説明

ガス分離装置及びガス分離方法、並びにガス測定装置

【課題】液体試料の水質を連続的に測定でき、かつ、液体試料中に存在する芳香族炭化水素などの分析対象ガスを高感度で検出できる装置又は方法の提供。
【解決手段】液体試料中に存在する分析対象ガスをキャリヤーガス中に分離するガス分離装置において、前記キャリヤーガスを流す流路21と前記液体試料を流す流路22とを備え、前記キャリヤーガスを流す流路21は、シリコーン膜23を介して前記液体試料を流す流路22と隣接していることを特徴とするガス分離装置20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中に存在する微量ガスをキャリヤーガス中に分離するガス分離装置及びその方法、並びに液体試料中に存在する微量ガスを測定するガス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素の健康に対する影響が懸念されている。
これまでに、大気中に存在する芳香族炭化水素を採取して測定する技術として、ガス分光分析用微量フローセルを用いる方法が提案されている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【0003】
図8は、従来のガス分光分析用微量フローセルを用いたガス測定装置の概要を示す図である。
当該ガス測定装置は、ガス濃縮セル51とガス検出セル52を備え、これらは接続流路53を介して接続されている。
ガス濃縮セル51は、分析対象ガスを含むキャリヤーガスを流すガス流路61と、ガス流路61の途中の内表面に設けられ、多孔質シリカ材料等が用いられてなるガス採取部62と、ガス採取部62を加熱する薄膜ヒータ63を備えている。薄膜ヒータ63は、電源65と接続している。ガス流路61の一方の先端は接続流路53と接続し、他方の先端は、ガス流路61に分析対象ガスを含むキャリヤーガスを導入するガス導入流路64と接続している。ガス導入流路64のガス流路61とは反対側の一端は、ガス導入流路64に分析対象ガスを含むキャリヤーガスを吸引するためのポンプ54と接続している。ポンプ54は、ガス導入流路64が接続した面と対向する面にガス導入口66を備えている。
ガス検出セル52は、ガス流路61からガス濃縮セル51で濃縮されたキャリヤーガスが接続流路53を通過して流入し、かつ、測定用の紫外線が通過する紫外線光路兼ガス流路71を備えている。またガス検出セル52には、測定し終えたキャリヤーガスを排出するガス排出流路72が、紫外線光路兼ガス流路71の下流側に備えられている。紫外線光路兼ガス流路71の一端は、紫外線光路兼ガス流路71に紫外線を入射する紫外光源55と流路59aを介して接続し、他方の一端は、出射した紫外線を検出するための紫外検出器56と流路59bを介して接続している。
紫外光源55及び紫外検出器56と、紫外線光路兼ガス流路71との間には、紫外線用のレンズ57a、57bがそれぞれ配置されている。また紫外検出器56は、パソコン58に接続されており、分析結果を解析できるようになっている。
【0004】
図8に示すような構成を備えたガス測定装置によれば、大気中に存在する芳香族炭化水素を採取して測定する場合、例えば分析対象ガスとしてベンゼンガスを含んだ空気を、直接に、ガス導入口66からポンプ54の吸引によってガス導入流路64に導入することにより、ベンゼンガスを含んだ空気がガス濃縮セル51に供給され、ベンゼン分子がガス採取部62に吸着固定される。そして、一定時間経過後に薄膜ヒータ63を作動させることによって、ガス採取部62に吸着固定されたベンゼン分子が脱着分離し、ベンゼン濃度の高まった空気が、接続流路53を流れてガス検出セル52に導入する。そして、吸収分光によりベンゼンの検出が行われる。
【0005】
一方、河川若しくは地下水などの液体試料中に存在する芳香族炭化水素を採取して測定する場合、従来、密閉された容器内に収容された液体試料中に、キャリヤーガスを送り込み、バブリング処理を施すことにより、液体試料中に存在する芳香族炭化水素をキャリヤーガス中に分離するガス分離装置が知られている。
図9は、従来のガス分離装置の一実施形態例を示す一部縦断面図である。
図9に示す実施形態のガス分離装置は、容器81と、ガス導入口82及びバルブ85が設けられているガス排出口83を備えた蓋体とから構成されている。
図9において、ガス分離装置には液体試料80が収容されている。
