説明

ガス分離装置

【課題】高いガス分離能を有し、気相体積比率の高い被処理液にも適用可能な、温泉水用のガス分離装置を提供する。
【解決手段】ガス分離装置100は、少なくともその下端付近を除く部分が本体タンク1内に配設された、上端が開口した有底略円筒状の内筒2と、内筒2と略同軸に本体タンク1内に配設された外筒7と、被処理液を内筒2内に導く流入管2bと、内筒2の軸心に配置された芯棒3と、芯棒3に巻装された螺旋状部材5と、排気口10と、排水口11とを具える。ポンプ送液等により流入した被処理液は、内筒2内で旋回上昇流を生じ、遠心力でガス分離される。ガスと分離された一次処理液は、旋回上昇流の遠心力によって内筒2上端から飛散して、外筒7に衝突し更にガス分離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉水に溶存し又は混在するガスを除去するに適した、ガス分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温泉水中に、メタンを初めとする可燃性天然ガスが溶存し又は気泡として混在することがあり、温泉提供施設における可燃性天然ガスに起因する爆発の危険性が指摘されている。従来より、温泉原水を貯湯タンクに一旦貯留して、自然に分離した天然ガスを貯湯タンク上部から排出除去すると共に、当該貯湯タンク下部から液体のみを取り出して温泉水として供する方法が用いられているが、当該方法による分離は必ずしも充分でなく、可燃性天然ガスが処理後の温泉水に混在する虞があった。そのため、温泉原水から可燃性天然ガスをより効率的に分離する方法が求められている。
【0003】
温泉水中に含まれる天然ガスを分離する装置として、例えば、円筒管タンクの上方内壁に引湯管に接続してらせん式流路を取り付け、汲み上げられた水が前記らせん式流路を渦巻状に前記円筒管タンク内を流下することにより、遠心力により温泉原水からガス分の分離を促進すると共に前記円筒管タンク内にはサイクロン効果により渦流が生じ、円筒管タンクの下方に貯留された温泉原水から水溶性天然ガスが容易に分離し易くなることを特徴とするサイクロン式ガス水セパレーターが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3150656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のサイクロン式ガスセパレーターは、円筒管タンクの内壁に沿って設けられた大径のらせん式流路に温泉原水を導く構成であって、引湯管から流入した温泉原水の受ける遠心力は小さく、らせん式流路内を流下する間に水とガス分が充分に分離することは期待できない。
【0006】
また、らせん式流路から流下した温泉原水が、貯留部において渦流を生じ、温泉配管を通ってセパレーター本体から排出される構成であるから、渦流状の温泉原水が気相中のガスを巻き込みながらセパレーター本体から排出され、又は、水溶性天然ガスが水に再溶解してしまう虞がある。この現象は、天然ガスを多量に含む気相を有する、気相体積比率の高い温泉原水に対して顕著である。貯留部の下流にガス抜き管が設けられているものの、該ガス抜き管は自然に分離した天然ガスを放出する機能しか持たずガス分離能が低いから、上記サイクロン式ガスセパセレーターでは、温泉原水から天然ガスを充分に分離することはできない。
【0007】
これらの問題点に鑑み、本発明は、高いガス分離能を有し、気相体積比率の高い被処理液にも適用可能な、温泉水用のガス分離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第1の発明は、
液体を収容可能な本体タンクと、 少なくともその下端付近を除く部分が本体タンク内に配設された、上端が開口した有底略円筒状の内筒と、
その上端が内筒上端よりも高く配置されると共に、その下端と本体タンクとの間に空隙を置いて、内筒と略同軸に本体タンク内に配設された内筒より大径の外筒と、
内筒の下端付近に連結され、被処理液を内筒内に導く流入管と、
内筒の軸心上における、少なくとも内筒の下端を含む部分に配置された芯棒と、
芯棒に巻装され、その外周が内筒の内周面に略接する様に配置された螺旋状部材と、
本体タンクにおける内筒の上方に穿設された排気口と、
本体タンクの側壁における内筒の上端よりも低い位置に穿設された排水口と
を具えてなるガス分離装置である。
【0009】
