説明

カーボンナノチューブ複合材料および導電材料

【課題】フッ素樹脂以外のマトリックスで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料を実現すること。また、フッ素樹脂以外のマトリックスで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料を備える導電材料を実現すること。
【解決手段】本発明のカーボンナノチューブ複合材料は、カーボンナノチューブ、フッ素を含有する化合物と、フッ素を含有する化合物以外の樹脂又はエラストマーからなるマトリックス中に分散してなるカーボンナノチューブ複合材料であって、前記フッ素を含有する化合物がマトリックス中に島状に分散してなる。また、本発明のカーボンナノチューブ複合材料において、フッ素樹脂以外のマトリックスの溶解度パラメーターが18以下19以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブをマトリックス中に分散させたカーボンナノチューブ複合材料に関する。また、本発明は、そのカーボンナノチューブ複合材料を備える導電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマフォームおよびエラストマーに導電性フィラーを配合した、カーボンナノチューブ複合材料は各種の用途、たとえば、電子商品、コンピュータ、医用機器などにおいて、電磁遮蔽および/または静電気放散をさせるためのガスケットやシールとして、広く用いられている。従来は、金属やカーボンブラックなどの微粒子を使用して電気導電性を与えていた。
【0003】
しかしながら、このような従来の導電フィラーは、微粒子形状のものが多く、導電性をマトリックスに付与するためには、添加量を多くする必要があった。導電性フィラーの添加量を多くすると、カーボンナノチューブ複合材料は、例えば剛直な材料となり、マトリックスの本来もっている特性が損なわれるという問題があった。また、従来の微粒子状の導電性フィラーは、ひずみなどの応力が繰り返し与えられると、マトリックスの変形に対して、導電性フィラーが完全に追随できないため、マトリック中の導電性フィラーの導電路が徐々に不可逆に構造変化してしまい、導電性が劣化してしまうという問題があった。
【0004】
電子部品の小型化と、プラスチック部品の使用が進むにつれて、特に民生用電子機器では、より高導電性を有するカーボンナノチューブ複合材料が必要とされてきている。そこで、導電性に優れたカーボンナノチューブを導電性フィラーとして着目されている。
【0005】
例えば、カーボンナノチューブ、イオン性液体、及びイオン性液体と混和性を有するフッ素樹脂からなるカーボンナノチューブゴム組成物を含むカーボンナノチューブ複合材料は、電子回路の構成材料として用いるのに十分な導電性と通常のゴム材料にも劣らない弾性を有し、フレキシブルエレクトロニクスの実現が可能となる伸長可能なエレクトロニクスデバイスを与えることのできるカーボンナノチューブフッ素ゴム、カーボンナノチューブフッ素ペースト、などの導電性材料が開発された(非特許文献1)。
【0006】
しかし、これらの従来技術によるカーボンナノチューブ複合材料は、マトリックスがフッ素樹脂に限定されるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tsuyoshi Sekitani et al, A Rubberlike Stretchable Active Matrix Using Elastic Conductors, SCIENCE, 2008.9.12, vol.321, p.1468-1472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決し、フッ素樹脂以外のマトリックスで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料を実現することを課題とする。また、フッ素樹脂以外のマトリックスで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料を備える導電材料を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によると、カーボンナノチューブと、フッ素を含有する化合物とをフッ素を含有する化合物以外の樹脂又はエラストマーからなるマトリックス中に分散してなるカーボンナノチューブ複合材料であって、前記フッ素を含有する化合物がマトリックス中に島状に分散してなることを特徴とするカーボンナノチューブ複合材料が提供される。
【0010】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記フッ素樹脂以外のマトリックスの溶解度パラメーターが18以下19以上である。
【0011】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記フッ素を含有する化合物の配合量は、前記カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合の0.1質量%以上30質量%以下である。
【0012】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記カーボンナノチューブの配合量は、前記カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合の0.001質量%以上70質量%以下である。
【0013】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記フッ素を含有する化合物の配合量は、前記カーボンナノチューブの配合量の0.2倍以上5倍以下である。
【0014】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記フッ素を含有する化合物が相溶化剤である。
【0015】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記フッ素を含有する化合物がフッ素樹脂である。
【0016】
前記カーボンナノチューブ複合材料は波長633nmのラマン分光分析で、110±10cm−1、190±10cm−1、及び200cm−1以上の領域それぞれにピークが観測される。
【0017】
前記カーボンナノチューブ複合材料が1S/cm以上の導電性を有するカーボンナノチューブを含み、かつ前記カーボンナノチューブ複合材料自身の導電性が0.01S/cm以上である。
【0018】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記カーボンナノチューブの長さは、0.1μm以上である。
【0019】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記カーボンナノチューブの平均直径は、1nm以上30nm以下である。
【0020】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記カーボンナノチューブの蛍光X線を用いた分析による炭素純度が90重量%以上である。
【0021】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記カーボンナノチューブは、共鳴ラマン散乱測定法による測定において得られるスペクトルで、1560cm−1以上1600cm−1以下の範囲内での最大のピーク強度をG、1310cm−1以上1350cm−1以下の範囲内での最大のピーク強度をDとしたときに、G/D比が3以上ある。
【0022】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記マトリックスは、エラストマーである。
【0023】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、負荷をかける前の抵抗Rに対して、10%伸びにおける100回の繰り返し応力の負荷後の電気抵抗Rの比R/Rが3以下である。
【0024】
前記カーボンナノチューブ複合材料は、伸び10%で0.01S/cm以上の導電性を備える。
【0025】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記エラストマーは、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、クロロブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴム、エポキシ化ブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、ポリスルフィドゴムなどのエラストマー類、および、オレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、スチレン系の熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を含有する。
