カーボンナノファイバーアクチュエータ
【課題】伸縮性に富んだカーボンナノチューブの変位応答速度が、繰り返し通電したあとでも劣化しないよう、耐久性の改善をはかる。
【解決手段】アクチュエータの変形部材となるを電性薄膜1を、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーとのゲル状組成物から構成するものとし、このうちカーボンナノファイバーの製造には、芳香族メソフェーズピッチを材料とし、溶融紡糸法をもちいて作製することにより、8000秒以上も実質的に変位の減少のない製品を実現できる。
【解決手段】アクチュエータの変形部材となるを電性薄膜1を、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーとのゲル状組成物から構成するものとし、このうちカーボンナノファイバーの製造には、芳香族メソフェーズピッチを材料とし、溶融紡糸法をもちいて作製することにより、8000秒以上も実質的に変位の減少のない製品を実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜、導電性薄膜を備えたアクチュエータ素子、並びにアクチュエータ素子の製造法に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0002】
空気中、あるいは真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルを導電性があり、かつ伸縮性のある活性層として用いるアクチュエータが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4038685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブを用いた従来のアクチュエータ素子は、変形の立ち上がり速度が早い点で優れているが、長時間電圧を加え続けたときに変位が縮小すること、繰り返して通電したときに素子が徐々に劣化し、変形量が小さくなることがあった。
【0005】
本発明は、変位の保持特性と繰り返し耐久性に優れたアクチュエータの創出を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以上の問題点を解決するものであって、従来のカーボンナノチューブに代えてカーボンナノファイバーを用いることにより、変位の保持特性と繰り返し耐久性がいずれも向上したアクチュエータ素子が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の導電性薄膜、積層体、アクチュエータ素子、又はその製造法を提供するものである。
項1.
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されるアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
項2.
項1に記載の導電性薄膜と、
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜とを備えた積層体。
項3.
イオン伝導層と、
前記イオン伝導層の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
項4.
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜と、
前記電解質膜の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
項5.
項3又は4に記載のアクチュエータ素子であって、一定電圧下で8000秒以上実質的に変位の減衰がなく、その動作が繰り返し可能なアクチュエータ素子。
項6.
アクチュエータ素子の製造方法であって、以下の工程からなる方法:
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含む分散液を調製する工程であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製される工程;
ポリマー及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;及び
工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いる電解質膜の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層と電解質膜層の積層体を形成する工程。
項7.
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
項8.
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜を製造するための、芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたカーボンナノファイバーの使用方法。
【発明の効果】
【0008】
カーボンナノファイバー(CNF)と、CNFに賦活処理を行い活性化(比表面積を大きくした)したCNF(ACNF)との少なくとも一方を用いて作製した本発明のアクチュエータは、カーボンナノチューブを用いたアクチュエータと比較して、保持特性と、繰り返し耐久性とが大きく改善した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例でアクチュエータ素子変位評価法に用いたレーザ変位計を示す。
【図2】(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
【図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す略断面図である。
【図5】ACNF100%電極のアクチュエータに3Vの直流電圧を加えた際の変位特性。GB中では、変位がほぼ、10000秒保持される。
【図6】ACNF100%電極のアクチュエータに2Vの直流電圧を加えた際の変位特性を示す。
【図7】ACNF75%CNF25%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図8】ACNF50%CNF50%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図9】ACNF25%CNF75%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図10】CNF100%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図11】実施例の電極アクチュエータと比較例の電極アクチュエータの変位測定結果(2V印加)を示す。縦軸はアクチュエータ試料の変位を最大変位で正規化した値である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アクチュエータ素子の導電性薄膜(電極層)には、カーボンナノファイバー、ポリマー、及びイオン液体が含まれる。また、イオン伝導層として使用される電解質膜にはポリマー及び任意選択のイオン液体が含まれる。
【0011】
本発明で使用されるカーボンナノファイバー(CNF)は、直径の下限が150nm程度であり、直径の上限が500nm程度であるカーボンファイバーである。CNFの長さは下限が10μm程度であり、上限は、100μm、200μm、300μm、400μm、500μm、600μm、700μm、800μm、900μm、又は1000μm程度である。
【0012】
CNFは、カーボン前駆体ポリマーとして芳香族メソフェーズピッチを用い、それをマトリックスポリマー中に分散したポリマーブレンドを溶融紡糸後、紡糸繊維の不融化処理、炭素化加熱、必要に応じてさらに賦活処理、黒鉛化処理することにより、作製することができる。賦活処理により活性化されたCNFはACNF(activated CNF)と称される。このようなCNFとして、例えば帝人株式会社製のカーボンナノファイバーを好ましく例示することができる。CNF(ACNFを含む)の具体的な製造条件は、特開2011-114140で微細炭素繊維よりなる電極材料の製造方法として詳細に記載されているので、この製造条件に従ってCNFを製造することが好ましい。
アクチュエータ素子の導電性薄膜に使用されるCNFとして、CNF、CNFとACNFの組み合わせ、又はACNFを用いることができる。ACNFは電気化学容量が大きいため、用いることが好ましい。賦活処理としては、水蒸気等のガスを用いたガス賦活、塩化亜鉛等の薬剤を用いた薬剤賦活、アルカリ金属化合物を用いたアルカリ賦活といった公知の手法を好適に用いることができる。