ポンプ送液等によりガス分離装置に導かれた被処理液は、流入管を介して内筒に流入し、内筒,芯棒,及び螺旋状部材で形成される螺旋状流路に導かれ、旋回上昇流を生じる。該旋回上昇流は、芯棒の上端が内筒の上端よりも低い場合でも、内筒上端に到るまで維持される。旋回上昇流によって生じる遠心力の作用でガス分離が進行し、分離されたガスの気泡が内筒軸心に集まり合体・破泡して、ガスが気相に放出される。
【0010】
旋回上昇流が内筒上端に到る時点では、被処理液中に当初含まれていたガスの大部分は気相に放出され、液中に残存するガスは少なくなっている(当該液体を、以下、一次処理液と称する)。一次処理液は、遠心力によって飛散し外筒に衝突した後、外筒内周面を伝って流下し、外筒の下方の空隙を通って排水口に向かう。衝突時の衝撃によって、及び、その後排水口から排出されるまでの流動の間に気泡が上昇し破泡することによって、更にガス分離が進行する。上記一連の作用により分離された処理液は排水口から排出され、一方、分離されたガスは排気口から排出される。
【0011】
第2の発明は、芯棒の上端の高さ位置が、内筒の中間部に位置する、第1の発明に係るガス分離装置である。
【0012】
第3の発明は、外筒の内周面における、少なくとも排水口の下端の高さ位置を含む部分に、外筒全周に亘る略円筒状の網状物が付設されてなる、第1乃至第2の発明の何れかに係るガス分離装置である。
【0013】
第4の発明は、網状物が、網体を2重以上に重ね又は巻いて形成され、且つ、排水口の下端の高さ位置以高の少なくとも一部が、下方に向けて徐々に厚くされてなる、第3の発明の何れかに係るガス分離装置である。
【0014】
第5の発明は、下方にのみ開放され、排水口を覆う保護カバーが、本体タンク内周面に設けられてなる、第1乃至第4の発明の何れかに係るガス分離装置である。
【0015】
また、本発明に係るガス分離方法の発明である、第6の発明は、
被処理液を、上端が開口した有底略円筒状の内筒の下端付近に流入させ、内筒の軸心を中心とする旋回上昇流を発生させてガス分離を行い、一次処理液を得る旋回工程と、
旋回工程で生じた遠心力によって内筒上端から飛散させた一次処理液を、内筒と略同軸に、且つその上端が内筒の上端よりも高く配置された、内筒より大径の外筒に衝突させ、当該衝突時の衝撃を利用してガス分離を行う二次分離工程と
を含むガス分離方法である。
【0016】
第7の発明は、
内筒の軸心上における、少なくとも内筒の下端を含む部分に配置された芯棒と、
芯棒に巻装され、その外周が内筒の内周面に略接する様に配置された螺旋状部材と
を用いて旋回上昇流を発生させて、旋回工程を行う、第6の発明に係るガス分離方法である。
【0017】
第8の発明は、芯棒の上端の高さ位置が、内筒の中間部に位置する、第7の発明に係るガス分離方法である。
【0018】
第9の発明は、内筒の底板を貫通する、上端が封止された筒状の芯棒の周壁の少なくとも一部に穿設された小孔から吸入されたガスを、芯棒の中空部を介して排出しながら旋回工程を行う、第7又は第8の発明に係るガス分離方法である。
【0019】
第10の発明は、内周面における一次処理液が衝突する部位よりも低い高さ位置を上端とし、一次処理液が流下する水面の高さ位置を含む部分に、全周に亘って略円筒状の網状物が付設された外筒を用いて、二次分離工程を行う、第7乃至第9の発明の何れかに係るガス分離方法である。
【0020】
第11の発明は、網状物が、網体を2重以上に重ね又は巻いて形成され、且つ、水面の高さ位置を含む少なくとも一部が、下方に向けて徐々に厚くされてなる、第10の発明に係るガス分離方法である。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明に係るガス分離装置は、旋回上昇流の遠心力で分離されたガスが内筒の上端開口から放出され上部の排気口から排気される一方で、当該ガスと分離された一次処理液が外筒内を流下し、外筒の下方の空隙を通った後に排出される構成であるから、分離されたガスが液体に巻き込まれ又は分離後の処理液に再溶解して共に排出されることが回避される。本体タンクに対して相対的に小さな半径を有する内筒内で旋回上昇流を生じさせるから、装置内に所定流速で流入する被処理液に加わる遠心力が相対的に大きく、遠心分離の効率が高い。また、一次処理液が放射状に飛散し外筒に衝突した後に外筒内周面に沿って流下するから、気液界面の面積が大きくなることにより、及び、衝突の際の衝撃によって、残存する気体が放出される。これらの作用により、本発明のガス分離装置は、被処理液を流入させる以外に何ら動力を要しないシンプルな構成でありながら、高いガス分離効率を達成する。
