説明

ガス絶縁電力機器の異常検出方法

【課題】大掛かりな設備が不要で分離作業を簡単なものにする。ガスの分離性能を向上させる。
【解決手段】検出対象のガス絶縁電力機器から取り出した吸着剤4(ステップS1)を絶縁ガスの分解ガスが溶解する液体中に浸漬して分析用水溶液を作成し(ステップS2)、分析用水溶液の分析(ステップS3)による分解ガスの検出に基づいてガス絶縁電力機器内での異常を検出する(ステップS4〜S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSFガスやSFガスを含む混合ガス等を絶縁ガスとして用いたガス絶縁電力機器、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断器(GCB)、キュービクル形ガス開閉装置(C−GIS)、ガス絶縁変圧器、管路気中ガス絶縁送電線路(GIL)などのガス絶縁電力機器の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GIS等のガス絶縁電力機器の異常を検出する方法として、例えば特開2008−67535号公報に開示されたものがある。このガス絶縁電力機器の異常検出方法では、ガス絶縁電力機器から取り出した吸着剤を分析し、絶縁ガスから生じた分解ガスの検出に基づいてガス絶縁電力機器の異常を検出するものである。
【0003】
吸着剤に吸着されているガスを分析するためには吸着剤からガスを分離する必要がある。そのため、吸着剤を加熱し、場合によっては真空引きを併用することで吸着剤からガスを分離している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−67535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸着剤からガスを分離する上記の方法は、吸着剤を加熱する必要があり、また、場合によっては真空引きを行なう必要があるので、分離に必要な設備が大掛かりなものとなると共に、分離のための作業が煩雑になる。また、ガスの分離性能が必ずしも優れているとは言えない。
【0006】
本発明は、大掛かりな設備が不要で分離作業が簡単なものであり、且つ、ガスの分離性能に優れているガス絶縁電力機器の異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、検出対象のガス絶縁電力機器から取り出した吸着剤を、絶縁ガスの分解ガスを溶解する液体に接触させて分析用水溶液を作成し、分析用水溶液の分析による分解ガス又は分解ガスによる影響の検出に基づいてガス絶縁電力機器内での異常を検出するものである。
【0008】
ガス絶縁電力機器の接地タンク内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガスから分解ガスが発生する。この分解ガスは吸着剤によって吸着除去される。分解ガスを吸着した吸着剤をガス絶縁電力機器から取り出し、分解ガスを溶解可能な液体に接触させる、例えば液体中に浸漬させて接触させると、吸着剤から分解ガスが放出され、分解ガスが溶解した分析用水溶液ができる。この分析用水溶液を分析し、分解ガスの検出又は分解ガスによる影響の検出に基づいてガス絶縁電力機器内での異常を検出する。
【0009】
ここで、請求項2記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法のように、分析用水溶液の分析を、pH測定法、導電率測定法、抵抗率測定法、ガスクロマトグラフィ分析法、FTIR分析法、ICP−AES分析法、ICP−MS分析法のうち、少なくともいずれか一つによって行なうことが好ましい。
【0010】
また、請求項3記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法のように、分解ガスとしてHFをモニターガスにすると共に、分析用水溶液の分析を、フッ化水素酸濃度モニタを使用した導電率測定法によって行なうことが好ましい。
【0011】
また、請求項4記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、吸着剤がガス絶縁電力機器の接地タンク内に配置されていたものである。したがって、接地タンクが点検等によって開かれた場合に取り出された吸着剤を使用して異常の検出が行なわれる。
【0012】
