説明

カチオン変性ポリウロン酸又はその塩

【課題】優れた感触改善効果を有するカチオン変性ポリウロン酸又はその塩、及びその製造方法、毛髪化粧料に応用した場合、すすぎ時の滑らかさの維持とドライ後の毛髪のハリの改善を両立させる感触改善剤を提供する。
【解決手段】[1]ポリウロン酸に、カチオン性基が導入された構造を有するカチオン変性ポリウロン酸又はその塩、[2]カチオン変性ポリウロン酸又はその塩を有効成分として有する感触改善剤、及び[3]セルロースを酸化した後、カチオン化剤と反応させる、または、セルロースをカチオン化剤と反応させた後、酸化する、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩、その製造方法、及びカチオン変性ポリウロン酸又はその塩を有する感触改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪や皮膚に定着させ、しっとり、さっぱりといった感触を付与するため、シャンプーやコンディショナー、化粧品等の多くには各種の感触改善剤が配合されている。中でもカチオン性基を有する多糖類は感触改善剤として広く使用されている。これは、毛髪や皮膚などのアニオン性表面に定着性のあるカチオン性基と、保湿性の高い水酸基を有するためである。
例えば、特許文献1には、カチオン化セルロースを頭髪セット剤として利用することが提案されている。また、特許文献2には、定着剤や表面改質剤として優れた性能を有するカチオン化カルボキシメチルセルロース塩が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−112437号公報
【特許文献2】特開2002−201202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に記載のカチオン化多糖誘導体は、毛髪化粧料に配合した場合、ドライ後の毛髪のハリなどの感触は改善されるものの、すすぎ時の滑らかさを損ねるなど、感触改善剤として満足できるものではなかった。
以上のように、毛髪化粧料においては、コンディショナー本来のすすぎ時の滑らかさを維持しつつ、ドライ後の毛髪のハリを改善させる添加剤が求められている。
本発明は、優れた感触改善効果を有するカチオン変性ポリウロン酸又はその塩、その製造方法、及びすすぎ時の滑らかさとドライ後の毛髪のハリの改善を両立させる感触改善剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩が、従来の感触改善剤より優れた効果を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[3]を提供するものである。
[1]ポリウロン酸に、下記一般式(1)で表されるカチオン性基が導入された構造を有する、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Aは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6の2価の炭化水素基を示す。R1及びR2はそれぞれ同一又は異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示し、R3は炭素数1〜3の炭化水素基又は水素原子を示す。Z-は1価の陰イオンを示す。)
[2]前記[1]のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩を有効成分として有する感触改善剤。
[3]セルロースを酸化した後、下記一般式(3)で示されるカチオン化剤と反応させる、または、セルロースと下記一般式(3)で示されるカチオン化剤とを反応させた後、酸化を行なう、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩の製造方法。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Yはエポキシ基、ハロゲン原子、1級又は2級のアミノ基、水酸基、及びチオール基からなる群から選ばれる原子又は官能基であって、A’は、水酸基が置換していてもよい炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表す。但しYがエポキシ基である場合、A’は炭素数1〜4の2価の炭化水素基を表す。R1〜R3、及びZ-は前記一般式(1)と同じ意味を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩は、優れた感触改善効果を有し、該カチオン変性ポリウロン酸又はその塩を有効成分として有する感触改善剤は、毛髪化粧料に応用した場合、すすぎ時の滑らかさとドライ後の毛髪のハリの改善を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<カチオン変性ポリウロン酸>
本発明のカチオン変性ポリウロン酸(以下、「C−PU」ともいう)は、ポリウロン酸に、下記一般式(1)で表されるカチオン性基(以下、単に「本発明のカチオン性基」ともいう)が導入された構造を有している。
【0013】
【化3】

【0014】
本発明のC−PUは、ポリウロン酸に、本発明のカチオン性基が導入された構造を有していればよく、ポリウロン酸に、カチオン性基を導入する工程を経て製造されたものに限定されず、例えば本発明のカチオン性基が導入された1級水酸基を有する多糖(例えば、セルロース)を酸化して製造されたものであってもよい。
C−PUの主鎖となるポリウロン酸の構造は、多糖の1級水酸基を酸化して得られる構造を有していれば、特に限定されないが、本発明のC−PUを毛髪化粧料に応用した際のすすぎ時の滑らかさ、及びドライ後の毛髪のハリの観点から、セルロースの1級水酸基を酸化して得られる構造を有したポリウロン酸の構造であることが好ましい。ここで、該ポリウロン酸は、セルロースを酸化して得られる構造を有していればよく、セルロースを酸化する工程を経て製造されたものに限定されない。
【0015】
前記一般式(1)において、Aは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表す。該炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,3−ブタンジイル基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、3−メチルブタン−1,3−ジイル基、ヘキサメチレン基等の2価の炭化水素基;2−ヒドロキシトリメチレン基、2−ヒドロキシテトラメチレン基、1−ヒドロキシメチルエチレン基等の水酸基で置換された2価の炭化水素基等が挙げられる。中でも、製造原料の入手性の観点から、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等の炭素数2又は3の2価の炭化水素基、2−ヒドロキシトリメチレン基、1−ヒドロキシメチルエチレン基等の水酸基で置換された炭素数3の2価の炭化水素が好ましい。
