ガス発生装置及びガス発生方法
【課題】放出源を交換することなく試料ガスの濃度を広範囲で変えることができるガス発生装置及びガス発生方法を提供する。
【解決手段】カラム30内に調査対象となる化学物質を放出する放出源を配置し、希釈ガスを導入して試料ガスを発生させるガス発生装置10において、放出源として、化学物質を収容した容器31aと、容器31aの上部に配置された蓋体31bとを有する放出源31を用い、その放出源31の蓋体31bを駆動装置35及びシャフト37で変位させて蓋体31bと容器31aとの隙間を調整することで、放出源31からの化学物質の放出量を調整可能とした。
【解決手段】カラム30内に調査対象となる化学物質を放出する放出源を配置し、希釈ガスを導入して試料ガスを発生させるガス発生装置10において、放出源として、化学物質を収容した容器31aと、容器31aの上部に配置された蓋体31bとを有する放出源31を用い、その放出源31の蓋体31bを駆動装置35及びシャフト37で変位させて蓋体31bと容器31aとの隙間を調整することで、放出源31からの化学物質の放出量を調整可能とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生装置及びガス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場やサーバールーム等で発生した腐食性の化学物質により、電子機器のスイッチ、コネクタ及び接続端子等が腐食されて故障する場合がある。また、その化学物質による銀を含んだ貴金属製品及び各種めっき製品の腐食も懸念される。
【0003】
そのため、電子機器や貴金属製品への化学物質の影響を調べるために、化学物質を様々な濃度で含んだ試料ガスを発生させ、その試料ガス中に電子部品や貴金属製品等を曝露させて腐食の程度や腐食の進行速度を評価する環境試験が行われている。
【0004】
このような環境試験に用いる試料ガスは、カラムと呼ばれるガス発生管の内部に調査対象となる化学物質を一定速度で放出する放出源を配置し、そのカラムに希釈ガスを導入して化学物質を所定の割合で希釈して発生させる。
【0005】
しかし、環境試験では、試料ガス中の化学物質の濃度を広い濃度範囲で変える必要があり、希釈ガスの流量調節で希釈割合を調整するだけでは十分な濃度範囲の試料ガスが得られない。
【0006】
そのため、従来の環境試験では、放出速度が異なるガス放出源に交換する作業が必要であり、その交換作業の際に作業者が有害な化学物質に曝されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−309497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、放出源を交換することなく試料ガスの濃度を広範囲で変えることができるガス発生装置及びガス発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
下記開示の一観点によれば、化学物質を収容した容器と、前記容器の上部に配置された蓋体と、前記蓋体を変位させて前記蓋体と容器との間隔を調整する駆動機構と、を有するガス発生装置が提供される。
【0010】
また、別の一観点によれば、化学物質を収容した容器と前記容器の上部に配置された蓋体との隙間を調整して前記容器からの前記化学物質の放出速度を変えることにより、希釈ガスで前記化学物質を希釈してなる試料ガス中の前記化学物質の濃度を制御するガス発生方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記のガス発生装置及びガス発生方法によれば、調査対象となる化学物質を収容した容器の蓋体を変位させて、化学物質の放出速度を調整できる放出源を用いる。これにより、希釈ガスの流量調整のみで試料ガスの濃度調整を行う場合に比べて、より広い濃度範囲の試料ガスを発生でき、放出源の交換作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、環境試験装置のブロック図である。
【図2】図2は、予備的事項のガス発生装置のブロック図である。
【図3】図3は、予備的事項の放出源を表す図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る環境試験装置のブロック図である。
【図5】図5は、第1実施形態に係るガス発生装置のブロック図である。
【図6】図6は、図5のカラム及びホルダーの断面図である。
【図7】図7は、図6のトルク伝達部の拡大断面図である。
【図8】図8は、蓋体の変位量と容器からの化学物質の放出速度との関係の一例を表すグラフである。
【図9】図9は、第1実施形態に係るガス発生装置の動作を表すフローチャートである。
【図10】図10は、図9の変位量修正方法を説明するフローチャートである。
【図11】図11は、比較例及び実験例に係るガス発生装置の試料ガスの濃度調節範囲の測定結果を表す図である。
【図12】図12は、第1実施形態の変形例に係る放出源の断面図である。
【図13】図13は、第2実施形態に係るガス発生装置のブロック図である。
【図14】図14は、図13のガス発生装置の制御系のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)予備的事項
実施の形態の説明に先立ち、基礎となる予備的事項について説明する。
【0014】
図1は、環境試験装置のブロック図である。
【0015】
この環境試験装置1は、図示のように浄化装置2と、調湿装置3と、ガス発生装置4と、曝露チャンバ5と、浄化装置6と、恒温槽7とを備える。
【0016】
浄化装置2は、環境試験装置1が取り込んだ空気等の希釈ガスから試験結果に影響を与えるおそれのある化学物質を除去する。浄化装置2で浄化された希釈ガスは調湿装置3に送られ、調湿装置3で所定の湿度に調整される。その後、ガス発生装置4において、後述するように調査対象となる化学物質を希釈ガスで所定の割合で希釈して、試料ガスが生成される。ガス発生装置4で生成された試料ガスは曝露チャンバ5に導かれ、電子機器や貴金属製品が配置された曝露チャンバ5を満たす。なお、試料ガスの湿度、化学物質の濃度及び腐食条件を一定に整えるために、調湿装置3、ガス発生装置4及び曝露チャンバ5は、恒温槽7内に配置されている。
【0017】
その後、試料ガスは曝露チャンバ5から排出され、浄化装置6で有害な化学物質が除去された後、大気中に放出される。
【0018】
このような環境試験装置1では、試料ガス中の化学物質の濃度を変えながら腐食等の調査が行われる。そのため、ガス発生装置4には試料ガスの濃度調整機能が求められる。以下、ガス発生装置4について説明する。
【0019】
図2は、予備的事項に係るガス発生装置4のブロック図である。
【0020】
このガス発生装置4は、図2に示すように、流量調整器4aとカラム4b(ガス放出源)を備える。流量調整器4bは、希釈ガスの流量を所定流量に調整した上で、カラム4bに希釈ガスを供給する。カラム4b内には、化学物質を一定速度で放出する放出源4cが収容されており、希釈ガスで化学物質を希釈することで試料ガスを発生させる。
【0021】
このようなカラム4b内に配置される化学物質放出源4cとしては、図3(a)のディフュージョンチューブ及び図3(b)のパーミエーションチューブがある。
【0022】
図3(a)のディフュージョンチューブ80は、液体の化学物質83を蓄える液溜82と、その液溜82に接続された毛細管81とを有している。そして、液溜82で蒸発した化学物質83が毛細管81を通ることにより拡散が制限されることで、一定速度で化学物質を放出する。このディフュージョンチューブ80の化学物質の放出速度は、毛細管81の形状や温度等によって決まる。
【0023】
ディフュージョンチューブ80を用いた場合に、カラム4bで発生する試料ガスの濃度C[ppm]は、ディフュージョンチューブ80の化学物質の放出速度をDr[μg/min]とし、希釈ガスの流量をF[mL/min]とすると、C=K×Dr×103/Fで表されることが知られている。なお、Kは係数である。
【0024】
このディフュージョンチューブ80からの化学物質の放出速度Drは一定なので、試料ガスの濃度調節は、希釈ガスの流量Fを流量調整器4aで調節して行なう。
【0025】
一方、図3(b)のパーミエーションチューブ90は、フッ素樹管91に液状の化学物質92を導入し、そのフッ素樹脂管91の両端をフッ素樹脂棒93及びかしめ部材94で密封したものである。このパーミエーションチューブ90は、フッ素樹脂管91に化学物質92が浸透して外部に漏れ出すことで、一定速度で化学物質を放出する。
【0026】
パーミエーションチューブ90を用いた場合の試料ガスの濃度C[ppm]は、化学物質92の浸透速度をPr[ng/min/cm]とし、パーミエーションチューブ90の有効長さをL[cm]とし、希釈ガスの流量をF[mL/min]とすると、C=K×Pr×L/Fで表されることが知られている。なお、Kは係数である。
