置を求めるために、各モデル中での蒸気の過冷却度(サブクール度)および液滴生成率(液滴凝縮核生成率)を求める(図1(b)のステップ22)。蒸気の過冷却度を求めるために、Kelvin−Helmholtzの定義による臨界半径の式である(9)式を使用する。ここで、表面張力σ、過飽和度は、IAPWS97公式で計算することができる。また、蒸気の液滴生成率を求めるために、(10)式の液滴生成率の式を使用する。蒸気の過冷却度および液滴生成率の計算方法としては、まず、各モデルの流路の入口から追跡粒子を挿入する。追跡粒子は、求められた蒸気の速度、温度、圧力等の流れ場での流線にそって運動する。図2および図3に示す格子セルのうち、追跡粒子が位置する格子セルで、(9)式および(10)式を使用して過冷却度および液滴生成率を計算する。
【0025】
【数4】
【0026】
【数5】
【0027】
なお、図4に示すように、計算時の境界条件を、以下の通りとする。
速度境界条件:入口流速1.8m/s;壁面上の速度は0;出口はゼロ勾配。
圧力境界条件:入口はゼロ勾配;壁面はゼロ勾配;出口は、24.7kPa、54.7kPa、89.7kPa、100kPaの4通り。
温度境界条件:入口380K;壁面はゼロ勾配;出口はゼロ勾配。
k境界条件: 入口固定値1e−6。
壁面はゼロ勾配;出口はゼロ勾配。
omega境界条件: 入口1e−6
壁面はゼロ勾配;
出口はゼロ勾配。
【0028】
実際の計算では、まず出口圧力を調整し、液滴が生成される境界条件を探し出した。計算には、4つの出口圧力値24.7kPa、54.7kPa、89.7kPa、100kPaを用いた。このときの計算結果を、表1および図5乃至図8に示す。表1には、各モデルでの境界条件(入口流速U、入口温度T、出口圧力p)と、計算により求められた各モデル中での蒸気の最大流速Umax、最高温度Tmax、最大圧力pmax、および、最大過冷却度ΔTmaxを示す。
【0029】
【表1】
【0030】
図5および図6に示すように、蒸気は入口から流れ込み、オリフィスで圧縮加速され、オリフィスの出口で膨張する。この過程で、蒸気の圧力および温度は、総じて低下する一方である。発電プラントで使用する水は全部高純度であるため、蒸気の状態は飽和線を超える場合でも凝縮核を有さず、すぐ凝縮しない可能性がある。このため、蒸気は、過冷却度ΔT>0の過冷却状態になる可能性がある。過冷却度ΔTが大きくなると、過冷蒸気の液滴生成率Jも大きくなる。液滴生成率Jが臨界値を越えると、蒸気が凝縮する。ここでは、過冷蒸気が液滴になる臨界液滴生成率として、最もよく使用されるJ=1015を使用する。なお、過冷蒸気が液滴になる条件として、過冷却度ΔTの臨界値を設定してもよい。凝縮すると、蒸気には多くの小さい液滴ができ、これらが凝縮核となる。同時に、過冷却度ΔT>0であるため、生成された小さい液滴は次第に大きく成長する。
【0031】
図7(a)に示すように、meshBの出口圧力pは、100kPaである時に過冷却度ΔTのスカラー場である。オリフィス出口の周りで、ΔTは最大値35.83Kに達し、オリフィス出口の下流領域の軸中心付近で、高過冷却度領域を形成する。図7(c)に示すオリフィスから50mm距離の過冷却度の様子が、この特徴をはっきり示している。また、meshAの各圧力条件およびmeshBの他の圧力条件下の計算結果も、類似な現象を示している。
【0032】
表1および図8に示すように、圧力が54.7kPaの場合、meshA、meshBの最大過冷却度は全て30K以下となる。この場合、meshBの最大過冷却度はmeshAより大きい。しかし、圧力が89.7kPaまで増加すると、meshAの最大過冷却度はmeshBを超える。出口圧力p=100kPaの計算結果を見ると、meshAおよびmeshBの過冷却度は全て36K或いは36K以上になり、凝縮現象が発生する。従って、出口圧力が100kPaである時、液滴が生成される。出口圧力p<89.4kPaのとき、J<1015であるため、液滴は生成されない。
【0033】
なお、入口圧力調整の計算で、圧力増加が最大温度および最大速度に与える影響は小さく、その変化率は2%以内であることがわかった。表1に示すように、meshAの場合、最大速度は24.7kPa時の546m/sから557m/sまで、最高温度は411Kから410Kまでであった。meshBの場合、最大速度は500m/sから482m/sまで、最大温度は427Kから402Kまでであった。
【0034】
[液滴生成ステップ]
次に、液滴生成ステップ12により、求められた流れ場の中で、液滴生成率が予め設定された臨界値以上となる位置に、液滴を挿入する(図1(b)のステップ23)。液滴の挿入方法としては、液滴生成率が臨界値以上になる時、その格子セルの中心に1つの液滴の粒子群を挿入する。なお、液滴生成率の臨界値として、最もよく使用される J=1×1015を使用する。1つの粒子群が含む粒子数目は、(13)式により求める。
【0035】
【数6】
【0036】
また、流れ場に挿入された液滴の運動方程式は(14)式で表される。ここで、md、ud、Fはそれぞれ液滴の質量、速度と圧力である(添字d=disperse)。抗力と重力とを考慮した液滴が受ける力は、(15)式となる。ここで、CDは抗力係数、uは連続相の速度、gは重力加速度である。(14)式〜(17)式より、液滴の運動方程式は(18)式になる。ここで、τuは運動量緩和時間と呼ばれている。実際の計算では、流れ場に挿入された液滴の速度を、その格子セルの流れ場速度値と同じとし、その液滴の運動方程式として、(18)式を使用する。
【0037】
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
