カンキツ類樹木における品種更新の方法
【課題】本発明は、カンキツ類樹木における品種更新の方法であって、摘果や収穫の作業を安全かつ効率的に行うことを可能にするとともに、樹勢を長期に亘り維持させることを可能にする方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木における品種更新の方法であって、(1)前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させること、並びに(2)前記樹木の主枝等についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持することを特徴とする前記方法に関する。
【解決手段】本発明は、樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木における品種更新の方法であって、(1)前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させること、並びに(2)前記樹木の主枝等についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持することを特徴とする前記方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカンキツ類樹木における品種更新の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カンキツ類の品種更新は、新たに導入しようとする品種(本明細書では「更新品種」と称する)の苗木の定植あるいは更新品種の既存品種への高接ぎ法により行われている。
【0003】
高接ぎ法は、既存品種の主枝の上部を切除して得られる切り口、主枝上の亜主枝及び側枝を切除して得られる切り口、並びに、主枝、亜主枝及び側枝の途中に更新品種の穂木を接木する方法である。高接ぎ法では、主枝の基部付近から発生している亜主枝や側枝は残されて、導入された更新品種への養分供給のための部位となる。このようにして残された部位は、「力枝」と呼ばれる。力枝は高接ぎされた更新品種の樹冠の拡大が進むとともに縮伐されていき、接木してから3〜5年後には完全に切除されて品種更新が完了する。
【0004】
高接ぎ法には次の問題がある。高接ぎ法では、力枝を残す必要があることから、更新品種の接木部位は地面から1m以上と高くなることが通常である。そして、更新品種の枝は、前記接木部位から伸長するために、更新品種による樹冠はより一層高くなり、それに伴って着果位置も高くなるため、摘果や収穫の作業に脚立等の利用が必要になる。広島県等のカンキツ類の産地は急傾斜地が多く、これらの地域では摘果や収穫の作業に脚立等を用いることは危険を伴う。
【0005】
また高接ぎ法により「不知火」に品種更新された樹木は、着果後年数を経過すると、樹勢が低下し、減酸が遅れ、果実品質の低下を招くという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カンキツ類樹木における品種更新の方法であって、更新品種の果実の着果部位の高さを低くすることにより、摘果や収穫の作業を安全かつ効率的に行うことを可能にするとともに、樹勢を長期に亘り維持させることを可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木における品種更新の方法であって、
前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させること、並びに
前記樹木の主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持すること
を特徴とする前記方法。
(2)光合成機能の少なくとも一部が維持される前記葉が、地面から1.6mを超える高さに位置する葉である(1)記載の方法。
(3)(1)又は(2)記載の方法により品種が更新されたカンキツ類樹木。
【発明の効果】
【0008】
本発明により品種が更新されたカンキツ類樹木は、果実の着果部位が地面から低い位置にあるため、摘果や収穫の作業を安全かつ効率的に行うことができる。本発明により品種が更新されたカンキツ類樹木は、樹勢を長期に亘り維持することが可能である。
【発明を実施するための最良の課題】
【0009】
本発明の方法は、樹高が1.6mを超える、典型的には樹高が2.2〜3.7m、より典型的には樹高が2.5〜3.0mであるカンキツ類樹木の品種更新の方法に関する。これらの樹木において従来の高接ぎ法により品種更新を行うと、着果位置が高くなりすぎて収穫には脚立等が必要となるという問題があった。
【0010】
