説明

ガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルム

【課題】 層間剥離を生じること無く、またクラックやピンホールが生じないようにすることを可能とした、ハードコートフィルムやガスバリアフィルムを得ることの出来る樹脂層積層体、及びこれを用いた高機能性を有したハードコートフィルムやガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】 基材となるプラスチックフィルムの表面に樹脂層を形成してなる樹脂層積層体であって、前記樹脂層を構成する樹脂が、ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂層とガスバリア層を積層してなるガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルムに関するものであって、具体的には、樹脂層としてポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物を用いてなり、ガスバリア層として酸化珪素を用いてなるガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今様々なシーンで特定機能を有したフィルムが求められるようになってきている。例えば酸素や湿気を嫌う物質を保護するために、そのようなガスの内部侵入を防ぐことが求められるが、このようなシーンであれば、ガスの内部侵入を防ぐガスバリア性を備えたガスバリア層を積層した機能性フィルムであるガスバリアフィルムが広く利用されている。
【0003】
そして昨今ガスバリアフィルムにあっては、ますます高性能化が求められる傾向にある。そしてより一層の高性能化を求めるに際しては、ガスバリアフィルムにおいてポリシラザン系樹脂を用いることが提案されている。
【0004】
ポリシラザンとは、−SiHNH−というユニットを有する無機ポリマーのことであるが、これを用いて酸化珪素膜を形成することで、例えばそれをガスバリア層として用いることが可能な樹脂であり、これを用いることでガスバリア性をより向上させることが出来るからである。またポリシラザンを用いることで緻密な酸化珪素層の形成が期待される、つまり緻密故にガスバリア性を向上させられる、ということが期待される。
【0005】
そこで、例えば特許文献1においては、基材フィルム表面にポリシラザンを塗布し、これをセラミックス化して酸化珪素層を形成する、という方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−112879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1に記載された発明であれば、セラミックス化した酸化珪素層そのものは十分な硬度を有するものの、酸化珪素層の厚みが十分でないと必要なガスバリア性が得られない、という問題を生じてしまう。
【0008】
そしてこの問題に対処するために層の厚みを増加させることが考えられるが、酸化珪素層の厚みを増加させると十分なガスバリア性は得られるものの、層が堅くなりすぎて可撓性が失われる、即ち容易にクラックが生じる、基材フィルムが備える可撓性との違いにより容易に層間剥離が生じてしまう、という現象が生じてしまい、さらに問題となってしまう。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、層間剥離を生じること無く、またクラックやピンホールが生じないようにすることを可能とした、ガスバリアフィルムの製造方法及びガスバリアフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法に関する発明は、基材の表面に、ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であり、かつ前記混合物におけるシラン化合物の含有率は、ポリシラザン系樹脂に対する重量比で0.005〜0.3である混合樹脂を用いてなる樹脂層を形成してなる樹脂層形成工程と、前記樹脂層形成工程終了後樹脂層を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程終了後、前記樹脂層表面に酸化珪素を蒸着させる蒸着工程と、前記蒸着工程と並行して、規定量の水を前記蒸着工程を実施中の系においてこれを噴霧する水蒸気噴霧工程と、よりなること、を特徴とする。
【0011】
本願発明の請求項2に記載のガスバリアフィルムの製造方法に関する発明は、請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、前記混合樹脂が、パーヒドロポリシラザンとジアルコキシシランとの混合物であること、を特徴とする。
【0012】
