説明

ガスクロマトグラフ装置

【課題】待機状態において、低コストでカラムを保護することができるガスクロマトグラフ装置及びガスクロマトグラフ装置を提供する。
【解決手段】キャリアガスに乗せて導入される気体試料に含まれる各成分を時間的に分離するカラムを有し、分析モードと待機モードとを切り替えて実行可能なガスクロマトグラフ装置であって、キャリアガス流路1と、カラム保護ガス流路2と、キャリアガスとカラム保護ガスのうちのいずれか一方のみがカラムに導入されるように、キャリアガス流路1及びカラム保護ガス流路2とカラム6の間に設けられた流路切替部3と、分析モード時にはキャリアガスをカラムに導入し、待機モード時にはカラム保護ガスをカラムに導入するように流路切替部3を制御する流路制御部21とを備えることを特徴とするガスクロマトグラフ装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ装置に関する。さらに詳しくは、ガスクロマトグラフ装置の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置は、気体試料をキャリアガスに乗せてカラムへ送り込み、カラムの内部で試料中の各成分を時間的に分離して、カラム出口に設けた検出器により検出する装置である。試料中の各成分とカラム内部の固定相との相互作用の強さに応じて各成分がカラム内部を移動する速度が異なるため、各成分は時間的に分離される。このとき、キャリアガスの流速は、試料中の成分を十分に分離でき、かつシャープな形状のピークを得ることができる最適流速域内の速度に設定される。多くのガスクロマトグラフ装置では、最適流速域が広く、安全性が高いヘリウムガスがキャリアガスとして用いられている。安全性の面でヘリウムガスに劣るものの、ヘリウムガスと同様に最適流速域が広い水素ガスをキャリアガスとして用いる場合もある。
【0003】
キャリアガスや試料中の各成分がカラム内部を移動する速度はカラム内部の温度等によって変化する。そのため、これらを安定させた後でなければ正確に分析を行うことができない。しかし、装置の電源を投入してから、カラム内部の温度等を所定値で安定させるまでには長時間を要する。そのため、ある分析を終了した後に次の分析を行うまでに時間が空く場合でも、電源を投入したままでカラム内部の温度等を分析時と同様に所定値で安定させた待機状態に維持することが一般的である。そして、待機状態においてもカラムにはキャリアガスを流通させている。これは、カラム内の固定相が外部から侵入する水分や酸素により変質することを防止したり、逆に、カラムの出口側が真空状態である場合、例えばGC/MSの場合に、固定相がカラム出口から流出することを防ぐためである。
【0004】
このように、ガスクロマトグラフ装置では、待機状態でもキャリアガスをカラム内に流通させてカラムを保護している。しかし、待機状態において測定時と同量のキャリアガスを流通させるとランニングコストが高くなってしまう。こうした問題を軽減するため、例えば特許文献1では、待機状態においてキャリアガスの流量を減らすガスクロマトグラフ装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−304751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のガスクロマトグラフ装置を用いれば、待機状態におけるキャリアガスの流量を抑制することができる。しかし、たとえ流量を抑制したとしても、待機状態が長く続くとキャリアガスの消費量は大きくなる。特に、多くのガスクロマトグラフ装置のキャリアガスとして用いられるヘリウムガスは、近年、価格の高騰が進んでおり、装置のランニングコストを抑える工夫が求められている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、待機状態において、低コストでカラムを保護することができるガスクロマトグラフ装置及びガスクロマトグラフ質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、キャリアガスに乗せて導入される気体試料に含まれる各成分を時間的に分離するカラムを有し、前記気体試料の分析を実行する分析モードと分析を実行しない待機モードとを切り替えて実行可能なガスクロマトグラフ装置であって、
a) 前記キャリアガスを前記カラムに導入するキャリアガス流路と、