【0016】
前記一般式(1)のR1及びR2は、それぞれ同一又は異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示す。炭素数1〜3の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、中でも、製造原料の入手の容易さの観点から、メチル基、エチル基が好ましい。
前記一般式(1)のR3は、炭素数1〜3の炭化水素基、又は水素原子を示す。炭素数1〜3の炭化水素基の具体例は、R1及びR2で示される炭素数1〜3の炭化水素基の具体例と同じである。R3としては、製造原料の入手の容易さの観点から、メチル基、エチル基、又は水素原子が好ましい。
分子中に複数のR1が存在する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。分子中に複数のR2及びR3が存在する場合についても同様である。
【0017】
前記一般式(1)のZ-は1価の陰イオンを示す。1価の陰イオンとしては、ヒドロキシイオン;塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;酢酸イオン、プロピオン酸イオン、又は酪酸イオン等の炭素数2〜4の低級脂肪酸イオン;メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等の炭素数1〜3の低級アルキル硫酸イオン等が挙げられる。中でも、感触向上の観点からヒドロキシイオン及びハロゲン化物イオンが好ましく、ヒドロキシイオン、塩化物イオン及び臭化物イオンがより好ましく、塩化物イオンがさらに好ましい。
本発明のカチオン性基は、C−PU分子中のカルボキシル基の水素イオンと置換して、分子内又は分子間で対イオンを形成することもでき、その場合にはZ-は不要である。
【0018】
本発明のC−PUの重量平均分子量(Mw)は、毛髪化粧料に応用した場合の毛髪への定着性、すすぎ時の滑らかさ及びドライ後のハリの観点から、5,000〜50万が好ましく、7,000〜30万がより好ましく、9,000〜10万がさらに好ましく、10,000〜50,000が特に好ましい。なお、C−PUのMwは、実施例項記載の条件で行うゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定により得られた値である。
【0019】
本発明のC−PUは、本発明のカチオン性基及びカルボキシル基を有する。
本発明のC−PUの主鎖を構成する縮合糖(以下「構成単糖残基」ともいう)1つあたりの本発明のカチオン性基の平均数(以下「カチオン性基の平均置換度」ともいう)は、本発明のC−PUを毛髪化粧料に応用した場合の毛髪への定着性、及びドライ後のハリの観点から、0.1〜0.7が好ましく、0.15〜0.5がより好ましい。
本発明のC−PUの構成単糖残基1つあたりのカルボキシル基及びその塩の平均数(以下「カルボキシル基の平均置換度」ともいう)は、本発明のC−PUを毛髪化粧料に応用した場合のすすぎ時の滑らかさの観点から、0.3〜1.0が好ましく、0.5〜0.8がより好ましい。
【0020】
本発明のC−PUが有するカルボキシル基は、その一部又は全部が塩を形成していてもよい。本発明においては、C−PUが有するカルボキシル基の一部、又は全部が塩を形成している場合、これをカチオン変性ポリウロン酸の塩(以下「C−PUの塩」ともいう)という。
本発明のC−PUのカルボキシル基が塩を形成する場合であって、前記本発明のカチオン性基と分子内、又は分子間でイオン対を形成する場合以外の対イオンの具体例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;プロトン化した1級、2級、又は3級アミン;4級アンモニウムイオン又はアンモニウムイオン等が挙げられる。中でも、製造原料の入手の容易さの観点からから、アルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンが好ましく、ナトリウムイオンがより好ましい。
本発明のC−PUが塩である場合、対イオンは2種以上であってもよい。
【0021】
本発明のC−PUは、毛髪化粧料に応用した場合のすすぎ時の滑らかさ、ドライ後の毛髪のハリの観点から、下記一般式(2)で表されるC−PUが好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
前記一般式(2)において、Xは同一又は異なって、前記一般式(1)で表されるカチオン性基又は水素原子を示し、分子中、Xの少なくとも一つはカチオン性基である。Qは炭素数1〜3のアルキル基が置換した窒素原子、水素原子が結合した窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる原子、又は官能基であって、Qに結合したXが水素原子である場合は、該Qは酸素原子である。mは下記一般式(4)で表される構成単糖残基の平均重合度を示し、nは下記一般式(5)で表される構成単糖残基の平均重合度を示す。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
前記一般式(4)及び(5)において、X及びQは、前記一般式(2)と同じ意味を示す。
前記一般式(2)で示されるC−PUの結合様式は、ブロックであってもランダムであってもよい。
【0027】
前記一般式(2)で表されるC−PUの場合、カチオン性基の平均置換度は、一分子あたりのカチオン性基の数の平均値(a)を、mとnの和で除した数[a/(m+n)]で表され、カルボキシル基の平均置換度は、一分子あたりのカルボキシル基及びその塩の数の平均値(b)を、mとnの和で除した数[b/(m+n)]で表される。
前記一般式(2)で表されるC−PUの場合のカチオン性基の平均置換度、及びカルボキシル基の平均置換度の好ましい範囲は、前述したC−PUのカチオン性基の平均置換度、及びカルボキシル基の平均置換度の好ましい範囲と同じである。
【0028】
前記一般式(4)で表される構成単糖残基が、構成単糖残基全体に占めるモル分率[m/(m+n)]は、本発明のC−PUを毛髪化粧料に応用した際のすすぎ時の滑らかさの観点から、0.3〜1.0が好ましく、0.5〜0.97がより好ましく、0.6〜0.95がさらに好ましい。
前記一般式(2)及び(4)におけるQが、炭素数1〜3のアルキル基が置換した窒素原子である場合、炭素数1〜3のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。炭素数1〜3のアルキル基は、C−PU製造時に用いられるカチオン化剤の構造によって決定される。該カチオン化剤の反応性の観点からは、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。同様の反応性の観点から、Qが炭素数1〜3のアルキル基が置換した窒素原子又は水素原子が結合した窒素原子である場合、Qは水素原子が結合した窒素原子であることが好ましい。