導電性薄膜の電気特性が維持される限り、導電性薄膜は、CNFではない他のカーボンナノ材料をさらに含んでもよい。
【0013】
本明細書において、「一定電圧下で8000秒以上実質的に変位の減衰がなく」とは、例えば2Vないし3Vの一定電圧でアクチュエータを作動させたとき、変位量は8000秒まで徐々に大きくなるか、8000秒以内に最大変位を記録した場合には、最大変位の70%、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上、特に95%以上の変位量を8000秒までのレベルに保持することを意味する。
【0014】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩又は単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0015】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)又は常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X−)より成るものが挙げられる。
【0016】
【化1】
【0017】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは直鎖又は分枝を有するC1〜C12アルキル基又はエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてR1は直鎖又は分枝を有するC1〜C4アルキル基又は水素原子を示す。式(I)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(III)及び(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。
【0018】
直鎖又は分枝を有するC1〜C12アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、及びドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1〜8,より好ましくは1〜6である。
【0019】
直鎖又は分枝を有するC1〜C4アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びt−ブチルが挙げられる。
【0020】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1〜4の整数、qは1〜4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0021】
アニオン(X−)としては、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、BF3CF3-、BF3C2F5-、BF3C3F7-、BF3C4F9-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン((CF3SO2)2N-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、ジシアンアミドイオン((CN)2N-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、有機カルボン酸イオン及びハロゲンイオンが例示できる。
【0022】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン又は[N(CH3)(CH3)(C2H5)(C2H4OC2H4OCH3)]+、アニオンがハロゲンイオン又はテトラフルオロホウ酸イオンのものが、具体的に例示できる。なお、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0023】
ただし、これらの組み合わせに限らず、イオン液体であって、イオン液体の導電率が0.1Sm-1以上であれば、任意のアニオン及びカチオンが使用可能である。
【0024】
本発明に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、及びポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜層は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーから構成される。
【0026】
導電性薄膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
カーボンナノファイバー:
3〜90質量%、好ましくは16.6〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%;
イオン液体:
5〜80質量%、好ましくは15〜73.4質量%、より好ましくは20〜69質量%;
ポリマー:
4〜70質量%、好ましくは10〜68.4質量%、より好ましくは11〜64質量%;である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、アクチュエータ素子のイオン伝導層に使用される電解質膜は、イオン液体及びポリマーから構成される。
【0028】
電解質膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
イオン液体:
10〜90質量%、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%
ポリマー:
90〜10質量%、好ましくは70〜20質量%、より好ましくは60〜30質量%である。
【0029】
本発明のアクチュエータ素子は、例えば、電解質膜1を、その両側から、カーボンナノファイバーとイオン液体とポリマーとを含む導電性薄膜層(電極層)2,2で挟んだ3層構造のものである (図2A) 。
【0030】
また、電極の表面伝導性を増すために、アクチュエータ素子は、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が設けられた5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図2B) 。
【0031】
電解質膜の表面に導電性薄膜を積層してアクチュエータ素子を得るには、カーボンナノファイバー、イオン液体、ポリマーを溶媒に分散した電極用ゲル溶液とイオン液体及びポリマーからなる電解質用ゲル溶液とを交互にキャスト法により塗布、乾燥、積層することにより行うか、もしくは、上記のようにキャスト、乾燥することにより得た電解質膜の表面に、同様に別途、キャスト、乾燥することにより得た導電性薄膜を熱圧着することにより得ることが出来る。
【0032】
本発明では、カーボンナノファイバーとイオン液体、ポリマーを含む導電性薄膜の調製において、各成分を均質に混合するのが重要である。各成分が均質混合された分散液を調製するためには、溶媒を用いるのが好ましい。溶媒は、単一溶媒であっても混合溶媒であってよいが、例えば疎水性溶媒と親水性溶媒の混合溶媒を使用するのが特に好ましい。
【0033】
親水性溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜3の低級アルコール、アセトニトリル等が挙げられる。疎水性溶媒としては、4−メチルペンタン−2−オンなどの炭素数5〜10のケトン類、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0034】
本発明の導電性薄膜を製造するための分散液は、イオン液体とカーボンナノファイバーを混練してゲル化させ、その後ポリマーと溶剤(例えば、イオン液体が親水性の場合には、親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、イオン液体が疎水性の場合には、疎水性溶媒)を加えて分散液を調製してもよく、又はカーボンナノファイバー、イオン液体、ポリマー及び必要に応じて溶剤(例えば、イオン液体が親水性の場合には、親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、イオン液体が疎水性の場合には、疎水性溶媒)を加え、ゲル化のプロセスなしに分散液を調製してもよい。その場合、各成分を混合するのに超音波による分散も有効である。
【0035】
いったんゲル化させた後に分散液を調製する場合、混合溶媒の割合としては、親水性溶媒:疎水性溶媒(質量比)=20:1〜1:10であるのが好ましく、2:1〜1:5であるのがより好ましい。
【0036】
