説明

カプサイシン含有飲料

【課題】カプサイシンを含有し、適度な辛味を有する嗜好性に優れた飲料で、かつ喉等への刺激が低減された喉越しや後味がすっきりした飲料を提供すること。
【解決手段】カプサイシンと、カプサイシンの呈味を改善する量のグルタミン酸とを含有する飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、辛味成分としてカプサイシンを含有する飲料に関し、より詳細には、特定量のグルタミン酸を添加することによって、または、特定量のグルタミン酸及びアラニンを添加することによって、適度な辛味を保持しつつ、カプサイシン由来の刺激、特に喉への刺激を低減したカプサイシン含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
唐辛子は、その辛味が食欲を増進する効果を有するとして、古くから各種調味料や加工食品の食材として利用されている。また、近年では、健康志向の高まりから、唐辛子の辛味成分であるカプサイシン(Capsaicin)の生理機能、例えば脂肪燃焼、血液循環の改善、アドレナリン分泌促進等の作用が着目され、種々のカプサイシンを含有する飲食品が開発されている。そして、容器に充填された容器詰飲料で、毎日または定期的に一定量のカプサイシンを簡便に摂取することができる形態のカプサイシン含有容器詰飲料も市販されており、例えば、カプサイシンを3mg含有する飲料(商品名:飲む唐辛子、有限会社コピス)や、カプサイシンとアミノ酸(ロイシン、イソロイシン及びバリン)とビタミン類などを含有する飲料(商品名:タカラバイオ 飲む寒天 カロリーオフレモン味、タカラバイオ株式会社)等がある。
【0003】
これらカプサイシン含有飲食品は、カプサイシン由来の辛味が強いために、カプサイシンの使用量が制限され、飲食品の用途が限定されることもある。そこで、カプサイシン含有飲食品の呈味を改善する方法が種々報告されている。例えば、特許文献1には、カプサイシン類を含有した液状食品であって、スクラロースを含有し、pHを4.6以下に調整して加熱処理することで得られる、カプサイシン由来の辛味が抑えられたマイルドな辛味を有する、あるいは辛味を感じ難い液状食品が開示されている。また、特許文献2には、乾燥唐辛子を主材料とした香辛料に、アミノ酸塩系及び核酸塩系、有機酸塩系旨み成分を多量に含有した原料を配合した多目的辛味調味料で、複数種類配合することで作用する旨みの相乗効果を利用した、辛味と旨みとを有する官能的においしい天然調味料が開示されている。さらに、特許文献3には、唐辛子の無辛味固定品種である「CH−19甘」に含有されているカプシノイド様物質の構造が開示されており、実施例5には、この無辛味のカプシノイド様物質を含有するスポーツ飲料が例示されている。さらにまた、特許文献4には、カプサイシンをマイクロカプセル化することにより辛味を抑制することが開示され、試験例3にはこのマイクロカプセルを用いた抵抗感のない美味しいレモン飲料が例示されている。
【0004】
一方、旨み成分として知られているアミノ酸、特にグルタミン酸ナトリウムを添加することにより、辛味成分を含有する飲食品の呈味を向上する方法も報告されている。例えば、特許文献5には、マスタード種子に水系原料及びアミノ酸を加え、35〜65℃の温度条件下で保持して得られる粒入りマスタードが開示され、このマスタードは辛味が強く感じられず、マスタードの旨味と風味を充分に有していることが記載されている。また、特許文献6には、粉末コショウ100重量部と、粉末グルタミン酸ソーダ600〜650重量部とを含有した調味料が開示され、この調味料はコショウの「辛み」とグルタミン酸ソーダの「甘み」とがバランスよく調和して料理の「旨み」を引き出すことができることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−320265号公報
【特許文献2】特開2004−33201号公報
【特許文献3】特許第3690370号公報
【特許文献4】特開2003−47432号公報
【特許文献5】特開2001−103922号公報
【特許文献6】特開2005−328840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品の味には5つの基本味(甘味、塩味、旨味、酸味、苦味)があるが、これ以外に、辛味、渋味、コク味などの風味に関するものも重要視されており、特に最近では、適度な辛味を有する飲食品の需要が多くなっている。
【0006】