b) 前記キャリアガスとは別のカラム保護ガスを前記カラムに導入するカラム保護ガス流路と、
c) 前記キャリアガスと前記カラム保護ガスのうちのいずれか一方のみがカラムに導入されるように、前記キャリアガス流路及び前記カラム保護ガス流路と前記カラムの間に設けられた流路切替部と、
d) 前記分析モード時には前記キャリアガスを前記カラムに導入し、前記待機モード時には前記カラム保護ガスを前記カラムに導入するように前記流路切替部を制御する流路制御部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るガスクロマトグラフ装置では、キャリアガスとして使用するガスよりも安価なガスをカラム保護ガスとして使用することができる。例えば、キャリアガスがヘリウムガスである場合には、カラム保護ガスとして、窒素ガスやアルゴンガス、あるいは水素ガス等を使用し、待機モード(待機状態)においてカラムを保護すればよい。これにより、待機状態においてヘリウムガスを用いてカラムの保護を行っていた従来のクロマトグラフ装置に比べ、低コストでカラムを保護することができる。また、キャリアガスが水素ガスである場合には、カラム保護ガスとして、窒素ガスやアルゴンガス等を用いればよい。
さらに、カラム保護ガスとして、キャリアガスと同じ種類のガスであって、その純度が低いものを用いてもよい。
【0010】
本発明に係るガスクロマトグラフ装置は、更に
e) 前記カラムに導入するガスのフロー状態を制御するモードとして、線速度一定モード、流量一定モード、及び圧力一定モードのうち、少なくとも一つの制御モードを有するフローコントローラと、
f) 前記分析モードから前記待機モードへの移行時に、前記フローコントローラによる制御モード及び該モードに関するパラメータを変更することなく、前記カラムに導入するガスを前記キャリアガスから前記カラム保護ガスに変更した場合の線速度、カラム保護ガスの流量、及びカラム保護ガスの圧力のうちの少なくとも一つの値を推算し、その推算値が予め設定された範囲内であるかを判定する判定部と、
g) 前記判定部が前記推算値が前記範囲内ではないと判定した場合に、予め定められた方法により使用者に前記フローコントローラの制御モード及び/又は該モードに関するパラメータの変更を促す変更指示部と
を備えることが望ましい。
【0011】
ガスの種類が異なると、粘性等の特性が変化する。そのため、ガスが切り替えられた後もフローコントローラによる制御モードがそのまま継続され、該モードに関する諸パラメータが同一のままであると、キャリアガスをカラムに導入する場合とカラム保護ガスをカラムに導入する場合ではガス導入部のデバイスで制御するパラメータ(ガス流量、ガス圧力等)の値が異なる。例えば、線速度一定モードでガスのフロー状態を制御しているときに、カラムに導入するガスを粘性の高いガスから粘性の低いガスに切り替える際には、カラムに流すガスの流量を低下させる必要がある。こうした場合、ガス導入部のデバイスで制御可能な流量の下限値を下回ってしまい、ガスのフロー状態を制御することができなくなってしまう可能性がある。
本発明に係るガスクロマトグラフ装置では、上記の構成を備えることにより、分析モードから待機モードへの移行時にガスの流量や圧力を制御できなくなることを防止することができる。
【0012】
本発明に係るガスクロマトグラフ装置は、更に
h) 前記待機モードから前記分析モードへの移行時に、前記流路切替部の切り替えを行ってから所定の時間が経過した後、所定の方法によりカラム保護ガスからキャリアガスへの置換が完了したことを使用者に通知する通知部
を備えることが望ましい。
【0013】
待機モードから分析モードに移行する際に流路制御部が流路切替部の切り替えを行ってから、カラム内を流れるガスがカラム保護ガスからキャリアガスに置換されるまでには一定の時間を要する。カラム内を流れるガスの置換が完了するまでに分析を開始してしまうと、測定精度が低下してしまう。一方、必要以上の長時間にわたってガスの置換完了を待つと時間のロスになるとともに、ランニングコストも増加する。
上記構成を備えることにより、ガスの置換に係る必要十分な時間だけ分析の開始を待つことができる。なお、上記所定の時間の長さは、予めカラム内を流れるガスがキャリアガスに置換されるまでに要する時間を計測しおくことにより、定めることができる。
【0014】
本発明に係るガスクロマトグラフ装置は、あるいは