また、ゲル化のプロセスなしに分散液を調製する場合、親水性溶媒(PC)/疎水性溶媒(MP)=1/100〜20/100が好ましく、より好ましくは3/100〜15/100である。単一溶媒を用いることもでき、その場合、N, N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0037】
本発明の導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体及びポリマーを含む高分子ゲル状組成物から構成される。
【0038】
導電性薄膜中の(カーボンナノファイバー+イオン液体)と(ポリマー)の配合比(質量比)は、(カーボンナノファイバー+イオン液体):(ポリマー)=1:2〜4:1であるのが好ましく、(カーボンナノファイバー+イオン液体):(ポリマー)=1:1〜3:1であるのがより好ましい。この配合の際には、親水性溶媒と疎水性溶媒との混合溶媒を用いる。カーボンナノファイバーとイオン液体を混合して予めゲルを形成し、このゲルにポリマーと溶媒(好ましくは疎水性溶媒)を混合して導電性薄膜調製用の分散液を得ることもできる。この場合、(カーボンナノファイバー+イオン液体):(ポリマー)は、より好ましくは1:1〜3:1である。
【0039】
なお、導電性薄膜には溶媒(疎水性溶媒及び/又は親水性溶媒)が若干含まれていてもよいが、通常の乾燥条件において除去可能な溶媒はできるだけ除去しておくのが好ましい。
【0040】
イオン伝導層を構成するゲル状組成物は、ポリマーとイオン液体から構成される。好ましいイオン伝導層は、このゲル状組成物を得る際の親水性イオン液体とポリマーの配合比(質量比)が、親水性イオン液体:ポリマー=1:4〜4:1であるのが好ましく、親水性イオン液体:ポリマー=1:2〜2:1であるのがより好ましい。この配合の際にも、上記と同様に、親水性溶媒と疎水性溶媒とを任意の割合で混合した溶媒を用いるのが好ましい。
【0041】
2つ以上の導電性薄膜を分離するセパレーターの役割を果たすイオン伝導層は、ポリマーを溶媒に溶解し、塗布、印刷、押し出し、キャスト、射出などの常法に従い形成することができる。イオン伝導層は、実質的にポリマーのみで形成してもよく、イオン液体をポリマーに加えて形成してもよい。
【0042】
導電性薄膜層とイオン伝導層に使用するポリマーは同一であっても異なっていてもよいが、両者は同一であるか、性質の類似したポリマーであるのが、導電性薄膜層とイオン伝導層の密着性を向上させるのに好ましい。
【0043】
電解質膜の厚さは、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。導電性薄膜層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、各層の製膜にあたっては、スピンコート、印刷、スプレー等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0044】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間(電極は導電性薄膜層に接続されている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.05〜1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、窒素等の不活性ガス雰囲気中、空気中(乾燥空気中を含む)、及び/又は真空中で、柔軟に作動することができる。
【0045】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図3A,Bに示すように、電解質膜1の対向する表面に相互に絶縁状態に設けられた導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノファイバー相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮するためである。図3Bに示すように、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノファイバーがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図3Bにおいて、4はイオン液体のカチオンを示し、5はイオン液体のアニオンを示す。
【0046】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、カーボンナノファイバーとイオン液体とのゲルの界面有効面積が極めて大きくなることから、界面電気二重層におけるインピーダンスが小さくなり、カーボンナノファイバーの電気伸縮効果が有効に利用される分野に寄与する。また、機械的には、界面の接合の密着性が良好となり、素子の耐久性が大きくなる。その結果、窒素等の不活性ガス雰囲気中、空気中、及び/又は真空中で、応答性がよく変位量の大きい、且つ耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。さらに、カーボンナノファイバーに導電性の添加剤を加えることにより、電極膜の導電性及び充填率が向上し、従来の同様の素子より、効率的に力の発生が起こる。
【0047】
本発明のアクチュエータ素子は、一定電圧(例えば2Vないし3V)下で8000秒以上、好ましくは8500秒以上、より好ましくは9000秒以上、特に10000秒以上実質的に変位の減衰がなく、その動作が繰り返し可能である。
【0048】
本発明のアクチュエータ素子は、窒素等の不活性ガス雰囲気中、空気中、及び/又は真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツ、床ずれ防止用などの医療、福祉用ロボット、ブレーキ、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0049】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0050】
なお、電解質膜表面への導電性薄膜層の形成は少なくとも2層必要であるが、図4A,Bに示すように、平面状の電解質膜1の表面に多数の導電性薄膜層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4A,Bに示すものは、径が1mm程度の電解質膜1のロッドの周囲に4本の導電性薄膜層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0052】
なお、本実施例において、アクチュエータ素子変位評価は、以下のようにして行った。
【0053】
図1に示す様に、3層構造のアクチュエータ素子10を電極15で押さえ、電極15と接続されたポテンシオスタット20を用いてアクチュエータ素子10に電圧を印加した。レーザ変位計30を用いアクチュエータ素子10からの反射レーザ35の検出から変位を測定し、レーザ変位計30に接続されたオシロスコープ40で電圧、電流、変位をモニタした。
【0054】
本実施例で用いたイオン液体(IL)は、1-エチルー3-メチル―イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホナート(EMITFS)(東京化成工業株式会社製)である。
【0055】
実施例1−6で用いたカーボンナノファイバー(CNF)は、芳香族メソフェーズピッチをマトリックスポリマー中に分散したポリマーブレンドを溶融紡糸後、紡糸繊維の不融化処理、炭素化加熱、黒鉛化することにより作製されたCNF、あるいは3000℃での黒鉛化前の該CNFをさらにアルカリ賦活処理して活性化したカーボンナノファイバー(ACNF) とした。当該CNF及びACNFの製造方法については特願2011-114140を参照のこと。
比較例1では、VGCF(登録商標)−X(昭和電工株式会社製)を賦活したものを用いた。VGCF(登録商標)−Xは気相法により合成されるカーボンナノチューブである。
比較例2では、フェノール樹脂をカーボン前駆体ポリマーとして用い、溶融紡糸法により製造されたカーボンナノファイバーを賦活したものを用いた。
【0056】
本実施例で用いたポリマーは、下記の一般式(III)で表されるポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP);商品名Kynar2801, Arkema社]である。
【0057】
【化2】
本実施例で用いた溶媒はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)である。
【0058】
試料作製法
本実施例は、特別な記載がない限り、すべての実験を窒素置換したグローブボックス中で行った。
1)電極液の調製