さらに、請求項5記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、吸着剤がガス絶縁電力機器の接地タンクの外に設けられ且つ接地タンク内に連通された密閉容器内に配置されていたものである。したがって、接地タンクを閉じたまま、密閉容器のみを開いて吸着剤を取り出すことができる。即ち、接地タンク内を開放することはなく、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着剤を取り出すことができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、吸着剤を液体中に浸漬させる等して液体に接触させるだけで吸着剤からガスを分離させて分析用水溶液を作ることができるので、大掛かりな設備が不要であり、また、簡単な作業で吸着剤からガスを分離させることができる。また、吸着剤を接触させ液体は吸着されていた分解ガスよりも吸着剤に吸着されやすいものであり、液体に吸着剤を接触させると、吸着されていた分解ガスが放出され、代わりに液体を吸着することになる。そのため、分解ガスの分離を良好に行なうことができる。
【0014】
ここで、請求項2記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法のように、分析用水溶液の分析を、pH測定法、導電率測定法、抵抗率測定法、ガスクロマトグラフィ分析法、FTIR分析法、ICP−AES分析法、ICP−MS分析法のうち、少なくともいずれか一つによって行なうことが好ましい。
【0015】
また、請求項3記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法のように、分解ガスとしてHFをモニターガスにすると共に、分析用水溶液の分析を、フッ化水素酸濃度モニタを使用した導電率測定法によって行なうことが好ましい。
【0016】
また、請求項4記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、接地タンク内に配置されていた吸着剤をそのまま利用するので、既に広く運用されている既存のガス絶縁電力機器にそのまま適用することができる。
【0017】
さらに、請求項5記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、接地タンクを閉じたまま、密閉容器のみを開いて吸着剤を取り出すことができるので、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着剤を取り出して異常の検出を行うことができる。即ち、ガス絶縁電力機器の運転を継続しながら内部で生じた異常の検出を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明を実施するガス絶縁電力機器の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の効果を確認するために行なった実験の設備を示す概略構成図である。
【図4】図3の実験タンクを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法の実施形態の一例を示す。ガス絶縁電力機器の異常検出方法(以下、単に異常検出方法という)は、検出対象のガス絶縁電力機器から取り出した吸着剤(ステップS1)を、絶縁ガスの分解ガスを溶解する液体に接触させて分析用水溶液を作成し(ステップS2)、分析用水溶液の分析(ステップS3)による分解ガス又は分解ガスによる影響の検出に基づいてガス絶縁電力機器内での異常を検出する(ステップS4〜S6)ものである。吸着剤を液体に接触させる手段としては、例えば吸着剤を液体中に浸漬させること、吸着剤に液体をかけること等が考えられる。ただし、これらに限るものではない。本実施形態では、吸着剤を液体中に浸漬させている。
【0020】
ガス絶縁電力機器は、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断器(GCB)、キュービクル形ガス開閉装置(C−GIS)、ガス絶縁変圧器、管路気中ガス絶縁送電線路(GIL)等である。ただし、これらに限るものではなく、絶縁ガスが封入された容器内に導体を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、容器内で発生した絶縁ガスの分解ガスを吸着剤によって吸着除去するものであれば上記以外のガス絶縁電力機器であっても良い。本実施形態では、ガス絶縁電力機器はガス絶縁開閉装置である。
【0021】