【0027】
パーミエーションチューブ90からの化学物質の放出速度Pr×Lも一定であり、試料ガスの濃度調整は希釈ガスの流量Fを流量調整器4aで調節して行われる。
【0028】
ところが、環境試験に必要な試料ガスの濃度範囲は、例えば10-1ppm〜104ppmといった広範囲である。これに対し、ディフュージョンチューブ80やパーミエーションチューブ90では、放出速度が一定であることから希釈ガスの流量調整でしか濃度調整を行えない。したがって、単一の放出源4cを用いて、希釈ガスの流量調整のみで環境試験に必要な試料ガスを生成しようとすると、希釈ガスの流量を1〜105倍の範囲で変化させる必要があり現実的ではない。
【0029】
また、仮に流量調整が可能であったとしても、大量の希釈ガスを流した場合に、環境試験装置1の浄化装置6(図1参照)の処理能力を超え、大気中に有害な化学物質が漏れ出すおそれがある。
【0030】
以上の理由から、予備的事項のガス発生装置4では、環境試験に必要な濃度範囲の試料ガスを発生するために、カラム4b内に配置する放出源4cを放出速度が異なるものに交換する必要がある。そのため、放出源4cの交換作業の際に、作業者が有害な化学物質に曝されるという問題がある。
【0031】
本願発明者は、このような知見に基づき、以下に説明するような実施形態を着想した。
【0032】
(2)第1実施形態
図4は、第1施形態の環境試験装置のブロック図である。なお、本実施形態に係る環境試験装置100において、図1の環境試験装置1と同様の構成には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0033】
図示のように、本実施形態の環境試験装置100は、ガス発生装置10を除いて、図1に示す環境試験装置1と同様の浄化装置2、6、調湿装置3、曝露チャンバ5及び恒温槽7を備えている。
【0034】
図5は、本実施形態に係るガス発生装置10のブロック図である。
【0035】
ガス発生装置10は、図5のように、流量調整器20と、カラム30とガス発生装置10の各部を制御する制御部40とを有する。
【0036】
このうち、流量調整器20には、調湿装置3(図1参照)で一定の湿度に調整された空気等の希釈ガスが加圧された状態で導入される。この希釈ガスは、流量調整器20の圧力調整バルブ21で一定の圧力値に減圧された後、ニードルバルブ22を通じて一定流量に整えられる。圧力調整バルブ21及びニードルバルブ22の開閉は、圧力センサ23及び流量センサ24の検出結果に基づいて制御部40により制御される。
【0037】
流量調整器20からの希釈ガスは、配管25を通じて恒温槽57内に配置されたカラム30に導かれる。なお、恒温槽57は環境試験装置100の恒温槽7内に設けられた、カラム30専用の恒温槽である。配管25はその恒温槽57との熱交換器を兼ねており、この配管25を通る希釈ガスを恒温槽57の温度と同じ温度に整えることで、カラム30内の温度変動を防ぐ。
【0038】
カラム30には、調査対象となる化学物質を放出する放出源31が配置されている。この放出源31は、カラム30内への設置作業を容易にするため、よりサイズが大きなホルダー32内に収容されている。また、カラム30の上部には、放出源31の蓋体31bを変位させて化学物質の放出速度を調整する駆動機構35が設けられている。
【0039】
以下、カラム30について更に説明する。
【0040】
図6は、図5のカラム30の断面図である。
【0041】
図6のように、カラム30は、ステンレス等の金属で形成された本体30aと、本体30aの開口部30bを密封可能に取り付けられたキャップ30cとを備え、この開口部30bを通じてカラム30内にホルダー32などを設置できるようになっている。また、本体30aの下端側には導入口30dが設けられ、上端側には導出口30eが設けられている。導入口30dは配管25(図5参照)に接続されており、この導入口30dから希釈ガスがカラム30内に流入する。導入口30dよりも上寄りの部分には、メッシュ状の載置板34が配置されている。この載置板34は、例えばステンレス等の金属板に複数のパンチ穴を開けて形成されており、導入口30dから流入した希釈ガスの流れを分散させて、カラム30内での希釈ガスの流れを均一に整える。
【0042】
仕切り板34の上には、例えばステンレス等の金属で形成されたホルダー32が配置される。ホルダー32は、放出源31を保持する台座部32aと、その台座部32a上に配置されて放出源31を囲む筐体32bとを備えている。筐体32bは、複数のパンチ穴(開口部)が形成されており、この開口部を通じて希釈ガス及び化学物質がカラム30とホルダー32との間で拡散できる。
【0043】
放出源31は、調査対象となる化学物質を収容した容器31aと、その容器31aの上に取り付けられた蓋体31bとを備えている。容器31aには、例えば、アルデヒド類や芳香族化合物等の有機化合物及び、硫化水素、二酸化硫黄、窒素酸化物などの無機化合物を含んだ液体が収容される。なお、容器31aは、上記の化学物質を吸着した固体などを収容してもよい。
【0044】
蓋体31bは、容器31aの上端と当接する縁部31cと、その縁部31cよりも容器31aの内側に向けて突出した凸部31dとを備えている。この凸部31dは、容器31aの内径と略同じ大きさか又はそれよりも若干小さな直径に形成されている。
【0045】
このような放出源31の上方には、シャフト37、トルク伝達部36及び駆動部35が配置されている。駆動部35は、例えばステッピングモータ等を含み、カラム30の外に配置されている。この駆動部35の回転運動は、トルク伝達部36を介してカラム30内に配置されたシャフト37に伝達される。
【0046】
図7は、図6のトルク伝達部36の拡大断面図である。
【0047】
トルク伝達部36は、カラム30からの化学物質の漏えいを防ぐために、カラム30のキャップ30cを回転軸などが貫通しない構造とすることが好ましい。そこで、本実施形態では、図7に示すように、トルク伝達部36として、駆動部35の回転軸に接続され、カラム30の外側に配置された第1の回転盤36aと、シャフト37に接続され、カラム30の内側に配置された第2の回転盤36bとを設ける。そして、第1の回転盤36a及び第2の回転盤36bの互いに対向する面側に、それぞれ永久磁石38を配置する。これにより、対向する永久磁石38間の磁場による吸引力によって第1の回転盤36aのトルクが第2の回転盤36bに伝達される。なお、永久磁石38同士の吸引力を高めるために、図示のようにキャップ30cに肉薄部を形成し、その肉薄部に第1の回転盤36a及び第2の回転盤36bを配置すると好適である。
【0048】
図6のように、シャフト37の上端はトルク伝達部36に接続され、下端側にはねじ部37aが形成されている。そして、このねじ部37aが蓋体31bのナット部31e内に設けられたねじ溝と係合している。これにより、シャフト37が所定角度回転すると、その回転角に応じた所定距離だけ容器31aに接近又は離間する方向に蓋体31bが変位する。なお、本明細書で蓋体31bの変位量とは、蓋体31bと容器31aとが密着する位置からの蓋体31bの移動距離をいうものとする。
【0049】
このように、放出源31は、駆動部35によって容器31aと蓋体31bとの間の隙間の大きさを調節できる。
【0050】
図8は、蓋体31bの変位量Xと放出源31からの化学物質の放出速度との関係の一例を表すグラフである。
【0051】
図8のように、蓋体31bの変位量が所定の閾値を超えると、放出源31から化学物質が放出され始める。そして矢印Aに示す範囲で、蓋体31bの変位量に応じて化学物質の放出速度が変化する。したがって、本実施形態の放出源31は、矢印Aの範囲で蓋体31bの変位量を変えることで、放出源31の化学物質の放出速度を調節できる。
【0052】
上記の放出器31から放出された化学物質は、メッシュ状の筐体32b(図6参照)を通じてホルダー32内に流入した希釈ガス中に拡散し、その後ホルダー32外に出る。そして、カラム30内を流れる希釈ガスによってさらに希釈されて試料ガスが発生する。
【0053】
カラム30で発生した試料ガスは、導出口30eを経て、図5の測定容器50に送られる。そして、測定容器50の濃度センサ51で試料ガス中の化学物質の濃度の測定が行われた後、試料ガスはガス発生装置10から排出される。
【0054】
一方、ガス発生装置10の制御部40(図5参照)には、記憶部41と入力部42と濃度測定部43とが接続されている。
【0055】
入力部42からは、制御部40に試料ガスの濃度及び流量の設定値が入力される。また、記憶部41には、例えば図8のような、蓋体31bの変位量と放出源31からの放出速度との関係を表すデータが格納されている。
【0056】
制御部40は、入力部42から入力された試料ガスの濃度及び流量の設定値に対応する蓋体31bの変位量を、記憶部41に格納されたデータを参照して求める。そして、駆動部35に、回転角度を指定する制御信号を出力する。