上記したとおり、カプサイシン含有飲食品の呈味を改善する方法が種々提案されているが、喉越しやすっきりした後味が美味しさの因子となる飲料において、その辛味を維持したまま呈味を改善する方法については何ら示唆も開示もなされていなかった。そして、カプサイシンを含有する飲料で、十分に満足しうる香味のものは存在していなかった。
【0007】
カプサイシン含有飲料は、カプサイシン含有食品と比較して、カプサイシン由来の辛味や刺激が喉にダイレクトに感じられるため、摂取に不都合を生じることがある。また、飲料は喉から胃への通過時間が短いため、カプサイシン含有飲料を摂取した場合には、喉から胃の中に向かって焼けるような刺激を感じることもある。
【0008】
本発明の課題は、生理活性を有するカプサイシンを含有し、適度な辛味を有する嗜好性に優れた飲料で、かつ喉等への刺激が低減された喉越しや後味がすっきりした飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、カプサイシンに特定量のグルタミン酸を配合することで、適度な辛味を有しながらも喉への刺激を低減させた飲料が得られることを見出した。また、グルタミン酸に加えて、さらにアラニンを配合すること、および/または特定量のナトリウムイオンを含有することで、その効果が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は好ましくは以下の態様を含む。
1.カプサイシンと、前記カプサイシンの呈味を改善する量のグルタミン酸とを含有する、容器詰飲料、
2.グルタミン酸の含有量が、カプサイシン1質量部に対して600〜220000質量部である、前記1に記載の飲料。
3.カプサイシンの濃度が、1.0×10-5〜2.5×10-3質量%である、前記1又は2に記載の容器詰飲料、
4.さらにアラニンを含有する、前記1〜3のいずれか一つに記載の容器詰飲料、
5.さらに野菜成分及び/又は肉成分を含む、前記1〜4のいずれか一つに記載の容器詰飲料、
6.ナトリウムイオンを濃度0.001〜0.5mol/Lで含む、前記1〜5のいずれか一つに記載の容器詰飲料、
7.常温以上で飲用するための飲料である、前記1〜6のいずれか一つに記載の容器詰飲料、
8.飲料がスープ飲料である、前記1〜7のいずれか一つに記載の容器詰飲料、
9.総油脂量が、飲料全体に対し0.5質量%以下である、前記1〜8のいずれか一つに記載の容器詰飲料、
10.容器が缶である、前記1〜9のいずれか一つに記載の容器詰飲料、及び
11.カプサイシンが、ハバネロエキスとして添加されたものである、前記1〜10のいずれか一つに記載の容器詰飲料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の飲料は、カプサイシン由来の喉への刺激が低減されていることから、喉越しに優れた飲料である。また、後にひく辛味や刺激がない(これらを総称して「辛味の後引き」と表記することもある)ことから、すっきりした後味の飲料である。本発明の飲料は、加温しても喉への刺激がなくすっきりした後味を実現できることから、ホット飲料としても利用できる。
【0012】
本発明の飲料は、容器に充填された容器詰飲料の形態とすることにより、カプサイシン由来の適度な辛味を有する嗜好性飲料として、またカプサイシンの生理活性を期待した機能性飲料として、日常的に継続的に摂取することができる。
【0013】
本発明の飲料は、カプサイシンの辛味とグルタミン酸(好ましくは、グルタミン酸ナトリウム)の旨味とがバランスよく調和し、相乗的な旨味を高めることから、特にスープ飲料として好適に提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の飲料は、カプサイシン及びグルタミン酸を含有する。カプサイシン(capsaicin)とは、N−バニリル−8−メチル−6−ノネンアミドのことであり、唐辛子(Capsicum annuum L.)の果実中に2%程度含有されている辛味成分である。また、本発明のカプサイシンには、便宜上、カプサイシンと同様の生理活性や辛味を有するカプサイシノイドも含むものとする。ここで、カプサイシノイドとは、カプサイシンの脂肪族残基に対する同族体をいう。
【0015】
本発明の飲料には、化学合成されたカプサイシン、及び天然物から抽出・精製したカプサイシンのいずれをも用いることができる。また、カプサイシンを含む唐辛子等の植物の原末及びそのような植物から得られるカプサイシンを含むエキス等、カプサイシンをその構成成分の一部として含む原料(以下、「カプサイシン含有原料」という)を用いて本発明の飲料を製造することもできる。ここで、エキスとは、唐辛子等の植物に溶媒を接触させる抽出工程と、必要に応じて濃縮を行う濃縮工程とを含む工程により得られるカプサイシン含有植物の溶媒抽出物、または、カプサイシン含有植物の原末(乾燥粉砕物等)を水に添加・撹拌混合することにより得られるカプサイシン含有植物原末を含む水溶液、をいう。エキスの抽出溶媒としては、水、メタノールやエタノール等のアルコール、酢酸エチル、アセトン等の有機溶媒などから選択される1種又は2種以上の混合液が挙げられる。エキスの製造方法は特に制限されるものではなく、通常用いられる方法で製造することができる。