なお、挿入された液滴(粒子)の境界条件は、以下の通りとする。
入口、出口:粒子が入口、或は出口と衝突したら、粒子が粒子群から除外される。
壁面:弾性衝突境界条件。粒子は壁面と弾性衝突すると仮定する。
【0040】
[衝突計算ステップ]
次に、衝突計算ステップ13により、挿入された液滴の成長を考慮しつつ、液滴の配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度等の物理量を求める。流れ場に挿入した液滴成長の計算は、液滴成長係数を1000として、(20)式の液滴成長式を使用して行う。この計算は、具体的には、まず、液滴の存在する格子セル中で、液滴成長および液滴粒子のエンタルピーを求め(図1(b)のステップ24)、さらに、基礎方程式{(1)〜(3)式}中に表れる(5)式のソース項(生成項)Sm、Su、Shを求める(図1(b)のステップ25)。次に、その計算結果に基づいて、(18)式に従って液滴が移動する格子セルにおいて、同様に液滴成長、液滴粒子のエンタルピー、ソース項を求め、これを液滴がモデルの出口に至るまで繰り返す。その計算過程において、配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度等が求まる。なお、実際の計算時には、液滴の最大直径を2mmに制限している。また、液滴は、成長するだけでなく、計算結果によっては収縮することもある。
【0041】
【数9】
【0042】
各モデルでの液滴の挿入位置および液滴の大きさの計算結果を、図9(a)および図10(a)に示す。図9(a)および図10(a)に示すように、液滴は、オリフィス収縮部の最も断面積が小さい部分の管軸中央に挿入されている。また、配管内壁への液滴の衝突位置を図11に示す角度αで表すと、液滴の衝突位置は、meshAでα=72.83度、meshBでα=78.68度であった。また、衝突時の液滴の法線方向最大衝突速度は、meshAでUnmax=511.16m/s、meshBでUnmax=445.38m/sであった。
【0043】
[エロージョン評価ステップ]
次に、エロージョン評価ステップ14により、求められた物理量に基づいて、配管内壁のエロージョン率を計算し、エロージョンの評価を行う。配管内壁のエロージョン率の計算には、(23)式を使用する。なお、エロージョンの計算には、(24)式を使用してもよい。
【0044】
【数10】
【0045】
【数11】
【0046】
エロージョン率の計算結果を、図9(b)および図10(b)に示す。図9(b)および図10(b)に示すように、エロージョン率は、meshAの液滴の衝突位置(α=72.83度)で、E=9.14e−2kg/s、meshBの液滴の衝突位置(α=78.68度)で、E=4.0e−2kg/sであった。
【0047】
以上のシミュレーション結果から、各モデルに関して以下のことが確認された。まず、出口圧力が高いほど、凝縮現象が起こる可能性が高くなる。出口圧力が90kPa以下と低い場合、meshAはmeshBよりも、凝縮現象の発生する確率が低く、生成される液滴の粒径が小さく、配管のエルボー部に衝突する液滴の速度も小さくなる。このことから、くさび型のオリフィスを用いた方が、テーパー型のオリフィスを用いるよりも、エロージョン率を低減することができる。
【0048】
また、出口圧力が90kPa以上と大きい場合、meshAはmeshBよりも、凝縮現象が発生する確率が高く、液滴の成長速度が速く、生成される液滴の粒径が大きく、配管のエルボー部に衝突する液滴の速度も大きくなる。このことから、テーパー型のオリフィスを用いた方が、くさび型のオリフィスを用いるよりも、エロージョン率を低減することができる。
【0049】
本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、シミュレーションを行ったmeshAおよびmeshBのモデルに限らず、様々な配管流路にも適用可能であり、適用モデルに制限がない。例えば、テーバー型およびくさび型以外の形状を有するオリフィスや、エルボー部、配管径が変化する場所を有する配管流路など、液滴の発生が予想される様々な配管流路に対して適用することができる。
【0050】
[比較例−液滴粒径固定モデル]
次に、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例として、挿入する液滴の粒径を固定し、液滴が成長も収縮もしない場合について計算を行った。計算は、挿入する液滴には液滴成長式の(20)式を使用せず、所定の粒径の液滴を挿入し、運動中は液滴の粒径が変化しないものとした。それ以外の計算過程は、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法と同じである。すなわち、計算には、p=100kPa時の流れ場の計算結果を採用し、挿入された液滴の運動方程式には(18)式を使用し、エロージョン率の計算には(23)式を使用する。
【0051】
挿入される液滴として、直径D=0.2mm、0.5mm、1mmの3つの粒径を採用して計算を行った。なお、液滴が流れ場に与える影響は考慮しない。計算結果を表2および図12乃至図16に示す。ここで、Unmaxは、液滴が壁面と衝突する時の法線方向速度である。また、衝突角度αは、図11に示す角度である。
【0052】
【表2】
【0053】