本発明において「樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木」としてはハッサク、ナツミカン、レモン、温州ミカン、清見、安政柑,ユズ,大橘等の成木が挙げられるがこれらには限定されない。
【0011】
本発明の方法は、例えば、ハッサク、ナツミカン、レモン等の既存品種を、既存品種と比較して相対的に付加価値の高い品種(不知火、はるみ、春峰等)に更新するために用いることができる。
【0012】
本発明の方法は第一に、前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させることを特徴とする。接木される部位は、台木となる樹の主枝、亜主枝、又は側枝をノコギリや鋏を使って切断して得られた切り口であっても、主枝、亜主枝、又は側枝を切り去らずに、その側面上に傷をつけて得られた傷口であっても良い。
【0013】
更新品種の穂木としては、一般的に接木で使用される穂木で良い。例えば、(1) 接木する前年に伸長し、内部栄養の充実した枝であって、且つ (2) 罹病枝でないものであり、直径1cm程度までであれば、できる限り太いものを穂木として用いることができるが、これには限定されない。
【0014】
本発明において、接木は常法、例えば切接ぎ法、腹接ぎ法、あるいは芽接ぎ法により行うことができる。
【0015】
本発明の方法は第二に、更新品種の活着後もなお、前記樹木の主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持することを特徴とする。ここで、「主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持する」とは、更新品種が活着して樹冠の拡大が完了した後もなお、主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝(例えば亜主枝又は側枝)についた葉を完全には切除せずに少なくとも一部を残しておき、残された葉が光合成可能な状態を維持することを意味する。光合成機能が維持された葉を有する主枝又は前記主枝から分岐した枝は、接木により導入された更新品種の部位に対して光合成産物を供給するとともに、養水分を引き上げる役割を担う(すなわち、「力枝」として機能する)。本発明において主枝又は前記主枝から分岐した枝についた光合成機能の少なくとも一部が維持される葉は、接木により導入された更新品種により形成される樹冠よりも、地面からより高い位置にある葉であることが好ましい。例えば、地面から1.6mを超える高さに位置する葉であることが好ましい。従来の高接ぎ法による品種更新では、樹木下部に位置する既存品種の枝葉が力枝として利用され、更新品種の樹冠拡大とともに力枝は縮伐され、樹冠拡大が完了した3〜5年後には完全に切除される。本発明の方法では、樹木上部に位置する主枝又は前記主枝から分岐した枝が力枝として利用される点、並びに、更新品種による樹冠拡大完了後も力枝が残される点で従来の高接ぎ法による品種更新法と顕著に相違する。
【0016】
本発明において「力枝」として残された主枝又は前記主枝から分岐した枝に果実が着果した場合には、果実は全て摘果することが好ましい。
【0017】
図1には本発明による品種更新の手順を(1)接木時、(2)樹冠拡大期、(3)結実期の三段階に分けて模式的に示す。各模式図の下方には対応する各段階の樹木の写真を示す。接木時には、既存品種の主枝の上部(高さ1.6mを超える部位)の葉を残し、0.3〜1.6mの範囲の亜主枝や側枝の部分を中心に、更新品種の穂木を接木する。樹冠拡大期及び結実期においても既存品種の主枝の上部にある枝葉を切除せずに残し、この部分を力枝として利用する。既存品種の主枝上部は強い切り返し剪定により、勢いの良い新梢の発生を促し、着果した果実は全て摘果する。既存品種の主枝上部が維持されているため、更新品種の樹勢は維持され易い。また本発明の方法によれば、更新品種の着果部位は地面から概ね0.3〜1.6mの範囲であるため収穫が容易である。
【0018】
比較のために、図2に従来の高接ぎ法による品種更新の手順を(1)接木時、(2)樹冠拡大期、(3)結実期の三段階に分けて模式的に示す。各模式図の下方には対応する各段階の樹木の写真を示す。従来の高接ぎ法では、接木時に既存品種の主枝の上部を切除し、主枝の切り口や、主枝から分岐している亜主枝、側枝の切り口や、これらの枝の側面に更新品種の穂木を接木する。比較的低い高さにある亜主枝等は「力枝」として残す。樹冠が拡大するに伴って既存品種は縮伐されていき、3〜5年後には完全に切除されて品種更新が完了する。図2の(2)には切除された力枝を破線で示す。従来の高接ぎ法によれば、更新品種の着果部位が地面から高い位置となるため収穫が困難となる。