【0026】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記マトリックスは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である。
【0027】
前記カーボンナノチューブ複合材料において、前記熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1つからなる。
【0028】
また、本発明の一実施形態によると、前記何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料を備えることを特徴とする導電材料が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、フッ素樹脂以外のマトリックスで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料を実現することができる。また、本発明によると、フッ素樹脂以外のマトリックスで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料を備える導電材料を実現することができる。本発明のカーボンナノチューブ複合材料は、カーボンナノチューブが分散しやすいフッ素を含有する化合物を添加しているため、フッ素樹脂以外のマトリックスで、少ないカーボンナノチューブの配合量で、高い導電性、及び優れた力学特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の製造に用いる製造装置の模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料の製造過程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施例に係るカーボンナノチューブ複合材料の断面のEDXでの観察結果を示す図であり、(a)は炭素(C)の分布を示し、(b)はフッ素(F)の分布を示す。
【図5】本発明の一実施例に係るカーボンナノチューブ複合材料の特性をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明にカーボンナノチューブ複合材料および導電材料について説明する。本発明のカーボンナノチューブ複合材料および導電材料は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0032】
上述したように、従来のカーボンナノチューブ複合材料は、マトリックスがフッ素樹脂に限定され、カーボンナノチューブ複合材料が発揮しうる特性に制約があった。このようなマトリックスの制約を解消し、カーボンナノチューブ複合材料により多様な特性を付与するために、マトリックスに他の材料を用いることを検討した。しかし、マトリックスとして他の材料を用いた場合、カーボンナノチューブ(以下、CNTという)に対する親和性がフッ素樹脂に及ばず、母材が有する特性を十分に発揮するのが難しい。
【0033】
本発明者は、鋭意検討した結果、カーボンナノチューブ複合材料において、フッ素樹脂以外(すなわち、フッ素を含有する化合物以外)のマトリックスに、フッ素樹脂(すなわち、フッ素を含有する化合物)を添加することにより、CNTとマトリックスとの親和性を向上させる方法を想到した。すなわち、本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料は、フッ素樹脂を母剤として用いるのではなく、フッ素を含有する化合物を相溶化剤として用いることにより、フッ素樹脂以外のマトリックス中にCNTを良好に分散させることで、力学的特性に優れて、高導電性のカーボンナノチューブ複合材料に付与することを特徴とする。
【0034】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料は、フッ素を含有する化合物を相溶化剤として用いることを特徴としている。フッ素を含有する化合物を添加すると、フッ素とCNTは親和性が高いため、フッ素樹脂以外のマトリックス中に、CNTを良好に分散させることができ、高導電性のカーボンナノチューブ複合材料を得る事ができる。
【0035】
[フッ素を含有する化合物]
本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料に用いるフッ素を含有する化合物としては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフロライド、ヘキサフルオロプロピレンの重合体、もしくはこれらの共重合体を好適に用いることができ、特に、フッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
本発明に係るカーボンナノチューブ複合材料に用いるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体のいずれか、もしくはこれらの混合物、いずれも好適に用いることができる。
【0037】
図1は、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100の模式図であり、カーボンナノチューブ複合材料100の一部を切り取り、内部を露出させた図である。本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100は、CNT10と、フッ素を含有する化合物20とをフッ素樹脂以外のマトリックス30中に分散してなる。本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100においては、フッ素を含有する化合物20がマトリックス30中に島状に分散してなることが好ましい。
【0038】
ここで、島状の分散とは、フッ素を含有する化合物20とマトリックス30との2相領域において、フッ素を含有する化合物20とマトリックス30とが相分離構造を形成し、マトリックス30中に少量のフッ素を含有する化合物20が不定形のドメインを形成する。カーボンナノチューブ複合材料100では海と島の様な構造(海島構造)を形成する状態をいう。後述するように、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、フッ素を含有する化合物20とマトリックス30との分散は、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectroscopy:以下、EDXという)により観察することができる。
【0039】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、フッ素を含有する化合物20が島状の構造になるのは、マトリックス30との溶解度パラメーター(Solubility Parameter:以下、SP値という)が異なるため、フッ素を含有する化合物20とマトリックス30とが相分離するためである。CNT10とフッ素を含有する化合物20とは親和性が高く、CNT10とフッ素を含有する化合物20とは相溶する。したがって、フッ素を含有する化合物をマトリックスとして用いた場合、CNTはマトリックス中に不均一に分散する。このため、CNTによる導電路を形成するためには、マトリックスに対して相当量のCNTを添加する必要がある。一方、親和性の低い母材をマトリックスとして用いると、CNTはマトリックスに非相溶となるため、CNTはマトリックス中で凝集し、導電路を形成するは困難となる。
【0040】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100においては、図1に示したように、島状に分散したフッ素を含有する化合物20がCNT10に相溶するため、CNT10は島状に分散したフッ素を含有する化合物20で接触効率が高まり、マトリックス30全体に導電路のネットワークを形成して、高い導電性を発揮することができる。すなわち、カーボンナノチューブ複合材料100においては、CNT10はマトリックス30の海部と、フッ素を含有する化合物20の島部とに存在する。フッ素を含有する化合物20を相溶化剤として用いることにより、マトリックス30中に島状にCNTを分散させることができ、少ない添加量のCNT10で高い導電性を発揮することができる。これは,フッ素を含有する化合物20はCNT10と親和性が高いために、CNT10がフッ素を含有する化合物により形成される島部に集まり、互いに接触することにより導電性が高まるためである。
【0041】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100においては、フッ素を含有する化合物20がマトリックス30と海島構造を形成しており、フッ素を含有する化合物20により形成される島のサイズは10μm以上200μm以下である。各々のフッ素を含有する化合物20の島同士の間隔は10μm以上500μm以下である。このようなフッ素を含有する化合物20により形成される島は、カーボンナノチューブ複合材料100の断面のEDXにより観察される。
【0042】
[EDX]