【0016】
カプサイシンを含有する植物としては、上記の唐辛子のようなannuum種のほか、強い辛味を有するchinense種の唐辛子属植物も利用できる。このchinense種の唐辛子属植物としては、ハバネロ(Capsicum chinense)が例示され、本発明の飲料では、カプサイシン含有原料としてこのハバネロのエキスが好適に用いられる。ハバネロ特有の柑橘系のフルーティーな香りが、嗜好性飲料として適するからである。また、辛味はカプサイシンを摂取した直後に発現するのではなく、摂取後しばらくしてから発現する場合もあるが、ハバネロの辛味は比較的すぐに辛味が発現する、すなわち辛味の立ち上がりが早く後味のキレが良いので、適度な辛味を有しかつ後味のすっきりした飲料に利用しやすいという利点もある。
【0017】
本発明の飲料に含有するカプサイシンの量は、所望する生理活性や香味等により適宜選択すればよいが、成人(体重60kg)1日当たりの摂取量がカプサイシン換算で0.01〜100mg、好ましくは0.05〜10mg程度となるように飲料に配合するのがよい。適度な辛味を有する本発明の飲料では、通常、カプサイシン濃度が、1.0×10-6〜2.5×10-3質量%、好ましくは1.0×10-5〜1.5×10-3質量%、より好ましくは3.0×10-5〜1.0×10-3質量%、となるようにカプサイシンが配合される。
【0018】
本発明は、上記のカプサイシンを含有する飲料に、特定量のグルタミン酸を添加することにより、カプサイシン由来の喉への辛味及び刺激を和らげ、適度な辛味を有しながらもすっきりとした後味を実現できることを特徴とするものである。グルタミン酸は、2−アミノペンタン二酸(2−アミノグルタル酸とも呼ばれる)のことであり、アミノ酸の一種で人体内に最も豊富に存在し、多くの生体内代謝に重要な生理的役割を果たすものである。
【0019】
一般に、アミノ酸は、旨味成分として知られ、甘味等を付与することができることも知られているが、刺激味、特に喉への刺激を低減する作用があることは知られていなかった。また、この作用がアミノ酸の中でもグルタミン酸で高いこと、さらにグルタミン酸を用いると、辛味の後引きや摂取後しばらくしてから発現する辛味を抑制してすっきりとした後味の飲料を得ることができることは、本発明者らが初めて見出した知見である。
【0020】
本発明の飲料に含まれるグルタミン酸は、グルタミン酸として飲料に添加されたもの、又はグルタミン酸の塩として飲料に添加されたもののいずれであってもよい。
本発明の飲料には、グルタミン酸、グルタミン酸塩のいずれをも用いることができるが、安定性、入手容易性の観点からは、グルタミン酸のナトリウム塩(グルタミン酸ナトリウム)を用いることが好ましい。本発明の飲料で用いられるグルタミン酸又はその塩は、飲食品に利用可能であれば公知の方法で製造されたいずれのものを用いることもできる。公知のものとしては、例えばグルテンを加水分解して製造されたもの、石油由来成分の合成により製造されたもの、グルタミン酸生産菌を利用した発酵法により製造されたもの等が例示できる。また、グルタミン酸またはその塩を含む天然原料(例えば、昆布等の海藻、トマト、チーズ、緑茶、小麦、大豆、落花生、アーモンド、ごま等)そのもの又はその粉砕物や、そのような天然原料から得られるグルタミン酸又はその塩を含む抽出物、精製品等、グルタミン酸又はその塩をその構成成分の一部として含む原料(以下、「グルタミン酸含有原料」という)を用いて本発明の飲料を製造することもできる。
【0021】
なお、本発明の飲料に好適に用いられるグルタミン酸ナトリウムとしては、DL−グルタミン酸ナトリウム及びL−グルタミン酸ナトリウムのいずれをも用いることができる。
本発明の飲料におけるグルタミン酸の添加量としては、カプサイシンの呈味を改善することができる量であれば特に制限はない。例えば、カプサイシン1質量部に対して600〜220000質量部のグルタミン酸が添加される。この添加量は、グルタミン酸としてグルタミン酸ナトリウムを用いる場合、カプサイシン1質量部に対して700〜250000質量部のグルタミン酸ナトリウムに相当する。
【0022】
