説明

エンジンカバー構造

【課題】クランク軸の角度センサをエンジン外壁側に設ける場合は、飛石などによってセンサが破損されるおそれがあった。
【解決手段】エンジン端部を覆うカバー部材と、前記カバー部材外側に配設されクランク軸と一体に回転する回転子と、前記回転子と同軸に配設され補機駆動ベルトが掛架された回転体と、前記カバー部材の外壁面に設置され、前記回転子を通じて前記クランク軸の角度を検出するセンサと、前記カバー部材の前記外壁面に取り付けられたオイルフィルタを有するエンジンのカバー部材構造であって、前記センサを外壁面に固定するセンサ設置部は、前記カバー部材の外側に突出する突出形状と、前記突出形状に設けた保持用貫通孔で形成され、前記オイルフィルタと前記回転子との間には、前記オイルフィルタの下方端から、少なくともオイルフィルタの上下境界線まで形成された前記カバー部材の外側に突出する突出壁形状が設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸の角度を検出するセンサの取付部分を有するエンジンカバー構造に関し、特にエンジンの外面にカバー部材を設け、そのカバー部材上にクランク軸の角度センサを設け、なおかつオイルフィルタも同一のカバー部材上に取り付けられる際のエンジンのカバー構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
複数気筒を有するエンジンでは、各気筒における点火時期を適切に制御することで、各気筒間で順次燃料の燃焼を行っている。この点火時期の制御としては、クランク軸の基準位置からの角度に基づいて点火時期を決定する手法が用いられている。より具体的には、クランク軸の端部にクランク軸と一体に回転する回転子を配置し、その回転子の角度を角度センサで検出する。
【0003】
一方、気筒中の吸排気を行うためのバルブを駆動するカムシャフトも、クランク軸の回転によって駆動される。カムシャフトへの動力の伝達をチェーンで行う場合には、チェーンに対して潤滑オイルの供給が必要となる。高速で駆動するチェーンに給油すると、オイルが飛び散るので、エンジン前面を覆うカバー部材が必要となる。
【0004】
カムシャフトへの動力の伝達をチェーンで行う場合、回転子をカバー部材の内側のクランク軸に設置する構造が考えられる。しかし、このような構造を採用すると、回転子によってオイルが攪拌されるため、オイルがミスト化されるおそれがある。クランク室内でのオイルのミスト化は、ブローバイガスとして吸気に還流され、燃焼されるため、オイル消費を促進することにつながる。
【0005】
また、カバー部材の内側に回転子が配置された場合は、角度センサをカバー部材内部に突設させる必要がある。これは角度センサのシール部分に高いシール性を付与する必要があり、コストの上昇につながる。また、回転子や角度センサにオイルが付着することで、これらの部材の劣化だけでなく、オイル自体の劣化も課題となる。
【0006】
そこで、回転子や角度センサをカバー部材の外側に配置する構造が考えられる。しかし、カバー部材の外側は、走行中に飛石や路面の突起物などが飛びはね、回転子や角度センサに衝突するおそれがある。これらの部品は点火時期を決める情報の発信源であるので、これらの部材の破損は、点火タイミングのずれ、若しくは点火タイミングの消失に繋がり、エンジンストールになるおそれがある。
【0007】
このような課題に対して特許文献1では、クランク軸の回転をチェーンを介してカム軸に伝達するようにした上で、チェーンを覆うカバー部材を貫通してカバー部材の外側に突出するクランク軸の軸端に、クランク軸と一体に回転する回転体を設け、回転体とカバー部材の間に回転子とセンサを配置し、カバー部材の回転体との対向面にはセンサを収容する凹部を形成したエンジンが開示されている。
【0008】