i) 質量分析用の標準物質をその内部に導入可能な質量分析装置と、
j) 前記待機モードから前記分析モードに移行する際に、前記標準物質と前記カラム保護ガスの質量分析を行い、前記標準物質から生成したイオンのマスピークの強度と前記カラム保護ガスから生成したイオンのマスピークの強度とを比較するピーク比較部と
を備えるようにしてもよい。
【0015】
上記の構成では、流路制御部が流路切替部を切り替えた後、待機モードから分析モードへの移行を完了するまでの間、質量分析装置内に一定量の標準物質を導入し続ける。標準物質から生成したイオンのマスピークの強度が常に一定であるのに対し、カラム保護ガスから生成したイオンのマスピークの強度は、カラム内部を流れるガスの置換が進むにつれて低下していく。従って、標準物質のマスピークの強度とカラム保護ガスのマスピークの強度を比較することによって、カラム内部を流れるガスがキャリアガスに置換されていることを確認することができる。
【発明の効果】
【0016】
待機モード中にカラムが劣化することを防ぐため、本発明に係るガスクロマトグラフ装置においても、従来と同様にカラム内にガスを流通させて保護する。しかし、本発明に係るガスクロマトグラフ装置では、待機モードにおいてカラムに流しておく保護ガスとして、キャリアガスよりも安価なガスを使用することができる。例えば、キャリアガスがヘリウムガスである場合には、カラム保護ガスとして、窒素ガスやアルゴンガス、あるいは水素ガス等を使用し、待機状態においてカラムを保護する。これにより、待機状態においてヘリウムガスを用いてカラムの保護を行っていた従来のクロマトグラフ装置に比べ、低コストでカラムを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一実施例の要部構成を説明する図。
【図2】分析モードから待機モードへの移行手順の一例を説明する図。
【図3】待機モードから分析モードへの復帰手順の一例を説明する図。
【図4】本発明に係るガスクロマトグラフ装置の別の実施例の要部構成を説明する図。
【図5】待機モードから分析モードへの復帰手順の別の例を説明する図。
【図6】圧力一定モードでフロー状態を制御する場合のガス流量の計算結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一実施例について、図1を参照して説明する。本実施例のガスクロマトグラフ装置は、検出部として質量分析装置を備えるGC/MSである。
【0019】
本実施例のGC/MSは、キャリアガス流路1、カラム保護ガス流路2、前記2つの流路のうちいずれか一方のみを後段の流路と連通させる流路切替部3、流路切替部3の後段に位置してガスのフロー状態を制御するフローコントローラ(AFC)4、気体試料を注入する試料注入部5、キャピラリカラム6、及びキャピラリカラム6の出口端に配置された質量分析装置11を備える。キャピラリカラム6はヒータ8を備えたカラムオーブン7内に配置される。
本実施例のGC/MSは、さらに上記の各構成機器を動作させる機器制御部10と、機器制御部10に指示を与えるコンピュータ20を備える。所要のプログラムを搭載したコンピュータ20は、モード切替部21、データ処理部22、判定部23、変更指示部24、モード情報記憶部25、及び移行時間記憶部26を備える。コンピュータ20が有する各部の詳細については後述する。また、コンピュータ20には入力部30、表示部31が接続されている。
【0020】
はじめに、分析モード時の動作を説明する。本実施例のGC/MSでは、キャリアガスとしてヘリウムガスを、カラム保護ガスとして窒素ガスを、それぞれ使用する。機器制御部10は、モード切替部21の指示に従い、ヘリウムガスをキャピラリカラム6に導入するように流路切替部3を制御し、所定のタイミングで試料注入部5から気体試料を注入する。また、フローコントローラ4は、キャピラリカラム6の入口端におけるヘリウムガスの注入圧が100kPaに維持されるように圧力一定モードで制御している。
【0021】
ヘリウムガスに乗ってカラムオーブン7内のキャピラリカラム6に導入された試料中の各成分は、キャピラリカラム6内部で時間的に分離されて、順次出口端に到達する。出口端に到達した各成分は質量分析装置11のイオン化部111においてイオン化され、質量分離部112を通った後、イオン検出器113で検出される。イオン検出器113で得た検出信号はA/D変換器(ADC)15によりデジタル変換されたあと、コンピュータ20内のデータ処理部22に送られる。
