説明

ガスシールド体及び水中補修溶接装置

【課題】被補修面が滑らかであるか否かにかかわらず、溶接部ないしその近傍をドライ雰囲気に保つことができ、良好な水中補修溶接を行うことが可能になるガスシールド体及び水中補修溶接装置を提供する。
【解決手段】水中構造物Sをレーザ溶接により水中補修する水中補修溶接装置であって、レーザ発振器2と、レーザ発振器2で発振されたレーザ光Lを集光して水中構造物Sに照射する集光部5を有するレーザ溶接ヘッド7と、レーザ溶接ヘッド7の先端に位置してレーザ光Lと同軸にシールドガスGを溶接部分に供給するノズル6と、ノズル6に設置されてガス保持空間13を多数有するシールド体本体12を具備したガスシールド体11を備え、シールド体本体12には、被覆板20に接触して該被覆板20上の凹凸を吸収可能に摺動する接触面14と、ノズル6の先端が一端側に嵌合され且つ他端が接触面14で開口する貫通孔15が具備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中構造物にレーザ光を照射して該水中構造物の補修を行うに際して、溶接部ないしその近傍を局部的にドライ環境とするのに用いられるガスシールド体及び水中補修溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中構造物、例えば、原子炉の炉内水中構造物や使用済燃料貯蔵プール内張りに溶接欠陥、応力腐食割れ等の欠陥部が発生した場合には、グラインダや放電加工によって欠陥部を完全に除去した後に、この欠陥部の除去加工で形成された窪みに肉盛溶接による補修を行うことが望ましい。
【0003】
この欠陥部を除去する補修作業には、多くの手間隙がかかることから、これに代わる有効な補修方法として、例えば、炉内水中構造物に生じた欠陥部を養生板で覆い、不活性ガスを供給しながら養生板の周縁部をレーザ溶接により隅肉溶接することで、欠陥部を炉水やプール水から隔離する水中補修溶接方法が知られている。
【0004】
この際、溶接部の近傍を局所的にドライ環境とする必要があるが、従来において、溶接部近傍の局所的なドライ環境を確保する技術を有するものとしては、例えば、特許文献1に記載された水中補修溶接装置がある。
【0005】
この水中補修溶接装置は、レーザ発振器で発振されたレーザ光を適切なサイズに集光して水中構造物に照射する集光部を有するレーザ溶接ヘッドと、このレーザ溶接ヘッドの先端に位置して溶接部分にシールドガスをレーザ光と同軸に供給するノズルと、このノズルに設置されたシールドボックスを備えており、このシールドボックスは、溶接部分を囲み且つ溶接部分側で開口する箱体と、この箱体の開口周縁部に取り付けられた弾性体からなっている。
【0006】
この水中補修溶接装置では、ノズルを介して供給されるシールドガスで充填されるシールドボックスの弾性体を被溶接面に接触させることで、レーザ溶接時において、溶接部分の水を排除してこの溶接部分ないしその近傍の局所的なドライ環境を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4363933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記した従来の水中補修溶接装置おいて、弾性体を被溶接面に接触させたシールドボックスに、ノズルを介してシールドガスを連続して供給することで、溶接部分ないしその近傍のドライ環境をある程度確保することができるものの、弾性体が被溶接面上の凹凸を通過する場合などのように、弾性体及び被溶接面間に僅かながらでも隙間が生じる場合には、この隙間からシールドガスが一気に噴出して、溶接部分ないしその近傍のドライ環境が損なわれてしまう可能性があるという問題を有しており、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0009】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、水中補修溶接を行うに際して、被溶接面が滑らかである場合は勿論のこと、被溶接面上に凹凸があったとしても、溶接部ないしその近傍をドライ雰囲気に保つことができ、その結果、良好な補修溶接を行うことが可能になるガスシールド体及びこれを備えた水中補修溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、水中構造物をレーザ溶接により水中補修する際に、被溶接面上の溶接部ないしその近傍をドライ雰囲気に保つガスシールド体であって、ガス保持空間を多数有するシールド体本体を備え、このシールド体本体には、前記被溶接面に接触して該被溶接面上の凹凸を吸収可能に摺動する接触面と、前記溶接部に照射されるレーザ光と同軸にアルゴンガスやヘリウムガスや窒素ガスなどのシールドガスを供給するノズルの少なくとも先端が一端側に嵌合され且つ他端が前記接触面で開口する貫通孔が具備されている構成としており、この構成のガスシールド体を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0011】
また、本発明の請求項2に係るガスシールド体は、前記シールド体本体の水中における浮遊を抑える浮遊抑止手段が備えられている構成としている。
【0012】