【0057】
なお、本実施形態の放出源31は、蓋体31bの変位量のわずかな変動によって放出量が変動するため、蓋体31bのネジ部31eの緩みなどによって試料ガスの濃度が設定値からずれる可能性がある。
【0058】
そこで、濃度測定部43が測定容器50に設けられた濃度センサ51で試料ガスの濃度を測定し、その測定結果を制御部40に送出して、蓋体31bの変位量をフィードバック制御する。
【0059】
以下、本実施形態のガス発生装置10の動作について説明する。
【0060】
図9は、ガス発生装置10の動作を表すフローチャートである。
【0061】
まず、ステップS11において、制御部40(図5参照)は、入力部42を通じて試料ガスの流量及び濃度の設定値が入力されたか否かを検出する。入力部42からの入力がない場合(NO)には、入力待ちを行う。
【0062】
一方、ステップS11で入力部42からの入力が検出された場合には(YES)、ステップS12に移行する。
【0063】
ステップS12において、制御部40は試料ガスの流量及び濃度の設定値に基づいて、放出源31の化学物質の放出速度を決定する。例えば、試料ガスの流量をF[L/min]とし、濃度の設定値をC[ppm]とすると、化学物質の放出速度V[μg/min]は、V=k0×C×Fとして求められる。なお、k0は係数である。
【0064】
次に、ステップS13に移行して、制御部40が、記憶部41に格納された蓋体31bの変位量と放出源31の化学物質の放出速度との関係を表すデータ(図8)を参照して、ステップS12で求めた放出速度が得られる蓋体31bの変位量を求める。
【0065】
次に、ステップS14に移行して、制御部40が流量調整器20のニードルバルブ22を開き、設定された流量で希釈ガスをカラム30に流す。
【0066】
次に、ステップS15に移行して、制御部40が駆動部35の回転角度を含む制御データを駆動部35に送信する。これにより、駆動部35を回転して、ステップS13で求めた変位量だけ蓋体31bが変位する。
【0067】
なお、本実施形態のガス発生装置10では、放出源31の蓋体31bのネジ部31eの緩み等によって、蓋体31bの位置がわずかに変動して発生する試料ガスの濃度が変化するおそれがある。
【0068】
そこで、次のステップS16において、制御部40が、試料ガスの濃度の測定結果に基づいて蓋体31bの変位量を修正する。以下に、テップS16による蓋体31bの変位量の修正について更に説明する。
【0069】
図10は、ステップS16の蓋体31bの変位量の修正方法を説明するフローチャートである。
【0070】
先ず、ステップS21において、ステップS14及びS15(図9参照)で設定された条件の下でカラム30で生成される試料ガスの濃度が安定するまで、設定時間だけ待つ。この設定時間は、例えば1〜2分程度とすればよい。
【0071】
次に、ステップS22において、濃度測定部43が濃度センサ51を用いて試料ガスの濃度を測定する。濃度測定部43の測定結果は、制御部40に与えられる。
【0072】
次に、ステップS23において、制御部40は、試料ガスの濃度の測定結果がステップS11(図9参照)で設定された濃度の設定値よりも大きいか否かを判断する。ここで、試料ガスの濃度が設定値よりも大きいと判断された場合(YES)には、ステップS24に移行して、蓋体31bの変位量を、設定値からのずれに応じた量だけ減少させて、蓋体31bと容器31aとの隙間を狭める。一方、試料ガスの濃度が設定値よりも大きくない場合(NO)には、ステップS25に移行する。
【0073】
ステップS25では、制御部40は、試料ガスの濃度の測定結果が設定値よりも小さいか否かを判断する。ここで、試料ガスの濃度が設定値よりも小さいと判断された場合(YES)には、ステップS26に移行して、蓋体31bの変位量を、設定値からのずれに応じた量だけ増加させて、蓋体31bと容器31aとの隙間を広げる。一方、試料ガスの濃度が設定値よりも小さくない場合(NO)には、ステップS27に移行する。
【0074】
ステップS27では、試料ガスの濃度変化が落ち着くのを待つべく、設定時間だけ待機する。この設定時間は、例えば1〜2分程度とすればよい。その後、ステップS28に移行する。
【0075】
ステップS28において、制御部40が測定が終了したか否かを判断する。ここでは、予め設定された環境試験の時間が経過したか否かによって判断してもよいし、入力部42を通じて作業者から測定終了の指示が入力されたか否かを判断してもよい。ステップS28で測定が終了が終了していないと判断された場合(NO)には、ステップS22に移行して、ステップS22〜S27の処理を行う。一方、測定が終了したと判断された場合(YES)には、蓋体31bの修正を終了する。
【0076】
以上の蓋体31bの変位量の修正は、測定が完了するまで一定時間ごとに繰り返し行われる。図9のように、ステップS16の処理の終了後、ガス発生装置10の動作を終了する。
【0077】
なお、上記の説明では、蓋体31bの変位量を修正で濃度を一定値に保っていたが、これに代えて、試料ガスの流量を増減させることで試料ガスの濃度を一定に保つようにしてもよい。
【0078】
以上のように、本実施形態のガス発生装置10では、希釈ガスの流量だけでなく、放出源31からの化学物質の放出速度を変化させることができる。これにより、より広い濃度範囲の試料ガスを発生させることができる。
【0079】
以下、本願発明者らが、本実施形態のガス発生装置による試料ガスの濃度調整範囲(本実施形態の実験例)と、ディフュージョンチューブ及びパーミエーションチューブを用いた場合の濃度調整範囲(比較例1、2)の測定結果について説明する。
【0080】
図11は、本実施形態及び比較例に係るガス発生装置の試料ガスの濃度調節範囲の測定結果を表す図である。なお、図11の実験では、希釈ガスに添加する化学物質としてアセトアルデヒドを用い、希釈ガスとして空気を用いた。また希釈ガスの流量は、0.5L/min〜10L/minの範囲で変化させた。
【0081】
図11のように、ディフュージョンチューブを用いる比較例1の場合には、内径が異なる毛細管を用ることで、矢印B及び矢印Cに示す範囲の試料ガスを得ることが確認できた。ただし、矢印B及びCの測定に用いた毛細管よりも更に内径が小さな毛細管を用いた場合には、破線矢印Dの濃度範囲の試料ガスが得られたが、その濃度が安定するまでに時間がかかりすぎ、実用的ではなかった。このように、ディフュージョンチューブを用いる比較例1の場合には、実用的な範囲では約102ppm〜104ppmの範囲の試料ガスしか得られなかった。
【0082】
また、パーミエーションチューブを用いる比較例2の場合には、矢印Eに示すように、10-1ppm〜101ppmの範囲の試料ガスしか得られなかった。
【0083】
これに対し、本実施形態の実験例の場合には、蓋体31bの変位量を0.0875mmとした場合に破線矢印F1で表すように、10-1ppm〜101ppmの濃度範囲の試料ガスが得られた。また、蓋体31bの変位量を0.1mmとした場合には、破線矢印F2で表すように、101ppm〜102ppmの濃度範囲の試料ガスが得られた。さらに、蓋体31bの凸部31dが容器31aの外に出た全開状態では、破線矢印F3のように、102ppm〜104ppmの濃度範囲の試料ガスが得られた。
【0084】
この実験例より、本実施形態のガス発生装置10によれば、希釈ガスの流量調整のみで試料ガスの濃度を変化させる場合に比べて、広い濃度範囲の試料ガスが得られることが確認できた。これにより、環境試験の際に放出源31の交換作業は不要であり、作業者が有害な化学物質に曝されるのを防止できる。
【0085】
(3)第1実施形態の変形例
以下、本実施形態のガス発生装置10の放出源31の変形例について説明する。
【0086】
図12は、本実施形態の変形例に係る放出源の断面図である。
【0087】
図12(a)の変形例1に係る放出源71では、容器71aの上端側の外周部にネジ溝71cが形成されており、そのねじ溝71cに蓋体71bのねじ山71dが係合している。蓋体71bはシャフト37に接続されており、シャフト37の回転によって、蓋体71b及び容器71aとのネジの締まり具合が変動する。このねじ溝71c及びねじ山71dの間にはわずかな隙間があり、ねじを緩めると化学物質の放出速度を増加し、ねじを締めると化学物質の放出速度が減少する。すなわち、本変形例の放出源71では、シャフト37の回転運動で蓋体71bと容器71aとのネジの締め具合を調整することで、化学物質の放出速度を調整する。
【0088】
本変形例の容器は、微細な隙間の調整が可能であることから、比較的揮発性が高い化学物質の放出速度の調整や、低濃度領域の試料ガスの調整等に好適である。
【0089】
また、図12(b)の変形例2に係る放出源72では、容器72aの上端の内周側の一部がテーパー状に切り欠かれている。また、蓋体72bの凸部72cには、容器72bの切り欠かれた部分と略同じ傾きの傾斜面72dが設けられている。