【0022】
次に、分析モードから待機モードへの移行について、図2を参照して説明する。使用者が入力部30を通じて分析モードから待機モードへの移行を指示すると、モード切替部21は分析モード時の機器制御パラメータ(キャリアガスの種類、フローコントローラ4による制御モード及び制御パラメータ等)をモード情報記憶部25に保存する(ステップS1)。
また、判定部23が、予め設定された条件(ガスの粘性、キャピラリカラムの内径及び長さ、カラムオーブンの温度等)に基づき、フローコントローラ4の制御モード(圧力一定モード)及び制御パラメータ(注入圧100kPa)を変更することなく、カラムに導入するガスをヘリウムガスから窒素ガスに変更した場合のガス流量及び線速度を推算する(ステップS2)。そして、推算値が、予め設定された値の範囲(ガス供給デバイス等により制御可能な流量範囲、カラムを保護可能な線速度の範囲、質量分析装置11で許容できる流量範囲)であるかを判定する(ステップS3)。推算値が設定値の範囲外である場合には、判定部23は、使用者にフローコントローラ4の制御モード及び/又は制御パラメータを変更するよう促す画面を表示部31に表示する。これを受けて使用者が制御モード及び/又は制御パラメータを変更する(ステップS31)と、判定部23は再び推算値を算出して判定を行う。これは、判定部23による推算値が予め設定された値の範囲内になるまで繰り返し行う。なお、本実施例はGC/MSであるため、予め設定された値の範囲の一つに「質量分析装置11で許容できる流量範囲」が含まれるが、これは用いる検出器の種類によって異なる。
【0023】
フローコントローラ4の制御モード及び制御パラメータの設定が完了すると、モード切替部21は機器制御部10を通じて流路切替部3を動作させ、キャピラリカラム6に連通する流路をキャリアガス流路1からカラム保護ガス流路2に変更する(ステップS4)。これにより、キャピラリカラム6に導入されるガスがヘリウムガスから窒素ガスに変更され、待機モードへの移行が完了する。待機モードに移行すると、キャピラリカラム内を流通するガスが、徐々にヘリウムガスから窒素ガスに置換される。
【0024】
本実施例のGC/MSでは、待機モードの間、窒素ガスによりキャピラリカラムを保護することができるため、従来のように待機モードでもヘリウムガスを流通させていた従来のガスクロマトグラフ装置に比べ、低コストでカラムを保護することができる。
【0025】
続いて、待機モードから分析モードへの復帰について、図3を参照して説明する。待機モードを終了しようとする時点では、キャピラリカラム6内を窒素ガスが流通している。従って、気体試料の分析を開始する前に、キャピラリカラム6内を流通している窒素ガスをキャリアガスであるヘリウムガスに置換しておく必要がある。
【0026】
モード切替部21は、まず、モード情報記憶部25から分析モード用の機器制御パラメータを読み出す(ステップS5)。そして、モード切替部21は、読み出した分析モード用の機器制御パラメータに基づき、機器制御部10を通じてフローコントローラ4等の各機器のパラメータ設定を行う。また、流路切替部3を動作させて、キャピラリカラム6に連通させる流路をカラム保護ガス流路2からキャリアガス流路1に戻す(ステップS6)。
【0027】
続いて、モード切替部21は、キャピラリカラム6内のガスを窒素ガスからヘリウムガスに置換するために要するガス置換時間を移行時間記憶部26から読み出し、その時間待機する(ステップS7)。なお、移行時間記憶部26には、予備実験によりガス置換時間を測定して予め保存しておく。
【0028】
ガス置換時間経過後、モード切替部21は、キャピラリカラム6内を流通するガスがヘリウムガスに置換され、試料の分析を行うことが可能な状態になったことを表示部31の画面上に表示し、使用者に通知する。こうして、分析モードへの復帰が完了する。
【0029】
上記実施例は検出器として質量分析装置を使用するGC/MSであるが、水素炎イオン化検出器(FID)等の検出器を使用する場合でも同じ手順により分析モードから待機モードへの移行、及び待機モードから分析モードへの復帰を行うことができる。なお、本実施例のモード切替部21は、モードの切り替え等を行うと共に流路制御部及び通知部として機能する。
【0030】