【0022】
被処理液が、内筒,芯棒,及び螺旋状部材で形成される略閉じた単一の螺旋状流路を流れることによって安定な旋回上昇流を生じ、該旋回上昇流は内筒上端に到るまで維持され高いガス分離効率を達成する。また、被処理液の気相体積比率が高い場合であっても、当該略閉じた螺旋状流路に流入したガスは、液体と共に流動し、安定な旋回上昇流を形成する。
【0023】
第2の発明によれば、内筒の軸心から内周面に向けて徐々に水面が高くなる現象が起こる。これによって、螺旋状流路内で分離されたガスが気相に放出されるだけでなく、液相中に残存するガスも遠心分離により更に分離され、面積が大きくなった気液界面から気相中に放出される。これによって、より高いガス分離効率が達成される。
【0024】
第3の発明によれば、一次処理液が網状物を伝って流下することにより気液界面の面積が増大し、また、網状物が水面下において気泡を捕捉することにより、より高いガス分離効率が達成される。
【0025】
第4の発明によれば、下方ほど内方に突出する網状物を伝って、一時処理液が緩やかに流下するから、分離され気相中に存在する気体が再度混入し、処理液に混入することが回避される。また、2重以上の網体で網状物が構成されることにより、気液界面の面積が増大すると共に、網状物による気泡捕捉能力が向上する。これらにより、ガス分離効率が更に向上する。
【0026】
第5の発明によれば、排水口と本体タンク内上部の気相が保護カバーによって区画されるから、分離されたガスが処理液と共に排出されることが回避される。
【0027】
第6の発明に係るガス分離方法によれば、旋回流を発生させながら内筒下端付近に被処理液を供給することによって、旋回上昇流を得る。該旋回上昇流によって、旋回工程においては、遠心力によって分離されたガスが内筒の軸心付近に集められ、内筒の上端開口から放出される。小径の内筒内で旋回流を生じさせるから、装置内に所定流速で流入する被処理液に加わる遠心力が相対的に大きく、遠心分離の効率が高い。二次分離工程においては、旋回工程で分離された一次処理液が遠心力によって内筒上端から放射状に飛散し、外筒に衝突して流下する。この際、気液界面の面積が増大することによって、及び、衝突の際の衝撃によって、旋回工程後も残存するガスが分離される。これら旋回工程及び二次分離工程は、内筒の下端付近において旋回流を発生させることのみによって達成され、それ以外の動力や複雑な操作を必要としない。
【0028】
第7の発明によれば、内筒,芯棒,及び螺旋状部材で形成される略閉じた単一の螺旋状流路に被処理液を流して旋回上昇流を発生するから、たとえ気相体積の比率が高い被処理液であっても、安定な旋回上昇流を生じ、高いガス分離効率を達成する。
【0029】
第8の発明によれば、内筒の軸心から内周面に向けて徐々に水面が高くなる現象が起こる。これによって、螺旋状流路内で分離されたガスが気相に放出されるだけでなく、液相中に残存するガスも遠心分離により更に分離され、面積が大きくなった気液界面から気相中に放出される。これによって、より高いガス分離効率が達成される。
【0030】
第9の発明によれば、芯棒に穿設された小孔から、当初より気相に含まれ又は早い段階で分離された気体の少なくとも一部が、装置外に排出され気相体積が減少するから、当該小孔以降の旋回上昇流が安定し、ガス分離効率が向上する。
【0031】
第10の発明によれば、一次処理液が網状物を伝って流下することにより気液界面の面積が増大し、また、網状物が水面下において気泡を捕捉することにより、より高いガス分離効率が達成される。
【0032】
第11の発明によれば、下方ほど内方に突出する網状物を伝って、一次処理液が緩やかに流下するから、分離され気相中に存在する気体が再度混入し、処理液に混入することが回避される。また、2重以上の網体で網状物が構成されることにより、気液界面の面積が増大すると共に、網状物による気泡捕捉能力が向上する。これらにより、ガス分離効率が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一部を切り開いて示す本発明のガス分離装置の斜視図である。
【図2】本発明のガス分離装置を示す模式図である。