【0019】
次に本発明の実施例を示すが本発明はこの実施例には限定されない。
【実施例】
【0020】
本実施例ではカンキツ類のハッサクを不知火へと品種更新した。
1)台木となり得る樹の選定を行った。(1) 脚立等を利用しなければ、せん定や摘果、収穫などの作業が完了できないような樹高の樹であること、(2) 樹勢が良好であり、接木に耐えうる状態であることなどをポイントに選定した。選定された樹の写真を図3に示す。
【0021】
2)接木は1999年4月中旬に行った。接木時には、あらかじめ大雑把に接木に適さない枝を切除した。その後、既存品種の主枝上部3分の1は強めの切り返し剪定を行うと同時に、枝数の制限を間引き剪定によって行いながら、最低限の枝を残した。剪定後の樹の写真を図4に示す。剪定後の樹の下部の亜主枝や側枝に、切り接ぎ法、腹接ぎ法、芽接ぎ法を組み合わせて接ぎ木を行った。切り接ぎ法は、亜主枝の先端部を切除し、1口2〜3穂を接ぎ木した。腹接ぎ法は、亜主枝や側枝あるいは主枝上を利用し、切り接ぎ法のみで行った場合に枝が無い、空間となると想像ができる箇所に接ぎ木した。芽接ぎ法は、形成層が出にくいため活着しにくい、あるいは腹接ぎ等の方法が利用しにくい部位で行った。接ぎ木は、常法によって行ったが、接ぎ木テープは形成層部位の密着性を高めるために、切り口へ穂木を挿し込んで台木と一緒に縛り付け、穂木部分はメデールテープにより乾燥防止を施した。また、切り接ぎ法を利用した箇所は、切り口の乾燥防止のために、銀色の粘着テープを利用した。接木終了後の樹の写真を図5に示す。
【0022】
3)接木後の管理は、穂木の芽が一定程度伸長したのを確認して、メデールテープにナイフで切れ込みを入れ新芽を出し、さらに伸長させた。1腋芽2本以上新芽が発生している場合には、1本に芽かぎをしながら樹冠の拡大を図った。樹冠拡大時の誘引は、支柱を用いて接ぎ木部の折れを防いだり、無効空間を少なくする枝配置とするために行った。一般的な施肥や病害虫防除、かん水などの管理を行った外、樹冠拡大を促進するため、窒素成分を主体とした液肥の散布や、アブラムシやハモグリガなどの防除を行った。
【0023】
また、通常では、樹冠の拡大終了後には力枝の部分を切り捨てるが、本栽培法では力枝となっている主枝上部3分の1は切り捨てず、そのまま残存させて、強めの切り返し剪定と全摘果を行った。
【0024】
4)樹冠拡大が終了し更新品種が結実期に入っても、既存品種の主枝上部3分の1は切り捨てず、強めの切り返し剪定(3月を中心とし、7,8月の摘果時)と着果した果実の全摘果(7月)を行って、更新品種への光合成生産物の供給、養水分の引き上げ役として機能させた。
【0025】
5)その結果、更新品種の樹勢は維持され、同時に着果部位は脚立を必要としない高さとなった。なお、既存品種の剪定時および摘果時には脚立に上がって作業を行う必要があった。
【0026】
本方法により品種更新された樹の樹相を示す写真(2004年7月1日撮影)を図6に示す。本方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真(2004年7月1日撮影)を図7及び8に示す。
【0027】
比較のために、慣行の品種更新法によりハッサクから不知火へ品種更新を行った。慣行法により品種更新された樹の樹相を示す写真(2004年7月1日撮影)を図9に示す。また慣行の品種更新法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真(2004年7月1日撮影)を図10及び11に示す。
【0028】
本発明の新栽培法および慣行法により得られた「不知火」の春枝の長さ、葉数および葉長を表1に示す。表1に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火は、慣行法により品種更新されたものに比べて、春枝の長さは有為に長く、葉数は有為に多く、葉の大きさは有為に大きかった。
【0029】
【表1】
【0030】
本発明の新栽培法および慣行法により得られた「不知火」の中間台木の夏秋梢の発生数等を表2に示す。表2に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火は、慣行法により品種更新されたものに比べて、夏秋梢の発生数、総伸長量、総葉数、1本当たりの平均長はいずれも優れていた。
【0031】
【表2】
【0032】
本発明の新栽培法および慣行法のそれぞれにおける栽培の各段階における脚立の使用回数の1例を表3に示す。表3に示す通り、新栽培法によれば、慣行法に比べて脚立の使用回数を格段に減らすことができる。
【0033】
【表3】