X1 mgのカーボンナノファイバー(以下CNFと略す)、X2 mg の活性化処理したCNF (以下ACNFと略す)、Y mgのポリマーであるポリフッ化ビニリデン(ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(PVDF (HFP))(Kynar2801, Arkema社)、Z mgのイオン液体EMITFSを6.75mLの溶媒(ジメチルアセトアミド(DMAC))に添加し、得られた溶液を室温で超音波分散2時間、撹拌を1000rpmで約1日間行い、分散することにより、粘性のある電極液を得た。
2)キャスト(電極膜/導電性薄膜の作成)
上記で得られた電極液を2.5cmx2.5cmのテフロン(登録商標)型中にキャストし、溶媒を乾燥すると黒色のCNF、導電性添加物、イオン液体、ベースポリマーからなる自立した電極膜が得られた。膜厚は、キャスト量により調節した。
3)電解質液の調製
265 mgのEMITFSと200 mgのPVDF(HFP)をメチルペンタノン(MP)2 mlとプロピレンカーボネート(PC)500 mgの混合溶媒に入れ、加熱、撹拌(1日)することにより、無色透明な電解質液を得た。
4)キャスト(電解質膜の作成)
2.5cmx2.5cmのアルミ型中に電解質液をキャストし、溶媒を乾燥させることにより、膜厚20〜30μmで半透明な自立した電解質膜を得た。
5)アクチュエータ(三層)素子の作製
上記4)で得られた電解質膜を2)で得られた電極膜2枚で挟み、加熱(70℃)プレス(プレス圧=270MPa)することにより、三層構造のアクチュエータ素子を作成した。これを、所望の形状に切出し変位、発生力を測定した。
【0059】
試料評価法
本実施例は、特別な記載がない限り、すべての実験を窒素置換したグローブボックス(GB)中で行った。
アクチュエータの変形量は変位を測定することで行った。アクチュエータ試料片を幅2mm、長さ10mmに短冊状に切り取り、5mmを金電極で押さえ、電圧を印加した。電極から4mm離れた位置にレーザを当てて、レーザ変位計(LK−G30、株式会社キーエンス)により変位を測定した。その際の電圧、電流も同時に測定した。
【0060】
実施例1
X1=0 mg, X2=37.3 mg, Y=59.9 mg, Z=175.5 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図5、図6に示す。「大気中」は、製造及び評価を大気中で行った場合を示し、「GB中」は、製造及び評価をグローブボックス中で行った場合を示す。
【0061】
大気中とグローブボックス(GB)中でのアクチュエータの変位を比較すると、図5(電圧=3V)では、大気中1回目では最初に0.8mm程度の大きな変位があるが、1000秒を過ぎるあたりから逆方向への変位になる。また、大気中2回目では逆方向への変位はないが、変位量が0.1mm以下で非常に小さくなっている。これに対し、GB中1回目では3000秒以上で約1.2mmの変位が保持され、GB中2回目では1mm以上の変位が8000秒以上保持された。この結果から、アクチュエータはGB中のような窒素雰囲気で製造及び使用するのが望ましいことが示された。
【0062】
電圧を2Vにした図6では、3V(図5)と比較して変位量が小さく、長時間電圧をかけた場合でも逆方向の変位は見られなかった。大気中とGB中でのアクチュエータの変位パターンを比較すると、GB中の方が変位量が大きく優れていた。数分程度の短時間の電圧の印加時には逆方向の変位はなく、アクチュエータは問題なく作動するが、十数分或いはそれ以上の長時間連続して電圧を印加する場合、変位量が縮小し、2時間以上連続で作動した後の2回目では大気中のアクチュエータにおいて変位量が大きく減少していることから、短時間アクチュエータを作動させる場合、製造、評価は大気中で行って問題ないが、長時間連続してアクチュエータを作動する場合には製造、評価は窒素雰囲気で行うのが好ましい。
【0063】
実施例2 X1=8.9 mg, X2=30.7 mg, Y=60 mg, Z=187.4 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図7に示す。GB中1回目及び2回目とも、変位量が大きくかつ、8000秒以上にわたり、変位量が保持されていることが明らかになった。
【0064】
実施例3 X1=18.7 mg, X2=18.4 mg, Y=59.8 mg, Z=176.8 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図8に示す。GB中1回目、2回目及び3回目とも、変位量は立ち上がりから10000秒近くまで徐々に大きくなり、逆方向の変位は完全に抑制されていた。
【0065】
実施例4 X1=28.2 mg, X2=9.1 mg, Y=59.8 mg, Z=179 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図9に示す。GB中1回目及び2回目とも、変位量は立ち上がりから8000秒以上にわたり緩やかに上昇し、3Vの電圧条件で逆方向の変位は完全に抑制されていた。
【0066】
実施例5 X1=38.6 mg, X2=0 mg, Y=59.8 mg, Z=174.9 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図10に示す。GB中一回目で8000秒以上、GB中二回目で6000秒以上変位が保持され、逆方向の変位は抑制されていた。
【0067】
実施例6 X1=0 mg(代わりに他のカーボンナノ材料 35mg), X2=15 mg, Y=35 mg, Z=85 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図11(電圧=2V)に示す。ACNFは、芳香族メソフェーズピッチを用いて溶融紡糸法により作製されたものである。この例では、簡易ドライ環境中(測定系をアクリルケース内に入れ、乾燥空気を流通させた環境、露点温度は−20℃になるように設定した)で、アクチュエータ試料片は変位し、最大比1.0に達し、その後1時間以上にわたり、0.7より高い値で変位が保持された。この結果は、芳香族メソフェーズピッチを用いて溶融紡糸法により作製されたカーボンナノファイバーがアクチュエータの材料に適していることが示している。
【0068】
比較例1 X1=0 mg(代わりに、実施例6と同じ他のカーボンナノ材料28mg), X2=0 mg(代わりに賦活VGCF-X 28mg), Y=40 mg, Z=95 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図11(電圧=2V)に示す。この例ではアクチュエータ試料片は変位した後、時間が経つにつれ変位が大きく減少した。
【0069】
比較例2 X1=0 mg(代わりに、実施例6と同じ他のカーボンナノ材料40mg), X2=17 mg, Y=40 mg, Z=95 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図11(電圧=2V)に示す。この例ではアクチュエータ試料片は変位した後、時間が経つにつれ変位が大きく減少した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜、導電性薄膜を備えたアクチュエータ素子、並びにアクチュエータ素子の製造法に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0002】
空気中、あるいは真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、カーボンナノチューブとイオン液体とのゲルを導電性があり、かつ伸縮性のある活性層として用いるアクチュエータが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4038685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブを用いた従来のアクチュエータ素子は、変形の立ち上がり速度が早い点で優れているが、長時間電圧を加え続けたときに変位が縮小すること、繰り返して通電したときに素子が徐々に劣化し、変形量が小さくなることがあった。
【0005】
本発明は、変位の保持特性と繰り返し耐久性に優れたアクチュエータの創出を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以上の問題点を解決するものであって、従来のカーボンナノチューブに代えてカーボンナノファイバーを用いることにより、変位の保持特性と繰り返し耐久性がいずれも向上したアクチュエータ素子が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の導電性薄膜、積層体、アクチュエータ素子、又はその製造法を提供するものである。
項1.
