説明

カード用コネクタ

【課題】落下等の衝撃を受けてラッチピンが持ち上がることがあっても押えばねの塑性変形を防止でき、カード挿入、排出操作への影響を受けにくく、耐衝撃性を向上する。
【解決手段】ラッチピン5をカム溝3aに付勢する押さえバネ2aは、基端部2eと自由端部2fとを有し、基端部2eはラッチピン5と離間して設けられた支持部材2に固定され、自由端部2fはラッチピン5を付勢しており、ラッチピン5が支持部材2に近接する方向に持ち上がったときにラッチピン5が押さえバネ2aの基端部2eを塑性変形させないように、基端部2eに逃げ部が設けられていることを特徴とするカード用コネクタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード用コネクタに関し、特に、記憶装置や制御装置として用いられる着脱式の小型カードに対応するカード用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のカード用コネクタは、例えば、特許文献1に開示される構成が知られている。
このようなカード用コネクタでは、カードを保持しカードの挿排方向に移動可能なスライド部材にハートカム溝を設け、板バネでラッチピンをハートカム溝底部方向に付勢し、ラッチピンの他端側がホルダーに保持されながらラッチピンの一端側が該ハートカム溝内のロック位置と解除位置とに移動することにより、スライド部材をカード装着位置に選択的に保持する構造のカード挿排機構を有している。
【0003】
近年、カード用コネクタを採用する製品分野が拡大し、デジタルスチルカメラや携帯電話機等の、手軽に持ち運びができる携帯機器にもカード用コネクタが多用される様になった。これらの携帯機器ではカード用コネクタには薄型化、軽量化が求められる一方で、使用者が製品を落下させてしまう可能性があることから、強い耐衝撃性が求められることが多い。
【0004】
カード用コネクタが組み込まれた製品が落下した場合、カード用コネクタには強い衝撃が加わり、特にカードを装着しロック位置に保持された状態で強い衝撃が加わると、落下の方向によってはカードが排出方向の大きな衝撃力を受ける場合がある。
【0005】
従来のカード用コネクタでは、カードに排出方向の非常に大きな衝撃力が加わると、以下のような現象によりカード挿排機構が損傷する可能性があった。
図11は従来技術に関わるカード用コネクタのラッチピンを付勢する板バネ部102a付近を示す外観斜視図である。
また、図12は図11のA−A断面図で、図12(a)はスライド部材103がロック位置に保持されている状態を示し、図12(b)はスライド部材103がロック位置に保持されている状態で、ラッチピン105の両端に圧縮する方向の力がかかり、ラッチピン105が撓みハートカム溝103aから持ち上がった状態を示す。
【0006】
スライド部材103がロック位置にあるときは、図12(a)に示すように、板バネ部102aの自由端部102fがラッチピン105の一端側を下方に付勢しており、これにより排出動作に移った場合にラッチピン105が所定の経路でハートカム溝103a内を移動し、正常な動作が可能である。
【0007】
しかし、スライド部材103がロック位置にあるときに、落下等によりカード11が排出方向の衝撃を受けて、スライド部材103がラッチピン105を排出方向に強く押すと、図12(b)に示すように、ラッチピン105が撓み持ち上がる。
これは、カードが排出方向に大きな衝撃力を受けると、カードを保持しているスライド部材は、排出方向に押されるものの、ロック位置ではラッチピンの一端側がスライド部材のハートカム溝のロック位置用の凹壁部と係合しているため、ラッチピンはハートカム溝の凹壁部でカードの排出方向に押される。このとき、ラッチピンの他端側はハウジングに保持されているため、ラッチピンは移動できず両端が圧縮される方向の力を受ける。ラッチピンは両端が直線状の中間部に対し両端がL字に屈曲した略コの字状のため、両端が圧縮されると中間部が撓み両端部が傾斜しラッチピン105が持ち上がることによるものである。
【0008】