【図3】蓋を開いて示すガス分離装置の上面図である。
【図4】内筒,芯棒及び螺旋状部材を示す要部側方視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
まず、本発明のガス分離装置について説明する。本発明のガス分離装置100は、図1乃至図4に示される様に、
液体を収容可能な本体タンク1と、
少なくともその下端付近を除く部分が本体タンク1内に配設された、上端が開口した有底略円筒状の内筒2と、
その上端が内筒2上端よりも高く配置されると共に、その下端と本体タンク1との間に空隙8を置いて、内筒2と略同軸に本体タンク1内に配設された内筒2より大径の外筒7と、
内筒2の下端付近に連結され、被処理液を内筒2内に導く流入管2bと、
内筒2の軸心上における、少なくとも内筒2の下端を含む部分に配置された芯棒3と、 芯棒3に巻装され、その外周が内筒2の内周面に略接する様に配置された螺旋状部材5と、
本体タンク1における内筒2の上方に穿設された排気口10と、
本体タンク1の側壁における内筒2の上端よりも低い位置に穿設された排水口11とを具えてなる。
【0036】
本体タンク1は、上下端が湾曲した略円筒状の容器であるが、液体を収容可能であれば良く、その形状を特に限定するものではない。
【0037】
内筒2は、略鉛直方向の軸心を有する略円筒状の部材であって、その上端は開放され、下端は封止されている。内筒2の周壁における下端付近には、被処理液をガス分離装置に送液する流入管2bが連結されており、内筒2及び流入管2bの内部は相互に連通している。流入管2bは、少なくとも当該連結部において、内筒2の内周面の接線方向に配置されている。流入管2bの内筒2に対する連結位置は必ずしもこれに限定されないが、螺旋状部材5に過大な負荷を掛けずに旋回上昇流を発生できる様、内筒2の内周面の接線方向に連結されることが好ましい。
【0038】
内筒2の軸心には、芯棒3が配置されている。芯棒3は、上端が封止された略円筒状の部材であって、当該上端の高さ位置は内筒2の中間部に位置し、その下端は内筒2の底板2aを貫通して本体タンク1外に到る。図2及び図4においては、下端付近が拡径された形状として示すが、芯棒3の形状は必ずしもこれに限られない。
【0039】
芯棒3における内筒2の下端付近から芯棒3の上端に至る部分には螺旋状部材5が巻装され、該螺旋状部材5の外周は内筒2の内周面に略接する様に配置されている。流入管2bから流入した被処理液は、順次、内筒2,芯棒3,及び螺旋状部材5で形成される螺旋状流路6に導かれ、旋回上昇流を生じる。旋回上昇流は、例えば、内筒2下部の1箇所又は2箇所以上で、内筒2内周面の接線方向に流入管2bを連結するのみでも発生可能ではあるものの、被処理液中の気相体積の比率が高いときには、脈流又は乱流を生じ、安定しない。それに対して、本発明のガス分離装置100は、被処理液を略閉じた単一の螺旋状流路6に導いて幾度も旋回させるから、被処理液の気相体積比率が高い場合においても安定な旋回上昇流を生じ、該旋回上昇流は螺旋状流路6を出て内筒2上端に到るまで安定に維持される。図3及び図4においては、螺旋状部材5が内筒2及び芯棒3の双方に当接しているが、必ずしもこれに限られず、旋回上昇流の発生及び維持に影響を与えなければ、内筒2又は芯棒3との間に若干の隙間があっても良い。芯棒3との間に僅かな隙間がある場合、内筒3の軸心に集められたガスは、速やかに上昇し分離される。
【0040】
芯棒3の長さは特に限定されず、例えば、内筒2の上端と等しい高さ位置にまで延出されていても良いが、芯棒3の上端の高さ位置が内筒2の中間部に位置することが好ましい。これは、螺旋状流路6を出た旋回上昇流が、芯棒3の上端から内筒2の上端に至る部分を旋回しながら上昇することにより、内筒2の軸心から内筒2の内周面に向けて徐々に水面が高くなる現象が起きるからである。該現象によって、螺旋状流路6内で分離されたガスが気相に放出されるだけでなく、液相中に残存するガスも更に遠心分離され、面積が増大した気液界面から気相中に放出される。
【0041】
芯棒3の周壁には、その内外を連通する小孔3a,…が穿設されている。小孔3a,…は、螺旋状流路6内で内筒2の軸心付近に集められたガスの一部を芯棒3の中空部3bに吸入する孔であり、当該小孔3a,…から進入した気体は、中空部3bを介して、それに連通する排出管4に導かれ装置外に排出される。気体の一部が中空部3bに吸入され排出されると、被処理液に占める気相の体積が減少するから、当該小孔3a,…以降の旋回上昇流が安定する。当該安定化の効果は、当初の気相体積比率が高い被処理液に対して顕著であり、逆に気相体積比率が低い被処理液を処理する場合には、小孔3a,…から気体を吸入しない様にバルブ4aを閉じても良い。