当該ガス分離装置においては、キャリヤーガスを、当該ガス分離装置のガス導入口82から液体試料80中に連続的に供給してバブリング処理を施す。これにより、ヘッドスペース部84に存在するキャリヤーガス中の芳香族炭化水素濃度が高まる。そして、ヘッドスペース部84に存在する芳香族炭化水素を含むキャリヤーガスを、バルブ85を調節することにより、当該ガス分離装置のガス排出口83から、図8におけるガス濃縮セル51へ供給することにより、上述の大気中に存在する芳香族炭化水素の含有割合を測定する場合と同様、芳香族炭化水素の検出を行うことができる。
【0006】
また、液体試料中に存在する芳香族炭化水素をキャリヤーガス中に分離するガス分離装置としては、膜分離技術の一種であるパーベーパレーション(pervaporation)技術を用いたものが知られている。
図10は、従来のガス分離装置の他の実施形態例を示す側面図である。
図10において、当該ガス分離装置は、キャリヤーガスを流す流路91と、芳香族炭化水素を含む液体試料90が収容された密閉容器92とが、パーベーパレーション膜93を介して隣接している。密閉容器92には、液体試料90として芳香族炭化水素を含む水が収容され、パーベーパレーション膜93には、水分子をほとんど透過せず、芳香族炭化水素分子を選択的に透過する(以下この作用を「パーベーパレーション作用」という。)シリコーン膜が用いられている。
当該ガス分離装置においては、キャリヤーガスを流路91の入口91aから連続的に供給することにより、芳香族炭化水素が、図10中の複数の横矢印で示すように、密閉容器92からシリコーン膜を透過して流路91の方向へ移動する。これにより、キャリヤーガス中の芳香族炭化水素濃度が高まる。そして、芳香族炭化水素を含むキャリヤーガスを、流路91の出口91bから、図8におけるガス濃縮セル51へ供給することにより、上述の大気中に存在する芳香族炭化水素の含有割合を測定する場合と同様、芳香族炭化水素の検出を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−021595号公報
【特許文献2】特開2004−261672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のガス分離装置は、図9又は図10に示すとおり、キャリヤーガスがガス導入口(入口)から供給されてガス排出口(出口)から排出され、かつ、芳香族炭化水素を含む液体試料が密閉容器に収容された構成を備えたものが一般的である。この密閉容器の容量は、通常、数百ミリリットルないし数リットルであるため、液体中に存在する芳香族炭化水素を検知するには、比較的に大量の液体試料を準備する必要がある。
さらに、従来のガス分離装置は、液体試料を密閉容器に収容するため、連続的に液体試料を供給することができず、水質の連続監視には不適切である。
なお、パーベーパレーション技術を用いた図10に示すガス分離装置において、キャリヤーガスと芳香族炭化水素を含む水との配置を逆にした構成、すなわち密閉容器92にキャリヤーガスを封入し、流路91に芳香族炭化水素を含む水を流す構成とする方法も考えられる。しかし、そのような構成であっても、上述したように、密閉容器92の容量が数百ミリリットルないし数リットルであるため、キャリヤーガス中の分析対象ガスの濃度を高めるためには、相当な量の芳香族炭化水素を含む水を流す必要がある。
【0009】
ところで、日本において、「排水の水質基準」は水質汚濁防止法の規定に基づき定められた排水基準に関する環境省令により、及び「水道飲料水の水質汚染基準」は水道法の規定に基づき定められた水質基準に関する厚生労働省令により、それぞれ規定されている。それらによると、芳香族炭化水素の規制値は、前者(排水の水質基準)では120ppb以下、後者(水道飲料水の水質汚染基準)では12ppb以下に規制されている。
また、アメリカ合衆国においては“safe drinking water act”で規定されている。この基準によると、芳香族炭化水素の規制値は、排水については500ppb以下、水道飲料水については5ppb以下となっている。
【0010】
図9に示すようなバブリング処理を行う従来のガス分離装置においては、芳香族炭化水素のみならず水も一緒に気化するため、キャリヤーガス中の水蒸気濃度(相対湿度)が非常に高くなる。一例として、相対湿度90%程度までになることが知られている。
一方、図8に示すような従来のガス測定装置においては、ガス採取部62に用いられている多孔質シリカ材料としてメソポーラスシリカが知られている。