【0034】
本発明の新栽培法および慣行法により品種更新された「不知火」の果実の平成14〜17年度の果実品質を表4に示す。表4に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火の果実品質(特にクエン酸含量)は、慣行法により品種更新されたものに比べて、いずれの年度においても優れていた。
【0035】
【表4】
【0036】
本発明の新栽培法および慣行法により品種更新された「不知火」の接ぎ木6年目における1果平均重および階級構成を表5に示す。表5に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火の果実は、慣行法により品種更新されたものに比べて、1果平均重は重く、階級は大きいものが多かった。
【0037】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の品種更新の方法を模式的に示す図である。
【図2】従来の高接ぎ法による品種更新の方法を模式的に示す図である。
【図3】本発明の品種更新の方法を行う前の樹の状態を示す写真である。
【図4】本発明の品種更新の方法を行う前に、大雑把な剪定を行った後の樹の状態を示す写真である。
【図5】本発明の品種更新の方法において、接木を終了した樹の状態を示す写真である。
【図6】本発明の品種更新の方法により品種更新された樹の樹相を示す写真である。
【図7】本発明の品種更新の方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【図8】本発明の品種更新の方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【図9】従来から慣行されている方法により品種更新された樹の樹相を示す写真である。
【図10】従来から慣行されている方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【図11】従来から慣行されている方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明はカンキツ類樹木における品種更新の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カンキツ類の品種更新は、新たに導入しようとする品種(本明細書では「更新品種」と称する)の苗木の定植あるいは更新品種の既存品種への高接ぎ法により行われている。
【0003】
高接ぎ法は、既存品種の主枝の上部を切除して得られる切り口、主枝上の亜主枝及び側枝を切除して得られる切り口、並びに、主枝、亜主枝及び側枝の途中に更新品種の穂木を接木する方法である。高接ぎ法では、主枝の基部付近から発生している亜主枝や側枝は残されて、導入された更新品種への養分供給のための部位となる。このようにして残された部位は、「力枝」と呼ばれる。力枝は高接ぎされた更新品種の樹冠の拡大が進むとともに縮伐されていき、接木してから3〜5年後には完全に切除されて品種更新が完了する。
【0004】
高接ぎ法には次の問題がある。高接ぎ法では、力枝を残す必要があることから、更新品種の接木部位は地面から1m以上と高くなることが通常である。そして、更新品種の枝は、前記接木部位から伸長するために、更新品種による樹冠はより一層高くなり、それに伴って着果位置も高くなるため、摘果や収穫の作業に脚立等の利用が必要になる。広島県等のカンキツ類の産地は急傾斜地が多く、これらの地域では摘果や収穫の作業に脚立等を用いることは危険を伴う。
【0005】
また高接ぎ法により「不知火」に品種更新された樹木は、着果後年数を経過すると、樹勢が低下し、減酸が遅れ、果実品質の低下を招くという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カンキツ類樹木における品種更新の方法であって、更新品種の果実の着果部位の高さを低くすることにより、摘果や収穫の作業を安全かつ効率的に行うことを可能にするとともに、樹勢を長期に亘り維持させることを可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木における品種更新の方法であって、
前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させること、並びに
前記樹木の主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持すること
を特徴とする前記方法。
(2)光合成機能の少なくとも一部が維持される前記葉が、地面から1.6mを超える高さに位置する葉である(1)記載の方法。