カチオン化剤の反応性、及び入手の容易性の観点から、Qは水素原子が結合した窒素原子、または酸素原子であることが好ましい。
【0029】
<カチオン変性ポリウロン酸の製造法>
本発明のC−PUの製造方法に特に限定はなく、ポリウロン酸を下記一般式(3)で表されるカチオン化剤(以下、単に「カチオン化剤」ともいう)と反応させてもよいし、1級水酸基を有する多糖に対して、1級水酸基の酸化(以下、単に「酸化」という)とカチオン化剤によるカチオン化を行なうことによっても得ることができる。多糖に対する酸化及びカチオン化は、どちらを先に行なっても、また同時に行なってもよいが、酸化剤及びカチオン化剤の効率の観点から、別々に行なうことが好ましい。
【0030】
【化7】

【0031】
前記一般式(3)において、Yはエポキシ基、ハロゲン原子、1級又は2級のアミノ基、水酸基、及びチオール基からなる群から選ばれる原子又は官能基である。A’は、水酸基が置換していてもよい炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表す。但しYがエポキシ基である場合、A’は炭素数1〜4の2価の炭化水素基を表す。R1〜R3、及びZ-は前記一般式(1)と同じ意味を示す。カチオン化剤の好ましい態様及び具体例については、後述の〔カチオン化剤〕の項で説明する。
【0032】
以下、1級水酸基を有する多糖としてセルロースを原料に用いたC−PUの製造法について、酸化工程を経てカチオン化剤と反応させる工程を行なう製造方法(A)と、カチオン化剤と反応させる工程を経て酸化工程を行なう製造方法(B)の2通りの方法について具体的に説明する。
【0033】
(A)セルロースを酸化した後、カチオン化剤と反応させる、C−PUの製造方法
[A−1:酸化工程]
酸化工程は、セルロースの1級水酸基の酸化を行ない、ポリウロン酸又はその塩を得る工程である。
〔セルロース〕
酸化工程で用いられるセルロースは、特に限定されない。例えば木材パルプを精製して、又は微生物により生産される天然セルロースや、上記天然セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の溶媒に溶解し、改めて紡糸した再生セルロース、および上記セルロースを酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理等によって解重合処理した微細セルロース、又は機械力によりに粉砕処理した微細セルロースなどを用いることができる。
【0034】
C−PUの水溶性の観点からは、結晶性を低下させた低結晶性のセルロースを用いることが好ましい。
セルロースの場合、結晶化の程度は、下記計算式(1)に、X線結晶回折スペクトルから求められる数値を入れることにより、結晶化指数として数値化できる。
結晶化指数(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【0035】
結晶化指数は、結晶からアモルファスへの変化に伴うセルロースのI型結晶の002面におけるX線回折強度の変化を、その指標としている。従って、セルロース中に含まれる結晶形がI型のみであれば、理論上、結晶化指数は0〜100%の値となる。実際にはセルロース中には複数の結晶形が存在するため、I型以外の結晶も十分に破壊されアモルファス化されている場合は、負の値も採り得るが、本発明においては上記計算式(1)で負の値が得られた場合は、結晶化指数は0%とみなす。
【0036】
通常の粉末セルロースは、少量のアモルファス部を有し、それらの結晶化指数は、上記計算式(1)によれば、概ね60〜80%の範囲にあるいわゆる結晶性セルロースである。
本発明の原料として低結晶性セルロースを用いる場合には、本発明のC−PUの水溶性の観点から結晶化指数が0〜25%であることが好ましく、0〜10%であることがより好ましく、0%であることが更に好ましい。
低結晶性セルロースの調製方法は特に限定されない。例えば、特開2009−263641号公報記載の[低結晶性の粉末セルロースの調製]の項に記載の方法に従って行なうことができる。
【0037】
〔酸化反応〕
酸化工程を環境負荷の少ない方法で効率的に行うために、セルロースの1級水酸基の酸化を選択的に行なうことが好ましく、特開2009−263641号公報の[ポリウロン酸塩の製造]の項に記載された方法で酸化反応を行うことが好ましい。即ち低結晶性の粉末セルロースを水系に分散させ、N−オキシル化合物の存在下、必要に応じて共酸化剤や助触媒を用いて酸化反応を行うことが好ましい。
本酸化工程で使用するN−オキシル化合物、共酸化剤、助触媒の種類、及びそれらの使用量の好ましい態様、酸化反応の温度、反応系のpHの好ましい態様は、特開2009−263641号公報の[ポリウロン酸塩の製造]の項に記載したものと同様である。
【0038】
〔後処理〕
酸化工程終了後は、必要に応じてメタノール、エタノール、アセトン等による再沈殿、塩のイオン交換、透析膜による透析等による精製を行うことができる。
【0039】
[A−2:カチオン化工程]
本カチオン化工程は、[A−1:酸化工程]で得られたポリウロン酸又はその塩と、前記一般式(3)で表されるカチオン化剤とを反応させる工程である。ポリウロン酸又はその塩を、溶媒に溶解、又は分散させた状態で、必要に応じて触媒及び/又は縮合剤を用いてカチオン化剤と反応させることが望ましい。
【0040】
〔カチオン化剤〕
本発明に用いるカチオン化剤は、前記一般式(3)で表される。
前記一般式(3)において、R1〜R3、Z-の好ましい様態は、それぞれ前記一般式(1)のR1〜R3、Z-の好ましい様態と同様である。
前記一般式(3)のA’は、カチオン化剤の入手の容易さの観点から、水酸基が置換していてもよい炭素数1〜3の2価の炭化水素基が好ましく、反応性の観点から、水酸基が置換していてもよい炭素数1〜3の2価の直鎖状アルキレン基がより好ましい。
前記一般式(3)のYとして、エポキシ基、又はハロゲン原子を有するカチオン化剤は、ポリウロン酸のカルボキシル基又はその塩、及び水酸基と容易に反応することができる。前記一般式(3)のYとして、1級又は2級のアミノ基、水酸基、又はチオール基を有するカチオン化剤は、ポリウロン酸のカルボキシル基又はその塩と選択的に反応させることができる。
前記一般式(3)のYは、カチオン化剤の反応性、及び反応後に化学的に安定なエーテル結合、又はアミド結合を形成しうるという観点からは、エポキシ基、又はアミノ基であることが好ましい。
【0041】
カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリメチルアンモニウムブロミド等のグリシジルトリアルキル(C1〜3)アンモニウムのハロゲン化物塩;3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等の3−ハロゲノ−2−ヒドロキシプロピルトリアルキル(C1〜3)アンモニウムのハロゲン化物塩;グリシジルジメチルアミン塩酸塩等のグリシジルジアルキル(C1〜3)アミンハロゲン化水素塩; 3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアミン塩酸塩等の3−ハロゲノ−2−ヒドロキシプロピルジアルキル(C1〜3)アミンのハロゲン化水素塩;3−ジメチルアミノプロピルクロライド塩酸塩等のω−ジアルキル(C1〜3)アミノハロゲン化アルキル(C1〜6)ハロゲン化水素塩;N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン塩酸塩、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−1,2−エチレンジアミン塩酸塩等のN,N−ジアルキル(C1〜3)−α,ω−アルカン(C1〜6)ジアミン塩酸塩;3−ジメチルアミノ−1−プロパノール塩酸塩などのω−ジアルキル(C1〜3)アミノ−α−アルコール(C1〜6)ハロゲン化水素塩;3−ジメチルアミノアルカン−1−チオール塩酸塩等のω−ジアルキル(C1〜3)アミノアルカン(C1〜6)−α−チオールハロゲン化水素塩等が挙げられる。
【0042】
これらの中で、カチオン化剤の反応性、及び反応後に、化学的に安定なエーテル結合又はアミド結合を形成しうるという観点からは、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリメチルアンモニウムブロミド等のグリシジルトリアルキル(C1〜3)アンモニウムのハロゲン化物塩;グリシジルジメチルアミン等のグリシジルジアルキル(C1〜3)アミン塩酸塩;N,N-ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−1,2−エチレンジアミン塩酸塩等のN,N−ジアルキル(C1〜3)−α,ω−アルカン(C1〜6)ジアミン塩酸塩が好ましく、入手の容易性の観点からは、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、N,N-ジメチル−1,3−プロパンジアミン塩酸塩がより好ましい。
なお、ここでグリシジルジアルキル(C1〜3)アミンハロゲン化水素塩、N,N−ジアルキル(C1〜3)−α,ω−アルカン(C1〜6)ジアミン塩酸塩等のアミンのハロゲン化水素塩は、カチオン化反応時にはグリシジルジアルキル(C1〜3)アミン、N,N−ジアルキル(C1〜3)−α,ω−アルカン(C1〜6)ジアミンなどの遊離アミンの形で添加することもできる。
【0043】
カチオン化剤の使用量は、所望のカチオン性基の導入量、及び収率に応じて適宜調整することができるが、本発明のC−PUを毛髪化粧料に応用した場合のすすぎ時の滑らかさ、ドライ後の毛髪のハリの観点から、本カチオン化工程の原料である、[A−1:酸化工程]で得られたポリウロン酸の構成単糖残基1モルあたり、0.1〜3モル倍が好ましく、0.15〜2モル倍がより好ましい。
【0044】
〔触媒〕
カチオン化工程には必要に応じて触媒を用いることができる。
触媒としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、有機アミンなどの塩基性触媒が好ましい。
触媒の量は、それらの機能を発揮できる有効量であればよく、特に制限はないが、カチオン化工程の原料として用いるポリウロン酸又はその塩とカチオン化剤との反応速度、及び反応終了後の精製負荷の観点から、酸化工程で用いた原料セルロースに対して0.1〜100質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることが更に好ましい。
【0045】
〔縮合剤〕
前記一般式(3)においてYとして1級又は2級のアミノ基、水酸基、又はチオール基を有するカチオン化剤を用い、ポリウロン酸のカルボキシル基又はその塩に選択的にカチオン化剤を反応させる場合、縮合剤を使用して反応させるのが好ましい。
縮合剤としては、特には限定されないが、合成化学シリーズ ペプチド合成(丸善株式会社 1975年発行)第116頁に記載、又はTetrahedron,57,1551(2001)に記載の縮合剤等が挙げられる。
これらの中で、溶媒として水を用いることができるという観点から、4−(4、6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドが好ましい。
【0046】
縮合剤の使用量は、所望のカチオン性基の導入量、及び収率に応じて適宜調整することができるが、カチオン化剤の効率の観点から、使用するカチオン化剤1モルに対し、1〜5モル倍が好ましく、1〜2モル倍がより好ましい。
ポリウロン酸塩を原料とする反応において縮合剤を用いる際には、ポリウロン酸塩のカルボキシレートを、カルボキシル基に変換した後、反応を行うことが好ましい。カルボキシル基に変換する方法としては、ポリウロン酸塩に酸を添加する方法、又は溶媒に水を用いる場合であれば水のpHを下げる方法が好ましい。
【0047】
〔溶媒〕
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜6のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。中でも、環境負荷低減の観点から水が好ましい。上記溶媒は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
溶媒量は[A−1:酸化工程]で得られたポリウロン酸又はその塩に対し1〜1000質量倍が好ましく、3〜100質量倍がより好ましく、6〜20質量倍が更に好ましい。
【0048】
〔反応条件〕
カチオン化工程の温度は、反応の選択性、副反応の抑制の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは50℃以下であって、その下限は、反応速度の観点から、好ましくは−5℃以上である。
反応時間は、反応速度に応じて適宜調整すればよいが、通常0.1〜24時間であり、好ましくは1〜10時間である。
【0049】
〔後処理〕
カチオン化工程終了後は、必要に応じてメタノール、エタノール、アセトン等による再沈殿、塩のイオン交換、透析膜を用いた透析等による精製を行うことができる。
【0050】
(B)セルロースとカチオン化剤を反応させた後、酸化を行なう、C−PUの製造方法
[B−1:カチオン化工程]
本カチオン化工程は、セルロースの水酸基と前記一般式(3)で表されるカチオン化剤との反応を行い、カチオン性基をセルロースに導入してカチオン化セルロースを得る工程である。