しかし、相対湿度90%程度というキャリヤーガスに対して、ガス採取部62にメソポーラスシリカを用いた場合、キャリヤーガスに含まれる芳香族炭化水素のメソポーラスシリカへの吸着性は、水分子の存在により阻害され、芳香族炭化水素の測定における検出感度は、おおよそ50ppm程度しか得られず、上述した水質基準の芳香族炭化水素量を検知するのは困難である。
【0011】
そこで、河川若しくは地下水などの液体試料を連続的に測定できること、当該液体試料中に存在する芳香族炭化水素などの分析対象ガスを高感度で検出できることが求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、液体試料の水質を連続的に測定でき、かつ、当該液体試料中に存在する芳香族炭化水素などの分析対象ガスを高感度で検出できる装置又は方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の解決手段により、上述した課題を解決する。
本発明のガス分離装置は、液体試料中に存在する分析対象ガスをキャリヤーガス中に分離するガス分離装置において、前記キャリヤーガスを流す流路と前記液体試料を流す流路とを備え、前記キャリヤーガスを流す流路は、シリコーン膜を介して前記液体試料を流す流路と隣接していることを特徴とする。
本発明のガス分離装置においては、前記シリコーン膜がチューブ状であることが好ましい。
また本発明のガス分離方法は、上記本発明のガス分離装置を用い、前記キャリヤーガスを流す流路に前記キャリヤーガスを供給し、かつ、前記液体試料を流す流路に前記液体試料を流しながら、前記液体試料中に存在する分析対象ガスを前記キャリヤーガス中に分離することを特徴とする。
また本発明のガス測定装置は、上記本発明のガス分離装置と、前記ガス分離装置で分離した分析対象ガスを吸着するガス採取部を有する流路が設けられ、前記キャリヤーガス中の前記分析対象ガス濃度を高めるガス濃縮セルと、前記ガス濃縮セルで濃縮された前記キャリヤーガスに含まれる前記分析対象ガスを検出するガス検出セルとを備え、前記ガス採取部の材料としてゼオライトが用いられていることを特徴とする。
本発明のガス測定装置においては、前記ガス分離装置と前記ガス濃縮セルとが乾燥チューブを介して接続されていることが好ましい。
また本発明のガス測定装置においては、前記乾燥チューブの材料として、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン−スルホン酸とのコポリマーが用いられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス分離装置及びガス分離方法によれば、液体試料を流しながら分析対象ガスをキャリヤーガス中に分離できることから、分離操作を連続的に行うことができる。
本発明のガス測定装置によれば、液体試料の水質を連続的に測定でき、かつ、液体試料中に存在する芳香族炭化水素などの分析対象ガスを高感度で検出できる。たとえば、日本とアメリカ合衆国における水質基準の芳香族炭化水素量を充分に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ガス分離装置の一実施形態の概略構成を示す側面図である。
【図2】ガス分離装置の他の実施形態を示し、図2(a)はガス分離装置10の概略縦断面図、図2(b)は図2(a)におけるA−A線に沿う断面図、図2(c)は図2(a)における領域Bを拡大した一部拡大縦断面図である。
【図3】ガス分離装置の他の実施形態を示す概略縦断面図である。
【図4】ガス測定装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【図5】ガス採取部の材料として、ゼオライトと、従来から利用されているメソポーラスシリカとを用いた場合の、芳香族炭化水素の吸着能力とキャリヤーガスの相対湿度との関係を示したグラフである。
【図6】従来のガス分離装置とガス濃縮セルとが従来の乾燥部材を介して接続されている場合の、キャリヤーガスの相対湿度及びベンゼン濃度の挙動を示す図である。
【図7】従来のガス分離装置とガス濃縮セルとが乾燥チューブを介して接続されている場合の、キャリヤーガスの相対湿度及びベンゼン濃度の挙動を示す図である。
【図8】従来のガス分光分析用微量フローセルを用いたガス測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図9】液体試料中に存在する芳香族炭化水素をバブリング処理によりキャリヤーガス中に分離する、ガス分離装置の一部縦断面図である。