表2および図16に示すように、液滴の粒径Dは、液滴の衝突位置(衝突角度α)、すなわちエロージョン率最大値の位置に影響しないが、液滴が壁面に衝突するときの法線方向の速度Unmaxに大きく影響している。例えば、液滴の直径D=1mmのとき、法線方向の衝突速度は、meshAでUnmax=200.58m/s、meshBでUnmax=203.39m/sに達している。また、液滴の直径D=1mmのとき、エロージョン率は、meshAでE=2.36e−5kg/s、meshBでE=1.08e−3kg/sであった。なお、図12および図13に示すように、液滴は、オリフィス収縮部の最も断面積が小さい部分の管軸中央に入されている。
【0054】
この比較例の計算結果と、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法による計算結果とを比べると、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の方が、液滴の法線方向最大衝突速度が大きくなっており、エロージョン率も大きくなっている。また、meshBでは、液滴の衝突位置(エロージョン位置)も若干ずれている。本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法では、流れ場の中での液滴の生成および成長を考慮して計算を行っているため、配管内での液滴の挙動をより高精度で求めることができる。また、このようにして高精度で求められた液滴の配管内壁への衝突時の物理量に基づいて、配管内壁のエロージョン率を求めるため、エロージョンの定量的な評価を高精度に行うことができる。
【0055】
本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、流れ場計算ステップ11により、(10)式を用いて配管内での液滴生成率Jの分布を求め、液滴生成ステップ12により、J=1015以上となる位置に液滴を挿入し、衝突計算ステップ13により、(20)式を用いて運動中の液滴の成長を計算しつつ、液滴の配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度を求め、エロージョン評価ステップ14により、(23)式を用いて液滴衝突位置での配管内壁のエロージョン率を求めている。これにより、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、配管内の流れ場中での液滴の生成および成長を考慮して、配管内壁のエロージョン率を求めることができ、エロージョンの定量的な評価を行うことができる。
【0056】
本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法によれば、原子力発電所等の実際の発電プラントの配管系および高速熱流動を、スーパーコンピュータ上に再現することができ、定量的な評価を高精度に行って、トラブルの発生箇所や原因、配管の侵食状態を事前に予測することができる。予測されたエロージョンの発生箇所に対して、配管の破断などのトラブル発生前に、集中的に保守・点検、安全対策を行うことにより、発電プラントの保守・点検に要する時間的・人的コストを大幅に軽減化することができる。また、エロージョンによる事故を未然に防止することができ、極めて安全性の高い発電プラントの運用を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
11 流れ場計算ステップ
12 液滴生成ステップ
13 衝突計算ステップ
14 エロージョン評価ステップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エロージョン予測評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などの発電プラントでは、配管等の内壁の肉厚が減少する減肉現象が発生する。ここで、減肉とは、高速流動・腐食(エロージョン・コロージョン)その他の要因により、配管内部の材料組織が侵食される現象であり、最終的には配管に穴が開いて破断に至ることもある。特に、発電プラントでは、配管が非常に複雑な形状を有し、なおかつ高温・高速という非常にシビアな条件で配管内流動が行われているため、減肉現象が発生しやすい。このため、発電プラントでは、減肉現象を事前に予測して事故を未然に防止することが、非常に重要な課題となっている。減肉現象の発生箇所を事前に予測することにより、その予測箇所に対して集中的に保守・点検、安全対策を行うことができるとともに、保守・点検に要する時間的・人的コストを大幅に軽減化することができ、安全性の高い発電プラントの運用を効率よく行うこともできる。
【0003】
発電プラントの配管の減肉現象は、主に液滴衝撃エロージョン(LDI:Liquid Drop Impingement)が原因であると考えられる。LDIは、秒速100m以上にもなる高速蒸気中に混ざった液滴が配管壁に衝突し、その衝撃力で機械的に減肉が起こる現象であり、配管の曲がり部分(エルボー)や絞り部分(オリフィス)で発生しやすい。このLDIを引き起こす液滴は、配管内では以下のようにして生成される。例えば、配管内の高圧蒸気流が、高速でオリフィスを通過する時、配管の急速拡大によって、非平衡な凝縮現象が発生する。このとき、流れてくる蒸気は高い湿り度を持っているため、オリフィスを通過する時、二次核化(secondary nucleation)現象が発生し、この二次核化現象により液滴が生成される。
【0004】
従来、このような液滴衝撃エロージョン(LDI)の評価システムとして、配管系全体の蒸気の流速・湿り度・液滴径などの流動状体の分布を把握し、評価対象とする局所的箇所における液滴の挙動を計算し、液滴が配管に衝突する割合を求め、これらの結果に基づいてLDI発生の可能性(減肉可能性)を評価するものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