本発明者らは、7×10-5質量%のカプサイシンを含有する飲料において、カプサイシン1質量部に対して約1100質量部以上のグルタミン酸を添加することで飲用後の辛味の後引きを改善する(後引きを低減する)効果を奏することを確認している。また、同量のカプサイシンを含有する飲料において、カプサイシン1質量部に対して約6000質量部以上のグルタミン酸を添加することで、喉への刺激を低減する効果を奏することを確認している。さらに、7×10-4質量%のカプサイシンを含有する飲料において、カプサイシン1質量部に対して約2000質量部以上のグルタミン酸、及び前記グルタミン酸1質量部に対して約0.07質量部のアラニンを添加することで、飲用後の辛味の後引き及び喉への刺激を低減する効果を奏することを確認している。したがって、グルタミン酸の好適な配合量の下限値は、カプサイシン1質量部に対して約1200質量部以上、より好ましくは約2000質量部以上、特に好ましくは約6000質量部以上である。この添加量は、グルタミン酸としてグルタミン酸ナトリウムを用いる場合、カプサイシン1質量部に対して約1400質量部以上、より好ましくは約2500質量部以上、特に好ましくは約7000質量部以上、のグルタミン酸ナトリウムに相当する。
【0023】
また、本発明者らは、グルタミン酸の量を多くしても、一定量以上では効果が大きくならないことを確認している。例えば、7×10-5質量%のカプサイシンを含有する飲料において、飲用後の辛味の後引きを改善する(後引きを低減する)効果は、カプサイシン1質量部に対するグルタミン酸の添加量が約30000質量部までは、その添加量の増加に伴ってその効果も大きくなるが、添加量がそれより多くなると、添加量を増加してもその効果の大きさは変わらなくなる傾向にある。また、喉への刺激を低減する効果は、カプサイシン1質量部に対するグルタミン酸の添加量が約21000質量部の場合に最大となり、添加量がそれより多い場合、少ない場合は、共にその効果が小さくなる傾向にある。したがって、添加するグルタミン酸量の上限は、カプサイシン1質量部に対し、約30300質量部または約21200質量部である。この添加量は、グルタミン酸としてグルタミン酸ナトリウムを用いる場合、カプサイシン1質量部に対して約35800質量部または約25000質量部、のグルタミン酸ナトリウムに相当する。
【0024】
すなわち、上記の好ましいグルタミン酸の配合割合は、カプサイシン1質量部に対し、1200〜30300質量部、より好ましくは2000〜21200質量部または6000〜21200質量部である。
【0025】
本発明の飲料は、上述のとおり、カプサイシンに特定量のグルタミン酸(好ましくはグルタミン酸ナトリウム)を配合することで、適度な辛味を維持しつつカプサイシン由来の喉等への刺激を低減するという呈味の改善効果を有するものであるが、アラニンを併用することで、より好ましい呈味改善効果を奏することができる。アラニンには、アセトアルデヒドから化学合成されるDL−アラニンと、タンパク質を加水分解して得られるL−アラニンとがあるが、そのいずれをも用いることができる。アラニンの添加量は所望する効果の大きさにより適宜選択すればよいが、通常、飲料全体に対し0.05〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。また、グルタミン酸1質量部に対し、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜2質量部程度である。
【0026】
さらに、本発明の飲料には、ナトリウムイオンが0.001〜0.5mol/L、好ましくは0.01〜0.3mol/L、より好ましくは0.03〜0.08mol/L含まれるようにするとよい。上記範囲のナトリウムイオンが含まれると、カプサイシンの辛味の立ち上がりを早くし、辛味の後引きを低減して後味のキレをよくする効果を奏する。また、油脂分が少ない(飲料全体に対し総油脂量が0.5質量%以下)の飲料の場合、過剰な辛味を発現し飲用しにくくなることがあるが、ナトリウムイオンを添加することで、過剰な辛味を円やかにし、辛味のキレをよくするというグルタミン酸の効果を相加的又は相乗的に高めることができる。ナトリウムイオンは、食塩等のナトリウムイオンを含む塩として、本発明の飲料に添加することができる(食塩を用いる場合、食塩濃度がナトリウムイオン濃度に相当する)。なお、上記のグルタミン酸として、グルタミン酸ナトリウムを用いる場合には、ここに含まれるナトリウムイオン濃度を勘案して、その他所望の呈味等を考慮して、食塩等のナトリウムイオン源を添加すればよい。
【0027】