EDXには、まず、カーボンナノチューブ複合材料100をクライオミクロトーム(−70℃)で切削して、平滑な表面の断面を得る。このカーボンナノチューブ複合材料100の平滑な表面をEDX(Bruker, Hitachi)により観察する。カーボンナノチューブ複合材料100の断面をEDXにより解析すると、炭素(C)由来のピークがカーボンナノチューブ複合材料100の断面全体にわたり検出される。この炭素のピークは、カーボンナノチューブ複合材料100に含有されるCNT10、フッ素を含有する化合物20およびマトリックス30に由来する。また同時に、フッ素(F)由来のピークがカーボンナノチューブ複合材料100の断面に島状に検出される。このフッ素のピークは、カーボンナノチューブ複合材料100に含有されるフッ素を含有する化合物20に由来する。したがって、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、フッ素を含有する化合物20が島状に分散していることを、EDXにより確認することができる。
【0043】
このように、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、フッ素を含有する化合物20はマトリックス30に比べCNT10と熱力学的な親和性が高く、CNT10はマトリックス30よりもフッ素を含有する化合物20に集まる傾向にある。そのため、フッ素ゴムを含有する化合物20が形成する中で、CNT10は互いに接触する。これにより、カーボンナノチューブ複合材料100の体積導電率はフッ素ゴムを含有する化合物20を含む場合は、含まない場合に比べて体積導電率が向上する。
【0044】
[フッ素を含有する化合物の配合量]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、フッ素を含有する化合物の配合量は、カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合の下限は0.1質量%、好ましくは、0.5質量%、さらに好ましくは1質量%であり、上限は30質量%、好ましくは20質量%、さらに好ましくは15質量%である。このような範囲でフッ素を含有する化合物を含有するカーボンナノチューブ複合材料100は、フッ素を含有する化合物以外のマトリックス中に、CNTを良好に分散させることができる。これにより、これまで十分な導電性の発現が困難であったフッ素を含有する化合物以外のマトリックス中においても、導電路を形成して、カーボンナノチューブ複合材料に高い導電性を付与することができる。また、フッ素を含有する化合物以外のマトリックスが備える特性を、カーボンナノチューブ複合材料に付与することができる。
【0045】
[フッ素を含有する化合物の配合量とCNTの配合量の比]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、フッ素を含有する化合物の配合量とCNTの配合量の比の下限は0.2、好ましくは0.3、さらに好ましくは0.5であり、上限は5、好ましくは3、さらに好ましくは2である。このような範囲でCNTを含有するカーボンナノチューブ複合材料100は、フッ素ゴム以外のマトリックス中に形成されるフッ素を含有する化合物の島部にCNTを良好に分散させることが出来る。これにより、これまで困難であったフッ素を含有する化合物以外のマトリックス中においても、導電路を形成して、カーボンナノチューブ複合材料に高い導電性を付与することができる。
【0046】
[マトリックスの溶解度パラメーター]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、溶解度パラメーターが18以下のフッ素を含有する化合物以外のマトリックス、または溶解度パラメーターが19以上のフッ素を含有する化合物以外のマトリックスが好ましい。これは、フッ素を含有する化合物の溶解度パラメーターが18.5であり、海島構造の形成には一般に溶解度パラメーターが0.5以上、好ましくは1.0以上離れている必要が有るためである。溶解度パラメーターは原子団寄与法、もしくは分子シミュレーションによる推算により決定することができる。
【0047】
フッ素を含有する化合物は、フッ素を含有する化合物以外のマトリックスに海島構造を形成する。このとき添加量の影響により、フッ素を含有する化合物は島を、フッ素を含有する化合物以外のマトリックスは海を形成する。フッ素を含有する化合物はその溶解度パラメーターの影響によりCNT10と親和性が高いために、CNT10はフッ素を含有する化合物が形成する島領域を経由することによりCNT同士の接触確率が増加し、結果的に導電パスが多く形成される。そのためフッ素を含有する化合物を添加することで、導電性の向上の効果が大きい。
【0048】
[CNTの配合量]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、CNTの配合量は、カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合の0.001質量%以上70質量%以下であることが好ましい。CNTの配合量が0.001質量%より少ないと、CNTの導電路の形成が困難となり、70質量%より多いと、マトリックスが有する特性を十分に付与できない。
【0049】
[CNTの特性]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に用いるCNTの特性は、カーボンナノチューブ複合材料からCNTのみを抽出し、例えばバッキペーパーにして評価することができる。抽出は、溶媒を用いてマトリックスを溶解するなどの公知の手段を適宜用いることができる。本発明のカーボンナノチューブ複合材料100に用いるCNTの長さは、0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。このようなCNTは、アスペクト比が大きく、効率良く互いに接触するため、少ないCNTの添加量で連続的な導電路を形成することができる。
【0050】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に用いるCNTの平均直径は、1nm以上30nm以下の範囲であり、好ましくは1nm以上10nm以下の範囲である。平均直径が小さすぎると、凝集性が強すぎて分散しない。逆に平均直径が大きすぎると、CNT同士の接触抵抗が増加するため、高導電性を有する導電路の形成が阻害される。なお、本発明のカーボンナノチューブ複合材料100に用いるCNTの平均直径は、マトリックスに分散させる前のカーボンナノチューブ配向集合体の透過電子顕微鏡(以下、TEMという)画像から一本一本のCNTの外径、すなわち直径を計測してヒストグラムを作成し、このヒストグラムから求める。
【0051】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に用いるCNTの蛍光X線を用いた分析による炭素純度が90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上であり、更に好ましくは98重量%以上である。このような高純度のCNTは導電路形成に寄与が少ない不純物の量が少ないため、少ない添加量で高導電性を得るのに好適である。なお、炭素純度とは、CNTの重量の何パーセントが炭素で構成されているかを示し、本発明のカーボンナノチューブ複合材料100に用いるCNTの炭素純度は、蛍光X線による元素分析から求める。
【0052】
[ラマン分光分析]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100は、波長633nmのラマン分光分析で、110±10cm−1、190±10cm−1、及び200cm−1以上の領域、それぞれにピークが観測されることが好ましい。このようなラマンピークを有するカーボンナノチューブ複合材料100は、大きく異なる直径を有するCNT10から構成される。大きく異なる直径を有するCNTはCNT間の最密にパッキングすることができず、CNT間の相互作用が比較的弱く、極めて良好な分散性を示す。そのため、超音波などで、CNTを切断せずとも、CNTをマトリックス中に容易に分散させることができるため、CNTが本来持っている特性を十分にマトリックスに付与することができる。すなわち、このようなCNTをマトリックス中に分散させると、CNTに与える損傷を最小限に抑えることができるため、高い導電性を有するカーボンナノチューブ複合材料を得ることができる。
【0053】
[共鳴ラマン散乱測定のG/D比]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、CNT10は、共鳴ラマン散乱測定法による測定において得られるスペクトルで、1560cm−1以上1600cm−1以下の範囲内での最大のピーク強度をG、1310cm−1以上1350cm−1以下の範囲内での最大のピーク強度をDとしたときに、G/D比が3以上あることが好ましい。このような高いG/D比を備えるCNT10は、導電性が向上し、高い導電性を与えることができる。
【0054】