(3)(1)又は(2)記載の方法により品種が更新されたカンキツ類樹木。
【発明の効果】
【0008】
本発明により品種が更新されたカンキツ類樹木は、果実の着果部位が地面から低い位置にあるため、摘果や収穫の作業を安全かつ効率的に行うことができる。本発明により品種が更新されたカンキツ類樹木は、樹勢を長期に亘り維持することが可能である。
【発明を実施するための最良の課題】
【0009】
本発明の方法は、樹高が1.6mを超える、典型的には樹高が2.2〜3.7m、より典型的には樹高が2.5〜3.0mであるカンキツ類樹木の品種更新の方法に関する。これらの樹木において従来の高接ぎ法により品種更新を行うと、着果位置が高くなりすぎて収穫には脚立等が必要となるという問題があった。
【0010】
本発明において「樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木」としてはハッサク、ナツミカン、レモン、温州ミカン、清見、安政柑,ユズ,大橘等の成木が挙げられるがこれらには限定されない。
【0011】
本発明の方法は、例えば、ハッサク、ナツミカン、レモン等の既存品種を、既存品種と比較して相対的に付加価値の高い品種(不知火、はるみ、春峰等)に更新するために用いることができる。
【0012】
本発明の方法は第一に、前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させることを特徴とする。接木される部位は、台木となる樹の主枝、亜主枝、又は側枝をノコギリや鋏を使って切断して得られた切り口であっても、主枝、亜主枝、又は側枝を切り去らずに、その側面上に傷をつけて得られた傷口であっても良い。
【0013】
更新品種の穂木としては、一般的に接木で使用される穂木で良い。例えば、(1) 接木する前年に伸長し、内部栄養の充実した枝であって、且つ (2) 罹病枝でないものであり、直径1cm程度までであれば、できる限り太いものを穂木として用いることができるが、これには限定されない。
【0014】
本発明において、接木は常法、例えば切接ぎ法、腹接ぎ法、あるいは芽接ぎ法により行うことができる。
【0015】
本発明の方法は第二に、更新品種の活着後もなお、前記樹木の主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持することを特徴とする。ここで、「主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持する」とは、更新品種が活着して樹冠の拡大が完了した後もなお、主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝(例えば亜主枝又は側枝)についた葉を完全には切除せずに少なくとも一部を残しておき、残された葉が光合成可能な状態を維持することを意味する。光合成機能が維持された葉を有する主枝又は前記主枝から分岐した枝は、接木により導入された更新品種の部位に対して光合成産物を供給するとともに、養水分を引き上げる役割を担う(すなわち、「力枝」として機能する)。本発明において主枝又は前記主枝から分岐した枝についた光合成機能の少なくとも一部が維持される葉は、接木により導入された更新品種により形成される樹冠よりも、地面からより高い位置にある葉であることが好ましい。例えば、地面から1.6mを超える高さに位置する葉であることが好ましい。従来の高接ぎ法による品種更新では、樹木下部に位置する既存品種の枝葉が力枝として利用され、更新品種の樹冠拡大とともに力枝は縮伐され、樹冠拡大が完了した3〜5年後には完全に切除される。本発明の方法では、樹木上部に位置する主枝又は前記主枝から分岐した枝が力枝として利用される点、並びに、更新品種による樹冠拡大完了後も力枝が残される点で従来の高接ぎ法による品種更新法と顕著に相違する。
【0016】
本発明において「力枝」として残された主枝又は前記主枝から分岐した枝に果実が着果した場合には、果実は全て摘果することが好ましい。
【0017】
図1には本発明による品種更新の手順を(1)接木時、(2)樹冠拡大期、(3)結実期の三段階に分けて模式的に示す。各模式図の下方には対応する各段階の樹木の写真を示す。接木時には、既存品種の主枝の上部(高さ1.6mを超える部位)の葉を残し、0.3〜1.6mの範囲の亜主枝や側枝の部分を中心に、更新品種の穂木を接木する。樹冠拡大期及び結実期においても既存品種の主枝の上部にある枝葉を切除せずに残し、この部分を力枝として利用する。既存品種の主枝上部は強い切り返し剪定により、勢いの良い新梢の発生を促し、着果した果実は全て摘果する。既存品種の主枝上部が維持されているため、更新品種の樹勢は維持され易い。また本発明の方法によれば、更新品種の着果部位は地面から概ね0.3〜1.6mの範囲であるため収穫が容易である。