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されるアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
項2.
項1に記載の導電性薄膜と、
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜とを備えた積層体。
項3.
イオン伝導層と、
前記イオン伝導層の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
項4.
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜と、
前記電解質膜の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
項5.
項3又は4に記載のアクチュエータ素子であって、一定電圧下で8000秒以上実質的に変位の減衰がなく、その動作が繰り返し可能なアクチュエータ素子。
項6.
アクチュエータ素子の製造方法であって、以下の工程からなる方法:
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含む分散液を調製する工程であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製される工程;
ポリマー及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;及び
工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いる電解質膜の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層と電解質膜層の積層体を形成する工程。
項7.
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
項8.
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜を製造するための、芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたカーボンナノファイバーの使用方法。
【発明の効果】
【0008】
カーボンナノファイバー(CNF)と、CNFに賦活処理を行い活性化(比表面積を大きくした)したCNF(ACNF)との少なくとも一方を用いて作製した本発明のアクチュエータは、カーボンナノチューブを用いたアクチュエータと比較して、保持特性と、繰り返し耐久性とが大きく改善した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例でアクチュエータ素子変位評価法に用いたレーザ変位計を示す。
【図2】(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図3】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
【図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す略断面図である。
【図5】ACNF100%電極のアクチュエータに3Vの直流電圧を加えた際の変位特性。GB中では、変位がほぼ、10000秒保持される。
【図6】ACNF100%電極のアクチュエータに2Vの直流電圧を加えた際の変位特性を示す。
【図7】ACNF75%CNF25%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図8】ACNF50%CNF50%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図9】ACNF25%CNF75%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図10】CNF100%電極アクチュエータの変位測定結果(3V印加)を示す。
【図11】実施例の電極アクチュエータと比較例の電極アクチュエータの変位測定結果(2V印加)を示す。縦軸はアクチュエータ試料の変位を最大変位で正規化した値である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アクチュエータ素子の導電性薄膜(電極層)には、カーボンナノファイバー、ポリマー、及びイオン液体が含まれる。また、イオン伝導層として使用される電解質膜にはポリマー及び任意選択のイオン液体が含まれる。
【0011】
本発明で使用されるカーボンナノファイバー(CNF)は、直径の下限が150nm程度であり、直径の上限が500nm程度であるカーボンファイバーである。CNFの長さは下限が10μm程度であり、上限は、100μm、200μm、300μm、400μm、500μm、600μm、700μm、800μm、900μm、又は1000μm程度である。
【0012】
CNFは、カーボン前駆体ポリマーとして芳香族メソフェーズピッチを用い、それをマトリックスポリマー中に分散したポリマーブレンドを溶融紡糸後、紡糸繊維の不融化処理、炭素化加熱、必要に応じてさらに賦活処理、黒鉛化処理することにより、作製することができる。賦活処理により活性化されたCNFはACNF(activated CNF)と称される。このようなCNFとして、例えば帝人株式会社製のカーボンナノファイバーを好ましく例示することができる。CNF(ACNFを含む)の具体的な製造条件は、特開2011-114140で微細炭素繊維よりなる電極材料の製造方法として詳細に記載されているので、この製造条件に従ってCNFを製造することが好ましい。
アクチュエータ素子の導電性薄膜に使用されるCNFとして、CNF、CNFとACNFの組み合わせ、又はACNFを用いることができる。ACNFは電気化学容量が大きいため、用いることが好ましい。賦活処理としては、水蒸気等のガスを用いたガス賦活、塩化亜鉛等の薬剤を用いた薬剤賦活、アルカリ金属化合物を用いたアルカリ賦活といった公知の手法を好適に用いることができる。
導電性薄膜の電気特性が維持される限り、導電性薄膜は、CNFではない他のカーボンナノ材料をさらに含んでもよい。
【0013】
本明細書において、「一定電圧下で8000秒以上実質的に変位の減衰がなく」とは、例えば2Vないし3Vの一定電圧でアクチュエータを作動させたとき、変位量は8000秒まで徐々に大きくなるか、8000秒以内に最大変位を記録した場合には、最大変位の70%、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上、特に95%以上の変位量を8000秒までのレベルに保持することを意味する。
【0014】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩又は単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0015】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)又は常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X−)より成るものが挙げられる。
【0016】
【化1】
【0017】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは直鎖又は分枝を有するC1〜C12アルキル基又はエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてR1は直鎖又は分枝を有するC1〜C4アルキル基又は水素原子を示す。式(I)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(III)及び(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。
【0018】
直鎖又は分枝を有するC1〜C12アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、及びドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1〜8,より好ましくは1〜6である。
【0019】
直鎖又は分枝を有するC1〜C4アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、及びt−ブチルが挙げられる。
【0020】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1〜4の整数、qは1〜4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0021】