[マトリックス]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100において、マトリックス30はエラストマーが好ましい。エラストマーは、優れた変形能を有するため好ましい。本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に適用可能なエラストマーとしては、柔軟性、導電性、耐久性の点で、例えば、エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類、オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)等の熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上が挙げられる。また、これらの共重合体、変性体、および2種類以上の混合物などであってもよい。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)等が好ましい、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に用いるエラストマーは、上記の群より選ばれる一種以上を架橋しても良い。
【0055】
また、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に用いるマトリックスは、樹脂を用いてもよい。本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100に適用可能な樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂のどちらも使用することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、および、2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。また、更に耐衝撃性向上のために、上記熱硬化性樹脂にエラストマーもしくはゴム成分を添加した樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなど、フッ素を含む化合物以外のフッ素系樹脂であってもよい。
【0056】
架橋剤としては、上記のエラストマーの種類に応じて異なるが、例えば、イソシアネート基含有架橋剤(イソシアネート、ブロックイソシアネート等)、硫黄含有架橋剤(硫黄等)、過酸化物架橋剤(パーオキサイド等)、ヒドロシリル基含有架橋剤(ヒドロシリル硬化剤)、メラミン等の尿素樹脂、エポキシ硬化剤、ポリアミン硬化剤や、紫外線や電子線等のエネルギーによってラジカルを発生する光架橋剤等が挙げられる。これらは単独または二種以上で用いてもよい。
【0057】
なお、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100には、上述の成分以外に、例えば、イオン導電剤(界面活性剤、アンモニウム塩、無機塩)、可塑剤、オイル、架橋剤、架橋促進剤、老化防止剤、難燃剤、着色剤等を適宜用いてもよい。
【0058】
[カーボンナノチューブ複合材料の電気抵抗比]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100は、負荷をかける前の電気抵抗Rに対して、10%伸びでの100回の繰り返し応力の負荷後の電気抵抗Rの比R/Rが3以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2以下、さらに好ましくは1.5以下である。このような特性を有するカーボンナノチューブ複合材料は、繰り返し応力に対して優れた耐久性を発揮できる。R/Rの値にとくに下限はないが、繰り返し伸長で、10―3以上の値を得ることは技術的に困難である。
【0059】
[カーボンナノチューブ複合材料の導電性]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100は、1S/cm以上、より好ましくは10S/cm以上、さらに好ましくは50S/cm以上の導電性を有するCNTを含み、かつカーボンナノチューブ複合材料自身の導電性が0.01S/cm以上、より好ましくは0.1S/cm以上、さらいに好ましくは1S/cm以上である。このような導電率を有するCNTは、高導電性のカーボンナノチューブ複合材料を得るために好ましい。CNTの導電性の上限は特にないが、炭素の導電性である10S/cmを超えることは困難である。また、カーボンナノチューブ複合材料100の導電性の上限はとくにないが、炭素材料の導電性10S/cmを凌駕することはできない。
【0060】
また、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料100は、伸び10%で、好ましくは0.01S/cm以上、より好ましくは0.1S/cm以上、さらいに好ましくは1S/cm以上の導電性を有する。導電性の上限はとくにないが、炭素材料の導電性10S/cmを凌駕することはできない。
【0061】
[カーボンナノチューブ複合材料の用途]
本発明のカーボンナノチューブ複合材料は高導電性を備え、マトリックスの本来もっている特性が損なわれないため、導電材料等に用いることができる。
【0062】
[製造方法]
以下に、本発明のカーボンナノチューブ複合材料の製造方法について説明する。本発明のカーボンナノチューブ複合材料は、上述の特性を有するCNTと、フッ素を含有する化合物とをフッ素樹脂以外のマトリックス中に分散させて得る。
[CNTの製造]
本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いるCNTは、図2に示す製造装置500を用いた、化学気相成長法により製造することができる。本製造方法においては、原料ガスを含む第1ガスと、触媒賦活物質を含む第2ガスとを別々のガス供給管から供給し、加熱領域内の別々の配管により構成されたガス流路を流すことにより、触媒層の近傍に到達する前に原料ガスと触媒賦活物質とが混合して反応することなく供給し、触媒層の近傍で第1ガスと第2ガスとを混合して反応させて触媒層に接触させることができるため、非常に高効率で、通常は10分程度で失活してしまう成長を長時間連続的に行うことができるため、非常に長尺で、高純度の単層カーボンナノチューブ(以下、単層CNTという)を合成することができ、本発明の複合材料を得るために好適である。
【0063】
まず、触媒層503(例えばアルミナ−鉄薄膜)が予め成膜した基材501(例えばシリコンウエハ)が基材ホルダ505に載置され、合成炉510内には、第1ガス供給管541から第1ガス流路545を介して供給された雰囲気ガス(例えばヘリウム)が満たされている。触媒層503表面と第1ガス流路545および第2ガス流路547とは概して垂直に交わるように基材501を配設し、原料ガスが効率良く触媒に供給されるようにする。
【0064】
次いで第1ガス供給管541から第1ガス流路545を介して合成炉510内に還元ガス(例えば水素)を供給しながら、合成炉510内を所定の温度(例えば750℃)に加熱し、その状態を所望の時間保持する。
【0065】
この還元ガスにより、触媒層503が還元され、様々なサイズを有する微粒子になり、CNTの触媒として好適な状態に調整される。
【0066】
次いで第1ガス流路545からの還元ガスおよび雰囲気ガスの供給を所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガスと触媒賦活物質の各々を、合成炉510内に配設された互いに異なる配管から触媒層503の近傍のガス混合領域580に供給する。すなわち、原料ガス(例えばエチレン)と、雰囲気ガスを含む第1ガスを、第1ガス供給管541から第1ガス流路545を介して合成炉510内に供給し、触媒賦活物質(例えば水)を含む第2ガスを第2ガス供給管543から第2ガス流路547を介して合成炉510内に供給する。第1ガス流路545および第2ガス流路547から供給されたこれらのガスは、基材1の触媒層503表面に対して略平行方向に向いたガス流を形成した後に、触媒層503の近傍のガス混合領域580で混合し、所定量で、基材501上の触媒層503表面に供給される。
【0067】
ここで、第1ガス流路545を通過する間に第1ガスに含まれる原料ガスは分解反応が進み、CNTの製造に好適な状態となる。また、第2ガス流路547から供給されることで、原料ガスとは反応せずに所定量の触媒賦活物質がガス混合領域580に供給される。このように最適化された第1ガスと第2ガスとをガス混合領域580で混合して触媒層503に接触させるため、非常に高効率で、通常は10分程度で失活してしまう成長を長時間連続的に行うことができる。そのため、非常に長尺で、高純度の単層CNTから構成されるカーボンナノチューブ集合体(以下、CNT集合体という)を、基材501に被着した触媒層から高速にかつ高収量で効率良く製造できる。
【0068】
CNTの生産終了後、合成炉510内に残余する、第1ガスに含まれる原料ガス、第2ガスに含まれる触媒賦活物質、それらの分解物、または合成炉510内に存在する炭素不純物等がCNT集合体へ付着することを抑制するために、第1ガス流路545から雰囲気ガスのみを流す。