【0018】
比較のために、図2に従来の高接ぎ法による品種更新の手順を(1)接木時、(2)樹冠拡大期、(3)結実期の三段階に分けて模式的に示す。各模式図の下方には対応する各段階の樹木の写真を示す。従来の高接ぎ法では、接木時に既存品種の主枝の上部を切除し、主枝の切り口や、主枝から分岐している亜主枝、側枝の切り口や、これらの枝の側面に更新品種の穂木を接木する。比較的低い高さにある亜主枝等は「力枝」として残す。樹冠が拡大するに伴って既存品種は縮伐されていき、3〜5年後には完全に切除されて品種更新が完了する。図2の(2)には切除された力枝を破線で示す。従来の高接ぎ法によれば、更新品種の着果部位が地面から高い位置となるため収穫が困難となる。
【0019】
次に本発明の実施例を示すが本発明はこの実施例には限定されない。
【実施例】
【0020】
本実施例ではカンキツ類のハッサクを不知火へと品種更新した。
1)台木となり得る樹の選定を行った。(1) 脚立等を利用しなければ、せん定や摘果、収穫などの作業が完了できないような樹高の樹であること、(2) 樹勢が良好であり、接木に耐えうる状態であることなどをポイントに選定した。選定された樹の写真を図3に示す。
【0021】
2)接木は1999年4月中旬に行った。接木時には、あらかじめ大雑把に接木に適さない枝を切除した。その後、既存品種の主枝上部3分の1は強めの切り返し剪定を行うと同時に、枝数の制限を間引き剪定によって行いながら、最低限の枝を残した。剪定後の樹の写真を図4に示す。剪定後の樹の下部の亜主枝や側枝に、切り接ぎ法、腹接ぎ法、芽接ぎ法を組み合わせて接ぎ木を行った。切り接ぎ法は、亜主枝の先端部を切除し、1口2〜3穂を接ぎ木した。腹接ぎ法は、亜主枝や側枝あるいは主枝上を利用し、切り接ぎ法のみで行った場合に枝が無い、空間となると想像ができる箇所に接ぎ木した。芽接ぎ法は、形成層が出にくいため活着しにくい、あるいは腹接ぎ等の方法が利用しにくい部位で行った。接ぎ木は、常法によって行ったが、接ぎ木テープは形成層部位の密着性を高めるために、切り口へ穂木を挿し込んで台木と一緒に縛り付け、穂木部分はメデールテープにより乾燥防止を施した。また、切り接ぎ法を利用した箇所は、切り口の乾燥防止のために、銀色の粘着テープを利用した。接木終了後の樹の写真を図5に示す。
【0022】
3)接木後の管理は、穂木の芽が一定程度伸長したのを確認して、メデールテープにナイフで切れ込みを入れ新芽を出し、さらに伸長させた。1腋芽2本以上新芽が発生している場合には、1本に芽かぎをしながら樹冠の拡大を図った。樹冠拡大時の誘引は、支柱を用いて接ぎ木部の折れを防いだり、無効空間を少なくする枝配置とするために行った。一般的な施肥や病害虫防除、かん水などの管理を行った外、樹冠拡大を促進するため、窒素成分を主体とした液肥の散布や、アブラムシやハモグリガなどの防除を行った。
【0023】
また、通常では、樹冠の拡大終了後には力枝の部分を切り捨てるが、本栽培法では力枝となっている主枝上部3分の1は切り捨てず、そのまま残存させて、強めの切り返し剪定と全摘果を行った。
【0024】
4)樹冠拡大が終了し更新品種が結実期に入っても、既存品種の主枝上部3分の1は切り捨てず、強めの切り返し剪定(3月を中心とし、7,8月の摘果時)と着果した果実の全摘果(7月)を行って、更新品種への光合成生産物の供給、養水分の引き上げ役として機能させた。
【0025】
5)その結果、更新品種の樹勢は維持され、同時に着果部位は脚立を必要としない高さとなった。なお、既存品種の剪定時および摘果時には脚立に上がって作業を行う必要があった。
【0026】
本方法により品種更新された樹の樹相を示す写真(2004年7月1日撮影)を図6に示す。本方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真(2004年7月1日撮影)を図7及び8に示す。
【0027】
比較のために、慣行の品種更新法によりハッサクから不知火へ品種更新を行った。慣行法により品種更新された樹の樹相を示す写真(2004年7月1日撮影)を図9に示す。また慣行の品種更新法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真(2004年7月1日撮影)を図10及び11に示す。
【0028】
本発明の新栽培法および慣行法により得られた「不知火」の春枝の長さ、葉数および葉長を表1に示す。表1に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火は、慣行法により品種更新されたものに比べて、春枝の長さは有為に長く、葉数は有為に多く、葉の大きさは有為に大きかった。
【0029】
【表1】
【0030】
本発明の新栽培法および慣行法により得られた「不知火」の中間台木の夏秋梢の発生数等を表2に示す。表2に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火は、慣行法により品種更新されたものに比べて、夏秋梢の発生数、総伸長量、総葉数、1本当たりの平均長はいずれも優れていた。
【0031】
【表2】
【0032】
本発明の新栽培法および慣行法のそれぞれにおける栽培の各段階における脚立の使用回数の1例を表3に示す。表3に示す通り、新栽培法によれば、慣行法に比べて脚立の使用回数を格段に減らすことができる。
【0033】
【表3】
【0034】
本発明の新栽培法および慣行法により品種更新された「不知火」の果実の平成14〜17年度の果実品質を表4に示す。表4に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火の果実品質(特にクエン酸含量)は、慣行法により品種更新されたものに比べて、いずれの年度においても優れていた。
【0035】
【表4】
【0036】
本発明の新栽培法および慣行法により品種更新された「不知火」の接ぎ木6年目における1果平均重および階級構成を表5に示す。表5に示す通り、新栽培法により品種更新された不知火の果実は、慣行法により品種更新されたものに比べて、1果平均重は重く、階級は大きいものが多かった。
【0037】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の品種更新の方法を模式的に示す図である。
【図2】従来の高接ぎ法による品種更新の方法を模式的に示す図である。
【図3】本発明の品種更新の方法を行う前の樹の状態を示す写真である。
【図4】本発明の品種更新の方法を行う前に、大雑把な剪定を行った後の樹の状態を示す写真である。
【図5】本発明の品種更新の方法において、接木を終了した樹の状態を示す写真である。
【図6】本発明の品種更新の方法により品種更新された樹の樹相を示す写真である。
【図7】本発明の品種更新の方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【図8】本発明の品種更新の方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【図9】従来から慣行されている方法により品種更新された樹の樹相を示す写真である。
【図10】従来から慣行されている方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【図11】従来から慣行されている方法により品種更新された樹の枝の状態を示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木における品種更新の方法であって、
前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させること、並びに
前記樹木の主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持すること
を特徴とする前記方法。
【請求項2】
光合成機能の少なくとも一部が維持される前記葉が、地面から1.6mを超える高さに位置する葉である請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により品種が更新されたカンキツ類樹木。
【請求項1】
樹高が1.6mを超えるカンキツ類樹木における品種更新の方法であって、
前記樹木の地面から0.3〜1.6mの高さにある部位に、更新品種の穂木を接木し、活着させること、並びに
前記樹木の主枝についた葉又は前記主枝から分岐した枝についた葉の光合成機能の少なくとも一部を維持すること
を特徴とする前記方法。
【請求項2】
光合成機能の少なくとも一部が維持される前記葉が、地面から1.6mを超える高さに位置する葉である請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により品種が更新されたカンキツ類樹木。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−195407(P2007−195407A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14287(P2006−14287)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
[ Back to top ]