説明

カルシウム拮抗剤

【課題】 本発明は、細胞内カルシウムイオンが関与する様々な悪影響を軽減し、もしくは予防することができる、新規なカルシウム拮抗剤を提供すること、特により簡便に入手できると共に、大量生産が容易に実現可能なカルシウム拮抗剤を提供する。
【解決手段】本発明によれば、下記式(1)乃至(3)
【化1】


(式中、R1は炭素数1から10のアルキリデン基を表し、R2は炭素数1から3のアルコキシ基を表す。)で示される化合物群から選ばれた少なくとも1つの化合物を有効成分として含有するカルシウム拮抗剤によって前記課題は解決される。また、本発明はさらに、上記のカルシウム拮抗剤を有効成分とする、抗不整脈剤、血管弛緩剤および抗脳血管攣縮剤などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム拮抗剤に関するものである。さらには、本発明は、カルシウムイオンが関与する不整脈、血管収縮および脳血管攣縮などの改善剤に関与するものである。
【背景技術】
【0002】
カルシウムは、生体の筋収縮や細胞運動などを調節する重要な因子であることが知られている。カルシウム拮抗剤は、細胞外からのカルシウムの流入を抑制し、血管平滑筋などの弛緩を引き起こすことで血流改善や血圧上昇改善に働く。よってカルシウム拮抗剤は、治療薬として高血圧、狭心症、不整脈および脳循環障害などに用いられている。
たとえば、特許文献1には、カルシウム拮抗効果を併有する血小板凝集抑制剤が提示されている。また、特許文献2には、生薬ケイガイの花穂に含まれるフェノール化合物からなるカルシウム拮抗剤が示されている。特許文献3には、2−(4−ベンジルピペリジノ)−1−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノールまたはその塩を有効成分とするカルシウム拮抗剤が提示されている。
【0003】
近年では、高齢化社会において使用経験も豊富で安価で提供できる、未病段階から、予防的に各種飲食品や医薬部外品などとして効果を享受できるカルシウム拮抗剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−178324号公報
【特許文献2】特開平04−243822号公報
【特許文献3】特開昭61−172820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体内で起こる多くの反応は、カルシウムイオンによる制御を受けている。本発明は、これらの生体内カルシウムイオンが原因で引き起こされる様々な生体への悪影響の症状を軽減し、もしくは予防することができる、新規なカルシウム拮抗剤を提供すること、特に、より簡便に入手できるとともに、大量生産が容易に実現可能なカルシウム拮抗剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカルシウム拮抗剤は、下記式(1)乃至(3)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は炭素数1から10のアルキリデン基を表し、R2は炭素数1から3のアルコキシ基を表す。)で示される含酸素環状構造を有する化合物群から選ばれた少なくとも1種の化合物を有効成分として含有するカルシウム拮抗剤である。
【0009】
また、本発明のカルシウム拮抗剤は、3−プロピリデンフタリド、3−ブチリデンフタリド、2,3−ジヒドロベンゾフラン、8−メトキシソラレンからなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物を有効成分として含有するカルシウム拮抗剤である。
【0010】
また、本発明においては前記のカルシウム拮抗剤を用い、カルシウム拮抗剤を有効成分とする抗血栓剤、抗不整脈剤、血管弛緩剤などの血管収縮改善剤、抗脳血管攣縮剤および皮膚および筋肉に対する抗攣縮剤などとすることができる。
【0011】
さらに、本発明においては、前記の前記のカルシウム拮抗剤を用い、カルシウム拮抗剤を有効成分として含有する、細胞内遊離カルシウム阻害および/または細胞内カルシウム受容体阻害および/または細胞内カルシウム関連蛋白質阻害を主たる目的とする医薬品とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカルシウム拮抗剤によれば、カルシウムイオンが係わる不整脈の改善、血管弛緩に伴う狭心症の軽減、および脳血管の攣縮予防や筋肉攣縮による関節硬直などの緩和効果を得ることができる。