【図10】液体試料中に存在する芳香族炭化水素をパーベーパレーション(pervaporation)技術を用いてキャリヤーガス中に分離する、ガス分離装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ガス分離装置>
本発明のガス分離装置は、キャリヤーガスを流す流路と、液体試料を流す流路とを備え、前記キャリヤーガスを流す流路が、シリコーン膜を介して前記液体試料を流す流路と隣接しているものである。
【0016】
図1は、ガス分離装置の一実施形態の概略構成を示す側面図である。
本実施形態のガス分離装置10は、キャリヤーガスを流す流路12と、液体試料14を流す流路11とを備え、流路12が、シリコーン膜13を介して流路11と隣接している。
流路11には、液体試料14を導入する入口11aと、液体試料14を排出する出口11bが設けられている。
流路12には、キャリヤーガスを導入する入口12aと、キャリヤーガスを排出する出口12bが設けられている。
図1において、流路11には、液体試料14として芳香族炭化水素を含む水が連続的に供給され、流路11内を、芳香族炭化水素を含む水が流れている。流路12には、キャリヤーガスとして空気が連続的に供給され、流路12内を空気が流れている。
シリコーン膜13には、水分子をほとんど透過せず、芳香族炭化水素分子を選択的に透過するものが用いられている。
ガス分離装置10においては、液体試料14中の芳香族炭化水素が、図1中の複数の横矢印で示すように、パーベーパレーション作用によって流路11からシリコーン膜13を透過して流路12へ移動する。これにより、液体試料14中に存在する芳香族炭化水素を空気中に連続的に分離することができる。
【0017】
本発明のガス分離装置は、図1に示すガス分離装置10に限定されず、たとえば図2に示すように、シリコーン膜がチューブ状であるものであってもよい。
図2(a)は、ガス分離装置の概略縦断面図である。
図2(a)において、ガス分離装置20は、シリコーン膜からなる中空のシリコーンチューブ23の外周に、テフロン(登録商標)からなる中空のチューブ24が配置されることにより、液体試料を流す流路21と、キャリヤーガスを流す流路22とが形成されており、流路22が、シリコーン膜(シリコーンチューブ23)を介して流路21と隣接した構成を備えている。
チューブ24の一端には、シリコーンチューブ23に対して垂直方向に、ポンプ25を有する流路22cが設けられている。他方の一端には、流路22cと略平行に流路22dが設けられている。流路22と流路22cと流路22dとは連通しており、キャリヤーガスは、これら流路の入口22aからポンプ25の吸引によって導入され、流路22c、流路22、流路22dをこの順に流れて出口22bから排出される。
液体試料は、流路21の入口21aから導入され、シリコーンチューブ23内を流れて出口21bから排出される。
図2(a)において、流路21には、液体試料として芳香族炭化水素を含む水が連続的に供給され、流路21内を、芳香族炭化水素を含む水が流れている。
【0018】
図2(b)は、図2(a)におけるA−A線に沿う断面図である。
シリコーンチューブ23とチューブ24は、シリコーンチューブ23を内側にして同心円状に配置されている。
シリコーンチューブ23内は液体試料を流す流路21となっており、シリコーンチューブ23とチューブ24との間はキャリヤーガスを流す流路22となっている。
【0019】
図2(c)は、図2(a)における領域Bを拡大した一部拡大縦断面図である。
ガス分離装置20においては、流路21を流れる液体試料中の芳香族炭化水素26が、パーベーパレーション作用によりシリコーンチューブ23面に向かって移動してシリコーン膜を透過し、流路22内を流れるキャリヤーガス中に連続的に分離している。
【0020】
図1と図2に示すガス分離装置においては、いずれも、一方の流路にキャリヤーガスを供給し、かつ、他方の流路に液体試料を流しながら、液体試料中に存在する分析対象ガスをキャリヤーガス中に分離している。
なかでも、本発明のガス分離装置としては、液体試料中に存在する分析対象ガスの抽出効率及びキャリヤーガス中の分析対象ガス濃度がより高まることから、図2に示すガス分離装置20を用いることが好ましい。
【0021】