【0090】
本変形例の放出源72では、蓋体72bと容器72aとの隙間が、蓋体72aの変位量に比例して変化する。そのため、化学物質の放出速度の制御が容易になる。
【0091】
さらに、図12(c)の変形例3に係る放出源73は、蓋体73bの縁部73cに例えばゴム等の弾性部材73dが配置されている。この弾性部材73dは蓋体73bを容器73aに押し付けたときに、放出源73を密封して化学物質の漏えいを防止する。
【0092】
これにより、放出源73の設置作業を行う際に、作業者が化学物質に曝露されるのを防止できる。
【0093】
(4)第2実施形態
図13は、第2実施形態に係るガス発生装置のブロック図である。
【0094】
本実施形態のガス発生装置60は、放出源31の蓋体31aを上下させる駆動機構をカラム30の内部に配置した点で図5のガス発生装置10と相違する。なお、ガス発生装置60において、図5のガス発生装置10と同一の構成には同一符号を付してその説明を省略する。
【0095】
図13に示すように、本実施形態のガス発生装置60は、カラム30内に送信部62が設けられている。また、ホルダー61の上部には受信部63を備えた駆動機構64が設けられている。駆動機構64には、シャフト69が接続されており、このシャフト69は放出源31の蓋体31bに接続されている。蓋体31bは、シャフト69の回転運動によって容器31aに接近又は離間する方向に変位して、蓋体31bと容器31aとの隙間を調整できる。
【0096】
図14は、本実施形態の駆動機構64の制御系のブロック図である。
【0097】
図14に示すように、送信部62は制御部40と接続されており、制御部40から送信されたシャフト69の回転角度を含む制御データを無線信号に変換して送信する。送信部62から送信された無線信号は、受信部63によって受信されて駆動機構64に伝達される。
【0098】
駆動機構64は、デコード部65、記憶部67及び駆動部68を備える。このうち、記憶部67には、受信した信号のコードと、駆動部68に与える信号パルス数との関係を定義したデータが格納されている。デコード部65は、例えばマイコンであり、記憶部67を参照することで、受信部63で受信した信号に対応する数の信号パルスを駆動部68に出力する。駆動部68は、例えばステッピングモータ及びその駆動回路を含み、デコード部65から送信された信号パルス数に応じた回転角度だけ回転軸を回転させる。
【0099】
なお、上記の駆動機構64は、デコード部65、記憶部67及び駆動部68の駆動に要する電力を供給する電池等の電源部66を備えており、駆動機構64には外部からの電源供給が不要である。
【0100】
このように、本実施形態のガス発生装置60(図6参照)では、蓋体31bを変位させる駆動機構64がホルダー61の上部に設けられているため、カラム30の上端側から放出源31の蓋体31bにまで延びるシャフト37が不要である。そのため、ホルダー61の設置及び交換作業がさらに容易となる。また、カラム30を貫通するシャフト等の機械部品がないので、第1の実施形態に係るガス発生装置10と同様に、カラム30からの化学物質の漏えいを防止できる。
【0101】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0102】
(付記1)化学物質を収容した容器と、
前記容器の上部に配置された蓋体と、
前記蓋体を変位させて前記蓋体と前記容器との間の隙間を調整する駆動機構と、
を有することを特徴とするガス発生装置。
【0103】
(付記2)前記駆動機構を制御する制御部を更に有し、前記制御部は前記蓋体の変位量と前記化学物質の放出速度との関係に基づいて、前記蓋体の変位量を決定することを特徴とする付記1に記載のガス発生装置。
【0104】
(付記3)前記化学物質の濃度を検出する濃度センサを有し、
前記制御部は前記化学物質の濃度が設定値よりも高い場合には前記蓋体の変位量を減少させて前記蓋体と前記容器との隙間を狭め、前記化学物質の濃度が設定値よりも低い場合には、前記蓋体の変位量を増加させて前記蓋体と前記容器との隙間を広げることを特徴とする付記2に記載のガス発生装置。
【0105】
(付記4)前記容器及び蓋体を収容したカラムを有し、
前記駆動機構は、前記カラムの外部に配置された駆動部と、前記カラムの内部に配置されて前記蓋体に接続されるとともに回転運動により前記蓋体を前記容器と接近または離間させる方向に変位させるシャフトと、前記駆動部の回転運動を前記シャフトに伝達するトルク伝達部と、を備えることを特徴とする付記1乃至3の何れか1項に記載のガス発生装置。
【0106】
(付記5)前記トルク伝達部は、前記駆動部の回転軸に接続された第1の回転盤と、前記シャフトに接続された第2の回転盤と、前記第1の回転盤及び前記第2の回転盤のそれぞれに配置された永久磁石とを有することを特徴とする付記4に記載のガス発生装置。
【0107】
(付記6)前記駆動機構は、前記カラム内に配置され、前記制御部から無線で伝達された制御信号を受信する信号受信部と、前記カラム内に配置され、前記制御信号で指定された回転角度だけ回転する駆動部と、前記駆動部の回転によって前記蓋体を前記容器に接近又は離間させる方向に変位させるシャフトとを備えることを特徴とする付記4に記載のガス発生装置。
【0108】
(付記7)前記制御部は前記濃度センサの検出結果に基づいて前記化学物質を希釈する希釈ガスの流量を制御することを特徴とする付記1に記載のガス発生装置。
【0109】
(付記8)前記放出源は、複数の開口部を有するホルダー内に配置されていることを特徴とする付記1乃至7の何れか1項に記載のガス発生装置。
【0110】
(付記9)前記化学物質を収容した容器と前記容器の上部に配置された蓋体との隙間を調整して前記前記容器からの化学物質の放出速度を変えることにより、希釈ガスで前記化学物質を希釈してなる試料ガス中の前記化学物質の濃度を制御することを特徴とするガス発生方法。
【0111】
(付記10)前記試料ガス中の前記化学物質の濃度が設定値よりも高い場合には前記蓋体の変位量を減少させて前記蓋体と前記容器との隙間を狭め、前記化学物質の濃度が設定値よりも低い場合には前記蓋体の変位量を増加させて前記蓋体と前記容器との隙間を広げる、
ことを特徴とする付記9に記載のガス発生方法。
【符号の説明】
【0112】
1、100…環境試験装置、2、6…浄化装置、3…調湿装置、4、10、60…ガス発生装置、5…曝露チャンバ、7、57…恒温槽、4a、20…流量調整器、21…圧力調整弁、22…ニードルバルブ、23…圧力センサ、24…流量センサ、25…配管、4b、30…カラム、30a…本体、30b…開口部、30c…キャップ、30d…導入口、30e…導出口、4c、31、71、72、73…放出源、31a、71a、72a、73a…容器、31b、71b、72b、73b…蓋体、31c、73c…縁部、31d、72c…凸部、31e…ナット部、71c…ネジ溝、71d…ネジ山、73d…弾性部材、32、61…ホルダー、32a…台座部、32b…筐体、34…載置板、35、68…駆動部、36…トルク伝達部、36a…第1の回転盤、36b…第2の回転盤、37…シャフト、37a…ネジ部、38…永久磁石、40…制御部、41…記憶部、42…入力部、43…濃度測定部、50…測定容器、51…濃度センサ、62…送信部、63…受信部、64…駆動機構、65…デコード部、66…電源部、67…記憶部、33、83、92…化学物質、80…ディフュージョンチューブ、81…毛細管、82…液溜、90…パーミエーションチューブ、91…フッ素樹脂管、93…フッ素樹脂棒、94…かしめ部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生装置及びガス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場やサーバールーム等で発生した腐食性の化学物質により、電子機器のスイッチ、コネクタ及び接続端子等が腐食されて故障する場合がある。また、その化学物質による銀を含んだ貴金属製品及び各種めっき製品の腐食も懸念される。
【0003】
そのため、電子機器や貴金属製品への化学物質の影響を調べるために、化学物質を様々な濃度で含んだ試料ガスを発生させ、その試料ガス中に電子部品や貴金属製品等を曝露させて腐食の程度や腐食の進行速度を評価する環境試験が行われている。
【0004】
このような環境試験に用いる試料ガスは、カラムと呼ばれるガス発生管の内部に調査対象となる化学物質を一定速度で放出する放出源を配置し、そのカラムに希釈ガスを導入して化学物質を所定の割合で希釈して発生させる。
【0005】
しかし、環境試験では、試料ガス中の化学物質の濃度を広い濃度範囲で変える必要があり、希釈ガスの流量調節で希釈割合を調整するだけでは十分な濃度範囲の試料ガスが得られない。
【0006】