なお、現在、湿り蒸気流の二相流数値計算方法として、主にEulerian-lagrangian法、Fully Eulerian法、Moment based法の3つが用いられている。これらのうちEulerian-lagrangian法は、Fully Eulerian法およびMoment法に比べて、計算時間はかかるが、より直観的な運動軌跡を取得することができ、液滴の衝突、成長、跳ね返りなどの現象を、より便利に計算することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森田良、「液滴衝撃エロージョン評価システムの構築」、電力中央研究所報告、平成20年6月、研究報告:L07017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の液滴衝撃エロージョン評価システムは、単純な解析モデルにしか適用できないため、発電プラントの実際の複雑な配管流路に対して適用することができないという課題があった。また、減肉については定性的な評価しか得られず、エロージョンの定量的な評価ができないという課題もあった。液滴の粒径が一定であるとして計算しており、計算精度が低いという課題もあった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、複雑な配管流路に適用可能で、定量的な評価を高精度に行うことができるエロージョン予測評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るエロージョン予測評価方法は、配管内を通過する蒸気による配管内壁のエロージョンを予測または評価するエロージョン予測評価方法であって、前記配管の入口から出口までの、前記蒸気の過冷却度と液滴生成率とを含む前記蒸気の流れ場を二相流解析により求める流れ場計算ステップと、前記流れ場計算ステップで求められた前記過冷却度および前記液滴生成率のうち少なくとも一方がそれぞれ予め設定された臨界値以上となる前記流れ場の位置に液滴を挿入する液滴生成ステップと、前記液滴生成ステップで挿入された前記液滴の成長を考慮しつつ、前記液滴の前記配管内壁への衝突時の物理量を求める衝突計算ステップと、前記衝突計算ステップで求められた前記物理量に基づいて、前記配管内壁のエロージョンを評価するエロージョン評価ステップとを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るエロージョン予測評価方法は、流れ場の中での液滴の生成および成長を考慮して計算を行うため、配管内での液滴の挙動を高精度で求めることができる。また、高精度で求められた液滴の配管内壁への衝突時の物理量に基づいて、配管内壁のエロージョンを求めることができ、エロージョンの定量的な評価を高精度に行うことができる。
【0011】
適用モデルに制限がなく、複雑な配管流路にも適用可能である。このため、実際の発電プラントの配管に適用して、エロージョンの発生箇所を事前に予測することができる。予測されたエロージョンの発生箇所に対して、集中的に保守・点検、安全対策を行うことにより、発電プラントの保守・点検に要する時間的・人的コストを大幅に軽減化することができる。また、エロージョンによる事故を未然に防止することができ、極めて安全性の高い発電プラントの運用を行うことができる。
【0012】
蒸気の過冷却度または液滴生成率を利用するため、実際に液滴が生成される流れ場の位置に、精度良く液滴を挿入することができる。過冷却度および液滴生成率のそれぞれの臨界値は、実験や過去のデータ等に基づいて設定されることが好ましい。
【0013】
二相流解析には、Eulerian-lagrangian法、Fully Eulerian法、Moment based法などの、湿り蒸気流の二相流数値計算方法を用いることが好ましい。流れ場に挿入された液滴の配管内壁への衝突時の物理量は、例えば、衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度などである。
【0014】
本発明に係るエロージョン予測評価方法で、前記配管は原子炉配管であり、前記流れ場計算ステップは、Eulerian−lagrangian法によりK−ω乱流モデルを使用して二相流解析を行い、前記蒸気の流れ場を求めることが好ましい。この場合、特に高精度に流れ場を求めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複雑な配管流路に適用可能で、定量的な評価を高精度に行うことができるエロージョン予測評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、シミュレーションモデルのmeshAを示す(a)全体斜視図、(b)入口付近の拡大側面図、(c)オリフィス付近の拡大端面図、(d)エルボー部付近の拡大端面図である。
【図3】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、シミュレーションモデルのmeshBを示す(a)全体斜視図、(b)入口付近の拡大側面図、(c)オリフィス付近の拡大端面図、(d)エルボー部付近の拡大端面図である。
【図4】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、シミュレーションの境界条件を示すモデルの側面図である。