本発明の容器詰飲料は、飲用に適した飲料部に、カプサイシン(又はカプサイシン含有原料)及びグルタミン酸(又はグルタミン酸含有原料)を混合して本発明の飲料を調製し、そして、その飲料を容器に充填することによって製造することができる。また、本発明の容器詰飲料の製造には、上述のアラニン及びナトリウムイオン、並びに、通常の飲料で使用する原材料、例えば、酸味料、ビタミン類、その他アミノ酸類、調味料及び香料等を適宜、使用することができる。
【0028】
ここで、本発明の飲料が充填される容器としては、何ら制限されるものではなく、瓶、缶、紙パック、合成樹脂やアルミのパウチ等、いかなるものも用いることができる。また、容器の容量としても特に制限はない。例えば、容量50mL〜350mLの缶容器、又は容量200mL〜2Lの紙パック容器を用いることができる。
【0029】
飲料部としては飲用に適したものであれば特に制限はなく、例えば、水、清涼飲料、茶飲料、コーヒー飲料及びアルコール飲料等を用いることができる。また、飲料部は、野菜成分及び/又は肉成分を含有するスープ飲料とすることができる。
【0030】
上記の野菜成分及び/又は肉成分とは、畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキス、野菜汁等をいい、市販されているものや公知の方法により製造されたもの等を用いることができる。野菜汁としては、例えば、トマト果汁、ほうれん草、ピーマン、コーン等の野菜搾汁を例示でき、野菜エキスとしては、野菜に水や香辛料等を加えて煮沸して作られるエキスが例示でき、畜肉エキスとしては、チキン、ポーク、ビーフ等のブイヨン、すなわち鶏肉、豚肉、牛肉および/またはその骨(ガラ)等より、水溶性固形分を抽出して得られるエキスが例示でき、これらを1種又は2種以上併用して用いることができる。
【0031】
一般に、常温(約20℃)以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上の温度で飲用するホット飲料は、常温以下で飲用するコールド飲料と比較して、喉等にカプサイシン由来の強い刺激を与えることがあり、また、カプサイシン由来の刺激臭を発することがある。そのため、カプサイシンを含むホット飲料では、飲用時の呈味が低下するという問題がある。しかしながら、本発明のカプサイシンとグルタミン酸、及び必要によりアラニン及び/又はナトリウムイオンを含む飲料は、常温以上の温度で飲用しても適度な辛味を維持したまま喉等への刺激を低減する効果を奏することから、ホット飲料としても好適に利用できる。
【0032】
一般に、内容物(飲料)が容器に充填され、加圧加温処理(レトルト殺菌)が施されて製造されるレトルト食品、主に缶飲料や、合成樹脂やアルミのパウチに充填された飲料は、レトルト臭と呼ばれるレトルト処理特有の加熱臭が発現し、香味が低下することが知られている。特に、野菜成分及び/又は肉成分を含有するスープ飲料では、レトルト臭に加えてイモ臭、ムレ臭(すえ臭い、発酵されたものの臭いとも表現される独特の臭い)などの異風味を発現することが多い。そして、その異風味は保存中、特にホットベンダーでの高温保存中に強くなり、商品価値に大きく影響する。しかし、本発明のカプサイシンとグルタミン酸とを含有する飲料は、驚くべきことに、加圧加温処理を行ってもレトルト臭が発生しないという性質を持つ。特に、本発明のカプサイシンとグルタミン酸とを含有するスープ飲料では、加圧加温処理を行ってホットベンダーで高温保存を行っても、レトルト臭やイモ臭、ムレ臭等の異風味を発現せず、風味の劣化が少ないという大きな特徴を持つ。したがって、本発明の飲料は、加温加圧処理が施される飲料や、野菜成分及び/又は肉成分を含有するスープ飲料、高温保存(例えば、50℃以上の温度で1時間以上保存される)飲料等においても好適に利用できる。
【0033】
さらに、本発明の飲料のpHが3.0〜7.5、好ましくは4.5〜6.5である場合、上記のレトルト臭やイモ臭、ムレ臭等の異風味を発現をより抑制できることから、好ましい。
【0034】
上述のとおり、本発明の容器詰飲料は、加温加圧処理や保存中の異風味の発現を抑制しうるものであるが、飲料中の油脂分が多いと油脂の酸化により風味劣化を引き起こすことがある。また、油脂分が多いと保存中に油脂が分離凝集して固化等の問題を引き起こすこともある。したがって、本発明の容器詰飲料では、総油脂量が飲料全体に対し0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%、より好ましくは0.1質量%以下となるようにするのが好ましい。この油脂分が少ない飲料において過剰に発現するカプサイシンの辛味は、上述したとおり、特定量のナトリウムを配合することで過剰な辛味を抑制できる。また、アラニンの併用によっても抑制できるし、野菜成分及び/又は肉成分、糖類等の添加によっても抑制できる。