アニオン(X−)としては、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、BF3CF3-、BF3C2F5-、BF3C3F7-、BF3C4F9-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸イオン((CF3SO2)2N-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、ジシアンアミドイオン((CN)2N-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、有機カルボン酸イオン及びハロゲンイオンが例示できる。
【0022】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン又は[N(CH3)(CH3)(C2H5)(C2H4OC2H4OCH3)]+、アニオンがハロゲンイオン又はテトラフルオロホウ酸イオンのものが、具体的に例示できる。なお、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0023】
ただし、これらの組み合わせに限らず、イオン液体であって、イオン液体の導電率が0.1Sm-1以上であれば、任意のアニオン及びカチオンが使用可能である。
【0024】
本発明に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、及びポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜層は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーから構成される。
【0026】
導電性薄膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
カーボンナノファイバー:
3〜90質量%、好ましくは16.6〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%;
イオン液体:
5〜80質量%、好ましくは15〜73.4質量%、より好ましくは20〜69質量%;
ポリマー:
4〜70質量%、好ましくは10〜68.4質量%、より好ましくは11〜64質量%;である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、アクチュエータ素子のイオン伝導層に使用される電解質膜は、イオン液体及びポリマーから構成される。
【0028】
電解質膜中のこれらの成分の好ましい配合割合は:
イオン液体:
10〜90質量%、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%
ポリマー:
90〜10質量%、好ましくは70〜20質量%、より好ましくは60〜30質量%である。
【0029】
本発明のアクチュエータ素子は、例えば、電解質膜1を、その両側から、カーボンナノファイバーとイオン液体とポリマーとを含む導電性薄膜層(電極層)2,2で挟んだ3層構造のものである (図2A) 。
【0030】
また、電極の表面伝導性を増すために、アクチュエータ素子は、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が設けられた5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図2B) 。
【0031】
電解質膜の表面に導電性薄膜を積層してアクチュエータ素子を得るには、カーボンナノファイバー、イオン液体、ポリマーを溶媒に分散した電極用ゲル溶液とイオン液体及びポリマーからなる電解質用ゲル溶液とを交互にキャスト法により塗布、乾燥、積層することにより行うか、もしくは、上記のようにキャスト、乾燥することにより得た電解質膜の表面に、同様に別途、キャスト、乾燥することにより得た導電性薄膜を熱圧着することにより得ることが出来る。
【0032】
本発明では、カーボンナノファイバーとイオン液体、ポリマーを含む導電性薄膜の調製において、各成分を均質に混合するのが重要である。各成分が均質混合された分散液を調製するためには、溶媒を用いるのが好ましい。溶媒は、単一溶媒であっても混合溶媒であってよいが、例えば疎水性溶媒と親水性溶媒の混合溶媒を使用するのが特に好ましい。
【0033】
親水性溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜3の低級アルコール、アセトニトリル等が挙げられる。疎水性溶媒としては、4−メチルペンタン−2−オンなどの炭素数5〜10のケトン類、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0034】
本発明の導電性薄膜を製造するための分散液は、イオン液体とカーボンナノファイバーを混練してゲル化させ、その後ポリマーと溶剤(例えば、イオン液体が親水性の場合には、親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、イオン液体が疎水性の場合には、疎水性溶媒)を加えて分散液を調製してもよく、又はカーボンナノファイバー、イオン液体、ポリマー及び必要に応じて溶剤(例えば、イオン液体が親水性の場合には、親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、イオン液体が疎水性の場合には、疎水性溶媒)を加え、ゲル化のプロセスなしに分散液を調製してもよい。その場合、各成分を混合するのに超音波による分散も有効である。
【0035】
いったんゲル化させた後に分散液を調製する場合、混合溶媒の割合としては、親水性溶媒:疎水性溶媒(質量比)=20:1〜1:10であるのが好ましく、2:1〜1:5であるのがより好ましい。
【0036】
また、ゲル化のプロセスなしに分散液を調製する場合、親水性溶媒(PC)/疎水性溶媒(MP)=1/100〜20/100が好ましく、より好ましくは3/100〜15/100である。単一溶媒を用いることもでき、その場合、N, N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0037】
本発明の導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体及びポリマーを含む高分子ゲル状組成物から構成される。
【0038】
導電性薄膜中の(カーボンナノファイバー+イオン液体)と(ポリマー)の配合比(質量比)は、(カーボンナノファイバー+イオン液体):(ポリマー)=1:2〜4:1であるのが好ましく、(カーボンナノファイバー+イオン液体):(ポリマー)=1:1〜3:1であるのがより好ましい。この配合の際には、親水性溶媒と疎水性溶媒との混合溶媒を用いる。カーボンナノファイバーとイオン液体を混合して予めゲルを形成し、このゲルにポリマーと溶媒(好ましくは疎水性溶媒)を混合して導電性薄膜調製用の分散液を得ることもできる。この場合、(カーボンナノファイバー+イオン液体):(ポリマー)は、より好ましくは1:1〜3:1である。
【0039】
なお、導電性薄膜には溶媒(疎水性溶媒及び/又は親水性溶媒)が若干含まれていてもよいが、通常の乾燥条件において除去可能な溶媒はできるだけ除去しておくのが好ましい。
【0040】
イオン伝導層を構成するゲル状組成物は、ポリマーとイオン液体から構成される。好ましいイオン伝導層は、このゲル状組成物を得る際の親水性イオン液体とポリマーの配合比(質量比)が、親水性イオン液体:ポリマー=1:4〜4:1であるのが好ましく、親水性イオン液体:ポリマー=1:2〜2:1であるのがより好ましい。この配合の際にも、上記と同様に、親水性溶媒と疎水性溶媒とを任意の割合で混合した溶媒を用いるのが好ましい。
【0041】
2つ以上の導電性薄膜を分離するセパレーターの役割を果たすイオン伝導層は、ポリマーを溶媒に溶解し、塗布、印刷、押し出し、キャスト、射出などの常法に従い形成することができる。イオン伝導層は、実質的にポリマーのみで形成してもよく、イオン液体をポリマーに加えて形成してもよい。
【0042】
導電性薄膜層とイオン伝導層に使用するポリマーは同一であっても異なっていてもよいが、両者は同一であるか、性質の類似したポリマーであるのが、導電性薄膜層とイオン伝導層の密着性を向上させるのに好ましい。
【0043】
電解質膜の厚さは、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。導電性薄膜層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、各層の製膜にあたっては、スピンコート、印刷、スプレー等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0044】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間(電極は導電性薄膜層に接続されている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長の0.05〜1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、窒素等の不活性ガス雰囲気中、空気中(乾燥空気中を含む)、及び/又は真空中で、柔軟に作動することができる。