一方、本発明の請求項3に係る発明は、レーザ発振器と、前記レーザ発振器で発振されたレーザ光を集光して水中構造物の被溶接面に照射する集光部を有するレーザ溶接ヘッドと、前記レーザ溶接ヘッドの先端に位置して前記レーザ光と同軸にシールドガスを溶接部分に供給するノズルを具備して水中構造物をレーザ溶接により水中補修する水中補修溶接装置であって、請求項1又は2に記載のガスシールド体を前記ノズルに設置した構成としている。
【0013】
本発明に係るガスシールド体において、ガス保持空間を多数有するシールド体本体には、ナイロン製のスポンジや目が細かいステンレス製の網を束ねて成るものや柔軟性のあるナイロン製の多孔質体を用いることができ、ガス(気泡)を保持する微小な空間を多数有していて、凹凸を吸収し且つ型崩れしないものであれば、材質はとくに限定しない。
【0014】
また、本発明に係るガスシールド体において、シールド体本体の水中における浮遊を抑える浮遊抑止手段としては、例えば、シールド体本体を収容する(囲む)ケースや、シールド体本体内に設置可能な錘を採用することができるほか、シールド体本体自身の重量を重くするようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明に係るガスシールド体において、シールド体本体の形状は、製造のし易さを考慮して、直方体形状とすることが望ましいが、例えば、円筒形状や円錐台形状とすることも可能である。
【0016】
一方、本発明に係る水中補修溶接装置において、レーザ溶接には、YAGレーザやファイバーレーザを用いることができるほか、半導体レーザやディスクレーザを用いることができる。
この際、レーザ出力を0.8〜4.0kWとした場合、レーザ光のビーム径は、入熱過多や入熱不足を防ぐうえで、0.6〜1.0mmとすることが望ましい。
【0017】
また、本発明に係る水中補修溶接装置は、下向姿勢及び横向姿勢のいずれの姿勢にも適用できる、すなわち、被溶接面が水中構造物の底面である場合の補修及び被溶接面が水中構造物の壁面である場合の補修のいずれの補修にも適用することができる。
【0018】
本発明に係るガスシールド体及び水中補修溶接装置では、水中構造物の補修を行うに際して、ノズルを介してガスシールド体にシールドガスを供給しつつシールド体本体の接触面を被溶接面に接触させて摺動させると、シールド体本体の貫通孔に供給されるシールドガスにより溶接部分の水が排除されて、この溶接部分ないしその近傍の局所的なドライ環境が確保されることとなる。
【0019】
この際、ノズルを介してガスシールド体におけるシールド体本体の貫通孔に供給されるシールドガスの一部が、細かい気泡となってシールド体本体の多数のガス保持空間に保持されているうえ、シールド体本体の接触面が被溶接面上の凹凸を吸収するようになっているので、被溶接面上に凹凸があったとしても、シールド体本体の接触面と被溶接面との間からシールドガスが一気に噴出すようなことがなく、その結果、溶接部ないしその近傍はドライ雰囲気に保たれることとなって、良好な水中補修溶接を行い得ることとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係るガスシールド体では、上記した構成としているので、水中補修溶接を行うに際して、被溶接面が滑らかであるか否かに関係なく、溶接部ないしその近傍をドライ雰囲気に保つことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0021】
また、本発明の請求項2に係るガスシールド体では、上記した構成としているので、シールド体本体が水中において浮遊するのを防ぐことができる。
【0022】
一方、本発明の請求項3に係る水中補修溶接装置では、上記した構成としているので、溶接部ないしその近傍をドライ雰囲気に保つことができ、その結果、良好な水中補修溶接を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例によるガスシールド体及び水中補修溶接装置を示す構成説明図である。
【図2】図1におけるガスシールド体の拡大底面説明図(a)及び拡大断面説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る水中補修溶接装置を示しており、図1に示すように、この水中補修溶接装置1は、YAGレーザ発振器2と、このYAGレーザ発振器2で発振されたレーザ光Lの光路である光ファイバ3と、この光ファイバ3を通して伝送されるレーザ光Lを適切なサイズに集光して水中構造物Sに照射する集光レンズ4を内蔵した集光部5と、レーザ光Lと同軸に配置されて溶接部分に酸化防止用のアルゴンガスやヘリウムガスや窒素ガスなど不活性シールドガスGを供給するノズル6を備えており、集光部5とノズル6とでレーザ溶接ヘッド7を構成している。
【0025】
また、この水中補修溶接装置1は、レーザ溶接ヘッド7のノズル6の先端部位に設置されるガスシールド体10を備えている。
このガスシールド体10は、浮遊抑止手段としてのケース11に囲まれて保持された直方体形状のシールド体本体12を具備している。このシールド体本体12は、図2にも示すように、ガス保持空間13を多数有していて、被溶接面(この実施例では後述する被覆板20)に接触してこの被溶接面の凹凸を吸収可能に摺動する接触面14と、ノズル6の先端が一端側に嵌合され且つ他端が接触面14で開口する貫通孔15が備えられている。
【0026】