セルロースを無溶媒で、又は溶媒に溶解もしくは分散させた状態で、必要に応じて触媒の存在下にカチオン化剤と反応させることが望ましい。
【0051】
〔セルロース〕
本カチオン化工程で用いられるセルロースの具体例、及び好ましい様態は、[A−1:酸化工程]で記載したセルロースと同様である。但し、セルロースを溶媒に溶解して反応を行う場合には、セルロースの結晶性は、カチオン化の反応性及び本工程を経て得られるカチオン変性ポリウロン酸の性能に影響を与えない。
【0052】
〔カチオン化剤〕
前記一般式(3)のR1〜R3、Z-、A’の好ましい様態は、[A−2:カチオン化工程]の項に記載したものと同様である。
Yとしては、水酸基との反応性の観点から、エポキシ基、又はハロゲン原子であることが好ましい。
前記一般式(3)で表されるカチオン化剤の具体例については、[A−2:カチオン化工程]の項に記載したものと同様であるが、水酸基との反応性の観点から、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリエチルアンモニウムクロライド、グリシジルトリメチルアンモニウムブロミド等のグリシジルトリアルキル(C1〜3)アンモニウムのハロゲン化物塩;グリシジルジメチルアミン塩酸塩などのグリシジルジアルキル(C1〜3)アミンハロゲン化水素塩が好ましく、入手の容易性の観点からは、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライドがより好ましい。
カチオン化剤の使用量の好ましい様態については、[A−2:カチオン化工程]のカチオン化剤の使用量の好ましい様態と同様である。
【0053】
〔溶媒〕
セルロースを溶媒に分散させて反応を行う場合、溶媒は特に限定されない。具体例として[A−2:カチオン化工程]に挙げた溶媒の他、脂肪族炭化水素、又は芳香族炭化水素溶媒を挙げることができる。
セルロースを溶媒に溶解させて反応を行う場合、溶媒としては、セルロースの科学(朝倉書店 発行年2000年)第114頁に記載のセルロース溶媒を挙げることができる。これらの内、ジメチルスルホキシド/二硫化炭素/アミン混合系、N,N-ジメチルホルムアミド/四酸化二窒素混合系、N−メチルモルホリンN−オキサイド、N,N−ジメチルアセトアミド/塩化リチウム系が好ましい。
【0054】
〔触媒〕
本カチオン化工程においては、必要に応じて触媒を用いることができる。触媒の種類及び使用量の好ましい様態は、[A−2:カチオン化工程]に記載したものと同様である。
【0055】
〔反応条件/後処理〕
反応条件及び後処理の好ましい様態は、[A−2:カチオン化工程]に記載したものと同様である。
【0056】
[B−2:酸化工程]
本酸化工程は、前記[B−1:カチオン化工程]で得られたカチオン化セルロースの1級水酸基を酸化させる工程である。
酸化工程を環境負荷の少ない方法で効率的に行うために、セルロースの1級水酸基の酸化を選択的に行なうことが好ましく、低結晶性粉末セルロースの代わりに、前記[B−1:カチオン化工程]で得られたカチオン化セルロースを用いる点を除き、特開2009−263641号公報記載の[ポリウロン酸塩の製造]の項に記載された方法で酸化を行うことが好ましい。
【0057】
〔後処理〕
後処理の好ましい様態は、[A−1:酸化工程]に記載したものと同様である。
【0058】
<カチオン変性ポリウロン酸の感触改善剤としての用途>
本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩は、感触改善剤の有効成分として、あらゆる分野に応用することが可能であり、好ましくは毛髪化粧料、皮膚化粧料、毛髪洗浄料、皮膚洗浄料に応用することができる。特に、毛髪化粧料に応用した場合には、すすぎ時の滑らかさとドライ後の毛髪のハリの改善を両立させることができ好ましい。
毛髪化粧料又は皮膚化粧料に応用する場合、本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩の配合量は、感触改善効果の観点から、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.2〜5質量%が更に好ましい。
【0059】
また、前記化粧料には、本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩の他に、通常の化粧料に用いられる成分として、例えば、特開平7−304801号公報に記載の多価アルコール、油性成分、界面活性剤、ビタミン類、殺菌剤、抗炎症剤、抗フケ剤、賦活剤、冷感剤、紫外線吸収剤、防腐剤、無機塩類、粘度調整剤、パール化剤、香料、色素、酸化防止剤、水膨潤性粘土鉱物、多糖類(本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩を除く)、合成高分子、無機顔料、又は有機顔料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
前記化粧料は、通常の方法により製造することができ、その剤型は液体状、クリーム状、固形状、粉末等任意の剤型とすることができるが、特に液体状又はクリーム状とすることが好ましい。
【0060】
また、本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩を毛髪洗浄料、皮膚洗浄料に応用する場合、その配合量は0.1〜30質量%が好ましく、0.2〜10質量%がより好ましく、0.2〜5質量%が更に好ましい。
前記洗浄料は、通常洗浄剤に用いる各種界面活性剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有する。界面活性剤としては、例えば特開平7−304801号公報記載の界面活性剤が挙げられる。
これらの界面活性剤は単独で又は2種以上を組み合わせてもよく、その配合量は、剤型によっても異なるが、前記洗浄料中に0.1〜60質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましい。
【0061】
また、前記洗浄料には、上記成分の他に、例えば特開平7−304801号公報記載の多価アルコール、油性成分、界面活性剤、ビタミン類、殺菌剤、抗炎症剤、抗フケ剤、賦活剤、冷感剤、紫外線吸収剤、防腐剤、無機塩類、粘度調整剤、パール化剤、香料、色素、酸化防止剤、水膨潤性粘土鉱物、多糖類(本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩を除く)、合成高分子、無機顔料、又は有機顔料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
前記洗浄料は、通常の方法により製造することができ、その剤型は液体状、ペースト状、固形状、粉末等任意の剤型とすることができるが、特に液体状又はペースト状とすることが好ましい。
【実施例】
【0062】
実施例中の%は、特記しない限り質量%である。また水は、特記しない限りイオン交換水を用いた。