【図5】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力が100kPaのときの、meshAの流れ場の(a)速度U、(b)圧力P、(c)温度T、(d)過冷却度ΔTの計算結果を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力が100kPaのときの、meshBの流れ場の(a)速度U、(b)圧力P、(c)温度T、(d)過冷却度ΔTの計算結果を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力が100kPaのときの(a)meshBのオリフィス出口付近の流れ場の過冷却度ΔTの計算結果を示す拡大断面図、(b)meshAのオリフィス出口付近の流れ場の過冷却度ΔTの計算結果を示す拡大断面図、(c)meshBのオリフィスから50mmの位置の流れ場の過冷却度ΔTの計算結果を示す横断面図である。
【図8】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、出口圧力pに対する最大過冷却度ΔTmaxの変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、meshAにおける(a)挿入された液滴の直径dの計算結果を示す断面図、(b)エロージョン率Eの計算結果を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、meshBにおける(a)挿入された液滴の直径dの計算結果を示す断面図、(b)エロージョン率Eの計算結果を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の、エロージョン最大値の発生位置の表示方法を示すモデルの側面図である。
【図12】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshAの液滴の軌跡の計算結果を示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshBの液滴の軌跡の計算結果を示す断面図である。
【図14】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshAのエロージョン率Eの計算結果を示す断面図である。
【図15】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径を(a)0.2mm、(b)0.5mm、(c)1mmに固定したときの、meshBのエロージョン率Eの計算結果を示す断面図である。
【図16】本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例の、液滴の直径dに対する最大衝突速度maxUnの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至図16は、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法を示している。本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、発電プラントなどの配管内を通過する蒸気による配管内壁のエロージョンを予測または評価するのに使用される。
以下、図1に従って、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法について説明する。また、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法による計算の実施例として、図2および図3に示す、meshA(くさび型オリフィス)およびmeshB(テーパー型オリフィス)の2つの配管モデルに対してシミュレーションを行い、その結果も合わせて示す。なお、シミュレーション計算には、スーパーコンピュータを使用した。
【0018】
図1(a)に示すように、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、流れ場計算ステップ11と液滴生成ステップ12と衝突計算ステップ13とエロージョン評価ステップ14とを有している。
【0019】
[流れ場計算ステップ]
まず、流れ場計算ステップ11により、配管の入口から出口までの蒸気の流れ場を、Eulerian−lagrangian法を使用して二相流解析により求める。蒸気の流れ場として、meshAおよびmeshBの各配管モデルに対して、蒸気の速度、温度、圧力、過冷却度、液滴生成率等を求める。このとき、まず、モデル中の各格子セルでの蒸気の速度、温度、圧力等を、(1)式の質量保存方程式、(2)式の運動量保存方程式、(3)式のエネルギー保存方程式、(4)式の状態方程式、(7)式および(8)式のK−ω乱流モデルを使用して求める(図1(b)のステップ21)。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
【数3】
【0023】
ここで、(1)式、(2)式、(3)式中のソース項Sm、Su、Shは、それぞれ液滴と蒸気との間の質量交換、運動量交換、およびエネルギー交換である。なお、(5)式中のマイナス記号は、ガスから減ることを意味する。(6)式の右辺の三つの項は、それぞれエンタルピー、表面エンタルピー、運動エネルギーを表す。
【0024】
次に、各モデル中で液滴が生成する位置を求めるために、各モデル中での蒸気の過冷却度(サブクール度)および液滴生成率(液滴凝縮核生成率)を求める(図1(b)のステップ22)。蒸気の過冷却度を求めるために、Kelvin−Helmholtzの定義による臨界半径の式である(9)式を使用する。ここで、表面張力σ、過飽和度は、IAPWS97公式で計算することができる。また、蒸気の液滴生成率を求めるために、(10)式の液滴生成率の式を使用する。蒸気の過冷却度および液滴生成率の計算方法としては、まず、各モデルの流路の入口から追跡粒子を挿入する。追跡粒子は、求められた蒸気の速度、温度、圧力等の流れ場での流線にそって運動する。図2および図3に示す格子セルのうち、追跡粒子が位置する格子セルで、(9)式および(10)式を使用して過冷却度および液滴生成率を計算する。