【0035】
本発明の飲料は、適度な辛味を有しながらも喉等への刺激を低減させすっきりした後味を有することを特徴とするものであるが、本発明の飲料の固形分(Brix)が0.01〜18.0°、好ましくは1.0〜15.0°、より好ましくは5.0〜10.0°であると、その効果を顕著に奏することができる。
【実施例】
【0036】
以下実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 スープ飲料の製造及び評価
<スープ飲料の製造>
カプサイシンを含むハバネロエキス、グルタミン酸ナトリウム、アラニン及び食塩を含むスープブイヨン、並びに、グルタミン酸を含むトマトペースト、を用いて、以下の処方により原材料を混合して、本発明のスープ飲料を製造した。なお、本明細書におけるハバネロエキスとしては、ハバネロ(Capsicum chinense)の乾燥粉砕物に水を添加した混合液(ハバネロ含有量1質量%)を使用した。また、スープブイヨンは、肉(鶏肉、豚肉)より水溶性固形分を抽出して得られたエキスに食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム、アラニンを添加したものを使用した。
【0037】
[スープ飲料の処方]
ハバネロエキス 0.5質量%
スープブイヨン 7.0質量%
トマトペースト 2.3質量%
水 残量
(合計 100質量%)
そして、スープ飲料は、スープ飲料全体中、カプサイシンを7×10-5質量%、L−グルタミン酸を2.0質量%(トマト果汁由来のL−グルタミン酸0.04質量%を含む)、及びL−アラニンを0.3質量%含有していた。また、スープ飲料中のナトリウムイオン濃度は、0.05mol/Lであり、油脂量は0.2質量%であった。(スープ飲料のBrix:7.8、pH:5.2)
<評価>
このスープ飲料について官能評価したところ、ハバネロの辛味を適度に有しながらも、辛味の後引きがなく、すっきりした後味のスープ飲料であった。また飲用時又は飲用後において、喉や胃への刺激が全くなく、飲みやすく美味しいスープ飲料であった。
【0038】
次に、このスープ飲料を缶に190gずつ充填し、レトルト殺菌処理(125℃、20分)を行った。このレトルト殺菌処理したスープ飲料について、冷却後、官能評価を行ったが、レトルト殺菌前の飲料と風味的に大差なく、レトルト臭がないことを確認した。
【0039】
さらに、このレトルト殺菌処理したスープ飲料をホットベンダーで加温保存(60℃、3時間)し、ホット飲料として官能評価を行った。ホット飲料として飲用しても、喉等への刺激や刺激臭はなく、飲みやすく美味しい飲料であった。また、加温保存に伴うイモ臭やムレ臭等の異風味の発現も認められず、風味良好のスープ飲料であることを確認した。
【0040】
実施例2 グルタミン酸の呈味改善作用(1)
実施例1と同様に調製した、定量のカプサイシンを含むハバネロエキスに、表1に示す各種アミノ酸及び食塩を添加して、アミノ酸含有飲料を調製した。すなわち、表1に示す原材料を混合した後、加水して全量を1000gとし、これを90℃になるまで加熱した後、冷却してカプサイシンと各種アミノ酸とを含有する飲料を得た(試料2〜6)。また、対照として、アミノ酸無添加の飲料も調製した(試料1)。試料中の油脂量を測定したところ、いずれも0.1質量%未満であった。なお、表1中、各原材料の配合量の単位はグラム(g)である(表2乃至表6についても同様)。
【0041】
この飲料(試料1〜6)について、専門パネラー3名により官能評価を行った。評価は、飲用中及び飲用後辛味の好ましさ及び喉や胃への刺激の強さについて5点法により行い、その平均点を算出した。具体的評価項目は以下のとおりである。
(辛味の好ましさ)
5点:飲用中は適度な辛味で、飲用後に辛味の後引きがなく、大変好ましい
4点:飲用中は適度な辛味で、飲用後に辛味の後引きが少なく、やや好ましい
3点:飲用中は適度な辛味で、飲用後に辛味の後引きがある
2点:飲用中はやや過剰な辛味を感じ、飲用後に辛味の後引きがあり、
やや好ましくない
1点:飲用中は過剰な辛味を感じ、飲用後に辛味の後引きがあり、大変好ましくない
(喉や胃への刺激感)
5点:喉や胃への刺激がない
4点:胃への刺激はないが、喉への刺激がわずかにある
3点:胃への刺激はないが、喉への刺激がある
2点:胃への刺激がわずかにあり、喉への刺激もある
1点:胃への刺激も喉への刺激もある
【0042】
【表1】