【0042】
小孔3a,…のサイズ,数及び穿設位置は特に限定されないが、典型的には、底板2aを基準として芯棒3上端の約3分の1程度の高さ位置に、螺旋状流路6に沿って90度毎に、直径約5mmの小孔3a,…を12個程度穿設する。
【0043】
外筒7は、内筒2と略同軸に配置された筒状の部材であって、その外周面から突設され本体タンク1内壁に連結された支持棒材7a,…によって、本体タンク1内に配設されている。外筒7の形状は筒状であれば良く、図示される円筒状の他、任意多角形断面を有する筒状等に形成されていても良い。外筒7の上端は、開放されていて、内筒2の上端よりも高い位置に配置されている。旋回上昇流が内筒2上端に至ると、その遠心力によって、一次処理液は放射状に飛散し、外筒7内周面に衝突して流下する。当該飛散,衝突,及び流下の間、気液界面の面積が増大することによって、一次処理液中に残存する気体が更に分離除去される。外筒7内周面に衝突する時の衝撃も、ガス分離を促進する。これらの作用によって分離されたガスは、外筒7の上端開口から放出される。
【0044】
外筒7の内周面における、少なくとも排水口11の下端の高さ位置を含む部分には、外筒7の全周に亘って略円筒形状の網状物9が付設されている。網状物9は、水面上においては、外筒7内周面に衝突し流下する一次処理液の気液界面面積を大きくし、且つ、一次処理液を伝わせて緩やかに水面に導く機能を有する。また、網状物9は、水面下においては、一次処理液中の気泡を捕捉する機能を併せ持つ。
【0045】
網状物9は、矩形状の網体を巻いて略円筒状に形成され、その外周面は外筒7内周面に当接されている。網体のメッシュサイズは特に限定されないが、メッシュサイズ約5mm間隔程度のものが好適に用いられる。網状物9は、1重でも良いが、網体を2重以上に巻いて作製され、且つ、排水口11下端の高さ位置以高の少なくとも一部は、内層ほど下方が縮径していることが好ましい。網状物9を伝って流下する一次処理液の気液界面面積がより増大してガス分離効率が高まり、また、一次処理液が外筒7内周面に衝突し跳ね返ったとしても網状物9に落下し、それを伝って緩やかに水面に到達することが期待されるからである。
【0046】
網状物9は、必ずしも1個の矩形状の網体を巻いて作製されることに限られず、下端直径の異なる複数の略円筒状の網体を重ねて作製されていても良い。網状物9の外筒7への取付方法は、特に限定されないが、例えば、外筒7にワイヤで吊下され若しくは螺着され、又は、外筒7と一体として作製される。
【0047】
外筒7の下端は開口し、当該開口は、本体タンク1との間に空隙8を置いて配置されている。外筒7の内周面に衝突した一次処理液は、外筒7内周面と内筒2外周面との間を流下し、空隙8を通って外筒7外に流出し、排水口11から装置外に排出される。一次処理液が外筒7内周面に衝突することにより、ガスの一部は気泡として残存するが、排水口11に向けて流動する間に上昇して破泡し、排気口10から排出される。外筒7の下端は、必ずしも開口していずとも良く、例えば、外筒7周壁に穿設された多数のパンチング孔によって、外筒7の内外が連通する構造とされていても良い。
【0048】
本体タンク1の内外を連通する排水口11が、本体タンク1の周壁に設けられている。排水口11は、処理液を本体タンク1から排出するだけでなく、本体タンク1内の水位を維持する機能をも有する。図2に示される様に、排水口11が内筒2上端よりも低い位置に設けられているから、内筒2の内部を除く本体タンク11内の水位は内筒2上端より低位に維持され、それによって叙上のガス分離作用が有効に機能する。
【0049】
排水口11を覆う保護カバー12が、本体タンク1内周面に設けられている。保護カバー12は、その下端のみが開放されていて、本体タンク1内の気相と排水口11とを区画し、分離されたガスが処理液に混入して排出されることを防ぐ。
【0050】
次に、本発明のガス分離方法について説明する。本発明のガス分離方法は、