【0069】
冷却ガス環境下でCNT集合体、触媒、および基材501を、好ましくは400℃以下、より好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては、第2ガス供給管43から供給する不活性ガスが好ましく、特に安全性、経済性、およびパージ性などの点から窒素が好ましい。このようにして、本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いるCNTを製造することができる。
【0070】
〔基材(基板)〕
基材501(基板)とは、その表面にCNTを成長させる触媒を担持することのできる部材であり、最低限400℃以上の高温でも形状を維持できるものであれば適宜のものを用いることができる。
【0071】
基材501の形態としては、平板等の平面状の形態が、本発明の効果を用いて、大量のCNTを製造するために好ましい。
【0072】
〔触媒〕
触媒層503を形成する触媒としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、およびこれらの塩化物並びに合金や、これらがさらにアムミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化、または重層化したものでもよい。
【0073】
触媒の存在量は、これまでのCNT製造に実績のある範囲内であればよいが、例えば鉄やニッケルの金属薄膜を用いる場合、その厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がより好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0074】
〔還元ガス〕
還元ガスは、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つガスである。還元ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のある、例えば水素、アンモニア、水、およびそれらの混合ガス等を適用することができる。
【0075】
〔不活性ガス(雰囲気ガス)〕
化学気相成長の雰囲気ガス(キャリアガス)としては、CNTの成長温度で不活性であり、成長するCNTと反応しないガスであればよく、これまでのCNTの製造に実績のある不活性ガスが好ましく、窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、およびこれらの混合ガスが好適である。
【0076】
〔原料(原料ガス)〕
CNTの製造に用いる原料としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば、適宜な物質を用いることができる。原料ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、プロピレン、エチレン、ブタジエン、ポリアセチレン、アセチレンなどの炭化水素が好適である。
【0077】
〔触媒賦活物質の添加〕
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加する。触媒賦活物質の添加により、触媒の寿命を延長し、且つ活性を高め、結果としてCNTの生産効率向上や高純度化を推進することができる。触媒賦活物質としては、酸素もしくは、硫黄などの酸化力を有する物質であり、且つ成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であればよく、水、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、エーテル類、アルコール類が好ましいが、特に、極めて容易に入手できる水が好適である。
【0078】
〔触媒賦活物質および原料の条件〕
成長工程において触媒賦活物質と原料とを用いてCNTを製造する際には、(1)原料は炭素を含み酸素を含まず、(2)触媒賦活物質は酸素を含むことが、CNTを高効率で製造するのに好ましい。上述したように、原料ガスを含む第1ガスは第1ガス流路545を介して合成炉510内に供給し、触媒賦活物質(例えば水)を含む第2ガスは第2ガス流路547を介して合成炉510内に供給する。これにより、第1ガス流路545を通過する間に原料ガスは分解反応が進み、CNTの製造に好適な状態となる。また、第2ガス流路547から供給されることで、原料ガスとは反応せずに所定量の触媒賦活物質がガス混合領域580に供給される。このように最適化された第1ガスおよび第2ガスがガス混合領域580で混合して触媒層503に接触させることにより、非常に高効率で、通常は10分程度で失活してしまう成長を長時間連続的に行うことができる。そのため、非常に長尺で、高純度の単層CNTを合成することができ、本発明の複合材料を得るために好適である。
【0079】
〔反応温度〕
CNTを成長させる反応温度は、好ましくは400℃以上1000℃以下とする。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1000℃を超えると触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0080】
〔CNTの分散〕
次に、得られたCNT集合体を用いたカーボンナノチューブ複合材料の製造方法について図3を参照して説明する。CNT集合体を基材501から物理的、化学的あるいは機械的な方法を用いて剥離する(S101)。剥離方法としては、例えば電場、磁場、遠心力、および表面張力を用いて剥離する方法、基材501から機械的に直接剥ぎ取る方法、圧力や熱を用いて基板から剥離する方法などが適用可能である。また、CNT集合体をカッターブレードなどの薄い刃物を使用して基材501から剥ぎ取る方法や、真空ポンプを用いてCNT集合体を吸引し、基材501から剥ぎ取る方法が好ましい。
【0081】
剥離したCNT集合体に乾燥工程を実施する(S101)。乾燥工程を実施することで分散性が高まり、本発明に係わるカーボンナノチューブ複合材料を製造するために好適である。本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いるCNT集合体を構成するCNTは大気中に保存、搬送時に、CNTの間に容易に大気中の水分を吸着する。このように水分が吸着した状態では、水の表面張力により、CNT同士がくっついているため、CNTが非常にほどけにくくなり、マトリックス中での良好な分散性が得られない。そこで、分散工程の前にCNTの乾燥工程を実施することで、CNTに含まれる水分を除去し、分散媒への分散性を高めることができる。乾燥工程には、例えば、加熱乾燥や真空乾燥を用いることができ、加熱真空乾燥を好適に用いる。
【0082】
剥離したCNT集合体を分級工程により分級すると好ましい(S103)。分級工程は、CNT集合体の大きさを所定の範囲にすることで、均一なサイズのCNT集合体を得る工程である。基材501から剥離したCNT集合体は、サイズの大きな塊状の合成品も含まれる。これらのサイズの大きな塊状のCNT集合体は分散性が異なるため、安定した分散液の作成を阻害する。そこで、網、フィルター、メッシュ等を通過した、大きな塊状のCNT集合体を除外したCNT集合体だけを以後の工程に用いると、安定したカーボンナノチューブ分散液(以下、CNT分散液という)を得る上で好適である。
【0083】
分級したCNT集合体は、次の分散工程の前にプレ分散工程を実施することが好ましい(S105)。プレ分散工程とは、溶媒中にCNT集合体を攪拌して分散させる工程である。本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いるCNTは、後述するように、ジェットミルを用いた分散方法が好ましいが、プレ分散工程を実施することにより、ジェットミルにCNTが詰まるのを防止するとともに、CNTの分散性を高めることができる。プレ分散工程には、撹拌子を用いることが好ましい。
【0084】
プレ分散工程を施したCNT集合体の分散液に分散工程を施す(S107)。CNT集合体の分散液への分散工程には、剪断応力によりCNTを分散させる方法が好ましく、ジェットミルを用いるのが好ましい。特に、湿式ジェットミルを好適に用いることができる。湿式ジェットミルは、溶媒中の混合物を高速流として、耐圧容器内に密閉状態で配置されたノズルから圧送するものである。耐圧容器内で対向流同士の衝突、容器壁との衝突、高速流によって生じる乱流、剪断流などによりCNTを分散させる。湿式ジェットミルとして、例えば、株式会社常光のナノジェットパル(JN10、JN100、JN1000)を用いた場合、分散工程における処理圧力は、10MPa以上150MPa以下の範囲内の値が好ましい。また、本実施形態において、CNT集合体の分散工程には、スギノマシン社製のジェットミル(HJP-17007)を用いてもよい。
【0085】
このように分散させたCNT分散液は、CNTの優れた電気的特性や熱伝導性、機械的性質を維持しつつ、分散性が高く、安定した分散液を提供することができる。
【0086】