そのため、従来の環境試験では、放出速度が異なるガス放出源に交換する作業が必要であり、その交換作業の際に作業者が有害な化学物質に曝されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−309497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、放出源を交換することなく試料ガスの濃度を広範囲で変えることができるガス発生装置及びガス発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
下記開示の一観点によれば、化学物質を収容した容器と、前記容器の上部に配置された蓋体と、前記蓋体を変位させて前記蓋体と容器との間隔を調整する駆動機構と、を有するガス発生装置が提供される。
【0010】
また、別の一観点によれば、化学物質を収容した容器と前記容器の上部に配置された蓋体との隙間を調整して前記容器からの前記化学物質の放出速度を変えることにより、希釈ガスで前記化学物質を希釈してなる試料ガス中の前記化学物質の濃度を制御するガス発生方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記のガス発生装置及びガス発生方法によれば、調査対象となる化学物質を収容した容器の蓋体を変位させて、化学物質の放出速度を調整できる放出源を用いる。これにより、希釈ガスの流量調整のみで試料ガスの濃度調整を行う場合に比べて、より広い濃度範囲の試料ガスを発生でき、放出源の交換作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、環境試験装置のブロック図である。
【図2】図2は、予備的事項のガス発生装置のブロック図である。
【図3】図3は、予備的事項の放出源を表す図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る環境試験装置のブロック図である。
【図5】図5は、第1実施形態に係るガス発生装置のブロック図である。
【図6】図6は、図5のカラム及びホルダーの断面図である。
【図7】図7は、図6のトルク伝達部の拡大断面図である。
【図8】図8は、蓋体の変位量と容器からの化学物質の放出速度との関係の一例を表すグラフである。
【図9】図9は、第1実施形態に係るガス発生装置の動作を表すフローチャートである。
【図10】図10は、図9の変位量修正方法を説明するフローチャートである。
【図11】図11は、比較例及び実験例に係るガス発生装置の試料ガスの濃度調節範囲の測定結果を表す図である。
【図12】図12は、第1実施形態の変形例に係る放出源の断面図である。
【図13】図13は、第2実施形態に係るガス発生装置のブロック図である。
【図14】図14は、図13のガス発生装置の制御系のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)予備的事項
実施の形態の説明に先立ち、基礎となる予備的事項について説明する。
【0014】
図1は、環境試験装置のブロック図である。
【0015】
この環境試験装置1は、図示のように浄化装置2と、調湿装置3と、ガス発生装置4と、曝露チャンバ5と、浄化装置6と、恒温槽7とを備える。
【0016】
浄化装置2は、環境試験装置1が取り込んだ空気等の希釈ガスから試験結果に影響を与えるおそれのある化学物質を除去する。浄化装置2で浄化された希釈ガスは調湿装置3に送られ、調湿装置3で所定の湿度に調整される。その後、ガス発生装置4において、後述するように調査対象となる化学物質を希釈ガスで所定の割合で希釈して、試料ガスが生成される。ガス発生装置4で生成された試料ガスは曝露チャンバ5に導かれ、電子機器や貴金属製品が配置された曝露チャンバ5を満たす。なお、試料ガスの湿度、化学物質の濃度及び腐食条件を一定に整えるために、調湿装置3、ガス発生装置4及び曝露チャンバ5は、恒温槽7内に配置されている。
【0017】
その後、試料ガスは曝露チャンバ5から排出され、浄化装置6で有害な化学物質が除去された後、大気中に放出される。
【0018】
このような環境試験装置1では、試料ガス中の化学物質の濃度を変えながら腐食等の調査が行われる。そのため、ガス発生装置4には試料ガスの濃度調整機能が求められる。以下、ガス発生装置4について説明する。
【0019】
図2は、予備的事項に係るガス発生装置4のブロック図である。
【0020】
このガス発生装置4は、図2に示すように、流量調整器4aとカラム4b(ガス放出源)を備える。流量調整器4bは、希釈ガスの流量を所定流量に調整した上で、カラム4bに希釈ガスを供給する。カラム4b内には、化学物質を一定速度で放出する放出源4cが収容されており、希釈ガスで化学物質を希釈することで試料ガスを発生させる。
【0021】
このようなカラム4b内に配置される化学物質放出源4cとしては、図3(a)のディフュージョンチューブ及び図3(b)のパーミエーションチューブがある。
【0022】
図3(a)のディフュージョンチューブ80は、液体の化学物質83を蓄える液溜82と、その液溜82に接続された毛細管81とを有している。そして、液溜82で蒸発した化学物質83が毛細管81を通ることにより拡散が制限されることで、一定速度で化学物質を放出する。このディフュージョンチューブ80の化学物質の放出速度は、毛細管81の形状や温度等によって決まる。
【0023】
ディフュージョンチューブ80を用いた場合に、カラム4bで発生する試料ガスの濃度C[ppm]は、ディフュージョンチューブ80の化学物質の放出速度をDr[μg/min]とし、希釈ガスの流量をF[mL/min]とすると、C=K×Dr×103/Fで表されることが知られている。なお、Kは係数である。
【0024】
このディフュージョンチューブ80からの化学物質の放出速度Drは一定なので、試料ガスの濃度調節は、希釈ガスの流量Fを流量調整器4aで調節して行なう。
【0025】
一方、図3(b)のパーミエーションチューブ90は、フッ素樹管91に液状の化学物質92を導入し、そのフッ素樹脂管91の両端をフッ素樹脂棒93及びかしめ部材94で密封したものである。このパーミエーションチューブ90は、フッ素樹脂管91に化学物質92が浸透して外部に漏れ出すことで、一定速度で化学物質を放出する。
【0026】
パーミエーションチューブ90を用いた場合の試料ガスの濃度C[ppm]は、化学物質92の浸透速度をPr[ng/min/cm]とし、パーミエーションチューブ90の有効長さをL[cm]とし、希釈ガスの流量をF[mL/min]とすると、C=K×Pr×L/Fで表されることが知られている。なお、Kは係数である。
【0027】
パーミエーションチューブ90からの化学物質の放出速度Pr×Lも一定であり、試料ガスの濃度調整は希釈ガスの流量Fを流量調整器4aで調節して行われる。
【0028】
ところが、環境試験に必要な試料ガスの濃度範囲は、例えば10-1ppm〜104ppmといった広範囲である。これに対し、ディフュージョンチューブ80やパーミエーションチューブ90では、放出速度が一定であることから希釈ガスの流量調整でしか濃度調整を行えない。したがって、単一の放出源4cを用いて、希釈ガスの流量調整のみで環境試験に必要な試料ガスを生成しようとすると、希釈ガスの流量を1〜105倍の範囲で変化させる必要があり現実的ではない。
【0029】
また、仮に流量調整が可能であったとしても、大量の希釈ガスを流した場合に、環境試験装置1の浄化装置6(図1参照)の処理能力を超え、大気中に有害な化学物質が漏れ出すおそれがある。
【0030】
以上の理由から、予備的事項のガス発生装置4では、環境試験に必要な濃度範囲の試料ガスを発生するために、カラム4b内に配置する放出源4cを放出速度が異なるものに交換する必要がある。そのため、放出源4cの交換作業の際に、作業者が有害な化学物質に曝されるという問題がある。
【0031】
本願発明者は、このような知見に基づき、以下に説明するような実施形態を着想した。
【0032】
(2)第1実施形態
図4は、第1施形態の環境試験装置のブロック図である。なお、本実施形態に係る環境試験装置100において、図1の環境試験装置1と同様の構成には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0033】
図示のように、本実施形態の環境試験装置100は、ガス発生装置10を除いて、図1に示す環境試験装置1と同様の浄化装置2、6、調湿装置3、曝露チャンバ5及び恒温槽7を備えている。
【0034】
図5は、本実施形態に係るガス発生装置10のブロック図である。
【0035】
ガス発生装置10は、図5のように、流量調整器20と、カラム30とガス発生装置10の各部を制御する制御部40とを有する。
【0036】
このうち、流量調整器20には、調湿装置3(図1参照)で一定の湿度に調整された空気等の希釈ガスが加圧された状態で導入される。この希釈ガスは、流量調整器20の圧力調整バルブ21で一定の圧力値に減圧された後、ニードルバルブ22を通じて一定流量に整えられる。圧力調整バルブ21及びニードルバルブ22の開閉は、圧力センサ23及び流量センサ24の検出結果に基づいて制御部40により制御される。