次に、待機モードから分析モードへの復帰において、別の方法でキャピラリカラム内のガスが窒素ガスからヘリウムガスに置換されたことを確認して分析モードへの復帰を完了させる、別の実施例について、図4及び図5を参照して説明する。
【0031】
この場合の装置構成を図4に示す。このGC/MSは、イオン化部111の手前の位置で、質量分析に使用する標準物質であるPFTBAを注入する標準物質注入部9を備えている。また、コンピュータ20は、後述する動作を行うピーク比較部27を備えている。これら以外の構成は図1に示したGC/MSと同じであるため、同一の符号を付して説明を省略する。また、この実施例の待機モード移行ステップ(ステップS1からステップS4)、及び分析モード復帰ステップの一部(ステップS5及びステップS6)は上記実施例と同じであるため、これらについても説明を省略する。
【0032】
図4に示す構成では、上述したステップS6を行った後、モード切替部21の指示に従って標準物質注入部9は一定量のPFTBAを注入し続ける(ステップS71)。これにより、質量分析装置のイオン化部111には、窒素ガスとヘリウムガスに加え、PFTBAが導入され、それぞれがイオン化される。これらのイオンは、質量分離部112を通過した後、イオン検出器113で検出される。イオン検出器113で得た検出信号は、A/D変換器15によりA/D変換された後、データ処理部22でスペクトル化されて表示部31に表示される(ステップS72)。
このとき、ピーク比較部27は、窒素ガスとPFTBAのそれぞれから生成されるイオンの強度を比較する(ステップS73)。そして、これらのピーク強度の比が予め設定された値以下になった時点で、キャピラリカラム6内を流れるガスが窒素ガスからヘリウムガスに置換されたと判断する。
これを受け、モード切替部21は、試料の分析を行うことが可能な状態になったことを表示部31の画面上に表示し、使用者に通知する。なお、この実施例におけるPFTBAは質量分析に用いる標準物質の一例として挙げたものであり、当然、標準物質の種類はこれに限定されない。
【0033】
上記実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変更や修正を行うことが可能である。
例えば、上記実施例では、キャリアガスがヘリウムガスであり、カラム保護ガスが窒素ガスである場合を例に説明したが、この組み合わせに限らず、カラム保護ガスがキャリアガスよりも安価なガスである組み合わせであればよい。このとき、必ずしもカラム保護ガスをキャリアガスと異なる種類のガスにする必要はなく、キャリアガスよりも純度が低い同一種類のガスとしてもよい。
また、比較的高価なガスであっても、使用するカラムの特性や当該ガスの粘性によっては、カラムに流すガスの流量を抑え、低コストでカラムを保護することができる場合がある。図6にその一例を示す。
【0034】
図6は、GC/MS装置においてフローコントローラが圧力一定モード(注入口圧100kPa)でガスのフロー状態を制御し、内径0.25mmのキャピラリカラム内にガスの導入する場合の、種々のガス(水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス)の流量を計算した結果である。また、図6(a)は長さ30mのキャピラリカラムの場合、図6(b)は長さ10mのキャピラリカラムの場合の結果であり、キャピラリカラムの温度が40℃である場合と100℃である場合についてそれぞれ計算した結果を示している。これらの条件下では、アルゴンガスを使用すると、ガスそのものは比較的高価であるが、流量を抑えて低コストでカラムを保護することができる。
【0035】
上記実施例では、フローコントローラ4が圧力一定モードでガスのフロー状態を制御する例について説明したが、フローコントローラ4が流量一定モード、あるいは線速度一定モードでガスのフロー状態を制御するようにしても良い。この場合には、判定部23は一定値で制御しているパラメータ以外の値について推算値を算出し、設定値の範囲内であるか判定する。
また、予めモード情報記憶部25に複数の分析モード時の機器制御パラメータ(キャリアガスの種類、フローコントローラ4による制御モード及び制御パラメータ等)及び複数の待機モード時の機器制御パラメータをメソッドファイルとして保存しておき、使用者が入力部30を通じてこれらの中から所望のモードを選択し、モード切替部21に実行させることによりモード切替(分析モードから待機モードへの移行、及び待機モードから分析モードへの復帰)を行うようにしても良い。これにより、分析モードから待機モードへの移行時に、判定部23がその都度推算及び判定を行う必要がなくなり、モード切替の効率を高めることができる。また、この場合には、待機モードから分析モードへの復帰時に、前の分析モードとは異なる機器制御パラメータの分析モードに復帰させることができる。