被処理液を、上端が開口した有底略円筒状の内筒2の下端付近に流入させ、内筒2の軸心を中心とする旋回上昇流を発生させてガス分離を行い、一次処理液を得る旋回工程と、 旋回工程で生じた遠心力によって内筒2上端から飛散させた一次処理液を、内筒2と略同軸に、且つその上端が内筒2の上端よりも高く配置された、内筒2より大径の外筒7に衝突させ、当該衝突時の衝撃を利用してガス分離を行う二次分離工程とを含む。
【0051】
[旋回工程]
ポンプ等で送液された被処理液は、流入管2bを介して、内筒2の下端付近に流入する。その後、被処理液は、内筒2,芯棒3,及び螺旋状部材5で構成される螺旋状流路6に導かれ、旋回上昇流を生じる。既述の通り、流入管2bは、少なくとも連結部において内筒2内周面の接線方向に配置される様にして内筒2に連結されており、被処理液が旋回流を生じ易い向きに流入するから、それによって螺旋状部材6に過大な負荷が掛かることが回避される。
【0052】
被処理液は、螺旋状流路6を通る間に旋回上昇流の遠心力によって分離され、液体は外側に、ガスは内筒2の軸心付近に集まる。ガスの一部は、芯棒3に穿設された小孔3a,…から中空部3bに進入し、排出管4を通って装置外に排出される。これによって、被処理液に占める気相体積比率が低下するから、小孔3a,…以降の旋回上昇流の流れが安定する。
【0053】
螺旋状流路6を出た旋回上昇流は、芯棒3の上端以上の部分においても維持され、内筒2内を上昇する。当該部分においては、内筒2の軸心から内筒2の内周面に向けて徐々に水面が高くなる現象が起こる。これによって、螺旋状流路6内で分離されたガスは気相に放出され、また、液相中に残存するガスも更に遠心分離され、面積が増大した気液界面から気相中に放出される。
【0054】
[二次分離工程]
旋回上昇流が内筒2上端に到ると、一次処理液は、遠心力により放射状に飛散する。上端が開口した外筒7が、内筒2と略同軸に、且つその上端が内筒2の上端よりも高く配置されているから、飛散した一次処理液は外筒7内周面に衝突して流下する。当該飛散,衝突,及び流下の間、気液界面の面積が増大することによって、一次処理液中に残存するガスが更に分離される。外筒7内周面に衝突する時の衝撃も、ガス分離を促進する。
【0055】
その後、一次処理液は、内筒2外周面と外筒7内周面との空間を流下し、空隙8を通って外筒7外を上昇し、排水口11から排出される。当該流動の間に、一次処理液に含まれる気泡状のガスは上昇し破泡して、本体タンク1上部の気相に放出される。
【0056】
上記旋回工程及び二次分離工程によって分離された処理液は排水口11から排出され、一方、分離された気体は排気口10から排出される。
【0057】
上記二次分離工程は、内周面における一次処理液が衝突する部位よりも低い高さ位置を上端とし、一次処理液が流下する水面の高さ位置を含む部分に、全周に亘って略円筒状の網状物9が付設された外筒7を用いて行われることが好ましい。網状物9によって、外筒7内周面に衝突し流下する一次処理液の気液界面面積が増大しガス分離が促進されると共に、当該一次処理液が緩やかに水面に到達するからである。また、網状物9によって、水面下の気泡が捕捉され、更にガス分離効率が向上するからである。
【0058】
この場合において、網状物9は、1重でも良いが、網体を2重以上に重ね又は巻いて形成され、且つ、水面の高さ位置を含む少なくとも一部が、下方に向けて徐々に厚くされることが好ましい。網状物9を伝って流下する一次処理液の気液界面面積がより増大してガス分離効率が高まり、また、一次処理液が外筒7内周面に衝突し跳ね返ったとしても網状物9に落下し、それを伝って緩やかに水面に到達することが期待されるからである。
【0059】
以下、実施例を記載するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
ガス分離装置100を用いて、被処理液中の可燃性天然ガスを分離した。ガス分離能を比較するために、排水口から排出された処理水中のメタン濃度を測定した。その結果を、表1に示す。
【0061】
実施例1〜4において、被処理液としては、宮崎県内の温泉から採取した温泉原水又は貯湯処理水を用いた。ここで、貯湯処理水とは、上記温泉原水を貯湯タンク(タンク容量 8m)に流入させ、上部からガスを排出・除去しながら、下部から所定流速(約33〜35m/h)で取り出したものである。温泉原水及び貯湯処理水は、何れも、可燃性天然ガスを主成分とする気相を有する気液混合流体であり、常圧下での気相体積比率は、温泉原水:約50%,貯湯処理水:約1%であった。
【0062】