図1に示すガス分離装置10として具体的には、たとえば、図10に示すような従来のガス分離装置における密閉容器と同様の密閉容器に、液体試料を導入する入口と液体試料を排出する出口とを新たに設けたものが用いられる。この密閉容器は、上述したように、その容量が数百ミリリットルないし数リットルと、ガス分離装置20における流路21の容量に比べて大きいことから、流路11内に多量の液体試料が供給され、これに伴い液体試料中に存在する分析対象ガスの量も多くなる。このことから、ガス分離装置10は、ガス分離装置20を用いるよりも、多くの分析対象ガスを液体試料中から分離できるようにも考えられる。
しかしながら、本発明において液体試料を流しながらガス分離を行う場合、実際には、シリコーン膜の近傍に存在する分析対象ガスがシリコーン膜を透過することになる。そのため、液体試料中に存在する分析対象ガスの抽出効率に関しては、流路内の液体試料の容量とシリコーン膜の表面積(ガス分離装置20においてはシリコーンチューブ23の内径)との比率(液体試料の容量/シリコーン膜の表面積)が重要なパラメータとなり、このパラメータをできるだけ小さくすることが好ましい。
これと同時に、キャリヤーガス中の分析対象ガス濃度を高くするためには、流路内のキャリヤーガスの容量とシリコーン膜の表面積(ガス分離装置20においてはシリコーンチューブの外径)との比率(キャリヤーガスの容量/シリコーン膜の表面積)が重要なパラメータとなり、このパラメータをできるだけ小さくすることが好ましい。
これら2つのパラメータを考慮すると、たとえば図2に示すガス分離装置20のように、チューブ24の内側にシリコーンチューブが配置された二重チューブ構成が特に好適な形態であると考えられる。
【0022】
本発明のガス分離装置において、シリコーン膜は、通常パーベーパレーション膜として利用されているものを用いることができる。
図2に示す実施形態のガス分離装置20において、
流路21の容量(図2(a)中のX−Y間)は59μL、
キャリヤーガスの容量(流路22cと流路22dを除く。)は0.7mL、
シリコーンチューブ23の内径は0.5mm、
シリコーンチューブ23の外径は1.0mmである。
【0023】
図2に示すガス分離装置20のような構成であれば、ガス分離装置を安価に製作することができ、また液体試料又はキャリヤーガスの流量の違いに応じた装置のスケールアップ又はスケールダウンも極めて容易に行うことができる。
またガス分離装置20においては、上記密閉容器のような大容量の流路を設ける必要がないことから、液体試料又はキャリヤーガスの使用量を低減でき、液体試料の水質の連続測定を可能とする装置として実用的である。
さらに、ガス分離装置20のような構成は、シリコーン膜に対する液体試料の圧力に対しても丈夫な構造である。例えば、図1のような平面状のシリコーン膜を用いた構成では、液体試料の圧力の変化によってシリコーン膜が変形しやすいが、チューブ状のシリコーン膜であれば、液体試料の圧力の影響は周方向に均一に分散するため、若干の収縮又は膨張が生じてもその形状が変化することがない。
【0024】
また本発明のガス分離装置は、上述したものに限定されず、たとえば、図3に示すように、複数のシリコーンチューブがテフロン(登録商標)からなるチューブの内側に配置されたもの(ガス分離装置30)でもよく;図1〜3に示すガス分離装置10、20、30において、液体試料を流す流路にキャリヤーガスを流し、かつ、キャリヤーガスを流す流路に液体試料を流すものでもよい。
図3は、ガス分離装置の他の実施形態(複数のシリコーンチューブがテフロン(登録商標)からなるチューブの内側に配置されたもの)を示す概略縦断面図である。
図3において、ガス分離装置30は、テフロン(登録商標)からなる中空のチューブ34の内側に、シリコーン膜からなる中空の4本のシリコーンチューブ33が配置され、キャリヤーガスを流す複数の流路32が、シリコーン膜(シリコーンチューブ33)を介して液体試料を流す複数の流路31とそれぞれ隣接した構成を備えている。
ガス分離装置30によれば、液体試料中に存在する分析対象ガスの抽出効率に優れ、キャリヤーガス中の分析対象ガス濃度を短時間で高くできる。
【0025】
<ガス分離方法>
本発明のガス分離方法は、上記本発明のガス分離装置を用い、前記キャリヤーガスを流す流路に前記キャリヤーガスを供給し、かつ、前記液体試料を流す流路に前記液体試料を流しながら、前記液体試料中に存在する分析対象ガスを前記キャリヤーガス中に分離する方法である。
当該ガス分離方法においては、本発明のガス分離装置を用い、それぞれの流路にキャリヤーガスと液体試料を個別に流しながらガス分離を行う。