【0013】
また、本発明のカルシウム拮抗剤は、香料として使用実績がある化合物であり、刺激性などは極めて小さく、飲食品や香粧品類、医薬品など幅広く添加することができる。また、本発明の化合物群は、容易に合成ができるため大量生産が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の、下記式(1)乃至(3)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R1は炭素数1から10のアルキリデン基を表し、R2は炭素数1から3のアルコキシ基を表す)で示される含酸素環状構造を有する化合物は、いずれも公知の方法によって製造することができる。
【0017】
これらの化合物群の内、上記式(1)の化合物については、3−プロピリデンフタリドと3−ブチリデンフタリドが一般に市販されており、入手が容易であることから特に好ましく用いられる。また、上記式(2)の化合物としては、8−メトキシソラレンが一般に市販されており、入手が容易であることから特に好ましく用いられる。上記式(3)の化合物としては、2,3−ジヒドロベンゾフランが一般に市販されており、入手が容易であることから特に好ましく用いられる。
【0018】
本発明のカルシウム拮抗剤は、用途に応じて、エタノール、水、プロピレングリコール、グリセリン、食用油脂またはそれらの混合溶液などの溶剤、医薬や食品に適用可能な塩類、糖、糖アルコール、賦形剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、抗酸化剤、色素および香料などを適宜配合することができる。
【0019】
本発明のカルシウム拮抗剤において、前記の式(1)〜式(3)の化合物群の含有量は単独の化合物もしくは複数化合物を組み合わせた組成物で、0.0001〜100質量%であることが好ましい。
【0020】
本発明のカルシウム拮抗剤の形態は、特に限定されない。例えば、液状のままでもよく、公知の方法によって乳化、分散および粉末化するなど、形態は用途に応じて適宜選択することができる。
【0021】
本発明のカルシウム拮抗剤は、ビタミン、ミネラルおよびアミノ酸などの栄養強化剤、抗酸化剤、抗菌剤およびその他の薬剤などと配合して使用することができる。また、本発明のカルシウム拮抗剤は、他のカルシウム拮抗剤と併用してもよい。
【0022】
本発明のカルシウム拮抗剤を、医薬品もしくは医薬部外品として製剤化する場合は、必要に応じて安定化剤、着色剤、嬌味剤、香料、賦形剤、溶剤、界面活性剤、乳化剤、保存剤、溶解補助剤、等張化剤、緩衝剤、保湿剤、結合剤、被覆剤、潤沢剤、崩壊剤、経皮吸収剤などを加え、液剤、粉剤、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、懸濁剤、座剤、浴剤、軟膏、クリーム、ゲル、貼付剤、注射液および点眼剤など任意の剤形を選択することができる。
【0023】
本発明のカルシウム拮抗剤に用いられる有効成分は、その多くが従来から主に香料として使用されている化合物であるため、飲食品に添加することができる。例えば、乳飲料、清涼飲料、嗜好飲料、アルコール飲料などの飲料、チョコレート、キャンディ、錠菓、ガム、スナック菓子、クッキー、ケーキ、その他焼き菓子などの菓子類、氷菓、アイスクリームなどの冷菓類、即席麺類、レトルト食品、冷凍食品などの調理食品、調味料および栄養補助食品などの食品類に添加することにより、抗不整脈や抗脳血管攣縮など健康維持の機能を付加することができる。
【0024】
本発明のカルシウム拮抗剤を飲食品に添加する場合、添加量は0.001〜5質量%であることが好ましい。
【0025】
本発明カルシウム拮抗剤を飲食品に添加する方法は必要に応じて、乳化剤、分散剤および安定化剤などを加えることもできる。
【0026】
本発明カルシウム拮抗剤を飲食品に添加する場合は、ビタミン、ミネラルおよびアミノ酸などの栄養強化剤、抗酸化剤、抗菌剤、食物繊維、血流促進剤および抗血栓剤など他の機能性成分を、本発明のカルシウム拮抗剤の機能を阻害しない範囲で併用することもできる。
【0027】