次に、相溶化剤としてフッ素を含有する化合物と、フッ素樹脂以外のマトリックスを溶媒に溶解させたマトリックス溶液を準備し、CNT分散液に添加して、十分に攪拌し、マトリックス中にCNTを分散させる(S109)。上述したように、本発明のカーボンナノチューブ複合材料においては、カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合、0.0001質量%以上5質量%以下、より好ましくは、0.005質量%以上2質量%以下となるように、CNT分散液とマトリックス溶液とを混合する。
【0087】
十分に混合した溶液をシャーレ等の型に流しこみ、室温で乾燥させることにより、カーボンナノチューブ複合材料を固化させる(S111)。このとき、混合溶液は、攪拌しながら乾燥させることが好ましい。攪拌せずに乾燥させると、密度の大きなCNTが分離してしまう。
【0088】
固化したカーボンナノチューブ複合材料を真空乾燥炉に入れて乾燥させて、溶媒を除去する(S113)。ここで、乾燥温度は、カーボンナノチューブ複合材料から溶媒を十分に除去可能で、且つ、マトリックスが劣化しない温度とする。従って、カーボンナノチューブ複合材料に用いるマトリックスにより変更可能であるが、例えば、80℃程度であれば、溶媒を十分に除去し、且つ、マトリックスを劣化させることはない。
【0089】
[溶媒]
本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いるCNTの分散媒及びマトリックスの溶解に用いる溶媒としては、マトリックスを溶解可能な有機溶媒であればよく、用いるマトリックスにより適宜選択することができる。例えば、トルエン、キシレン、アセトン、四塩化炭素等を用いることができる。特に、本発明のカーボンナノチューブ複合材料に用いる溶媒として、フッ素ゴム及びシリコーンゴムを含む多くのゴムが可溶であり、CNTの良溶媒であるメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)が好ましい。
【0090】
分散剤をCNT分散液に添加してもよい。分散剤は、CNTの分散能や分散安定化能等を向上させるのに役立つ。
【0091】
以上説明したように、フッ素を含有する化合物を相溶化剤として用いることにより、本発明に係るカーボンナノチューブをマトリックス中に分散することで、高導電性、及び優れた力学特性を発現するカーボンナノチューブ複合材料、および導電材料を実現することができる。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
[CNT集合体の製造]
上述した図2の製造装置500を用いてCNT集合体を製造した。本実施例において、縦型合成炉510としては、円筒等の石英管を用いた。中心部の水平位置から20mm下流に石英からなる基材ホルダ505を設けた。合成炉510を外囲して設けられた抵抗発熱コイルからなる加熱手段530と加熱温度調整手段を設け、所定温度に加熱された合成炉510内の加熱領域31を規定した。
【0093】
直径78mmの円筒状で扁平な中空構造をなす耐熱合金インコネル600からなるガス流形成手段521を、第1ガス供給管541の合成炉510内の端部に連通して接続するように設けた。第1ガス供給管541はガス流形成手段521の中心に連通して接続した。ガス流形成手段521は基材501の触媒層の表面に対して、略平行な同一面内に配設し、基材501の中心が、ガス流形成手段521の中心と一致するように配設された。本実施例においては、ガス流形成手段521は中空構造を有する円柱状の形状で、寸法は、一例としては、上端直径22mm×下端直径78mmの円筒形であり、径:32mmの4本の配管557を接続した。また、第1ガス供給管541の中心と一致するように配設された第2ガス供給管543は、ガス流形成手段521およびの中心と一致するように延伸し、の中心と一致して、径:13mmの出口が配設された。
【0094】
ガス流形成手段521の配管555および配管557の接続部と対向する触媒層の表面との距離は150mmとした。
【0095】
ここで、意図的にガス流形成手段521と触媒表面の間に150mmの距離を設け、第1ガス流路545および第2ガス流路547の加熱体積を増加させ、その加熱体積を設けた。第1ガス流路545は、ガス流形成手段521と接続され、乱流防止手段523を備える。第1ガス流路545は、耐熱合金インコネル600からなるハニカム構造のように配設されたφ32mmの4本の配管555を備え、第2ガス流路547は、4本の配管555の中心と一致するように配設されたφ13mmの配管557を備える。
【0096】
第1炭素重量フラックス調整手段571はCNTの原料となる炭素化合物となる原料ガスボンベ561、原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスである雰囲気ガスボンベ563、ならびに触媒を還元するための還元ガスボンベ565をそれぞれガスフロー装置に接続して構成し、それぞれ供給量を独立に制御しながら、第1ガス供給管541に供給することで、原料ガスの供給量を制御した。また、第2炭素重量フラックス調整手段573は、触媒賦活物質ボンベ567をガスフロー装置に接続して構成し、第2ガス供給管543に供給することで、触媒賦活物質の供給量を制御した。
【0097】
基材1としては、触媒であるAlを30nm、Feを1.8nmスパッタリングした厚さ500nmの熱酸化膜付きSi基材(縦40mm×横40mm)を用いた。
【0098】
基材501を合成炉502の加熱領域531の中心の水平位置から20mm下流に設置された基板ホルダ508上に搬入した。基板は水平方向になるように設置した。これにより、基板上の触媒と混合ガスの流路が概して垂直に交わり、原料ガスが効率良く触媒に供給される。
【0099】
次いで、還元ガスとしてHe:200sccm、H:1800sccmの混合ガス(全流量:2000sccm)を第1ガス流路545から供給しながら、炉内圧力を1.02×10Paとした合成炉510内を、加熱手段530を用いて合成炉510内の温度を室温から15分かけて830℃まで上昇させた。さらに触媒賦活物質として水:80sccmを第2ガス供給管543から供給しながら、830℃に保持した状態で3分間触媒付き基材を熱した。これにより、鉄触媒層は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、サイズの異なるナノメートルサイズの触媒微粒子がアルミナ層上に多数形成された。
【0100】
次いで、炉内圧力を1.02×10Pa(大気圧)とした合成炉510の温度を830℃とし、第1ガス流路545から雰囲気ガスHe:総流量比89%(1850sccm)、原料ガスであるC:総流量比7%(150sccm)を、第2ガス供給管543から触媒賦活物質としてHO含有He(相対湿度23%):総流量比4%(80sccm)を10分間供給した。
【0101】
これにより、単層CNTが各触媒微粒子から成長し、配向した単層CNTの集合体が得られた。このようにして、触媒賦活物質含有環境下で、CNTを基材1上より成長させた。
【0102】
成長工程の後、3分間、雰囲気ガス(総流量4000sccm)のみを第1ガス流路545から供給し、残余の原料ガス、発生した炭素不純物、触媒賦活剤を排除した。
【0103】
その後、基板を400℃以下に冷却した後、合成炉510内から基板を取り出すことにより、一連の単層CNT集合体の製造工程を完了させた。
【0104】
〔実施例1で製造されるCNTの特性〕
CNT集合体の特性は、製造条件の詳細に依存するが、実施例1の製造条件では、典型値として、長さが100μm、平均直径が3.0nmである。
【0105】
〔CNT集合体のラマンスペクトル評価〕
実施例1により得られたCNT集合体のラマンスペクトルを計測した。鋭いGバンドピークが1590cm−1近傍で観察され、これより本発明のCNT集合体を構成するCNTにグラファイト結晶構造が存在することが分かる。
【0106】
また欠陥構造などに由来するDバンドピークが1340cm−1近傍で観察されているため、CNTに有意な欠陥が含まれていることを示している。複数の単層CNTに起因するRBMモードが低波長側(100〜300cm−1)に観察されたことから、このグラファイト層が単層CNTであることが分かる。G/D比は8.6であった。
【0107】
〔CNT集合体の純度〕
CNT集合体の炭素純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果より求めた。基板から剥離したCNT集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素の重量パーセントは99.98%、鉄の重量パーセントは0.013%であり、その他の元素は計測されなかった。この結果から、炭素純度は99.98%と計測された。
【0108】
[CNTの分散]
得られたCNT集合体は、真空ポンプを用いて配向したCNT集合体を吸引し基材501から剥離して、フィルターに付着したCNT集合体を回収した。その際、配向したCNT集合体は分散して、塊状のCNT集合体を得た。
【0109】