このようにラッチピン105が持ち上げられると、ラッチピン105は、板バネ部102aを付勢方向とは逆の方向に変形させる。すると、持ち上げられたラッチピン5が板バネ部102aの基端部102eを押し上げ、基端部102eが局部的に大きく変形し、最悪の場合には板バネ部102aの基端部102eは塑性変形する。板バネ部102aの基端部が塑性変形すると、板バネ部102aによる付勢力が弱まりラッチピン105を下方に付勢することができなくなるため、ラッチピン105はハートカム溝103aの中を所定の経路で移動することができなくなり、正常なカードの挿入、排出操作ができなくなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−300229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、落下等の衝撃を受けてラッチピンが持ち上がることがあっても押えばねの塑性変形を防止でき、カード挿入、排出操作への影響を受けにくく、耐衝撃性を向上することが可能なカード用コネクタを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、接続対象物を収容するハウジングと、ハウジングに接続対象物を装着する方向と接続対象物を排出する方向とに移動可能なスライド部材と、スライド部材を排出方向に付勢する付勢部材と、付勢部材の付勢力に抗してスライド部材を接続対象物装着位置に選択的に保持するロック機構とを有し、ロック機構は、スライド部材に設けられたカム溝と、一端側がカム溝内のロック位置と解除位置とに移動し他端側がハウジングに軸支されたラッチピンと、ラッチピンをカム溝に付勢する押さえバネとを備えてなるカード用コネクタにおいて、押さえバネは、基端部と自由端部とを有し、基端部はラッチピンと離間して設けられた支持部材に固定され、自由端部はラッチピンを付勢しており、ラッチピンが支持部材に近接する方向に持ち上がったときにラッチピンが押さえバネの基端部を塑性変形させないように、基端部に逃げ部が設けられていることに特徴を有する。
【0012】
これにより、本発明では、押さえバネの基端部に逃げ部を設けたことにより、落下した場合等にロック状態で接続対象物に排出方向の衝撃力等が作用しラッチピンが持ち上がることがあっても、ラッチピンが押さえバネの基端部を塑性変形させることを防止でき、カード挿入、排出への影響を低減することが可能となるので、耐衝撃性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明は、押さえバネは片持ちの板バネからなり、板バネの支持側である基端部をラッチピンの他端側に設け、板バネの自由端部をラッチピンの一端側に向けたことに特徴を有する。
【0014】
これにより、本発明では、挿排動作により高さが変化しないラッチピンの他端側に板バネの基底部を配したので、板バネを固定する支持部材とラッチピンのクリアランスを小さくできるため、カード用コネクタを薄型とすることが可能となる。また、板バネの自由端部を、挿排動作により高さが変化するラッチピンの一端側に向けたので、ラッチピンの高さが変化しても板バネはラッチピンを安定して付勢することができ、安定した挿排動作が可能となる。
【0015】
また、本発明は、支持部材の一部により板バネを形成したことに特徴を有する。
【0016】
これにより、本発明では、支持部材と板バネを個別に製作する必要がなく、また板バネを支持部材に固定する必要もないので、部品点数を削減すると共に部品固定工数も削減でき、部品固定による厚さの増加を回避できるので薄型化が可能となる。
【0017】
また、本発明は、逃げ部は板バネの基端部に隣接する開口からなることに特徴を有する。
【0018】
これにより、本発明では、逃げ部が板バネに隣接して設けられているので、挿排機構を小さく簡単に形成でき、カード用コネクタの小型化に有利である。
【0019】
また、本発明は、逃げ部は板バネの基端部に開口した穴であることに特徴を有する。
【0020】
これにより、本発明では、板バネの基端部の幅の一部に穴を設けるのみで逃げ部が形成でき、挿排機構の構成を簡単にできると共に、逃げ部により分割された板バネの基端部がラッチピンを跨いだ両側に位置するため、板バネが安定してラッチピンを付勢することができる。
【0021】
また、本発明は、ラッチピンの持ち上がりを規制するストッパーを、板バネの基端部とラッチピンとの中間に設けたことに特徴を有する。
【0022】
これにより、本発明では、ラッチピンと板バネの基端部との中間にストッパーが設けられているので、ラッチピンが持ち上がっても、ラッチピンが板バネの基端部に接触する前にストッパーがラッチピンの持ち上がりを規制することができるため、板バネの基端部が変形することを回避できる。
【0023】
また、本発明は、ラッチピンの他端側の持ち上がりをストッパーで規制し、ラッチピンの一端側の持ち上がりを支持部材の一部で規制することに特徴を有する。
【0024】
これにより、本発明では、ラッチピンの両側で持ち上がりを規制するため、ラッチピンの持ち上がりを確実に規制できる。
【0025】
また、本発明は、ストッパーは支持部材の一部により形成されていることに特徴を有する。
【0026】
これにより、本発明では、支持部材とストッパーを個別に製作する必要がなく、またストッパーを支持部材に固定する必要もないので、部品点数を削減すると共に部品固定工数も削減できる。
【0027】