<セルロースの結晶化指数の測定>
株式会社リガク製「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffract meter」を用いて、以下の条件で測定した回折スペクトルのピーク強度から、前記計算式(1)によりセルロースの結晶化指数を算出した。
X線光源:Cu/Kα−radiation、
管電圧:40kV、管電流:120mA
測定範囲:2θ=5〜45°、
測定サンプル:面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮して作成
X線のスキャンスピード:10°/min
【0063】
<平均分子量の測定>
[C−PU及びカチオン化カルボキシメチルセルロースの重量平均分子量の測定]
実施例1で得られたC−PU(A)、実施例2で得られたC−PU(B)、実施例3で得られたC−PU(C)、及び比較例1で得られたカチオン化カルボキシメチルセルロース(以下「C−CMC」という)の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって以下の条件で測定した。
〔サンプル〕
0.5g/100mL(溶離液),20μL
〔測定装置・測定条件〕
溶離液流路ポンプ;株式会社日立製作所製,商品名;L−6000、
検出器;示差屈折率検出器(昭和電工株式会社製、商品名;SHODEX RI SE−61)カラム温度;40℃
流速;1.0ml/分
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel G400PWXL,G2500
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(質量比)
標準ポリマー;プルラン(昭和電工株式会社製、商品名 SHODEX STD−P5、STD−P50、STD−P200、STD−P800)
【0064】
(カチオン化ヒドロキシエチルセルロースの重量平均分子量の測定)
比較例3で使用したカチオン化ヒドロキシエチルセルロース(花王株式会社製、商品名;ポイズC−80M、以下「C−HEC」という)の重量平均分子量の測定は、カラム及び溶離液として以下のものを用いた点を除き、C−PUの重量平均分子量の測定の項に記載したものと同様にして行なった。
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel α−Mを直列に2本つないで使用した。
溶離液:Na2SO4を0.15モル/L濃度になる様、1%酢酸水溶液に溶解した溶液を用いた。
【0065】
[セルロースの粘度平均分子量の測定(銅−アンモニア法)]
(i)測定用溶液の調製
メスフラスコ(100mL)に塩化第一銅0.5g、25%アンモニア水20〜30mLを加え、完全に溶解した後に、水酸化第二銅1.0g、及び25%アンモニア水を加えて標線の一寸手前までの量とした。これを30〜40分撹拌して、完全に溶解した。その後、精秤したセルロースを加え、標線まで上記アンモニア水を満たした。空気の入らないように密封し、12時間、マグネチックスターラーで撹拌して溶解し、測定用溶液を調製した。添加するセルロース量を20〜500mgの範囲で変えて、異なる濃度の測定用溶液を調製した。
(ii)粘度平均分子量の測定
上記(i)で得られた測定用溶液(銅アンモニア溶液)をウベローデ粘度計に入れ、恒温槽(20±0.1℃)中で1時間静置した後、液の流下速度を測定した。種々のセルロース濃度(g/dL)の銅アンモニア溶液の流下時間[t(秒)]とセルロース無添加の銅アンモニア水溶液の流下時間[t0(秒)]から、下記式により、それぞれの濃度における還元粘度(ηsp/c)を下記式により求めた。
ηsp/c=(t/t0−1)/c
(式中、cはセルロース濃度(g/dL)である。)
更に、還元粘度をc=0に外挿して固有粘度[η](dL/g)を求め、下記式により粘度平均分子量(Mvis)を求めた。
vis=2000×[η]×162
(式中2000は、セルロース固有の係数であり、162はセルロースの構成糖残基であるアンヒドログルコースの分子量である。)
【0066】
(カチオン性基の平均置換度、カルボキシル基の平均置換度の算出法)
重合体のカチオン性基の平均置換度、カルボキシル基の平均置換度は、以下のように算出した。即ち、以下の方法で測定した重合体の窒素含有量、カルボン酸量から下記の連立方程式により算出した。
(1)カチオン性基の平均置換度
C−PU(A)又はC−PU(B)のカチオン性基の平均置換度
=(162+36×x)×Y/(2800−54×Y)
C−PU(C)のカチオン性基の平均置換度
=(162+80×x)×Y/(2800−151×Y)
(式中、Yは、窒素含有量(%)であり、xはカルボキシル基置換度である。)
(2)カルボキシル基の平均置換度
C−PU(A)又は(B)のカルボキシル基の平均置換度
=(162+54×y)×X/(1−36×X)
C−PU(C)のカルボキシル基の平均置換度
=(162×X+151×y)/(1−80×X)
ポリウロン酸のカルボキシル基の平均置換度
=162×X/(1−14×X)
(式中、Xは、滴定によって求められたカルボン酸量(モル/g)であり、yはカチオン性基置換度である。)
【0067】
(窒素含有量の測定)
C−PUの窒素含有量(%)は、ケルダール分析法(「試薬試験方法通則 窒素化合物」 JIS K 8001)に従い測定した。
【0068】
(カルボン酸量の測定)
C−PUのカルボン酸量は以下のように求めた。即ち、サンプルの2%水溶液を50g調製し、6N塩酸にてpHを1以下とした。この酸性溶液をエタノール500mLに投入し、生じた沈殿物を回収し、40℃で一晩減圧乾燥させた。得られたサンプルを0.1g精秤し、イオン交換水30mLに溶解又は分散させ、フェノールフタレインを指示薬として0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、単位重量あたりのカルボン酸量(モル/g)を求めた。
【0069】
実施例1 (C−PU(A)の合成)
セルロースパウダー(商品名:KCフロック W−400G 日本製紙ケミカル株式会社製)を105℃、3時間の条件で乾燥させた。得られたセルロールパウダー25gを遊星ボールミル(フリッチュ(Fritsch)社製 商品名;P−6)で10分間粉砕(回転数400rpm)、10分間静置する操作を12回繰り返し、低結晶性のセルロースパウダー(結晶化度0%、粘度平均分子量3.0万)を得た。