【0026】
分析対象ガスは、パーベーパレーション作用により分離可能であるものであれば特に限定されず、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコールなどが挙げられる。
液体試料としては、分析対象ガスを含む液状のものであればよく、たとえば、芳香族炭化水素を含む水、アルコールを含む水等が挙げられる。
キャリヤーガスは、たとえば空気、窒素等を用いることができる。
【0027】
ガス分離装置の流路を流れる液体試料の流速とキャリヤーガスの流速、その流路内の温度は、ガス分離装置のスケール、液体試料又はキャリヤーガスの種類等に応じて、好適な条件に適宜設定すればよい。
たとえば図2に示す実施形態のガス分離装置20において、流路を流す液体試料の流速は、0.08〜5[単位:mL/分]とすることが好ましく、0.5〜2[単位:mL/分]とすることがより好ましい。
流路を流すキャリヤーガスの流速は、1〜200[単位:mL/分]とすることが好ましく、20〜50[単位:mL/分]とすることがより好ましい。
流路内の温度は、0〜80℃とすることが好ましく、10〜30℃とすることがより好ましい。
液体試料の流速、キャリヤーガスの流速、温度を上記範囲に制御することにより、液体試料中に存在する分析対象ガスのキャリヤーガスへの抽出効率がより向上する。
【0028】
<ガス測定装置>
本発明のガス測定装置は、上記本発明のガス分離装置と、前記ガス分離装置で分離した分析対象ガスを吸着するガス採取部を有する流路が設けられ、前記キャリヤーガス中の前記分析対象ガス濃度を高めるガス濃縮セルと、前記ガス濃縮セルで濃縮された前記キャリヤーガスに含まれる前記分析対象ガスを検出するガス検出セルとを備える。
【0029】
図4は、ガス測定装置の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
本実施形態のガス測定装置40は、ガス分離装置20と、ガス濃縮セル41と、ガス検出セル42とを備えている。
ガス分離装置20とガス濃縮セル41は、ポンプ44と乾燥チューブ45を介して接続されている。ポンプ44と乾燥チューブ45は、ガス分離装置20側からこの順に配置されている。
ガス分離装置20は、図2に示すガス分離装置と同じ実施形態のものである。
ガス濃縮セル41とガス検出セル42は、接続流路46を介して接続されている。
ガス濃縮セル41は、ガス分離装置20で分離した分析対象ガスを含むキャリヤーガスを流す流路(図示せず)と、その流路の途中の内表面に設けられ、ゼオライトが用いられてなるガス採取部と、当該ガス採取部を加熱する薄膜ヒータ(図示せず)を備えている。
ガス濃縮セル41は、ガス採取部の材料を除き、図8に示すガス濃縮セルと同じ実施形態のものを用いることができる。
ガス検出セル42は、ガス濃縮セル41で濃縮されたキャリヤーガスが接続流路46を通過して流入し、かつ、測定用の紫外線が通過する紫外線光路兼ガス流路43を備えている。またガス検出セル42には、測定し終えたキャリヤーガスを排出するガス排出流路47が、紫外線光路兼ガス流路43の下流側に備えられている。紫外線光路兼ガス流路43の一端は、紫外線光路兼ガス流路43に紫外線を入射する紫外光源48aと接続流路43aを介して接続し、他方の一端は、紫外分光器48bと接続流路43bを介して接続している。また紫外分光器48bは、パソコン49に接続されており、分析結果を解析できるようになっている。
【0030】
ガス測定装置40においては、まず、ガス分離装置20で、液体試料を入口21aから流路21へ導入し、キャリヤーガスを入口22aから流路22へ導入し、液体試料中に存在する分析対象ガスをキャリヤーガス中に連続的に分離する。
次いで、分離した分析対象ガスを含むキャリヤーガスを、ポンプ44の吸引により、乾燥チューブ45を通過させてガス濃縮セル41に供給する。
ガス濃縮セル41に供給されたキャリヤーガスはガス濃縮セル41内に形成された流路を流れ、分析対象ガスが、当該流路の途中に設けられたガス採取部に吸着固定される。
【0031】
本発明のガス測定装置においては、ガス採取部の材料としてゼオライトが用いられる。
図5は、ガス採取部の材料として、ゼオライトと、従来から利用されているメソポーラスシリカとを用いた場合の、「芳香族炭化水素の吸着能力」と「キャリヤーガスの相対湿度」との関係を示したグラフである。