特許文献1では、カバー部材の外側に突出したクランク軸の軸端には回転体として駆動プーリが配設され、交流発電機やウォーターポンプを駆動するVベルトが巻き付けられている。したがって、駆動プーリが回転子や凹部に収納された角度センサを覆う構造になっているので、カバー部材の外側であっても、飛石や地面の突起物の跳ね上げによってこれらの部品が損傷することはないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−245424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の構造であると、クランク軸の角度を知るための、回転子および角度センサをカバー部材の外側に配置することができる。つまり、これらの部品は、カバー部材の内側のカムシャフトを駆動するチェーンに対して供給されるオイルの影響を受けることがない。しかし、角度センサを交換する際には、Vベルトをはずし、駆動プーリを外さなければならない。これは作業性が極めて悪い。
【0011】
特に近年車体のコンパクト化が行われ、エンジンルームも小さく設計されるようになってきている。すなわち、エンジン周囲の空間は非常に狭くなってきている。したがって、駆動プーリの取り外しは、エンジンをマウントから降ろさなければならない状況さえ、想定される。したがって、角度センサの取り外しは比較的容易に行える必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、カバー部材の外側に回転子および角度センサを配置する。さらに、飛石などによって角度センサが破損しないように、回転子の近傍に配置されたオイルフィルタの下方端から突出壁形状を角度センサに向かって延設されたエンジンカバー構造を提供する。
【0013】
より具体的には、本発明のエンジンカバー構造は、
エンジン端部を覆うカバー部材と、
前記カバー部材外側に配設されクランク軸と一体に回転する回転子と、
前記回転子と同軸に配設され補機駆動ベルトが掛架された回転体と、
前記カバー部材の外壁面に設置され、前記回転子を通じて前記クランク軸の角度を検出するセンサと、
前記カバー部材のオイルパンとの接合部付近の前記外壁面に取り付けられたオイルフィルタを有し、
前記センサと前記オイルフィルタは前記プーリに掛架された前記補機駆動ベルトが囲む平面の外側に配置されており、かつ前記センサは前記オイルフィルタよりシリンダヘッド側に配置されているエンジンのカバー部材構造であって、
前記センサを前記カバー部材の外壁面に固定するセンサ設置部は、
前記カバー部材の外側に突出する突出形状と、前記突出形状に設けた前記センサを保持する保持用貫通孔で形成され、
前記オイルフィルタと前記回転子との間には、前記オイルフィルタの下方端から、少なくともオイルフィルタの上下境界線まで形成された前記カバー部材の外側に突出する突出壁形状が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジンカバー構造は、回転子の近傍に配置されたオイルフィルタの下方端からセンサに向かって突出壁形状のリブが延設されるので、車両の下側からの飛石が角度センサを破損することを防止する。また、飛石をカバーするための突出壁形状は、センサ設置部の強度を向上させる効果も有する。また、突出壁形状は、オイルフィルタの下方端から形成されているので、オイルフィルタを交換する際に、Vベルトにオイルが飛散するのを防止するという効果も有する。
【0015】
本発明のエンジンカバー構造は、カバー部材の外壁に配設した角度センサを保護する役目と、オイルフィルタからのオイルの飛散を防止する役目を兼用できる突出壁形状を数g程度の原材料の増加だけで達成できるので、低コスト化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るセンサ設置部を有するエンジンカバーの前面を示す図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】本発明に係るセンサ設置部周辺を説明する図である。
【図4】本発明に係るセンサ設置部周辺を説明する図である。
【図5】図1のA−A断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、下記の実施形態を変形してもよい。
【0018】
図1には、本発明のエンジンカバー構造1を有するエンジンの前面図を示す。なお、本明細書において、「エンジンの前面」とは、エンジンをクランク軸12方向から見て、Vベルト18を駆動する駆動プーリ16が配置されている側をいう。本発明のエンジンカバー構造1を有するエンジンは、オイルパン50と、オイルパン50上に連結されるシリンダブロック52と、シリンダブロック52上に連結されるシリンダヘッド54とシリンダヘッド54上面を覆うヘッドカバー56を有する。