次に、目開き0.8mmの網の一方にCNT集合体を置き、網を介して掃除機で吸引し、通過したものを回収して、CNT集合体から、サイズの大きな塊状のCNT集合体を取り除き、分級を行った(分級工程)。
【0110】
CNT集合体はカール・フィッシャー反応法(三菱化学アナリテック製電量滴定方式微量水分測定装置CA−200型)で測定した。CNT集合体を所定の条件(真空下、200℃に1時間保持)で乾燥後、乾燥窒素ガス気流中のグローブボックス内で、真空を解除してCNT集合体を約30mg取り出し、水分計のガラスボートに移した。ガラスボートは、気化装置に移動し、そこで150℃×2分間加熱され、その間に気化した水分は窒素ガスで運ばれて隣のカール・フィッシャー反応によりヨウ素と反応させた。その時消費されたヨウ素と等しい量のヨウ素を発生させるために要した電気量により、水分量を検知した。この方法により、乾燥前のCNT集合体は、0.8重量%の水分を含有していた。乾燥後のCNT集合体は、0.3重量%の水分に減少した。
【0111】
分級したCNT集合体を100mg正確に計量し、100mlフラスコ(3つ口:真空用、温度調節用)に投入して、真空下で200℃に達してから12時間保持し、乾燥させた。乾燥が終了後、加熱・真空処理状態のまま、100℃以上の温度で、分散媒MIBK(メチルイソブチルケトン)(シグマアルドリッチジャパン社製)を20ml注入しCNT集合体が大気に触れることを防いだ(乾燥工程)。
【0112】
さらに、MIBK(シグマアルドリッチジャパン社製)を追加して300mlとした。そのビーカーに撹拌子を入れて、ビーカーをアルミ箔で封印し、MIBKが揮発しないようにして、600RPMで、12時間スターラーで常温撹拌した。
【0113】
分散工程には、湿式ジェットミル(湿式ジェットミル(スギノマシン社製のジェットミル(HJP-17007)を用い、0.13mmの流路を100MPaの圧力で通過させ、120MPaの圧力でさらに通過させてCNT集合体をMIBKに分散させ、重量濃度0.033wt%のカーボンナノチューブ分散液を得た。
【0114】
その分散液を更に常温で24時間、スターラーで撹拌した。この時、溶液を70Cまで昇温し、MIBKを揮発させ150ml程度とした。この時のCNTの重量濃度は、0.075wt%程度となった(分散工程)。このようにして、本発明に係るCNT分散液を得た。
【0115】
本実施例においては、フッ素を含む化合物としてフッ素ゴム(ダイキン工業社製、Daiel-G912)を用いた。カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合、CNT含量が10%となるようにCNT分散液100mlに、フッ素ゴム含量が10%となるようにフッ素ゴム100mgをイソプレンゴム100mg添加し、スターラーを用い、約300rpm条件下で、室温で16時間攪拌し全量が50ml程度になるまで濃縮した。
【0116】
十分に混合した溶液をシャーレ等の型に流しこみ、室温で12時間乾燥させることにより、カーボンナノチューブ複合材料を固化させた。このとき、混合溶液は、振盪機を用いて30rpmで攪拌しながら乾燥させた。
【0117】
固化したカーボンナノチューブ複合材料を80℃の真空乾燥炉に入れて、24時間で乾燥させ溶媒を除去した。このようにして、実施例1のカーボンナノチューブ複合材料200を得た(試料の形状は直径77mm、厚さ約300μmの円形のシート状である。)
【0118】
[EDX]
図4に、実施例1のカーボンナノチューブ複合材料200の断面のEDXでの観察結果を示す。図4(a)は炭素(C)の分布を示し、図4(b)はフッ素(F)の分布を示す。図4(b)においては、フッ素(F)由来のピークが島状に分散していることが分かる。したがって、カーボンナノチューブ複合材料200においては、フッ素を含有する化合物が島状に分散していることが明らかとなった。
【0119】
(実施例2)
実施例2として、マトリックスにブチルゴム(IIR)を用い、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料210を製造した。カーボンナノチューブ複合材料210においても、実施例1と同様にフッ素含有化合物による島状の構造が観察された。
【0120】
(実施例3)
実施例3として、マトリックスにニトリルゴム(NBR)を用い、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料230を製造した。カーボンナノチューブ複合材料230においても、実施例1と同様にフッ素含有化合物による島状の構造が観察された。
【0121】
(実施例4)
実施例4として、マトリックスにABS樹脂を用い、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料250を製造した。カーボンナノチューブ複合材料250においても、実施例1と同様にフッ素含有化合物による島状の構造が観察された。
【0122】
(実施例5)
実施例5として、マトリックスにイソプレンゴム(IR)を、相溶化剤にポリフッ化ビニル(PVF、DuPont社製、Tedlar(登録商標))を用い、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料270を製造した。カーボンナノチューブ複合材料270においても、実施例1と同様にフッ素含有化合物による島状の構造が観察された。
【0123】
(実施例6)
実施例6として、マトリックスにイソプレンゴム(IR)を、相溶化剤にポリフッ化ビニリデン(PVDF、SolvayPlastic社製、Hylar(登録商標))を用い、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料290を製造した。カーボンナノチューブ複合材料290においても、実施例1と同様にフッ素含有化合物による島状の構造が観察された。
【0124】
(実施例7)
実施例7として、マトリックスにイソプレンゴム(IR)含量を97%、相溶化剤にフッ素ゴム(ダイキン工業社製、Daiel-G912)含量を2%、CNTの添加量(1%)として、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料310を製造した。カーボンナノチューブ複合材料310においても、実施例1と同様にフッ素含有化合物による島状の構造が観察された。
【0125】
(比較例1)
比較例1として、相溶化剤を添加せずに、マトリックスにイソプレンゴム(IR)含量を90%として、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料900を製造した。カーボンナノチューブ複合材料900においては、フッ素含有化合物を添加しないため、島状の構造は観察されない。
【0126】
(比較例2)
比較例2として、相溶化剤を添加せずに、マトリックスにブチルゴム(IIR)含量を90%として、実施例2と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料910を製造した。カーボンナノチューブ複合材料910においては、フッ素含有化合物を添加しないため、島状の構造は観察されない。
【0127】
(比較例3)
比較例3として、相溶化剤を添加せずに、マトリックスにニトリルゴム(NBR)含量を90%として、実施例3と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料930を製造した。カーボンナノチューブ複合材料930においては、フッ素含有化合物を添加しないため、島状の構造は観察されない。
【0128】
(比較例4)
比較例4として、相溶化剤を添加せずに、マトリックスにABS樹脂含量を90%として、実施例4と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料950を製造した。カーボンナノチューブ複合材料950においては、フッ素含有化合物を添加しないため、島状の構造は観察されない。
【0129】
(比較例5)
比較例4として、相溶化剤を添加せずに、マトリックスにイソプレンゴム(IR)含量を99%、CNTの添加量(1%)として、実施例1と同様の製造方法により、カーボンナノチューブ複合材料970を製造した。カーボンナノチューブ複合材料970においては、フッ素含有化合物を添加しないため、島状の構造は観察されない。
【0130】
[体積導電率]
実施例および比較例のカーボンナノチューブ複合材料について、体積導電率を測定した。測定結果を図5にまとめる。実施例1〜6のカーボンナノチューブ複合材料は、いずれも比較例のカーボンナノチューブ複合材料に比して高い体積導電率を示した。CNT含量を1%とした実施例7は体積導電率が0.3S/cmであったが、比較例5に比しては高い体積導電率を示した。この結果から、実施例のカーボンナノチューブ複合材料は、フッ素を含有する化合物20がマトリックス30中に島状に分散することにより、高い導電性を付与する事ができるものと推察される。
【0131】
[歪みと導電率の関係]