本発明のカルシウム拮抗剤は、香水、化粧水、ファンデーション、口紅、クリーム、ローション、乳液、ジェル、パック、日焼け止めおよびサンオイルなどの化粧品類、石鹸、ボディーシャンプー、洗顔料などの身体洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント剤、整髪料、染毛剤、パーマネント剤、養毛剤などの毛髪化粧料、シェービングフォーム、シェービングクリーム、アフターシェーブローション、歯磨き、洗口剤、粉末洗剤、液体洗剤、漂白剤、柔軟剤、浴剤、衛生用品および避妊具などの香粧品類に添加することができる。
【0028】
本発明カルシウム拮抗剤を香粧品類に添加する場合、添加量は、0.001〜15質量%であることが好ましい。
【0029】
本発明のカルシウム拮抗剤を香粧品に添加する方法は特に限定されないが、必要に応じて乳化剤、分散剤、安定化剤および賦形剤などを加えることもできる。
【0030】
本発明のカルシウム拮抗剤を香粧品に添加する場合は、抗酸化剤、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、保湿剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、抗かび剤、メラニン生成抑制剤、養毛剤、冷感剤、温感剤、吸収促進剤、血流促進剤および抗血栓剤など他の機能性物質を、本発明のカルシウム拮抗剤の機能を阻害しない範囲で併用することもできる。
【実施例1】
【0031】
(試験方法)
本発明におけるカルシウム拮抗作用の試験としては、カルシウムイオノフォア(A23187)を惹起剤とする血小板凝集抑制試験を採用した。カルシウムイオノフォアは、細胞内にカルシウムイオンを流入させる物質であり、多血小板血漿(以下、PRPという。)に加えた場合は血小板の凝集を惹起する。すなわち、PRPに被検物質を加え、カルシウムイオノフォア(A23187)を添加したときに血小板の凝集が阻害されれば、その被検物質試料はカルシウム拮抗作用を有するといえる。
【0032】
具体的には、人の血液に10%濃度になるように3.8%クエン酸ナトリウム液を加え、この血液を1000rpmで10分間遠心分離し、上層部を採取、これをPRPとした。更に下層部を3000rpmで15分間遠心分離し、上層部から乏血小板血漿(以下、PPPという。)を採取して、これを血小板凝集能測定時におけるコントロールとした。
【0033】
測定装置として、興和株式会社製の血小板凝集能測定装置(コーワPA−20)を使用し、被験物質を加えず、カルシウムイオノフォア(A23187)のみを加えた対象凝集曲線に対する最大凝集率を100%としたときの各試料濃度段階の最大凝集率を求めた。
【0034】
被験物質を測定容器に入れ、さらにPRP270μlを加えたものを測定装置に設置し、37℃の温度で撹拌しながら30秒間インキュベートした。続いて、30秒以内に凝集惹起剤として上記PRP中の濃度が15μMになるように調整したカルシウムイオノフォア(A23187)のメタノール溶液を加え、測定容器設置から7分後までの凝集率を測定した。試験試料が1mMで50%以上の阻害活性を示した場合は、順次濃度を半分に落として活性を測定した。カルシウムイオノフォアは、細胞内にカルシウムイオンを流入させる物質である。カルシウムイオノフォアをPRPに加えた場合は、血小板の凝集を惹起する。
【0035】
カルシウムイオノフォア(A23187)による血小板凝集阻害活性は、次の計算方法により血小板凝集阻害率を求めることで評価した。
【0036】
(血小板凝集阻害率計算法)
・PRP+A23187のみを加えたときの最大凝集率をAとする。
・被験物質+PRP+A23187を加えたときの最大凝集率をBとする。
・凝集阻害率(%)をCとすると
C=100−B/A×100。
【0037】
(試験結果)
前記試験方法において、被験物質の濃度が1mMから開始して、順次、阻害活性が消失するまで試料を1/2希釈して添加し、血小板凝集阻害活性を測定した。その試験結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、本発明の化合物には、30μM以下の低濃度においても強い阻害活性が確認された。
【0040】
以下に、本発明のカルシウム拮抗剤の製剤例について、一例を示す。
【0041】