【0045】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図3A,Bに示すように、電解質膜1の対向する表面に相互に絶縁状態に設けられた導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノファイバー相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮するためである。図3Bに示すように、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノファイバーがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図3Bにおいて、4はイオン液体のカチオンを示し、5はイオン液体のアニオンを示す。
【0046】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、カーボンナノファイバーとイオン液体とのゲルの界面有効面積が極めて大きくなることから、界面電気二重層におけるインピーダンスが小さくなり、カーボンナノファイバーの電気伸縮効果が有効に利用される分野に寄与する。また、機械的には、界面の接合の密着性が良好となり、素子の耐久性が大きくなる。その結果、窒素等の不活性ガス雰囲気中、空気中、及び/又は真空中で、応答性がよく変位量の大きい、且つ耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。さらに、カーボンナノファイバーに導電性の添加剤を加えることにより、電極膜の導電性及び充填率が向上し、従来の同様の素子より、効率的に力の発生が起こる。
【0047】
本発明のアクチュエータ素子は、一定電圧(例えば2Vないし3V)下で8000秒以上、好ましくは8500秒以上、より好ましくは9000秒以上、特に10000秒以上実質的に変位の減衰がなく、その動作が繰り返し可能である。
【0048】
本発明のアクチュエータ素子は、窒素等の不活性ガス雰囲気中、空気中、及び/又は真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツ、床ずれ防止用などの医療、福祉用ロボット、ブレーキ、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0049】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、全く蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0050】
なお、電解質膜表面への導電性薄膜層の形成は少なくとも2層必要であるが、図4A,Bに示すように、平面状の電解質膜1の表面に多数の導電性薄膜層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4A,Bに示すものは、径が1mm程度の電解質膜1のロッドの周囲に4本の導電性薄膜層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0052】
なお、本実施例において、アクチュエータ素子変位評価は、以下のようにして行った。
【0053】
図1に示す様に、3層構造のアクチュエータ素子10を電極15で押さえ、電極15と接続されたポテンシオスタット20を用いてアクチュエータ素子10に電圧を印加した。レーザ変位計30を用いアクチュエータ素子10からの反射レーザ35の検出から変位を測定し、レーザ変位計30に接続されたオシロスコープ40で電圧、電流、変位をモニタした。
【0054】
本実施例で用いたイオン液体(IL)は、1-エチルー3-メチル―イミダゾリウム トリフルオロメタンスルホナート(EMITFS)(東京化成工業株式会社製)である。
【0055】
実施例1−6で用いたカーボンナノファイバー(CNF)は、芳香族メソフェーズピッチをマトリックスポリマー中に分散したポリマーブレンドを溶融紡糸後、紡糸繊維の不融化処理、炭素化加熱、黒鉛化することにより作製されたCNF、あるいは3000℃での黒鉛化前の該CNFをさらにアルカリ賦活処理して活性化したカーボンナノファイバー(ACNF) とした。当該CNF及びACNFの製造方法については特願2011-114140を参照のこと。
比較例1では、VGCF(登録商標)−X(昭和電工株式会社製)を賦活したものを用いた。VGCF(登録商標)−Xは気相法により合成されるカーボンナノチューブである。
比較例2では、フェノール樹脂をカーボン前駆体ポリマーとして用い、溶融紡糸法により製造されたカーボンナノファイバーを賦活したものを用いた。
【0056】
本実施例で用いたポリマーは、下記の一般式(III)で表されるポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP);商品名Kynar2801, Arkema社]である。
【0057】
【化2】
本実施例で用いた溶媒はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)である。
【0058】
試料作製法
本実施例は、特別な記載がない限り、すべての実験を窒素置換したグローブボックス中で行った。
1)電極液の調製
X1 mgのカーボンナノファイバー(以下CNFと略す)、X2 mg の活性化処理したCNF (以下ACNFと略す)、Y mgのポリマーであるポリフッ化ビニリデン(ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(PVDF (HFP))(Kynar2801, Arkema社)、Z mgのイオン液体EMITFSを6.75mLの溶媒(ジメチルアセトアミド(DMAC))に添加し、得られた溶液を室温で超音波分散2時間、撹拌を1000rpmで約1日間行い、分散することにより、粘性のある電極液を得た。
2)キャスト(電極膜/導電性薄膜の作成)
上記で得られた電極液を2.5cmx2.5cmのテフロン(登録商標)型中にキャストし、溶媒を乾燥すると黒色のCNF、導電性添加物、イオン液体、ベースポリマーからなる自立した電極膜が得られた。膜厚は、キャスト量により調節した。
3)電解質液の調製
265 mgのEMITFSと200 mgのPVDF(HFP)をメチルペンタノン(MP)2 mlとプロピレンカーボネート(PC)500 mgの混合溶媒に入れ、加熱、撹拌(1日)することにより、無色透明な電解質液を得た。
4)キャスト(電解質膜の作成)
2.5cmx2.5cmのアルミ型中に電解質液をキャストし、溶媒を乾燥させることにより、膜厚20〜30μmで半透明な自立した電解質膜を得た。
5)アクチュエータ(三層)素子の作製
上記4)で得られた電解質膜を2)で得られた電極膜2枚で挟み、加熱(70℃)プレス(プレス圧=270MPa)することにより、三層構造のアクチュエータ素子を作成した。これを、所望の形状に切出し変位、発生力を測定した。
【0059】
試料評価法
本実施例は、特別な記載がない限り、すべての実験を窒素置換したグローブボックス(GB)中で行った。
アクチュエータの変形量は変位を測定することで行った。アクチュエータ試料片を幅2mm、長さ10mmに短冊状に切り取り、5mmを金電極で押さえ、電圧を印加した。電極から4mm離れた位置にレーザを当てて、レーザ変位計(LK−G30、株式会社キーエンス)により変位を測定した。その際の電圧、電流も同時に測定した。
【0060】
実施例1
X1=0 mg, X2=37.3 mg, Y=59.9 mg, Z=175.5 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図5、図6に示す。「大気中」は、製造及び評価を大気中で行った場合を示し、「GB中」は、製造及び評価をグローブボックス中で行った場合を示す。
【0061】
大気中とグローブボックス(GB)中でのアクチュエータの変位を比較すると、図5(電圧=3V)では、大気中1回目では最初に0.8mm程度の大きな変位があるが、1000秒を過ぎるあたりから逆方向への変位になる。また、大気中2回目では逆方向への変位はないが、変位量が0.1mm以下で非常に小さくなっている。これに対し、GB中1回目では3000秒以上で約1.2mmの変位が保持され、GB中2回目では1mm以上の変位が8000秒以上保持された。この結果から、アクチュエータはGB中のような窒素雰囲気で製造及び使用するのが望ましいことが示された。
【0062】
電圧を2Vにした図6では、3V(図5)と比較して変位量が小さく、長時間電圧をかけた場合でも逆方向の変位は見られなかった。大気中とGB中でのアクチュエータの変位パターンを比較すると、GB中の方が変位量が大きく優れていた。数分程度の短時間の電圧の印加時には逆方向の変位はなく、アクチュエータは問題なく作動するが、十数分或いはそれ以上の長時間連続して電圧を印加する場合、変位量が縮小し、2時間以上連続で作動した後の2回目では大気中のアクチュエータにおいて変位量が大きく減少していることから、短時間アクチュエータを作動させる場合、製造、評価は大気中で行って問題ないが、長時間連続してアクチュエータを作動する場合には製造、評価は窒素雰囲気で行うのが好ましい。