【0019】
カバー部材10は、少なくともシリンダブロック52を覆う部材である。カバー部材10の内側には、クランク軸12からシリンダブロック52の前面に配設されたカムシャフト駆動ギアに回転動力を伝えるチェーンが配置されている(図では見えない)。したがって、カバー部材10はチェーンカバーでもある。
【0020】
カバー部材10には、クランク軸12が貫通する貫通孔14(図5参照)が設けられており、クランク軸12の軸端が露出する。カバー部材10において、カムシャフト駆動ギアが存在する側を「カバー部材10の内側」とよび、反対側を「カバー部材10の外側」と呼ぶ。カバー部材10の外側の面は「外壁面」である。クランク軸12の軸端は、カバー部材10の外側に突出しているといえる。
【0021】
カバー部材10の外側に突出したクランク軸12にはクランク軸12の角度を検出するための回転子21が取付けられる。さらに、その外側には回転体16が挿設される。この回転体16は、駆動プーリであり、交流発電機(図示せず)やウォーターポンプの駆動プーリ17を駆動するVベルト18が掛架される。なお、Vベルト18で駆動される機器は補機と呼ばれる。したがって、Vベルト18は補機駆動ベルトである。
【0022】
また、回転子21は、金属の歯車形状をしており、回転体16よりも少し径が大きい。回転体16にはVベルト18が掛架されるが、Vベルト18が角度センサ22に当接しないためである。
【0023】
回転体16の斜め上方には、角度センサ22をカバー部材10の外壁面に固定するためのセンサ設置部20が設けられる。角度センサ22は回転子21に形成された山と谷との間の距離によって変化する磁力を利用する場合が多いので、回転子21と角度センサ22の距離は、正確に決められる必要がる。したがって、センサ設置部20の設置位置は、カバー部材10の外壁面が好適である。また、カバー部材10の外壁面上であれば、飛石等の影響が少ない、地面から遠い位置となる、回転体16の上半側がより好適である。
【0024】
センサ設置部20は、カバー部材10の外壁面から外側に突出した突出形状に、角度センサ22を保持するための保持用貫通孔25が設けられることで形成される。これをセンサ用突起形状24と呼ぶ。角度センサ22は、保持用貫通孔25に挿入された後、保持用貫通孔25近傍にある締結用ボルト穴(図示せず)から螺入されるボルトにより締結固定される。
【0025】
図5には、図1のA−A断面を示す。回転体16の外周にはV溝16mが形成されており、Vベルト18が掛架されている。角度センサ22は、カバー部材10の外壁面に対して若干角度を持って保持されている。その角度センサ22のセンサ面22fに端面を向けるように、回転子21の周端部分21eは仰角が与えられている。センサ用突起形状24の保持用貫通孔25は、角度センサ22のセンサ面22fが、図5の位置と角度になるように、形成されている。
【0026】
再度図1を参照し、カバー部材10には、オイルフィルタ40が設置される。オイルフィルタ40は走行距離に応じて交換する必要があるので、交換しやすい場所に設置するのが好適である。カバー部材10と略直角に形成されるエンジンの側面はインテークマニホールド(図示せず)やエキゾーストマニホールド(図示せず)といった吸排気系の部品が密集しており、交換作業にはきわめて不適合な場所であるからである。
【0027】
オイルフィルタ40はオイルポンプ(図示せず)からオイルがエンジン各部に供給される前に配置され、オイル中の微細な異物などを除去する。そのため、オイルフィルタ40の交換時には、オイルフィルタ取付座(図示せず)からオイルが漏れたり、オイルが周囲に飛散する場合がある。したがって、オイルフィルタ40はできるだけ、下方(オイルパン50側)に配置するのがよい。
【0028】
また、オイルフィルタ40と角度センサ22は、Vベルト18が囲む平面の外側に配置される。Vベルト18が囲む平面とは、閉じた輪であるVベルト18の内側18iであって、カバー部材10の外壁表面をいう。Vベルト18の内側に、角度センサ22やオイルフィルタ40が配置されると、これらの部品の交換の際に、Vベルト18が邪魔になる。また、Vベルト18の内側にオイルフィルタ40が配置されていると、オイルフィルタ40の交換の際に、Vベルト18には容易にオイルが飛散してしまうからである。
【0029】
また、オイルフィルタ40が、回転体16から十分離して配置できるのであれば、Vベルト18へのオイル飛散を心配する必要はない。しかし、このような条件はエンジンのコンパクト化を阻害する。したがって、オイルフィルタ40は、回転子21が部品公差および取付け公差が最悪時であっても干渉しない位置であって、かつカバー部材10内部に形成されているオイル通路のシール性が成立する位置に配置される。
【0030】
また、オイルフィルタ40は、角度センサ22よりオイルパン50側に配置される。後述するオイル受けを兼用する飛石防止用の突出壁形状42を配設するには、角度センサ22より下方に配置する必要があるからである。言い換えると、角度センサ22は、オイルフィルタ40よりシリンダヘッド54側に配置されているとも言える。
【0031】
一方、オイルフィルタ40にオイルを送るオイルポンプはオイルパン50からオイルを吸い上げるので、オイルパン50に近いカバー部材10内部に配設される。したがって、オイルフィルタ40もまた、オイルパン50に近いカバー部材10に配設される。つまり、オイルフィルタ40は、カバー部材10のオイルパン50との接合部付近の外壁面に取り付けられているともいえる。
【0032】
本発明のエンジンカバー構造1では、オイルフィルタ40の下方から角度センサ22に向けて、カバー部材10の外壁から外側に突出した突出壁形状42が形成される。つまり、突出壁形状42は、オイルフィルタ40と回転子21の間に形成される。突出壁形状42は、カバー部材10の形成時に同時に形成されるのが好ましい。カバー部材10と同時に形成されると、わずか数gの原材料の増加で突出壁形状42を形成することができるからである。また、同時に形成すると、突出壁形状42は、カバー部材10の一部となり、カバー部材10の剛性向上にも寄与する。
【0033】
図2は、図1の一部拡大図を示す。突出壁形状42は、オイルフィルタ40の下方端40dから、オイルフィルタ40と回転子21の間に向って形成される。ここで、オイルフィルタ40の下方端40dとは、オイルフィルタ40の中心40cから見たときの重力下方で、オイルフィルタ40に接しないカバー部材10上の地点である。
【0034】
もしエンジンが車体に取り付けられる際に傾斜される場合は、その傾斜を考慮した重力下方としてよい。突出壁形状42はオイルフィルタ40のオイルの漏れを回転子21側に飛散させないために設けるからである。また、突出壁形状42がオイルフィルタ40に接してしまうと、オイルフィルタ40の取付ができなくなる。
【0035】
また、カバー部材10とオイルパン50との接合部(フランジ10f)に近すぎると、ボルト締結などの作業性が低下する。したがって、下方端40dはオイルフィルタ40の中心40cから重力下方のカバー部材10上の点であって、オイルフィルタ40の取付およびカバー部材10とオイルパン50の接合の作業性が低下しない部分を適宜決めてよい。
【0036】
突出壁形状42は、オイルフィルタ40の下方端40dから回転子21に近い側をオイルフィルタ40の形状に沿ってオイルフィルタ40の上下境界線40hまで形成される。オイルフィルタ40の上下境界線40hとは、オイルフィルタ40の中心40cで、上述した重力下方の方向に直角な方向(2点鎖線で示した)である。これは、回転体16が回転する方向に沿って形成される。飛石が角度センサ22に当たるのを防止するためだからである。
【0037】
また、さらに好ましくは、突出壁形状42は上下境界線40hを越えて、角度センサ22の方向に延設された延設部42eを有していてもよい。突出壁形状42は、飛石が角度センサ22に衝突するのを防止する役目も負うため、できるだけ角度センサ22の近傍まで延設されるのが好ましいからである。延設部42eは、センサ用突起形状24まで適宜延長してよく、またセンサ用突起形状24と接するまで延設されてもよい。
【0038】
突出壁形状42は、回転子21と接触しない程度の距離をあけて、形成される。また、突出壁形状42の高さは、カバー部材10の外壁面表面から、Vベルト18の高さ面(図5の符号18t参照)まで、若しくはそれより高く形成されるのが好ましい。突出壁形状42は、Vベルト18へオイルが飛散するのを防止するために設けるからである。