図5から、メソポーラスシリカは、キャリヤーガスの相対湿度0%の環境であれば、非常に優れた芳香族炭化水素の吸着能力を示すことが分かる。しかし、一般的な大気の湿度を想定した相対湿度45%程度の環境になると、芳香族炭化水素の吸着能力が著しく低下し、バブリング処理後のキャリヤーガスの湿度を想定した相対湿度90%の環境になると、芳香族炭化水素をほとんど吸着できなくなることが分かる。
一方、ゼオライトは、キャリヤーガスの相対湿度0%の環境では、芳香族炭化水素の吸着能力はメソポーラスシリカに劣るものの、相対湿度45%程度の環境では、芳香族炭化水素の吸着能力は逆転し、メソポーラスシリカよりも高い吸着能力を示している。さらに、ゼオライトは、相対湿度90%の環境であっても、芳香族炭化水素の吸着能力を充分に有していることが分かる。
すなわち、ゼオライトは、「液体試料」中に存在する分析対象ガスを測定するという、水質の測定の際に使用するガス採取部の材料として好適なものである。
【0032】
ガス測定装置40においては、分析対象ガスがガス濃縮セル41内のガス採取部に吸着固定されてから一定時間経過後、薄膜ヒータを作動させることによって、ガス採取部に吸着固定された分析対象ガスが脱着分離される。これにより、キャリヤーガス中の分析対象ガス濃度が高まる。
ガス濃縮セル41で濃縮されたキャリヤーガスは、接続流路46を通過してガス検出セル42に導入する。そして、吸収分光により分析対象ガスの検出が行われる。
【0033】
本実施形態のガス測定装置40において、ガス分離装置20とガス濃縮セル41とは、ポンプ44と乾燥チューブ45を介して接続している。
ガス分離装置20から送られてくるキャリヤーガスは、ガス分離装置20で液体試料が用いられているため、その相対湿度が高い。これに対して、ガス分離装置20とガス濃縮セル41との間に乾燥チューブ45を配置することにより、ガス分離装置20から送られてくる高湿度のキャリヤーガスの相対湿度を低減でき、ガス濃縮セル41での濃縮効率が高まる。これにより、キャリヤーガス中の分析対象ガス濃度をより高めることができる。
【0034】
またガス測定装置40においては、乾燥チューブ45の材料として、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン−スルホン酸とのコポリマーが用いられていることが好ましい。当該コポリマーを用いることにより、ガス分離装置20から送られてくるキャリヤーガスの相対湿度を、大気と同程度の湿度にまで低減できる。
【0035】
図6〜7は、キャリヤーガスの相対湿度及びベンゼン濃度と、ガス測定装置の構成との関係を説明する図である。ガス測定装置を示す図(ガス分離装置からガス濃縮セルまでの構成を図示)と、キャリヤーガスの相対湿度及びベンゼン濃度の挙動とは対応している。
いずれの図も、ガス測定装置として、図9に示すガス分離装置と同じ実施形態のものが用いられている。バブリング処理が行われることにより、ガス分離装置から送られてくるキャリヤーガスの相対湿度が90%程度まで高くなっている。
図6〜7において、液体試料としては、ベンゼンを含む水が用いられている。
【0036】
図6は、ガス分離装置1とガス濃縮セル41とが従来の乾燥部材45aを介して接続されている場合の、キャリヤーガスの相対湿度及びベンゼン濃度の挙動を示す図である。
乾燥部材45aとしては、ナフィガスドライヤー(米国PERMAPURE社製)が用いられている。
ナフィガスドライヤーは、乾燥剤を充填したボックス中で、ナフィオン(デュポン社製、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン−スルホン酸とのコポリマー)のチューブが引き回された構造を有している。
図6より、乾燥部材45aとしてナフィガスドライヤーを用いた場合、ガス濃縮セル41に導入するキャリヤーガスの相対湿度をほぼ0%にまで低減できることが分かる。したがって、ガス濃縮セル41におけるガス採取部の材料としては、本発明に係るゼオライトに限らず、従来から利用されているメソポーラスシリカも、キャリヤーガスの相対湿度が0%の環境であることから用いることができる。そして、ガス濃縮セル41において、キャリヤーガス中のベンゼン濃度を、数ppbレベルから数ppmレベルにまで高めることができる。
ただし、乾燥部材45aとしてナフィガスドライヤーを用いた場合、乾燥性能を維持するために、乾燥剤の定期的な交換が不可欠となり、また乾燥剤の交換等の保守点検に相当のコストを要する。
【0037】
図7は、ガス分離装置1とガス濃縮セル41とが乾燥チューブ45を介して接続されている場合の、キャリヤーガスの相対湿度及びベンゼン濃度の挙動を示す図である。