【0025】
【数4】
【0026】
【数5】
【0027】
なお、図4に示すように、計算時の境界条件を、以下の通りとする。
速度境界条件:入口流速1.8m/s;壁面上の速度は0;出口はゼロ勾配。
圧力境界条件:入口はゼロ勾配;壁面はゼロ勾配;出口は、24.7kPa、54.7kPa、89.7kPa、100kPaの4通り。
温度境界条件:入口380K;壁面はゼロ勾配;出口はゼロ勾配。
k境界条件: 入口固定値1e−6。
壁面はゼロ勾配;出口はゼロ勾配。
omega境界条件: 入口1e−6
壁面はゼロ勾配;
出口はゼロ勾配。
【0028】
実際の計算では、まず出口圧力を調整し、液滴が生成される境界条件を探し出した。計算には、4つの出口圧力値24.7kPa、54.7kPa、89.7kPa、100kPaを用いた。このときの計算結果を、表1および図5乃至図8に示す。表1には、各モデルでの境界条件(入口流速U、入口温度T、出口圧力p)と、計算により求められた各モデル中での蒸気の最大流速Umax、最高温度Tmax、最大圧力pmax、および、最大過冷却度ΔTmaxを示す。
【0029】
【表1】
【0030】
図5および図6に示すように、蒸気は入口から流れ込み、オリフィスで圧縮加速され、オリフィスの出口で膨張する。この過程で、蒸気の圧力および温度は、総じて低下する一方である。発電プラントで使用する水は全部高純度であるため、蒸気の状態は飽和線を超える場合でも凝縮核を有さず、すぐ凝縮しない可能性がある。このため、蒸気は、過冷却度ΔT>0の過冷却状態になる可能性がある。過冷却度ΔTが大きくなると、過冷蒸気の液滴生成率Jも大きくなる。液滴生成率Jが臨界値を越えると、蒸気が凝縮する。ここでは、過冷蒸気が液滴になる臨界液滴生成率として、最もよく使用されるJ=1015を使用する。なお、過冷蒸気が液滴になる条件として、過冷却度ΔTの臨界値を設定してもよい。凝縮すると、蒸気には多くの小さい液滴ができ、これらが凝縮核となる。同時に、過冷却度ΔT>0であるため、生成された小さい液滴は次第に大きく成長する。
【0031】
図7(a)に示すように、meshBの出口圧力pは、100kPaである時に過冷却度ΔTのスカラー場である。オリフィス出口の周りで、ΔTは最大値35.83Kに達し、オリフィス出口の下流領域の軸中心付近で、高過冷却度領域を形成する。図7(c)に示すオリフィスから50mm距離の過冷却度の様子が、この特徴をはっきり示している。また、meshAの各圧力条件およびmeshBの他の圧力条件下の計算結果も、類似な現象を示している。
【0032】
表1および図8に示すように、圧力が54.7kPaの場合、meshA、meshBの最大過冷却度は全て30K以下となる。この場合、meshBの最大過冷却度はmeshAより大きい。しかし、圧力が89.7kPaまで増加すると、meshAの最大過冷却度はmeshBを超える。出口圧力p=100kPaの計算結果を見ると、meshAおよびmeshBの過冷却度は全て36K或いは36K以上になり、凝縮現象が発生する。従って、出口圧力が100kPaである時、液滴が生成される。出口圧力p<89.4kPaのとき、J<1015であるため、液滴は生成されない。
【0033】
なお、入口圧力調整の計算で、圧力増加が最大温度および最大速度に与える影響は小さく、その変化率は2%以内であることがわかった。表1に示すように、meshAの場合、最大速度は24.7kPa時の546m/sから557m/sまで、最高温度は411Kから410Kまでであった。meshBの場合、最大速度は500m/sから482m/sまで、最大温度は427Kから402Kまでであった。
【0034】
[液滴生成ステップ]
次に、液滴生成ステップ12により、求められた流れ場の中で、液滴生成率が予め設定された臨界値以上となる位置に、液滴を挿入する(図1(b)のステップ23)。液滴の挿入方法としては、液滴生成率が臨界値以上になる時、その格子セルの中心に1つの液滴の粒子群を挿入する。なお、液滴生成率の臨界値として、最もよく使用される J=1×1015を使用する。1つの粒子群が含む粒子数目は、(13)式により求める。
【0035】
【数6】
【0036】
また、流れ場に挿入された液滴の運動方程式は(14)式で表される。ここで、md、ud、Fはそれぞれ液滴の質量、速度と圧力である(添字d=disperse)。抗力と重力とを考慮した液滴が受ける力は、(15)式となる。ここで、CDは抗力係数、uは連続相の速度、gは重力加速度である。(14)式〜(17)式より、液滴の運動方程式は(18)式になる。ここで、τuは運動量緩和時間と呼ばれている。実際の計算では、流れ場に挿入された液滴の速度を、その格子セルの流れ場速度値と同じとし、その液滴の運動方程式として、(18)式を使用する。
【0037】
【数7】
【0038】
【数8】
【0039】
なお、挿入された液滴(粒子)の境界条件は、以下の通りとする。
入口、出口:粒子が入口、或は出口と衝突したら、粒子が粒子群から除外される。
壁面:弾性衝突境界条件。粒子は壁面と弾性衝突すると仮定する。
【0040】
[衝突計算ステップ]