【0036】
その他、上記実施例では、いずれもキャピラリカラムを使用するガスクロマトグラフ装置を例に説明したが、本発明はパックドカラムを使用するガスクロマトグラフ装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…キャリアガス流路
2…カラム保護ガス流路
3…流路切替部
4…フローコントローラ
5…試料注入部
6…キャピラリカラム
7…カラムオーブン
8…ヒータ
9…標準物質注入部
10…機器制御部
11…質量分析装置
20…コンピュータ
21…モード切替部
22…データ処理部
23…判定部
24…変更指示部
25…モード情報記憶部
26…移行時間記憶部
27…ピーク比較部
30…入力部
31…表示部
111…イオン化部
112…質量分離部
113…イオン検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスに乗せて導入される気体試料に含まれる各成分を時間的に分離するカラムを有し、前記気体試料の分析を実行する分析モードと分析を実行しない待機モードとを切り替えて実行可能なガスクロマトグラフ装置であって、
a) 前記キャリアガスを前記カラムに導入するキャリアガス流路と、
b) 前記キャリアガスとは別のカラム保護ガスを前記カラムに導入するカラム保護ガス流路と、
c) 前記キャリアガスと前記カラム保護ガスのうちのいずれか一方のみがカラムに導入されるように、前記キャリアガス流路及び前記カラム保護ガス流路と前記カラムの間に設けられた流路切替部と、
d) 前記分析モード時には前記キャリアガスを前記カラムに導入し、前記待機モード時には前記カラム保護ガスを前記カラムに導入するように前記流路切替部を制御する流路制御部と
を備えることを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項2】
e) 前記カラムに導入するガスのフロー状態を制御するモードとして、線速度一定モード、流量一定モード、及び圧力一定モードのうち、少なくとも一つの制御モードを有するフローコントローラと、
f) 前記分析モードから前記待機モードへの移行時に、前記フローコントローラによる制御モード及び該モードに関するパラメータを変更することなく、前記カラムに導入するガスを前記キャリアガスから前記カラム保護ガスに変更した場合の線速度、カラム保護ガスの流量、及びカラム保護ガスの圧力のうちの少なくとも一つの値を推算し、その推算値が予め設定された範囲内であるかを判定する判定部と、
g) 前記判定部が前記推算値が前記範囲内ではないと判定した場合に、予め定められた方法により使用者に前記フローコントローラの制御モード及び/又は該モードに関するパラメータの変更を促す変更指示部と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ装置。
【請求項3】
h) 前記待機モードから前記分析モードへの移行時に、前記流路切替部の切り替えを行ってから所定の時間が経過した後、所定の方法によりカラム保護ガスからキャリアガスへの置換が完了したことを使用者に通知する通知部
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスクロマトグラフ装置。
【請求項4】
i) 質量分析用の標準物質をその内部に導入可能な質量分析装置と、
j) 前記待機モードから前記分析モードに移行する際に、前記標準物質と前記カラム保護ガスの質量分析を行い、前記標準物質から生成したイオンのマスピークの強度と前記カラム保護ガスから生成したイオンのマスピークの強度とを比較するピーク比較部と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44647(P2013−44647A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182698(P2011−182698)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)