本願発明の請求項3に記載のガスバリアフィルムの製造方法に関する発明は、請求項2に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、前記ジアルコキシシランが、少なくとも、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、の群の中の1つ以上を含むものであること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項4に記載のガスバリアフィルムに関する発明は、基材の表面に樹脂層を形成してなるガスバリアフィルムであって、前記樹脂層を構成する樹脂が、ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であり、かつ前記樹脂におけるシラン化合物の含有率は、ポリシラザン系樹脂に対する重量比で0.005〜0.3であること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項5に記載のガスバリアフィルムに関する発明は、請求項4に記載のガスバリアフィルムであって、前記樹脂が、パーヒドロポリシラザンとジアルコキシシランとの混合物であること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項6に記載のガスバリアフィルムに関する発明は、請求項5に記載のガスバリアフィルムであって、前記ジアルコキシシランが、少なくとも、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、の群の中の1つ以上を含むものであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本願発明に係るガスバリアフィルムの製造方法及びかかる製造方法より得られるガスバリアフィルムであれば、ポリシラザン系樹脂とシラン系樹脂とを混合してなる樹脂を基材表面に積層し、積層体の表面に対し一定量の水を吹き付けつつ酸化珪素を積層する、という手法を用いることで、層間剥離が抑制され、かつ酸化珪素が緻密なものとできることで、従来品に比して高性能のガスバリアフィルムとすることが容易に出来る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
本願発明に係るガスバリアフィルムの製造方法及び該製造方法により得られるガスバリアフィルムに関して、第1の実施の形態として説明する。
【0019】
本実施の形態に係るガスバリアフィルの製造方法は、基材の表面に、ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物である樹脂を用いてなる樹脂層を形成してなる樹脂層形成工程と、樹脂層を乾燥させる乾燥工程と、樹脂層表面に酸化珪素を蒸着させる蒸着工程と、蒸着工程と並行して、規定量の水を蒸着工程を実施中の系においてこれを噴霧する水蒸気噴霧工程と、よりなる。
【0020】
尚、本実施の形態における樹脂は、ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であることが好ましく、また実際にかかる混合物を利用するもので有り、かつその混合物におけるシラン化合物の含有率は、ポリシラザン系樹脂に対する重量比で0.005〜0.3であることが好ましい。これに関しては改めて後述する。
【0021】
まず本実施の形態において用いる基材であるが、プラスチックフィルムとして、例えば厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いることが好ましい。またこの他に、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの光学フィルムや、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、無延伸ポリプロピレン(CPP)等のプラスチックフィルムを用いることも可能である。尚、プラスチックフィルムの厚さは、後述するように樹脂層をウェブコーターで塗工する場合はある程度の柔軟性が必要であり200μm以下であることが好ましいが、下限については数μm以上あればよく、特に限定されるものではない。また、ウェブコーターで塗工しない場合はプラスチックフィルムの厚さは問題にならない。
【0022】
次に樹脂層に関し説明をする。
本実施の形態において樹脂層を構成する樹脂は前述の通りポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であるものとするが必ずしもこれに限定されるものではないことを断っておく。
【0023】
ポリシラザン系樹脂とシラン化合物との混合比について述べると、これは随時好適な比率として構わないが、特に混合物(以下「混合樹脂」とも言う。)におけるシラン化合物の含有率は、ポリシラザン系樹脂に対する重量比で0.005wt%〜0.3wt%であることが非常に好適である。その理由は、この範囲内の比とすることで、本実施の形態に係る樹脂層積層体を後述するように用いることでハードコートフィルムやガスバリアフィルムを得るに際して最も効果的な高機能層を容易に得ることが出来るからである。さらに述べるとアルコキシシランの転化量が増すにつれて引っ張り応力が高くなるので、0.3wt%が実用的に最大であり、また蒸着によってSiOを積層する場合はSiOの圧縮応力と釣り合いをとる為には0.1wt%〜0.3wt%が最適である。
【0024】