【0039】
突出壁形状42の下方端40dから、回転子21と反対方向に重力下方に向かって傾斜する傾斜形状44を、突出壁形状42に連続して形成してもよい。オイルフィルタ40の取り付け部分からオイルが漏れた際には、この傾斜形状44をオイルが流れ、所望の場所に誘導できるからである。
【0040】
カバー部材10とオイルパン50との結合部51にオイルが付着すると、オイルパン50からのオイル滲みと誤認されるおそれがある。オイルパン50からのオイル滲みは、オイルパン50からのオイル漏れが疑われ、大掛かりな補修が必要とされる。したがって、オイルフィルタ40からのオイル漏れは、カバー部材10とオイルパン50の結合部51に付着しない箇所に誘導する必要がある。
【0041】
具体的に結合部51にオイルを付着させない具体的な例として、図2では、傾斜形状44の下方に、カバー部材10のフランジ10fに続けて接続されるオイル落とし部材46が配置される構造を示す。オイル落とし部材46は、傾斜面46sと下辺に半円状の切欠き部46cを有する。傾斜形状44の先端から傾斜面46sに落ちたオイルは、傾斜面46sに沿って流れ、傾斜面46sの終点で下方に落下する。半円状の切欠き部46cは、オイル落とし部材46の下辺をオイルが結合部51に流れることを防止するための切欠きである。
【0042】
図3を参照して、センサ用突起形状24には、飛石などから角度センサを保護するためのリブ形状26が延設されている。リブ形状26は、クランク軸の中心からセンサ用突起形状24までの距離rを半径とする円の周方向に形成される。図3では、周方向を矢印27で表した。そして、リブ形状26の延設方向の先端26tでは、クランク軸12の中心からの距離rが、センサ用突起形状24までの距離rより短くなる。すなわち、リブ形状26は、センサ用突起形状24から回転子21に近接するように、周方向27に延設されることとなる。
【0043】
リブ形状26の高さは、センサ用突起形状24と同等若しくはそれより低い。センサ用突起形状24より高くなると、リブ形状26の強度が低下し、飛石などが当たった際にリブ形状26自体が破損するおそれがあるからである。リブ形状26の先端26tは、回転体16、Vベルト18若しくは回転子21に当接しない程度であって、予測される飛石が角度センサ22(特に図5で示したセンサ面22f)に衝突しない隙間28を回転体16との間に設けることができるように形成すればよい。
【0044】
このように配置されたリブ形状26は、センサ用突起形状24と回転体16との隙間28を狭くする障害物として配置されることになる。つまり、飛石等は、回転体16とリブ形状26に阻まれて、角度センサ22の先端まで届かない。図3ではこのリブ形状26は一方方向に形成した場合を示したが、反対の方向にリブ形状26aを形成してもよい。なお、リブ形状26aは、二点鎖線で示した。
【0045】
図4を参照して、また、センサ設置部20の近傍には、センサ用突起形状24以外の突起形状を形成してもよい。このような突起形状を近設突起形状30と呼ぶ。近設突起形状30はセンサ用突起形状24を強化する効果がある。角度センサ22は回転子21の周縁に設けられた凹凸形状による磁気的な結合の強弱を検知することで、クランク軸12の角度を知る。
【0046】
従って、角度センサ22の先端と回転子21の回転子周端21eとの距離はできるだけ接近させたうえで、なおかつ安定して距離を保持する必要がある。したがって、センサ用突起形状24の位置精度は、振動やヒートショックといった外乱に対して強固である必要がある。センサ用突起形状24の近傍に近設突起形状30を形成することは、センサ用突起形状24の強度向上につながる。
【0047】
この近設突起形状30にもリブ形状32を形成することができる。図4では、センサ用突起形状24に設けたリブ形状26と同じ方向に向けて近設突起形状30から延設したリブ形状32を示す。このリブ形状32も、クランク軸12の中心から近設突起形状30までの距離rを半径とする円周の周方向(矢印33)に向って延設される。
【0048】
また、クランク軸12中心からリブ形状32の先端32tまでの距離rは、クランク軸の中心から近設突起形状30までの距離rより短く形成される。すなわち、近設突起形状30から延設されるリブ形状32も、近設突起形状30から回転体16に近接するように、周方向33に延設されることとなる。