また、本発明は、ストッパーは逃げ部に突出して設けられていることに特徴を有する。
これにより、本発明では、ストッパーを開口部である逃げ部に設けたので、挿排機構をコンパクトに構成することができる。
【0028】
また、本発明は、支持部材はハウジングと係合するカバーであることに特徴を有する。
【0029】
これにより、本発明では、カバーを支持部材としたので、個別に支持部材を設ける必要がなく、構造を簡略化でき薄型化に有利となる。
【0030】
また、本発明は、前記スライド部材が前記接続対象物装着位置に保持されているとき、前記接続対象物が前記スライド部材に保持される構成に特徴を有する。
【0031】
これにより、本発明では、落下や使用者による誤操作等により、スライド部材が装着位置にあるにもかかわらず接続対象物が誤って排出されることを防止できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、押さえバネの基端部に逃げ部を設けたことにより、落下した場合等にロック状態で接続対象物に排出方向の衝撃力等が作用しラッチピンが持ち上がることがあっても、ラッチピンが押さえバネの基端部を塑性変形させることを防止でき、カード挿入、排出への影響を低減することが可能となるので、耐衝撃性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの外観斜視図である。
【図2】上記実施の形態におけるカード用コネクタのカバーを省略した外観斜視図である。
【図3】上記実施の形態におけるカード用コネクタの構成を示す分解斜視図である。
【図4】上記実施の形態におけるカード用コネクタのハードロック状態を示す外観斜視図である。
【図5】上記実施の形態におけるカード用コネクタのハードロック状態を示す要部の外観斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの板バネ部付近の要部の外観斜視図である。
【図7】上記実施の形態におけるカード用コネクタを示す図6のB−B断面図であり、(a)はロック状態を示す断面図、(b)はラッチピンが圧縮方向の力を受け撓んだ状態を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態の変形例(1)に係るカード用コネクタであり、(a)は板バネ部付近の要部の外観斜視図、(b)は図8(a)のC−C断面図である。
【図9】本発明の実施の形態の変形例(2)に係るカード用コネクタであり、(a)は板バネ部付近の要部の外観斜視図、(b)は図9(a)のD−D断面図である。
【図10】本発明の実施の形態の変形例(3)に係るカード用コネクタであり、(a)は板バネ部付近の要部の外観斜視図、(b)は図10(a)のE−E断面図である。
【図11】従来技術によるカード用コネクタの板バネ部付近の要部の外観斜視図である。
【図12】従来技術によるカード用コネクタを示す図11のA−A断面図であり、(a)はロック状態を示す断面図、(b)はラッチピンが圧縮方向の力を受け撓んだ状態を示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの装着対象物であるカードの外観斜視図であり、(a)は上面側の外観斜視図、(b)は底面側の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、本発明の実施の形態に係るカード用コネクタについて説明する前に、装着対象物としてのカードについて説明する。
【0035】
カード11は記憶媒体として用いられるメモリカードで、外観を図13に示す。図13の(a)はカード11の外観斜視図,(b)はカード11の底面側の外観斜視図である。
【0036】
図13(a),(b)に示すように、カード11は平面視で略矩形状の板状の製品で、ひとつのコーナー部に傾斜面11aが設けられている。本発明の実施例のカード用コネクタでは傾斜面11aが右側奥になる方向が正しい挿入方向である。
また傾斜面11aに繋がる長辺部には切り欠き部11bがあり、他方の長辺部にはスライド可能な書き込み保護用のノブ11cが設けられている。また、図13(b)に見える底面の奥側には、電気接続用の複数のパッド11dが設けられている。
【0037】
以下、添付図面を参考に、本発明の実施の形態について説明する。
【0038】
なお、本実施の形態に係るカード用コネクタに装着される接続対象物は、いわゆるメモリカードであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、制御キーや通信機能を付加するため等の他の接続対象物を装着対象とする種々のカード用コネクタに適用することが可能である。
【0039】
まず、図1および図2を参考に、本発明の実施の形態にかかるカード用コネクタの構成を説明する。