【0037】
流量調整器20からの希釈ガスは、配管25を通じて恒温槽57内に配置されたカラム30に導かれる。なお、恒温槽57は環境試験装置100の恒温槽7内に設けられた、カラム30専用の恒温槽である。配管25はその恒温槽57との熱交換器を兼ねており、この配管25を通る希釈ガスを恒温槽57の温度と同じ温度に整えることで、カラム30内の温度変動を防ぐ。
【0038】
カラム30には、調査対象となる化学物質を放出する放出源31が配置されている。この放出源31は、カラム30内への設置作業を容易にするため、よりサイズが大きなホルダー32内に収容されている。また、カラム30の上部には、放出源31の蓋体31bを変位させて化学物質の放出速度を調整する駆動機構35が設けられている。
【0039】
以下、カラム30について更に説明する。
【0040】
図6は、図5のカラム30の断面図である。
【0041】
図6のように、カラム30は、ステンレス等の金属で形成された本体30aと、本体30aの開口部30bを密封可能に取り付けられたキャップ30cとを備え、この開口部30bを通じてカラム30内にホルダー32などを設置できるようになっている。また、本体30aの下端側には導入口30dが設けられ、上端側には導出口30eが設けられている。導入口30dは配管25(図5参照)に接続されており、この導入口30dから希釈ガスがカラム30内に流入する。導入口30dよりも上寄りの部分には、メッシュ状の載置板34が配置されている。この載置板34は、例えばステンレス等の金属板に複数のパンチ穴を開けて形成されており、導入口30dから流入した希釈ガスの流れを分散させて、カラム30内での希釈ガスの流れを均一に整える。
【0042】
仕切り板34の上には、例えばステンレス等の金属で形成されたホルダー32が配置される。ホルダー32は、放出源31を保持する台座部32aと、その台座部32a上に配置されて放出源31を囲む筐体32bとを備えている。筐体32bは、複数のパンチ穴(開口部)が形成されており、この開口部を通じて希釈ガス及び化学物質がカラム30とホルダー32との間で拡散できる。
【0043】
放出源31は、調査対象となる化学物質を収容した容器31aと、その容器31aの上に取り付けられた蓋体31bとを備えている。容器31aには、例えば、アルデヒド類や芳香族化合物等の有機化合物及び、硫化水素、二酸化硫黄、窒素酸化物などの無機化合物を含んだ液体が収容される。なお、容器31aは、上記の化学物質を吸着した固体などを収容してもよい。
【0044】
蓋体31bは、容器31aの上端と当接する縁部31cと、その縁部31cよりも容器31aの内側に向けて突出した凸部31dとを備えている。この凸部31dは、容器31aの内径と略同じ大きさか又はそれよりも若干小さな直径に形成されている。
【0045】
このような放出源31の上方には、シャフト37、トルク伝達部36及び駆動部35が配置されている。駆動部35は、例えばステッピングモータ等を含み、カラム30の外に配置されている。この駆動部35の回転運動は、トルク伝達部36を介してカラム30内に配置されたシャフト37に伝達される。
【0046】
図7は、図6のトルク伝達部36の拡大断面図である。
【0047】
トルク伝達部36は、カラム30からの化学物質の漏えいを防ぐために、カラム30のキャップ30cを回転軸などが貫通しない構造とすることが好ましい。そこで、本実施形態では、図7に示すように、トルク伝達部36として、駆動部35の回転軸に接続され、カラム30の外側に配置された第1の回転盤36aと、シャフト37に接続され、カラム30の内側に配置された第2の回転盤36bとを設ける。そして、第1の回転盤36a及び第2の回転盤36bの互いに対向する面側に、それぞれ永久磁石38を配置する。これにより、対向する永久磁石38間の磁場による吸引力によって第1の回転盤36aのトルクが第2の回転盤36bに伝達される。なお、永久磁石38同士の吸引力を高めるために、図示のようにキャップ30cに肉薄部を形成し、その肉薄部に第1の回転盤36a及び第2の回転盤36bを配置すると好適である。
【0048】
図6のように、シャフト37の上端はトルク伝達部36に接続され、下端側にはねじ部37aが形成されている。そして、このねじ部37aが蓋体31bのナット部31e内に設けられたねじ溝と係合している。これにより、シャフト37が所定角度回転すると、その回転角に応じた所定距離だけ容器31aに接近又は離間する方向に蓋体31bが変位する。なお、本明細書で蓋体31bの変位量とは、蓋体31bと容器31aとが密着する位置からの蓋体31bの移動距離をいうものとする。
【0049】
このように、放出源31は、駆動部35によって容器31aと蓋体31bとの間の隙間の大きさを調節できる。
【0050】
図8は、蓋体31bの変位量Xと放出源31からの化学物質の放出速度との関係の一例を表すグラフである。
【0051】
図8のように、蓋体31bの変位量が所定の閾値を超えると、放出源31から化学物質が放出され始める。そして矢印Aに示す範囲で、蓋体31bの変位量に応じて化学物質の放出速度が変化する。したがって、本実施形態の放出源31は、矢印Aの範囲で蓋体31bの変位量を変えることで、放出源31の化学物質の放出速度を調節できる。
【0052】
上記の放出器31から放出された化学物質は、メッシュ状の筐体32b(図6参照)を通じてホルダー32内に流入した希釈ガス中に拡散し、その後ホルダー32外に出る。そして、カラム30内を流れる希釈ガスによってさらに希釈されて試料ガスが発生する。
【0053】
カラム30で発生した試料ガスは、導出口30eを経て、図5の測定容器50に送られる。そして、測定容器50の濃度センサ51で試料ガス中の化学物質の濃度の測定が行われた後、試料ガスはガス発生装置10から排出される。
【0054】
一方、ガス発生装置10の制御部40(図5参照)には、記憶部41と入力部42と濃度測定部43とが接続されている。
【0055】
入力部42からは、制御部40に試料ガスの濃度及び流量の設定値が入力される。また、記憶部41には、例えば図8のような、蓋体31bの変位量と放出源31からの放出速度との関係を表すデータが格納されている。
【0056】
制御部40は、入力部42から入力された試料ガスの濃度及び流量の設定値に対応する蓋体31bの変位量を、記憶部41に格納されたデータを参照して求める。そして、駆動部35に、回転角度を指定する制御信号を出力する。
【0057】
なお、本実施形態の放出源31は、蓋体31bの変位量のわずかな変動によって放出量が変動するため、蓋体31bのネジ部31eの緩みなどによって試料ガスの濃度が設定値からずれる可能性がある。
【0058】
そこで、濃度測定部43が測定容器50に設けられた濃度センサ51で試料ガスの濃度を測定し、その測定結果を制御部40に送出して、蓋体31bの変位量をフィードバック制御する。
【0059】
以下、本実施形態のガス発生装置10の動作について説明する。
【0060】
図9は、ガス発生装置10の動作を表すフローチャートである。
【0061】
まず、ステップS11において、制御部40(図5参照)は、入力部42を通じて試料ガスの流量及び濃度の設定値が入力されたか否かを検出する。入力部42からの入力がない場合(NO)には、入力待ちを行う。
【0062】
一方、ステップS11で入力部42からの入力が検出された場合には(YES)、ステップS12に移行する。
【0063】
ステップS12において、制御部40は試料ガスの流量及び濃度の設定値に基づいて、放出源31の化学物質の放出速度を決定する。例えば、試料ガスの流量をF[L/min]とし、濃度の設定値をC[ppm]とすると、化学物質の放出速度V[μg/min]は、V=k0×C×Fとして求められる。なお、k0は係数である。
【0064】
次に、ステップS13に移行して、制御部40が、記憶部41に格納された蓋体31bの変位量と放出源31の化学物質の放出速度との関係を表すデータ(図8)を参照して、ステップS12で求めた放出速度が得られる蓋体31bの変位量を求める。
【0065】
次に、ステップS14に移行して、制御部40が流量調整器20のニードルバルブ22を開き、設定された流量で希釈ガスをカラム30に流す。
【0066】
次に、ステップS15に移行して、制御部40が駆動部35の回転角度を含む制御データを駆動部35に送信する。これにより、駆動部35を回転して、ステップS13で求めた変位量だけ蓋体31bが変位する。
【0067】
なお、本実施形態のガス発生装置10では、放出源31の蓋体31bのネジ部31eの緩み等によって、蓋体31bの位置がわずかに変動して発生する試料ガスの濃度が変化するおそれがある。
【0068】
そこで、次のステップS16において、制御部40が、試料ガスの濃度の測定結果に基づいて蓋体31bの変位量を修正する。以下に、テップS16による蓋体31bの変位量の修正について更に説明する。