メタン濃度は、ヘッドスペース法で測定した(以下の実施例2〜4において同じ)。より詳しくは、排水口11から排出された直後の処理液0.9Lを4.5Lの容器に採取し、密閉して強く振盪した後、該容器を開栓し携帯形可燃性ガス検知器(製造元:新コスモス電機株式会社,品名:高感度ガス検知器,型式:XP−3160(CH4))の吸引部分を迅速に該容器内部に差し込み、気相中のメタン濃度を測定した(表中の「−」は未測定であることを示す。以下同じ)。尚、貯湯タンクの排水口から排出された直後に採取した貯湯処理水のメタン濃度は、1,500ppmであった。また、湧水直後に採取した温泉原水については、測定上限を超えており上記携帯形可燃性ガス検知器では測定不能であったが、高濃度ガス検知器(製造元:新コスモス電機株式会社,型式:XP−334(CH4))で同様にして測定したところ、メタン濃度50,000ppmを示した。
【0063】
表中、Dは、内筒2の内径を表す。流出速さは、単位時間当りに排水口11から流出する処理液の体積であり、表中に示す何れの流出速さでも、内筒2上端から飛散した一次処理液は、外筒7内壁における網状物9よりも高い位置に直接衝突していた。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から明らかな様に、本発明のガス分離装置100は、流出速さや内筒2内径の大小によらず、高いガス分離能を示す。また、温泉原水(メタン濃度50,000ppm)及び貯湯処理水(メタン濃度1,500ppm)の何れの試料に対しても高いガス分離能を示し、試料に当初から含まれるガスの多少に関わらず、ガス分離装置100が機能することが示された。
【0066】
特筆すべきは、気相体積比率が50%を占める温泉原水でも、充分にガス分離可能なことである。つまり、ガス分離装置100によれば、当初から高い気相体積比率を持つ被処理液であっても、1回の処理のみで充分なガス分離が達成される。
【実施例2】
【0067】
芯棒3上端の高さ位置を変えて、実施例1のガス分離装置(内筒2内径D=113mm)のガス分離能について検討した結果を、表2に示す。表中、「内筒上端」は芯棒3上端が内筒2上端と略等しい高さ位置に位置する(内筒2上端より僅かに低い)ことを示し、「1/3」は芯棒3上端が内筒2の全高の約3分の1の高さ位置(底板2aから約950mm高い位置)にあることを示す。何れの場合においても、芯棒3の下端付近から上端付近に至るまで、螺旋状部材5が設けられていた。また、Vは、排水口11から排出される処理液の流出速さを表す(実施例3において同じ)。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示される様に、試料の種類によらず、芯棒3上端の高さ位置が内筒2の中間部に位置する方が、高いガス分離能を示した。これは、芯棒3上端と内筒上端が略等しい高さ位置にある場合には、螺旋状流路6を出た直後に一次処理液が飛散するのに対し、芯棒3上端の高さ位置が内筒2の中間部に位置する場合には、芯棒上端より高い位置で旋回上昇流によるガス分離が進行することによると解される。
【実施例3】
【0070】
実施例1のガス分離装置(D=53mm)において、種々の網状物を用い又は網状物9を取除いて、網状物の有無及びその高さ位置がガス分離能に与える影響について検討した。その結果を、表3に示す。
【0071】
表3において、「上」欄は、内筒2から飛散した一次処理液が外筒7に衝突する高さ位置に網状物が配置されているか(「有」と表記)、配置されていないか(「無」と表記)を表す。「下」欄は、水面以下に網状物が配置されているか否かを示す。また、「中」欄は、それらの中間の高さ位置、即ち、水面上で且つ内筒2から飛散した一次処理液が衝突する高さ位置よりも低い位置に、網状物が配置されているか否かを示している。したがって、例えば、網状物9を取り外した状態は「上」欄,「中」欄,及び「下」欄の何れもが「無」と表記される。それ以外の場合においては、一体として作製された網状物が付設されている。
【0072】
【表3】

【0073】