【0040】
図1はカード用コネクタの外観斜視図である。図1に示すように、カード用コネクタはハウジング1と、ハウジング1に係合されるカバー2により外形が構成され、ハウジング1とカバー2により構成される開口部がカード11の挿入口1aとなる。図1に想像線で示すカード11は、挿入口1aに図中に示すカード挿入方向11eに挿入され、カード排出方向11fに排出される。
【0041】
図2は説明のためにカバー2を省略した外観斜視図である。図2に示すように、ハウジング1の右側の壁に近接してスライド部材3がカード挿入,排出方向に摺動可能に組み込まれている。スライド部材3の後端側には排出バネ6が組み込まれており、排出バネ6はスライド部材3を排出方向11fに向けて付勢する。
【0042】
スライド部材3の上面には、保持バネ4が組み込まれており、保持バネ4は挿入されたカード11の切り欠き部11bと係合しカード11をスライド部材3に保持する。また、ラッチピン5がハウジング1とスライド部材3にまたがるように組み込まれ、スライド部材3がロック位置にスライドさせられると、ラッチピン5は排出バネ6の付勢に抗してスライド部材3をロック位置に保持する。
【0043】
ハウジング1の左側の壁の略中央部付近には、巻きバネ8(図3参照)が組み込まれたスイッチ部7が組み込まれる。
【0044】
次に、図3を参考に各部品を説明する。なお、図3ではハウジング1の左側の外壁部の一部を削除し、スイッチ端子1gを明示している。
【0045】
ハウジング1は、成型材等で上方と前方が開口した箱状に形成され、複数の接続端子1dがインサート成型にて組み込まれており、これらの複数の接続端子1dはハウジング1内で延出し、外部に露出し複数の外部端子1eとなる。複数の接続端子1dはカード11がロック位置まで挿入されると、カード11のパッド11dと電気的に接続する。
【0046】
ハウジング1の右側壁の内側にはスライドガイド部1bを有し、スライドガイド部1bの前方には丸穴部1cを有する。また、左側壁部には窪み部1fと2つのスイッチ端子1gを有しており、2つのスイッチ端子1gはハウジング1内で延出し、外部に露出し複数の外部端子1eとなる。
【0047】
スライドガイド部1bはスライド部材3を摺動可能に保持する溝部である。また、丸穴部1cはラッチピン5の他方側の端部を回動可能に保持する。
【0048】
窪み部1fには書き込み保護を検出するスイッチ部7が収納される。カード11のノブ11cが書き込み不可の位置にあると、スイッチ部7に組み込まれた巻きバネ8により2つのスイッチ端子1gは短絡される。
【0049】
カバー2はステンレス等の金属板で略矩形状に形成され、奥側の辺および左右両辺の3辺に折り曲げられた壁部を有する。上面の右側壁近傍にはカード挿入口1a側を基端部2eとしてカバー2と一体化されると共に、カード挿入方向11eに向けて自由端部2fが形成された板バネ部2aを有している。そして、板バネ部2aの根元側には開口を設け逃げ部2bとしている。また上面の右側壁部側の略中央には保持バネ規制突起部2cを有する。
【0050】
板バネ部2aはラッチピン5が後述するハートカム溝3a内を所定の経路で移動するように、ラッチピン5をハートカム溝3aの底部方向に付勢している。また保持バネ規制突起部2cは、スライド部材3がロック位置にあるときに、保持バネ4の変形を規制する。
【0051】
本実施例ではカバー2を支持部材として用い、カバー2に板バネ部2aを一体形成したので、板バネ部品を別部品として製作する必要が無い。また板バネ部品を別部品としてカバー2に取り付ける必要も無く、更に、板バネ取り付け用にカバー2と異なる新たな部品を製作する必要もないため、取り付けによる高さ寸法の増加を回避できカード用コネクタの薄型化に有効である。また、部品の取り付け工数の増加を回避できる。
【0052】
スライド部材3は成形材等により略L字形に形成されており、L字形のコーナー部に傾斜部3bを有すると共に、L字形の奥側の辺がストッパー部3cとなっている。また、L字形の手前側の長辺の奥側に排出バネ保持溝3eと角穴部3dを有し、長辺の手前側にはハートカム溝3aを有する。
【0053】
傾斜部3bはカード11が正しい方向で挿入されたときにカード11の傾斜面11aと当接する。また、ストッパー部3cはカード11の奥側の端面と当接し、挿入時にはカード11により押し込まれ、排出時にはストッパー部3cがカード11を押し出す。
【0054】
ハートカム溝3aは、閉じた環状に連続する溝形状で、ラッチピン5が溝内を一方向にのみ移動するように段差が溝内に形成されている。この溝部3aを更に詳しく述べると、溝部3aは、スライド部材3が挿入方向に移動するときにラッチピン5の一方端が通過する挿入用溝経路と、スライド部材3が排出方向に移動するときにラッチピン5の一方端が通過する排出用溝経路と、挿入用溝経路と排出用溝経路を接続する略Vの字形状のロック用溝経路を有し、このロック用溝経路にはスライド部材3がロック状態となるときにラッチピン5を保持するロック壁部3mが形成されている。