乾燥チューブ45としては、ナフィオンのチューブのみ(乾燥剤は用いられていない)が用いられている。
乾燥チューブ45としてナフィオンのチューブのみを用いた場合、ガス濃縮セル41に導入するキャリヤーガスの相対湿度は大気レベルまで低減される。この場合にガス濃縮セル41におけるガス採取部の材料としてゼオライトを用いることにより、一般的な大気の湿度と想定される相対湿度45%程度の環境であっても、キャリヤーガス中のベンゼン濃度を、数ppbレベルから数ppmレベルにまで充分に高めることができる。一方、メソポーラスシリカは、相対湿度45%程度の環境では図5に示すように芳香族炭化水素の吸着能力が低下してしまうことから、キャリヤーガス中のベンゼン濃度を充分に高めることができない。
加えて、乾燥チューブ45としてナフィオンのチューブのみを用い、かつ、ガス採取部の材料としてゼオライトを用いたガス測定装置においては、乾燥剤を用いていないことから、従来の乾燥部材では必要であった乾燥剤の交換等の保守点検が不要であり、経済的にも有利である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のガス分離装置及びガス分離方法によれば、液体試料を流しながら分析対象ガスをキャリヤーガス中に分離できることから、分離操作を連続的に行うことができる。また本発明のガス測定装置によれば、液体試料の水質を連続的に測定でき、かつ、液体試料中に存在する芳香族炭化水素などの分析対象ガスを高感度で検出できる。
したがって、本発明によれば、河川若しくは地下水などの液体試料の水質の連続測定が可能であり、その液体試料中に存在する微量の芳香族炭化水素ガスを高感度で測定できる。たとえば、日本とアメリカ合衆国における水質基準の芳香族炭化水素量を充分に検知できる。
【符号の説明】
【0039】
10 ガス分離装置 11 流路 12 流路 13 シリコーン膜 20 ガス分離装置 21 流路 22 流路 23 シリコーンチューブ 24 チューブ 25 ポンプ 26 芳香族炭化水素 30 ガス分離装置 31 流路 32 流路 33 シリコーンチューブ 34 チューブ 40 ガス測定装置 41 ガス濃縮セル 42 ガス検出セル 43 紫外線光路兼ガス流路 44 ポンプ 45 乾燥チューブ 46 接続流路 47 ガス排出流路 48a 紫外光源 48b 紫外分光器 49 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に存在する分析対象ガスをキャリヤーガス中に分離するガス分離装置において、
前記キャリヤーガスを流す流路と前記液体試料を流す流路とを備え、
前記キャリヤーガスを流す流路は、シリコーン膜を介して前記液体試料を流す流路と隣接していることを特徴とするガス分離装置。
【請求項2】
前記シリコーン膜がチューブ状である、請求項1記載のガス分離装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のガス分離装置を用い、
前記キャリヤーガスを流す流路に前記キャリヤーガスを供給し、かつ、前記液体試料を流す流路に前記液体試料を流しながら、前記液体試料中に存在する分析対象ガスを前記キャリヤーガス中に分離することを特徴とするガス分離方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のガス分離装置と、
前記ガス分離装置で分離した分析対象ガスを吸着するガス採取部を有する流路が設けられ、前記キャリヤーガス中の前記分析対象ガス濃度を高めるガス濃縮セルと、
前記ガス濃縮セルで濃縮された前記キャリヤーガスに含まれる前記分析対象ガスを検出するガス検出セルとを備え、
前記ガス採取部の材料としてゼオライトが用いられていることを特徴とするガス測定装置。
【請求項5】
前記ガス分離装置と前記ガス濃縮セルとが乾燥チューブを介して接続されている、請求項4記載のガス測定装置。
【請求項6】
前記乾燥チューブの材料として、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ−3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン−スルホン酸とのコポリマーが用いられている、請求項5記載のガス測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate