説明

ガリウム化合物を使用する口および表在性の微生物の成長制御

【課題】イオン依存性の病原性微生物(例えば、細菌、真菌および寄生生物)によって引き起こされる疾患および障害を、罹患領域にガリウム化合物を適用することによって治療または予防するための方法を提供する。特に、虫歯、膣感染、皮膚感染などを治療または予防するための方法を提供する。
【解決手段】ガリウム化合物は、歯磨き粉、うがい薬、クリーム、軟膏、ゲル、溶液、点眼剤、坐剤などとして処方することができる。また、環境表面(歯ブラシ、義歯、歯の矯正装置、コンタクトレンズ、カテーテル、食品などの表面が挙げられる)で微生物の成長を制御できる。さらに、動物の成長を促進し、その動物が感染するのを予防するためのガリウム化合物を含む動物用飼料を提供し、そして消費者を処理後感染から保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.導入
本発明は、罹患領域もしくは意図された領域に対して局所的または表在的にガリウム化
合物を適用することによって、微生物、特に宿主生物に障害または疾患を引き起こす口お
よび表在性の細菌、ならびに真菌の成長を制御する方法に関する。本発明は、そのような
部生物の成長を制御するためのガリウム化合物を含有する処方物、およびそれらでコーテ
ィングされた物体もしくは材料、またはそれらを組み込んだ物体もしくは材料にさらに関
する。さらに、本発明は、ガリウム化合物を含有する動物用食料に関する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
ガリウムは、核医学の分野で新生物および炎症を診断するために長年使用されているII
Ia族の半金属である。ガリウムはまた、以下の治療においてもいくらかの効能を示してい
る:癌(Adamson et al, 1975, Cancer Chemothe. Rept 59:599-610; Foster et al, 198
6, Cancer Treat Rep 70:1311- 1319; Chitambar et al, 1997, Am J Clin Oncol 20:173
-178)、症候性の癌関連高カルシウム血症(Warrell et al., 1989, in "Gallium in the
treatment of hypercalcemia and bone metastasis", Important Advances in Oncology
, pp. 205-220, J.B. Lippincott, Philadelphia; Bockman et al, 1994, Semin Arthrit
is Rheum 23:268-269)、骨吸収(Warrell et al, 1984, J Clin Invest 73:1487-1490;
Warrell et al, 1989,(既出))、自己免疫疾患および同種移植拒絶(Matkovic et al,
1991, Curr Ther Res 50:255-267; Whitacre et al, 1992, J Newuro immunol 39:175-18
2; Orosz C.G. et al, 1996, Transplantation 61:783-791; Lobanoff M.C. et al, 1997
, Exp Eye Res 65:797-801)、創傷治癒および組織修復の刺激(Bockman et al, U.S.特
許第5,556,645号; Bockman et al, U.S.特許第6,287,606号)、および梅毒などの特定の
感染(Levaditi C. et al, 1931, C R Hebd Seances Acad Sci Ser D Sci Nat 192:1142-
1143)、ヒト型結核菌、ヒストプラスマ症およびリーシュマニア症などの細胞内細菌感染
(Olakanmi et al, 1997, J. Invest. Med. 45:234A; Schlesinger et al, U.S. 特許第6
,203,822号; Bernstein, et al,国際特許出願公報WO 03/053347)、Pseudomonas aerugin
osa感染(Schlesinger et al., U.S.特許第6,203,822号)およびトリパノソーマ症(Leva
diti C. et al.(既出))。
【0003】
骨吸収および高カルシウム血症に対するガリウム活性の正確なメカニズムはよく知られ
ていないが、癌細胞に対する抗増殖特性および抗菌活性は、ガリウムと第二鉄イオン(す
なわち、Fe3+)とが癌細胞または微生物による取り込みに対して競合することに起因す
る可能性があることが言われている(Bernstein, 1998, Pharmacol Reviews 50(4):665-6
82)。鉄は、多くの病原体を含めほとんどの生体にとって必須の元素であり、DNA合成
および種々の酸化還元反応に必要とされる(Byers et al., 1998, Metal Ions Bio syst
35:37-66; Guerinot et al, 1994, Annu Rev Microbiol 48:743-772; Howard, 1999, Cli
n Micobiol Reviews 12(3):394-404)。Ga3+は、Fe3+と類似した溶解および配位の化
学的性質を有することが公知であり(Shannon, 1976, Acta Crystallographica A32:751-
5 767; Huheey et al, 1993, In Inorganic Chemistry: Principles of Structure and R
eactivityI, ed. 4, Harper Collins, NY; Hancock et al, 1980, In Org Chem 19:2709-
2714)、鉄輸送タンパク質トランスフェリンに結合することによって、インビボでFe3+
と非常に似たふるまいをする(Clausen et al, 1974, Cancer Res 34:1931-1937; Vallab
hajosula et al, 1980, J Nucl Med 21:650-656)。ガリウムは微生物の鉄輸送メカニズ
ムを介して微生物に浸入し、DNAとタンパク質の合成を干渉することが推測される。
【0004】
米国特許第6,203,822号および国際特許出願WO 03/053347は、細胞内細菌(特に、ミコ
バクテリウム属の種)に感染した患者を、このクラスの細菌に感染した患者にガリウム化
合物を静脈内投与または経口投与することによって治療するための方法を開示している(
Olakanmi et al, 2000, Infection and Immunity 68(10) :5619-5627もまた参照のこと)
。これらの生物は主にマクロファージに感染する。マクロファージは、多量の鉄を貯蔵し
、トランスフェリンレセプターを過剰発現していることが知られている。非経口または経
口で投与されたガリウム化合物は、トランスフェリンレセプターを通じてマクロファージ
によって簡単に取り込まれ、従って、細胞の中に感染生物によって取り込まれて、それに
よってその生物の代謝を干渉する。細胞内生物以外の微生物に対するガリウムの抗菌活性
は、詳細には調査されていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
3.発明の要旨
本発明は、ガリウム化合物を使用して、病原体の宿主生物の特定部位(例えば、口腔、
鼻腔、目、皮膚および膣)、ならびにそのような病原体が存在しないように維持すること
が必要とされる種々の物体の表面で病原性微生物の成長を制御することに基づいている。
このような制御は、罹患領域もしくは意図される領域にガリウム化合物を局所的または表
在的に適用することを通じて達成される。
【0006】
従って、本発明は、イオン依存性の病原性微生物の成長を制御するための方法を提供し
、この方法は、罹患領域もしくは意図される領域にガリウム化合物を局所的にまたは表在
的に適用する工程を含む。1つの態様において、本発明は、イオン依存性の病原性微生物
(例えば、細菌および真菌)の成長を、そのような病原体に感染した宿主生物(好ましく
は哺乳動物、最も好ましくはヒト)の特定部位において、その部位にガリウム化合物を局
所的(topically)または局部的(locally)に適用することによって、制御するための方
法を提供する。これらの微生物としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
連鎖球菌属、ブドウ球菌属、エルジニア属、サルモネラ属、クラミジア属、コキシラ属(
Coxilla)、エールリヒア属、フランシセラ属、レジオネラ属、パスツレラ属、ブルセラ
属、プロテウス属、ヘリコバクター属(Hilicobacter)、クレブシエラ属、エンテロバク
ター属、エシェリキア属、トロフェリマ属(Tropheryma)、アシネトバクター属、アエロ
モナス属、アルカリゲネス属、カンピロバクター属(Campylobacter)、カプノシトファ
ガ属、バチルス属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム属、エリジペロスリックス
属、リステリア属、ミコバクテリウム属、シュードモナス属などの細菌;およびCandida
albicans、Microsporum canis、Sporothrix schenckii、Trichophyton rubrum、Trichoph
yton mentagrophytes、Malassezia furfur、Pityriasis versicolor、Exophiala werneck
ii、Trichosporon beigelii、Coccidioides immitis、Histoplama capsulatum、Blastomy
ces dermatitidis、Aspergillus fumigatus、Epidermophyton spp.、Fusarium spp.、Zyg
omyces spp.、Rhizopus spp.、Mucor spp.などの真菌。
【0007】
好ましい実施形態において、本発明によって標的とされる微生物としては、口腔におい
て一般的に見出される微生物、特に虫歯、プラーク、歯周疾患、口臭、歯周炎、ならびに
他の口の疾患および障害を引き起こす細菌が挙げられるが、これらに限定されない。この
ような微生物の例としては、Streptococcus mutans、Streptococcus sanguis、Streptoco
ccus gordonii、Atopobium parvulum、Porphyromonas gingivalis、Eubacterium sulciな
どが挙げられるが、これらに限定されない。別の好ましい実施形態において、本発明によ
って標的とされる微生物は、鼻腔および膣の腔、ならびに皮膚の表面で感染を引き起こす
病原性生物であり、これらとしては、Staphylococcus aureus、Streptococcus pneumonia
e、β-hemolytic streptococci、Corynebacterium minutissimum、Candida albicans、Mi
crosporum audouinii、Microsporum canis、Microsporum gypseum、Microsporum canis、
Sporothrix schenckii、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Pityrias
is versicolor、Exophiala werneckii、Trichosporon beigelii、Malassezia furfur、Fu
sarium spp.、Aspergillus spp.などが挙げられる。
【0008】
従って、本発明の1つの態様は、被験体の口の細菌もしくは真菌によって引き起こされ
る疾患または障害を治療または予防するための方法を提供し、この方法は、口腔にガリウ
ム化合物を適用する工程を含む。特定の実施形態において、上記疾患または障害としては
、虫歯、歯周炎、口臭、鵞口瘡などが挙げられる。さらに、本発明は、被験体の表在性の
感染を治療または予防するための方法を提供し、この方法は、罹患領域にガリウム化合物
を局所的に適用する工程を含む。特定の実施形態において、上記表在性の感染としては、
皮膚感染、膣酵母感染、眼の感染などが挙げられる。
【0009】
別の態様において、本発明は、歯ブラシ、義歯、歯の矯正装置、コンタクトレンズ、帯
具、包帯、医療デバイスなどの物体の表面のイオン依存性の病原性微生物の成長を、その
物体の表面にガリウム化合物を適用して、それらを殺菌するか、またはそれらに病原性微
生物がコンタミするのを防止することによって、制御するための方法を提供する。また別
の態様において、本発明は、食物中のイオン依存性の病原性微生物の成長を、ソーキング
、洗浄および/または噴霧によってガリウム化合物をそれらの食物に直接適用することに
よって、制御するための方法を提供する。この食物としては、穀物(例えば、トウモロコ
シ、小麦、米、大麦など)、野菜(例えば、レタス、ホウレンソウ、ジャガイモなど)、
動物の生産物(例えば、魚、卵および肉など)が挙げられる。
【0010】
別の態様において、本発明は、共生微生物と組み合わせて、その必要のある宿主生物に
ガリウム化合物を適用することによって、イオン依存性の病原性微生物の成長を制御する
ための方法を提供する。このような共生微生物としては、乳酸杆菌属、ラクトコッカス属
(Lactococcus)、ビフィドバクテリウム属などの非病原性種が挙げられ(これらに限定
されない)、これらの微生物の成長は、ガリウムの存在によって影響されない。
【0011】
本発明は、イオン依存性の病原性微生物の成長を制御するためのガリウム化合物を含有
する処方物をさらに提供する。特定の実施形態において、上記ガリウム化合物は、口腔に
適用するための歯磨き粉、うがい薬または咽頭洗浄剤として処方される。別の特定の実施
形態において、上記ガリウム化合物は、局所適用または局部適用のための、軟膏、ローシ
ョン、クリーム、ゲル、溶液、点眼剤、エアロゾルなどとして処方される。また別の特定
の実施形態において、上記ガリウム化合物は、物体の表面のコーティングとして処方され
て、その物体を殺菌するおよび/またはその物体の使用者の感染を治療する(例えば、眼
の感染を治療するコンタクトレンズ)。また別の好ましい実施形態において、本発明の処
方物は、ガリウム化合物に加えて共生微生物を含み得る。
また別の態様において、本発明は、プロバイオティクス(probiotics)を含むまたは含
まないガリウム化合物を含む動物用飼料を提供する。
【0012】
3.1.定義
用語「被験体」とは、家禽(例えば、ニワトリ、シチメンチョウなど)、ならびに非霊
長動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)および霊長動物(例えば
、サルおよびヒト)などの哺乳動物を含む動物(最も好ましくはヒト)をいう。
本明細書で使用される場合、用語「局所的に」とは、「全身的に」と対立するものとし
て使用され、被験体の身体の限定的な領域へガリウム化合物を適用することをいい、用語
「局部的に」と交換可能に使用される。用語「局所的に」は、身体の外側領域(例えば、
皮膚および目、ならびに口腔、鼻腔および膣)にガリウム化合物を直接適用することをい
う場合がある。用語「局所的に」は、例えば、損傷によってか、または手術の間に外部環
境に曝された身体の内側の限定的な領域にガリウム化合物を直接適用することをいう場合
もある。
【0013】
本明細書で使用される場合、用語「表在的に」は、無生物物体または有生物物体の表面
にガリウム化合物を適用することをいう。用語「表在的に」は、無生物物体または有生物
物体の表面にコーティングによってガリウム化合物を適用することをいう場合がある。あ
るいは、用語「表在的に」は、ガリウム化合物の溶液に物体を浸すことによってか、また
はその物体の表面にガリウム化合物を接着/結合させることによって、無生物物体または
有生物物体の表面にガリウム化合物を適用することをいう場合もある。
本明細書で使用される場合、「予防有効量」とは、所定の部位で病原性微生物に関連す
る疾患または障害を予防するために十分なガリウム化合物の量をいう。「予防有効量」と
は、所定の部位で病原性微生物の成長を防止もしくは抑制する、または病原性微生物を殺
傷するのに十分なガリウム化合物の量をいう場合もある。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「治療有効量」とは、罹患部位において病原性生物に
よって引き起こされる疾患もしくは障害を治療、対処または改善するのに十分なガリウム
化合物の量をいう。「治療有効量」とは、病原性微生物の数を減少させる、病原性微生物
の成長を抑制する(すなわち、静止)、または罹患部位において病原性微生物を殺傷する
のに十分なガリウム化合物の量をいう場合もある。さらに、ガリウム化合物の治療有効量
とは、疾患もしくは障害の治療、対処または改善において治療上の利益を提供するガリウ
ム化合物単独の量、または他の治療薬と組み合わせた量を意味する。
【0015】
1つの態様において本明細書で使用される場合、用語「有効量」とは、無生物物体の表
面で病原性微生物の成長を制御するのに十分なガリウム化合物の量をいう。この用語は、
病原性微生物の数を減少させる、病原性微生物の成長を抑制する(すなわち、静止)、ま
たは物体の表面上の病原性微生物を殺傷する(すなわち、殺菌)のに十分なガリウム化合
物の量をいう場合がある。この用語は、病原性微生物が物体の表面上に付着する、または
物体の表面にコロニー形成するのを妨げるのに十分なガリウム化合物の量をいうこともで
きる。動物用飼料に関して別の態様において本明細書で使用される場合、用語「有効量」
は、動物に与えられた場合にその動物の成長を促進し、感染を予防するのに十分なガリウ
ム化合物の量をいう。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「プロバイオティクス」とは、宿主内もしくは宿主へ
の移植またはコロニー形成によって微生物叢を変化させ、それによって宿主に対する有益
な健康効果を発揮する生存可能な微生物をいう。プロバイオティクスの有益な健康効果は
、病原性微生物に対しては適さないがプロバイオティクスにとっては好ましく、プロバイ
オティクスの成長が病原性生物の成長よりまさるような環境において、特に首尾よく発揮
され得る。プロバイオティクスのいくつかの例は、乳酸杆菌属、ラクトコッカス属、ペプ
トストレプトコッカス属、ビフィドバクテリウム属などの非病原性の種である。
【0017】
4.図面の説明
図1は、鉄またはガリウムを取り込む微生物のメカニズムを示す図解である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
5.発明の詳細な説明
5.1.鉄輸送およびガリウム
わずかな例外(例えば、Lactobacillus spp. - Archibald, 1983, FEMS Microbiol Let
t 19:29-32; Weinberg, 1997, Perspectives in Biology and Medicine 40(4)578-583を
参照のこと;およびBorrelia burgdorferi - Posey et al., 2000, Science 288:1651-16
53を参照のこと)を除きほとんどの微生物が、その生存のために鉄を必要としているとい
う事実は周知である(Weinberg, 1978, Microbiol Rev 42:45-66; Neilands, 1972, Stru
ct Bond 11:145-170)。鉄は最も豊富な物質のうちの1つであるという事実にもかかわら
ず、有酸素環境において鉄が不溶性化合物(酸化物−水酸化物)として存在することに起
因して、微生物に対する鉄の利用可能性は限定されている(Guerinot, 1994, 既出; Spir
o, et al, 1966, J Am Chem Soc 88:2721-2725; Vander Helm et al., 1994, In Metal i
ons in fungi vol. 11, pp. 39-98, Marcel Dekker, Inc. New York, NY)。従って、細
菌および真菌、ならびに寄生生物などの微生物は、その環境において鉄の利用可能性が限
定されているにもかかわらずに鉄を獲得するために、種々のメカニズムを発達させている
(Howard, 1999, 既出)。
【0019】
このようなメカニズムの1つが、シデロフォアと呼ばれる強力な鉄キレート化合物の合
成である。微生物は、環境中のFe3+に結合して特異的な輸送システムを介して細胞に輸送
するシデロフォアを生成し、Fe3+はFe2+として放出されて貯蔵される。公知のシデロフォ
アとしては、ヒドロキシメート、例えば、ロドトルリン酸、コプロゲン(coprogen)、フ
ェリクロム、およびフサリニン(fusarinine);ポリカルボキシレート; フェノレート
−カテコレート(phenolates-catecholates)およびデスフェロキサミン(desferioxamin
e)が挙げられる(Howard, 1999, 既出)。他のメカニズムとしては、シデロフォアまた
は宿主の鉄トランスポータ(例えば、トランスフェリンおよびラクトフェリン)と複合体
化した鉄の直接的な内在化、膜関連レダクターゼメカニズム、およびレセプター媒介性メ
カニズム、ならびに膜媒介性の直接輸送メカニズム(Howard, 1999, 既出; Crosa, 1997,
Microbiol MoI Biol Rev 61:319-336; Payne, 1994, Methods Enzymol 235:329-344)が
挙げられる。これらのメカニズムを通じた鉄の利用可能性は、微生物の毒性と密接に関連
し(Litwin et al, 1993, Clin Microbiol Reviews 6(2): 137-149)、そして各生物は、
鉄が乏しい環境から鉄を得て、その成長および生存を維持するための複数の代替的なメカ
ニズムを有し得る(例えば、Spatafora et al, 2001, Microbiology 147:1599-1610を参
照のこと)。
【0020】
ガリウムイオン(Ga3+)および第二鉄イオン(Fe3+)は、特にタンパク質およびキレー
ターへの結合に関して、顕著な生化学的類似性を有することが報告されている。これらの
類似性は、それらの同等のイオン半径および結合への共有結合性の貢献に対するイオンの
程度(静電)が主に原因である(概説については、Bernstein, 1998, 既出を参照のこと
)。これらの類似性のために、Ga3+は、種々の生物学的プロセスにおいてFe3+を模倣する
ことができる。例えば、Ga3+は、トランスフェリンに結合し(例えば、Clausen et al, 1
974, Cancer Res 34:1931-1937; Vallabhajosula et al, 1980, J Nucl Med 21:650-656
を参照のこと)、トランスフェリン媒介性エンドサイトーシスを介して細胞に輸送される
(Chitambar, 1987, Cancer Res 47:3929-3934)。
【0021】
理論によって束縛されることを意図することなく、Ga3+は、シデロフォアと競合的に結
合することができ、微生物によって容易に取り込まれ得、そこでDNAおよびタンパク質の
合成を混乱させ得るか、または細菌タンパク質に結合してその微生物の成長を害し得、そ
れによってついにはその微生物の静止または死をもたらすことができると考えられている
。あるいは、Ga3+が微生物の膜レダクターゼを塞いで、Fe3+よりも生物学的に利用可能で
あるFe2+に還元されるためのレダクターゼとFe3+が結合するのを妨げことができるという
可能性もある。ガリウムの取り込みは微生物を即座に殺傷するのではなく、むしろ初期の
静止状態(すなわち、微生物の成長または増殖が阻害される状態)に導くので、耐性微生
物を生じさせるリスクは低い。
本発明は、ガリウム化合物のこれらの特徴の利点を利用し、病原性微生物の成長を制御
して、そのような病原体によって引き起こされる感染を治療または予防するための方法お
よび処方物を提供する。
【0022】
5.2.ガリウム化合物
本発明の使用に適したガリウム化合物としては、薬学的に受容可能であって、かつ哺乳
動物での使用(特にヒトでの使用)に対して安全である任意のガリウム含有化合物が挙げ
られる。ガリウム化合物は、ヒトにおいて診断的および治療的に使用されていて、ヒトで
の使用に対して非常に安全であることが知られている(Foster et al, 1986, 既出; Todd
et al, 1991, Drugs 42:261-273; Johnkoff et al, 1993, Br J Cancer 67:693-700を参
照のこと)。
【0023】
本発明における使用について適した薬学的に受容可能なガリウム化合物としては、硝酸
ガリウム、ガリウムマルトレート(gallium maltolate)、クエン酸ガリウム、リン酸ガ
リウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、炭酸ガリウム、ギ酸ガリウム(gallium format
e)、酢酸ガリウム、硫酸ガリウム、酒石酸ガリウム(gallium tartrate)、シュウ酸ガ
リウム、酸化ガリウム、および種々の適用において元素ガリウムの有効レベルを安全に提
供し得る任意の他のガリウム化合物が挙げられるがこれらに限定されない。さらに、ガリ
ウム複合体(例えば、ガリウムピロン、ガリウムピリドン、およびガリウムオキシム)、
ならびにトランスフェリンおよびラクトフェリンなどのタンパク質に結合されたガリウム
、またはヒドロキシメート、ポリカルボキシレートおよびフェノレート−カテコレート、
デスフェロキサミンなどのシデロフォアに結合されたガリウム、および他のイオンキレー
タ(例えば、システイン、α−ケト酸、ヒドロキシ酸およびピリドキサルイソニコチニル
ヒドラゾンクラス(Richardson et al, 1997, Antimicrobial Agents and Chemotherapy
41(9):2061-2063))に結合されたガリウムなども、本発明における使用について適して
いる。
【0024】
ガリウム化合物の治療有効量(すなわち、投薬量)は、治療されるべき疾患または障害
の性質および重症度、罹患領域の位置、被験体の年齢および免疫学的バックグラウンド、
使用されるべきガリウム化合物の型、ならびに当業者に明らかな他の因子に基づいて変動
し得る。代表的には、ガリウム化合物の治療有効量は、適用部位において、少なくとも約
1μM、少なくとも約50μM、少なくとも約100μM、少なくとも約500μM、少
なくとも約1mM、少なくとも約10mM、少なくとも約50mM、少なくとも約100
mM、少なくとも約200mM、最大約500mMのガリウムイオン濃度を与えるような
量であり得る。ガリウムの毒性は低いので、上記の量は、500mMを超えて何らかの毒
性を引き起こすような量未満まで自由に増加させることができる。参考までに、健康な成
人は、少なくとも7日間、少なくとも約200mg/m2/日の硝酸ガリウムの静脈内注
入を許容し得ることが報告されている(Schlesinger et al., 既出を参照のこと)。
【0025】
ガリウム化合物の予防有効量は、病原性微生物に関連する疾患または障害を予防するの
に十分な量であり得、罹患領域の位置、その領域中の病原性微生物の型および数、使用さ
れるべきガリウム化合物の型に基づいて、ならびに適用の方法および当業者に明らかな他
の因子に基づいて変動し得る。代表的には、ガリウム化合物の予防有効量は、適用部位に
おいて、少なくとも約0.1μM、少なくとも約50μM、少なくとも約100μM、少
なくとも約500μM、少なくとも約1mM、少なくとも約10mM、少なくとも約50
mM、少なくとも約100mM、最大約200mMのガリウムイオン濃度を与えるような
量であり得る。この場合もまた、予防目的のためのガリウム化合物の量は、200mMを
超えて何らかの毒性を引き起こすような量未満まで自由に増加させることができる。
【0026】
無生物物体の表面で病原性微生物の成長を制御するのに十分なガリウム化合物の有効量
は、その物体の型、それらの使用の頻度、それらが病原性生物に曝される頻度および当業
者に明白な他の因子に依存して変動し得る。代表的には、この適用のためのガリウム化合
物の有効量は、物体の表面領域に少なくとも約50mg/m2、少なくとも約100mg
/m2、少なくとも約200mg/m2、少なくとも約300mg/m2、少なくとも約5
00mg/m2、少なくとも約600mg/m2、少なくとも約700mg/m2、少なく
とも約800mg/m2、少なくとも約900mg/m2または少なくとも約1g/m2
ガリウムイオン濃度を与える量であり得る。
【0027】
5.3.ガリウム化合物の処方物
本発明に適するガリウム化合物は、それらの適用に依存して種々の形態で処方すること
ができる。従って、本発明は、イオン依存性の病原性微生物の成長を制御するためのガリ
ウム化合物を含有する処方物を提供する。特定の実施形態において、上記ガリウム化合物
は、口腔に適用するための歯磨き粉、うがい薬、ゲルまたは咽頭洗浄剤として処方される
。別の特定の実施形態において、上記ガリウム化合物は、局所適用または局部適用のため
の軟膏、ローション、クリーム、ゲル、溶液、エアロゾル、坐剤などとして処方される。
局所適用または局部適用のために代表的に使用される任意の他の処方物が、本発明に適用
可能である。
別の好ましい実施形態において、本発明の処方物は、ガリウム化合物に加えて共生微生
物をさらに含むことができる。そのような処方物が罹患領域に適用される場合、プロバイ
オティクスは、微生物叢を支配することができる一方で、上記ガリウム化合物が、病原性
微生物の成長を低減もしくは阻害するか、またはその病原性微生物を殺傷する。
【0028】
本発明のガリウム化合物処方物は、他の活性成分または不活性成分をさらに含有するこ
とができる。歯磨き粉について、そのような他の成分としては、硝酸カリウム(歯の敏感
度を低下させるため)、フッ化物、研磨剤、例えば、ケイ酸(hydrated silica)、界面
活性剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、およびラウリル硫酸アンモニウム、封鎖剤(
唾液からカルシウムおよびマグネシウムを除去するため)、例えば、ピロリン酸四ナトリ
ウム(TSPP)、ポリマー、例えば、アクリルPVM/MAコポリマー、ポリエチレングリコール
(PEG)およびポリプロピレングリコール(PPG)、歯の漂白剤、例えば、過炭酸ナトリウ
ム、甘味料、ふくらし粉、ならびに他の抗細菌剤および充填剤が挙げられるが、これらに
限定されない。クリームおよびローションについて、そのような他の成分としては、緩和
薬、保湿剤、ビタミン、抗酸化物質、界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定され
ない。
【0029】
5.4.虫歯
フッ素含有生成物の使用および過去20年間の公共用水のフッ素化によって、USでは虫
歯の有病率が低下してきている(この話題の概説については、Featherstone, 2000 JADA
131:887-898を参照のこと)。しかし、最近の報告から、USの成人(18歳以上)の全て
の歯の約94%が、治療または未治療の冠状虫歯(coronal caries)の形跡を有するとい
うことが示されており(Winn et al, 1996, / Dent Res 75:642-51)、従って、歯のう食
は、依然としてUSにおいて成人および子供の重大な問題であることが示される。
【0030】
虫歯は、他の病原性因子(例えば、唾液機能の低下および発酵性炭水化物の使用の頻度
)と合わせて細菌によって引き起こされる伝搬性疾患である(Featherstone, 2000, 既出
)。口の常在性細菌のなかでは、高レベルのStreptococcus mutansおよび乳酸杆菌属が虫
歯形成における主要な原因因子を構成する。しかし、抗菌性アプローチは、虫歯の進行を
予防または停止させるためにU.S.で採用された標準的な口衛生学の手段の中心になっては
いない。例外として、高レベルの細菌を有する患者のためにグルコン酸クロルヘキシジン
のリンスまたはゲルの処方があるが、臨床医が口の中のう食原性細菌のレベルを決定する
のは困難である。
【0031】
Streptococcus mutans(S. mutans)もまた、その成長および生存に鉄の取り込みを必
要とし、数種のイオン応答性タンパク質を発現することが公知である(Spatafora et al.
, 2001, Microbiology 147:1599-1610)。fim Aは、イオン応答性タンパク質の1つであ
り、ヌル変異はS. mutansにおいて致死的ではなく、このことから鉄の取り込みおよび輸
送についての他のメカニズムがこの病原性微生物において作動していることが示される(
Spatafora et al., 2001, 既出)。S. mutansは、容易に検出可能なフェノレートまたは
ヒドロキシメートのシデロフォアを分泌しないが、第二鉄イオンを第一鉄イオンに還元す
る膜レダクターゼを有し、次いで膜の第一鉄輸送システムによって細胞に取り込まれるこ
とが報告されている(Evans et al., 1986, J of Bacteriol 168(3) :1096-1099)。従っ
て、イオンの取り込みおよび輸送は、生物のう食原性毒性に対してきわめて重要であると
思われる。
【0032】
従って、本発明は、虫歯を予防するための方法を提供し、この方法は、被験体の歯の表
面および口腔に予防有効量のガリウム化合物を適用する工程を含む。好ましい実施形態に
おいて、上記ガリウム化合物は、ガリウム化合物を含有する歯磨き粉として処方され、ブ
ラッシングによって歯の表面および口腔に適用される。別の好ましい実施形態において、
上記ガリウム化合物は、ガリウム化合物を含有するうがい薬として処方され、口腔をリン
スすることによって歯の表面に適用される。別の好ましい実施形態において、上記ガリウ
ム化合物は、歯の表面に適用されるための軟膏またはゲルとして処方することができる。
【0033】
5.5.膣感染
膣感染(または膣炎)は、女性にとって最も一般的な医学的な心配事に含まれるもので
ある。膣感染のなかで最も一般的なものは、少数において膣で正常に常在しているCandid
a albicans(C. albicans)の異常増殖によって引き起こされる酵母感染である。sit 1(
シデロフォア鉄輸送1(siderophore iron transport 1))遺伝子産物によって取り込ま
れるシデロフォアが、C. albicansが上皮層に浸入して浸透するのに必要とされ、このこ
とから、鉄の取り込みがこの微生物の毒性因子に直接関連することが示されることが報告
されている(Heymann et al., 2002, Infection and Immunity 70(9)5246-5255)。従っ
て、ガリウム化合物でイオンを置き換えることによって、膣でのC. albicansの成長を効
率的に制御することができる。従って、特定の実施形態において、本発明は、膣の酵母感
染を治療するための方法を提供し、この方法は、被験体の膣にガリウム化合物を適用する
工程を含む。このガリウム化合物は、クリーム、軟膏、ゲル、圧注または坐剤として処方
することができる。
【0034】
本発明は、膣に種々の処方物でガリウム化合物を適用することによって、他の型の膣感
染を治療するための方法をさらに提供する。これらの感染としては、Gardnerella vagina
lis、Bacteroides spp.、Mobiluncus spp.およびMycoplasma hominisなどの病原性細菌に
よって引き起こされる細菌性膣炎、ならびにTrichomonas vaginalisによって引き起こさ
れる寄生生物性膣炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
ほとんどの膣感染は、膣の正常微生物叢の生息数の変化の結果であるので、Lactobacil
lus spp.などの非病原性の正常な常在菌(residents)をその領域に生息させる(populat
e)と、病原性微生物の成長を防止することもできる。従って、好ましい実施形態におい
て、本発明は、膣感染を治療するための方法を提供し、この方法は、Lactobacillus acid
ophilus、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus johns
onni、乳酸杆菌属およびデルブリッキー(delbrueckii)などのプロバイオティクスと組
み合わせてガリウム化合物を適用する工程を含む。
【0036】
5.6.無生物物体または有生物物体の殺菌
ガリウム化合物の抗菌活性はまた、無生物物体もしくは有生物物体の表面を微生物のコ
ンタミを殺菌する、またはそのようなコンタミから保護するために使用することができる
。従って、本発明は、無生物物体または有生物物体の表面の微生物の成長を制御するため
の方法を提供し、この方法は、その物体の表面に有効量のガリウム化合物を適用する工程
を含む。
【0037】
例えば、歯ブラシ、義歯および歯の矯正装置は、多くの場合、持ち越された(carried-
over)口の微生物を住まわせており、口衛生の観点から、これらの製品の表面でそのよう
な生物が成長するのを防止することが所望される。従って、特定の実施形態において、本
発明は、物体(例えば、歯ブラシ、義歯、歯の矯正装置および他の歯科デバイス)を、そ
の物体の表面に有効量のガリウム化合物を適用することによって殺菌するための方法を提
供する。このガリウム化合物は、浸漬、ブラッシング、噴霧またはコーティングによって
物体の表面に適用することができる。上記コーティングは、物体の表面で微生物が成長す
るのを妨げるような速度でガリウム化合物をゆっくりと拡散させることが可能な特定のポ
リマーをベースにしてもよい。ポリマーコーティングの例としては、ヒドロキシアパタイ
ト、ポリメタクリレート、リン酸三カルシウム、ポリ無水物、炭化水素エラストマー、メ
チルセルロースおよびエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロー
ス、フタレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、上記ガリウム化
合物は、例えば、その物体そのもの(例えば、歯ブラシの毛、カテーテル、医療器具、注
射針など)を形成するポリマー(例えば、熱可塑性プラスチック、熱硬化性樹脂など)、
金属などの材料に組み込むこともできる。
【0038】
別の特定の実施形態において、本発明は、コンタクトレンズの表面に有効量のガリウム
化合物を適用することによって、そのコンタクトレンズを殺菌するための方法を提供する
。上記レンズは、ガリウム化合物溶液にそれらを浸すことによって、または上記ガリウム
化合物を含有する特定のポリマーを用いて、またはそのようなポリマーを用いずに、それ
らの表面をコーティングすることによって、殺菌することができる。
別の特定の実施形態において、本発明は、被験体の皮膚表面を殺菌するための方法を提
供し、この方法は、例えば、石鹸、シャンプー、皮膚消毒薬(例えば、手)などとして、
皮膚表面にガリウム化合物を適用する工程を含む。好ましくは、上記ガリウム化合物は、
クリーム、ローション、溶液、エアロゾルまたは軟膏の形態で皮膚表面に適用される。
【0039】
別の特定の実施形態において、本発明は、飲料および食物中(穀物、野菜、動物の生産
物、例えば、魚、卵、乳製品、肉などが挙げられる)の微生物の成長を制御するための方
法を提供し、この方法は、洗浄、ソーキングおよび/または噴霧によってその飲料および
食物にガリウム化合物を直接適用する工程を含む。このような食物の処理によって、消費
者を食中毒から有効に保護することができる。
本発明はまた、ガリウム化合物で表面をコーティングした医療インプラント、帯具、包
帯も提供する。
【0040】
さらに、本発明は、家庭、病院、学校などにおいて種々の環境表面での微生物の成長を
、それらにガリウム化合物を適用することによって制御するための方法を提供する。この
ガリウム化合物は、本明細書を通じて議論される任意のガリウム感受性病原性微生物(第
一選択抗生物質に対して耐性となることが知られている微生物を含む)に対して使用する
ことができる(セクション3、ならびにサブセクション5.4および5.5(既出)、な
らびにサブセクション5.7および5.8(下記)を参照のこと)。このような微生物と
しては、Escherichia coli O157(胃腸炎、出血性大腸炎または尿路および生殖管の感染
の原因となる生物)、バンコマイシン耐性Enterococcus faecalis(心内膜炎、尿路感染
、および創傷感染の原因となる生物)、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA;
種々の皮膚感染、目の感染、創傷感染などの原因となる生物)、Salmonella typhi(腸チ
フスの原因となる生物)などが挙げられる。種々の表面にガリウム化合物を適用すること
は、費用上効果的であり、抗生物質耐性微生物の発達を増すことなく環境中の微生物のコ
ンタミを顕著に低下させる。
【0041】
5.7.動物用飼料
動物用飼料中で抗生物質を使用して動物の成長を増強し、感染を予防することは、薬物
耐性細菌の発達の大きな原因となっている。家禽および牛肉の産業での抗生物質のこのよ
うな使用は、サルモネラ属、カンピロバクター属、赤痢菌属、ブルセラ属などの種のなか
で抗生物質耐性病原体の出現をもたらしている。従って、一部の国では、動物用飼料中で
の抗生物質の使用を禁止しつつある。
【0042】
上で議論されるように、ガリウム化合物は、標準的な抗生物質よりも薬物耐性病原体を
生じさせるリスクが少なく、従って、慣習的な抗生物質に対する実行可能な代替案である
。従って、本発明は、有効量のガリウム化合物を含有する動物用飼料を提供する。動物の
成長を促進し感染を予防するのに十分な動物用飼料中のガリウム化合物の有効量は、前の
セクション(サブセクション5.2を参照のこと)で記載されたガリウム化合物の治療的
投薬量または予防的投薬量に基づいて容易に決定することができ、このような決定は当業
者の能力の範囲内である。
好ましい実施形態において、本発明の動物用飼料は、プロバイオティクスをさらに含み
得る。プロバイオティクスの健康上の利益は、サブセクション3.1および5.3で議論
されている。代表的なプロバイオティクス組成物および動物の胃腸管において共生微生物
または常在性微生物の数を増加させるための方法は、例えば、米国特許第6,221,350号に
開示されている。
【0043】
5.8.多方面にわたる適用
ガリウム化合物は、前のセクションに記載されたよりも多くの異なる適用に利用するこ
とができる。例えば、ガリウム化合物は、身体領域に局所的または直接的に適用すること
ができる。これらの領域としては、開放創、ならびに病原性生物によって引き起こされる
種々の感染から保護される必要があるか、またはそれによって罹患された外部領域に加え
て、手術の間に外部環境に曝される内側の器官または組織が挙げられる。このような感染
症としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:皮膚感染、例えば、脂肪性浮
腫、毛包炎、せつ、カルブンケル、丹毒、膿痂疹、紅色陰癬、爪囲炎、ブドウ球菌性熱傷
性皮膚症候群、カンジダ症(例えば、鵞口瘡)、白癬、でん風など、ならびに目の感染、
例えば、眼瞼炎、麦粒腫、結膜炎など、および鼻感染。皮膚感染の原因となる生物として
は、ブドウ球菌属の種、例えば、S. aureusおよびS. epidermidis;グループA 連鎖球菌
属、例えば、Streptococcus pyogenes;Pseudomonas aeruginosaなどが挙げられるが、こ
れらに限定されない。皮膚感染を引き起こす代表的な酵母または真菌としては、Candida
albicans、ミクロスポリン(Microsporon)属の種、例えば、M. auduiniおよびM. canis
;白癬菌属の種、例えば、T. metagrophyteおよびT. tonsuransなどが挙げられる。目の
感染の原因となる生物としては、Staphylococcus aureus、Streptococcus pyogenes、Hae
mophilus influenzae、Chlamydia trachomatis、Neisseria gonorrhoeae、Propionibacte
rium spp.、Nocardia spp.、Bacteroides spp.、Fusarium spp.などが挙げられるが、こ
れらに限定されない。Streptococcus penumoniaeによって引き起こされる鼻感染は、目の
感染、静脈洞炎、気管支炎、肺炎などにつながる場合がある。これらの生物によって引き
起こされる感染は、薬物耐性微生物、例えば、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(M
RSA)の発達、ならびにHIV感染もしくはAIDS、器官移植、自己免疫疾患の治療などに起因
した免疫不全個体の数の増加によって、ますます一般的になってきている。従って、ヒト
使用および獣医学的使用のためのガリウム化合物の適用は、それらの毒性が低いこと、お
よび耐性微生物を生じるリスクが低いという点から特に有益である。食物産業、農業産業
、漁業産業などの分野における他の適用もまた、可能である。
【0044】
6.実施例
ガリウムに対する微生物の感受性
ガリウムに対する種々の微生物の感受性を、硝酸ガリウムを使用して各微生物に関して
、最小阻害濃度(minimum inhibitory concentration)(MIC)および最小殺菌濃度(min
imum bactericidal concentration)(MBC)を決定することによって試験した。一般的に
、(i)各々が標準数の微生物を、ガリウム化合物の連続希釈溶液とともに含む一連のブ
ロスを混合する工程;および(ii)インキュベーションの後、その微生物の成長を阻害