本実施形態のガス絶縁電力機器を図2に示す。なお、このようなガス絶縁電力機器としては、例えば特開2008−67535号公報に開示されたものがある。このガス絶縁電力機器は、絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着剤4によって吸着除去するものである。そして、吸着剤4を接地タンク2とは別に外に設けた密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に切り離し可能に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通させ、密閉容器5を切り離す場合に接地タンク側連通路28を閉じる第1の開閉弁を備えている。
【0022】
接地タンク2には、内部の真空引き及び絶縁ガス1の封入に使用する給排気管(ガス配管)6と、この給排気管6を開閉する開閉弁7が設けられている。本実施形態では、接地タンク側連通路28は接地タンク2の給排気管6であり、第1の開閉弁は給排気管6に設けられた開閉弁7である。つまり、接地タンク2に通常設けられている既存の給排気管6と開閉弁7を利用している。このため、密閉容器5の取り付けが容易である。また、既存の接地タンク2の設計変更を行わずにそのまま密閉容器5を取り付けることができ、特に、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に対しても後付けすることができる。さらに、後付けした密閉容器5を取り外すことでガス絶縁電力機器を元の状態に戻すことができる。
【0023】
密閉容器5には、密閉容器側連通路10と、密閉容器5を切り離す場合に密閉容器側連通路10を閉じる第2の開閉弁11が設けられている。密閉容器側連通路10は接地タンク側連通路28に接続されている。密閉容器側連通路10と接地タンク側連通路28とは、互いのフランジ10a,6aを突き合わせてボルトによって固定することで切り離し可能に接続されている。
【0024】
導体(主回路)3は、例えば高電圧中心導体で、例えば円筒形状を成している。導体3は、例えば円筒形状を成す接地タンク(機器外被)2の中心位置に配置され、支持絶縁物(スペーサ)8によって支持されている。
【0025】
ガス絶縁電力機器の運転時には、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通させておく。接地タンク2内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガス1から分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク2内と密閉容器5内とは連通されており、分解ガスは自然に拡散して密閉容器5内に到達し、吸着剤4によって吸着除去される。このため、接地タンク2内の分解ガスの濃度を減少させることができる。分解ガスの多くは金属を腐食させる腐食性ガスである。吸着剤4によって分解ガスを吸着除去するので、接地タンク2や導体3等を腐食させる程には分解ガスの濃度は高くならず、これらの腐食を防止することができる。
【0026】
密閉容器5を接地タンク2から切り離す場合、第1の開閉弁7によって接地タンク側連通路28を閉じることで接地タンク2内の気密性を維持できる。このため、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに密閉容器5を切り離して吸着剤4を取り出すことができる。また、第2の開閉弁11によって密閉容器側連通路10を閉じることで密閉容器5内の気密性を維持することができるので、吸着剤4が外気に接触し難くなる。
【0027】
吸着剤4は、例えば合成ゼオライト系吸着剤であり、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の結晶性含水アルミノ珪酸塩で構成されている。吸着剤4は例えば粒状に成形されている。ただし、吸着剤4としては、このようなもの限定されるものではない。吸着剤4として、例えば東ソー株式会社製の合成ゼオライト系吸着剤「ゼオラム」(商品名)の使用が可能である。
【0028】
ガス絶縁電力機器の絶縁ガスとしては、例えばSFガス、SFガスを含む混合ガス等が使用される。ただし、これらのガスに限るものではなく、例えばNガス,COガス,Cガス,c−Cガス,CFIガス,CFガスおよびこれらの混合ガス等が使用されていることもある。即ち、本発明では、絶縁ガスとして例えばSFガス、SFガスを含む混合ガスが使用されている場合は勿論のこと、その他のガスが使用されている場合であっても適用可能である。以下、絶縁ガスとしてSFガスが使用されている場合を例に説明する。
【0029】