排出バネ保持溝3eには排出バネ6が挿入され、排出バネ6の一端が排出バネ保持溝3eの壁部を押すことによりスライド部材3を排出方向に付勢する。また角穴部3dには保持バネ4の系止部4cが保持される。
【0055】
排出バネ6はバネ用ステンレス鋼線等からなる圧縮バネで、ハウジング1の内壁と排出バネ保持溝3eの壁部の間で圧縮されることにより、スライド部材3を排出方向に付勢する。
【0056】
ラッチピン5はバネ用ステンレス鋼線等で、直線状の中間部の両端がL字状に屈曲した略コの字状に形成されている。ラッチピン5の一端側はハートカム溝3aに移動可能に係合し、他端側はハウジング1の丸穴部1cに回転可能に保持されており、スライド部材3がロック位置に来たときに、ラッチピン5はハートカム溝3aのロック壁部3mに当接し、排出バネ6の付勢に抗してスライド部材3をロック位置に保持する。
【0057】
保持バネ4は金属板等で略板状に形成され、一端に突出部4aを有し突出部4aの先端は更に延出し、規制部4bとなる。また他端は折り曲げられ、更に下方に延出し、係止部4cとなる。
【0058】
突出部4aはカード11の切り欠き部11bと係合し、カード11をスライド部材3に保持する。規制部4bはスライド部材3がロック位置にあるときに、カバー2の保持バネ規制突起部2cと対向し、ロック状態での保持バネ4の変形を規制し、ロック状態で突出部4aが切り欠き部11bから外れないようにする。係止部4cはスライド部材3の角穴部3dに挿入され、保持バネ4をスライド部材3に固定する。
【0059】
スイッチ部7は成型材等で略直方体に形成され、一端側に保持軸7cを有し、他端側の一側面に巻きバネ保持柱7bを有し、対向する側面に山形のカム部7aを有する。
【0060】
カム部7aは、カード11の書き込み保護用のノブ11cが書き込み不可の位置にある場合にノブ11cにより押し下げられる。また、ノブ11cが書き込み可の位置にあるときにはカム部7aはノブ11cとは当接せず、カム部7aの高さは変化しない。
【0061】
巻きバネ保持柱7bは後述する巻きバネ8を保持する。また、保持軸7cはハウジング1の穴部と係合し、スイッチ部7の押し下げ動作の回転軸となる。
【0062】
巻きバネ8は両端に腕部を有するねじりバネで、スイッチ部7を上方に付勢する。また、カード11の書き込み保護用のノブ11cによりカム部7aが押し下げられると、巻きバネ8も下げられ、このとき巻きバネ8の両側の腕部の角度が拡がり、両側のうで部がハウジング1の2つのスイッチ端子1g間を短絡する。
【0063】
次に、カード用コネクタにカード11が挿入されたときの各部品の挙動を説明する。
【0064】
カード用コネクタにカード11が入っていないときには、スライド部材3は排出バネ6により前方に押し出され、スライドガイド部1bの前方の壁部に当接して停止しており、カード用コネクタは排出状態となっている。
【0065】
カード11が挿入されると、最初に保持バネ4の突出部4aがカード11の傾斜面11aに当接し、保持バネ4はカード11から離れる方向に弾性変形させられる。
【0066】
カード11が更に挿入されると、やがて突出部4aとカード11の切り欠き部11bの位置が合致し、突出部4aが切り欠き部11bに係合し、保持バネ4がカード11に近づく方向に戻る。同時に、カード11の奥側の辺がスライド部材3のストッパー部3cに当接する。
【0067】
さらにカード11を挿入し続けると、カード11の奥側の辺とストッパー部3cが当接しているので、スライド部材3は排出バネ6の付勢に抗しながら奥側に押し込まれ、ハートカム溝3aと係合したラッチピン5の一端側はハートカム溝3aの中を移動する。やがてスライド部材3の後端面がハウジング1の奥側の壁の内壁に当接し、スライド部材3が停止しカード11の挿入が完了する。
【0068】
この後、カード11への挿入力が取り除かれると、スライド部材3は排出バネ6により排出方向に押し戻されるが、ハートカム溝3aと係合したラッチピン5の一端側は挿入時とは異なる経路にてハートカム溝3aの中を戻り、ラッチピン5はハートカム溝3aのロック位置用の凹壁部に保持される。
【0069】
ラッチピン5の他端側はハウジング1の丸穴部1cに保持されているので、ラッチピン5の一端側がハートカムのロック位置用の凹壁部に保持されことによりスライド部材3はロック位置に固定され、カード用コネクタはロック状態となる。
【0070】