するガリウム化合物の最も低い濃度であるMICを決定する工程によって、MICを決定
する。MICがより低ければ、その微生物はより感受性である。ガリウム化合物を含まな
い適切なアガープレートで、MIC試験からの各サンプルのアリコートを継代培養するこ
とによって、MBCを決定する。インキュベーション後、MBCは、成長が観察されない
ガリウム化合物の最も低い濃度で決定される。
【0045】
具体的には、本実験において、2グラムの硝酸ガリウム粉末を10mlのファイルター
滅菌した脱イオン水に溶解し、得られた20%(w/v)(すなわち、200mg/ml
)溶液を再びフィルター滅菌した。Candida albicansおよびStreptococcus mutansについ
ての試験を除いた大部分の生物についての試験のために、滅菌脱イオン水中で、2倍連続
希釈で0.156%(すなわち、1.56mg/ml)まで調製した。Candida albicans
およびStreptococcus mutansについての試験では、10%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、0.01%
、0.005%および0.001%の硝酸ガリウム溶液を調製した。
表1は、MICおよびMBCについて試験した微生物のリストを示す。全ての生物は、
American Type Culture Collection(ATCC)、Manassas、VAから入手した。各微生物を各
シード培養物からピックアップし(表1を参照のこと)、適切な型のブロス中でインキュ
ベートして0.5 McFarland 標準比濁液(turbidity standard)を得た。次いで、その微生
物の標準懸濁液をブロスで1:100に希釈して、この試験に使用した。
【0046】
【表1】

a.上記生物の抗生物質耐性を、CLSI(Clinical Laboratory Standards Institute)オ
キサシリンディスク拡散試験(Oxacillin disk-diffusion test)によって確認した。阻
害のゾーンは、6mmであった(CLSIオキサシリン耐性範囲:≦10mm)。
b.上記生物の抗生物質耐性を、CLSIバンコマイシンディスク拡散試験(Vancomycin dis
k- diffusion test)によって確認した。阻害のゾーンは、10mmであった(CLSIバン
コマイシン耐性範囲:≦14mm)。
【0047】
以下のような96ウェルプレートでの微量希釈ブロス方法(すなわち、0.1mlの微
生物懸濁液と混合した0.1mlの硝酸ガリウム溶液)または試験管での大量希釈ブロス
方法(すなわち、1mlの微生物懸濁液と混合した1mlの硝酸ガリウム溶液)のいずれ
かによって、各微生物を二重で試験した:
微量希釈ブロス方法:Candida albicans;Streptococcus mutans;Escherichia coli O
157:H7;およびCampylobacter jejuni
大量希釈ブロス方法:メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA);バンコマイシ
ン耐性Enterococcus faecalis(VRE);Salmonella typhi;Pseudomonas aeruginosa;お
よびPorphyromonas gingivalis
上記微生物の成長を、サンプル中の混濁度を視覚的に観察することによって決定した。
【0048】
以下のコントロールを、試験サンプルとともにインキュベートした:
生存能力コントロール:脱イオン水と試験微生物を含むが硝酸ガリウムは含まずにイン
キュベートされた適切なブロスとの等量の混合物;および
滅菌コントロール:脱イオン水と微生物または硝酸ガリウムのいずれかを含まない適切
なブロスとの等量の混合物。
【0049】
各微生物の精製は、適切なアガープレート上に適切に希釈した微生物の懸濁液をこすり
つけて単離コロニーを得、コロニーの形態を観察することによって確認した。
MIC試験で使用した懸濁液中の微生物の濃度は、適切なアガープレートにその懸濁液
の連続希釈液を植えつけ、コロニーの数を数えることによって決定した。
MBCを決定するために、MICで使用した各サンプルのうち10μlを適切なアガー
プレートに植えつけ、インキュベートした。成長を示さない硝酸ガリウムの最も低い濃度
を、MBCと決定した。
結果は、以下の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
以下の実施例は、細菌および真菌の感染を予防または治療するために、実践的な様態に
適用されるような、本発明の好ましい実施形態を限定することなく説明することが意図さ
れている。
【実施例1】
【0052】
歯磨き粉処方物
歯磨き粉は、歯および歯周の疾患の治療または予防において、活性成分として硝酸ガリ
ウム(50μM)およびフッ化ナトリウム(0.2重量%)を含むように処方する。この
処方物は、水、ソルビトール、グリセリン、ケイ酸、ポリエチレングリコール、キサンタ
ンゴム、サッカリンナトリウム、メチルパラベンおよびプロピルパラベンを含む慣用的な
不活性成分も含有する。これらを当業者に公知の量で混合し、適切な濃度の歯磨き粉を得
る。上記処方物は、慣用的な歯磨き粉チューブにパッケージングすることができ、そして
通常の方法で使用することができる。
【実施例2】
【0053】
膣酵母感染の治療
本発明は、以下のように、それぞれ内部および外部の膣酵母感染の治療のための坐剤お
よびクリームの処方物に対して適用する。クエン酸ガリウム(200μM)を、不活性成
分と合わせる。不活性成分としては、坐剤の場合、ゼラチン、グリセリン、レシチン、鉱
油、酸化チタンおよび白色ワセリンが挙げられ、また外部クリームの場合、安息香酸、イ
ソプロピルミリステート、ポリソルベート60、水酸化カリウム、プロピレングリコール
、蒸留水およびステアリルアルコールが挙げられる。これらの処方物は、慣用的な方法で
使用するために適切にパッケージングすることができる。
【実施例3】
【0054】
無生物物体の殺菌
5重量%のリン酸ガリウムおよび5重量%のジメチルベンジル塩化アンモニウムの水溶
水の形態の液体処方物を調製し、病原性微生物の成長のための部位として作用しやすい物
体の表面を殺菌するための表面処理剤として、家庭、病院、理髪店および美容院で使用す
るためにパッケージングする。このような処方物は、慣用的な方法でそのような表面に適
用することによって使用することができる。
【実施例4】
【0055】
動物用飼料
種々の栄養素およびアジュバントを家畜に与える穀物に添加する動物用飼料の処方物に
おいて、酒石酸ガリウムが200mg/kgの飼料を、飼料とは別々にか、または上記の
成分と合わせて添加して、最適な混合を確実にした。酒石酸ガリウムは、慣用的な器具を
用いて水溶液として適用し、その飼料全体にわたって酒石酸ガリウムが分布するようにす
ることができる。
【0056】
7.等価物
本発明の関連分野の当業者は、ルーチン実験(routine experimentation)のみを使用
して、本明細書に記載の発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、また
はそれらを確認することができる。このような等価物は、以下の特許請求の範囲によって
包含されるべきことが意図される。
本明細書において言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、本明細書に参照と
して組み入れられる。
本明細書の参考文献の引用または考察は、それらが本発明に対する先行技術であること
の承認として解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】鉄またはガリウムを取り込む微生物のメカニズムを示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム化合物を含む歯磨き粉。