絶縁ガスとしてSFガスを使用した場合、接地タンク内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガスから分解ガスとしてSF、SOF、SO、HF、SOF、SOが発生する。これらの分解ガスのうち、その一部種類又は全種類を検出の対象とするモニターガスとして予め選定しておく。また、吸着剤4を浸漬させる液体(以下、浸漬用液体という)として、モニターガスを溶解させるものを選定しておく。
【0030】
ここで、モニターガスと浸漬用液体の選定に当たり、各分解ガスの特性を検討する。各分解ガスの特性を表1に示す。表1より、SO以外のSF、SOF、SO、HF、SOFは常温で水に溶けることがわかる。
【0031】
【表1】

【0032】
機器に設置される吸着剤は分解ガス吸着用でもあるが,機器を乾燥状態に保つための水分吸着用のものであるため,特に水分を吸着しやすい。したがって、吸着剤4を水に接触させることで、吸着されていた分解ガス及び絶縁ガスを放出させることができる。さらに、水は入手が容易で、安価であり、取り扱いが容易である。
【0033】
したがって、本実施形態ではSF、SOF、SO、HF、SOFの5種類の分解ガスをモニターガスとして選定すると共に、浸漬用液体として水(純粋)を使用する。なお、ここではモニターガスとして浸漬用液体に溶ける全ての種類を選定しているが、必ずしも全種類を選定する必要はない。また、複数の分解ガスをモニターガスとして選定しているが、モニターガスは1種類でも良い。さらに、浸漬用液体として水を選定しているが、必ずしも水に限るものではなく、モニターガスを溶解させることができるものであれば、水以外の液体を使用しても良い。水以外の浸漬用液体として、例えばエタノール、メタノール等の使用も可能である。なお、浸漬用液体としては、モニターガスよりも吸着剤4に吸着されやすいものの使用がより好ましいが、必ずしもこれに限るものではなく、モニターガスよりも吸着剤4に吸着されにくくても、吸着剤4に触れることで吸着剤4表面のモニターガスが溶出させることが可能なものであれば使用可能である。
【0034】
吸着剤4は、浸漬用液体に粒状のまま浸漬させても良いし、例えば粉末状にすり潰した後に浸漬させるようにしても良い。また、浸漬する時間は、吸着剤4の形状等によって変化するものであり、一様に特定できるものではないが、吸着剤4に吸着されていたモニターガスが放出され浸漬用液体に溶解されるのに十分な時間とする。例えば、後述する実施例1の実験では、粉末状の吸着剤4からガスが放出される様子が約5分観察されたので、5分とする。また、粒状の吸着剤4については、分析用水溶液のpH値が浸漬時間が30分のものと24時間のものとでは変化しているのに対し、24時間のものと90時間のものとでは変化していないことから、粒状の吸着剤4については例えば24時間とする。ただし、これらの浸漬時間に限らない。
【0035】
分析用水溶液の分析は、例えばpH測定法、導電率測定法、抵抗率測定法、ガスクロマトグラフィ分析法、FTIR分析法、ICP−AES分析法、ICP−MS分析法のうち、少なくともいずれか一つによって行なわれることが好ましい。ただし、使用可能な分析手法はこれらに限るものではなく、モニターガスの検出が可能であればその他の分析手法を使用しても良い。
【0036】
pH測定法は、分析用水溶液のpHに基づいてモニターガスを検出する手法である。即ち、モニターガスの有無によって分析用水溶液のpHが変化することを利用する手法である。例えば、モニターガスが含まれている場合の分析用水溶液のpH値を特定できる場合には、分析用水溶液のpH値を測定し、その測定値に基づいてモニターガスを検出する。また、モニターガスによる影響、例えばモニターガスの有無によるpHの変化の仕方(例えば、モニターガスを含むと酸性側又はアルカリ性側に移行する等)が予め分っている場合には、分析用水溶液とは別に、モニターガスを含んでいない点のみが異なる比較用の水溶液を準備し、分析用水溶液のpH値と比較用水溶液のpH値との比較によってモニターガスを検出する。また、分解ガスによる影響、例えば分解ガスの有無によるpHの変化の仕方(例えば、分解ガスを含むと酸性側又はアルカリ性側に移行する等)が予め分っていない場合でも、分解ガスを含んでいない点のみが異なる比較用の水溶液を準備し、分析用水溶液のpH値と比較用水溶液のpH値が異なっていれば,pH値を変化させる何らかの分解ガスが発生していることが推察されるため,モニターガスの種類が特定できていない場合であってもガス絶縁電力機器の異常を検出できる。さらに、ガス絶縁電力機器の場合,1台の機器においてガス区画が複数に仕切られており,SFガスは相互に接触できない構造となっている場合があるが,この場合,吸着剤はガス区画ごとに設置してあることが一般的である。この場合,全ての,あるいは複数のガス区画の吸着剤を対象に,吸着剤ごとの分析用水溶液を生成して相互比較することで,pH値が異なるものがあれば,その区画(または逆にそれ以外の区画)についてpH値を変化させる何らかの分解ガスが発生していることが推察されるため,ガス絶縁電力機器の異常を検出できる。pH値の測定には、例えばpH試験紙の使用が可能である。ただし、pH試験紙の使用以外の手法によってpH値を測定しても良い。