表1に、結果を示す。飲料1000gあたりカプサイシンを0.0007g(7×10-5質量%)含有する飲料(試料1)では、飲用中は適度な辛味であるが、飲用後に辛味の後引きがあった。これに対し、グルタミン酸ナトリウムを配合した飲料(試料2)やアラニンを配合した飲料(試料3)では、飲料中の適度な辛味を保持しながらも、辛味の後引きが改善(低減)され、飲料としての呈味が向上した。特に、グルタミン酸ナトリウムを配合した飲料で大きく呈味が向上した。このグルタミン酸ナトリウム及びアラニンにおいて確認された辛味の後引き改善効果は、他のアミノ酸(アスパラギン酸、アルギニン、リシン)では、みられなかった。
【0043】
また、グルタミン酸ナトリウムまたはアラニンを配合することで、喉への刺激を低減することができた。特にグルタミン酸ナトリウムではその効果が大きかった。この場合も、他のアミノ酸(アスパラギン酸、アルギニン及びリシン)では効果がみられなかった。
【0044】
実施例3 グルタミン酸の呈味改善作用(2)
実施例1と同様に調製した、定量のカプサイシンを含むハバネロエキスに、表2に示す種々の量のグルタミン酸ナトリウム及び食塩を添加し、加水して全量を1000gとし、これを90℃になるまで加熱した後、冷却してカプサイシンとグルタミン酸とを含有する飲料を得た(試料2、7〜11)。また、対照として、アミノ酸無添加の飲料も調製した(試料1)。この飲料(試料1、2、7〜11)について、実施例2と同様にして官能評価を行った。
【0045】
【表2】

表2に、結果を示す。辛味の好ましさ(辛味の後引き)は、飲料1000gあたりグルタミン酸ナトリウム1g(0.1質量%)を含む試料で改善された(試料11)が、喉への刺激については低減がみられなかった。喉への刺激が低減されたのは、グルタミン酸ナトリウム5g(0.5質量%)を含む試料であった(試料10)。これより、辛味の後引き改善に好ましいグルタミン酸量は、カプサイシン1質量部に対し約1200質量部以上であり、喉への刺激低減に好ましいグルタミン酸量は、カプサイシン1質量部に対し約6000質量部以上であることが示唆された。
【0046】
また、表2より明らかなとおり、辛味の好ましさ(辛味の後引き)は、飲料1000gあたり25g(2.5質量%)を超えた量のグルタミン酸ナトリウムを含む場合にはその含有量に応じて効果が大きくなることはなく、喉への刺激の低減も17.5g(1.75質量%)のグルタミン酸ナトリウムを含む場合に最大の作用を示し(試料7)、それ以上の量を添加しても効果は大きくならなかった。なお、グルタミン酸ナトリウム量が2.5質量%及び1.75質量%の試料では、それぞれ、グルタミン酸がカプサイシン1質量部に対し、約30300質量部及び約21200質量部で含まれている。
【0047】
実施例4 グルタミン酸及びアラニンの呈味改善作用
実施例1と同様に調製した、定量のカプサイシンを含むハバネロエキスと、グルタミン酸ナトリウム及び食塩に、表3に示す量のアラニンを添加し、加水して全量を1000gとし、これを90℃になるまで加熱した後、冷却してカプサイシンとグルタミン酸とアラニンとを含有する飲料を得た(試料12、13)。また、対照として、アミノ酸無添加の飲料(試料1)、グルタミン酸またはアラニンのみを添加した飲料(試料7または試料3)も調製した。これらの飲料について、実施例2と同様にして官能評価を行った。
【0048】
【表3】

表3に、結果を示す。表3から明らかなとおり、辛味の好ましさ(辛味の後引き)、喉への刺激の低減のいずれにおいても、それぞれ単独で使用した場合よりも大きな効果を発揮した。上述のとおり、特定量以上のグルタミン酸ナトリウムは、単に増量しても呈味改善作用が大きくならないが、表3より明らかなとおり、少量のアラニンを併用することで、グルタミン酸ナトリウム単独の効果よりも高い効果を得ることができた。グルタミン酸ナトリウムとアラニンを併用することで、相乗的に呈味改善効果を発揮することが示唆された。
【0049】
実施例5 ナトリウムイオンの呈味改善作用
実施例1と同様に調製した、定量のカプサイシンを含むハバネロエキスと、グルタミン酸ナトリウム及びアラニンに、表4に示す量の食塩を添加し、加水して全量を1000gとし、これを90℃になるまで加熱した後、冷却してカプサイシンとグルタミン酸とアラニンとを含有する飲料を得た(試料12〜17)。これらの飲料について、実施例2と同様にして官能評価を行った。
【0050】
【表4】

表4に、結果を示す。ナトリウムイオンの添加により、辛味の好ましさ(辛味の後引き)は向上した。特に、飲料がナトリウムイオンを0.05mol/L以上の濃度で含む場合に辛味の好ましさが向上し、辛味のキレがよくなった。また、喉への刺激は、ナトリウムイオンの添加により改善がみられるが、ナトリウムイオン濃度が0.081mol/L以上では、逆に刺激を感じる傾向にあった。そのため、喉への刺激の低減を図るには、ナトリウムイオン濃度を0.08mol/L以下程度にするのがよいことがわかった。