図4はカード11が挿入されたロック状態にあるカード用コネクタの外観斜視図で、図5は保持バネ規制突起部2c付近の拡大図である。なお、説明のために図4および図5では保持バネ規制突起部2c付近のカバー2の上面の一部を削除して表示している。
【0071】
スライド部材3がスライド移動しカード用コネクタがロック状態になると、スライド部材3の移動に伴い、スライド部材3に組み込まれた保持バネ4も移動し、図4および図5に示すように、保持バネ4の規制部4bとカバー2の保持バネ規制突起部2cが僅かな隙間を持って対向する。
【0072】
スライド部材3がロック位置にあるときにカード11を無理に引き抜こうとすると、カード11の切り欠き部11bに係合している保持バネ4の突出部4aが飛び出そうとし、保持バネ4はカード11から離れる方向に弾性変形しようとする。しかし、保持バネ4の規制部4bとカバー2の保持バネ規制突起部2cには僅かな隙間しかないため、保持バネ4はごく僅かしか開放方向に変形できず、突出部4aは切り欠き部11bに係合したままとなり、カード11はスライド部材3から外れない。
【0073】
これをハードロック状態と呼称し、この状態ではカード11をスライド部材3から抜くことはできない。これによりロック状態で使用者が誤ってカード11を直接引き抜く等の事故を防止することができる。
【0074】
次に、図6から図7を参考に、カード11が挿入されロック状態となっているカード用コネクタが、落下等により排出方向に衝撃を受けた場合の挙動を説明する。
図6は本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの板バネ部2a付近を示す外観斜視図である。
また、図7は図6のB−B断面図で、図7(a)はスライド部材3がロック位置に保持されている状態を示し、図7(b)はスライド部材3がロック位置に保持されている状態で、ラッチピン5の両端に圧縮する方向の力がかかり、ラッチピン5が撓み持ち上がった状態を示す。
【0075】
ロック状態で、カード11に排出方向の強い衝撃がかかると、カード11は排出方向に移動しようとするが、前述の通り、カード11とスライド部材3との係合が維持されたハードロック状態となっているため、カード11はスライド部材3を一緒に排出方向に移動させようとする。
しかし、スライド部材3のハートカム溝3aのロック位置用の凹壁部とラッチピン5の一端側が係合しており、ラッチピン5の他端側がハウジング1の丸穴部1cに保持されているため、スライド部材3は移動できず、ラッチピン5の両端には圧縮する方向の力がかかる。
【0076】
ラッチピン5は略コの字状をしているため、両端が圧縮されると中間部が撓んで両端部が傾斜し、最悪の場合にはラッチピン5がハートカム溝3aから離れる方向に持ち上げられる。
【0077】
しかし、本発明の実施の形態に係るカード用コネクタでは、図6に示すように板バネ部2aの基端部2e付近に逃げ部2bを設けており、図7の(a)に示すように、板バネ部2aの根元付近ではラッチピン5の上方が逃げ部2bにより開放されている。
【0078】
したがって、スライド部材3でラッチピン5が排出方向に強く押され、ラッチピン5が撓みハートカム溝3aから持ち上がった場合でも、図7の(b)に示すように、板バネ部2aの基端部2eとラッチピン5は接触せず、板バネ部2aの自由端部2fが押し上げられるのみである。
【0079】
そのため、板バネ部2aに局部的な変形は起きないので板バネ部2aの塑性変形は発生せず、カード挿排機能は維持される。
【0080】
以上より、本発明の実施の形態に係るカード用コネクタでは、落下等によりカード11にカード排出方向の強い力がかかっても、板バネ部2aが塑性変形することを防止できるので、カード挿入、排出への影響を低減でき、コネクタ内へのカードのロックおよびロック解除を引き続き行うことができる。そのため、カード用コネクタの耐衝撃性を向上させることが可能となる。
【0081】
なお、上記の実施の形態では、板バネ部2aはカバー2の一部として説明したが、板バネ部を別部品としてカバー2に固定しても同様な効果が得られる。また、カバー2とは別部品からなる板バネ部取り付け部品を支持部材として使用してもよく、さらには板バネ取り付け部品と板バネを一体としても同様な効果が得られる。
【0082】
<変形例>
本発明の実施の形態にかかわる第1の変形例を、図8の(a)および(b)を参照して説明する。なお、実施の形態と同一の構成については、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0083】
図8の(a)に示す本発明の実施の形態にかかわる第1の変形例では、板バネ部2aの基端部2eを、ラッチピン5のハウジング1の丸穴部1cに回転可能に保持された他端側とし、板バネ部2aの自由端部2fを、ラッチピン5のラッチピン5の一端側はハートカム溝3aに移動可能に係合した一端側としてカバー2に形成されている。基端部2eに隣接した逃げ部2b内のラッチピン5の上方となる位置にラッチピン5の他端側のストッパー2dを設け、またラッチピン5の一端側のカバー2の開口部の一辺をラッチピン5の一端側のストッパーとした。