【0049】
近設突起形状30のリブ形状32の高さは、センサ用突起形状24のリブ形状26と同じで、近設突起形状30の高さと同等若しくはそれより低くするのが好適である。また、延設長さについても、リブ形状32の先端32tは、回転体16、Vベルト18若しくは回転子21に当接しない程度であって、予測される飛石が角度センサ22(特に図5で示したセンサ面22f)に衝突しない隙間を回転体16との間に設けることができるように形成すればよい。
【0050】
以上のように本発明のエンジンカバー構造1は、クランク軸12の角度を検出するための回転子21と角度センサ22をエンジンの外壁面に安全に配設することができる。そのため、角度センサ22と回転子21の間隔を目視確認できるため、回転子21と角度センサ22の距離を接近して配置することができる。また、角度センサ22の交換が容易にできる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のカバー構造は、カムシャフトをチェーンで駆動するタイプのエンジンに好適に利用することができるだけでなく、クランク軸の角度を検知する角度センサをエンジンの外壁に露出させて形成する場合に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 エンジンカバー構造
10 カバー部材
10f カバー部材のフランジ
12 クランク軸
14 (クランク軸が突出するカバー部材の)貫通孔
16 回転体
16m V溝
17 ウォーターポンプの駆動プーリ
18 Vベルト
18i Vベルトが囲む平面
18t Vベルトの高さ面
20 センサ設置部
21 回転子
21e 回転子周端部分
22 角度センサ
22f (角度センサの)センサ面
24 センサ用突起形状
25 保持用貫通孔
26 (センサ用突起形状の)リブ形状
26a (反対方向に設置された)リブ形状
26t リブ形状の延設方向の先端
27 周方向
28、29 隙間
30 近設突起形状
32 (近設突起形状の)リブ形状
32t 近設突起形状のリブ形状の先端
33 周方向
40 オイルフィルタ
40c オイルフィルタの中心
40d オイルフィルタの下方端
40h オイルフィルタの上下境界線
42 突出壁形状
42e 突出壁形状の延設部
44 傾斜形状
46 オイル落とし部材
46c 半円状の切欠き部
46s 傾斜面
50 オイルパン
51 カバー部材とオイルパンの結合部
52 シリンダブロック
54 シリンダヘッド
56 ヘッドカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン端部を覆うカバー部材と、
前記カバー部材外側に配設されクランク軸と一体に回転する回転子と、
前記回転子と同軸に配設され補機駆動ベルトが掛架された回転体と、
前記カバー部材の外壁面に設置され、前記回転子を通じて前記クランク軸の角度を検出するセンサと、
前記カバー部材のオイルパンとの接合部付近の前記外壁面に取り付けられたオイルフィルタを有し、
前記センサと前記オイルフィルタは前記プーリに掛架された前記補機駆動ベルトが囲む平面の外側に配置されており、かつ前記センサは前記オイルフィルタよりシリンダヘッド側に配置されているエンジンのカバー部材構造であって、
前記センサを前記カバー部材の外壁面に固定するセンサ設置部は、
前記カバー部材の外側に突出する突出形状と、前記突出形状に設けた前記センサを保持する保持用貫通孔で形成され、
前記オイルフィルタと前記回転子との間には、前記オイルフィルタの下方端から、少なくともオイルフィルタの上下境界線まで形成された前記カバー部材の外側に突出する突出壁形状が設けられたことを特徴とするエンジンカバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113277(P2013−113277A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262736(P2011−262736)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)