・錠剤配合例(配合割合は質量比である。)
──────────────────────
本発明のカルシウム拮抗剤 5.0
6%HPC乳糖 80.0
ステアリン酸マグネシウム 4.0
バレイショデンプン 6.0
──────────────────────

・軟膏剤配合例(配合割合は質量比である。)
─────────────────────────
白色ワセリン 20.0
ステアリルアルコール 22.0
プロピレングリコール 12.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
パラベン 0.2
本発明のカルシウム拮抗剤 5.0
精製水 39.3
─────────────────────────

・入浴剤配合例(配合割合は質量比である。)
――――――――――――――――――――――─
炭酸水素ナトリウム 50.0
硫酸ナトリウム 45.0
本発明のカルシウム拮抗剤 1.3
香料 0.7
色素 3.0
───────────────────────
以下に、本発明のカルシウム拮抗剤のうち、血小板凝集抑制剤の食品への配合例について一例を示す。
【0042】

・アイスクリーム配合例(配合割合は質量比である。)
────────────────────────
全脂練乳 10.0
生クリーム 9.4
無塩バター 2.0
脱脂粉乳 3.4
砂糖 12.0
安定剤 0.3
乳化剤 0.2
pH調整剤 0.1
カラメル色素 0.1
本発明のカルシウム拮抗剤 0.01
香料 0.01
水 49.0
────────────────────────

・クッキー生地配合例(配合割合は質量比である。)
────────────────────────
薄力粉 62.5
全粒粉 37.5
ショートニング 30.0
全卵 30.0
砂糖 20.0
水飴 1.0
脱脂粉乳 5.0
食塩 1.2
食用油脂 30.0
重炭酸ソーダ 1.0
重炭酸アンモニウム 1.0
本発明のカルシウム拮抗剤 0.1
香料 0.3
水 11.0
────────────────────────

・チョコレート配合例(配合割合は質量比である。)
─────────────────────────
カカオ液 12.0
カカオバター 24.0
ショ糖 33.0
フルクリームミルクパウダー 19.0
スキムミルクパウダー 11.4
レシチン 0.5
本発明のカルシウム拮抗剤 0.01
香料 0.1
─────────────────────────

・ノンオイルドレッシング配合例(配合割合は質量比である。)
─────────────────────────
濃口醤油 10.0
醸造酢 6.0
リンゴ酢 5.0
レモン果汁 4.0
液糖 7.0
食塩 2.0
調味料 7.0
香料 0.2
本発明のカルシウム拮抗剤 0.01
水 50.0
─────────────────────────

・飲料配合例(配合割合は質量比である。)
――――――――――――――――――――――───
果糖ぶどう糖液糖 60.0
アップル透明果汁 4.3
クエン酸 2.3
クエン酸三ナトリウム 0.8
アスコルビン酸 0.2
スクラロース 0.03
アセスルファムカリウム 0.02
香料 0.99
本発明のカルシウム拮抗剤 0.1
水 31.0
――――――――――――――――――――――───

・チューインガム配合例(配合割合は質量比である。)
――――――――――――――――――――――─
ガムベース 20.0
砂糖 60.0
ブドウ糖 10.0
水飴 8.0
グリセリン 5.0
香料 0.9
本発明のカルシウム拮抗剤 0.1
───────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のカルシウム拮抗剤は、香料として使用実績がある化合物であり、刺激性などは極めて小さく、飲食品や香粧品類、医薬品など幅広く添加することができる。また、本発明の化合物群は、容易に合成ができるため大量生産が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)乃至(3)
【化1】

(式中、R1は炭素数1から10のアルキリデン基を表し、R2は炭素数1から3のアルコキシ基を表す。)で示される含酸素環状構造を有する化合物群から選ばれた少なくとも1種の化合物を有効成分として含有するカルシウム拮抗剤。
【請求項2】
3−プロピリデンフタリド、3−ブチリデンフタリド、2,3−ジヒドロベンゾフラン、8−メトキシソラレンからなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物を有効成分として含有するカルシウム拮抗剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のカルシウム拮抗剤を有効成分とする抗不整脈剤。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のカルシウム拮抗剤を有効成分とする血管収縮改善剤。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のカルシウム拮抗剤を有効成分とする抗脳血管攣縮剤または皮膚および筋肉に対する抗攣縮剤。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のカルシウム拮抗剤を有効成分として含有し、細胞内遊離カルシウム阻害および/または細胞内カルシウム受容体阻害および/または細胞内カルシウム関連蛋白質阻害のための医薬品。

【公開番号】特開2013−75914(P2013−75914A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−6120(P2013−6120)
【出願日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【分割の表示】特願2007−260673(P2007−260673)の分割
【原出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000201733)曽田香料株式会社 (56)
【Fターム(参考)】