次に、衝突計算ステップ13により、挿入された液滴の成長を考慮しつつ、液滴の配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度等の物理量を求める。流れ場に挿入した液滴成長の計算は、液滴成長係数を1000として、(20)式の液滴成長式を使用して行う。この計算は、具体的には、まず、液滴の存在する格子セル中で、液滴成長および液滴粒子のエンタルピーを求め(図1(b)のステップ24)、さらに、基礎方程式{(1)〜(3)式}中に表れる(5)式のソース項(生成項)Sm、Su、Shを求める(図1(b)のステップ25)。次に、その計算結果に基づいて、(18)式に従って液滴が移動する格子セルにおいて、同様に液滴成長、液滴粒子のエンタルピー、ソース項を求め、これを液滴がモデルの出口に至るまで繰り返す。その計算過程において、配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度等が求まる。なお、実際の計算時には、液滴の最大直径を2mmに制限している。また、液滴は、成長するだけでなく、計算結果によっては収縮することもある。
【0041】
【数9】
【0042】
各モデルでの液滴の挿入位置および液滴の大きさの計算結果を、図9(a)および図10(a)に示す。図9(a)および図10(a)に示すように、液滴は、オリフィス収縮部の最も断面積が小さい部分の管軸中央に挿入されている。また、配管内壁への液滴の衝突位置を図11に示す角度αで表すと、液滴の衝突位置は、meshAでα=72.83度、meshBでα=78.68度であった。また、衝突時の液滴の法線方向最大衝突速度は、meshAでUnmax=511.16m/s、meshBでUnmax=445.38m/sであった。
【0043】
[エロージョン評価ステップ]
次に、エロージョン評価ステップ14により、求められた物理量に基づいて、配管内壁のエロージョン率を計算し、エロージョンの評価を行う。配管内壁のエロージョン率の計算には、(23)式を使用する。なお、エロージョンの計算には、(24)式を使用してもよい。
【0044】
【数10】
【0045】
【数11】
【0046】
エロージョン率の計算結果を、図9(b)および図10(b)に示す。図9(b)および図10(b)に示すように、エロージョン率は、meshAの液滴の衝突位置(α=72.83度)で、E=9.14e−2kg/s、meshBの液滴の衝突位置(α=78.68度)で、E=4.0e−2kg/sであった。
【0047】
以上のシミュレーション結果から、各モデルに関して以下のことが確認された。まず、出口圧力が高いほど、凝縮現象が起こる可能性が高くなる。出口圧力が90kPa以下と低い場合、meshAはmeshBよりも、凝縮現象の発生する確率が低く、生成される液滴の粒径が小さく、配管のエルボー部に衝突する液滴の速度も小さくなる。このことから、くさび型のオリフィスを用いた方が、テーパー型のオリフィスを用いるよりも、エロージョン率を低減することができる。
【0048】
また、出口圧力が90kPa以上と大きい場合、meshAはmeshBよりも、凝縮現象が発生する確率が高く、液滴の成長速度が速く、生成される液滴の粒径が大きく、配管のエルボー部に衝突する液滴の速度も大きくなる。このことから、テーパー型のオリフィスを用いた方が、くさび型のオリフィスを用いるよりも、エロージョン率を低減することができる。
【0049】
本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、シミュレーションを行ったmeshAおよびmeshBのモデルに限らず、様々な配管流路にも適用可能であり、適用モデルに制限がない。例えば、テーバー型およびくさび型以外の形状を有するオリフィスや、エルボー部、配管径が変化する場所を有する配管流路など、液滴の発生が予想される様々な配管流路に対して適用することができる。
【0050】
[比較例−液滴粒径固定モデル]
次に、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法に対する比較例として、挿入する液滴の粒径を固定し、液滴が成長も収縮もしない場合について計算を行った。計算は、挿入する液滴には液滴成長式の(20)式を使用せず、所定の粒径の液滴を挿入し、運動中は液滴の粒径が変化しないものとした。それ以外の計算過程は、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法と同じである。すなわち、計算には、p=100kPa時の流れ場の計算結果を採用し、挿入された液滴の運動方程式には(18)式を使用し、エロージョン率の計算には(23)式を使用する。
【0051】
挿入される液滴として、直径D=0.2mm、0.5mm、1mmの3つの粒径を採用して計算を行った。なお、液滴が流れ場に与える影響は考慮しない。計算結果を表2および図12乃至図16に示す。ここで、Unmaxは、液滴が壁面と衝突する時の法線方向速度である。また、衝突角度αは、図11に示す角度である。
【0052】
【表2】
【0053】
表2および図16に示すように、液滴の粒径Dは、液滴の衝突位置(衝突角度α)、すなわちエロージョン率最大値の位置に影響しないが、液滴が壁面に衝突するときの法線方向の速度Unmaxに大きく影響している。例えば、液滴の直径D=1mmのとき、法線方向の衝突速度は、meshAでUnmax=200.58m/s、meshBでUnmax=203.39m/sに達している。また、液滴の直径D=1mmのとき、エロージョン率は、meshAでE=2.36e−5kg/s、meshBでE=1.08e−3kg/sであった。なお、図12および図13に示すように、液滴は、オリフィス収縮部の最も断面積が小さい部分の管軸中央に入されている。
【0054】