表3に示される通り、何れの流出速さにおいても、網状物9が存在する方が高いガス分離能を示した。また、水面下にのみ網状物を配置するよりも、水面の上下に亘る網状物を配置する方が高いガス分離能を示した。これは、網状物の水面下部分が気泡を捕捉する機能を発揮するばかりでなく、網状物の水面上の部分もガス分離能を高める機能を有することを示す。網状物9は、少なくとも排水口11の下端の高さ位置(水位に略等しい)以高の一部が下方に向けて徐々に厚く形成されているから、一次処理液を緩やかに水面に導くことにより、分離された気体が再混入することが回避されるものと解される。また、網状物の水面上の部分を伝って流下することにより、一次処理液の気液界面面積が増大し、ガス分離が促進されることによるものと解される。
【0074】
更にまた、内筒2上端から飛散した一次処理液が衝突する部分には網状物を配置しない方が、より高いガス分離能を示した。これは、一次処理液が網状物に衝突すると、外筒7内壁に直接衝突するよりも衝撃が緩和されてしまい、ガス分離能が低減されるためと理解される。
【実施例4】
【0075】
実施例1のガス分離装置(D=113mm)を用いて貯湯処理水を処理し(V=150L/min)、排水口11を内筒2上端よりも高い位置に設けた場合と比較した。その結果を、表4に示す。表中の水面欄「内筒上端下」の記載は、ガス分離装置100を示し、水面欄「内筒上端上」は排水口11を内筒2上端よりも高い位置に設けた場合を示す。
【0076】
【表4】

【0077】
排水口11を内筒2上端よりも高い位置に設けると、内筒2内で旋回上昇流は生じるものの内筒2上端から飛散した一次処理液が外筒7内周面に衝突する現象は起こり得ない。表4から明らかな様に、旋回上昇流のみによるよりも、外筒7内周面への衝突が起こる場合の方が、より高いガス分離効率が達成される。
【符号の説明】
【0078】
100 ガス分離装置
1 本体タンク
2 内筒
2a 底板
2b 流入管
3 芯棒
3a 小孔
3b 中空部
4 排出管
4a バルブ
5 螺旋状部材
6 螺旋状流路
7 外筒
7a 支持棒材
8 空隙
9 網状物
10 排気口
11 排水口
12 保護カバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容可能な本体タンクと、
少なくともその下端付近を除く部分が本体タンク内に配設された、上端が開口した有底略円筒状の内筒と、
その上端が内筒上端よりも高く配置されると共に、その下端と本体タンクとの間に空隙を置いて、内筒と略同軸に本体タンク内に配設された内筒より大径の外筒と、
内筒の下端付近に連結され、被処理液を内筒内に導く流入管と、
内筒の軸心上における、少なくとも内筒の下端を含む部分に配置された芯棒と、
芯棒に巻装され、その外周が内筒の内周面に略接する様に配置された螺旋状部材と、
本体タンクにおける内筒の上方に穿設された排気口と、
本体タンクの側壁における内筒の上端よりも低い位置に穿設された排水口と
を具えてなることを特徴とするガス分離装置。
【請求項2】
芯棒の上端の高さ位置が、内筒の中間部に位置することを特徴とする請求項1に記載のガス分離装置。
【請求項3】
外筒の内周面における、少なくとも排水口の下端の高さ位置を含む部分に、外筒全周に亘る略円筒状の網状物が付設されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1項に記載のガス分離装置。
【請求項4】
網状物が、網体を2重以上に重ね又は巻いて形成され、且つ、排水口の下端の高さ位置以高の少なくとも一部が、下方に向けて徐々に厚くされてなることを特徴とする請求項3に記載のガス分離装置。
【請求項5】
下方にのみ開放され、排水口を覆う保護カバーが、本体タンク内周面に設けられてなることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のガス分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−78765(P2013−78765A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−283266(P2012−283266)
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2009−261166(P2009−261166)の分割
【原出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(309034397)株式会社ミンガス (2)
【復代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
【Fターム(参考)】