【0084】
ラッチピン5の他端側は丸穴部1cと係合しながら回転するため、他端側の高さは変化しない。したがってラッチピン5の他端側のストッパー2dは、ラッチピン5の上面のごく近傍とすることが可能である。これに対し、ラッチピン5の一端側は、一端側の先端がハートカム溝3aの底部と当接するため、ハートカム溝3a内を移動する際に高さが変化する。このため、ラッチピン5の一端側のストッパーは、他端側のストッパー2dよりラッチピン5との間隔を広めとする必要があり、ストッパー2dより高い位置にあるカバー2をラッチピン5の一端側のストッパーとすると好適である。
【0085】
なお、逃げ部2b内に設けたラッチピン5の他端側のストッパー2dは、逃げ部2bの一辺の一部を延出し、のち下方に折り曲げ更に水平に折り曲げ、図8の(b)に示すように、断面形状で略Z字形状の突出部とし、ストッパー2dの最下面は板バネ部2aの下面よりラッチピン5に近接している。
【0086】
これらの、逃げ部2b内に設けたストッパー2dおよびカバー2によるストッパーにより、ラッチピン5の一端側および他端側の持ち上がりを規制することができる。また、ラッチピン5が撓んだ場合でもラッチピン5は板バネ部2aの自由端部2fと接触するため、基端部2eが局部的な変形をすることがなく、板バネ部2aが塑性変形することを防止できる。従って、カード挿入、排出への影響を低減でき、コネクタ内へのカードのロックおよびロック解除を引き続き行うことができる。そのため、カード用コネクタの耐衝撃性を向上させることが可能となるという本願発明の効果を奏する。
【0087】
本発明の実施の形態にかかわる第2の変形例を、図9の(a)および(b)を参照して説明する。なお、実施の形態と同一の構成については、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0088】
図9の(a)に示す本発明の実施の形態にかかわる第2の変形例では、板バネ部2aの基端部2eを幅広とし、板バネ部2aの基端部2eの幅の略中央に開口部を設け逃げ部2bとし、逃げ部2bの一部にラッチピン5の他端側のストッパー2dを設けた。また、カバー2の開口部の一辺をラッチピン5の一端側のストッパーとした。
【0089】
逃げ部2b内のストッパー2dは、逃げ部2bの一辺の一部を延出し、のち下方に折り曲げ更に水平に折り曲げ、図9の(b)に示すように、断面形状で略Z字形状の突出部とし、ストッパー2dの最下面は板バネ部2aの下面よりラッチピン5に近接している。
【0090】
これによりラッチピン5の一端側および他端側の持ち上がりを規制できると共に、板バネ部2aの基端部2eがラッチピン5を跨ぐ形状となるため、ラッチピン5の左右に板バネ部2aの弾性変形領域ができ、板バネはねじれずに安定してラッチピン5を付勢できる。そのため、板バネ部2aの塑性変形を防止することができ、カード挿入、排出への影響を低減できるので、カード用コネクタの耐衝撃性を向上することができる。
【0091】
本発明の実施の形態にかかわる第3の変形例を、図10の(a)および(b)を参照して説明する。なお、実施の形態と同一の構成については、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0092】
図10の(a)に示す本発明の実施の形態にかかわる第3の変形例では板バネ部2aの基端部2eを幅広とし、板バネ部2aの基端部2eの幅の中間に開口部を設け逃げ部2bとした。これにより、板バネ部2aの基端部2eがラッチピン5を跨ぐ形状となり、ラッチピン5の左右に板バネ部2aの弾性変形領域ができるため、板バネはねじれずに安定してラッチピン5を付勢できる。そのため、板バネ部2aの塑性変形を防止することができ、カード挿入、排出への影響を低減できるので、カード用コネクタの耐衝撃性を向上することができる。
【0093】
また、本発明の実施の形態にかかわる第3の変形例では図10の(b)に示すように、板バネ部2aの基端部2eの近傍のカバー2にバーリング加工等の絞り加工等にてラッチピン5の他端側のストッパー2dを形成し、カバー2の開口部の一辺をラッチピン5の一端側のストッパーとした。
【0094】
これによりラッチピン5の一端側および他端側の持ち上がりを規制できると共に、ラッチピン5の他端側のストッパー2dを板バネ部2aの基端部2e以外のカバー2に設けたことにより、逃げ部2bの幅を最小限にする事ができ、板バネ部2aの基端部2eの幅を小さくすることができ、小型化に有効である。
【0095】