尚、混合樹脂を構成するポリシラザン系樹脂がパーヒドロポリシラザン(PHPS)であり、またシラン化合物がジアルコキシシランであるものとすると、より効果的に機能性フィルムを得ることが出来る。そしてジアルコキシシランが、少なくとも、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、の群の中の1つ以上を含むものとすれば、より一層効果的な高機能層を容易に得ることが出来る。その理由、及びどのように効果的であるかは後述する。
【0025】
混合樹脂は次のようにして準備される。まずPHPSを主剤とし、これに添加剤としてジアルコキシシランやジメチルジエトキシシランなどのシラン化合物を加える。本実施の形態では、この際加えるシラン化合物の量として前述の通りPHPSに対する重量比で0.005wt%〜0.3wt%の範囲内となるようにする。
【0026】
PHPSを溶解している溶媒は適宜選択すればよい。同様に、シラン化合物を加えるために、シラン化合物を適宜溶媒を選択すればよい。
【0027】
そしてPHPSが溶解している溶液に、シラン化合物を溶解している溶液を加えるのである。
【0028】
このようにして準備された混合樹脂をコーティング液として、本実施の形態に係る樹脂層積層体を構成する基材の表面にこれを塗布、積層する。これが本実施の形態における樹脂層積層工程である。
【0029】
基材の表面に混合樹脂を積層する手法は、いわゆるウェットコーティングと称される手法で行われることが一般的であり、例えばバーコート法によるもの、即ちバーコーターやウェブコーターを用いて塗布形成するものであったり、スプレーにより立体的成形物に塗布する方法や、スピンコーターやディップ法等の塗布方法を応用することも考えられるが、本実施の形態においてはバーコート法により行われるものとする。混合樹脂の積層厚は、本実施の形態では400nm以上5000nm以下であればよいものとする。ハードコート性に優れたものとするならば上記範囲であることが好ましく、またクラック耐性を得る為には5000nm以下であることが好ましいからである。
【0030】
そして樹脂層を積層した後、これを乾燥させることとで積層体を得る乾燥工程を実行する。乾燥について特に制限するものではないが、本実施の形態では120℃の雰囲気下でこれを乾燥させることとする。
【0031】
この段階における積層体は、基材の表面にポリシラザン系樹脂とシラン化合物樹脂との混合物による混合樹脂層が積層された状態であり、特にポリシラザン系樹脂がPHPSであり、またシラン化合物樹脂がジアルコキシシランとしておけば、高機能性を有したガスバリアフィルムを得やすくなる。
【0032】
次にこの積層体に対し、樹脂層表面に酸化珪素を蒸着させる蒸着工程と、蒸着工程と並行して、規定量の水を蒸着工程を実施中の系においてこれを噴霧する水蒸気噴霧工程と、を実行する。これらの工程が完了することにより、積層体の表面にガスバリア層であるSiOxが積層された状態となり、本実施の形態に係るガスバリアフィルムを得る。
【0033】
この蒸着工程と水蒸気噴霧工程につき簡単に説明すると次の通りである。
まず樹脂層積層体をそのまま真空蒸着装置にセットする。
ついで以下に示す条件の下、樹脂層表面にSiOxを蒸着する。
・ 蒸発源:SiO
・ 圧力:到達真空度→4×10−3Pa
成膜真空度(ガス導入時)→2×10−2Pa
・ 加熱方式:EB(エレクトロンビーム)加熱
* 尚、加熱方式はここではEBを採用しているが、これ以外の方式、例えば抵抗加熱方式や高周波誘導加熱方式であっても良いものとする。
【0034】
・ バリア膜厚み:50nm〜350nm(*)
・ 導入ガス:水蒸気
* 厚みが50nm以下であるとバリア性を確保出来ず、350nm以上であると膜応力によってクラックが入る。よってこの範囲内とする。
【0035】
この蒸着作業を行うと同時に真空蒸着装置内にセットされているガス配管から規定量の水を積層体の樹脂層表面に吹き付ける。これが水蒸気噴霧工程である。この水蒸気噴霧工程を実行することで、PHPSに加水分解反応が生じ、その結果PHPSとSiOとが、熱と水との影響により強固に接合する。その結果、応力や摩擦によってSiOx膜が脱落することを抑制又は防止することが可能となり、即ちハイバリア性を有するガスバリアフィルムを得る。
【0036】
ここで加水分解に付き考察しておく。
樹脂層における加水分解のメカニズムは次のように考えられる。
まずPHPSは大気中の水分により加水分解し、セラミックス化したSiO2構造へと変化する。しかしこの際、PHPSにはシラン化合物(ジアルコキシシラン)が添加されており、この存在がPHPSがSiO2構造へと変化することをある程度抑制する。
【0037】
ここで簡単に抑制のメカニズムにつき述べておく。PHPSがSiO2となる場合、Si原子の持つ4つの結合手は全て酸素原子と結合し、その結果として完全なSi−O結合を4つ有するSiO2となるが、ジアルコキシシランの場合、本来Si原子が4つ有しているはずの結合手のうち2つはすでにアルコキシドによってふさがれているため、Si−O結合は結果として2つしか形成されない。即ち完全なSiO2への変化が抑制される、ということになるのである。
【0038】
ちなみに、この抑制の度合いは添加するシラン化合物の有する分子構造やその添加量により異なり、それが最終的に成膜されるSiO2膜の応力、密着性や硬度、等に現れる。