【0037】
導電率測定法は、分析用水溶液の導電率に基づいてモニターガスを検出する手法である。即ち、モニターガスの有無によって分析用水溶液の導電率が変化することを利用する手法である。例えば、モニターガスが含まれている場合の導電率を特定できる場合には、分析用水溶液の導電率を測定し、その測定値に基づいてモニターガスを検出する。また、モニターガスによる影響、例えばモニターガスの有無による導電率の変化の仕方(例えば、モニターガスを含むと導電率が高くなる又は低くなる等)が予め分っている場合には、分析用水溶液とは別に、モニターガスを含んでいない点のみが異なる比較用の水溶液を準備し、分析用水溶液の導電率と比較用水溶液の導電率との比較によってモニターガスを検出する。また、分解ガスによる影響、例えば分解ガスの有無による導電率の変化の仕方(例えば、分解ガスを含むと導電率が高くなる又は低くなる等)が予め分っていない場合でも、分解ガスを含んでいない点のみが異なる比較用の水溶液を準備し、分析用水溶液の導電率と比較用水溶液の導電率が異なっていれば,導電率を変化させる何らかの分解ガスが発生していることが推察されるため,モニターガスの種類が特定できていない場合であってもガス絶縁電力機器の異常を検出できる。さらに、ガス絶縁電力機器の場合,1台の機器においてガス区画が複数に仕切られており,SFガスは相互に接触できない構造となっている場合があるが,この場合,吸着剤はガス区画ごとに設置してあることが一般的である。この場合,全ての,あるいは複数のガス区画の吸着剤を対象に,吸着剤ごとの分析用水溶液を生成して相互比較することで,導電率が異なるものがあれば,その区画(または逆にそれ以外の区画)について導電率を変化させる何らかの分解ガスが発生していることが推察されるため,ガス絶縁電力機器の異常を検出できる。導電率の測定には、例えば導電率測定器(例えば、東京硝子器械製 CM−60Gや,株式会社堀場製作所、半導体デバイス製造プロセス用フッ化水素酸濃度モニタCM−100シリーズ)の使用が可能である。ただし、導電率測定器の使用以外の手法によって導電率を測定しても良い。
【0038】
抵抗率測定法は、分析用水溶液の電気抵抗率に基づいてモニターガスを検出する手法である。即ち、モニターガスの有無によって分析用水溶液の電気抵抗率が変化することを利用する手法である。例えば、モニターガスが含まれている場合の電気抵抗率を特定できる場合には、分析用水溶液の電気抵抗率を測定し、その測定値に基づいてモニターガスを検出する。また、モニターガスによる影響、例えばモニターガスの有無による電気抵抗率の変化の仕方(例えば、モニターガスを含むと電気抵抗率が高くなる又は低くなる等)が予め分っている場合には、分析用水溶液とは別に、モニターガスを含んでいない点のみが異なる比較用の水溶液を準備し、分析用水溶液の電気抵抗率と比較用水溶液の電気抵抗率との比較によってモニターガスを検出する。また、分解ガスによる影響、例えば分解ガスの有無による電気抵抗率の変化の仕方(例えば、分解ガスを含むと電気抵抗が高くなる又は低くなる等)が予め分っていない場合でも、分解ガスを含んでいない点のみが異なる比較用の水溶液を準備し、分析用水溶液の電気抵抗率と比較用水溶液の電気抵抗率が異なっていれば,電気抵抗率を変化させる何らかの分解ガスが発生していることが推察されるため,モニターガスの種類が特定できていない場合であってもガス絶縁電力機器の異常を検出できる。さらに、ガス絶縁電力機器の場合,1台の機器においてガス区画が複数に仕切られており,SFガスは相互に接触できない構造となっている場合があるが,この場合,吸着剤はガス区画ごとに設置してあることが一般的である。この場合,全ての,あるいは複数のガス区画の吸着剤を対象に,吸着剤ごとの分析用水溶液を生成して相互比較することで,電気抵抗率が異なるものがあれば,その区画(または逆にそれ以外の区画)について電気抵抗を変化させる何らかの分解ガスが発生していることが推察されるため,ガス絶縁電力機器の異常を検出できる。電気抵抗率の測定には、例えば電気抵抗率測定器(例えば、東京硝子器械製 CM−60G)の使用が可能である。ただし、電気抵抗率測定器の使用以外の手法によって電気抵抗率を測定しても良い。