次に、10%の歪みをカーボンナノチューブ複合材料に負荷したときの電気特性を、カーボンナノチューブ複合材料の導電率を測定することにより評価した。実施例1〜3および5〜6のカーボンナノチューブ複合材料は、いずれも比較例のカーボンナノチューブ複合材料に比して高い体積導電率を示した。なお、実施例4及び比較例4については、マトリックスにABS樹脂を用いたため、測定していない。CNT含量を1%とした実施例7は体積導電率が0.2S/cmであったが、比較例5に比しては高い体積導電率を示した。この結果から、実施例のカーボンナノチューブ複合材料は、フッ素を含有する化合物20がマトリックス30中に島状に分散することにより、高い導電性を付与する事ができるものと推察される。
【0132】
[繰返し応力負荷と電気特性の関係]
次に、繰返し応力負荷を与えた場合のカーボンナノチューブ複合材料の電気特性について評価した。試料の形状はJIS K6251-7に準拠し、繰返し応力負荷試験は、カーボンナノチューブ複合材料の両端を銀(Ag)の金属片とアルミニウム(Al)の金属片とで挾んで抵抗測定装置に接続するとともに、両端からカーボンナノチューブ複合材料に10%伸びでの100回の繰り返し応力の負荷することにより行った。測定結果を図5にまとめる。
【0133】
図5に示したように、実施例1〜3および5〜7のカーボンナノチューブ複合材料は、いずれも比較例のカーボンナノチューブ複合材料に比して高い体積導電率を示した。なお、実施例4及び比較例4については、マトリックスにABS樹脂を用いたため、測定していない。この結果から、実施例のカーボンナノチューブ複合材料は、フッ素を含有する化合物20がマトリックス30中に島状に分散することにより、高い導電性を付与する事ができるものと推察される。
【符号の説明】
【0134】
10 カーボンナノチューブ、15:CNT群、30 マトリックス、50:炭素繊維、100 カーボンナノチューブ複合材料、200 カーボンナノチューブ複合材料、210 カーボンナノチューブ複合材料、230 カーボンナノチューブ複合材料、250 カーボンナノチューブ複合材料、270 カーボンナノチューブ複合材料、290 カーボンナノチューブ複合材料、310 カーボンナノチューブ複合材料、500 製造装置、501 基材、503 触媒層、505 基材ホルダ、510 合成炉、521 ガス流形成手段、530 加熱手段、531 加熱領域、541 第1ガス供給管、543 第2ガス供給管、545 第1ガス流路、547 第2ガス流路、550 ガス排気管、555 配管、557 配管、561 原料ガスボンベ、563 雰囲気ガスボンベ、565 還元ガスボンベ、567 触媒賦活物質ボンベ、571 第1炭素重量フラックス調整手段、573 第2炭素重量フラックス調整手段、580 ガス混合領域、900 カーボンナノチューブ複合材料、910 カーボンナノチューブ複合材料、930 カーボンナノチューブ複合材料、950 カーボンナノチューブ複合材料、970 カーボンナノチューブ複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、フッ素を含有する化合物とをフッ素を含有する化合物以外の樹脂又はエラストマーからなるマトリックス中に分散してなるカーボンナノチューブ複合材料であって、
前記フッ素を含有する化合物がマトリックス中に島状に分散してなることを特徴とするカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項2】
前記フッ素樹脂以外のマトリックスの溶解度パラメーターが18以下19以上であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項3】
前記フッ素を含有する化合物の配合量は、前記カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合の0.1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記カーボンナノチューブ複合材料全体の質量を100質量%とした場合の0.001質量%以上70質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項5】
前記フッ素を含有する化合物の配合量は、前記カーボンナノチューブの配合量の0.2倍以上5倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項6】
前記フッ素を含有する化合物が相溶化剤であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項7】
前記フッ素を含有する化合物がフッ素樹脂であることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブ複合材料は波長633nmのラマン分光分析で、110±10cm−1、190±10cm−1、及び200cm−1以上の領域それぞれにピークが観測されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ複合材料が1S/cm以上の導電性を有するカーボンナノチューブを含み、かつ前記カーボンナノチューブ複合材料自身の導電性が0.01S/cm以上であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブの長さは、0.1μm以上であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブの平均直径は、1nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブの蛍光X線を用いた分析による炭素純度が90重量%以上であることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブは、共鳴ラマン散乱測定法による測定において得られるスペクトルで、1560cm−1以上1600cm−1以下の範囲内での最大のピーク強度をG、1310cm−1以上1350cm−1以下の範囲内での最大のピーク強度をDとしたときに、G/D比が3以上あることを特徴とする請求項1乃至12の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項14】
前記マトリックスは、エラストマーであることを特徴とする請求項1乃至13の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項15】
負荷をかける前の抵抗Rに対して、10%伸びにおける100回の繰り返し応力の負荷後の電気抵抗Rの比R/Rが3以下であることを特徴とする請求項1乃至14の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項16】
前記カーボンナノチューブ複合材料は、伸び10%で0.01S/cm以上の導電性を備えることを特徴とする請求項1乃至15の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項17】
前記エラストマーは、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、クロロブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴム、エポキシ化ブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、ポリスルフィドゴムなどのエラストマー類、および、オレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、スチレン系の熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を含有することを特徴とする請求項14に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項18】
前記マトリックスは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至13の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項19】
前記熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂は、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンの少なくとも1つからなることを特徴とする請求項18に記載のカーボンナノチューブ複合材料。
【請求項20】
請求項1乃至19の何れか一に記載のカーボンナノチューブ複合材料を備えることを特徴とする導電材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−82595(P2013−82595A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225033(P2011−225033)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】