【0039】
そして、1つのSi元素に対し2つのアルコキシ基が結合したジアルコキシシランをシラン化合物としてPHPSに添加した場合、酸化珪素膜のSiO2の成長は部分的に一次元となり、即ち立体障害が最小となるので、化学構造を観察した場合にはフレキシブルなSiO2セクターが形成される。その結果、この場合の、樹脂層が加水分解されて得られる層は可撓性が大幅に改善され、クラックの発生が無い良好な層となる。
【0040】
一方、トリアルコキシシランやテトラアルコキシシランなどのように、1つのSi元素に対し3つ以上のアルコキシ基が結合したシラン化合物をPHPSに添加した場合、酸化珪素膜のSiO2クラスターの成長が助長されてしまい、同時に多量のヒドロキシ基が残存してしまうことより、立体障害が多数発生し、また応力が増大してしまうため、可撓性を改善する効果はさほど期待出来ず、むしろこのようなシラン化合物を添加すると可撓性の低い層となってしまうことが考えられる。
【0041】
このように加水分解が行われるものと考えられ、また上記の理由により本実施の形態では特に樹脂層に用いられるシラン化合物がジアルコキシシランであることが好ましいのである。
【0042】
一方、樹脂層に対し加水分解が行われるのと並行して、樹脂層が積層されている基材フィルムに対しても同様に加水分解の効果が生じる。これに関し簡単に説明する。
【0043】
本実施の形態における基材フィルムとしてPETフィルムを用いているが、PETフィルムは従来、湿度が加えられると加水分解され、その結果PETフィルムは脆くなってしまう。つまりPETフィルムを構成するPETはエステル結合を有するものであり、このエステル結合が加水分解されてしまい高分子中の結合が切断されてしまう、即ち脆くなってしまうのである。
【0044】
しかしここで注目すべきは、基材フィルムにおける加水分解による効果と、樹脂層における加水分解による効果との関係である。これらは相乗して応力を相殺する効果を生み出す。即ち樹脂層は加水分解することにより収縮しようとし、一方基材フィルムは加水分解することにより膨張しようとする。
【0045】
そしてこれら両方の力がある程度相殺されることにより、結果として樹脂層積層体全体に加えられる応力はいわゆるプラスマイナスゼロに近い状態となり、即ちカールが生じにくい積層体となる。
【0046】
以上のメカニズムにより、基材フィルムとこれに積層された樹脂層との間で、それぞれの持つ応力を原因とする層間剥離が生じにくい積層体とすることが出来る。このようにして樹脂層が加水分解することで層間密着力は確保されるものと考えられる。
【0047】
さらに、上述した反応と同時に生じていると考えられる樹脂層のPHPSとSiOxとの間に生じると考えられる反応のメカニズムにつき簡単に述べておく。
【0048】
蒸着中樹脂層の表面、即ちPHPSの表面に水蒸気(HO)を吹き付けることにより、前述したPHPSの加水分解時の状態が発生する。これは蒸着時の熱も加わるためである。そのためPHPSの加水分解時に、蒸着物質であるSiOがPHPSに付着する。つまりPHPSが加水分解されSiO2になる反応と、樹脂層とバリア層との間に生じるSiOとSiOとの反応とが同時に起こることとなる。その結果、PHPSとSiOxとが強固に結合し、即ち層間密着力が確保される。
【0049】
このようにしてアンダーコート層である樹脂層とバリア膜であるSiOx層とが化学的結合を起こすことにより、これらの密着性が向上し、層間剥離を抑制し、またピンホールの発生を抑制又は防止出来る。つまり、本実施の形態におけるガスバリアフィルムの製造方法において、蒸着工程と水蒸気噴霧工程とを並行して実行することにより、結果として最終的にハイバリア性を有するガスバリアフィルムが得られるのである。
【実施例】
【0050】
まず、基材となるプラスチックフィルムの表面にコーティング液を塗布した。
このコーティング液は、PHPS(AZエレクトロニクスマテリアルズ社製、NL110A−20)を主剤として、これに添加剤として各種のシラン化合物(いずれも信越化学工業株式会社製)をPHPSに対する重量比で所定量加えた組成とし、乾燥膜厚が1000nmとなるようにキシレンで溶液を希釈して調製した。
【0051】
一方、基材となるプラスチックフィルムとして、厚さ50μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)を準備した。
【0052】
次に、上記PETフィルムの一方の面に樹脂層を形成するためにコーティング液をバーコーターで塗布した。
【0053】
そしてその表面にSiOxを積層する。積層は真空蒸着法により行ったが、その際に系にHOを導入した。即ち導入ガスとしてHOを利用した。
【0054】
尚、この実施例において、具体的な水の噴射方法は、水そのものを水蒸気化し、それをSiOxを蒸着した直後のSiOx表面に吹き付ける事で行った。
【0055】
具体的な水蒸気の導入量は、SiOの蒸着Rate 1g/minに対する導入量(g/min)で管理し、No.1は0.58〜0.71、No.2は0.71以上、No.4は0とした。
【0056】
尚、比較対象の為、資料No.3として、SiOの蒸着方法として一般的な手法であるOを導入して積層したものを用意した。即ち導入ガスとしてOを利用した。