【0039】
ガスクロマトグラフィ分析法は、ガスクロマトグラフィを使用して分析用水溶液中のモニターガスを検出するものである。FTIR分析法は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を使用して分析用水溶液中のモニターガスを検出するものである。ICP−AES分析法は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)を使用して分析用水溶液中のモニターガスを検出するものである。ICP−MS分析法は、高周波誘導結合質量分析装置(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma - Mass Spectrometry)を使用して分析用水溶液中のモニターガスを検出するものである。
【0040】
ガス絶縁電力機器の密閉容器5内から取り出した吸着剤4には、密閉容器5と接地タンク2とが連通されているため、接地タンク2内のガスと同じガスが吸着されている。この吸着剤4を浸漬用液体(水)に浸漬すると(ステップS1,S2)、吸着の対象がガスから水に代わるので、即ち接地タンク2内のガスよりも水の方が吸着剤4に吸着され易いので、吸着剤4に水が吸着されて水中にガスが放出される。水中に放出されたガスのうち、少なくともモニターガスは水に溶けるので、モニターガスが溶け込んだ分析用水溶液が作成される。この分析用水溶液を分析し(ステップS3)、モニターガス又はモニターガスによる影響が検出されれば吸着剤4が配置されていたガス絶縁電力機器内で異常が発生していたことがわかり(ステップS4,S5)、検出されなければ当該ガス絶縁電力機器内で異常は発生していないことがわかる(ステップS4,S6)。
【0041】
つまり、本発明では、使用する絶縁ガスの種類によって、異常の発生により生じる分解ガスの種類が予めわかるので、分解ガスの一部種類又は全種類をモニターガスとして選定しておく。そして、浸漬用液体としてモニターガスを吸着剤4から分離して溶解するものを選定しておき、吸着剤4の浸漬によって生成された分析用水溶液を分析し、モニターガス又はモニターガスによる影響の検出に基づいてガス絶縁電力機器内で生じていた異常を検出するものである。
【0042】
本発明では、ガス絶縁電力機器から取り出した吸着剤4を浸漬用液体に浸漬させるだけでガスを分離させて分析用水溶液を作ることができるので、大掛かりな分離設備が不要であり、また、簡単な作業で吸着剤4からガスを分離させることができる。また、吸着剤4はガス絶縁電力機器内の水分を除去する役割をも有するものであり、水分を良好に吸着することから、水中に吸着剤4を浸漬すると吸着していたガスを良好に放出し、代わりに水を吸着することになる。そのため、ガスの分離を良好に行なうことができる。
【0043】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の説明では、吸着剤4は接地タンク2の外の密閉容器5内に配置されていたものであったが、必ずしもこれに限るものではなく、例えば接地タンク2内に配置されていたものであっても良い。この場合には、密閉容器5を有していない既存のガス絶縁電力機器にもそのまま適用可能である。
【0044】
また、SFガスの分解ガスのうち、例えばHFをモニターガスにすると共に、分析用水溶液の分析にフッ化水素酸濃度モニタを使用した導電率測定法によって行なうようにしても良い。フッ化水素酸濃度モニタとしては、例えば株式会社堀場製作所製、フッ化水素酸濃度モニタCM−100シリーズの使用が可能である。
【0045】
また、分析用水溶液の分析に、複数の分析手法を組み合わせて使用しても良い。
【実施例1】
【0046】
本発明によってガス絶縁電力機器の異常の検出が可能なことを確認するための実験をおこなった。分析用水溶液の分析には、pH(potential Hydrogen:水素イオン指数)測定法を用いた。
【0047】
図3に使用した実験設備を示す。分解ガス(SF)を生成する実験タンク30(図4)はステンレス製で内径150mm、高さ220mm、内部に電極などを設置した状態でのガス容積は3.5リットルである。ただし、循環ポンプ等を含む全ガス容積は4.5リットルである。吸着剤4を収容した吸着剤ユニット31は実験タンク30の次段に設置し、吸着剤4には東ソー株式会社製の合成ゼオライト系吸着剤4「ゼオラム」(F−9,球状品,サイズ4〜8#)を20g使用した。SFガス圧力は0.1MPa(abs.)とし、実験タンク30内の電極は針−平板電極(針:直径:0.5mm、長さ:25mm、ギャップ長:10mm)とした。印加電圧は交流(50Hz)で、印加時間(部分放電発生時間)は48時間とし、印加停止直後に分解ガスを吸着剤4に吸着させた。全電圧印加期間における平均部分放電量は約60[pC/cycle]とした。なお、図3中、符号32は真空ゲージ、符号33は真空ポンプ、符号34は流量計、符号35はドライポンプ、符号36は分析用ガス採取ボンベ、符号37は汎用ポート、符号38はFTIR、符号39はガス分析装置である。