【0069】
図10は、ステップS16の蓋体31bの変位量の修正方法を説明するフローチャートである。
【0070】
先ず、ステップS21において、ステップS14及びS15(図9参照)で設定された条件の下でカラム30で生成される試料ガスの濃度が安定するまで、設定時間だけ待つ。この設定時間は、例えば1〜2分程度とすればよい。
【0071】
次に、ステップS22において、濃度測定部43が濃度センサ51を用いて試料ガスの濃度を測定する。濃度測定部43の測定結果は、制御部40に与えられる。
【0072】
次に、ステップS23において、制御部40は、試料ガスの濃度の測定結果がステップS11(図9参照)で設定された濃度の設定値よりも大きいか否かを判断する。ここで、試料ガスの濃度が設定値よりも大きいと判断された場合(YES)には、ステップS24に移行して、蓋体31bの変位量を、設定値からのずれに応じた量だけ減少させて、蓋体31bと容器31aとの隙間を狭める。一方、試料ガスの濃度が設定値よりも大きくない場合(NO)には、ステップS25に移行する。
【0073】
ステップS25では、制御部40は、試料ガスの濃度の測定結果が設定値よりも小さいか否かを判断する。ここで、試料ガスの濃度が設定値よりも小さいと判断された場合(YES)には、ステップS26に移行して、蓋体31bの変位量を、設定値からのずれに応じた量だけ増加させて、蓋体31bと容器31aとの隙間を広げる。一方、試料ガスの濃度が設定値よりも小さくない場合(NO)には、ステップS27に移行する。
【0074】
ステップS27では、試料ガスの濃度変化が落ち着くのを待つべく、設定時間だけ待機する。この設定時間は、例えば1〜2分程度とすればよい。その後、ステップS28に移行する。
【0075】
ステップS28において、制御部40が測定が終了したか否かを判断する。ここでは、予め設定された環境試験の時間が経過したか否かによって判断してもよいし、入力部42を通じて作業者から測定終了の指示が入力されたか否かを判断してもよい。ステップS28で測定が終了が終了していないと判断された場合(NO)には、ステップS22に移行して、ステップS22〜S27の処理を行う。一方、測定が終了したと判断された場合(YES)には、蓋体31bの修正を終了する。
【0076】
以上の蓋体31bの変位量の修正は、測定が完了するまで一定時間ごとに繰り返し行われる。図9のように、ステップS16の処理の終了後、ガス発生装置10の動作を終了する。
【0077】
なお、上記の説明では、蓋体31bの変位量を修正で濃度を一定値に保っていたが、これに代えて、試料ガスの流量を増減させることで試料ガスの濃度を一定に保つようにしてもよい。
【0078】
以上のように、本実施形態のガス発生装置10では、希釈ガスの流量だけでなく、放出源31からの化学物質の放出速度を変化させることができる。これにより、より広い濃度範囲の試料ガスを発生させることができる。
【0079】
以下、本願発明者らが、本実施形態のガス発生装置による試料ガスの濃度調整範囲(本実施形態の実験例)と、ディフュージョンチューブ及びパーミエーションチューブを用いた場合の濃度調整範囲(比較例1、2)の測定結果について説明する。
【0080】
図11は、本実施形態及び比較例に係るガス発生装置の試料ガスの濃度調節範囲の測定結果を表す図である。なお、図11の実験では、希釈ガスに添加する化学物質としてアセトアルデヒドを用い、希釈ガスとして空気を用いた。また希釈ガスの流量は、0.5L/min〜10L/minの範囲で変化させた。
【0081】
図11のように、ディフュージョンチューブを用いる比較例1の場合には、内径が異なる毛細管を用ることで、矢印B及び矢印Cに示す範囲の試料ガスを得ることが確認できた。ただし、矢印B及びCの測定に用いた毛細管よりも更に内径が小さな毛細管を用いた場合には、破線矢印Dの濃度範囲の試料ガスが得られたが、その濃度が安定するまでに時間がかかりすぎ、実用的ではなかった。このように、ディフュージョンチューブを用いる比較例1の場合には、実用的な範囲では約102ppm〜104ppmの範囲の試料ガスしか得られなかった。
【0082】
また、パーミエーションチューブを用いる比較例2の場合には、矢印Eに示すように、10-1ppm〜101ppmの範囲の試料ガスしか得られなかった。
【0083】
これに対し、本実施形態の実験例の場合には、蓋体31bの変位量を0.0875mmとした場合に破線矢印F1で表すように、10-1ppm〜101ppmの濃度範囲の試料ガスが得られた。また、蓋体31bの変位量を0.1mmとした場合には、破線矢印F2で表すように、101ppm〜102ppmの濃度範囲の試料ガスが得られた。さらに、蓋体31bの凸部31dが容器31aの外に出た全開状態では、破線矢印F3のように、102ppm〜104ppmの濃度範囲の試料ガスが得られた。
【0084】
この実験例より、本実施形態のガス発生装置10によれば、希釈ガスの流量調整のみで試料ガスの濃度を変化させる場合に比べて、広い濃度範囲の試料ガスが得られることが確認できた。これにより、環境試験の際に放出源31の交換作業は不要であり、作業者が有害な化学物質に曝されるのを防止できる。
【0085】
(3)第1実施形態の変形例
以下、本実施形態のガス発生装置10の放出源31の変形例について説明する。
【0086】
図12は、本実施形態の変形例に係る放出源の断面図である。
【0087】
図12(a)の変形例1に係る放出源71では、容器71aの上端側の外周部にネジ溝71cが形成されており、そのねじ溝71cに蓋体71bのねじ山71dが係合している。蓋体71bはシャフト37に接続されており、シャフト37の回転によって、蓋体71b及び容器71aとのネジの締まり具合が変動する。このねじ溝71c及びねじ山71dの間にはわずかな隙間があり、ねじを緩めると化学物質の放出速度を増加し、ねじを締めると化学物質の放出速度が減少する。すなわち、本変形例の放出源71では、シャフト37の回転運動で蓋体71bと容器71aとのネジの締め具合を調整することで、化学物質の放出速度を調整する。
【0088】
本変形例の容器は、微細な隙間の調整が可能であることから、比較的揮発性が高い化学物質の放出速度の調整や、低濃度領域の試料ガスの調整等に好適である。
【0089】
また、図12(b)の変形例2に係る放出源72では、容器72aの上端の内周側の一部がテーパー状に切り欠かれている。また、蓋体72bの凸部72cには、容器72bの切り欠かれた部分と略同じ傾きの傾斜面72dが設けられている。
【0090】
本変形例の放出源72では、蓋体72bと容器72aとの隙間が、蓋体72aの変位量に比例して変化する。そのため、化学物質の放出速度の制御が容易になる。
【0091】
さらに、図12(c)の変形例3に係る放出源73は、蓋体73bの縁部73cに例えばゴム等の弾性部材73dが配置されている。この弾性部材73dは蓋体73bを容器73aに押し付けたときに、放出源73を密封して化学物質の漏えいを防止する。
【0092】
これにより、放出源73の設置作業を行う際に、作業者が化学物質に曝露されるのを防止できる。
【0093】
(4)第2実施形態
図13は、第2実施形態に係るガス発生装置のブロック図である。
【0094】
本実施形態のガス発生装置60は、放出源31の蓋体31aを上下させる駆動機構をカラム30の内部に配置した点で図5のガス発生装置10と相違する。なお、ガス発生装置60において、図5のガス発生装置10と同一の構成には同一符号を付してその説明を省略する。
【0095】
図13に示すように、本実施形態のガス発生装置60は、カラム30内に送信部62が設けられている。また、ホルダー61の上部には受信部63を備えた駆動機構64が設けられている。駆動機構64には、シャフト69が接続されており、このシャフト69は放出源31の蓋体31bに接続されている。蓋体31bは、シャフト69の回転運動によって容器31aに接近又は離間する方向に変位して、蓋体31bと容器31aとの隙間を調整できる。
【0096】
図14は、本実施形態の駆動機構64の制御系のブロック図である。
【0097】
図14に示すように、送信部62は制御部40と接続されており、制御部40から送信されたシャフト69の回転角度を含む制御データを無線信号に変換して送信する。送信部62から送信された無線信号は、受信部63によって受信されて駆動機構64に伝達される。
【0098】
駆動機構64は、デコード部65、記憶部67及び駆動部68を備える。このうち、記憶部67には、受信した信号のコードと、駆動部68に与える信号パルス数との関係を定義したデータが格納されている。デコード部65は、例えばマイコンであり、記憶部67を参照することで、受信部63で受信した信号に対応する数の信号パルスを駆動部68に出力する。駆動部68は、例えばステッピングモータ及びその駆動回路を含み、デコード部65から送信された信号パルス数に応じた回転角度だけ回転軸を回転させる。
【0099】