【0057】
得られた試料及びデータは表1の通りである。
【0058】
【表1】

【0059】
水分導入量について、No.1は適当量を導入することで水蒸気透過率(WVTR)が低いもの(0.009)となっていることが分かる。即ち水分を導入することで好適な水蒸気バリア性を得られたことを示している。一方No.4は水を導入していないが、No.1に比べてWVTRは高くなっている(0.02)。即ちNo.1とNo.4とでは、水蒸気を導入したNo.1の方がWVTRが低い値となっている。このことより適当量の水蒸気導入によって、アンダーコート層とバリア膜の密着性が向上し、結果WVTRが低下したと考えられる。
【0060】
さらにNo.2を見るとここではNo.1で導入したよりも多量の水蒸気を導入しているが、逆にWVTRは非常に高いものとなっている。即ち、実質的にバリア性を喪失していると言える。
【0061】
また、No.1とNo.3とを比較すると、従来の手法であるNo.3よりも、No.1の方がWVTRは低い値となっている。このことから、SiOの蒸着において、Oを導入する従来の手法よりも、水蒸気を導入する手法の方が、ガスバリアフィルムの作製方法としては優れているといえる。
【0062】
このように、本願発明に係る試料No.1では、製造時に適当量の水分を導入することで水蒸気バリア性が大変好適なものとなり、またSiOの密着とバリア性との関係も良好であることが分かる。
【0063】
尚この際、同時に真空蒸着装置内にセットされているガス配管から規定量の水を樹脂層表面に吹き付ける。このようにすることで、PHPSとSiOとが、熱と水との影響により強固に接合する。その結果、応力や摩擦によってSiO膜が脱落することを抑制又は防止することが可能となり、即ちハイバリア性を有するガスバリアフィルムを得る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るハードコート層形成用組成物を用いてハードコート層を形成した本発明に係るハードコートフィルムは、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた十分な鉛筆硬度の硬質表面を有するとともに、フィルムを撓ませた時でもハードコート層はクラックや剥離を生じにくく、可撓性に優れたハードコートフィルムであるので、ディスプレイ等の保護膜として使用される光学フィルムとして、特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、
ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であり、かつ前記混合物におけるシラン化合物の含有率は、ポリシラザン系樹脂に対する重量比で0.005〜0.3である樹脂を用いてなる樹脂層を形成してなる樹脂層形成工程と、
前記樹脂層形成工程終了後樹脂層を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程終了後、前記樹脂層表面に酸化珪素を蒸着させる蒸着工程と、
前記蒸着工程と並行して、規定量の水を前記蒸着工程を実施中の系においてこれを噴霧する水蒸気噴霧工程と、
よりなること、
を特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記樹脂が、パーヒドロポリシラザンとジアルコキシシランとの混合物であること、
を特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガスバリアフィルムの製造方法であって、
前記ジアルコキシシランが、少なくとも、
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
の群の中の1つ以上を含むものであること、
を特徴とする、ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
基材の表面に樹脂層を形成してなるガスバリアフィルムであって、
前記樹脂層を構成する樹脂が、ポリシラザン系樹脂とシラン化合物系樹脂との混合物であり、かつ前記樹脂におけるシラン化合物の含有率は、ポリシラザン系樹脂に対する重量比で0.005〜0.3であること、
を特徴とする、ガスバリアフィルム。
【請求項5】
請求項4に記載のガスバリアフィルムであって、
前記樹脂が、パーヒドロポリシラザンとジアルコキシシランとの混合物であること、
を特徴とする、ガスバリアフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のガスバリアフィルムであって、
前記ジアルコキシシランが、少なくとも、
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
の群の中の1つ以上を含むものであること、
を特徴とする、ガスバリアフィルム。

【公開番号】特開2012−254579(P2012−254579A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129366(P2011−129366)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】