【請求項2】
前記ガリウム化合物が、硝酸ガリウム、ガリウムマルトレート、クエン酸ガリウム、リ
ン酸ガリウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、炭酸ガリウム、ギ酸ガリウム、酢酸ガリ
ウム、硫酸ガリウム、酒石酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、ガリウムおよび酸化ガリウム
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1記載の歯磨き粉。
【請求項3】
前記ガリウム化合物が、ガリウムピロン、ガリウムピリドン、ガリウムヒドロキシメー
ト、ガリウムアミノカルボキシレート、ガリウムオキシム、ならびにトランスフェリンお
よびラクトフェリンと複合体化したガリウムからなる群より選択されるガリウム複合体で
ある、請求項1記載の歯磨き粉。
【請求項4】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約1μMである、請求項1記載の歯磨き粉。
【請求項5】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約500μMである、請求項4記載の歯磨き粉

【請求項6】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約1mMである、請求項5記載の歯磨き粉。
【請求項7】
ガリウム化合物を含むうがい薬。
【請求項8】
前記ガリウム化合物が、硝酸ガリウム、ガリウムマルトレート、クエン酸ガリウム、リ
ン酸ガリウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、炭酸ガリウム、ギ酸ガリウム、酢酸ガリ
ウム、硫酸ガリウム、酒石酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、ガリウムおよび酸化ガリウム
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7記載のうがい薬。
【請求項9】
前記ガリウム化合物が、ガリウムピロン、ガリウムピリドン、ガリウムヒドロキシメー
ト、ガリウムアミノカルボキシレート、ガリウムオキシム、ならびにトランスフェリンお
よびラクトフェリンと複合体化したガリウムからなる群より選択されるガリウム複合体で
ある、請求項7記載のうがい薬。
【請求項10】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約1μMである、請求項7記載のうがい薬。
【請求項11】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約500μMである、請求項10記載のうがい
薬。
【請求項12】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約1mMである、請求項11記載のうがい薬。
【請求項13】
歯腔(dental cavity)を予防する方法であって、被験体の歯の表面および/または口
腔に予防有効量のガリウム化合物を適用する工程を含む、前記方法。
【請求項14】
前記ガリウム化合物が歯磨き粉またはうがい薬として処方される、請求項13記載の方
法。
【請求項15】
膣感染を治療する方法であって、膣に治療有効量のガリウム化合物を適用する工程を含
む、前記方法。
【請求項16】
前記ガリウム化合物が、クリーム、軟膏、溶液、ゲルまたは坐剤として処方される、請
求項15記載の方法。
【請求項17】
前記ガリウム化合物が、硝酸ガリウム、ガリウムマルトレート、クエン酸ガリウム、リ
ン酸ガリウム、塩化ガリウム、フッ化ガリウム、炭酸ガリウム、ギ酸ガリウム、酢酸ガリ
ウム、硫酸ガリウム、酒石酸ガリウム、シュウ酸ガリウム、ガリウムおよび酸化ガリウム
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記ガリウム化合物が、ガリウムピロン、ガリウムピリドン、ガリウムヒドロキシメー
ト、ガリウムアミノカルボキシレート、ガリウムオキシム、ならびにトランスフェリン、
ラクトフェリンおよびヘムと複合体化したガリウムからなる群より選択されるガリウム複
合体である、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも約1μMである、請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも500μMである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記ガリウム化合物の濃度が少なくとも1mMである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ガリウム化合物がプロバイオティクスと合わせて適用される、請求項15記載の方
法。
【請求項23】
前記プロバイオティクスが乳酸杆菌属の非病原性の種である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記プロバイオティクス微生物が、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus plant
arum、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus johnsonni、乳酸杆菌属およびデルブ
リッキーからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
Candida albicansによって引き起こされる鵞口瘡を治療または予防する方法であって、
その必要がある被験体の口腔に治療有効量のガリウム化合物を適用する工程を含む、前記
方法。
【請求項26】
無生物物体の表面での微生物の成長を制御する方法であって、物体の表面に有効量のガ
リウム化合物を適用する工程を含む、前記方法。
【請求項27】
前記物体が、コンタクトレンズ、義歯、歯の矯正装置、歯ブラシ、インプラント、帯具
、包帯および医療デバイスからなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
ガリウム化合物を含む動物用飼料。
【請求項29】
プロバイオティクスをさらに含む、請求項28記載の動物用飼料。
【請求項30】
ガリウム化合物を含むコンタクトレンズ殺菌溶液。
【請求項31】
食物中の微生物の成長を制御する方法であって、食物にガリウム化合物を適用する工程
を含む、前記方法。
【請求項32】
前記食物が穀物または野菜である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記食物が、魚、卵、乳製品および肉からなる群より選択される動物産物である、請求
項31記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49674(P2013−49674A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−204408(P2012−204408)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2008−538960(P2008−538960)の分割
【原出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(502375437)マウント シナイ スクール オブ メディスン (11)
【Fターム(参考)】