pHメータを備えた1Lビーカーに、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(商品名:TEMPO、アルドリッチ社製)0.39g、水580g、上記で得られた低結晶性のセルロースパウダー20g(結晶化度0%、構成糖残基0.12モル)を加え、攪拌子を用い200rpmの回転数で攪拌した。温度を20℃付近に保ち、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)180g(0.27モル)を、マイクロチューブポンプを用いて徐々に添加した。酸化反応が進行するに従い、pHが低下するので、1.0N水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、溶液のpHを8.5付近に保持した。次亜塩素酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液を滴下終了した段階で、反応混合物はほぼ均一透明になっていた。
3時間後に反応を終了し、得られた反応混合物をエタノール7Lに注ぎ、白色固体を沈殿させた。沈殿物を水1Lに再度溶解させ、水不溶分を濾別した後、水溶解分をアセトン7Lに注ぎ白色固体を沈殿させた。40℃、−80kPaGで一晩減圧乾燥することで、白色固体22gを得た。得られたポリウロン酸のカルボキシル基の置換度は、0.8であった。
pHメータを備えた300mLビーカーに、上記で得られた白色固体5.0g(構成糖残基0.026モル)を水40gに溶解させた。この溶液に、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン(和光純薬工業株式会社製)1.3g(0.013モル)を加えた後、1.0N塩酸を加えpHを3に調整した。その後、予め水20gに溶解させた4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドn水和物(和光純薬工業株式会社製)4.4gを加え、室温で3時間攪拌した。得られた溶液を2日間pH3に保持した水中で透析膜を用いて透析操作を行った。なお、使用した透析膜はヴィスキングチューブ28.6mm(アズワン株式会社製、孔径50Å)であり、水を1日3回交換した。透析操作を終了した後、1.0N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しpHを7付近に調整した。得られた溶液を凍結乾燥することで白色のC−PU(A)4.8gを得た。
得られたC−PU(A)の重量平均分子量は2.3万、窒素含有量は2.2%、カルボン酸量は0.0033モル/g、カチオン性基の平均置換度は0.2、カルボキシル基の平均置換度は0.7であった。
【0070】
実施例2 (C−PU(B)の合成)
N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミンの量を2.6g(0.025モル)に、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドn水和物の量を8.9gに変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、白色のC−PU(B)4.8gを得た。
得られたC−PU(B)の重量平均分子量は2.2万、窒素含有量は4.1%、カルボン酸量は0.0023モル/g、カチオン性基の平均置換度は0.3、カルボキシル基の平均置換度は0.4であった。
【0071】
実施例3 (C−PU(C)の合成)
セルロースパウダー(KCフロック W−400G 日本製紙ケミカル株式会社製、粘度平均分子量3.0万)20g(構成糖残基0.12モル)に水250gを加え、30分静置することでセルロースパウダーを膨潤させた。その後、ガラスフィルターで水を濾過し、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製)100mLを加えては濾過する操作を3回繰り返した。撹拌機、ジムロート還流器を備えた2L3つ口フラスコ中に、膨潤したセルロースパウダー、塩化リチウム(和光純薬工業株式会社製)100g、N,N−ジメチルアセトアミド1200gを加えた。窒素置換後、反応溶液を100℃まで昇温し、1時間保持した後、室温まで冷却した。再度反応溶液を100℃まで昇温、1時間保持、室温まで冷却という操作を行なった後、N,N−ジメチルアセトアミドを490g加え、再び100℃まで昇温、1時間保持、室温まで冷却という操作を繰り返した。
撹拌機、ジムロート還流器を備えた2L3つ口フラスコ中に、上記のセルロース溶液1500gを加え、110℃まで昇温し、室温まで放冷した。t−ブトキシカリウム(和光純薬工業株式会社製)2.6gを加え、再度110℃まで昇温し、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド80%水溶液(坂本薬品工業株式会社製)50g(0.27モル)を滴下し、3時間攪拌した。
反応終了後、反応混合物を、エタノール4Lに注ぎ、黄色固体を沈殿させた。沈殿物を水1Lに再度溶解させ、pH7に保持した水中で透析膜を用いて透析操作を行った。なお、透析膜としてヴィスキングチューブ28.6mm(アズワン株式会社製、孔径50Å)を使用し、透析中は1日3回水を交換した。透析操作を終了した後、得られた溶液を凍結乾燥することで黄色固体8.7gを得た。
【0072】
pHメータを備えた500mLビーカーに2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル0.02g、水240g、上記で得られた黄色固体5.0g(構成糖残基0.024モル)を加え、攪拌子を用い200rpmの回転数で攪拌した。温度を20℃付近に保ち、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液26g(0.038モル)を、マイクロチューブポンプを用いて徐々に添加した。酸化反応が進行するに従い、pHが低下するので、1.0N水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、溶液のpHを8.5付近に保持した。
得られた溶液を2日間pH3に保持した水中で透析膜を用いて透析操作を行った。なお、透析膜としてヴィスキングチューブ28.6mm(アズワン株式会社製、孔径50Å)を使用し、透析中は1日3回水を交換した。透析操作を終了した後、1.0N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しpHを7付近に調整した。得られた溶液を凍結乾燥することで白色のC−PU(C)3.4gを得た。
得られたC−PU(C)の重量平均分子量は1.3万、窒素含有量は3.2%、カルボン酸量は0.0032モル/g、カチオン性基の平均置換度は0.3、カルボキシル基の平均置換度は0.7であった。
【0073】
比較例1(C−CMCの合成)