【0051】
実施例6 カプサイシン量
表5に示す割合で、実施例1と同様に調製した、定量のカプサイシンを含むハバネロエキスと、グルタミン酸ナトリウム及びアラニンと、食塩とを混合し、加水して全量を1000gとし、これを90℃になるまで加熱した後、冷却して種々の濃度のカプサイシン含有飲料を得た(試料12、18〜20)。また、対照として、アミノ酸無添加の飲料(試料1)も調製した。これらの飲料について、実施例2と同様にして官能評価を行った。
【0052】
【表5】

結果を表5に示す。飲料1000gあたりハバネロエキス0.5〜50g(カプサイシン含量として7×10-6〜7×10-4質量%)を含む飲料では、グルタミン酸ナトリウム、アラニン及び食塩を添加することで、辛味の好ましさ(辛味の後引き)および喉への刺激のいずれもが改善され、呈味が向上した。
【0053】
実施例7 カプサイシン量(2)
表6に示す割合で、実施例1と同様に調製した、定量のカプサイシンを含むハバネロエキス、グルタミン酸ナトリウム、アラニン及び食塩を混合し、加水して全量を1000gとし、これを90℃になるまで加熱した後、冷却して種々の濃度のカプサイシン含有飲料を得た(試料21、22)。
【0054】
この飲料を官能評価した結果、いずれも適度な辛味を有し、胃への刺激がなく、喉への刺激が少ない呈味の良好な飲料であった。この結果は、カプサイシンを比較的高濃度(0.0014質量%)で含有する飲料でも、グルタミン酸ナトリウム、アラニン、食塩を配合することで、呈味の良い飲料を得ることができることを示唆するものである。
【0055】
表5及び表6の結果より、アラニン及び食塩(ナトリウムイオン)を併用する場合には、カプサイシン1質量部に対し約600質量部〜約220000質量部のグルタミン酸で、カプサイシンを含有し適度な辛味を保持しつつ、カプサイシン由来の刺激、特に喉への刺激を低減した、嗜好的に優れた飲料が得られることがわかった。
【0056】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプサイシンと、前記カプサイシンの呈味を改善する量のグルタミン酸とを含有する、容器詰飲料。
【請求項2】
グルタミン酸の含有量が、カプサイシン1質量部に対して600〜220000質量部である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
カプサイシンの濃度が、1.0×10-5〜2.5×10-3質量%である、請求項1又は2に記載の容器詰飲料。
【請求項4】
さらにアラニンを含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項5】
さらに野菜成分及び/又は肉成分を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項6】
ナトリウムイオンを濃度0.001〜0.5mol/Lで含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項7】
常温以上で飲用するための飲料である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項8】
飲料がスープ飲料である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項9】
総油脂量が、飲料全体に対し0.5質量%以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項10】
容器が缶である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の容器詰飲料。
【請求項11】
カプサイシンが、ハバネロエキスとして添加されたものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の容器詰飲料。

【公開番号】特開2009−112227(P2009−112227A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287706(P2007−287706)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000001904)サントリー酒類株式会社 (319)
【Fターム(参考)】