この比較例の計算結果と、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法による計算結果とを比べると、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法の方が、液滴の法線方向最大衝突速度が大きくなっており、エロージョン率も大きくなっている。また、meshBでは、液滴の衝突位置(エロージョン位置)も若干ずれている。本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法では、流れ場の中での液滴の生成および成長を考慮して計算を行っているため、配管内での液滴の挙動をより高精度で求めることができる。また、このようにして高精度で求められた液滴の配管内壁への衝突時の物理量に基づいて、配管内壁のエロージョン率を求めるため、エロージョンの定量的な評価を高精度に行うことができる。
【0055】
本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、流れ場計算ステップ11により、(10)式を用いて配管内での液滴生成率Jの分布を求め、液滴生成ステップ12により、J=1015以上となる位置に液滴を挿入し、衝突計算ステップ13により、(20)式を用いて運動中の液滴の成長を計算しつつ、液滴の配管内壁への衝突時の液滴の大きさや衝突角度、衝突速度を求め、エロージョン評価ステップ14により、(23)式を用いて液滴衝突位置での配管内壁のエロージョン率を求めている。これにより、本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法は、配管内の流れ場中での液滴の生成および成長を考慮して、配管内壁のエロージョン率を求めることができ、エロージョンの定量的な評価を行うことができる。
【0056】
本発明の実施の形態のエロージョン予測評価方法によれば、原子力発電所等の実際の発電プラントの配管系および高速熱流動を、スーパーコンピュータ上に再現することができ、定量的な評価を高精度に行って、トラブルの発生箇所や原因、配管の侵食状態を事前に予測することができる。予測されたエロージョンの発生箇所に対して、配管の破断などのトラブル発生前に、集中的に保守・点検、安全対策を行うことにより、発電プラントの保守・点検に要する時間的・人的コストを大幅に軽減化することができる。また、エロージョンによる事故を未然に防止することができ、極めて安全性の高い発電プラントの運用を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
11 流れ場計算ステップ
12 液滴生成ステップ
13 衝突計算ステップ
14 エロージョン評価ステップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内を通過する蒸気による配管内壁のエロージョンを予測または評価するエロージョン予測評価方法であって、
前記配管の入口から出口までの、前記蒸気の過冷却度と液滴生成率とを含む前記蒸気の流れ場を二相流解析により求める流れ場計算ステップと、
前記流れ場計算ステップで求められた前記過冷却度および前記液滴生成率のうち少なくとも一方がそれぞれ予め設定された臨界値以上となる前記流れ場の位置に液滴を挿入する液滴生成ステップと、
前記液滴生成ステップで挿入された前記液滴の成長を考慮しつつ、前記液滴の前記配管内壁への衝突時の物理量を求める衝突計算ステップと、
前記衝突計算ステップで求められた前記物理量に基づいて、前記配管内壁のエロージョンを評価するエロージョン評価ステップとを、
有することを特徴とするエロージョン予測評価方法。
【請求項2】
前記配管は原子炉配管であり、
前記流れ場計算ステップは、Eulerian−lagrangian法によりK−ω乱流モデルを使用して二相流解析を行い、前記蒸気の流れ場を求めることを、
特徴とする請求項1記載のエロージョン予測評価方法。
【請求項1】
配管内を通過する蒸気による配管内壁のエロージョンを予測または評価するエロージョン予測評価方法であって、
前記配管の入口から出口までの、前記蒸気の過冷却度と液滴生成率とを含む前記蒸気の流れ場を二相流解析により求める流れ場計算ステップと、
前記流れ場計算ステップで求められた前記過冷却度および前記液滴生成率のうち少なくとも一方がそれぞれ予め設定された臨界値以上となる前記流れ場の位置に液滴を挿入する液滴生成ステップと、
前記液滴生成ステップで挿入された前記液滴の成長を考慮しつつ、前記液滴の前記配管内壁への衝突時の物理量を求める衝突計算ステップと、
前記衝突計算ステップで求められた前記物理量に基づいて、前記配管内壁のエロージョンを評価するエロージョン評価ステップとを、
有することを特徴とするエロージョン予測評価方法。
【請求項2】
前記配管は原子炉配管であり、
前記流れ場計算ステップは、Eulerian−lagrangian法によりK−ω乱流モデルを使用して二相流解析を行い、前記蒸気の流れ場を求めることを、
特徴とする請求項1記載のエロージョン予測評価方法。
【図1】
【図4】
【図11】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図4】
【図11】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−83251(P2012−83251A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230423(P2010−230423)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【Fターム(参考)】
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