【0048】
分析用水溶液の取得法は、粒状の吸着剤4(2g)を精製水(5g)中で粉末になるまで粉砕・濾過する手法と、粒状のまま精製水(8g)中に浸す手法の2通りとした。吸着剤4の浸漬時間は、吸着剤4が粉末の場合で5分、粒状の場合で30分,24時間,90時間とした。水溶液のpHの測定には、共立理化学研究所製のpH試験紙C.P.R(pH:4.8〜6.2)、B.T.B(pH:6.2〜7.6)、T.B(b)(pH:8.2〜9.6)を用いた。
【0049】
比較のために、精製水のみ、分解ガスを含まないSFガスを吸着させた吸着剤4の水溶液(比較用水溶液)についても実験を行なった。
【0050】
実験の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
精製水単体(吸着剤4の無い状態)のpHは5.6であった。若干酸性であるが、これは空気中の二酸化炭素が溶け込んでいるためであり、精製水では比較的一般的な現象である。
【0053】
吸着剤4を粉末とした場合、分解ガスを含まないSFを吸着させた吸着剤4の水溶液(表2の「吸着剤とSFガス」)のpHは8.4であり、前述の精製水単体の場合に比べてアルカリ性側にシフトしている。これは、本実験で使用した吸着剤4がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の結晶性含水アルミノ珪酸塩で構成されているためであると考えられる。表2には記載していないが、空気中に放置した吸着剤4(SFガスを吸着していない吸着剤4)の場合も同様であった。これに対し、分解ガスを吸着させた吸着剤4(SFガスに分解ガスが含まれるガスを吸着させた吸着剤4。表2の「吸着剤とSFガスと分解ガス」)の水溶液のpHは7.4であり(吸着剤4の浸漬時間:5分)、前述のSFの場合よりも酸性側にシフトしている。これは酸性の分解ガスが精製水に溶出したことが原因であると考えられる。この分解ガスの特定は現時点ではできていないが、部分放電に伴う代表的なSF分解ガスであるフッ化水素(HF)は水溶性であり、その水溶液であるフッ化水素酸は酸性であることが知られている。
【0054】
吸着剤4が粒状の場合、分解ガスを含まない「吸着剤とSFガス」水溶液のpHは浸漬時間に関わらず7.6である。これに対し、分解ガスを含む「吸着剤とSFガスと分解ガス」水溶液は浸漬時間がもっとも短い30分の場合でpH7.0であり、分解ガスを含まないものよりも若干酸性側にシフトしている。浸漬時間を24時間とするとpHは6.6でさらに酸性側にシフトし、前述の通り分解ガスを含まない場合のpHは浸漬時間に関わらず7.6であることから、両者の差は大きくなる。浸漬時間を90時間とした場合のpHは24時間の場合と同じであり、分解ガスの溶出は24時間以内に終了していると考えられる。分解ガスの有無に関わらず、吸着剤4を粒状とした方が粉末状の場合に比べ酸性側であるが、これは吸着剤4からのアルカリ成分の溶出度合いが異なるなどが原因と考えられる。
【0055】
以上の通り、分解ガスを含む吸着剤4を精製水に浸漬すると、分解ガスが溶出し、水溶液のpHは分解ガスを含まないものに比べ酸性側にシフトすることが判明した。これにより、吸着剤4の水溶液から分解ガスの有無を判定できることが確認できた。そして、例えば既に運転されているガス絶縁電力機器から取り出された吸着剤4を使用して異常の発生を検出できることも確認できた。
【実施例2】
【0056】
本発明によってガス絶縁電力機器の異常の検出が可能なことを確認するための実験を行なった。分析用水溶液の分析には、抵抗率測定法、導電率測定法、pH測定法を用いた。上記実施例1と同じ実験設備を使用してSFの分解ガスを発生させ、吸着剤4に吸着させた。実施例1と同じく吸着剤4には東ソー株式会社製の合成ゼオライト系吸着剤4「ゼオラム」(F−9,球状品,サイズ4〜8#)を20g使用した。
【0057】
分析用水溶液の取得法は、粒状の精製水(4g)を精製水10g中に浸漬させて行なった。浸漬時間は、1時間とした。分析用水溶液の電気抵抗率および導電率の測定には、東京硝子器械製 CM−60Gを用いた。また、分析用水溶液のpHの測定には、共立理化学研究所製のpH試験紙C.P.R(pH:4.8〜6.2)、B.T.B(pH:6.2〜7.6)を用いた。