前記特許文献2記載の合成例に準じて、C−CMCを合成した。具体的には300mLビーカーに、カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル株式会社製、商品名;FT−1、カルボキシル基の平均置換度;0.9)5.0g(構成糖残基0.023モル)を水100gに溶解させた。1.0N水酸化ナトリウム水溶液を68g加え攪拌した後、撹拌機、ジムロート還流器を備えた300mL3つ口フラスコ中に移し替えた。反応溶液を45℃まで昇温し、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドグリド50%水溶液(坂本薬品工業株式会社製の80%グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドグリド水溶液に水を加えて濃度を50%に調整したもの)8.6g(0.046モル)を滴下し、2時間50℃で攪拌した。得られた溶液を2日間pH3に保持した水中で透析膜を用いて透析操作を行った。なお、透析膜としてヴィスキングチューブ28.6mm(アズワン株式会社製、孔径50Å)を使用し、透析中は1日3回水を交換した。透析操作を終了した後、1.0N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しpHを7付近に調整した。得られた溶液を凍結乾燥することで白色のC−CMC3.5gを得た。
得られたC−CMCの重量平均分子量は2.6万、C−PUのカチオン性基の平均置換度、及びカルボキシル基の平均置換度の測定法に準じて求めたカチオン性基の平均置換度は0.1、カルボキシル基の平均置換度は0.9であった。
【0074】
実施例4〜6、比較例2〜3
表2に示す重合体として、実施例1で得られたC−PU(A)(実施例4)、実施例2で得られたC−PU(B)(実施例5)、比較例1で得られたC−CMC(比較例2)、及び市販の感触改善剤〔カチオン化ヒドロキシエチルセルロース(C−HEC)、花王株式会社製、商品名;ポイズ C−80M、カチオン性基の平均置換度 0.1〕(比較例3)を用い、表2に示す組成のヘアトリートメントA〜Eを常法により製造した。
得られたサンプルについて、4人のパネラーにより、以下の評価方法ですすぎ時の滑らかさ及びドライ後の毛髪のハリを評価した。それぞれについて、平均点を求めた。結果を表3に示す。
(評価方法)
(1)すすぎ性能:毛髪トレス20gにヘアトリートメント1gを塗布し、30秒流水ですすぎ時の、毛髪の滑らかさの感触を以下の基準で官能評価した。
(2)ドライ性能:前記(1)ですすぎ流しした毛髪トレスを、ドライヤーで乾燥したときの、毛髪のハリの感触を以下の基準で官能評価した。
<評価基準>
重合体未添加のコンディショナーの評価を3として、5段階で評価した。
5 ;良い。4 ; やや良い。3 ; 普通。2 ; やや悪い。1; 悪い。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
表3から明らかなように、本発明のカチオン変性ポリウロン酸は、ドライ後の毛髪にハリを与えつつ、従来の感触付与剤の課題であった「すすぎ時の滑らかさの劣化」を著しく改善している。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩は、優れた感触改善効果を有する。該カチオン変性ポリウロン酸又はその塩を有効成分として有する感触改善剤は、すすぎ時の滑らかさとドライ後の毛髪のハリの改善を両立させることができ、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント等の毛髪化粧料に応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウロン酸に、下記一般式(1)で表されるカチオン性基が導入された構造を有するカチオン変性ポリウロン酸又はその塩。
【化1】

(式中、Aは水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜6の2価の炭化水素基を示す。R1、R2はそれぞれ同一又は異なって炭素数1〜3の炭化水素基を示し、R3は炭素数1〜3の炭化水素基又は水素原子を示す。Z-は1価の陰イオンを示す。)
【請求項2】
ポリウロン酸が、セルロースを酸化して得られるポリウロン酸である、請求項1に記載のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩。
【請求項3】
重量平均分子量が5,000〜500,000である、請求項1又は2に記載のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩。
【請求項4】
カチオン変性ポリウロン酸が、下記一般式(2)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩。
【化2】

(式中、Xは同一又は異なって、前記一般式(1)で表されるカチオン性基又は水素原子を示し、分子中、Xの少なくとも一つは一般式(1)で表されるカチオン性基である。Qは炭素数1〜3のアルキル基が置換した窒素原子、水素原子が結合した窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる原子、又は官能基であって、Qに結合したXが水素原子である場合は、該Qは酸素原子である。m、nはそれぞれ、括弧内の構成単糖残基の平均重合度を表す。)
【請求項5】
一般式(1)で表されるカチオン性基の、構成単糖残基当たりの平均置換度が0.1〜0.7であり、カルボキシル基又はその塩の、構成単糖残基当たりの平均置換度が0.3〜1.0である、請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のカチオン変性ポリウロン酸又はその塩を有効成分として有する感触改善剤。
【請求項7】
毛髪化粧料に用いる、請求項6に記載の感触改善剤。
【請求項8】
セルロースを酸化した後、下記一般式(3)で示されるカチオン化剤と反応させる、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩の製造方法。
【化3】

(式中、Yはエポキシ基、ハロゲン原子、1級又は2級のアミノ基、水酸基、及びチオール基からなる群から選ばれる原子又は官能基であって、A’は、水酸基が置換していてもよい炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表す。但しYがエポキシ基である場合、A’は炭素数1〜4の2価の炭化水素基を表す。R1〜R3、及びZ-は前記一般式(1)と同じ意味を示す。)
【請求項9】
セルロースと前記一般式(3)で示されるカチオン化剤とを反応させた後、酸化を行なう、カチオン変性ポリウロン酸又はその塩の製造方法。

【公開番号】特開2013−36012(P2013−36012A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175776(P2011−175776)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】