なお、上記の本発明の実施の形態にかかわる第1の変形例から第3の変形例では、カバー2の一部を形成してストッパー2dとしたが、ストッパーは別部品としても良く、またはカバー2以外の部品にストッパーを固定しても良い。
【符号の説明】
【0096】
1 ハウジング
1a 挿入口
1b スライドガイド部
1c 丸穴部
1d 接続端子
1e 外部端子
1f 窪み部
1g スイッチ端子
2 カバー(支持部材)
2a 板バネ部(押さえバネ)(板バネ)
2b 逃げ部
2c 保持バネ規制突起部
2d ストッパー
2e 基端部
2f 自由端部
3 スライド部材
3a ハートカム溝
3b 傾斜部
3c ストッパー部(ストッパー)
3d 角穴部
3e 排出バネ保持溝
4 保持バネ
4a 突出部
4b 規制部
4c 系止部
5 ラッチピン
6 排出バネ(付勢部材)
7 スイッチ部
7a カム部
7b 巻きバネ保持柱
7c 保持軸
8 巻きバネ(付勢部材)
11 カード(接続対象物)
11a 傾斜面
11b 切り欠き部
11c ノブ
11d パッド
11e カード挿入方向
11f カード排出方向
101 ハウジング
102 カバー
102a 板バネ部
103 スライド部材
103a ハートカム溝
105 ラッチピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続対象物を収容するハウジングと、
前記ハウジングに接続対象物を装着する方向と接続対象物を排出する方向とに移動可能なスライド部材と、
前記スライド部材を排出方向に付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力に抗して前記スライド部材を接続対象物装着位置に選択的に保持するロック機構とを有し、
該ロック機構は、前記スライド部材に設けられたカム溝と、一端側が前記カム溝内のロック位置と解除位置とに移動し他端側が前記ハウジングに軸支されたラッチピンと、前記ラッチピンを前記カム溝に付勢する押さえバネとを備えてなるカード用コネクタにおいて、
前記押さえバネは、基端部と自由端部とを有し、前記基端部は前記ラッチピンと離間して設けられた支持部材に固定され、前記自由端部は前記ラッチピンを付勢しており、前記ラッチピンが前記支持部材に近接する方向に持ち上がったときに前記ラッチピンが前記押さえバネの前記基端部を塑性変形させないように、前記基端部に逃げ部が設けられていることを特徴とするカード用コネクタ。
【請求項2】
前記押さえバネは片持ちの板バネからなり、該板バネの支持側である前記基端部を前記ラッチピンの前記他端側に設け、該板バネの前記自由端部を前記ラッチピンの前記一端側に向けたことを特徴とする請求項1に記載のカード用コネクタ。
【請求項3】
前記支持部材の一部により前記板バネを形成したことを特徴とする請求項2に記載のカード用コネクタ。
【請求項4】
前記逃げ部は前記板バネの前記基端部に隣接する開口からなることを特徴とする請求項2または3に記載のカード用コネクタ。
【請求項5】
前記逃げ部は前記板バネの前記基端部に開口した穴であることを特徴とする請求項2または3に記載のカード用コネクタ。
【請求項6】
前記ラッチピンの持ち上がりを規制するストッパーを、前記板バネの前記基端部と前記ラッチピンとの中間に設けたことを特徴とする請求項4または5に記載のカード用コネクタ。
【請求項7】
前記ラッチピンの他端側の持ち上がりを前記ストッパーで規制し、前記ラッチピンの一端側の持ち上がりを前記支持部材の一部で規制することを特徴とする請求項6に記載のカード用コネクタ。
【請求項8】
前記ストッパーは前記支持部材の一部により形成されていることを特徴とする請求項7に記載のカード用コネクタ。
【請求項9】
前記ストッパーは前記逃げ部に突出して設けられていることを特徴とする請求項8に記載のカード用コネクタ。
【請求項10】
前記支持部材は前記ハウジングと係合するカバーであることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のカード用コネクタ。
【請求項11】
前記スライド部材が前記接続対象物装着位置に保持されているとき、前記接続対象物が前記スライド部材に保持されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のカード用コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−164504(P2012−164504A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23485(P2011−23485)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】