【0058】
比較のために、精製水のみ、分解ガスを含まないSFガスを吸着させた吸着剤4の水溶液(比較用水溶液)についても各実験を行なった。
【0059】
電気抵抗率の測定結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
分解ガスを含まないSFを吸着させた吸着剤4の水溶液の抵抗率は6.07[kΩ・cm]であった。これに対し、分解ガスを吸着させた吸着剤4の水溶液の抵抗率は0.480[kΩ・cm]であった。なお、精製水単体(吸着剤4の無い状態)の抵抗率は1453[kΩ・cm]であった。
【0062】
以上の通り、分解ガスを含む吸着剤4を精製水に浸漬すると、分解ガスが溶出し、分解ガスを含まない吸着剤4を精製水に浸漬した場合に比べて電気抵抗率は大きく低下することが判明した。これにより、吸着剤4の水溶液から分解ガスの有無を判定できることが確認できた。
【0063】
導電率の測定結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
分解ガスを含まないSFを吸着させた吸着剤4の水溶液の導電率は169.3[μS/cm]であった。これに対し、分解ガスを吸着させた吸着剤4の水溶液の導電率は2100[μS/cm]であった。なお、精製水単体(吸着剤4の無い状態)の導電率は0.68[μS/cm]であった。
【0066】
以上の通り、分解ガスを含む吸着剤4を精製水に浸漬すると、分解ガスが溶出し、分解ガスを含まない吸着剤4を精製水に浸漬した場合に比べて導電率は大きく増加することが判明した。これにより、吸着剤4の水溶液から分解ガスの有無を判定できることが確認できた。
【0067】
pHの測定結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
分解ガスを含まないSFを吸着させた吸着剤4の水溶液のpHは7.2であった。これに対し、分解ガスを吸着させた吸着剤4の水溶液のpHは6.4であった。なお、精製水単体(吸着剤4の無い状態)のpHは5.8であった。
【0070】
以上の通り、分解ガスを含む吸着剤4を精製水に浸漬すると、分解ガスが溶出し、分解ガスを含まない吸着剤4を精製水に浸漬した場合に比べてpHが酸性側に移行することが判明した。これにより、吸着剤4の水溶液から分解ガスの有無を判定できることが確認できた。
【符号の説明】
【0071】
2 接地タンク
4 吸着剤
5 密閉容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象のガス絶縁電力機器から取り出した吸着剤を、絶縁ガスの分解ガスを溶解する液体に接触させて分析用水溶液を作成し、前記分析用水溶液の分析による前記分解ガス又は前記分解ガスによる影響の検出に基づいて前記ガス絶縁電力機器内での異常を検出することを特徴とするガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項2】
前記分析用水溶液の分析は、pH測定法、導電率測定法、抵抗率測定法、ガスクロマトグラフィ分析法、FTIR分析法、ICP−AES分析法、ICP−MS分析法のうち、少なくともいずれか一つによって行なわれることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項3】
前記分解ガスとしてHFをモニターガスにすると共に、前記分析用水溶液の分析は、フッ化水素酸濃度モニタを使用した導電率測定法によって行なわれることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項4】
前記吸着剤は、前記ガス絶縁電力機器の接地タンク内に配置されていたものであることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項5】
前記吸着剤は、前記ガス絶縁電力機器の接地タンクの外に設けられ且つ前記接地タンク内に連通された密閉容器内に配置されていたものであることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−206962(P2010−206962A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50372(P2009−50372)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】