【0063】
実施例2 X1=8.9 mg, X2=30.7 mg, Y=60 mg, Z=187.4 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図7に示す。GB中1回目及び2回目とも、変位量が大きくかつ、8000秒以上にわたり、変位量が保持されていることが明らかになった。
【0064】
実施例3 X1=18.7 mg, X2=18.4 mg, Y=59.8 mg, Z=176.8 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図8に示す。GB中1回目、2回目及び3回目とも、変位量は立ち上がりから10000秒近くまで徐々に大きくなり、逆方向の変位は完全に抑制されていた。
【0065】
実施例4 X1=28.2 mg, X2=9.1 mg, Y=59.8 mg, Z=179 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図9に示す。GB中1回目及び2回目とも、変位量は立ち上がりから8000秒以上にわたり緩やかに上昇し、3Vの電圧条件で逆方向の変位は完全に抑制されていた。
【0066】
実施例5 X1=38.6 mg, X2=0 mg, Y=59.8 mg, Z=174.9 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図10に示す。GB中一回目で8000秒以上、GB中二回目で6000秒以上変位が保持され、逆方向の変位は抑制されていた。
【0067】
実施例6 X1=0 mg(代わりに他のカーボンナノ材料 35mg), X2=15 mg, Y=35 mg, Z=85 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図11(電圧=2V)に示す。ACNFは、芳香族メソフェーズピッチを用いて溶融紡糸法により作製されたものである。この例では、簡易ドライ環境中(測定系をアクリルケース内に入れ、乾燥空気を流通させた環境、露点温度は−20℃になるように設定した)で、アクチュエータ試料片は変位し、最大比1.0に達し、その後1時間以上にわたり、0.7より高い値で変位が保持された。この結果は、芳香族メソフェーズピッチを用いて溶融紡糸法により作製されたカーボンナノファイバーがアクチュエータの材料に適していることが示している。
【0068】
比較例1 X1=0 mg(代わりに、実施例6と同じ他のカーボンナノ材料28mg), X2=0 mg(代わりに賦活VGCF-X 28mg), Y=40 mg, Z=95 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図11(電圧=2V)に示す。この例ではアクチュエータ試料片は変位した後、時間が経つにつれ変位が大きく減少した。
【0069】
比較例2 X1=0 mg(代わりに、実施例6と同じ他のカーボンナノ材料40mg), X2=17 mg, Y=40 mg, Z=95 mgとして、アクチュエータ試料を作製し、変位を評価した結果を図11(電圧=2V)に示す。この例ではアクチュエータ試料片は変位した後、時間が経つにつれ変位が大きく減少した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されるアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性薄膜と、
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜とを備えた積層体。
【請求項3】
イオン伝導層と、
前記イオン伝導層の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
【請求項4】
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜と、
前記電解質膜の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のアクチュエータ素子であって、一定電圧下で8000秒以上実質的に変位の減衰がなく、その動作が繰り返し可能なアクチュエータ素子。
【請求項6】
アクチュエータ素子の製造方法であって、以下の工程からなる方法:
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含む分散液を調製する工程であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製される工程;
ポリマー及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;及び
工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いる電解質膜の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層と電解質膜層の積層体を形成する工程。
【請求項7】
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
【請求項8】
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜を製造するための、芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたカーボンナノファイバーの使用方法。
【請求項1】
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されるアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性薄膜と、
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜とを備えた積層体。
【請求項3】
イオン伝導層と、
前記イオン伝導層の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
【請求項4】
ポリマー及びイオン液体から構成される電解質膜と、
前記電解質膜の対向する表面に、相互に絶縁状態に設けられた少なくとも2個のアクチュエータ用導電性薄膜と、前記導電性薄膜は、カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むゲル状組成物から構成されると共に、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものであることと、
を備え、該導電性薄膜に電位差を与えることにより変形を生じさせ得るアクチュエータ素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のアクチュエータ素子であって、一定電圧下で8000秒以上実質的に変位の減衰がなく、その動作が繰り返し可能なアクチュエータ素子。
【請求項6】
アクチュエータ素子の製造方法であって、以下の工程からなる方法:
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含む分散液を調製する工程であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製される工程;
ポリマー及びイオン液体を含む溶液を調製する工程;及び
工程1の分散液を用いる導電性薄膜の形成と工程2の溶液を用いる電解質膜の形成を同時にあるいは順次行い、導電性薄膜層と電解質膜層の積層体を形成する工程。
【請求項7】
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜であって、前記カーボンナノファイバーが芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたものである、アクチュエータ用導電性薄膜。
【請求項8】
カーボンナノファイバー、イオン液体、及びポリマーを含むアクチュエータ用導電性薄膜を製造するための、芳香族メソフェーズピッチを用い、溶融紡糸法により作製されたカーボンナノファイバーの使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−34368(P2013−34368A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−146580(P2012−146580)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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