なお、上記の駆動機構64は、デコード部65、記憶部67及び駆動部68の駆動に要する電力を供給する電池等の電源部66を備えており、駆動機構64には外部からの電源供給が不要である。
【0100】
このように、本実施形態のガス発生装置60(図6参照)では、蓋体31bを変位させる駆動機構64がホルダー61の上部に設けられているため、カラム30の上端側から放出源31の蓋体31bにまで延びるシャフト37が不要である。そのため、ホルダー61の設置及び交換作業がさらに容易となる。また、カラム30を貫通するシャフト等の機械部品がないので、第1の実施形態に係るガス発生装置10と同様に、カラム30からの化学物質の漏えいを防止できる。
【0101】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0102】
(付記1)化学物質を収容した容器と、
前記容器の上部に配置された蓋体と、
前記蓋体を変位させて前記蓋体と前記容器との間の隙間を調整する駆動機構と、
を有することを特徴とするガス発生装置。
【0103】
(付記2)前記駆動機構を制御する制御部を更に有し、前記制御部は前記蓋体の変位量と前記化学物質の放出速度との関係に基づいて、前記蓋体の変位量を決定することを特徴とする付記1に記載のガス発生装置。
【0104】
(付記3)前記化学物質の濃度を検出する濃度センサを有し、
前記制御部は前記化学物質の濃度が設定値よりも高い場合には前記蓋体の変位量を減少させて前記蓋体と前記容器との隙間を狭め、前記化学物質の濃度が設定値よりも低い場合には、前記蓋体の変位量を増加させて前記蓋体と前記容器との隙間を広げることを特徴とする付記2に記載のガス発生装置。
【0105】
(付記4)前記容器及び蓋体を収容したカラムを有し、
前記駆動機構は、前記カラムの外部に配置された駆動部と、前記カラムの内部に配置されて前記蓋体に接続されるとともに回転運動により前記蓋体を前記容器と接近または離間させる方向に変位させるシャフトと、前記駆動部の回転運動を前記シャフトに伝達するトルク伝達部と、を備えることを特徴とする付記1乃至3の何れか1項に記載のガス発生装置。
【0106】
(付記5)前記トルク伝達部は、前記駆動部の回転軸に接続された第1の回転盤と、前記シャフトに接続された第2の回転盤と、前記第1の回転盤及び前記第2の回転盤のそれぞれに配置された永久磁石とを有することを特徴とする付記4に記載のガス発生装置。
【0107】
(付記6)前記駆動機構は、前記カラム内に配置され、前記制御部から無線で伝達された制御信号を受信する信号受信部と、前記カラム内に配置され、前記制御信号で指定された回転角度だけ回転する駆動部と、前記駆動部の回転によって前記蓋体を前記容器に接近又は離間させる方向に変位させるシャフトとを備えることを特徴とする付記4に記載のガス発生装置。
【0108】
(付記7)前記制御部は前記濃度センサの検出結果に基づいて前記化学物質を希釈する希釈ガスの流量を制御することを特徴とする付記1に記載のガス発生装置。
【0109】
(付記8)前記放出源は、複数の開口部を有するホルダー内に配置されていることを特徴とする付記1乃至7の何れか1項に記載のガス発生装置。
【0110】
(付記9)前記化学物質を収容した容器と前記容器の上部に配置された蓋体との隙間を調整して前記前記容器からの化学物質の放出速度を変えることにより、希釈ガスで前記化学物質を希釈してなる試料ガス中の前記化学物質の濃度を制御することを特徴とするガス発生方法。
【0111】
(付記10)前記試料ガス中の前記化学物質の濃度が設定値よりも高い場合には前記蓋体の変位量を減少させて前記蓋体と前記容器との隙間を狭め、前記化学物質の濃度が設定値よりも低い場合には前記蓋体の変位量を増加させて前記蓋体と前記容器との隙間を広げる、
ことを特徴とする付記9に記載のガス発生方法。
【符号の説明】
【0112】
1、100…環境試験装置、2、6…浄化装置、3…調湿装置、4、10、60…ガス発生装置、5…曝露チャンバ、7、57…恒温槽、4a、20…流量調整器、21…圧力調整弁、22…ニードルバルブ、23…圧力センサ、24…流量センサ、25…配管、4b、30…カラム、30a…本体、30b…開口部、30c…キャップ、30d…導入口、30e…導出口、4c、31、71、72、73…放出源、31a、71a、72a、73a…容器、31b、71b、72b、73b…蓋体、31c、73c…縁部、31d、72c…凸部、31e…ナット部、71c…ネジ溝、71d…ネジ山、73d…弾性部材、32、61…ホルダー、32a…台座部、32b…筐体、34…載置板、35、68…駆動部、36…トルク伝達部、36a…第1の回転盤、36b…第2の回転盤、37…シャフト、37a…ネジ部、38…永久磁石、40…制御部、41…記憶部、42…入力部、43…濃度測定部、50…測定容器、51…濃度センサ、62…送信部、63…受信部、64…駆動機構、65…デコード部、66…電源部、67…記憶部、33、83、92…化学物質、80…ディフュージョンチューブ、81…毛細管、82…液溜、90…パーミエーションチューブ、91…フッ素樹脂管、93…フッ素樹脂棒、94…かしめ部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質を収容した容器と、
前記容器の上部に配置された蓋体と、
前記蓋体を変位させて前記蓋体と前記容器との間の隙間を調整する駆動機構と、
を有することを特徴とするガス発生装置。
【請求項2】
前記駆動機構を制御する制御部を更に有し、前記制御部は前記蓋体の変位量と前記化学物質の放出速度との関係に基づいて、前記蓋体の変位量を決定することを特徴とする請求項1に記載のガス発生装置。
【請求項3】
前記化学物質の濃度を検出する濃度センサを有し、前記制御部は前記化学物質の濃度が設定値よりも高い場合には前記蓋体の変位量を減少させて前記蓋体と前記容器との隙間を狭め、前記化学物質の濃度が設定値よりも低い場合には、前記蓋体の変位量を増加させて前記蓋体と前記容器との隙間を広げることを特徴とする請求項2に記載のガス発生装置。
【請求項4】
前記容器及び蓋体を収容したカラムを有し、
前記駆動機構は、前記カラムの外部に配置された駆動部と、前記カラムの内部に配置されて前記蓋体に接続されるとともに回転運動により前記蓋体を前記容器と接近または離間させる方向に変位させるシャフトと、前記駆動部の回転運動を前記シャフトに伝達するトルク伝達部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のガス発生装置。
【請求項5】
化学物質を収容した容器と前記容器の上部に配置された蓋体との隙間を調整して前記容器からの前記化学物質の放出速度を変えることにより、希釈ガスで前記化学物質を希釈してなる試料ガス中の前記化学物質の濃度を制御することを特徴とするガス発生方法。
【請求項1】
化学物質を収容した容器と、
前記容器の上部に配置された蓋体と、
前記蓋体を変位させて前記蓋体と前記容器との間の隙間を調整する駆動機構と、
を有することを特徴とするガス発生装置。
【請求項2】
前記駆動機構を制御する制御部を更に有し、前記制御部は前記蓋体の変位量と前記化学物質の放出速度との関係に基づいて、前記蓋体の変位量を決定することを特徴とする請求項1に記載のガス発生装置。
【請求項3】
前記化学物質の濃度を検出する濃度センサを有し、前記制御部は前記化学物質の濃度が設定値よりも高い場合には前記蓋体の変位量を減少させて前記蓋体と前記容器との隙間を狭め、前記化学物質の濃度が設定値よりも低い場合には、前記蓋体の変位量を増加させて前記蓋体と前記容器との隙間を広げることを特徴とする請求項2に記載のガス発生装置。
【請求項4】
前記容器及び蓋体を収容したカラムを有し、
前記駆動機構は、前記カラムの外部に配置された駆動部と、前記カラムの内部に配置されて前記蓋体に接続されるとともに回転運動により前記蓋体を前記容器と接近または離間させる方向に変位させるシャフトと、前記駆動部の回転運動を前記シャフトに伝達するトルク伝達部と、を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のガス発生装置。
【請求項5】
化学物質を収容した容器と前記容器の上部に配置された蓋体との隙間を調整して前記容器からの前記化学物質の放出速度を変えることにより、希釈ガスで前記化学物質を希釈してなる試料ガス中の前記化学物質の濃度を制御することを特徴とするガス発生方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−29365(P2013−29365A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164478(P2011−164478)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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