このような構成を有する水中補修溶接装置1を用いて、水中構造物Sの補修を行うに際しては、例えば、水中構造物Sと同じ材料(例えばSUS材)で且つ板厚0.5〜4mmの薄板からなる矩形状の被覆板20で水中構造物Sに生じた欠陥部Xを含む底面Saを覆う。
【0027】
次いで、被覆板20の周縁部から中心側に入り込んだ位置において、レーザ溶接ヘッド7のノズル6からシールドガスGを流量15〜30(l/min)で供給しながら、底面Saの欠陥部Xを井桁状に囲むようにして、レーザ光Lを照射する。
【0028】
具体的には、ビーム径0.6〜1.0(mm)、レーザ出力0.8〜4.0(kW)のレーザ光Lを溶接速度1〜2(m/min)で照射しつつ貫通溶接を行うと、溶加材でもある薄板の被覆板10はフィラーワイヤを用いることなく水中構造物Sの底面Saに固定されることとなり、多層盛りをしなくても溶接部の必要な肉厚を確保し得ることとなる。
【0029】
上記したレーザ溶接の間において、ノズル6を介してガスシールド体10にシールドガスGを供給しつつシールド体本体12の接触面14を被覆板20に接触させて摺動させると、シールド体本体12の貫通孔15に供給されるシールドガスGにより溶接部分の水が排除されて、この溶接部分ないしその近傍の局所的なドライ環境が確保されることとなる。
【0030】
この際、ノズル6を介してガスシールド体10におけるシールド体本体12の貫通孔15に供給されるシールドガスGの一部が、細かい気泡となってシールド体本体12の多数のガス保持空間13に保持されているうえ、シールド体本体12の接触面14が被覆板20上の凹凸を吸収するようになっているので、被覆板20上に凹凸があったとしても、シールド体本体12の接触面14と被覆板20との間からシールドガスGが一気に噴出すようなことがなく、その結果、溶接部ないしその近傍はドライ雰囲気に保たれることとなって、良好な水中補修溶接を行い得ることとなる。
【0031】
上記した実施例による水中補修溶接方法では、レーザ溶接にYAGレーザを用いた場合を示したが、これに限定されるものではなく、ファイバーレーザや半導体レーザを用いることができるほか、ディスクレーザを用いることができる。
【0032】
また、上記した実施例では、本発明に係る水中補修溶接方法を下向姿勢での補修、すなわち、被溶接面が水中構造物S上の被覆板20である場合の補修に適用した状況を示したが、これに限定されるものではなく、横向姿勢、すなわち、被溶接面が水中構造物の壁面である場合の補修にも適用することができる。
【0033】
さらに、上記した実施例では、レーザ光Lのビーム径を0.6〜1.0(mm)、レーザ出力を0.8〜4.0(kW)、レーザ光Lの照射による溶接速度を1〜2(m/min)、不活性シールドガスGの流量を15〜30(l/min)と規定しているが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明に係るガスシールド体及び水中補修溶接装置の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 水中補修溶接装置
2 レーザ発振器
5 集光部
6 ノズル
7 レーザ溶接ヘッド
10 ガスシールド体
11 ケース(浮遊抑止手段)
12 シールド体本体
13 ガス保持空間
14 接触面
15 貫通孔
20 被覆板(被溶接面)
G 不活性シールドガス
L レーザ光
S 水中構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中構造物をレーザ溶接により水中補修する際に、被溶接面上の溶接部ないしその近傍をドライ雰囲気に保つガスシールド体であって、
ガス保持空間を多数有するシールド体本体を備え、
このシールド体本体には、前記被溶接面に接触して該被溶接面上の凹凸を吸収可能に摺動する接触面と、前記溶接部に照射されるレーザ光と同軸にシールドガスを供給するノズルの少なくとも先端が一端側に嵌合され且つ他端が前記接触面で開口する貫通孔が具備されている
ことを特徴とするガスシールド体。
【請求項2】
前記シールド体本体の水中における浮遊を抑える浮遊抑止手段が備えられている請求項1に記載のガスシールド体。
【請求項3】
レーザ発振器と、前記レーザ発振器で発振されたレーザ光を集光して水中構造物の被溶接面に照射する集光部を有するレーザ溶接ヘッドと、前記レーザ溶接ヘッドの先端に位置して前記レーザ光と同軸にシールドガスを溶接部分に供給するノズルを具備して水中構造物をレーザ溶接により水中補修する水中補修溶接装置であって、
請求項1又は2に記載のガスシールド体を前記ノズルに設置した
ことを特徴とする水中補修溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−66910(P2013−66910A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207105(P2011−207105)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000241957)北海道電力株式会社 (78)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(597006470)日本原燃株式会社 (21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】